英国のロールス・ロイス社は12月7日、同社の民生用原子力発電所用の計装制御(I&C)系事業を仏国のフラマトム社に売却する合意文書に調印したと発表した。この合意に含まれるのは、仏国のグルノーブルとチェコのプラハ、および中国の北京と深セン(センは土へんに川)におけるI&C系事業の全活動と担当チームで、対象となる従業員の総数は550名。同事業による2019年の収益は9,400万ユーロ(約118億4,500万円)にのぼっている。英国内の民生用原子力事業や小型モジュール炉(SMR)の開発事業は、今回の売買の対象外。英国内の雇用に影響が及ぶことは全くなく、同社は今後も引き続き英国で低炭素な電力の供給に尽力すると強調している。発表によると、この合意は今年8月に同社が公表した事業のさらなる簡素化戦略の一環であり、その他事業の売却益も含め、少なくとも20億ポンド(約2,778億円)以上を捻出する方針。新型コロナウイルス感染の世界的広がりにより、同社の民間航空部門はかつてない規模の打撃を被っており、同部門の再建と財政立て直しが同社にとって最大の急務となっている。今回の合意はまた、通例通り規制上の承認等を得る必要があるため、売却手続きが完了するのは2021年の半ば頃を予定。それまでは両社の事業はともに独立性を保ち、通常の経営が行われる。一方のフラマトム社は、この合意を通じてエンジニアリング関係の専門的知見を深め、I&Cシステムの製造能力を拡充する戦略である。同社の発表によると、原子力発電所の中枢神経であるI&C系は原子炉制御をつかさどっており、同社はロールス・ロイス社の製品や技術を取り入れて、原子力発電所の重要な安全機能をすべて統合。ロールス・ロイス社の技術はすでに世界中で稼働する150の原子力発電所に採用されているが、フラマトム社としては顧客の中でも特に、仏国の原子力発電所に優れた製品を提供していく考えである。なお、中国関係観測者によると、中国はこれまでに導入、あるいは独自開発した原子力発電所に諸外国メーカーのI&C系技術を採用。中国国内の関連企業を通じて、I&C系技術を吸収し国産化を進めてきた。フラマトム社は中国の原子力開発利用黎明期から協力関係にあったことから、中国は同社からもI&C系のノウハウを吸収し、世界のI&C系技術開発で先頭に立つ戦略とみられる。(参照資料:ロールス・ロイス社、フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Dec 2020
2183
米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は11月30日、米原子力規制委員会(NRC)が同社製小型モジュール炉(SMR)の「BWRX-300」について実施している先行安全審査で、最初の許認可トピカル・レポート(LTR)に対する最終安全評価報告書(FSER)が発行されたと発表した。米国で開発中のSMRについては、今のところニュースケール・パワー社製のSMRについてのみ、設計の本格的な許認可プロセス「設計認証(DC)審査」が行われている。GEH社は未だ、同審査をBWRX-300で申請していないが、LTRは多くの許認可申請に共通する安全審査事項をまとめた技術文書であり、顧客となる電気事業者が後日、当該設計を選定して予備的安全解析書(PSAR)を作成・提出する際の基礎的文書になる。BWRX-300の先行安全審査でGEH社は、設計の飛躍的な簡素化を実現した原理について2019年12月に最初のLTRをNRCに提出した。今年初頭に後続のLTRを2件提出した後は、4件目のLTRを今年9月に提出。2件目と3件目については、今後数か月以内に審査が完了すると同社は予想している。BWRX-300では、すでに2014年にDCを取得した同社製「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」から多くの技術を流用しているため、GEH社は今回のLTRによってBWRX-300の商業化に向けて審査がさらに進展すると強調。2020年代後半にも最初のBWRX-300の運転を開始するため、今後も集中的に作業を進めていく考えである。GEH社によるとBWRX-300は出力30万kWの軽水冷却式SMRで、ESBWRにも採用した受動的安全系を装備。自然循環技術等により冷却水を制御する仕組みで、設計を簡素化したことでMWあたりの資本コストはその他の軽水冷却式SMRや大型原子炉と比較して大幅に低下した。また、すでに認可が得られた燃料設計や技術的に実証済みの機器、サプライチェーンなどを活用しているため、BWRX-300はGE社が1955年に原子炉を商品化して以降、最もシンプルで革新的な技術を用いたコスト面の競争力も備えた設計になる。同設計については、これまでにバルト三国のエストニアやポーランドのエネルギー企業、チェコの国営電力会社などが、それぞれの国内で建設の可能性を探ると表明。いずれもCO2排出量の実質ゼロ化やエネルギーの自給等で新世代のSMR技術に期待を抱いており、BWRX-300のほか複数のSMR設計について同様の活動を行っている。 (参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
07 Dec 2020
4485
スウェーデンの電力大手バッテンフォール社は11月30日、エストニアの新興エネルギー企業「フェルミ・エネルギア社」が国内で進めている小型モジュール炉(SMR)導入計画への協力強化に向け、同社と基本合意書を交わしたと発表した。バッテンフォール社は過去数年間にわたり、SMR建設に向けたフェルミ社の実行可能性調査に参加してきた。近年世界では、ますますSMRへの期待が高まりつつあることから、バッテンフォール社は欧州でSMR建設イニシアチブを成功させたいとするフェルミ社への協力を今後さらに強化。具体的には、原子力発電所の建設や資金調達、発電所スタッフとSMR運転員の教育訓練を含む人的資源開発、サプライチェーン開発などで同社の経験を提供。個別の作業分野で一層調査を掘り下げていき、フェルミ社がSMR建設計画を申請しエストニア議会がこれを「原則決定」するまで支援を続ける考えである。バッテンフォール社はこの協力を通じて、SMR技術の成熟度や1基以上のSMRをエストニア国内で建設する可能性などを検証。同社以外にも、このイニシアチブには複数の欧州企業が参加しているため、「参加企業すべてが実用的なSMR技術についての洞察を深め、それぞれにとって貴重な経験となるようにしたい」と述べた。バッテンフォール社によると、発電をオイル・シェールなどの化石燃料に依存するエストニアは、EU加盟国のなかでもkWh当たりのCO2排出量が最も多い。これに対してスウェーデンは、水力と原子力、および風力と太陽光を組み合わせた電力供給により、化石燃料による発電はほとんどゼロ。世界の中で排出量が最も低い国の一つであり、こうした事実がエストニアに協力する最大の背景になっていると説明した。一方のフェルミ社は、第4世代炉の導入を目的に、エストニア原子力産業界でSMR開発/建設を支持する専門家らが立ち上げた企業。2030年代初頭にも、欧州連合(EU)域内で初のSMR建設を国内で目指している。EUとしては、2025年末までに同国を含むバルト三国およびポーランドを旧ソ連の統合電力システムから切り離し、欧州24か国が共同管理する「大陸欧州送電網」に統合する方針。しかし、これらの地域がロシアからの電力輸入を停止する期限が迫っているため、フェルミ社はSMRの形で原子力発電を国内に導入し、EUが掲げる「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」の目標達成に貢献したいとしている。フェルミ社のK.カレメッツCEOは、「SMRの高度な安全性とシンプルな設計、資本コストの低さは、エストニアにおける原子力導入を現実的なオプションにした」と指摘。このことは同国政府も認識しており、原子力の導入影響を評価するため、すでに国家作業グループの設置を決めた。同グループは年内にも初会合を開催して、来る2年間に行う作業の計画を作成。諸外国の専門家の支援も得ながら、エストニアの確実なエネルギー供給保証にとり原子力発電の導入が適切であるか分析する。同社はまた、これまでに実施した調査結果に基づき、エストニア国内の2つの自治体とSMRの受け入れ条件に関する協議を正式に開始した。首尾よく進展すれば、自治体は政府の正式な選定プロセスの下で「国家指定国土形成計画(NDSP)」に組み込まれ、適切なサイトの選定に向けて戦略的環境影響声明書(EIS)などが作成される。エストニアのSMR導入計画には、すでにフィンランドの国営電気事業者フォータム社やベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業トラクテベル・エンジー社が協力中。このほかフェルミ社は、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や英国のモルテックス・エナジー社などとも協力覚書を締結しており、それぞれが開発したSMRの建設可能性を探るとしている。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Dec 2020
