カナダ東部ニューブランズウィック(NB)州の州営電力であるNBパワー社は11月16日、英国籍のモルテックス・エナジー社および米国籍のアドバンスド・リアクター・コンセプツ(ARC)社がそれぞれ開発している小型モジュール炉(SMR)のNB州内での建設に向け、相互協力メカニズムである「SMRベンダー・クラスター」を同州で設立すると発表した。同クラスターの目的は、3社間で相乗効果が生まれるよう互いに協力しあうこと。NBパワー社とモルテックス社、およびARC社のカナダ法人(ARCカナダ社)は、これまでの協力関係を同クラスターで一層強化するため、同日付けで了解覚書を締結した。具体的には、製造技術・販売また技術教育での提携、関係取引への取組み、共通する研究開発活動などで協力するとしており、早ければ2030年にも、NBパワー社が同州で操業するポイントルプロー原子力発電所(71.2万kWのカナダ型加圧重水炉)の敷地内で、ベンダー2社それぞれのSMRの営業運転を始める方針。州内の原子力産業界が継続的に協力し合うことで、地球温暖化に対処するとともに州の経済成長に貢献、NB州民の生活改善にも役立てたいとしている。NBパワー社によると、次世代の原子力技術と言われるSMRでは様々なタイプの設計開発が進行中で、出力は最大でも30万kW程度。多様な用途に活用が可能であるほか、機器を建設サイトに輸送してその場で組み立てることもできる。また、従来の原子力発電所より規模が非常に小さいため、大量生産により価格が手頃になり、建設工事も容易となる。学界や科学技術関係のコミュニティにも恵まれたNB州には、複数のSMR建設が可能な原子力発電所が立地し原子力関係の専門的知見も支援基盤として根付いているなど、先進的SMRの開発推進に適している。こうした背景からNB州政府とNBパワー社は2018年7月、世界的水準のSMR開発と製造で同州がリーダー的立場を確立するため、90件もの申請の中からARC社とモルテックス社を選定し、SMR開発で協力することで合意。州内唯一の原子力発電設備であるポイントルプロー発電所内で、ARC社製SMR初号機の建設可能性を探るとしたほか、モルテックス社製SMRについても商業規模の実証炉を同発電所内で建設する方針を明らかにした。モルテックス社のSMRは、カナダ型加圧重水炉の使用済燃料を低コストで新燃料に変換するという「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」で、日中のピーク時には出力を2倍、3倍に増やすことも可能と言われている。一方、ARC社が開発中のSMRは、ナトリウム冷却・プール型高速中性子炉の「ARC-100」。米エネルギー省(DOE)傘下の国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」の技術に基づいており、金属燃料を使用する。NBパワー社の発表では、これら2つの設計では互いを補完し合う技術が採用されているが、どちらも受動的安全系を装備。また、方法は異なるものの、ともに使用済燃料の処分問題解決に役立つとしている。(参照資料:NBパワー社、モルテックス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Nov 2020
3638
英国のB.ジョンソン首相は11月18日付けの電子版フィナンシャル・タイムスに寄稿し、2050年までに英国内の温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロ化を目指して重要施策を10項目に絞り込んだ「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」を公表した。英国では2019年6月に、GHG排出量を2050年までに実質ゼロとするための法案が成立し、首相は「10ポイント計画」の当面する重要施策の一つとして新規原子炉の建設を約束。今回の計画では、大型炉のみならず小型炉モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)に至るまで、開発のための資金を政府が5億5,000万ポンド(約756億円)以上投資する方針を明らかにしている。「10ポイント計画」全体で、政府は民間部門の約3倍に相当する120億ポンド(約1兆6,500億円)の投資を計画しており、この支援により、地球環境の保全・修復に役立つ「緑の雇用」が約25万人分創出される。ジョンソン首相は同計画について、「雇用を促進し人々の生活様式を維持しつつ、GHG排出量の実質ゼロ化を達成するための『世界的ひな形』になる」と強調。同計画を実行することで、英国は緑の産業技術とそのための資金調達で世界の模範的先駆者となるとした。同首相はまた、GHG排出量の実質ゼロ化を牽引するタスク・フォースを設立するとしている。同計画の中で、先進的原子炉の新規建設は3番目のポイントとして挙げられており、政府はその中で、輸送部門や熱供給部門における低炭素電力の需要が増大し、英国の電力供給システムは2050年までに2倍の規模に成長・拡大すると予想。原子力は信頼性の高い低炭素電源であるため、英国内ではすでに、ヒンクリーポイントC原子力発電所のような大型炉の建設が進められている。国内ではまた、SMRやAMRへの投資が拡大するなど、原子力発電の将来には大きな期待が寄せられている。60年以上前に英国では、本格的な民生用原子力発電所が世界で初めて建設されたことから、政府は現在でも国内に関係技術のポテンシャルがあると考えている。導入規模や技術の世代とは無関係に、新しい原子炉は低炭素な電力と雇用、および経済成長をもたらすので、政府は大型炉の建設を支援するため開発基金を提供する。政府はまた、次世代原子力技術に対する一層の投資を予定。政府内の「歳出見直し」やコストパフォーマンスの点で問題がなければ、政府は「先進的原子力基金」として最大3億8,500万ポンド(約529億円)を充当する方針である。このうち最大2億1,500万ポンド(約295億円)が国内のSMR開発に投じられるほか、民間においても「マッチ・ファンディング」方式を通じて最大3億ポンド(約412億円)の投資機会に道が開かれるとした。政府はさらに、AMRの研究開発プログラムに最大1億7,000万ポンド(約233億円)の投資を約束している。ここでは、800℃以上の高温で稼働し水素や合成燃料を効率的に生産できる高品質の熱供給炉の開発を想定。これらは、二酸化炭素の回収・貯留(CCUS)や水素生産、および洋上風力発電への投資を補うものと位置付けられており、政府としては遅くとも2030年代初頭にこのようなAMRやSMRの実証炉を国内で建設するとともに英国を原子力国際競争の最前線に押し上げる計画である。なお、政府はこのほか、これらの技術を市場に出す手助けとして、規制枠組みの整備と関係サプライチェーンの支援に追加で4,000万ポンド(約55億円)を投資するとしている。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Nov 2020
3865
カナダ連邦政府のS.オリーガン天然資源相は11月16日、既存の放射性廃棄物管理政策の最新化を図るため、様々な立場のカナダ国民が参加する取組プロセスを開始したと発表した。同相はまた、この政策レビューの一環として、低・中レベル放射性廃棄物の管理で一層包括的な戦略を作成するようカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)に要請したことを明らかにした。発表によれば、カナダ政府は2050年までに同国が温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を達成する上で、原子力発電が大きな役割を果たすと考えている。原子力はまた、カナダ国内のみならず世界中で雇用とビジネス・チャンスを創出することから、既存の廃棄物管理政策の最新化は政府が今後も、国民の安全と健康および環境を最優先に保全し続ける上で非常に重要である。政府はそのための盤石な枠組を確保しているが、国際的な基準や最良好事例に合致した長期的な放射性廃棄物管理対策を推進するには、これを常に最新のものにしておかねばならない。オリーガン天然資源相が開始したプロセスでは来年3月末までの期間、カナダ政府は様々な方法で放射性廃棄物の発生者や所有者、その他の政府機関、専門家、および一般国民や先住民族など、関係するすべての国民と協議。放射性廃棄物の管理で一層力強いリーダーシップを発揮していけるよう、既存の政策を詳細に説明することになる。カナダでは2007年、使用済燃料の直接処分を定めた国家方針が採択され、実施主体であるNWMOは2010年から処分場建設のサイト選定プロセスを開始した。2012年9月までに国内の22地点が処分場の受け入れに関心を表明し、NWMOは現時点で候補地域をオンタリオ州南部のサウスブルース地域と北西部イグナス地域の2地点まで絞り込んだ。2023年までに、これらのうちどちらかを処分場の建設に好ましい地点として確定することになっている。カナダ政府が国民とコミュニケーションする手段は主にウェブサイトで、国民はネットを通じて放射性廃棄物や政策レビューに関する最新情報、プロセスの進行状況などを把握する。ステークホルダーに対しては、ワークショップや円卓会議などを通じて直接的に対話するほか、オンライン・フォーラムも活用。政府はこのような活動の結果を2021年春までに最終報告書に取りまとめて30日間のパブコメに付し、その年の秋にも最新化した政策を公表する予定である。一方、NWMOに要請した低・中レベル廃棄物の統合管理戦略については、政府は具体的に、戦略の策定に向けた国民との対話を主導するようNWMOに求めている。NWMOが使用済燃料の安全な長期管理について策定済みの計画に基づき、オリーガン大臣は同戦略には以下の項目を含めるべきだと指摘した。それらはすなわち、・廃棄物の現在と将来の排出量、小型モジュール炉(SMR)を設置した場合に排出される廃棄物の特性や所有者、保管場所など、既存の廃棄物管理状況の説明。・廃棄物の長期管理処分に関する現在の計画とその進行状況。・現在および将来排出される放射性廃棄物を取り扱う際の(長期管理処分に関する技術オプションなど)概念的アプローチ。・廃棄物を長期に管理する施設の計画立案や設置、統合、操業などの検討状況。 同大臣は、このような重要任務をNWMOが包括的かつ透明性のあるやり方で実行することは非常に重要だと説明。NWMOは現在、使用済燃料の長期管理計画を遂行中だが、低・中レベル廃棄物戦略の件で国民との対話を進める折にも、NWMOのこのような任務が損なわれてはならないと指摘した。 NWMOによると、現在カナダ国内の低・中レベル廃棄物はすべて安全な方法で中間貯蔵中。NWMOとしてはこの重要な業務の遂行にあたり、その専門的知見を使って実用的な勧告をカナダ政府に提示し、国際的な良好事例に沿った形で廃棄物の長期管理が続けられるようにしたいと述べた。(参照資料:カナダ政府、NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Nov 2020
