ポーランドの気候・環境省は5月12日、国立原子力研究センター(NCBJ)と政府が実施している高温ガス炉(HTGR)の研究開発を次の段階に進めるため、教育・科学省とNCBJが確認書に調印したと発表した。ポーランド政府は2020年代後半までに、首都ワルシャワの東南30kmのシフィエルクに位置するNCBJで、熱出力1万kWの研究用HTGRを建設することを計画。この計画に基づいて、2030年頃には熱出力16.5万kWの商業用HTGR初号機を国内で完成させる方針である。今回の確認書では、出力3万kWの高中性子束チャンネルプール型研究炉「マリア」を擁するNCBJが、HTGR研究炉の初期段階の基本設計を開発するとともに、立地点としての建設条件を3年以内に整えることになる。ポーランドは大型の商業用原子炉の建設計画と並行して、主に化学産業への熱供給用にHTGRの導入計画を日本原子力研究開発機構などと協力して進めている。その実行可能性を探るために政府が設置した諮問委員会は2016年10月、「HTGRによる熱電のコジェネレーションは商業的に有望」との見解を表明。翌2017年9月に政府はこの報告書を受理しており、同じ月に欧州原子力共同体(ユーラトム)がHTGRの産業利用の実行可能性を実証するために開始した「GEMINI+」プロジェクトでは、NCBJが調整役を担っている。2019年1月になると、ポーランドのエネルギー省はHTGRの研究開発プロジェクト「Gospostrateg」の実施と資金調達を支援するため、NCBJと契約を締結。翌月から2022年1月末までの3年間、ポーランドでのHTGR建設にともなう法制面や組織面、および経済面の包括的な分析調査を実施することになった。今回の確認書は同プロジェクトの一部となるもので、調印式には気候・環境省のM.クルティカ大臣と教育・科学省のP.チャルネク大臣、およびNCBJのK.クレク・センター長が参加した(=写真)。クレク・センター長はこの確認書に基づく最初の段階として、センター内に研究設備を設置すると表明。それらを使ってHTGRで使用する材料を試験すると述べた。また、建設許可を申請する前に、技術分析やシミュレーション、安全分析を実施する計画を明らかにしている。チャルネク教育・科学相は、「マリア炉を開発したポーランドの科学者やエンジニアが再び、その能力を発揮する機会が訪れた」として確認書の締結を歓迎。クルティカ気候・環境相も、「HTGRはポーランド経済の中で高温熱を幅広く活用する最初の一歩になる」と述べた。また、「気候・環境省は温室効果ガスの排出量削減に貢献する構想ならすべて支援していくが、原子力は環境を損なわずに近代的な経済活動や産業すべてを支える重要ツールになる」と強調している。(参照資料:ポーランド政府(ポーランド語)の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 May 2021
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©BEIS英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は5月11日、包括的設計認証審査(GDA)の対象を小型モジュール炉(SMR)とその他の先進的原子炉設計を含む「先進的原子力技術」に広げると表明し、そのための申請ガイダンスを公表した。新たな原子炉設計を開発中の企業が適切なGDA申請準備を整えられるよう、政府が審査で要求するデータ等について情報提供することが目的である。この中でBEISは、申請書を提出する3か月前に申請の意思を連絡するよう指示。こうしたことを通じて、GDAを柔軟性のある時代に即した審査とする考えを明らかにした。BEISはまた、同じ日に「先進的原子力技術」の開発政策を示した文書を更新し、このような技術は、国内経済を低炭素なものに移行させる上で重要な役割を担うとの認識を改めて表明している。GDAは、英国内で初めて建設される原子炉設計に対して行う事前の設計認証審査。原子力規制庁(ONR)が対象設計の安全・セキュリティ面について、環境庁(EA)が環境保護と放射性廃棄物管理の側面について、英国の基準を満たしているか、約5年かけて評価する。これまでに、フラマトム社製の「欧州加圧水型炉(EPR)」とウェスチングハウス(WH)社製「AP1000」、および日立GE社製の「英国版ABWR」に対し、ONRが設計承認確認書(DAC)を、EAが「設計承認声明書(SoDAC)」を発給済み。ONRらは現在、中国広核集団公司(CGN)を中心とする中国企業が開発した英国版の「華龍一号」設計について審査を行っている。更新した政策文書の中で、英政府は開発中の様々な原子炉設計を意味する「先進的原子力技術」の定義として、「従来の原子炉より小型のもの」で、「工場内で製造した後、設置場所まで輸送が可能なほか、建設リスクやコストを軽減できるもの」と説明。これらの技術は一般的に、①SMR:「第3世代の水冷却炉(軽水炉、重水炉)で規模の小さいモジュール設計」と②AMR:「第4世代以降の先進的モジュール炉で、新しい冷却方式や燃料、熱供給機能等を備えるとともに、大幅なコスト削減の可能性がある設計」に分類されるとした。BEISはまた、B.ジョンソン首相が2020年11月に公表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」と、BEISが2020年12月に公表した新しい「エネルギー白書」に言及。これらを通じて、英政府は2050年までに国内の温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロ化する方針であり、そのために大型炉に加えてSMRや先進的原子炉を国内で建設するとの方針を強調している。具体的な10項目の重要施策を示した「10ポイント計画」のなかで、英政府は「先進的原子力基金」として最大3億8,500万ポンド(約593億円)を充当すると表明。これには、SMR開発資金の最大2億1,500万ポンド(約331億円)が含まれるとともに、AMR研究開発プログラムに対する最大1億7,000万ポンド(約262億円)の投資が約束された。政府はまた、これらの技術開発にともなう規制枠組みの整備や、これらを市場に送り出すサプライチェーンへの支援で、別途4,000万ポンド(約62億円)を投資する計画。これらを通じて、SMRの初号機とAMRの実証炉を2030年代初頭に完成させたいとしている。(参照資料:英政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 May 2021
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経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は5月5日、これまでに過酷事故が発生した米国のスリーマイルアイランド(TMI)発電所とウクライナのチェルノブイリ発電所、および日本の福島第一原子力発電所という3つの原子力発電所における「過酷事故後の長期管理と対応活動」について、状況報告書を公表した。同報告書はこれらの発電所を長期的に管理(LTM)する際、取り組むべき主要な課題や抜け落ちている情報等を特定し、これまでにLTM関係で得られた経験や知識をレビュー。また、激しく損傷した原子力サイトのLTMに対するNEA加盟国の既存の規制やガイダンス、訓練熟練度、技術基盤等を検証しており、最終的にこれらのLTMに必要な知識や対策の準備、特に汚染された冷却水の管理の合理化等について、さらなる調査が必要な分野や勧告事項などを提案している。OECD/NEAによると、同報告書の中の「LTM」は原子炉や使用済燃料貯蔵プールの過酷事故が終息し、安定した状態になった後の管理活動を意味している。原子力発電所のLTM対応活動が目標としているのは、①発電所の損傷状態を物理的側面と放射線影響の側面から評価し、②発電所を安定した制御可能な状態で維持すること。また、③発電所でさらなる損傷を防ぐための対策や④浄化・除染作業を実行し、⑤事故で発生した廃棄物を管理する。さらには、⑥燃料/デブリの回収作業を準備・実行するほか、⑦これらすべての対応活動において発電所作業員を放射線被ばくから防護することだと説明している。OECD/NEAが3つの発電所の情報を分析した結果、3つの事故はその性質やLTMに至る状態が異なっているため、LTM段階においても異なる課題が発生した。発電所を擁する国それぞれの規制や認可要件が課されたほか、発電所に固有のシステムや機器に対しては複雑な技術手段を必要とした。OECD/NEAはまた、3つすべての事故後のLTMで最大の課題は、発電所が再び不安定な状態に陥るリスクや炉心と発電所の状態など、LTMに入る段階の知識が限られるなかでこれを行わねばならなかったことだと指摘。損傷した燃料の特徴や取り出しについて具体的に見ると、3つの事故では損傷した燃料の分布状態や特徴がみな独特であり、福島第一発電所では損傷した原子炉3基でそれぞれ異なっていた。TMI発電所では圧力容器の状態を調査した後、燃料の抜き取り戦略を改定しなければならなかったが、作業員の被ばく軽減対策を事前に行った上で抜き取り作業が無事に完了した。一方、チェルノブイリ発電所では、大気中のガスと水の相互作用および核種の浸出等で劣化が進み、燃料の表面が長期的に粉化するなど、損傷燃料の健全性に影響が出ている。また、福島第一発電所では損傷した原子炉3基の燃料分布や炉心溶融物の成分、挙動等に不確定要素が多い。このように、これら2つの原子力発電所では損傷燃料を取り出す最良の戦略が未だ確立されておらず、LTMを安全に完了するまでには非常に多くの課題が山積している。OECD/NEAはさらに、これらの発電所で実施するLTMの取り組み方法についても一般的見地から議論した。まずLTMの定義と範囲を決めたほか、原子炉を長期的に制御された状態に保つ上で必要な機能、安全なLTMのモニタリング方法を特定。続いて、LTMにおけるリスクや主要な課題を特定・分類する方法を開発、LTM活動の中で未解決の問題や技術的に欠落している部分など見つけるため、「重要活動のランク表(AIRT)」を取りまとめた。このような資料や議論に基づき、OECD/NEAは今回の報告書で以下の勧告事項を表明している。「分野横断的な課題における知識の統合」・原子炉や使用済燃料貯蔵プールにおける過酷事故を分析するため、計算用のツールや手法を確保。これらを過酷事故の知識基盤と統合し、事故後の原子炉を安定した状態とする影響影響緩和策の効果の予測能力を増強する。・過酷事故後の機器や構造物の状態について知識を統合するが、ここでは原子炉を長期的に安定した状態で維持することに重点を置く。・事故後のLTMに影響を及ぼす長期的現象(浸食・腐食反応や損傷燃料からの粉末飛散等)について、知識を国際的に共有・活用する。・LTMの実施や合理化に向け、リスクを評価する方法やエキスパート・システムを開発する。「分野横断的な課題に対する対策の策定」・発電所の損傷状態とその進行状況を長期的にモニタリングする。・LTMを支援するため、機器・システムや構造物の機能と信頼性を向上させる。・LTMにおける作業員の職業性被ばくを軽減するため、追加の技術的手段を開発し国際的な良好事例を共有・活用する。「個別分野における知識の統合」:3つの事故に共通する深刻な課題は汚染した冷却水の取り扱いであることから、OECD/NEAは特に冷却水管理の合理化対策をLTMの実施に際し進めることを勧告する。・緊急時に冷却機能を長期的に維持できるよう、閉ループ式の冷却システムをできるだけ早急に手配する。・汚染水が外部に流出するのを実行可能な限り避けるため、洪水対策や炉心溶融物の冷却戦略を策定する。・再臨界や核分裂生成物の流出といったリスクを軽減するため、水化学的に管理された冷却水の使用について一層調査を進める。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 May 2021