2116
インド原子力規制委員会(AERB)は11月27日、インド北部ハリヤナ州のゴラクプールで、1、2号機(各70万kWの国産加圧重水炉)を建設するためのコンクリート打設実施を認めたと発表した。この許可は、同月18日付けで発給済みとなっている。ゴラクプールはハリヤナ州では初の原子力発電所立地点で、インド原子力発電公社(NPCIL)は最終的に、70万kWの加圧重水炉(PHWR)を4基建設する計画。インド内閣はこれらも含め、4サイトで合計10基の70万kW級国産PHWRを新たに建設することを2017年5月に決定した。NPCILがゴラクプールで2014年1月に起工式を開催した後、AERBは2015年7月に4基分の立地許可を発給。2018年1月には最初の2基(1、2号機)について掘削工事の実施を許可しており、NPCILは同年3月から掘削工事を開始していた。発表によると、デリー首都圏から北西170kmのゴラクプールは地質が柔らかい沖積土であるため、NPCILは地質工学的調査や地震関係の調査を詳細に実施した。地盤の改良工事が完了した後は、気象学的なパラメーターを収集・記録中。ゴラクプール1、2号機はまた、今年7月に初めて臨界に達したカクラパー3号機(70万kWのPHWR)と同様の設計になるとしている。一方のAERBは、複数階層で構成される安全関係の委員会を通じて、建設計画が安全規定要件に適合しているか審査した。特に土木建築工事や1、2号機の安全性関係の設計、およびレイアウトの変更などに集中したと説明している。なお、AERBは同日、70万kW級国産PHWRの新規建設で閣議決定した4サイトのうち、インド南西部の既存のカイガ原子力発電所について、5、6号機(各70万kWのPHWR)の立地許可を11月18日付けで発給したと発表した。同発電所では出力22万kWのPHERが4基稼働中だが、5、6号機の設計とレイアウトはゴラクプール1、2号機と同じものになる。この安全審査でAERBは、通常運転時や事故発生時に放射性物質が放出される可能性を集中的に評価したほか、サイト特有の人的要因や自然発生的な外部要因の影響を評価。これらはすべて許容可能であり、AERBの他の安全規定要件もすべて満たされているとしている。(参照資料:AERBの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Dec 2020
2485
中国核工業集団公司(CNNC)は11月27日、世界で初めて国産第3世代炉「華龍一号」を採用した福清原子力発電所5号機(115万kWのPWR)を同日未明に送電網に接続し、初めて送電したと発表した。これにより、CNNCは「諸外国による原子炉技術(市場)の独占状態を打ち崩し、中国は正式に原子力技術先進国の仲間入りを果たした」と表明。原子力大国から原子力強国への飛躍を実現する重要な節目になったとし、同炉の輸出促進で習近平国家主席が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」が一層強化されると強調している。「華龍一号」はCNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代PWR設計「ACP1000」と「ACPR1000+」を一本化して開発され、主要技術と機器の知的財産権は中国が保有。CNNCの発表によると、同設計では炉心の出力密度を下げて安全性の改善を図っているほか、設計上の運転期間は60年を想定している。輸出用主力設計としての海外への売り込みも積極的で、CNNCとCGNは2016年1月22日、「華龍一号」の国際展開を促進するため、登記資本金5億元(約78億円)の合弁事業体「華龍国際核電技術有限公司」を設立した。「華龍一号」の実証炉プロジェクトと位置付けられた福建省の福清5、6号機建設工事は、2015年5月と12月にそれぞれ始めており、5号機では今年3月に温態機能試験が完了。9月初旬に177体の燃料が装荷された後、10月下旬には初めて臨界条件を達成していた。中国国内では今年8月、田湾5号機(111.8万kWの「ACP1000」)が送電開始したことから、福清5号機はこれに次いで年内にも中国49基目の商業炉となる見通しである。福清5、6号機に続く「華龍一号」採用炉としては、中国国内でさらに5基(防城港3、4号機、漳州1、2号機、太平嶺1号機)、およびパキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機が建設中である。作業においては安全性や品質ともに厳しい管理下に置かれているとCNNCは強調。2015年と2016年に本格着工したパキスタンの2基は、それぞれ2021年と2022年に営業運転を開始するとみられている。また、英国でもブラッドウェルB原子力発電所建設プロジェクトへの採用が決まっており、同設計の英国版「UK HPR1000」を原子力規制庁(ONR)が2017年1月から包括的に審査中。2021年後半にも、設計承認確認書(DAC)が発給されると見られている。(参照資料:CNNCの発表資料(英語版)と(中国語版)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Dec 2020
3022
英国政府の財務省は11月25日、「国家インフラ戦略-より公平、迅速かつ環境に優しく」を公表し、英国が国家としてレベルアップを図るとともに連合王国としての結束を強め、2050年までにCO2排出量実質ゼロに移行するためのインフラ計画を明らかにした。この中で原子力発電については、「実証済みの技術を用いた費用対効果の高い電源であり、再生可能エネルギーの補完も可能な信頼性の高い低炭素電源」と説明。今月18日に公表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」にも明記したように、英国政府は今後、大型原子炉建設や先進的原子力研究開発への投資に最大で5億2,500万ポンド(約728億円)投入すると約束している。発電部門のインフラ戦略財務省は、英国全体のCO2排出量のうち発電部門の排出シェアが過去10年間に27%から12%まで減少したことに触れ、主な成功要因は再生エネ源の拡大と石炭火力発電所の削減だったと指摘。民間部門による投資が再生エネの発電コストを大幅に低下させる一方、数多くの補助金制度や市場改革が再生エネへの投資を着実に増加させたとした。2014年以降、30%だった石炭火力への依存度も1%以下に下がっており、英国は2050年までに石炭火力発電所の全廃を目指す方針である。英国政府はまた、脱炭素化を進めるにあたり、これまで通り電力の安定供給を最優先事項としており、この世代初の原子力発電所となるヒンクリーポイントC発電所(172万kWのPWR×2基)を建設中。今世紀後半に運転が開始されれば、低炭素で信頼性の高い電力を年間約600万戸の世帯に供給するのとほぼ同量、発電することになる。財務省によれば、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、発電システムを事実上「CO2フリー」なものとし、輸送部門の電化等にともなう追加の電力需要に対処しなければならない。このために必要となる電力量の大部分を低コストな再生エネで供給することになるが、その間欠性を補うには一層信頼性の高い電源として、原子力や二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)、水素燃焼等の機能を持つ発電所が将来的に必要。このため英国政府としては、民間部門の資本投資が確実に継続されるよう保証するとしている。原子力発電今回の戦略の中で、財務省はこれまで長い間、原子力が発電部門で重要な役割を果たしてきたと明言。一定期間内や予算内での建設が可能なら、原子力は今後も同様の役割を果たし続けるし、ヒンクリーポイントC原子力発電所では、パンデミックの最中も新たな作業環境の下で建設工事が続けられている。英国政府としては、電力消費者や納税者にとって明らかに費用対効果が高く、関係する承認すべてが得られることを条件に、大規模な原子力プロジェクトを進めていく。「10ポイント計画」では今後、大型原子炉や先進的原子力研究開発に大規模な投資を行うが、このうち最大3億8,500万ポンド(約534億円)は、小型モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)の開発に向けた「先進的原子力基金」に投入することになる。英国政府はまた、新規原子力発電所建設プロジェクトに対する資金調達で、「規制資産ベース(RAB)モデル」の実行可能性調査の結果を昨年、パブリック・コメントに付した。現在はコメントへの対応を取りまとめているところで、近いうちに報告書として公表する予定。RABモデルの検討と同様、英国政府は引き続き建設期間中に英国政府が財政支援する可能性を検討していくが、ここでも明確な費用対効果の高さが条件になるとしている。(参照資料:英財務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Nov 2020
1716