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カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社の米国法人(TEUSA社)は11月10日、開発中の小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)(熱出力40万kW、電気出力19万kW)で使用する溶融塩燃料について、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所(ANL)と詳細な試験を開始したと発表した。これは、IMSR発電所の燃料や機器・システムについて同社が実施している幅広い確認試験プログラムの一部であり、試験結果は最初の商業炉の建設許認可手続き等で活用する予定。第4世代の先進的原子炉技術のひとつであるIMSRは、コスト面や機能面で革新的と見られており、TEUSA社は安全でクリーン、信頼性が高くコスト面の競争力もあるIMSRのプロセス熱を、化学合成や脱塩など数多くの工業利用に有望としている。IMSRはまた、発電用として既存の電力市場以外での適用が可能なため、TEUSA社としては、産業界が様大規模な脱炭素化を進める有望な手段としてIMSRを提供。米国市場における同設計の商業運転は、2020年代後半にも実現できると予想している。発表によるとTEUSA社とANLとの協力は2016年、民間で進められている先進的原子力技術の商業化支援でDOEが開始したイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」で、TEUSA社が支援対象に選定された折に始まった。TEUSA社は、最初のGAINによってANLとの商業協力が本格的に促され、独力で各種試験を実施するより、世界クラスの国立研究所と協力して関係分野の専門的知見を得る戦略を継続。そのおかげで、TEUSA社は社内の技術資源をIMSR開発に集中させることができ、IMSR発電所を早期に建設する選択ができた。試験に際し、ANLは溶融塩にトリウムなどを混合した液体燃料の熱特性が規制基準を満たせるかの試験に加えて、IMSRの運転サイクル全般で使われる溶融塩の試験用混合物も準備。その上で燃料の融点、密度や粘度、熱容量、熱拡散率なども計測・特定するとしている。IMSR初号機の建設サイトとしては、同じくDOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)が候補に挙がっている。このため、TEUSA社は2018年3月、INLのサイト評価を共同実施するため、ワシントン州の非営利電気事業者共同機関「エナジー・ノースウエスト社」と了解覚書を締結している。(参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Nov 2020
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カナダのオンタリオ州営電力会社(OPG)社は11月13日、既存のダーリントン原子力発電所(93.4万kWのカナダ型加圧重水炉×4基)で、小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた活動を開始すると発表した。OPG社はこれに先立つ10月6日、具体的な協力を行うSMRデベロッパーの候補として、カナダのテレストリアル・エナジー社と米国のGE日立・ニュクリアエナジー社、およびX-エナジー社を選定。SMRはオンタリオ州経済を再活性化させる上で非常に重要だと指摘したほか、同州とカナダ連邦政府が推進する温室効果ガス排出量の削減目標達成にも役立つとしている。OPG社は2006年、同発電所で新しく大型炉を増設するため「サイト準備許可(LTPS)」を申請している。カナダ原子力安全委員会(CNSC)は2012年8月にLTPS発給の判断を下したが、オンタリオ州政府は翌2013年に同増設計画の保留を発表。同発電所で稼働中の4基、および同州内にある2つのその他原子力発電所についてもその後、運転期間の延長計画や大規模な改修プロジェクトが進められている。OPG社は今回、原子炉の建設・運転に先立つ許認可手続きの一環として、当時のLTPS復活をCNSCに申請した。早ければ2028年にも同サイトでSMRを完成させ、州民すべてにSMRの恩恵をもたらすとしたほか、同州および同発電所が立地する州南部ダラム地方を、世界でも著名なクリーン・エネルギー地区として確立。「供給エネルギーのクリーン化」を推進するオンタリオ州では、すでに2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功している。OPG社の発表によると、カナダ産業審議会が実施した調査の結果、同州内で単機の原子炉を新設し60年間稼働させることで、同州には莫大な経済効果が得られることが判明。プロジェクトの開発期間中、間接雇用も含めた新規の雇用者数は年平均で700人以上にのぼる。その後の機器製造・建設期間には1,600人分、原子炉の運転が始まれば約200人分、廃止措置期間中でも160人分の雇用が確保できるとした。また、国内総生産(GDP)に対する直接的・間接的な効果は総額にして25億カナダドル(約1,994億円)に達するほか、オンタリオ州の財政収入も8億7,000万加ドル(約694億円)以上増加すると予測している。今回のOPG社の判断について、オンタリオ州エネルギー省のG.リックフォード大臣は「ダーリントン発電所が立地するダラム地方で、この10年以内に最新鋭のSMR建設に向けてOPG社を後押しできることを州政府は誇りに思っている」と述べた。同州および原子力関係で同州と連携するサスカチュワン州、ニューブランズウィック州、アルバータ州は、カナダにおけるSMR開発で主導的役割を担うとともに、カナダが保有する原子力技術や専門的知見を世界中に知らしめていると強調した。(参照資料:OPG社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
16 Nov 2020
2723
ロシアの民生用原子力発電公社であるロスエネルゴアトム社は11月10日、レニングラード原子力発電所で2号機(100万kWの軽水冷却黒鉛減速炉)が45年間の運転を終えて、永久閉鎖されたと発表した。同発電所では、チェルノブイリ発電所と同型の100万kW級RBMKを4基稼働しており、45年間稼働した1号機を2018年12月に永久閉鎖し、今回2号機を閉鎖する。これらは第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」で順次リプレースされることになっており、同設計を採用したII期工事1号機はすでに2018年10月末に営業運転を開始、II-2号機についても今年10月22日に初めて国内送電網に接続している。発表によると、ロシアで永久閉鎖された原子炉はロシア連邦の規制・規則に基づき、核燃料が抜き取られるまでは「発電せずに運転中」の状態とみなされる。抜き取りが完全に終了するまで約4年を要する見通しで、この間に発電所では廃止措置で使用する技術の確定など、廃止措置プロジェクトの実施準備を進めることになる。ロスエネルゴアトム社のA.ペトロフ総裁は、「レニングラード発電所では原子炉の世代交代が完璧に進められており、2号機の閉鎖に合わせて第3世代+のII-2号機が試験運転を実施中だ。消費者は原子炉がリプレースされたことすら気づかないだろう」と述べた。ロスエネルゴアトム社によれば、最新設計の「AES-2006」では「RBMK-1000」に対して技術的に様々な改良が施されている。出力が20%向上したほか、公式運転期間もこれまでの30年から2倍の60年に拡大。レニングラード発電所のRBMK×4基も30年が経過した後、機器の大規模な点検・補修プログラムが行われ、4基すべてについて追加で15年間の稼働が許可された。同発電所はロシア北西地域では最大の発電所であり、近年はレニングラード州や州都サンクトペテルブルクにおける総発電量の56%以上を賄っている。120万kW級のVVERが2基送電開始した時点で、引き続き約60%を賄うことになると同社は予想している。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Nov 2020
4114