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世界初の使用済燃料最終処分場を2016年11月からフィンランドで建設中のポシバ社は5月7日、実際の最終処分に使用する処分坑道の掘削作業を開始したと発表した。ポシバ社は、国内で原子力発電所を運転するティオリスーデン・ボイマ社(TVO)とフォータム社が使用済燃料最終処分の実施主体として設立した事業体である。同社は2000年、フィンランド南部のユーラヨキ地方にあるオルキルオト原子力発電所の近郊を同処分場の建設サイトに選定し、2004年からは、同地点の地下450m部分の岩盤地質や水文学特性を調査する地下の研究施設として「ONKALO」を着工。同施設は最終的に処分場の一部になることから、ポシバ社は今後18か月の間にONKALOで最初の坑道を5本掘削し、2020年代半ばには処分場としての操業開始を目指すとしている。ポシバ社によると処分坑道の掘削は、フィンランドの岩盤に適した建設方法の研究開発で同社が2004年以降、積み重ねてきた活動の集大成となる。掘削作業の開始に至る前に、すべての前提条件が満たされていることをフィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)が確認したと強調した。同社はまた、2019年6月に処分場の地上設備となる「使用済燃料封入プラント」の建設に着手しており、今年3月には総合機能試験の2023年の実施に向けて試験用の処分坑道を掘削すると発表した。この計画で、同社は100年という処分場の操業期間中に合計約100本の処分坑道を掘削するが、1本の処分坑道の長さが最大で350mであるため、その全長は約35kmに達する見通し。各処分坑道の幅は約3.5mで、高さは約4.5mになる予定である。同社によると、1本の処分坑道の床面に約30の処分孔を掘削し、それぞれにキャニスターを1本ずつ縦置きで定置する方針。キャニスターの総数は処分孔の数で変化するものの、それぞれの処分坑道で処分されるキャニスター30本分の使用済燃料は約65トンになるとしている。なお、今回掘削することになった最初の5本の坑道は、2020年代中の処分場の操業開始を実現するため同社が2019年から5億ユーロ(約662億円)の予算で進めている「EKAプロジェクト」の一部分である。EKAプロジェクトは最終処分に必要な施設のすべてをカバーしており、使用済燃料封入プラントの建設に加えて、最終処分の開始前に必要となるサプライチェーンの整備やONKALO地下設備における最終処分システムの設置などを促進。これらを通じてポシバ社は確実に、世界で最初の使用済燃料最終処分場の操業者となる見通しである。(参照資料:ポシバ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 May 2021
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米国のテネシー峡谷開発公社(TVA)は5月6日、原子力技術・エンジニアリング企業のケイロス・パワー社が進めている先進的原子炉「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」(電気出力14万kW)の開発について、低出力の実証炉建設に協力すると発表した。この実証炉は「ヘルメス」と呼称されており、ケイロス社はテネシー州オークリッジにあるエネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」で同炉の建設を計画。今回の協力合意に基づき、TVAはケイロス社に対し原子炉のエンジニアリングや運転および許認可手続関係の支援を提供する。また、ケイロス社が「ヘルメス」を通じて、米国内の出力調整可能な電源としては最も手頃な価格でFHRを市場に送り出せるよう協力していく。ケイロス社のFHRは、コンバインドサイクル発電とコスト面で競合可能な無炭素電源とするため商業化を目指している。冷却材として低圧の液体フッ化物塩を用いており、燃料には3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用する。固有の安全性を保持したまま、電力と高温の熱を生成できると言われており、2002年にテネシー州にあるDOE傘下のオークリッジ国立研究所(ORNL)がFHRの概念を提案した後、これを元にMITやUCバークレーなどが個別の要素技術の研究を進めていた。FHR開発についてはまた、DOEが2020年12月、リスクの削減を目指した官民によるコスト分担方式の「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で、ケイロス社の「ヘルメス」実証炉を支援対象の1つに選定。商業規模のFHR開発につなげることを目標に、同プログラムにおける7年間の総投資額6億2,900万ドルのうち3億300万ドルをDOEが負担することになっている。ケイロス社との今回の協力合意について、TVAのJ.ライアシュ総裁兼CEOは、「先進的原子力技術の進展に向けて、安全性や技術革新に関する当公社の見識をケイロス社と共有しつつ、先進的原子炉の許認可手続について経験を蓄積していきたい」と表明。「原子力はクリーンで信頼性の高い安価な電力によって米国経済を活性化するだけでなく、米国の国家安全保障にとっても重要だ」と強調した。なお、米原子力規制委員会(NRC)は2019年12月、TVAがテネシー州オークリッジ近郊で管理しているクリンチリバー・サイトに対し、「事前サイト許可(ESP)」を発給した。このESPはTVAが2016年5月、複数の小型モジュール炉(SMR)で電気出力の合計が80万kWを越えないものの建設を想定し、NRCに申請していたもの。TVAは現在、同サイトで複数のSMR設計を建設した場合の潜在的な環境影響を評価中である。(参照資料:TVA、ケイロス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 May 2021
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米原子力規制委員会(NRC)は5月4日、バージニア州のサリー原子力発電所1、2号機(各87.5万kWのPWR)について、ドミニオン・エナジー社が申請していた2回目の運転期間延長を承認したと発表した。この承認により、これら2基はそれぞれ2052年5月と2053年1月まで80年ずつ運転継続することが可能になった。NRCはこれまでに、フロリダ州のターキーポイント3、4号機(各76万kWのPWR)とペンシルベニア州のピーチボトム2、3号機(各118.2万kWのBWR)について、2回目の運転期間延長を承認。運転開始後80年間の運転継続が許された原子力発電所は、今回のサリー発電所で3件目となる。サリー1、2号機はそれぞれ1972年と1973年に営業運転を開始しており、NRCは両炉について2003年3月、初回の運転期間延長として当初の運転認可期間の40年に20年追加することを承認した。その後、ドミニオン・エナジー社は2018年10月にさらに20年間ずつの運転期間延長をNRCに申請。NRC事務局は今回この申請を承認した根拠として、2020年3月に同申請の安全面について最終安全性評価報告書(FSER)で最終的な確認をしていることと、環境影響評価について2020年4月に補足文書の最終版(FEIS)を発行したことを挙げている。また、NRCの原子炉安全諮問委員会(ACRS)も別途、同申請の安全面について審査を行い、今回の事務局と同じ結論を得ている。ドミニオン・エナジー社はこの承認について同日、「バージニア州でサリー発電所が電力供給している41万9,000世帯に対し、2033年以降も引き続き信頼性の高い廉価なクリーンエネルギーを供給できることになった」とコメントした。同社はサリー発電所に続き、同じバージニア州のノースアナ原子力発電所1、2号機(各約100万kWのPWR)についても2020年9月に2回目の運転期間延長を申請。これら2つの原子力発電所は、同社がバージニアとノースカロライナの両州で供給する電力の約三分の一を賄っているほか、バージニア州においては無炭素電力の92%を供給していると強調した。ドミニオン・エナジー社のD.ストッダード原子力部門責任者(CNO)は、「顧客だけでなく地球環境や地元経済にとっても良いニュースだ」と表明した。同CNOによればサリー発電所の運転期間延長は、バージニア州の「クリーン経済法」が義務付けた「2045年までに州内の電力を100%無炭素化する」という目標の達成上非常に重要。また、同州では引き続き経済成長が促され、米国南部や中部大西洋地域におけるクリーンエネルギー生産をバージニア州が主導するための一助になる。同発電所ではさらに、900名分以上の高給雇用が確保され、経済面や税制面でも追加の利益がもたらされると指摘している。(参照資料:NRC、ドミニオン・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの5月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 May 2021