トルコでアックユ原子力発電所(120万kWのロシア型PWR=VVER×4基)の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は11月18日、トルコの規制当局が13日付で同社のトルコ子会社であるアックユ原子力発電会社(ANPP)に3号機の建設許可を発給したと発表した。ANPP社は2019年3月、原子力規制庁(NDK)に同許可の申請書を提出していた。発給が決定したことで、同炉では原子炉建屋など安全性に関わる部分の作業も含め、関係施設すべての建設工事が可能になった。これまでANPP社は、今年7月に取得した部分的建設許可(LWP)の下、原子炉建屋やタービン建屋のベースマット下部に敷くコンクリート・パッドの作業等を実施。NDKは3号機の建設許可審査を進めるなかで、質問その他の追加要請を同社に行ったが、同社はこれに応えつつ膨大な量の準備作業を行っていた。トルコ初の原子力発電プラントとなる同発電所では、第3世代+(プラス)のVVERを4基建設する計画。現在、1、2号機の本格的な建設工事が、それぞれ2018年4月と2020年4月から行われている。1号機については今年10月、4台の蒸気発生器が現地に到着したのに続き、今月10日には、ロシアのアトムエネルゴマシ(AEM)社(AEMテクノロジー社のボルゴドンスク支部)が約3年かけて製造した原子炉圧力容器(RPV)が到着した。2号機については、今年6月に原子炉建屋のベースマットが完成したほか、8月にはコア・キャッチャーが到着している。これまでに、1~3号機すべてで環境影響評価報告書の承認や発電許可、建設許可といった主要認可が発給され、4号機についてもANPP社が今年5月に建設許可申請書をNDKに提出した。トルコ・エネルギー・天然資源省(ETKB)のF.ドンメズ大臣は、トルコが建国100周年を迎える2023年に1号機が運転開始することを希望しており、2号機に関しても同年中に起動させたい考えである。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
27 Nov 2020
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インド駐在の米国大使館は11月24日に米印両国の共同声明を発表し、両国がインドの「世界原子力パートナーシップ・センター(GCNEP)」について10年前に締結した協力覚書を、10年間延長することで合意したことを明らかにした。同覚書の延長は、10月27日にインドのニューデリーで第3回米印外務・防衛担当閣僚会議(米印2プラス2)が開催された際に決定した。この協議にはインドのS.ジャイシャンカル外相、米国のM.ポンペオ国務長官が両国の国防大臣とともに出席。協議のなかで両国は、「原子力の平和利用分野に関する協力のための米合衆国政府とインド政府との協定」が2008年10月に正式発効し、これに基づいて米国籍のウェスチングハウス(WH)社がインド東海岸のアンドラ・プラデシュ州コバダで同社製AP1000を6基建設することなったという事実に触れた。このことから両国政府は、WH社とインド原子力発電公社(NPCIL)との間で技術的な商業提案に向けた協議の進展を期待すると述べた。GCNEPはインド原子力省(DAE)の後援により、2010年9月にインド北部のハリヤナ州に設置された原子力研究開発のための組織。正式に発足したのは2017年のことだが、GCNEPは原子力施設と放射性物質の効率的な監視や、核拡散抵抗性の高い先進的原子炉開発などのほかに、原子力・放射線利用分野の安全性向上に向けたマンパワー訓練などを目的としており、これらの分野毎に教育・訓練学校を5校備えている。今回の共同声明では、放射線源のセキュリティも含めた原子力安全確保の重要性に鑑み、両国は引き続き原子力安全セキュリティの問題に取り組むと表明。世界の原子力安全体制を一層強化し、包括的かつ持続可能なものにしていくと明記した。両国政府はまた、民生用原子力安全確保の分野で米印が連携強化する重要性を認識しており、両国国民および世界中の人々の利益を守る上で、米印の民生用原子力・放射線関係協力が大いに貢献していると改めて確認。こうした背景から、GCNEPにおける米印協力を10年間延長することになったと説明している。今後の協力については、これまでの協力実績に基づき両国は以下の点に力を入れると表明した。すなわち、・原子力安全セキュリティと原子力科学技術の研究開発促進に資する協力イニシアチブを、GCNEPの教育・訓練学校で推進する。・次世代技術など様々な先進的プロジェクトの協力を通じて、原子力・放射線セキュリティに関する相互理解を深め、その結果を国際的な場で分かち合う。・様々な見解を包括的に取り入れられるよう、両国の政府機関のみならず原子力・放射線セキュリティに関わるその他機関とも幅広く連携する。(参照資料:米国大使館とGCNEPの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Nov 2020
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南アフリカ共和国の国家エネルギー規制局(NERSA)は11月23日、原子力で将来的に250万kWの新規発電設備を建設するという計画について、ステークホルダーや一般国民の同意を得るため、コメント募集を開始した。書面によるコメントの受付は2021年2月5日までとなっている。この計画は、2019年10月の官報で公表された改定版の「2030年までの統合資源計画(IRP 2019)」に明記されている。南ア国内では今後、2,400万kW以上の石炭火力発電所が廃止されていくことから、2030年以降はクリーン・エネルギー源である原子力の新規設備をベースロード用電源として活用し、エネルギーの需給バランス維持と供給保証体制の改善を目指す。南ア唯一の原子力発電設備であるクバーグ発電所(97万kWのPWR×2基)では、2024年に1号機が40年の運転期間を満了するが、「IRP 2019」によれば、これら2基はその後も運転期間を延長して稼働させる。その上で、2030年以降の新規原子力設備の商業運転開始に備え、ロードマップの作成といった準備作業を直ちに開始する必要があると指摘。その折は複数の発電所を一度に建設するのではなく、モジュール方式で少しずつ無理のないペースで進めなければならないとしている。このため、鉱物資源・エネルギー相は今年8月、「2006年電力規制法」に基づいて新規原子力発電設備の建設実施を決め、NERSAに準備作業の開始を提案した。同相は同時に、建設プログラムの作成は鉱物資源・エネルギー省、その他の国家機関が担当すること、設備の調達プロセスについても、公正かつ透明性があり競争面とコスト面の効果もある入札手続を踏むことなどを提案している。この計画の実施についてはNERSAも同法の規定によりレビューすることになっており、コメントを収集した後は、ステークホルダーが意見表明できるよう、オンラインで公聴会を開催。最終決定となる前にこの計画が「2004年国家エネルギー規制法」その他の法規に適合しているか、NERSAとしての判断を下す。NERSAはまた、「2006年電力規制法」に掲げられた目標についても、確実な達成を追求する方針。それらは、効率的で効果的かつ持続可能な電力供給インフラを南アで適切に開発・運営する、電力のエンドユーザーや消費者によるエネルギー源の選択を可能にするため、電源間の競争を促進する、などとなっている。(参照資料:NERSAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Nov 2020
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ハンガリーでエネルギー関係プロジェクトの規制を担当する「エネルギー・公益企業規制庁(MEKH)」は11月20日、パクシュ原子力発電所II期工事(120万kWのPWR×2基)の建設計画を電力法に基づいて審査した結果、建設工事の実施を承認すると発表した。MEKHは主に、同計画が国内の送電システムに及ぼす影響について、パクシュII開発会社が今年10月に提出した申請書を審査していた。今回、電力供給網のセキュリティ面に問題が生じることはないと判断し、電力法の義務事項に照らし合わせた発電実施許可を19日付で発給したもの。同建設計画の安全面については、国家原子力庁(HAEA)が今年7月からパクシュII開発会社の建設許可申請書を審査中であり、2021年7月頃に最終判断を下すと見られている。 同計画についてパクシュII開発会社側は、「建設前サイト準備許可」が取得できれば2021年から地盤の準備工事を始められると予想。早ければ同年9月に主要建屋の建設許可を取得して、本格的な工事を開始する方針である。パクシュ原子力発電所では現在、I期工事の4基(各50万kWのロシア型PWR=VVER)が同国における総発電量の50%を賄っている。1980年代に運転開始したこれらの公式運転期間は30年であるため、運転期間を20年延長する手続きが4基すべてについて完了している。II期工事の2基は、最終的にI期工事の4基を代替することになっており、ハンガリー政府は2014年1月、ロシアと結んだ政府間合意に基づき、この増設計画をロシア政府の低金利融資で実施すると表明。両炉の設計には、第3世代+(プラス)の120万kW級VVERが採用されることになった。しかし同計画については、欧州委員会(EC)が欧州連合(EU)域内の競争法における国家補助規則との適合性などを審査したため、プロジェクトの実施は当初計画から少なくとも3年以上遅延している。2017年3月までにこれらすべてについて承認裁定が下されたことから、HAEAは同月、パクシュII開発会社に対してサイト許可を発給、同社は2019年6月から付属施設の建設といった準備作業を開始している。パクシュII開発会社によると、今回取得した発電実施許可は2基の本格着工に向けた重要ステップであり、これまでにHAEAから取得済みのサイト許可や環境許可、建設のための補助施設の建設許可と併せて、発電所建設に必要な要件になると説明している。(参照資料:パクシュII開発会社とMEKH(ハンガリー語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Nov 2020