英ロールス・ロイス社は11月8日、同社が率いる官民企業連合の小型モジュール炉(SMR)開発に、米国の原子力発電事業者としては最大手のエクセロン・ジェネレーション社が協力することになり、両社は同日に了解覚書を締結したと発表した。これはロールス・ロイス社が将来、英国その他の国で「UK SMR」を建設する際、エクセロン社が約20年にわたって蓄積してきた20基以上の商業炉の運転経験が役立つとの認識に基づいている。同企業連合が建設した「UK SMR」が発電会社に引き渡されるまでの期間、エクセロン社は同企業連合と緊密に連携し、発電会社の運転能力向上や人材の育成・訓練などに協力する。また、関連スキルの現地化や堅固な安全文化の醸成、運転の効率化などにも尽力することになる。英国政府と原子力産業界が参加する同企業連合で、ロールス・ロイス社は出力40万~45万kW、PWRタイプのSMRを開発しており、運転期間は60年を想定。仕様を標準化した機器や先進的な製造プロセスで経費を削減し、天候に左右されない施設内でモジュールや機器類を迅速に組み立てることで、低コストなSMR発電所を工場生産する方針である。同社によれば、今後10年以内に当面目標とする出力44万kWのSMRが複数運転開始できれば、英国政府が目指す「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ化」を達成する一助となる。また、英国内での量産は、機器やモジュールの製造工場を新たに建設することとなり、新型コロナウイルスによるパンデミックからの英国経済の復活や、SMRの輸出に道が開けるとしている。同企業連合のT.サムソンCEO臨時代行 は、「地球温暖化や経済回復への取り組みで原子力発電は中心的役割を担うが、そのためには価格が手ごろで信頼性が高く、投資可能なものでなければならない」とコメント。同企業連合が目指しているのは、洋上風力発電と同レベルまで発電コストが削減されたSMRであると説明した。同CEOの認識では、SMRによって英国の発電業界には新しい事業者の参入が可能になり、顧客の選択肢の幅も広がる。これによって低炭素なエネルギーの安定供給が確保されるようになる。ロールス・ロイス社の企業連合は、主要メンバーが原子力エンジニアリング企業や建設企業、機器製造センターなどであるため、エクセロン社と連携することで同企業連合に不足している「世界的規模の原子力発電事業者」が補われ、開発プログラムの見通しは非常に明るくなった。また、原子力関係の米英連携が強化されるとともに、将来の顧客にはエクセロン社が最高水準の運転達成能力を提供、同企業連合の成長に向けた重要側面が新たに展開することになる。ロールス・ロイス社の予測によると、英国内でSMRの量産プログラムが本格的に実行された場合、2050年までに最大で4万人分の雇用が創出され、英国経済には520億ポンド(約7兆2,300億円)相当の価値と2,500億ポンド(約34兆7,600億円)の輸出が生み出されるとしている。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Nov 2020
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米オレゴン州のニュースケール・パワー社は11月10日、開発中の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」で1基あたりの出力をさらに25%増強した7.7万kW(グロス)のモデルを設計したと発表した。これは、先進的な試験やモデリング・ツールを活用した結果によるもので、同社はまず2018年6月、モジュール統合型PWRとなるNPMで予定していた出力5万kWを20%増強して6万kWに拡大。同モジュールを12基連結した場合の合計出力も60万kWから72万kWとなったが、今回のさらなる出力増強により、NPM原子力発電所の最大出力は92.4万kWに拡大する。同社はその一方で、NPMモジュールを4基だけ接続した30.8万kWの発電所、および6基接続した46.2万kWの発電所オプションも提供が可能だと強調している。5万kW版のNPMについては今年9月、原子力規制委員会(NRC)が設計認証(DC)審査で、SMR設計としては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給しており、同設計は今のところSMR商業化レースの先頭を走っている。ニュースケール社としてはこのほか、6万kW版の「ニュースケール720」についても2021年第4四半期にSDAの取得を申請するほか、7.7万kW版の申請書も2022年に提出する方針。NPMの最初のモジュールは、2027年にも顧客への納入が可能になると明言した。同社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、「当社のエンジニアは今回再び、我々の技術が第一級のものであり、設計の安全性に影響を及ぼさずに、かつてないレベルのコスト削減と顧客の要求仕様に合わせた生産が可能であることを実証した」と表明。同社は今後も、SMRの商業化レースで世界をリードする企業であり続けると述べた。今回の発表によれば、出力を25%増強したモジュール12基のkWあたりの建設単価は、3,600ドルから約2,850ドルに低下する。このほか発電所としての出力が90万kW台になったことで、同モジュールは100万kW級原子炉の市場においても十分競合可能な設計に近づきつつある。ニュースケール社のSMRはまた、発電所の規模や出力だけでなく、運転の柔軟性、コスト面においても顧客に幅広いオプションを提供、建設工事の簡素化や工期の短縮、工事費の削減といった点で技術革新をもたらすとした。このようなことから、ニュースケール社は同設計を通じて、送電網の規模が小さい島国や送電網そのものから切り離された遠隔地域への電力供給、石炭火力発電所のリプレース用電源、クリーン・エネルギーへの移行目標達成といった顧客の様々なニーズに応えられると述べた。米国内ではすでに、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)がエネルギー省のアイダホ国立研究所内で同社製SMRの建設を計画している。国外では、カナダのブルース・パワー社が2018年11月、同社製SMRのカナダ市場導入を目指して同社と協力覚書を締結。カナダの原子力安全委員会は今年1月から、NPMの「許認可申請前設計審査(ベンダー審査)」を開始した。このほか、ヨルダンやルーマニア、チェコ、ウクライナの国営電気事業者や原子力委員会が同社製SMRの導入を検討しており、ニュースケール社は実行可能性調査の実施に向けた了解覚書をそれぞれと締結済みである。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
11 Nov 2020
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英国で小型モジュール炉(SMR)開発の官民企業連合を率いるロールス・ロイス社は11月9日、チェコ国内で同社製SMRを建設する可能性を評価するため、チェコの国営電力(CEZ)社グループと了解覚書を締結したと発表した。CEZ社グループのD.ベネシュ会長は、「我が国の産業にとって新しいエネルギー技術は重要な役割を担っており、SMRについてはすでに国立原子力研究機関(UJV Rez)がかなり前から研究を進めていた」と説明。その上で、「SMRは今後、重要な代替選択肢となり得るため、ロールス・ロイス社やその他のグローバル企業との連携は、チェコがこれまで重ねてきた対応の結果として当然の措置である」と述べた。チェコ政府は2015年5月の「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約30%から2040年までに60%近くまで上昇させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画である「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減しつつ、合計6基が稼働する既存の2つの原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設する準備を進めなければならないとしていた。こうした背景から、CEZ社グループは2020年4月、2つの発電所のうちドコバニ原子力発電所で、ネット出力最大120万kWのPWRを新たに2基増設するための立地許可申請書を原子力安全庁(SUJB)に提出した。SMRに関しても、2019年9月に米ニュースケール・パワー社と、2020年2月にはGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と、それぞれのSMRをチェコ国内で建設する実行可能性調査の実施で了解覚書を締結している。一方、ロールス・ロイス社が開発中のSMRは出力40万~45万kWのPWRタイプで、運転期間は60年間。これらは再生可能エネルギーと競合できるレベルまで低コストで、工場で大量生産が可能、かつ設置場所までトラック輸送が可能なものを目指している。すでにヨルダン原子力委員会、およびトルコ国営発電会社(EUAS)の子会社とは、同社製SMRをそれぞれの国内で建設する技術的実行可能性調査の実施に向けて了解覚書を締結済みである。ロールス・ロイス社の「英国SMR開発企業連合」には、仏国の国際エンジニアリング企業のアシステム社や米国のジェイコブス社、英国の大手建設エンジニアリング企業であるアトキンズ社、BAMナットル社、レイン・オルーク社などが参加。このほか、英国の国立原子力研究所(NNL)、および英国政府が原子力産業界との協力で2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)も加わっている。(参照資料:CEZ社、ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Nov 2020