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米国の国務省(DOS)は4月27日、地球温暖化を防止するバイデン=ハリス政権の取り組みの一環として、国際支援プログラム「小型モジュール炉(SMR)技術の責任ある活用に向けた基本インフラ(FIRST)」を始動すると発表した。国内で60年以上にわたり蓄積してきた原子力関係の革新的技術と専門的知見に基づき、米国はパートナー国がクリーンエネルギーの利用を拡大する際、同プログラムを通じて国際的に最も厳しい安全・セキュリティ基準や核不拡散基準の下で原子力プログラムが策定されるよう、能力の向上を支援。そのための初期予算として、DOSは同プログラムで実施するプロジェクトの支援に530万ドルを投入する方針である。J.バイデン大統領は4月22日と23日の2日間、40か国・地域の首脳らを招いて気候変動サミットをオンライン開催したが、その中でFIRSTプログラムを初めて紹介。これはクリーンエネルギー増産のための技術革新と、前例のない世界規模の国際協力体制構築に向けた米国の主要な努力活動になると説明していた。今回の発表によると、FIRSTはパートナー国における確実にして安全な原子力基盤の整備を目的に、技術協力も含めた戦略的連携を深めるとともに、エネルギー関係の技術革新を推進する。DOSは具体的に、国際原子力機関(IAEA)の「マイルストーン・アプローチ」に沿って、SMRなど先進的原子力技術の導入をパートナー国で支援する計画。同アプローチではIAEA加盟国で健全な原子力発電プログラムが開発されるよう、フェーズ毎にIAEAがレビュー・ミッションを実施、推奨事項の提示やフォローアップも行っている。SMRに関してDOSは、低価格で設置容量の選択性があり、負荷変動への対応や他のクリーンエネルギーの補完など、柔軟性の高い運転が可能な発電設備だと認識。信頼性の高い発電能力に加えて、海水の脱塩やエネルギーを大量消費する産業プロセスで石炭火力に代わる能力を持っているとした。SMRはまた、輸送その他の部門で脱炭素化を促進する水素の製造も可能なことから、DOSはFIRSTを通じてパートナー国の政府や産業界、国立研究所、学術機関との連携を強化。地球温暖化の防止に向けた取り組みと技術革新の促進のほか、環境保全、地域社会の経済成長に向けて、米国は新しい様々な方策を安全確実なやり方で主導していく考えである。(参照資料:米国務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Apr 2021
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ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は4月26日、製造過程でCO2を排出しないという「グリーン水素」の製造分野でフランス電力(EDF)グループと協力するため、戦略的協力合意文書に調印したと発表した。原子力技術の世界的リーダーである両社の協力によって多大な相乗効果を生み出し、ロシアや欧州のみならず世界中で水素の共同製造プロジェクトを進めると表明。具体的には、交通分野や産業コンビナートの脱炭素化で戦略構想を開発し、地球温暖化の防止に資する新たなCO2フリー水素の研究開発・協力につなげる考えである。ロスアトム社によると、水素エネルギーの製造は同社の研究開発における優先項目の1つ。また、ロシアの原子力産業界は環境に最も優しい水素製造技術である「電気分解」と、「メタンの水蒸気改質」で水素を得つつその過程で排出されるCO2を回収・貯蔵(CCS)するという技術の研究開発で大きな可能性を有している。こうした背景から、ロスアトム社はCO2フリー水素の製造・貯蔵技術の開発と、同技術に関する世界中の試験プロジェクトへの参加に強い意欲を抱いている。同社はまた、この技術の開発は世界の平均気温上昇を2100年までに2度未満に抑えることを目指した「パリ協定」の目標達成にも重要な役割を担うと考えている。一方のEDFグループは、再生可能エネルギー等を使った低炭素な水素の製造・販売子会社、Hynamics社を2019年4月に設立。これによってクリーンエネルギーへの移行を促進し、低炭素な水素の製造でEDFが仏国や国際社会の中心的存在になることを目指している。ロスアトム社で国際事業を担当するK.コマロフ第一副総裁は、「エネルギー源としての水素の将来性を信じている」と表明。ロシアでは天然資源が豊かなほか、技術面や産業面、エネルギー部門でも輸出に向けた大きなポテンシャルを有していることから、ロスアトム社は今後、この無炭素エネルギーの製造技術を組織的に開発していく。「世界規模の水素製造や輸送、消費の市場において当社が中心的企業の1つとなる準備は出来ており、脱炭素化という世界的な目標を達成する上で、エネルギー源としての水素製造は国際協力の最重要課題である」と指摘した。EDFで国際部門を担当するB.ブッフォン上級副社長も、「(この協力における)当社の目的は電力や革新的技術とサービスによって、CO2排出量が実質ゼロという未来を構築することだ」と明言。この技術を通じて地球環境を保全するとともに、人々の生活の向上や経済成長も促すとしており、低炭素な水素の製造はエネルギーの移行を実現する重要ファクターだと指摘した。また、CO2フリー水素の製造分野でロスアトム社がロシアの中心的存在であることから、「同社との協力合意により、世界中のいかなる国や地域においても低炭素なエネルギー・モデルを構築したいというEDFの目標が如実に示された」としている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Apr 2021
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米国で約30年ぶりの新設計画としてジョージア州で進められているボーグル原子力発電所3、4号機(各110万kWのPWR)増設計画で、4月26日から3号機の温態機能試験が始まった。これは事業者であるサザン社の子会社で、同発電所を所有するジョージア・パワー社が同日に発表したもので、燃料の初装荷に先立って行われる最後の重要試験となる。ジョージア・パワー社は3号機の運転開始に向けて建設段階が大きく前進したと強調しており、完成すれば60年間から80年間にわたって顧客に信頼性の高い無炭素な電力を供給。サザン社が目標として掲げている「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」の達成においても、重要な役割を果たすとしている。ボーグル3、4号機の増設計画では、米国で初めてウェスチングハウス社製のAP1000設計を採用しており、建設工事はそれぞれ2013年3月と11月に開始された。建設サイトでは2020年4月以降、新型コロナウイルスによる感染の影響を軽減するため、約9,000名の作業員数を約7,000名に削減したが、3号機については2020年10月に冷態機能試験が完了し12月には初装荷用燃料がサイトに到着。ジョージア・パワー社は今回の発表で両炉の運転開始スケジュールに触れていないが、地元ジョージア州の公益事業委員会が承認したスケジュール通り、3、4号機をそれぞれ2021年11月と2022年11月に完成させる方針だと見られている。同社の発表によると、3号機の温態機能試験は完了まで6~8週間を要する見通し。燃料を装荷せずに、原子炉冷却ポンプ4台の熱を使って系統の温度と圧力を通常運転レベルまで上昇させ、原子炉機器や系統が正常に機能することを確認する。またこれにともない、主タービンの回転スピードも通常運転時のレベルまで上げる計画である。なお、ジョージア・パワー社は同日、4号機の格納容器上部に重さ72万ポンド(約327トン)容量約75万ガロン(約2,840m3)の冷却水貯蔵タンクを設置したと発表した。重さのあるモジュールを、クレーンで吊り上げて設置する作業としては同増設計画で最後のもの。このタンクはAP1000における受動的安全システムの要として機能することになっており、万が一緊急事態が発生した場合、このタンクの水が重力で格納容器外面に流れ落ちるほか、状況に応じて原子炉の冷却を補助するための水源となる使用済燃料貯蔵プールへも給水可能。同社によるとAP1000の先進的な安全システムでは、重力のほかにも自然循環や圧縮ガス等を動力として活用。ポンプやディーゼル発電機、送風機、冷却機といった電源を必要する機械をほとんど使用しないほか、運転員の介入なしでも緊急時の影響を最小限に緩和できるよう設計されていると強調した。(参照資料:サザン社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Apr 2021
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フランス電力(EDF)は4月23日、インド南西部のジャイタプールで160万kW級の欧州加圧水型炉(EPR)を6基建設するプロジェクトについて、法的拘束力のある技術・商業面の契約条件提案書を22日付でインド原子力発電公社(NPCIL)に提出したと発表した。今回の提案書に基づき、両者は6基の建設に必要な機器の調達やエンジニアリング調査の実施に向けて協議を開始。EDFとしては今後数か月以内に、拘束力のある枠組み協定の締結を目指すとしている。仏印最大の二国間協力となる同プロジェクトでは、世界でも最大規模の960万kWの原子力発電設備を建設予定。6基からの年間発電量は最大750億kWhに達する見通しで、これにより国内7千万世帯の電力需要に応えるとともに、年間約8千万トンのCO2排出を抑える計画である。この建設プロジェクトについて仏印両国は、2010年に最初の2基の建設に関して枠組み合意に達したが、サプライヤーに一定の賠償責任を盛り込んだインドの原子力損害賠償法や、建設予定地における住民の抗議活動の激化等により実質的な作業は棚上げとなった。その後EDFとNPCILは2018年3月、機器の調達活動等に関する枠組みや仏印両国の役割と責任の分担、次の段階のスケジュール等を特定するため、双方の国家元首立ち合いの下で産業枠組み協定を締結。同年末には、法的拘束力を持たない契約条件提案書をEDFが提出していた。 EDFによると、今回の提案書提出は両者がそれ以降に実施した共同作業の成果であり、EDFはパートナー企業とともに建設プロジェクトで提供する技術の詳細設定を明示。