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カナダ東部ニューブランズウィック(NB)州の州営電力であるNBパワー社は11月16日、英国籍のモルテックス・エナジー社および米国籍のアドバンスド・リアクター・コンセプツ(ARC)社がそれぞれ開発している小型モジュール炉(SMR)のNB州内での建設に向け、相互協力メカニズムである「SMRベンダー・クラスター」を同州で設立すると発表した。同クラスターの目的は、3社間で相乗効果が生まれるよう互いに協力しあうこと。NBパワー社とモルテックス社、およびARC社のカナダ法人(ARCカナダ社)は、これまでの協力関係を同クラスターで一層強化するため、同日付けで了解覚書を締結した。具体的には、製造技術・販売また技術教育での提携、関係取引への取組み、共通する研究開発活動などで協力するとしており、早ければ2030年にも、NBパワー社が同州で操業するポイントルプロー原子力発電所(71.2万kWのカナダ型加圧重水炉)の敷地内で、ベンダー2社それぞれのSMRの営業運転を始める方針。州内の原子力産業界が継続的に協力し合うことで、地球温暖化に対処するとともに州の経済成長に貢献、NB州民の生活改善にも役立てたいとしている。NBパワー社によると、次世代の原子力技術と言われるSMRでは様々なタイプの設計開発が進行中で、出力は最大でも30万kW程度。多様な用途に活用が可能であるほか、機器を建設サイトに輸送してその場で組み立てることもできる。また、従来の原子力発電所より規模が非常に小さいため、大量生産により価格が手頃になり、建設工事も容易となる。学界や科学技術関係のコミュニティにも恵まれたNB州には、複数のSMR建設が可能な原子力発電所が立地し原子力関係の専門的知見も支援基盤として根付いているなど、先進的SMRの開発推進に適している。こうした背景からNB州政府とNBパワー社は2018年7月、世界的水準のSMR開発と製造で同州がリーダー的立場を確立するため、90件もの申請の中からARC社とモルテックス社を選定し、SMR開発で協力することで合意。州内唯一の原子力発電設備であるポイントルプロー発電所内で、ARC社製SMR初号機の建設可能性を探るとしたほか、モルテックス社製SMRについても商業規模の実証炉を同発電所内で建設する方針を明らかにした。モルテックス社のSMRは、カナダ型加圧重水炉の使用済燃料を低コストで新燃料に変換するという「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」で、日中のピーク時には出力を2倍、3倍に増やすことも可能と言われている。一方、ARC社が開発中のSMRは、ナトリウム冷却・プール型高速中性子炉の「ARC-100」。米エネルギー省(DOE)傘下の国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」の技術に基づいており、金属燃料を使用する。NBパワー社の発表では、これら2つの設計では互いを補完し合う技術が採用されているが、どちらも受動的安全系を装備。また、方法は異なるものの、ともに使用済燃料の処分問題解決に役立つとしている。(参照資料:NBパワー社、モルテックス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Nov 2020
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英国のB.ジョンソン首相は11月18日付けの電子版フィナンシャル・タイムスに寄稿し、2050年までに英国内の温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロ化を目指して重要施策を10項目に絞り込んだ「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」を公表した。英国では2019年6月に、GHG排出量を2050年までに実質ゼロとするための法案が成立し、首相は「10ポイント計画」の当面する重要施策の一つとして新規原子炉の建設を約束。今回の計画では、大型炉のみならず小型炉モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)に至るまで、開発のための資金を政府が5億5,000万ポンド(約756億円)以上投資する方針を明らかにしている。「10ポイント計画」全体で、政府は民間部門の約3倍に相当する120億ポンド(約1兆6,500億円)の投資を計画しており、この支援により、地球環境の保全・修復に役立つ「緑の雇用」が約25万人分創出される。ジョンソン首相は同計画について、「雇用を促進し人々の生活様式を維持しつつ、GHG排出量の実質ゼロ化を達成するための『世界的ひな形』になる」と強調。同計画を実行することで、英国は緑の産業技術とそのための資金調達で世界の模範的先駆者となるとした。同首相はまた、GHG排出量の実質ゼロ化を牽引するタスク・フォースを設立するとしている。同計画の中で、先進的原子炉の新規建設は3番目のポイントとして挙げられており、政府はその中で、輸送部門や熱供給部門における低炭素電力の需要が増大し、英国の電力供給システムは2050年までに2倍の規模に成長・拡大すると予想。原子力は信頼性の高い低炭素電源であるため、英国内ではすでに、ヒンクリーポイントC原子力発電所のような大型炉の建設が進められている。国内ではまた、SMRやAMRへの投資が拡大するなど、原子力発電の将来には大きな期待が寄せられている。60年以上前に英国では、本格的な民生用原子力発電所が世界で初めて建設されたことから、政府は現在でも国内に関係技術のポテンシャルがあると考えている。導入規模や技術の世代とは無関係に、新しい原子炉は低炭素な電力と雇用、および経済成長をもたらすので、政府は大型炉の建設を支援するため開発基金を提供する。政府はまた、次世代原子力技術に対する一層の投資を予定。政府内の「歳出見直し」やコストパフォーマンスの点で問題がなければ、政府は「先進的原子力基金」として最大3億8,500万ポンド(約529億円)を充当する方針である。このうち最大2億1,500万ポンド(約295億円)が国内のSMR開発に投じられるほか、民間においても「マッチ・ファンディング」方式を通じて最大3億ポンド(約412億円)の投資機会に道が開かれるとした。政府はさらに、AMRの研究開発プログラムに最大1億7,000万ポンド(約233億円)の投資を約束している。ここでは、800℃以上の高温で稼働し水素や合成燃料を効率的に生産できる高品質の熱供給炉の開発を想定。これらは、二酸化炭素の回収・貯留(CCUS)や水素生産、および洋上風力発電への投資を補うものと位置付けられており、政府としては遅くとも2030年代初頭にこのようなAMRやSMRの実証炉を国内で建設するとともに英国を原子力国際競争の最前線に押し上げる計画である。なお、政府はこのほか、これらの技術を市場に出す手助けとして、規制枠組みの整備と関係サプライチェーンの支援に追加で4,000万ポンド(約55億円)を投資するとしている。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Nov 2020