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中国核工業集団公司(CNNC)は11月6日、山東省の石島湾で2012年12月から建設している小型の高温ガス炉(HTGR)実証炉(HTR-PM)で、1次系の冷態機能試験が3日付けで完了したと発表した。電気出力20万kW のHTR-PM では、1つの発電機を共有する双子ユニット(各10万kW)の最初の1基で10月19日に冷態機能試験が完了、引き続きもう片方の1基で試験が開始されていた。CNNCはこれらの実証炉で、計測値のすべてが設計要件を満たしていることを確認しており、原子炉系統の機器に関しては製造と設置の品質の高さを確認。同発電所の建設プロジェクトは、国際市場が必要とする固有の安全性を備えた第4世代の原子力技術の開発を促進するとともに、加熱用蒸気と電力の併給が可能なシステムの合理化に役立つと強調している。 HTR-PMの建設工事は科学技術関係の大型国家プロジェクトの1つであり、「華能山東石島湾核電有限公司(SHSNPC)」が中心となって進めている。同社には、中国の5大発電企業の1つである華能集団公司が47.5%出資しているほか、CNNCが2018年に経営を再統合した核工業建設公司(CNEC)が32.5%、付属の研究院で実験炉「HTR-10」を運転中の清華大学が20%を出資中。また、CNECと清華大の合弁事業体である中核能源科技有限公司(チナジー社)が、同工事のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約を請け負っている。 CNNCの発表によると、HTR-PMの冷態機能試験では他のタイプの原子炉とは異なり、水の代わりに圧縮した空気を使用。空気を最大8.9MPaまで徐々に圧縮して1次系圧力境界の性能を試した後、1次系の漏洩率を計測するため、圧縮度を8.0MPaに下げた状態で24時間以上維持した。また、このような圧力下における1次系圧力容器の変形や位置のズレなどを最初の1基で調査した結果、支持システムの有効性が暫定的に認められたという。同試験を通じて、原子炉の主要システムとなる機器の製造やエンジニアリングの高い品質が確立され、HTGRの商業化を加速する確固たる地盤が築かれたとCNNCは指摘している。なお、HTGRは電力供給だけでなく熱供給や脱塩、水素製造にも利用できるため、ポーランドが大型原子炉の建設計画と並行して導入の実行可能性を調査している。サウジアラビアも、韓国製小型モジュール炉などとともに中国製HTGRを建設する可能性を調査中。また、HTR-PMの出力を60万kW級に拡大した商業用のHTGRについても、広西省金端市その他の都市で建設構想が進展中と伝えられている。(参照資料:CNNCの発表資料①、②とWNAの11月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」、原産新聞・海外ニュース、ほか)
09 Nov 2020
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ベラルーシ初の原子力発電所の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は11月5日、初号機となるベラルシアン原子力発電所1号機(120万kWのPWR)を、3日の昼過ぎに初めて同国の送電網に接続し送電したと発表した。同炉については8月7日に燃料を装荷した後、10月11日に出力が最小制御可能出力(MCP)レベル(臨界条件を達成する段階において、核分裂連鎖反応を安定した状態に維持するのに十分な1%未満の出力)に到達。10月23日には、ベラルーシの非常事態省が出力を50%まで徐々に上げていくプログラムの実施を許可しており、ロスアトム社は出力40%に達した時点で同炉を初併入させるとしていた。今後は出力50%でプラント動特性試験の実施を予定しており、このような定格出力未満での試験を12月初頭までに完了した後、定格出力で試運転を開始。営業運転に入るのは2021年第1四半期になるとの見通しを明らかにしている。ロスアトム社によると、ベラルシアン発電所では第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」設計を採用。ロシア国外で送電開始した同型炉としては最初となった。ロシア国内ではすでに、ノボボロネジ原子力発電所II期工事で同型設計の1、2号機が営業運転中。レニングラード原子力発電所でもII期工事1号機が2018年10月に営業運転を開始したほか、10月23日にはII期工事2号機が送電を開始している。AES-2006の特長についてロスアトム社は、放射性物質の環境への放出を抑えるとともに安全な運転を確保するため、技術面で最先端技術を採用。格納容器は2重構造で、内側の容器が設備の気密性を保持する一方、外側の容器は竜巻やハリケーン、地震といった外部からの影響に耐えられる。受動的安全系を備え、外部電源が完全に失われた場合でも運転継続が可能であり、動的システムを使わずにすべての安全機能が作動するとしている。また、格納容器の下部にはコア・キャッチャーを備えているため、過酷事故発生時においても炉心溶融物を閉じ込めて冷却することができる。出力もこれまでのVVERから20%増強されて120万kWになったほか、必要とする運転員の数が大幅に減少。従来のVVERで30年としていた運転期間は倍の60年となり、これをさらに20年間延長することも可能だとしている。ベラルシアン1号機の送電開始について、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁は「ベラルーシにとって歴史的出来事であり、同国における原子力発電時代の幕開けになった」とコメント。同社の傘下で建設工事を担当するASEエンジニアリング社(ASE EC)のA.ペトロフ第一副総裁も、「AES-2006を採用した原子炉の建設は国際市場で最も有望かつ需要があり、すでにフィンランドやハンガリー、トルコ、バングラデシュ、中国などが第3世代+の120万kW級VVERの顧客になっている」と強調した。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Nov 2020
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ポーランドのシントス・グリーン・エナジー(SGE)社は11月4日、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した小型モジュール炉(SMR)「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」のエネルギー供給システムをポーランドで建設するため、実行可能性評価の実施を含む協力合意協定をUSNC社と結んだと発表した。SGE社は化学素材メーカーであるシントス社のキャピタル・グループに所属しており、その戦略に沿ってCO2を排出しないエネルギー・ソリューションを欧州で積極的に模索している。このため、MMRエネルギー・システムがCO2を出さずに供給する水素や熱・電力を、シントス社が本拠地であるポーランド、およびチェコ、オランダ、仏国で操業する化学素材製造プラントで活用する。また、欧州産業界の様々な製造企業に対しても、同システムの幅広い商業利用を勧めていく考えである。USNC社ではこのような熱電併給と水素生産の能力を持つMMRエネルギー・システムを構築するため、現在、韓国の現代エンジニアリング社を含む世界中の複数の大手企業と連携協力中。SGE社の具体的な計画では、石炭や天然ガスを使う既存の化学素材プラントを、MMRエネルギー・システムを採用したプラントでリプレースすることになる。USNC社とSGE社はまた、同システムの水素生産技術に付随する付加価値の範囲内で、CO2を出さずに産業規模で水素を生産できるような、経済効率の高い熱電併給方法の開発プロジェクトを進めている。これについてはすでに、欧州委員会(EC)が主導する産業メカニズム「欧州共通利益重要プロジェクト(Important Projects of Common European Interest: IPCEI)」から財政支援が受けられるよう、両社が共同でポーランド開発省に申請書を提出済みとなっている。シントス社キャピタル・グループのオーナーであるM.ソウォヴォフ氏は「我々が保有する複数の製造施設で、最終的に脱炭素化を実現し競争力も強化されるよう、短期間で建設可能な有力な技術を選定するつもりだ」と明言。その上で、「MMRは非常に洗練された安全な技術であり、他に例を見ないほど我々のニーズに合っている」と述べ、同技術はシントス社の脱炭素化戦略実現と競争力強化に役立つとの見解を示した。同氏はまた、「ポーランド産業界全体の脱炭素化に向けて、MMR技術は様々な解決策の一部となることを確信する」としている。USNC社のMMRは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWという第4世代の小型モジュール式高温ガス炉で、燃料にはシリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を用いる。同社によれば、いかなる事故シナリオにおいても、MMRでは特段人の手が加わらなくてもすべての熱が安全に環境に出され、メルトダウンが発生するリスクもない。2019年3月にカナダのプロジェクト開発企業のグローバル・ファースト・エナジー(GFP)社は、パートナー企業であるUSNC社のMMR実証炉をカナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトで建設するため、SMRとしては初めて「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。このプロジェクトでは、チョークリバー・サイトを擁するオンタリオ州の州営電気事業者オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が実証炉の建設や運転で協力する予定。CNSCは2019年7月から、このプロジェクトの環境アセスメント(EA)プロセスを開始している。(参照資料:シントス社、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Nov 2020