ここではNPCILがジャイタプールについて伝えたサイト情報や、両者が共同で実施したサイトの詳細な調査結果を考慮に入れている。また、6基分の機器の調達やエンジニアリング調査の実施にともなう詳細な商業条件が盛り込まれている。同提案書はまた、EDFとNPCIL双方のスキルを補完し合う内容となった。仏印両国の原子力産業部門の間で長期的な協力関係の構築を目指し、EDFは以下の点を提案している。すなわち、・EDFは、EPR技術の提供者としてエンジニアリング調査と6基分の機器調達を担当。実際の機器調達は子会社であるフラマトム社のノウハウを頼みとしており、同社が6基分の原子炉系統設備を供給する。一方、タービン系統に関しては、仏アルストム社が開発した蒸気タービン「アラベル」も含め、EDFと長年パートナー関係にあるGEスチーム・パワー社が供給する。EDFはまた、6基すべてのEPRについて性能を保証し、NPCILの将来的な運転チームに研修訓練を提供する。・一方、NPCILは建設される発電所の所有者兼運転者となるため、6基すべての建設工事と起動に責任を負うほか、インド安全規制当局によるEPR技術の承認など必要な許可や認証をすべて取得。建設期間中は特に、他のEPR建設プロジェクトからのフィードバックなど、必要な支援をEDFとそのパートナー企業から得ることになる。なお同プロジェクトは、インドが世界の研究開発・製造ハブとなることを目指した国家産業政策「メイク・イン・インディア」と、技術者養成政策「スキル・インディア」に沿ったものになる。EDFはインド国内の製造企業に同プロジェクトへの参加を呼び掛けており、そのための戦略も策定中。徹底した調査により、機器サプライヤーとなり得るインド企業約200社を予備的に選定した。また、詳細なエンジニアリング調査を実施するため、その基盤となるものをEDFがインド国内で構築予定。さらに、プロジェクトの実行に必要なスキルの開発をインド国内で支援するため、エンジニアや技術者を教育訓練する総合研究拠点の創設に向け、予備的実行可能性調査を実施する。これには、仏国の国際原子力学院(i2EN)とインドのビールマータ・ジジャーバーイー工科大学(JVTI)が協力する予定である。(参照資料:EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Apr 2021
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J.マンチン委員長 ©US Senate Committee on Energy and Resources米国議会上院のエネルギー天然資源委員会は4月20日、民主党のJ.マンチン委員長が国内の原子力発電所の利用継続策と早期閉鎖の防止策を要請する書簡をJ.バイデン大統領に提出したと発表した。米国では近年、国民の間で原子力への賛否の割合が拮抗しているが(2019年ギャラップ調査)、政党別でみると共和党員の65%が原子力支持派であるのに対し、民主党員の57%は反対派である。マンチン委員長は民主党員でありながら保守色が強いと言われており、3月25日に原子力発電で米国が世界のリーダー的立場を維持する重要性についてのヒアリング開催時にも、「原子力は信頼性の高い廉価な電力を供給するとともに、世界のCO2排出量を削減するなど地球温暖化の防止に貢献する」と発言。国内で新規原子力発電所の建設や既存原子力発電所の維持で対策が取られなければ、米国が持続可能なエネルギーシステムを構築することは一層難しくなり、経費も高額になると主張していた。大統領宛ての書簡で同委員長は、「CO2を排出しないベースロード電源として既存の原子力発電所の早期閉鎖を防ぎ、これらの利用を継続することは、CO2排出目標の達成と信頼性の高い送電システムを確保する上で非常に重要だ」と指摘。104基あった米国の商業炉はこの20年間で94基まで減っており、今年はさらに510万kW分が閉鎖される見通しだと述べた。同委員長によれば、近年に実施された調査も、エネルギー政策が改善されなければ2030年までに既存商業炉の約半数が閉鎖されると警告している。2019年に米国の原子力発電所は4億7,600万トンのCO2排出を抑制しており、米国全体で供給される無炭素電力の約55%が原子力によるもの。原子力発電所がさらに閉鎖されれば、米国がCO2の排出目標の達成に支障をきたすことになると強調した。また、同委員長は書簡の中で、バイデン大統領が原子力発電所の運転継続を支持し地球温暖化の防止で原子力の果たす役割を認めていることに謝意を表明。その上で、既存の原子力発電所で運転継続していくための支援と、これ以上早期閉鎖されるのを防ぐ対策を講じるよう大統領に要請した。国民の安全と健康に最大限留意しつつ、このように極めて重要な電源を守るために、連邦政府はあらゆる手段を取らねばならないと訴えている。(参照資料:米・議会上院・エネ天然資源委の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Apr 2021
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米エネルギー省(DOE)は4月13日、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すなど、米国の地球温暖化防止取り組みの一つとして、電気出力100kWのマイクロ原子炉を建設する「MARVELプロジェクト」を新たに推進すると発表した。同計画は、革新技術を採用した先進的原子炉技術を市場に送り出すため、DOEが傘下のアイダホ国立研究所(INL)・国立原子炉イノベーションセンター(NRIC)と実施している協力活動の一環。DOEは今後3年以内に、INLの「過渡事象試験(TREAT)施設」内でマイクロ原子炉の運転を開始する計画である。DOEによると、米国は地球温暖化の防止に向けて積極的な活動を展開中であり、低炭素電源の中では米国最大の発電量である原子力はクリーンエネルギーへの移行に重要な役割を果たすと認識している。その中でも近い将来、最も大きな貢献が可能なのが、近年様々な設計開発が進んでいる容量が小さくコンパクトな原子炉。これらは小型であるほか柔軟な操作が可能で、発電のみならず様々な目的に利用することができる。「MARVELプロジェクト」はこのような原子炉を他の技術と統合する方法について、エンドユーザーや研究者の理解を深めるとともに、その開発と建設を加速するためにDOEが立ち上げた。略語であるMARVELの正式名称は、「Microreactor Applications Research Validation and EvaLuation(マイクロ原子炉の適用に関する研究検証と評価)」である。同プロジェクトでDOEは具体的に、現時点で国立研究所で実施できない試験のための設備を整備して産業界に提供。同技術の基本的な特性や操作性、挙動などについて産業界の研究開発を促進し、関係企業による設計の実証を支援する。またマイクロ原子炉のシステムを使って、送電網からの需要と原子炉による供給の調整能力を試験・実証。これにより、再生可能エネルギー・システムの統合や水の浄化、水素製造、産業プロセス用の熱供給など、幅広い分野へのマイクロ原子炉技術の応用を支援する。DOEが建設するマイクロ原子炉は、炉内の冷却に自然循環と液体金属(ナトリウムとカリウム)の冷却材を使用。エネルギーを100kWの電力に変換するには、既存技術のスターリング・エンジン(*)を活用する。燃料としては、U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン(HALEU)燃料を少量、研究機関から入手する計画である。設計は主に既存の技術に基づいており、建設工事を迅速に進められるよう市販の機器を用いる方針である。なお、可搬式のマイクロ原子炉については国防総省(DOD)も軍事作戦への使用を検討しており、2020年3月に原型炉の建設と実証に向けて、ウェスチングハウス(WH)社とBWXテクノロジーズ社、およびX-エナジー社の3社を選定。今年3月には2022年初頭の最終設計審査に向けて、WH社を除いた2社を支援対象に絞り込んだ。このための資金は、マイクロ原子炉の開発で推進中のイニシアチブ「プロジェクトPele」から提供されている。【注*】:19世紀初頭に開発された外燃機関の一種。シリンダー内に水素等の気体を封入し、外部から加熱・冷却を繰り返してピストンを作動させるエンジン。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Apr 2021
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国際エネルギー機関(IEA)は4月20日、2021年の世界のエネルギー需要や経済成長、CO2排出量の方向性などを評価する報告書「グローバル・エナジー・レビュー(Global Energy Review)2021」を公表した。2021年は新型コロナウイルスによる感染の世界的爆発(パンデミック)が2年目を迎え、主要経済大国ではワクチンの投与が開始されたほか、経済危機に対する広範囲の対応によって大幅な経済成長やエネルギー需要のリバウンドが予想される。原子力による総発電量も2020年は過去最大の下げ幅を記録したが、2021年は運転開始した新規原子炉の基数が閉鎖基数を上回るなど、2%増加する見通しだと指摘している。この報告書でIEAは毎回、最新の統計データや経済成長を分析した結果をまとめている。今回の主要な判明事項としては、パンデミックの第3波により移動の制限が長期化し、世界のエネルギー需要も引き続き抑制されるものの、ワクチンの投与や経済刺激対策によって希望の光が見え始めていると指摘した。また、2021年は世界のエネルギー需要が4.6%増加し、2020年の下げ幅である4%を相殺すると見込まれるが、その70%ほどはアジアや中南米、東欧などの新興市場諸国や途上国によるものだと述べた。エネルギー部門からの年間CO2排出量は、石炭火力の大幅な需要増により2021年は世界全体で過去2番目に大きい数値(15億トン増の合計330億トン)となる一方、輸送部門を中心に石油需要量が2019年レベルを下回ることから、CO2排出量の拡大影響は和らげられるとIEAは予想。さらに、世界全体の電力需要量は2021年に4.5%増加する見通しだが、これは2020年の下げ幅の約5倍という大きな数値である。