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カナダ連邦政府のS.オリーガン天然資源相は11月16日、既存の放射性廃棄物管理政策の最新化を図るため、様々な立場のカナダ国民が参加する取組プロセスを開始したと発表した。同相はまた、この政策レビューの一環として、低・中レベル放射性廃棄物の管理で一層包括的な戦略を作成するようカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)に要請したことを明らかにした。発表によれば、カナダ政府は2050年までに同国が温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を達成する上で、原子力発電が大きな役割を果たすと考えている。原子力はまた、カナダ国内のみならず世界中で雇用とビジネス・チャンスを創出することから、既存の廃棄物管理政策の最新化は政府が今後も、国民の安全と健康および環境を最優先に保全し続ける上で非常に重要である。政府はそのための盤石な枠組を確保しているが、国際的な基準や最良好事例に合致した長期的な放射性廃棄物管理対策を推進するには、これを常に最新のものにしておかねばならない。オリーガン天然資源相が開始したプロセスでは来年3月末までの期間、カナダ政府は様々な方法で放射性廃棄物の発生者や所有者、その他の政府機関、専門家、および一般国民や先住民族など、関係するすべての国民と協議。放射性廃棄物の管理で一層力強いリーダーシップを発揮していけるよう、既存の政策を詳細に説明することになる。カナダでは2007年、使用済燃料の直接処分を定めた国家方針が採択され、実施主体であるNWMOは2010年から処分場建設のサイト選定プロセスを開始した。2012年9月までに国内の22地点が処分場の受け入れに関心を表明し、NWMOは現時点で候補地域をオンタリオ州南部のサウスブルース地域と北西部イグナス地域の2地点まで絞り込んだ。2023年までに、これらのうちどちらかを処分場の建設に好ましい地点として確定することになっている。カナダ政府が国民とコミュニケーションする手段は主にウェブサイトで、国民はネットを通じて放射性廃棄物や政策レビューに関する最新情報、プロセスの進行状況などを把握する。ステークホルダーに対しては、ワークショップや円卓会議などを通じて直接的に対話するほか、オンライン・フォーラムも活用。政府はこのような活動の結果を2021年春までに最終報告書に取りまとめて30日間のパブコメに付し、その年の秋にも最新化した政策を公表する予定である。一方、NWMOに要請した低・中レベル廃棄物の統合管理戦略については、政府は具体的に、戦略の策定に向けた国民との対話を主導するようNWMOに求めている。NWMOが使用済燃料の安全な長期管理について策定済みの計画に基づき、オリーガン大臣は同戦略には以下の項目を含めるべきだと指摘した。それらはすなわち、・廃棄物の現在と将来の排出量、小型モジュール炉(SMR)を設置した場合に排出される廃棄物の特性や所有者、保管場所など、既存の廃棄物管理状況の説明。・廃棄物の長期管理処分に関する現在の計画とその進行状況。・現在および将来排出される放射性廃棄物を取り扱う際の(長期管理処分に関する技術オプションなど)概念的アプローチ。・廃棄物を長期に管理する施設の計画立案や設置、統合、操業などの検討状況。 同大臣は、このような重要任務をNWMOが包括的かつ透明性のあるやり方で実行することは非常に重要だと説明。NWMOは現在、使用済燃料の長期管理計画を遂行中だが、低・中レベル廃棄物戦略の件で国民との対話を進める折にも、NWMOのこのような任務が損なわれてはならないと指摘した。 NWMOによると、現在カナダ国内の低・中レベル廃棄物はすべて安全な方法で中間貯蔵中。NWMOとしてはこの重要な業務の遂行にあたり、その専門的知見を使って実用的な勧告をカナダ政府に提示し、国際的な良好事例に沿った形で廃棄物の長期管理が続けられるようにしたいと述べた。(参照資料:カナダ政府、NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Nov 2020
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カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社の米国法人(TEUSA社)は11月10日、開発中の小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)(熱出力40万kW、電気出力19万kW)で使用する溶融塩燃料について、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所(ANL)と詳細な試験を開始したと発表した。これは、IMSR発電所の燃料や機器・システムについて同社が実施している幅広い確認試験プログラムの一部であり、試験結果は最初の商業炉の建設許認可手続き等で活用する予定。第4世代の先進的原子炉技術のひとつであるIMSRは、コスト面や機能面で革新的と見られており、TEUSA社は安全でクリーン、信頼性が高くコスト面の競争力もあるIMSRのプロセス熱を、化学合成や脱塩など数多くの工業利用に有望としている。IMSRはまた、発電用として既存の電力市場以外での適用が可能なため、TEUSA社としては、産業界が様大規模な脱炭素化を進める有望な手段としてIMSRを提供。米国市場における同設計の商業運転は、2020年代後半にも実現できると予想している。発表によるとTEUSA社とANLとの協力は2016年、民間で進められている先進的原子力技術の商業化支援でDOEが開始したイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」で、TEUSA社が支援対象に選定された折に始まった。TEUSA社は、最初のGAINによってANLとの商業協力が本格的に促され、独力で各種試験を実施するより、世界クラスの国立研究所と協力して関係分野の専門的知見を得る戦略を継続。そのおかげで、TEUSA社は社内の技術資源をIMSR開発に集中させることができ、IMSR発電所を早期に建設する選択ができた。試験に際し、ANLは溶融塩にトリウムなどを混合した液体燃料の熱特性が規制基準を満たせるかの試験に加えて、IMSRの運転サイクル全般で使われる溶融塩の試験用混合物も準備。その上で燃料の融点、密度や粘度、熱容量、熱拡散率なども計測・特定するとしている。IMSR初号機の建設サイトとしては、同じくDOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)が候補に挙がっている。このため、TEUSA社は2018年3月、INLのサイト評価を共同実施するため、ワシントン州の非営利電気事業者共同機関「エナジー・ノースウエスト社」と了解覚書を締結している。(参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Nov 2020
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カナダのオンタリオ州営電力会社(OPG)社は11月13日、既存のダーリントン原子力発電所(93.4万kWのカナダ型加圧重水炉×4基)で、小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた活動を開始すると発表した。OPG社はこれに先立つ10月6日、具体的な協力を行うSMRデベロッパーの候補として、カナダのテレストリアル・エナジー社と米国のGE日立・ニュクリアエナジー社、およびX-エナジー社を選定。SMRはオンタリオ州経済を再活性化させる上で非常に重要だと指摘したほか、同州とカナダ連邦政府が推進する温室効果ガス排出量の削減目標達成にも役立つとしている。OPG社は2006年、同発電所で新しく大型炉を増設するため「サイト準備許可(LTPS)」を申請している。カナダ原子力安全委員会(CNSC)は2012年8月にLTPS発給の判断を下したが、オンタリオ州政府は翌2013年に同増設計画の保留を発表。同発電所で稼働中の4基、および同州内にある2つのその他原子力発電所についてもその後、運転期間の延長計画や大規模な改修プロジェクトが進められている。OPG社は今回、原子炉の建設・運転に先立つ許認可手続きの一環として、当時のLTPS復活をCNSCに申請した。早ければ2028年にも同サイトでSMRを完成させ、州民すべてにSMRの恩恵をもたらすとしたほか、同州および同発電所が立地する州南部ダラム地方を、世界でも著名なクリーン・エネルギー地区として確立。「供給エネルギーのクリーン化」を推進するオンタリオ州では、すでに2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功している。OPG社の発表によると、カナダ産業審議会が実施した調査の結果、同州内で単機の原子炉を新設し60年間稼働させることで、同州には莫大な経済効果が得られることが判明。プロジェクトの開発期間中、間接雇用も含めた新規の雇用者数は年平均で700人以上にのぼる。その後の機器製造・建設期間には1,600人分、原子炉の運転が始まれば約200人分、廃止措置期間中でも160人分の雇用が確保できるとした。また、国内総生産(GDP)に対する直接的・間接的な効果は総額にして25億カナダドル(約1,994億円)に達するほか、オンタリオ州の財政収入も8億7,000万加ドル(約694億円)以上増加すると予測している。今回のOPG社の判断について、オンタリオ州エネルギー省のG.リックフォード大臣は「ダーリントン発電所が立地するダラム地方で、この10年以内に最新鋭のSMR建設に向けてOPG社を後押しできることを州政府は誇りに思っている」と述べた。同州および原子力関係で同州と連携するサスカチュワン州、ニューブランズウィック州、アルバータ州は、カナダにおけるSMR開発で主導的役割を担うとともに、カナダが保有する原子力技術や専門的知見を世界中に知らしめていると強調した。(参照資料:OPG社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