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米国籍のエネルギー総合ソリューション企業であるホルテック・インターナショナル社は11月2日、日本で同社製の使用済燃料乾式貯蔵システム「HI-STORM UMAX」(=写真)を販売・建設することを目指し、日立GEニュークリア・エナジー社と協力覚書を締結したと発表した。日本の原子力発電所から出る使用済燃料は主に、発電所敷地内の燃料プール内で一時的に保管されている。しかし、福島第一原子力発電所事故を契機に、多くの電気事業者が放射性物質の閉じ込めや放射線の遮へい、臨界防止、除熱等の機能を備えた乾式貯蔵への移行を検討。六ヶ所再処理工場の竣工が遅れているため、使用済燃料の貯蔵能力確保と拡大が急務となっている。ホルテック社によると、同社の乾式貯蔵システムは耐力溶接されたキャニスターをステンレス構造物の中に納め、コンクリート製の容器で覆って地下施設に垂直に貯蔵するというもの。すでに米国内では、2つの原子力発電所で同システムが操業されている。日本で従来から使用されている貯蔵技術では、規制当局が義務付けた高い耐震レベルなどを満たさねばならないが、ホルテック社は日立GE社が日本の国内市場で産業界のリーダー的立場を担っており、使用済燃料の管理分野においてもエンジニアリングや製造関係の深い専門知識を有していると指摘。今年9月に同社製の金属製キャスクが日本の基準に適合していると認められており、ホルテック社はこのような乾式貯蔵技術に代替オプションを提供する考えだと説明している。同社で国際プロジェクトを担当するR.スプリングマン上級副社長は、「今回の覚書を通じて日本の特殊な規制条件に取組み、厳しい貯蔵要件に解決策を見いだせるよう、お互いの持つ専門的知見で相乗効果が生まれることを期待する」と述べた。ホルテック社の認識では、日本の産業界のニーズに合わせて設計を合理化したHI-STORM UMAXは理想的なシステム。同システムであれば人類史上最も強力だった地震動を上回る、これまで世界で認可されたどのシステムよりも強力な地震荷重に耐えられるとした。また、火災や巨大なコンクリート構造物の飛来からも使用済燃料のキャニスターを防護するほか、津波に対する抵抗力も十分あると強調している。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
04 Nov 2020
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世界原子力協会(WNA)の新しい事務局長として10月末に就任したS.ビルバオ・イ・レオン氏は同月28日、「エネルギー供給システムの脱炭素化に向けた近年の試みは効果が無かった。今こそ、新たな原子力設備に投資すべき時だ」と訴えた。これは、10月26日から30日までシンガポールで開催されていた「国際エネルギー週間2020」で同事務局長が表明したもので、「新型コロナウイルスによる感染が世界的に拡大(パンデミック)したことで、(原子力のように)低炭素で強靱性があり、料金も手頃なエネルギーシステムへの投資を検討するチャンスが世界各国にもたらされた」と説明している。ビルバオ・イ・レオン事務局長の就任は、同職を約8年間勤めたA.リーシング前事務局長の退任の意向とともにWNAが9月15日付けで公表。10月5日以降、約1か月の引き継ぎ期間が設けられていた。スペイン出身の同氏は、マドリード工科大学で機械工学の学士号とエネルギー技術の修士号を取得。米国のウィスコンシン大学では原子力工学と工学物理学で修士号と博士号を取得した。その後、原子力産業界や学術界、国際機関など様々な部門の職歴があり、米国のドミニオン・エナジー社では原子力安全分析エンジニアとして勤務したほか、バージニア・コモンウェルス大学では機械・原子力工学部の准教授を務めた。また、国際原子力機関(IAEA)では水冷却炉技術開発ユニットの技術ヘッドを、WNAで事務局長に就任する直前は経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)で原子力技術開発・経済課の課長を務めていた。「国際エネルギー週間2020」の発表の中で同事務局長は、2000年に世界では総発電量の約36%を低炭素電源が発電したものの、これは2017年実績とほぼ同じであったと指摘。これは、クリーンエネルギー社会の実現に向けて人々が積み上げてきた努力が、脱炭素化という目的の達成にあまり貢献できなかったことを明確に示している。世界では様々な再生可能エネルギーに巨額の投資が行われた一方、その効果はほんの少しだけだったと述べた。同事務局長によると、低炭素電源としての原子力の発電量は世界でも2番目となるが、地球温暖化防止や持続可能な経済という目標を達成するには、世界全体のエネルギーミックスのなかで原子力による発電シェアを拡大する必要がある。「各国経済はパンデミックで大きな痛手を被ったが、今やすべての国が純粋に持続可能な世界の構築に向けて、チャンスが得られるような政策的対応を慎重に模索している」と述べており、低炭素な上に回復力があり、価格も手ごろなエネルギー・電力インフラをコスト的にも効果のある方法で開発するチャンスだと指摘。その上で、「原子力はパンデミック後の経済を回復させる際、中心的役割を果たすことができる」とした。 同事務局長は新型コロナウイルスが引き起こした危機への直近の対応として、また、地球温暖化や大気汚染、エネルギー利用へのアクセスといった、一層規模の大きい慢性的課題で将来的に危機が発生するのを防ぐためにも、各国政府が原子力発電に投資を行う絶好の機会であると説明。このような投資は社会的に責任の大きいものとなり、一層クリーンで将来的に持続可能な社会・経済を形成する一助になると強調した。同事務局長の認識では、原子力に投資することで世界のエネルギー供給保証が強化されるとともに、ほかの部門の脱炭素化にも有効な低炭素な熱や水素が供給されるなど、エネルギー供給全体への貢献が可能である。また、新しい原子力発電設備の建設は、1970年代や80年代の傾向から見ても速やかに実行することができるとしており、同事務局長は「今回のように、低炭素な電力を緊急に増やさねばならない時期には非常に大きな助けになる」と表明している。(参照資料:WNAの発表資料、WNAの10月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」、原産新聞・海外ニュース、ほか)
02 Nov 2020
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ブルガリアと米国の両政府は10月23日、民生用原子力発電分野における両国間の戦略的協力を加速するため、了解覚書を締結したと発表した。ブルガリアのB.ボリソフ首相は、「原子力は環境に最もやさしいクリーンなエネルギー源の一つであるため、(米国との協力を通じて)最新世代の一層安全な原子力技術の活用と原子燃料調達先の多様化を進めていきたい」とコメントしている。ブルガリアでは1989年に共産党の独裁政権が崩壊した後、民主制に移行。北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)にも加盟するなど、西欧化が進んでいる。しかし、国内で稼働していた出力44万kWの古いロシア型PWR(VVER)4基は西欧式の格納容器を持たない型式であったため、EUへの加盟条件として2007年までにこれらすべてを閉鎖。現在は、比較的新しい100万kWのVVER×2基(それぞれ1988年と1993年に運転開始)で国内電力需要の約35%を賄っている。米国との今回の覚書締結は、2019年11月にボリソフ首相と米国のD.トランプ大統領が原子力を含む様々なエネルギー分野の協力拡大で合意したのに続くもの。その際、具体的な協力拡大分野として、ブルガリアの残りのVVER用に米国(のウェスチングハウス社)から原子燃料を供給するため、許認可手続きの迅速な進展を両国政府の協力により支援する、などが挙げられていたブルガリア政府はまた、2012年に建設工事を中止したベレネ原子力発電所を完成させるため、2019年3月に各国から戦略的投資家を募集。同年12月には、中国やロシア、韓国、仏国の原子力企業と並んで、米国のGE社を候補として選定したことを明らかにしていた。今回の覚書には、ブルガリア・エネルギー省のT.ペトコワ大臣と米国務省のC.フォード国際安全保障・不拡散担当国務次官補が調印。ボリソフ首相が同席したほか、M.ポンペオ国務大臣はテレビ・モニターから調印式に参加した(=写真)。ペトコワ大臣によると、同覚書によって両国間の将来のエネルギー協力に新たな推進力と盤石な基盤がもたらされ、ブルガリアが最も優先するエネルギー源の多様化という目標の達成に貢献。同国にとって原子力発電は戦略的に重要なものであり、エネルギーの供給保証だけでなくCO2排出量の削減にも寄与できるとした。また、今回の発表のなかでブルガリアは、米国の新しい安全な民生用原子炉技術に高い関心を表明。2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すというEUの「グリーンディール」投資計画案を実行に移すためにも、両国の覚書を通じて最新世代の安全確実な原子力技術で原子力プログラムを拡大する方針である。同覚書ではさらに、米国とブルガリアの双方がそれぞれの原子力産業の支援に向けた協力を希望。原子力技術の責任ある利用に向けて、人的資源と関係インフラの開発・維持に努めたいとしている。ブルガリアとしては、原子力の平和利用抜きでEUの「グリーンディール」目標を達成することは出来ないと認識しており、価格が手ごろで低炭素経済への移行においても重要要素である原子力は、国や地域、および欧州レベルのエネルギー供給保証を確保する上で非常に重要な役割を果たす。今回の覚書によって、両国は安全・セキュリティ面で高いレベルの基準を満たしつつ、教育・訓練を含む人的資源開発に重点を置いて原子力技術を活用していく考えである。(参照資料:ブルガリア内閣(ブルガリア語)と米国務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Oct 2020