これによってエネルギー最終消費量における電力のシェアは20%以上になるが、増加分の約80%は中国など新興市場諸国からのものだとしている。原子力発電量の2020年実績と2021年の見通し原子力に関しては、IEAは世界全体の総発電量が2020年に約4%低下したと指摘。これは2011年の福島第一原子力発電所事故以降最大の下げ幅で、主なものとして欧州連合(EU)で発電量が11%減、日本で33%減、米国で2%減になったことを挙げた。EUで低下した理由は、電力需要の低迷や保守点検にともなう原子炉の一時的な停止や永久停止など。日本では、規制基準に定められたテロ対策工事が期限内に完了しなかったことが影響した。一方、中国とロシアの原子力発電量は2019年と2020年に運転開始した新規原子炉によって、それぞれ5%と3%増加。ベラルーシとアラブ首長国連邦(UAE)でも初の原子炉が営業運転を開始したほか、後続の原子炉も建設工事が進展中だとしている。2021年の見通しとしてIEAは、2020年に低下した分のわずか半分程度とはいえ、原子力総発電量が2%増加すると予測。2020年後半と2021年の第1四半期に世界では新たに7基の原子炉が送電を開始しており、同じ時期に永久閉鎖された3基分の電力量以上のものを相殺する。さらに、2021年末までに最大10基の新規原子炉が送電網に接続される見通しで、これには中国の4基が含まれるとした。ただし設備容量が増大しても、この年に世界全体の原子力総発電量は2019年実績をわずかに下回るとIEAは予測。先進諸国だけで見ても、2021年の原子力発電量はわずかに上昇するものの、2019年実績を6%下回る。それでも、これらの諸国で原子力が最大の低炭素電源であることに変わりは無いとIEAは強調している。国別で見ると、米国では2021年に5基の原子炉が閉鎖予定であるため、IEAは発電量がさらに下がり、2019年レベルからは4%以上低下するとした。一方、日本では原子炉の再稼働が進み、2021年の発電量は6%の上昇が予想されるが、これは2020年に低下した電力量300億kWhのわずか一部を相殺したに過ぎないとIEAは指摘した。また、欧州では原子力大国である仏国の電力需要が増大し、スロバキアで新たな原子炉の運転開始が期待されることから、欧州全体の原子力発電量は2021年に2%以上上昇する見通し。ただし、これは2020年に低下した分を埋め合わせるには不十分な量だと述べた。さらに、新興市場諸国や途上国では、2021年に原子力発電量が5%以上上昇するとIEAは見込んでいる。中国を中心にインドやUAE、パキスタン、ロシアなど複数の国で新規の原子炉が稼働を開始するためで、これにより、2021年の原子力発電量は2019年レベルから8%上昇。世界全体の中で新興市場諸国と途上国が占めるシェアは、2019年実績の29%から3分の1程度に上昇すると強調している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Apr 2021
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Government of the Czech RepublicチェコのK.ハブリーチェク副首相兼産業貿易大臣(=写真)は4月20日、ドコバニ原子力発電所Ⅱ期工事(5、6号機)の建設に向けて実施予定の入札から、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社を除外すると発表した。同国は実際の入札を行う前に、候補企業それぞれの詳細な安全・セキュリティ評価を実施する方針で、これまで同プロジェクトに関心を表明した5社のうち、中国の広核集団有限公司(CGN)を今年3月に除外。今後は残りのロスアトム社、韓国水力・原子力会社(KHNP)、フランス電力(EDF)、米国のウェスチングハウス(WH)社から詳細な企業情報を求めるとしていた。しかしチェコ政府は今月17日、チェコの弾薬庫で2014年に2つの爆発事件が発生した際の状況が最近明らかになったとし、これらへの関与が疑われる情報機関の工作員としてロシア人外交官18名を国外に追放。その報復措置として、ロシア側もチェコの外交官20名を追放するという事態に発展している。チェコのJ.ハマーチェク内相は「機密解除された情報をもっと十分に入手すべきだ」と述べたが、K.ハブリーチェク副首相兼産業貿易大臣は「野党が以前から要求していたことだが、我が国の情報機関も国家の安全保障に関わると危惧しており、ロスアトム社を数十億ユーロ規模の入札に参加させることはできない」と明言。A.バビシュ首相も18日、同社を除外すべきだと公言したことが伝えられている。チェコ政府の決定についてロスアトム社は、「顧客が最良の技術を廉価で得られるよう、当社は公正な市場競争を強力に支えてきたが、今回の措置は市場競争を歪める政治的判断であり、双方に利益をもたらすはずの協力を阻害する」と指摘した。過去65年にわたるチェコとの原子力協力で、ロスアトム社は合計6基のロシア型PWR(VVER)をドコバニとテメリン2つの原子力発電所に提供。チェコのエネルギー供給保証を今日まで安全かつ効率的な方法で支援すると同時に、チェコの関係企業に対してはVVER機器の製造と供給の両面で貴重な知見を提供してきたと述べた。ロスアトム社はまた、「両国の原子力産業界はチェコ国内のみならず、第三国の共同作業でともに利益を得る可能性があった」とし、その意味でチェコ政府が下した判断を残念に思うと表明。近代的で安全な原子力発電所建設の世界的リーダーとして、ロスアトム社は世界50か国以上で事業を展開中だが、契約上の義務事項はチェコ企業との契約も含めて全面的に履行している。「市場原理と公開競争に基づいて当社は事業を進めており、原子力協力は政治と無関係であるべきだと確信している」と強調した。なお、チェコの規制当局は今年3月、ドコバニⅡ期工事として120万kWのPWR×2基の建設許可を発給した。最新スケジュールによると、今年12月まで候補企業の安全・セキュリティ評価を実施した後、チェコ政府は入札に招聘する企業のリストを承認する。その後、入札とサプライヤーとの交渉を実施し、2023年に最適なサプライヤーを選定。最終決定を経て2024年までにサプライヤーと契約を締結し、2029年に5号機を着工、2036年に同炉を起動するとしている。(参照資料:チェコの副首相(チェコ語のTwitter)、チェコの公共ラジオ放送「Czech Radio」、ロシア国営タス通信、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
20 Apr 2021
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ボルセラ原子力発電所©EPZオランダで原子力に対する政治的、社会的、経済的支援の拡大を奨励している非政府組織「e-Lise財団」はこのほど、原子力発電所の新設に向けてオランダ政府が何をすべきか勧告する報告書「原子力事業におけるオランダ政府の役割」を公表した。同国では1973年から、唯一の原子力発電設備であるボルセラ発電所(50万kW級PWR)が稼働中。運転開始後40年目の2013年、同炉の運転期間は20年延長され、2033年まで運転継続が可能となっている。e-Lise財団は今回の報告書で、「パリ協定の目標達成に向けたオランダ国内の議論のなかで、原子力はこれまで除外されてきた」と指摘。実質的に無限のエネルギー源である原子力には、太陽光や風力に対するのと同様の支援を政府が与えるべきだと訴えている。2020年に創設されたe-Lise財団の呼称は、「リーゼ・マイトナーの核分裂反応原理に基づくエネルギー」を意味している。マイトナーはオーストリアの物理学者で、ノーベル賞を受賞したドイツの物理学者オットー・ハーンとともに核分裂連鎖反応を発見したが、同財団と原子力産業界の間に財務に関する関係はない。e-Lise財団によると、パリ協定の下でオランダは1990年時点のCO2排出量を49%~55%削減する必要があるが、CO2を排出しないエネルギー源の一つである原子力については、具体的なビジョンがオランダの法令や規制、国家戦略の中で示されていない。原子力がオランダでもたらす可能性に関して、現段階では知識が不足しているものの、議会下院が政府に指示して実施させた新規建設に関する市場調査の結果やe-Lise財団の今回の報告書により、このような状況が改善されることを期待するとしている。原子力発電所の新設に向けオランダ政府が実施すべき勧告事項として、e-Lise財団は今回の報告書で以下の点を含む13項目に集約した。・政府の政策変更等により原子力発電所建設プロジェクトの準備作業や工事が妨害されることがあるため、政府自身がプロジェクトに参加したり政府保証に関する長期ビジョンを策定し、信頼できるパートナーとなる。・原子力発電所新設プロジェクトに低金利融資が保証されるよう、政府が資金調達メカニズムを新たに設定する。・原子力について、マクロ経済学的な費用対効果分析を実施する。・風力や太陽光などと同じく、原子力も一つの原子炉技術をシリーズ建設することで価格が抑えられるため、諸外国や複数のエネルギー企業と協力して同一設計の原子炉を建設し、経済的な脱炭素化を促進する。・高圧送電網など既設のインフラは有用なので、エネルギー企業に対し既存の化石燃料発電所やバイオマス発電所を原子力に転換するよう奨励する。・原子力は化学産業や製鋼事業の脱炭素化で重要な役割を果たせるため、原子炉のプロセス熱利用など非電力分野の原子力活用研究を奨励する。・放射線防護政策によって国民の原子力に対する不安を解消する。・放射性廃棄物の貯蔵に関する社会的議論を積極的に再開し、社会の原子力に対する不安を解消する。(参照資料:e-Lise財団の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Apr 2021