16 Nov 2020
2800
ロシアの民生用原子力発電公社であるロスエネルゴアトム社は11月10日、レニングラード原子力発電所で2号機(100万kWの軽水冷却黒鉛減速炉)が45年間の運転を終えて、永久閉鎖されたと発表した。同発電所では、チェルノブイリ発電所と同型の100万kW級RBMKを4基稼働しており、45年間稼働した1号機を2018年12月に永久閉鎖し、今回2号機を閉鎖する。これらは第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」で順次リプレースされることになっており、同設計を採用したII期工事1号機はすでに2018年10月末に営業運転を開始、II-2号機についても今年10月22日に初めて国内送電網に接続している。発表によると、ロシアで永久閉鎖された原子炉はロシア連邦の規制・規則に基づき、核燃料が抜き取られるまでは「発電せずに運転中」の状態とみなされる。抜き取りが完全に終了するまで約4年を要する見通しで、この間に発電所では廃止措置で使用する技術の確定など、廃止措置プロジェクトの実施準備を進めることになる。ロスエネルゴアトム社のA.ペトロフ総裁は、「レニングラード発電所では原子炉の世代交代が完璧に進められており、2号機の閉鎖に合わせて第3世代+のII-2号機が試験運転を実施中だ。消費者は原子炉がリプレースされたことすら気づかないだろう」と述べた。ロスエネルゴアトム社によれば、最新設計の「AES-2006」では「RBMK-1000」に対して技術的に様々な改良が施されている。出力が20%向上したほか、公式運転期間もこれまでの30年から2倍の60年に拡大。レニングラード発電所のRBMK×4基も30年が経過した後、機器の大規模な点検・補修プログラムが行われ、4基すべてについて追加で15年間の稼働が許可された。同発電所はロシア北西地域では最大の発電所であり、近年はレニングラード州や州都サンクトペテルブルクにおける総発電量の56%以上を賄っている。120万kW級のVVERが2基送電開始した時点で、引き続き約60%を賄うことになると同社は予想している。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Nov 2020
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英ロールス・ロイス社は11月8日、同社が率いる官民企業連合の小型モジュール炉(SMR)開発に、米国の原子力発電事業者としては最大手のエクセロン・ジェネレーション社が協力することになり、両社は同日に了解覚書を締結したと発表した。これはロールス・ロイス社が将来、英国その他の国で「UK SMR」を建設する際、エクセロン社が約20年にわたって蓄積してきた20基以上の商業炉の運転経験が役立つとの認識に基づいている。同企業連合が建設した「UK SMR」が発電会社に引き渡されるまでの期間、エクセロン社は同企業連合と緊密に連携し、発電会社の運転能力向上や人材の育成・訓練などに協力する。また、関連スキルの現地化や堅固な安全文化の醸成、運転の効率化などにも尽力することになる。英国政府と原子力産業界が参加する同企業連合で、ロールス・ロイス社は出力40万~45万kW、PWRタイプのSMRを開発しており、運転期間は60年を想定。仕様を標準化した機器や先進的な製造プロセスで経費を削減し、天候に左右されない施設内でモジュールや機器類を迅速に組み立てることで、低コストなSMR発電所を工場生産する方針である。同社によれば、今後10年以内に当面目標とする出力44万kWのSMRが複数運転開始できれば、英国政府が目指す「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ化」を達成する一助となる。また、英国内での量産は、機器やモジュールの製造工場を新たに建設することとなり、新型コロナウイルスによるパンデミックからの英国経済の復活や、SMRの輸出に道が開けるとしている。同企業連合のT.サムソンCEO臨時代行 は、「地球温暖化や経済回復への取り組みで原子力発電は中心的役割を担うが、そのためには価格が手ごろで信頼性が高く、投資可能なものでなければならない」とコメント。同企業連合が目指しているのは、洋上風力発電と同レベルまで発電コストが削減されたSMRであると説明した。同CEOの認識では、SMRによって英国の発電業界には新しい事業者の参入が可能になり、顧客の選択肢の幅も広がる。これによって低炭素なエネルギーの安定供給が確保されるようになる。ロールス・ロイス社の企業連合は、主要メンバーが原子力エンジニアリング企業や建設企業、機器製造センターなどであるため、エクセロン社と連携することで同企業連合に不足している「世界的規模の原子力発電事業者」が補われ、開発プログラムの見通しは非常に明るくなった。また、原子力関係の米英連携が強化されるとともに、将来の顧客にはエクセロン社が最高水準の運転達成能力を提供、同企業連合の成長に向けた重要側面が新たに展開することになる。ロールス・ロイス社の予測によると、英国内でSMRの量産プログラムが本格的に実行された場合、2050年までに最大で4万人分の雇用が創出され、英国経済には520億ポンド(約7兆2,300億円)相当の価値と2,500億ポンド(約34兆7,600億円)の輸出が生み出されるとしている。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Nov 2020
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米オレゴン州のニュースケール・パワー社は11月10日、開発中の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」で1基あたりの出力をさらに25%増強した7.7万kW(グロス)のモデルを設計したと発表した。これは、先進的な試験やモデリング・ツールを活用した結果によるもので、同社はまず2018年6月、モジュール統合型PWRとなるNPMで予定していた出力5万kWを20%増強して6万kWに拡大。同モジュールを12基連結した場合の合計出力も60万kWから72万kWとなったが、今回のさらなる出力増強により、NPM原子力発電所の最大出力は92.4万kWに拡大する。同社はその一方で、NPMモジュールを4基だけ接続した30.8万kWの発電所、および6基接続した46.2万kWの発電所オプションも提供が可能だと強調している。5万kW版のNPMについては今年9月、原子力規制委員会(NRC)が設計認証(DC)審査で、SMR設計としては初めて「標準設計承認(SDA)」を発給しており、同設計は今のところSMR商業化レースの先頭を走っている。ニュースケール社としてはこのほか、6万kW版の「ニュースケール720」についても2021年第4四半期にSDAの取得を申請するほか、7.7万kW版の申請書も2022年に提出する方針。NPMの最初のモジュールは、2027年にも顧客への納入が可能になると明言した。同社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、「当社のエンジニアは今回再び、我々の技術が第一級のものであり、設計の安全性に影響を及ぼさずに、かつてないレベルのコスト削減と顧客の要求仕様に合わせた生産が可能であることを実証した」と表明。同社は今後も、SMRの商業化レースで世界をリードする企業であり続けると述べた。今回の発表によれば、出力を25%増強したモジュール12基のkWあたりの建設単価は、3,600ドルから約2,850ドルに低下する。このほか発電所としての出力が90万kW台になったことで、同モジュールは100万kW級原子炉の市場においても十分競合可能な設計に近づきつつある。ニュースケール社のSMRはまた、発電所の規模や出力だけでなく、運転の柔軟性、コスト面においても顧客に幅広いオプションを提供、建設工事の簡素化や工期の短縮、工事費の削減といった点で技術革新をもたらすとした。このようなことから、ニュースケール社は同設計を通じて、送電網の規模が小さい島国や送電網そのものから切り離された遠隔地域への電力供給、石炭火力発電所のリプレース用電源、クリーン・エネルギーへの移行目標達成といった顧客の様々なニーズに応えられると述べた。米国内ではすでに、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)がエネルギー省のアイダホ国立研究所内で同社製SMRの建設を計画している。国外では、カナダのブルース・パワー社が2018年11月、同社製SMRのカナダ市場導入を目指して同社と協力覚書を締結。カナダの原子力安全委員会は今年1月から、NPMの「許認可申請前設計審査(ベンダー審査)」を開始した。このほか、ヨルダンやルーマニア、チェコ、ウクライナの国営電気事業者や原子力委員会が同社製SMRの導入を検討しており、ニュースケール社は実行可能性調査の実施に向けた了解覚書をそれぞれと締結済みである。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