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ウクライナ・エネルギー協会(UEA)は10月22日、国内原子力産業界の今後の開発方向に関する円卓会議において、国家経済やエネルギー供給保証の要である原子力産業が将来的にもこれらの役割を担い続けられるよう、政府に支援を勧告することで合意した(=写真)。同協会は、ウクライナの民生用原子力発電公社や石油製品企業、関連投資会社などで構成されるエネルギー業界団体。今後、原子力産業界が新型コロナウイルスの感染拡大といった危機を乗り越え、さらなる発展を遂げるためのアクション計画を策定するよう、ウクライナ政府とエネルギー省に宛てた嘆願書を作成する方針である。今回の円卓会議には、UEA幹部のほかに同国の国家原子力規制検査庁(SNRC)や民生用原子力発電公社のエネルゴアトム社、およびその他の科学関係機関から代表者が出席したほか、関係するトレーダーや専門家、分析家も参加した。主な議題は新たな電力市場とその課題、発展の見通しといった条件の中で、ウクライナ原子力産業界の現状を分析すること。また、エネルゴアトム社における今後の開発や計画の方向性と投資プロジェクト、関係法規制を改正する必要性についても話し合われた。最終的な議論の総括として、参加者全員は以下の点で合意した。すなわち、・原子力はエネルギー供給保証の要であるとともに、国家経済の発展を保証するため、将来的にもその役割を担い続ける。・原子力産業を維持・発展させる方策や重点分野を特定するため、戦略文書を取りまとめる必要がある。・エネルゴアトム社の財務体質を健全な状態に回復させることは、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大という状況の中、国の経済や産業の維持に向けた最も重要な任務の一つである。・エネルゴアトム社が公平な条件で、電力市場への参加が可能になるメカニズムを確保するには法改正が必要である。ウクライナは1986年のチェルノブイリ事故直後、新規の原子力発電所建設工事を中断したが、国内の電力不足と原子力に対する国民感情の回復を受けて1993年にこのモラトリアムを撤回した。近年はクリミアの帰属問題や天然ガス紛争等により旧宗主国であるロシアとの関係が悪化したが、P.ポロシェンコ前大統領は「ロシアからの輸入天然ガスがなくても切り抜けられたのは原子力のお蔭」と明言。「原子力による発電シェアが約60%に増大した過去4~5年間はとりわけ、原子力発電所が国家のエネルギー供給保証と供給源の多様化に大きく貢献した」と述べた。また、ウクライナ内閣は2017年8月に承認した「2035年までのエネルギー戦略」の中で、原子力は2035年までに総発電量の50%を供給していく目標を明記。2019年5月に就任したV.ゼレンスキー大統領は、前政権のこの戦略を実行に移すため、原子力発電開発のための長期プログラムの策定を命じた。さらに、今年9月には「エネルギー部門の状況の安定化と原子力発電のさらなる開発に向けた緊急方策のための大統領令」を公布している。(参照資料:UEAの発表資料(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Oct 2020
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ベラルーシの非常事態省は10月23日、同国初の商業炉となるベラルシアン原子力発電所1号機(120万kWのPWR)(=写真)の起動に向け、出力を段階的に上げていくプログラムの実施を許可した。これは、同発電所の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が26日付けで明らかにしたもので、ベラルーシ規制当局の決議に基づいて下された。同炉では8月初旬に燃料が初めて装荷されており、今回の判断により、ロスアトム社傘下の総合エンジニアリング企業「ASEエンジニアリング社(JSC ASE EC)」とベラルシアン原子力発電所(国営企業)は、同プログラムの下で1号機の起動に必要な様々な作業を実施。ベラルーシ政府は2021年第1四半期にも、同炉の営業運転を開始できると予想している。同プログラムでは具体的に、同炉の出力を1%から50%まで徐々に上昇させる。40%レベルで送電網に接続し、50%ではプラント動特性試験などが行われる。これらの作業は今年の12月までに完了する予定である。ウクライナと国境を接するベラルーシは、1986年のチェルノブイリ事故で多大な放射線被害を被ったが、国内のエネルギー資源が乏しいため1次エネルギーの8割を輸入に依存。こうした背景から、1990年代に原子力の導入に関する実行可能性調査を行っており、福島第一原子力発電所事故が発生した直後の2011年3月15日、同国初の原子力発電所建設に関する協力でロシアと合意した。ベラルシアン原子力発電所建設の計画については、2012年11月にロシア政府が総工費の90%をカバーする100億ドルの低金利融資を25年間で提供することを約束。2013年11月にフロドナ州オストロベツで第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」として1号機が着工したのに続き、2014年4月には同型の2号機が着工している。1号機では今年4月、機器の性能・機能を運転時と同じ高温高圧下で確認する温態機能試験が完了。同炉の機器・設備が運転と安全性に関する要件を満たしていることが確認された。8月からは燃料集合体の初装荷を始めとする設備の起動段階に移行しており、今月11日に同炉は核分裂反応を安定した状態に維持するのに必要な1%未満の出力「最小制御可能出力(MCP)レベル」に到達、同炉の物理特性が設計要件に適合していることが確認された。 同発電所ではこのほか、6月に2号機で機器・配管を洗浄する作業が始まった。建屋に機器や設備を据え付ける最終段階に行われる作業で、動的と静的両方の安全系を化学的に脱塩した水で洗浄。安全系のみならず通常運転システムのポンプについても操作性がチェックされ、一次系で静水圧試験などを実施する準備が始まるとしている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
28 Oct 2020
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米国で約30年ぶりの新設計画として、ジョージア州でA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(各110万kWのウェスチングハウス社製「AP1000」)を建設中のジョージア・パワー社は10月19日、3号機の冷態機能試験を完了したと発表した。これにより、同炉の建設工事は残っている温態機能試験の実施と燃料の初装荷に向けて大きく前進。建設進捗率が約94%となったほか、3、4号機全体の進捗率も約88%に到達した。規制当局から承認を受けた両炉の完成予定年月はそれぞれ2021年11月と2022年11月だが、ジョージア・パワー社は今年2月、完成スケジュールに余裕を持たせるための「挑戦的作業計画」を進めることにより、3号機は2021年5月に、4号機は2022年3月(※この後、同年5月に変更)に完成させることも可能だとした。しかし、同社の親会社であるサザン社の発表によると、新型コロナウイルスによる感染の影響や一部作業の遅れによりジョージア・パワー社は10月22日、「承認を受けた完成予定年月までに両炉を完成させるため、挑戦的作業計画を建設サイトの現状に合わせた作業計画に変更する」と発表。改訂スケジュールでは、3号機の温態機能試験は2021年1月に開始する予定だが、遅い場合は3月末に開始する。同年4月に予定している燃料の初装荷も遅ければ同年の半ばにずれ込むとした。また、4号機については挑戦的作業計画を引き続き実行するものの、完成年月は現行予定から一か月調整して2022年6月になる見込みとしている。3号機の冷態機能試験でジョージア・パワー社は一次冷却系と関連機器の設計性能を確認し、溶接部や接合部、配管、その他の機器に加えて、高圧システムでリークが発生しないことなどを検証した。原子炉冷却ポンプ(RCP)についても最初の一台を起動し、設計機能を確認している。同社のP.バウワーズ会長・社長兼CEOは、「米国で約30年ぶりとなる新規原子炉の運転開始に向けて、3、4号機の作業は着々と進展中だ」と強調。冷態機能試験が完了したことで、同プロジェクトでは3号機に燃料を初装荷する準備が整ったほか、CO2を出さないクリーンエネルギーを顧客や地元州に、60年から80年間供給できる電源の完成にまた一歩近づいたとしている。ボーグル3、4号機建設計画ではこのほか、両炉の運転を担当することになる運転員と上級運転員62名に対して原子力規制委員会(NRC)が運転員ライセンスを発行した。(参照資料:ジョージア・パワー社とサザン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Oct 2020