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カナダのオンタリオ州、ニューブランズウィック(NB)州、サスカチュワン州の各首相は4月14日、3州の電気事業者が共同で実施した小型モジュール炉(SMR)開発の実行可能性調査(FS)の結果を公表した。SMR開発が同国の経済成長に大きく貢献すると結論づけている。また、アルバータ州は同日、これら3州が多目的SMRをカナダ国内で開発・建設するため、2019年12月に締結した協力覚書に加わったと表明。これら4州の首相は、地球温暖化とエネルギー需要への取り組み、および経済成長と技術革新を支援するクリーンエネルギー・オプションとして、SMR開発を協力して進めることで合意している。FSの結果報告書によると、出力30万kW以下のSMRはカナダのエネルギー需要を満たす一助となるだけでなく、温室効果ガスの排出量を削減し、SMR技術でカナダを世界のリーダーに押し上げることが期待される。また、既設の大容量送電網のみならず、遠隔地のコミュニティや資源開発プロジェクトで使用する小容量送電網にも組み込むことができると表明している。今回のFSは3州の協力覚書の一環として、各州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社、ブルース・パワー(BP)社、NBパワー社、およびサスクパワー社が州政府の要請を受けて行った。これら3州ではすでに、複数のSMR開発プロジェクトが進められているが、FS報告書はそれらについて3州の州政府が考慮すべき方向性を以下のように提案している。①(オンタリオ州がダーリントン原子力発電所敷地内で進めているSMR計画について)送電網への接続が可能な出力30万kW程度のSMR初号機を2028年までに建設し、これに続くフェーズで最大4基のSMRの最初の一基を2032年までにサスカチュワン州内で完成させる。ここでは複数の地点で早急かつ効率的にSMRを建設できるよう、共通技術を1つに絞り込みSMR群を一まとめに建設する“フリート”アプローチを取る。これに向けて、OPG社とBP社、およびサスク社は協力して、2021年末までに採用技術と開発企業を選定する。②(NB州がポイントルプロー原子力発電所敷地内で進めているSMR計画については)第4世代の先進的SMR実証炉を2種類、建設する。NB州が協力関係を結んでいる2社のベンダーのうち、米ARCクリーン・エナジー社のナトリウム冷却・プール型高速中性子炉「ARC-100」の実証炉を2030年までに完成させる。また、英モルテックス・エナジー社の「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」と廃棄物リサイクル施設を2030年代初頭までに稼働可能にする。③遠隔地のコミュニティや鉱山で主に使用されているディーゼル発電機に代わって、超小型SMR(MMR)を導入する。このため、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した電気出力0.5万kWの小型モジュール式高温ガス炉を、2026年までにオンタリオ州のカナダ原子力研究所チョークリバー・サイトで建設する。このMMRに関してはすでに2019年3月、USNC社のパートナー企業であるカナダのグローバル・ファースト・パワー(GFP)社がチョークリバー・サイトで実証炉を建設するため、サイト準備許可(LTPS)をカナダ原子力安全委員会に申請している。FS報告書によると、これら3つの方向性すべてで「カナダに新たな雇用を生み出し経済成長に貢献する」ことが期待できる。地球温暖化など地球規模の課題への取り組みにも資することから、SMR技術とその専門的知見を輸出できる可能性もあるとした。また、すべての方向性において技術面と商業面両方に実行可能性がある一方、重要な点は連邦政府とコストやリスクを共有することだとFS報告書は指摘。これらのSMR技術は、廉価なクリーンエネルギーを提供しつつカナダが2030年までに石炭火力を全廃し、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成する一助になる。また、これらのSMRプロジェクトは原子力産業界の活動に新たなサブカテゴリ―を創出する。カナダは世界中のSMR建設で大きな役割を果たせる有利な立場にあるため、3つの方向性すべてが順調に進展するよう連邦政府からタイムリーな支援を確保することが重要になる。さらに、勧告事項としてFS報告書は、州政府が各州それぞれの経済優先事項や必要性に沿ったやり方で連邦政府と協力し、カナダのCO2排出量削減と経済成長を支援していくべきだとした。SMR開発で得られるビジネス機会を共有しながら、産業界と州政府、および連邦政府は協力してカナダ中で経済成長と雇用を促し、輸出も視野に入れた理想的な事業環境を創出、革新的エネルギー技術の開発を続けるべきだとしている。なお、アルバータ州が新たに加わった3州の協力覚書における次のアクションとして、4州の州政府は共同戦略計画案を策定するとしており、今春中に完成する見通しである。また、これら4州は原子力産業界全体との協力も継続し、原子力技術革新の最前線にカナダが留まれるよう力を合わせる方針。今後の経済成長や雇用の創出、技術革新、低炭素社会の構築に向けて、新たな機会を模索するとしている。(参照資料:オンタリオ州、NB州、サスカチュワン州、アルバータ州の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Apr 2021
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今月初旬に搬入された1号機用タービン系の重機器©ANPPロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は4月14日、トルコで同社が請け負っている同国初のアックユ原子力発電所(120万kWのロシア型PWR:VVER×4基)建設計画に対し、ロシアの民間金融グループであるオトクリティエ銀行から総額5億ドルの「サステナビリティ・リンク融資(SLL)」が提供されることになったと発表した。SLLは環境的・社会的に持続可能な経済活動の支援を目的としており、ロスアトム社はすでに今年3月、ロシアのソブコム銀行から7年間で合計3億ドルのSLLを受けると発表。同じく7年間にわたる今回の信用枠は、オトクリティエ銀行とロスアトム社のトルコ現地法人であるアックユ原子力発電会社(ANPP)の間で契約が締結された。アックユ計画では、4基すべてが完成した際の総発電量が年間で約350億kWhに達すると予想されており、大型商業都市であるイスタンブールの総電力需要の約90%を賄うことができる。また、トルコ全体の約10%を満たせる規模だとロスアトム社は指摘している。今回のSLLの特別条件としては「持続可能な開発に向けた義務事項の順守」が設定され、ANPP社はトルコの法令に従って建設プロジェクトの環境状況と生態学的状況をモニタリングし、年次報告書を提出すると約束。これらの条件を全面的に順守することで、比較的低い金利が適用される。ロスアトム社で国際事業を担当するK.コマロフ第一副総裁は、「この条件付き信用枠によって優遇金利が期待できるほか、当社の主要プロジェクトであるアックユ計画と、持続可能な活動のためのソリューションに共通する特質を改めて確認できた」と表明。「SLLが得られたということは、信頼できる顧客として金融市場が当社を認め、また原子力発電プロジェクトには持続可能な低炭素シナリオに沿って経済成長に向けた条件設定が可能と認識したことを意味している」と述べた。ロスアトム社の財務経済担当のI.レブロフ副総裁も、「アックユ計画はトルコ最大の低炭素エネルギー・プロジェクトであり、それに対する信用枠の提供は、国連の持続可能な開発目標とパリ協定の目標達成を当社が約束したため得られたもの」と説明した。オトクリティエ銀行のE.チルコワ上級副社長は、「ロスアトム社との戦略的連携協力では、単なるビジネス以上のものを目指している」と指摘。同社が環境責務の全面的な履行と国際的慣行の踏襲を約束したことから、オトクリティエ銀行にとって今回の契約は特に重要なものになると強調している。地中海に面したアックユ原子力発電所建設サイトでは、2018年4月から1号機の本格的な建設工事が始まっており、2020年4月に2号機が着工した後、今年3月には3号機が着工した。4号機についても、ANPPが2020年5月に建設許可を原子力規制庁(NDK)に申請しており、今年中の着工を予定している。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Apr 2021
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モルダー環境相©Estonian Governmentエストニア環境省は4月9日、同国における原子力発電の導入に向けて、政府が8日の閣議で「原子力作業グループ(WG)」を正式に設置することを承認したと発表した。同WGは、エストニアにおける原子力の必要性や既存の電力網との適合性も含め、今後20年間の同国のエネルギー需給などを分析評価。2022年9月までに政府に結果を報告するとともに、提案も行うことになる。同国では、新興エネルギー企業のフェルミ・エネルギア社が第4世代の原子炉導入を目指して、小型モジュール炉(SMR)や先進炉を開発中の複数の外国企業とエストニアへの導入可能性を検討中である。同社は、エストニア国内でSMRの開発・建設を支持する原子力科学者やエネルギーの専門家、起業家などが設立。すでに、米国のGE日立・ニュクリアエナジー社や英国のロールス・ロイス社、モルテックス・エナジー社などと協力覚書を締結している。しかしエストニア政府としては、検討を始めたばかりであり「国家レベルでは今のところ何も決定していない」と環境相は強調している。たとえ原子力発電の導入を決定したとしても、実際に運転を開始するのは2035年以降になるとの見方もある。WGは環境省が経済問題・コミュニケーション省などと協力して開催することになっており、構成メンバーはこれらの省と環境委員会のほかに、内務省、財務省、法務省、教育・研究省、防衛省、外務省、社会問題省などが挙げられている。原子力の導入についてT.モルダー環境相は、「エストニアのエネルギーセキュリティや持続可能性、競争力などを強化し、2050年までに炭素排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)の実現という欧州連合(EU)の目標を達成する上で、原子力の導入は可能性のある解決策の1つだ」と指摘。その利点について、「1日24時間、気候に左右される事なく電力供給が可能」とする一方、「実際の導入まで非常に長期間を要する上に、使用済燃料処分という難題を解決しなければならない」と強調した。同相はまた、WGのミッションとして「周辺諸国におけるエネルギー・経済の開発動向や、カーボンニュートラルの達成に向けた連携などを明らかにすること」と説明。「他国で開発中のエネルギー技術や進展中のプロジェクトが、エストニアへ適用可能かという点も分析する必要がある」とした。さらに、発電所の建設を官民のいずれが実施すべきか、あるいは官民が協力して進める可能性についても評価しなければならないと述べた。同相によると、エストニアにとって第4世代のSMRは従来の大型原子力発電所と比べて建設が比較的容易であり、これらの経済効果や信頼性、安全性という点においても優れている。しかし、原子力を導入するには、PAなど社会的側面が無視できないため、科学的根拠に基づいたアプローチだけでは不十分。国民全体で原子力を受入れる準備が出来ていなければならないとも指摘している。(参照資料:エストニア政府の発表資料(エストニア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Apr 2021