11 Nov 2020
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英国で小型モジュール炉(SMR)開発の官民企業連合を率いるロールス・ロイス社は11月9日、チェコ国内で同社製SMRを建設する可能性を評価するため、チェコの国営電力(CEZ)社グループと了解覚書を締結したと発表した。CEZ社グループのD.ベネシュ会長は、「我が国の産業にとって新しいエネルギー技術は重要な役割を担っており、SMRについてはすでに国立原子力研究機関(UJV Rez)がかなり前から研究を進めていた」と説明。その上で、「SMRは今後、重要な代替選択肢となり得るため、ロールス・ロイス社やその他のグローバル企業との連携は、チェコがこれまで重ねてきた対応の結果として当然の措置である」と述べた。チェコ政府は2015年5月の「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約30%から2040年までに60%近くまで上昇させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画である「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減しつつ、合計6基が稼働する既存の2つの原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設する準備を進めなければならないとしていた。こうした背景から、CEZ社グループは2020年4月、2つの発電所のうちドコバニ原子力発電所で、ネット出力最大120万kWのPWRを新たに2基増設するための立地許可申請書を原子力安全庁(SUJB)に提出した。SMRに関しても、2019年9月に米ニュースケール・パワー社と、2020年2月にはGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と、それぞれのSMRをチェコ国内で建設する実行可能性調査の実施で了解覚書を締結している。一方、ロールス・ロイス社が開発中のSMRは出力40万~45万kWのPWRタイプで、運転期間は60年間。これらは再生可能エネルギーと競合できるレベルまで低コストで、工場で大量生産が可能、かつ設置場所までトラック輸送が可能なものを目指している。すでにヨルダン原子力委員会、およびトルコ国営発電会社(EUAS)の子会社とは、同社製SMRをそれぞれの国内で建設する技術的実行可能性調査の実施に向けて了解覚書を締結済みである。ロールス・ロイス社の「英国SMR開発企業連合」には、仏国の国際エンジニアリング企業のアシステム社や米国のジェイコブス社、英国の大手建設エンジニアリング企業であるアトキンズ社、BAMナットル社、レイン・オルーク社などが参加。このほか、英国の国立原子力研究所(NNL)、および英国政府が原子力産業界との協力で2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)も加わっている。(参照資料:CEZ社、ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Nov 2020
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中国核工業集団公司(CNNC)は11月6日、山東省の石島湾で2012年12月から建設している小型の高温ガス炉(HTGR)実証炉(HTR-PM)で、1次系の冷態機能試験が3日付けで完了したと発表した。電気出力20万kW のHTR-PM では、1つの発電機を共有する双子ユニット(各10万kW)の最初の1基で10月19日に冷態機能試験が完了、引き続きもう片方の1基で試験が開始されていた。CNNCはこれらの実証炉で、計測値のすべてが設計要件を満たしていることを確認しており、原子炉系統の機器に関しては製造と設置の品質の高さを確認。同発電所の建設プロジェクトは、国際市場が必要とする固有の安全性を備えた第4世代の原子力技術の開発を促進するとともに、加熱用蒸気と電力の併給が可能なシステムの合理化に役立つと強調している。 HTR-PMの建設工事は科学技術関係の大型国家プロジェクトの1つであり、「華能山東石島湾核電有限公司(SHSNPC)」が中心となって進めている。同社には、中国の5大発電企業の1つである華能集団公司が47.5%出資しているほか、CNNCが2018年に経営を再統合した核工業建設公司(CNEC)が32.5%、付属の研究院で実験炉「HTR-10」を運転中の清華大学が20%を出資中。また、CNECと清華大の合弁事業体である中核能源科技有限公司(チナジー社)が、同工事のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約を請け負っている。 CNNCの発表によると、HTR-PMの冷態機能試験では他のタイプの原子炉とは異なり、水の代わりに圧縮した空気を使用。空気を最大8.9MPaまで徐々に圧縮して1次系圧力境界の性能を試した後、1次系の漏洩率を計測するため、圧縮度を8.0MPaに下げた状態で24時間以上維持した。また、このような圧力下における1次系圧力容器の変形や位置のズレなどを最初の1基で調査した結果、支持システムの有効性が暫定的に認められたという。同試験を通じて、原子炉の主要システムとなる機器の製造やエンジニアリングの高い品質が確立され、HTGRの商業化を加速する確固たる地盤が築かれたとCNNCは指摘している。なお、HTGRは電力供給だけでなく熱供給や脱塩、水素製造にも利用できるため、ポーランドが大型原子炉の建設計画と並行して導入の実行可能性を調査している。サウジアラビアも、韓国製小型モジュール炉などとともに中国製HTGRを建設する可能性を調査中。また、HTR-PMの出力を60万kW級に拡大した商業用のHTGRについても、広西省金端市その他の都市で建設構想が進展中と伝えられている。(参照資料:CNNCの発表資料①、②とWNAの11月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」、原産新聞・海外ニュース、ほか)
09 Nov 2020
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ベラルーシ初の原子力発電所の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は11月5日、初号機となるベラルシアン原子力発電所1号機(120万kWのPWR)を、3日の昼過ぎに初めて同国の送電網に接続し送電したと発表した。同炉については8月7日に燃料を装荷した後、10月11日に出力が最小制御可能出力(MCP)レベル(臨界条件を達成する段階において、核分裂連鎖反応を安定した状態に維持するのに十分な1%未満の出力)に到達。10月23日には、ベラルーシの非常事態省が出力を50%まで徐々に上げていくプログラムの実施を許可しており、ロスアトム社は出力40%に達した時点で同炉を初併入させるとしていた。今後は出力50%でプラント動特性試験の実施を予定しており、このような定格出力未満での試験を12月初頭までに完了した後、定格出力で試運転を開始。営業運転に入るのは2021年第1四半期になるとの見通しを明らかにしている。ロスアトム社によると、ベラルシアン発電所では第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」設計を採用。ロシア国外で送電開始した同型炉としては最初となった。ロシア国内ではすでに、ノボボロネジ原子力発電所II期工事で同型設計の1、2号機が営業運転中。レニングラード原子力発電所でもII期工事1号機が2018年10月に営業運転を開始したほか、10月23日にはII期工事2号機が送電を開始している。AES-2006の特長についてロスアトム社は、放射性物質の環境への放出を抑えるとともに安全な運転を確保するため、技術面で最先端技術を採用。格納容器は2重構造で、内側の容器が設備の気密性を保持する一方、外側の容器は竜巻やハリケーン、地震といった外部からの影響に耐えられる。受動的安全系を備え、外部電源が完全に失われた場合でも運転継続が可能であり、動的システムを使わずにすべての安全機能が作動するとしている。また、格納容器の下部にはコア・キャッチャーを備えているため、過酷事故発生時においても炉心溶融物を閉じ込めて冷却することができる。出力もこれまでのVVERから20%増強されて120万kWになったほか、必要とする運転員の数が大幅に減少。従来のVVERで30年としていた運転期間は倍の60年となり、これをさらに20年間延長することも可能だとしている。ベラルシアン1号機の送電開始について、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁は「ベラルーシにとって歴史的出来事であり、同国における原子力発電時代の幕開けになった」とコメント。同社の傘下で建設工事を担当するASEエンジニアリング社(ASE EC)のA.ペトロフ第一副総裁も、「AES-2006を採用した原子炉の建設は国際市場で最も有望かつ需要があり、すでにフィンランドやハンガリー、トルコ、バングラデシュ、中国などが第3世代+の120万kW級VVERの顧客になっている」と強調した。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Nov 2020