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中国核工業集団公司(CNNC)は10月22日、世界初の「華龍一号」設計として2015年5月に本格着工した福建省の福清原子力発電所5号機(115万kWのPWR)が、21日の午後3時過ぎに初めて臨界条件を達成したと発表した。これにより同炉は正式に運転可能な状態に移行、年末までの営業運転開始に向けて重要な節目になったとしている。同炉では今年3月に温態機能試験が終了し、9月4日に生態環境部(省)が運転許可を発給。その日のうちに燃料の装荷作業が開始され、同月10日には177体すべての燃料集合体の装荷が完了した。今後は同炉を送電網に接続するのに先立ち、様々な起動試験が行われる。同発電所ではまた、5号機から7か月遅れで着工した6号機でも「華龍一号」を採用しており、CNNCは「同設計を採用した国内外のプロジェクトは、安全性や品質などの点で順調な建設作業が進展中だ」と強調している。「華龍一号」はCNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代設計「ACP1000」と「ACPR1000+」を統合して開発され、主要技術と機器の知的財産権は中国が保有。CNNCの福清5、6号機建設計画、およびCGNが2015年12月と2016年12月に広西省の防城港原子力発電所で開始した3、4号機(各118万kWのPWR)建設計画は、それぞれのバージョンの「華龍一号」を実証するプロジェクトと位置付けられている。CNNCはこのほか、福建省の漳州原子力発電所1、2号機に同設計を採用すると決定。2019年10月に国内5基目の「華龍一号」として1号機(115万kWのPWR)を本格着工した。またCGNも、同年12月に同設計を採用した恵州太平嶺原子力発電所1号機(115万kWのPWR)を広東省で着工している。国外では、パキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機(各110万kWのPWR)にCNNCバージョンの同設計が採用され、それぞれ2015年8月と2016年5月から建設工事を実施している。これらは同設計の輸出案件としては初のものとなったが、中国はパキスタンですでに稼働中の原子炉5基のうち、4基の建設プロジェクトを支援した。カラチ2号機については今年9月初旬に温態機能試験が完了、同炉と3号機の営業運転はそれぞれ2021年と2022年に開始すると見られている。同設計はさらに、英国でEDFエナジー社が建設するブラッドウェルB原子力発電所(英国版の「華龍一号」×2基、合計出力220万kW)にも採用が決まっており、原子力規制庁(ONR)が2017年1月から同設計の包括的設計審査(GDA)を実施中。同建設計画ではCGNが66.5%出資するなど、主導的役割を担うことになっているが、これはEDFエナジー社とCGNが2015年10月、ヒンクリーポイントC原子力発電所建設計画への共同投資で合意した際に決定した。CGNはその際、サイズウェルC原子力発電所建設計画に対しても、20%の出資を約束している。(参照資料:CNNCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Oct 2020
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カナダ連邦政府イノベーション科学産業省のN.ベインズ大臣は10月15日、オンタリオ州の技術企業テレストリアル・エナジー社による「小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)」開発を加速するため、「戦略的技術革新基金」から2,000万カナダドル(約15億9,000万円)を投資すると発表した。同社が開発した最先端のSMR技術はカナダの環境・経済に大きな利益をもたらすと見込まれており、投資はその商業化を支援する重要ステップになると説明している。 テレストリアル社のIMSRは第4世代のSMR設計で、電気出力は19.5万kW。同社はIMSRの最初の商業用実証炉をカナダで建設した後、同社の米国法人を通じて北米その他の市場で幅広くIMSRを売り込む方針である。現在、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が同国の規制要件に対するIMSRの適合性を「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」で審査中であるほか、米原子力規制委員会(NRC)に対しては、将来的に設計認証(DC)審査を受ける考えだと表明済み。米国法人は2020年代後半にも米国・初号機を起動できるよう、米エネルギー省(DOE)から財政支援を受けながらNRCと許認可手続き前の準備活動を進めている。カナダ政府の発表によると、原子力および原子力安全分野の世界的リーダーであるカナダは、安全で信頼性の高い小型モジュール炉(SMR)の開発においても世界を牽引していく方針である。同国が2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指す上でSMRは重要な役割を果たすと期待されており、新型コロナウイルスによる大規模感染から復活する際も経済的恩恵が得られるとしている。テレストリアル社はIMSRの開発プロジェクト全体で6,890万加ドル(約54億8,700万円)を投入する方針だが、このほかに少なくとも9,150万加ドル(約72億8,700万円)を研究開発費として支出中。カナダ政府による今回の投資金は、同社がIMSRでベンダー審査を完了する一助になると指摘している。カナダ政府の見通しでは、テレストリアル社は今後、カナダの原子力サプライチェーンで千人以上の雇用を生み出し、STEM(理数系)分野で数多くの女性が登用されるよう男女平等・多様化イニシアチブを推進していく。IMSRプロジェクトによって高度なスキルを持つ労働力が構築され、将来の技術革新と経済成長の重要要素となる新しい基盤技術研究を加速。この結果、カナダ政府が進める「技術革新とスキル計画」は推進力を増すことになる。カナダ政府はまた、同プロジェクトでSMR技術をカナダやその他の世界中で開発・建設していくための長期ビジョン「カナダのSMRロードマップ」が後押しされると説明。SMRの設計・開発が様々な規模で進められており、将来的には遠隔地域で使用されているディーゼル発電機を一掃したり、化石燃料を多用するカナダの重要な産業部門に競争力をもたらす可能性があるとしている。(参照資料:カナダ政府、テレストリアル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Oct 2020
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米エネルギー省(DOE)は10月13日、国内原子力産業界による先進的原子炉設計の実証を支援するため、今年5月に開始した「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で、初回の支援金1億6,000万ドルの交付対象となる米国企業2社を発表した。選ばれたのは、ビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力開発ベンチャー企業で「ナトリウム冷却高速炉」を開発中のテラパワー社と、小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」を開発しているX-エナジー社である。ARDPはこのような先進的原子炉設計を7年以内に運転可能とすることを目指す官民のコスト分担型パートナーシップで、DOEはこれら2社が実証炉を建設するための支援金としてそれぞれに2020会計年度予算から8,000万ドルずつ交付する。DOEが約7年間に投資する総額は、同省の今後の予算確保や産業界のマッチング・ファンド適用状況にもよるが、約32億ドルに達する見通しである。DOEのD.ブルイエット長官は初回の支援金授与について、「次世代原子力技術における米国のリーダーシップ強化を目的としたARDPの重要な最初のステップになる」と表明。このような連携により、「米国のクリーン・エネルギー戦略で重要な役割を担う先進的原子炉の開発に、DOEの投資を最大限に活かすことができる」と述べた。今回のプログラムでテラパワー社は、パートナー企業のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と数10年にわたって蓄積してきた「ナトリウム冷却高速炉」の技術を実証する計画。同炉が運転時に生み出す高温は、熱エネルギーの貯蔵技術との組み合わせで、発電所の電気出力を容易に調整することが可能であり、太陽光や風力など出力が変動しやすい再生可能エネルギー源を補うことになる。同プロジェクトではまた、この設計用の金属燃料製造施設も新たに建設する。X-エナジー社は「Xe-100」4基で構成される原子力発電所の商業化を目指しており、柔軟に変更できる同設計の電気出力とプロセス熱は、海水脱塩や水素生産などの幅広い分野に適用が可能。同プロジェクトでも、「Xe-100」に使用する3重被覆層・燃料粒子「TRISO」の製造施設を商業規模で建設することになっており、DOEの支援金はそのために活用される。DOEによると、どちらのプロジェクトも安全性が向上する一方、手頃な価格で建設・運転が可能という設計上の特長を備えている。このため、世界的に高い競争力を持つ先進的原子炉を米国が建設していく道が開かれるとしている。なお、ARDPではこのような①「先進的原子炉の実証」に対する支援のほかに、②「将来的な実証に向けたリスクの削減」、③「先進的原子炉概念2020(ARC20)」という支援ルートも設定している。②の対象は2~5件で、商業化を目指す期間は①より約5年長い。対象技術の将来的な実証に向けて技術面や運転面、規制面の課題解決を目指す。③については2030年代半ばの商業化を目標に、革新的概念に基づく様々な設計の開発を支援するとしている。今回の①に対する継続的な支援は、議会でARDPに追加予算が充当され開発プログラムが順調に進展中との評価を受けた後、DOEが支援の継続申請を承認すれば実施に移される。②に対する2020会計年度から、候補プロジェクト5件のうち2件に対してDOEが合計3,000万ドルを支援する。③では少なくとも2件に対し合計2,000万ドルを交付。DOEが対象設計を発表するのは②、③どちらも今年の12月になる予定である。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Oct 2020