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米メリーランド州のX-エナジー社は4月1日、開発中の小型ペブルベッド式高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」の初号機建設に向けて、西海岸最北に位置するワシントン州の2つの公益電気事業者と「3社間エネルギー・パートナーシップ」を組む了解覚書を締結した。ワシントン州では現在、州内の使用電力を2045年までに100%無炭素にすることを目指した法令「クリーンエネルギーへの転換」に基づくプログラムを推進中。信頼性が高く廉価な無炭素電源を必要としていることから、同州内の地方自治体など27の公益電気事業者で構成されるエナジー・ノースウエスト社、および同州グラント郡の公益電気事業者であるグラントPUD社は今回、X-エナジー社と共通の目標を達成するため、相互に協力することを決定。米国で初めて、第4世代の非軽水炉型・先進的小型モジュール炉(SMR)の「Xe-100」をワシントン州で建設し、商業化の可能性を実証する。3社は建設サイトとして、同州リッチランドの北部にあるエナジー・ノースウエスト社のサイト内を想定。同サイトでは、同社がワシントン州唯一の原子力発電所であるコロンビア発電所(120万kW級BWR)を所有・運転中である。今回の計画では、電気出力8万kWの「Xe-100」を4基接続して最大出力32万kWの発電所を建設するが、その前に3社は協力して建設プロジェクトの各段階について検討を進め、許認可手続や実際の建設と運転、および発電所の所有等について最良の取り組み方を特定するとしている。X-エナジー社によると、「Xe-100」では電気出力とプロセス熱の生産量を柔軟に変更することが可能で、海水脱塩や水素生産などの幅広い分野に適用できる。また、建設工期が短くて済むほか、物理的にメルトダウンが発生することが無く、冷却材の喪失時にも運転員の介入なしで安全性が保たれるという。エネルギー省(DOE)は2020年5月に開始した「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で、10月に同社を初回支援金の交付対象の1つに選定した。実証炉を建設するための支援金8,000万ドルを2020会計年度から交付しており、その一部は同設計で使用する3重被覆層・燃料粒子「TRISO」燃料の商業用製造施設の建設にも活用される。X-エナジー社は現時点では、米原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)審査に同設計を申請していないが、2020年8月からはカナダ原子力安全委員会(CNSC)が同設計の予備的設計評価(ベンダー設計審査)を実施中である。エナジー・ノースウエスト社のB.サバスキCEOは、「ワシントン州の将来のクリーンエネルギー社会において、先進的原子力技術は中心的な役割果たせるし、また果たすべきだ」とコメント。「温室効果ガスを排出せずに1日24時間稼働できるため、間欠性のある再生可能エネルギーとの相乗効果も高く、送電網の信頼性を向上させる点でも非常に多くのメリットがある」と指摘した。X-エナジー社のC.セルCEOも、「このプロジェクトを成功に導く3本の柱として、当社が第4世代の革新的な原子炉設計と燃料を提供する一方、エナジー・ノースウエスト社は理想的な建設サイトと確かな運転経験、原子力に関する専門的知見を提供する。また、グラントPUD社は人材や資金など潤沢な資源を持ち経営状態も非常に良好、増大する電力需要を新たな技術で満たそうとするなど先見の明もある」と説明。これに明確な将来ビジョンを持つDOEの支援が加わったことから、「クリーンエネルギーの未来を構築する盤石な基盤は整った」と強調している。(参照資料:X-エナジー社とエナジー・ノースウエスト社、およびグラントPUD社の共同発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Apr 2021
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仏国のフラマトム社は4月6日、米ドミニオン・エナジー社と数百万ドル規模のメンテナンス契約を締結した。ドミニオン社が所有/運転する原子力発電所の長期運転(LTO)を支援するため、燃料交換や保守点検作業を2026年まで請け負う。フラマトム社が同様の業務を提供した米国の原子力プラントは、2020年だけで39にのぼっているドミニオン社は2018年10月、バージニア州のサリー原子力発電所(90万kW級PWR×2基)について2回目の運転期間延長を申請しており、原子力規制委員会(NRC)が現在審査中。NRCは2020年3月に安全性評価報告書(SER)の最終版を、4月に環境影響声明書(EIS)の最終版を発行しており、最終承認した場合、同1、2号機は2052年と2053年までそれぞれ80年間、同州内の顧客に適正価格の電力を供給することになる。同社はまた、同じバージニア州内のノースアナ原子力発電所(100万kW級PWR×2基)についても2020年8月に2回目の運転期間延長を申請。1978年と1980年に運転開始した同1、2号機を、それぞれ2058年と2060年まで長期運転する方針だ。同社はさらに、コネチカット州で操業するミルストン原子力発電所の2基(それぞれ90万kW級と130万kW級のPWR)についても、2017年に2回目の運転期間延長を申請する可能性を示唆していた。こうしたドミニオン社の運転期間延長計画を支援するため、フラマトム社はバージニア州の従業員1,100名あまりを今後5年にわたって動員する。フラマトム社は2020年6月、同州を本拠地とするBWXテクノロジーズ社から商業用原子力発電所向けのサービス事業を買収。これにともない、蒸気発生器関係の点検・メンテナンス機器や工具類が拡充されたため、これらを活用していく考えだ。同社はまた、今回新たに2024年までサウスカロライナ州のV.C.サマー原子力発電所(100万kW級PWR)で燃料交換を実施するほか、サリー、ノースアナ、ミルストンの3発電所に関しては既存の燃料交換契約を延長する。これらに加えて、同社はサリー、V.C.サマーの両発電所に対して2023年まで10年毎の供用期間中検査を実施、電力研究所(EPRI)が機器の劣化管理プログラムで定めた「PWR炉内構造物の点検と評価ガイドライン(MRP-227)」に沿って、試験も行うとしている。(参照資料:フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Apr 2021
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アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入計画を担当する首長国原子力会社(ENEC)は4月6日、同連邦として、またアラブ諸国としても初の商業炉となるバラカ原子力発電所1号機(140万kWの韓国製PWR「APR1400」)が営業運転を開始したと発表した。同炉は試運転中の昨年12月に定格出力に達しており、今や1日24時間体制でコンスタントに安定した電力を発電中。これにより、UAEは世界で32番目の原子力発電利用国/地域となった。今年はUAEの建国50周年であり、ENECは同炉が発電する新時代のクリーン電力は今後数10年にわたってUAEの継続的な発展と成長の原動力になると述べた。同発電所はまた、世界で最も差し迫った課題である地球温暖化の主要原因に、UAEが直接取り組むことを可能にする。確認済みの技術を採用した同発電所でUAEは連邦内のCO2排出量を大幅に削減し、一層クリーンなエネルギー源に移行していく考えである。原子炉オペレーターになるための厳しい訓練 ©ENEC同炉は2012年7月にUAE北部のアブダビ首長国で本格着工しており、2018年3月には竣工式が行われた。しかし、運転員の訓練と規制当局からの承認取得に時間を要することから、運転管理会社のNAWAHエナジー社は燃料の装荷スケジュールを延期すると発表。起動に向けた準備を進めながら、国際原子力機関(IAEA)など複数の機関による安全評価や世界原子力発電事業者協会(WANO)の起動前審査を受けていた。連邦原子力規制庁(FANR)は2020年2月に同炉で起動準備が整ったことを確認、60年有効な運転許可を発給した。これを受けてNAWAH社も翌3月に燃料の初装荷作業を完了しており、同炉は同年7月末に初めて臨界に達した。8月からは送電を開始しており、これまでにIAEAやWANOによる42件以上の評価結果やピアレビューに基づいて試験を実施したほか、FANRも独自に312件の広範な点検を行ったとしている。バラカ発電所が発電する電力については、2016年に首長国水電力公社(EWEC)が今後60年にわたり全量購入する契約(PPA)をバラカ・ワン社と締結。バラカ・ワン社はENECの子会社で、この建設プロジェクトの財務・商業活動を担当している。同発電所では残り3基の建設も順調に進んでおり、FANRは今年3月に2号機に運転許可を発給。同炉では燃料の装荷も完了したことから、今年後半の起動に向けて様々なプロセスが進められている。3、4号機の建設工事も、1、2号機の建設で得られた経験や教訓を元にすでに最終段階入り。建設進捗率はそれぞれ94%と89%となっており、発電所全体では95%に到達している。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Apr 2021