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米エネルギー省(DOE)は10月19日、ポーランドの民生用原子力発電開発プログラムに協力するため、同省のD.ブルイエット長官が両国の政府間協力協定に署名したと発表した。この署名は同日、ブルイエット長官がポーランドのP.ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官と協議した後に行われたもので、両国がエネルギー関係で30年間という長期の協定を結ぶのは初めてとなる。調印された文書は今後ポーランドのワルシャワに送られ、今週後半にもナイムスキ特任長官側が署名、双方が発効要件すべてを満たしたと確認する外交文書を交わした後、正式発効する。ポーランドの原子力発電開発プログラムに対する米国の協力は、今年6月にポーランドのA.ドゥダ大統領がホワイトハウスを訪問した際、ポーランドによる米国産LNGの輸入拡大などとともにD.トランプ大統領との共同声明に盛り込まれていた。同協定では今後18か月以上にわたり、ポーランドの原子力発電プログラムを実行に移す方策や必要となる資金調達方法について、両国が協力して報告書を作成すると規定。この報告書は、米国が今後原子力発電所の建設パートナーとして長期にわたってポーランドのプログラムに関与し、ポーランド政府が国内で原子力発電所の建設加速に向け最終判断を下す際の基盤となる予定である。同協定ではまた、関係企業への支援や規制、研究開発、人材訓練などで政府が主導する両国間の協力分野を特定。欧州でのプロジェクト等に共同で協力していくため、サプライチェーンの構築や原子力に対する国民の意識を高めることなどが明記された。DOEの発表によると、D.トランプ大統領はポーランド国民に対してエネルギーの供給保証を約束。「ポーランドやその近隣諸国が、(ロシアのような)唯一の供給国からエネルギーを人質に取られることが二度とないよう、代替エネルギー源の利用を保証する」と明言した。今回の協定は大統領のこの約束を果たすためのものであり、具体的にはエネルギー関係でポーランドとの戦略的パートナーシップを強化し、ポーランドのエネルギー・ミックスを多様化、高圧的な供給国に対するポーランドの依存度を下げるとしている。ポーランドでは今月初旬、複数年にわたる同国の改定版原子力開発プログラムを内閣が承認しており、第3世代あるいは第3世代+(プラス)のPWRを600万~900万kW分、建設することを確認。同プログラムを提出した気候・環境省のM.クルティカ大臣は「2033年に初号機を運転開始した後は、2~3年毎に後続の原子炉を起動していき2043年までに6基の建設を終えたい」と述べていた。DOEのブルイエット長官は今回、「ポーランドが国家安全保障と民主主義的主権を維持していく際、米国はともに協力する」と強調。エネルギーの供給保証で重要な点は、燃料やその調達源、供給ルートを多様化することだとトランプ政権は信じており、原子力はポーランド国民にクリーンで信頼性の高い電力を提供するだけでなく、エネルギーの多様化と供給保証の促進をも約束すると述べた。次世代の原子力技術は、米国が欧州その他の地域の同盟国とエネルギー供給保証について協議する上で、欠くべからざるものだと表明している。ポーランドのナイムスキ特任長官も、今回の協定はクリーン・エネルギーのみならず、その供給保証も視野に入れたものであり、ポーランドは一層幅広い状況の中で今回の戦略的協力を捉えていると指摘。同協定は「地政学的安全保障と長期的な経済成長、技術の進展、およびポーランドにおける新たな産業部門の開発につながる」としている。(参照資料:DOE、ナイムスキ戦略エネルギー・インフラ特任長官(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Oct 2020
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仏国のフラマトム社と米国のジェネラル・アトミックス・エレクトロマグネティック・システムズ(GA-EMS)社は10月13日、GA-EMS社の技術に基づくモジュール式の小型ヘリウム冷却高速炉(FMR)を共同で開発することになったと発表した。安全性と操作性を高めた電気出力5万kWの FMRはCO2を排出しないだけでなく、工場で製造し現地で組み立てることで建設費の大幅ダウンと、出力の段階的増強を実現できるという。フラマトム社の米国エンジニアリング・チームは、いくつかの重要構造物とシステム、および機器について設計を担当。GA-EMS社が主導する両社のチームは、2030年初頭にもFMRの設計、製造、建設および運転に関する技術を実証し、2030年代半ばまでに商業建設するとの見通しを明らかにしている。GA-EMS社のS.フォーニー社長は「フラマトム社とともに、安全かつコスト面の効率性が高く出力の拡張縮小が可能な原子炉を設計する」との抱負を表明。両社が先進的原子炉技術で数10年以上にわたり蓄積してきた経験を統合し、米国が必要とするクリーン・エネルギーを将来的に確保していきたいと述べた。フラマトム社のB.フォンタナCEOも「今回の協力は、後の世代のためにクリーンな世界を創造するという先進的原子力技術の開発で、GA社とこれまで築いてきた長期的連携の下で進める」とコメント。先進的原子炉や小型モジュール炉(SMR)のシステムや機器の設計で両社が獲得した経験と専門的知見を通じて、このようなビジョンの実現につなげたいと述べた。両社の発表によると、FMRでは再生可能エネルギー源の出力変動にともなう負荷追従運転への迅速な対応、全体的に高度な効率性を備えた原子炉設計を目指している。受動的安全性を備えるとともに、冷却材として化学的に不活性で爆発や腐食のない無害なヘリウムを使用。運転する際に水を必要としないため、事実上ほとんどすべての場所に立地できるとした。また、エネルギーを電力に転換する時、構造の複雑な蒸気発生器や加圧器を使用しないのでコストが抑えられ、燃料交換は約9年間不要である。ガス・タービンには「直接ヘリウム・ブレイトンサイクル」を採用したことから送電網へのレスポンスが早く、発電機の出力変化速度(ランプ速度)は最大で毎分20%、通常運転時の全体的な効率性も45%と高い。さらに、原子炉出力の自動制御とターボ機器によって炉内温度が一定に保たれ、負荷追従運転にともなう熱サイクル疲労も影響緩和が可能だとしている。(参照資料:フラマトム社、GA社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Oct 2020
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スウェーデンの原子力発電所から出る使用済燃料について、最終処分場の建設が予定されているエストハンマルの自治体は10月13日、議会で実施した票決により同処分場の立地と建設を受け入れると改めて表明した。同処分システムの一部となる集中中間貯蔵施設とその中の使用済燃料をキャニスターに封入する施設(CLINK)の建設についても、サイトとなるオスカーシャムの自治体が2018年6月に同様の票決を実施。建設承認を表明済みであり、後はスウェーデン政府による建設許可発給の最終判断を待つのみとなった。スウェーデンでは地下500mの結晶質岩盤に使用済燃料を直接処分することになっており、放射性廃棄物処分事業の実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)は2009年6月、最終処分場の建設でフィージビリティ調査を実施した自治体の中から、エストハンマルにあるフォルスマルク原子力発電所の近接エリアを建設サイト候補に決定。2011年3月には、同処分場を立地・建設するための許可申請書を放射線安全庁(SSM)等に提出した。SSMが原子力法に照らしてこの申請の安全面や放射線防護面を審査する一方、国土環境裁判所は環境法に照らして環境影響面の審査を実施。SSMは2018年1月、処分場の建設許可を発給するようスウェーデン政府に勧告する最終見解を表明していた。エストハンマル自治体の今回の票決は環境法に規定された拒否権の行使に関するもので、政府がこの種の施設の建設で許可を発給する前に、自治体は拒否権を行使する可能性について確認することになっている。13日の票決では、エストハンマルの自治体議員のうち38名が建設を支持する一方、7名が反対、3名が棄権していた。同自治体は1995年にフィージビリティ調査を受け入れて以降、25年以上にわたって建設サイトの選定プロセスに積極的に参加しており、処分場の立地にともなう社会的影響や処分技術の開発動向など幅広い分野の学習を続けている。同自治体が処分場建設に同意したことについてSKBは、「歴史的な決定であり、政府からは出来るだけ早急に回答を受け取りたい」と表明。処分場建設に向けた政府の判断は、スウェーデンの環境保全上最も重要かつ最大規模のプロジェクトの出発点となり、約190億クローナ(約2,250億円)の投資をもたらすとともに約1,500名分の雇用機会が創出されるとしている。(参照資料:エストハンマル自治体(スウェーデン語)、SKBの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Oct 2020
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