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米国のJ.バイデン政権は3月31日、米国の再強化を促す長期の経済政策として「米国雇用計画(American Jobs Plan)」を公表した。この中で、2035年までに国内電力を100%無炭素にする道筋の一つとして経年化が進んだ国内送電網の近代化とともに、クリーンエネルギー関係の製造業を再活性化するため、先進的原子炉など重要技術の開発を議会に呼びかけている。同計画の下で、バイデン政権は今後8年ほどの期間に毎年GDPの約1%を投資する方針で、合計の投資額は2兆ドルを超える見通しである。これによって良質の雇用を創出し国内インフラを刷新するほか、中国を上回る立場に米国が立つことを狙う。1960年代以降、米国経済では公共投資の割合が40%以上低下したことから、同計画ではこれまでとは異なる方法で国内投資を行う考えである。「米国雇用計画」は国内インフラの整備と地球温暖化対策に重点を置いており、投資分野を大まかに6項目に分類。このうち2つ目の項目、「清潔な飲料水と刷新された電力網、および高速ブロードバンドをすべての米国民に提供」のなかでバイデン政権は、電力インフラの刷新(強化)を表明している。今年2月にテキサス州の配電線網が寒波の影響で機能停止に陥り、大規模な停電が発生したことから、劣化した送電網を緊急に刷新する必要性があるとした。エネルギー省(DOE)の調査によると、停電のために発生する損害は年間で最大700億ドルにのぼる。このためバイデン政権は、停電からの回復が早い送電網や廉価な電気料金を国民に提供し、クリーンな電力で大気を改善、良質の雇用も創出して2035年までに電力部門のCO2排出量ゼロ化を実現するとしている。そのための投資として、バイデン政権は1,000億ドルが必要と議会に説明。具体策としては、「エネルギー効率化・クリーン電力基準(EECES)」を導入することや、原子力や水力など既存の無炭素電源を一層効率的に活用することなどを挙げている。また、「米国雇用計画」における5つ目の投資項目、「研究開発への投資、製造業と小規模ビジネスの再活性化、および将来の雇用に向けた職業訓練」では、気候科学や技術革新等におけるリーダー的立場を米国が獲得しなければならないとバイデン政権は強調。地球温暖化への取り組みやクリーンエネルギー技術の開発で米国が世界に先んじ、クリーンエネルギー関係の雇用を生み出すには、あらゆる画期的技術の開発に350億ドルの投資が必要だと議会に訴えている。このため、バイデン政権は気候関係の優先的な研究開発の実証プロジェクトに150億ドルの投資が必要だと説明。この中には実用規模のエネルギー貯蔵やCO2の回収・貯留(CCS)、先進的原子力技術の開発などが含まれている。バイデン政権はさらに、この投資項目のなかで連邦政府の調達を通じてクリーンエネルギー関係の製造業を再活性化すると説明。年間5,000億ドル以上に達する連邦政府の購買力は市場を動かす原動力となっており、これにより技術革新やクリーンエネルギーの生産、良質な雇用の創出を促進することができる。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化という大統領の公約を達成するには、米国で一層多くの電気自動車や充電ポート、住宅暖房用の電動ヒートポンプなどが必要。これらの製造に加えて、先進的原子炉とその燃料といった重要技術の開発が可能になるよう、バイデン政権は連邦政府の調達に対し460億ドルの投資が行われるべきだと議会に提言している。(参照資料:ホワイトハウスの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Apr 2021
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国際エネルギー機関(IEA)は3月31日、CO2排出量の実質ゼロ化を主要議題とする次回の国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP26)に向けて、IEA加盟国など40か国以上が参加するオンライン・サミットを開催した。その中で、クリーンな経済成長と回復力の達成を劇的に加速させるための指針として「7つの主要原則」を新たに公開。新型コロナウイルスによる感染危機が終息した後の持続可能な経済活動の必要性や、CO2排出量の削減に当たり、この10年間に実行可能なロードマップを作成する重要性などを強調している。この「ネット・ゼロ・サミット」では、今年11月の英国グラスゴーにおける「COP26」で議長を務める英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のA.シャルマ大臣と、IEAのF.ビロル事務局長が共同で司会を務めた。ビロル事務局長は「このサミットで、地球温暖化の危機の重大さやCO2排出量の実質ゼロ化に向けて緊急にアクションを取る必要があることで、世界の大多数の意見が一致した」と表明。これと同時に、各国経済の主要部門すべてにおいて、クリーンエネルギー技術を早急に開発・利用できるよう国際協力を強化する必要性が浮き彫りになったと述べた。同事務局長によると、クリーンエネルギーへの移行を迅速に進めたいのであれば、世界の経済大国同士が一層効果的かつ緊密に協力しなければならない。今回IEAが提示した主要原則はそのために何が必要であるか示したもので、IEAとしてはこのような国際協力メカニズムが「COP26」で強化されるよう、議長国である英国を全面的に支援すると述べた。同事務局長はまた、各国政府のアクションをさらに強力に支援していくため、世界のエネルギー部門で2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するまでの最初の「包括的ロードマップ」を5月18日に公表すると約束。同ロードマップでは「COP26」のシャルマ議長からの要請に応え、世界の平均気温上昇を産業革命以前との比較で1.5℃に抑える際に、各国政府や企業、投資家、市民らが必要とする経路を設定するとしている。IEAが今回示した「7つの主要原則」は以下のとおり。1、持続可能な経済の復旧は、CO2排出量の実質ゼロ化に向けて一世一代の投資金を提供するため必要である。2.IEAが5月に公表するロードマップに基づき、加盟各国の政府が2030年までとそれ以降のCO2実質ゼロ化を達成できるよう、明確で意欲的かつ実行可能なアクションのロードマップをそれぞれの事情に応じて作成することが重要になる。3.加盟各国が持続可能なエネルギーシステムを構築する際、IEAは技術面や経済面のリスクをコントロールし方向性を決められるよう支援しているが、このようなメカニズムをさらに増強して加盟各国がそれぞれの良好事例を共有し、技術面で協力すればCO2実質ゼロ化への移行はさらに早まる。4.気候中立に資するエネルギー技術の開発と利用は、エネルギーを消費するすべての部門において迅速かつ持続可能なエネルギーの移行を可能にする。このため、世界規模のCO2実質ゼロ化に向けて、各部門の技術革新を促進する官民の国際的な調整メカニズムを一層強化・統合することが重要である。5. 官民の投資を結集・管理・評価することによって、CO2排出量の実質ゼロ化に向けて拍車をかけることができる。2050年までに実質ゼロ化に向けた活動を軌道に乗せるため、発電や蓄電に要する総投資額を2030年までに年間1兆6,000億ドル以上に増額する必要がある。6. 各国がクリーンエネルギーへの移行を模索するなか、環境面や社会・経済面で個人やコミュニティに及ぶ影響への対処、すべての人々がCO2排出量実質ゼロの経済に参加できるよう教育・訓練を施すことも重要になる。このため、人間を最優先とする移行が道義的、政治的に求められる。7. エネルギーの移行を進めつつ、その供給保証を維持することも重要であるため、各国政府や企業等は既存の課題に対処するとともに、新たな課題を未然に防ぐ必要がある。各国政府は協力して、エネルギーの供給保証や世界のエネルギーシステムの回復力をさらに強化する新たなメカニズムの分析を行うべきである。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Apr 2021
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仏国では2015年に同国で成立した「エネルギー移行法」に基づいて、フェッセンハイム原子力発電所(92万kWのPWR×2基)が2020年に2基とも早期閉鎖された。これにともない、同国政府が事業者の仏電力(EDF)に対して支払った補償金の一部、およびこれから支払う分について、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は3月23日、EUの国家補助規則に照らしてその正当性を認めると発表した。エネルギー移行法では、現在約75%の原子力発電シェアを2025年までに50%まで削減し、原子力発電設備も2015年レベルの6,320万kWに制限すると明記。しかし2018年になって、E.マクロン大統領は期限を10年間先送りすると発表している。同国では最新設計を採用したフラマンビル3号機(165万kWのPWR)が建設中であることから、EDFはその代わりとして最も古いフェッセンハイム発電所の2基を早期に閉鎖。仏国政府は2020年12月に、EDFとの条件協約に従い固定部分の3億7,020万ユーロ(約482億円)をEDFに支払った。残りの変動部分はこの閉鎖による2041年までの発電量不足をカバーするのが目的であり、この期間中の電力卸売価格とフェッセンハイム以外の90万kW級原子炉の発電量に基づいて決定される。ECは仏国政府とEDFの間で交わされたこの条件協約を詳細に分析した結果、「国家補助規則が定められている「欧州連合の機能に関する条約(TFEU)」では事業者の利益がほかの選択肢より優先されることになっており、この規定を排除することはできない」と表明。この補償金は、原子力以外の電源による発電を促進することで仏国のエネルギーミックスを多様化するのが主旨であり、フェッセンハイム発電所の廃止措置作業を合理的に進める効果もある。そのためECではこの補償金は、仏国がこのような政策を実行に移す上で必要かつ適切なものだと結論付けた。また、補償金は、EU域内の競争原理や貿易に歪みを生じさせる可能性よりもプラスの要素が多いとECは指摘している。(参照資料:ECの発表資料(仏語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
02 Apr 2021
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