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ポーランドのシントス・グリーン・エナジー(SGE)社は11月4日、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した小型モジュール炉(SMR)「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」のエネルギー供給システムをポーランドで建設するため、実行可能性評価の実施を含む協力合意協定をUSNC社と結んだと発表した。SGE社は化学素材メーカーであるシントス社のキャピタル・グループに所属しており、その戦略に沿ってCO2を排出しないエネルギー・ソリューションを欧州で積極的に模索している。このため、MMRエネルギー・システムがCO2を出さずに供給する水素や熱・電力を、シントス社が本拠地であるポーランド、およびチェコ、オランダ、仏国で操業する化学素材製造プラントで活用する。また、欧州産業界の様々な製造企業に対しても、同システムの幅広い商業利用を勧めていく考えである。USNC社ではこのような熱電併給と水素生産の能力を持つMMRエネルギー・システムを構築するため、現在、韓国の現代エンジニアリング社を含む世界中の複数の大手企業と連携協力中。SGE社の具体的な計画では、石炭や天然ガスを使う既存の化学素材プラントを、MMRエネルギー・システムを採用したプラントでリプレースすることになる。USNC社とSGE社はまた、同システムの水素生産技術に付随する付加価値の範囲内で、CO2を出さずに産業規模で水素を生産できるような、経済効率の高い熱電併給方法の開発プロジェクトを進めている。これについてはすでに、欧州委員会(EC)が主導する産業メカニズム「欧州共通利益重要プロジェクト(Important Projects of Common European Interest: IPCEI)」から財政支援が受けられるよう、両社が共同でポーランド開発省に申請書を提出済みとなっている。シントス社キャピタル・グループのオーナーであるM.ソウォヴォフ氏は「我々が保有する複数の製造施設で、最終的に脱炭素化を実現し競争力も強化されるよう、短期間で建設可能な有力な技術を選定するつもりだ」と明言。その上で、「MMRは非常に洗練された安全な技術であり、他に例を見ないほど我々のニーズに合っている」と述べ、同技術はシントス社の脱炭素化戦略実現と競争力強化に役立つとの見解を示した。同氏はまた、「ポーランド産業界全体の脱炭素化に向けて、MMR技術は様々な解決策の一部となることを確信する」としている。USNC社のMMRは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWという第4世代の小型モジュール式高温ガス炉で、燃料にはシリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を用いる。同社によれば、いかなる事故シナリオにおいても、MMRでは特段人の手が加わらなくてもすべての熱が安全に環境に出され、メルトダウンが発生するリスクもない。2019年3月にカナダのプロジェクト開発企業のグローバル・ファースト・エナジー(GFP)社は、パートナー企業であるUSNC社のMMR実証炉をカナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトで建設するため、SMRとしては初めて「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。このプロジェクトでは、チョークリバー・サイトを擁するオンタリオ州の州営電気事業者オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社が実証炉の建設や運転で協力する予定。CNSCは2019年7月から、このプロジェクトの環境アセスメント(EA)プロセスを開始している。(参照資料:シントス社、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Nov 2020
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米国籍のエネルギー総合ソリューション企業であるホルテック・インターナショナル社は11月2日、日本で同社製の使用済燃料乾式貯蔵システム「HI-STORM UMAX」(=写真)を販売・建設することを目指し、日立GEニュークリア・エナジー社と協力覚書を締結したと発表した。日本の原子力発電所から出る使用済燃料は主に、発電所敷地内の燃料プール内で一時的に保管されている。しかし、福島第一原子力発電所事故を契機に、多くの電気事業者が放射性物質の閉じ込めや放射線の遮へい、臨界防止、除熱等の機能を備えた乾式貯蔵への移行を検討。六ヶ所再処理工場の竣工が遅れているため、使用済燃料の貯蔵能力確保と拡大が急務となっている。ホルテック社によると、同社の乾式貯蔵システムは耐力溶接されたキャニスターをステンレス構造物の中に納め、コンクリート製の容器で覆って地下施設に垂直に貯蔵するというもの。すでに米国内では、2つの原子力発電所で同システムが操業されている。日本で従来から使用されている貯蔵技術では、規制当局が義務付けた高い耐震レベルなどを満たさねばならないが、ホルテック社は日立GE社が日本の国内市場で産業界のリーダー的立場を担っており、使用済燃料の管理分野においてもエンジニアリングや製造関係の深い専門知識を有していると指摘。今年9月に同社製の金属製キャスクが日本の基準に適合していると認められており、ホルテック社はこのような乾式貯蔵技術に代替オプションを提供する考えだと説明している。同社で国際プロジェクトを担当するR.スプリングマン上級副社長は、「今回の覚書を通じて日本の特殊な規制条件に取組み、厳しい貯蔵要件に解決策を見いだせるよう、お互いの持つ専門的知見で相乗効果が生まれることを期待する」と述べた。ホルテック社の認識では、日本の産業界のニーズに合わせて設計を合理化したHI-STORM UMAXは理想的なシステム。同システムであれば人類史上最も強力だった地震動を上回る、これまで世界で認可されたどのシステムよりも強力な地震荷重に耐えられるとした。また、火災や巨大なコンクリート構造物の飛来からも使用済燃料のキャニスターを防護するほか、津波に対する抵抗力も十分あると強調している。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
04 Nov 2020
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世界原子力協会(WNA)の新しい事務局長として10月末に就任したS.ビルバオ・イ・レオン氏は同月28日、「エネルギー供給システムの脱炭素化に向けた近年の試みは効果が無かった。今こそ、新たな原子力設備に投資すべき時だ」と訴えた。これは、10月26日から30日までシンガポールで開催されていた「国際エネルギー週間2020」で同事務局長が表明したもので、「新型コロナウイルスによる感染が世界的に拡大(パンデミック)したことで、(原子力のように)低炭素で強靱性があり、料金も手頃なエネルギーシステムへの投資を検討するチャンスが世界各国にもたらされた」と説明している。ビルバオ・イ・レオン事務局長の就任は、同職を約8年間勤めたA.リーシング前事務局長の退任の意向とともにWNAが9月15日付けで公表。10月5日以降、約1か月の引き継ぎ期間が設けられていた。スペイン出身の同氏は、マドリード工科大学で機械工学の学士号とエネルギー技術の修士号を取得。米国のウィスコンシン大学では原子力工学と工学物理学で修士号と博士号を取得した。その後、原子力産業界や学術界、国際機関など様々な部門の職歴があり、米国のドミニオン・エナジー社では原子力安全分析エンジニアとして勤務したほか、バージニア・コモンウェルス大学では機械・原子力工学部の准教授を務めた。また、国際原子力機関(IAEA)では水冷却炉技術開発ユニットの技術ヘッドを、WNAで事務局長に就任する直前は経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)で原子力技術開発・経済課の課長を務めていた。「国際エネルギー週間2020」の発表の中で同事務局長は、2000年に世界では総発電量の約36%を低炭素電源が発電したものの、これは2017年実績とほぼ同じであったと指摘。これは、クリーンエネルギー社会の実現に向けて人々が積み上げてきた努力が、脱炭素化という目的の達成にあまり貢献できなかったことを明確に示している。世界では様々な再生可能エネルギーに巨額の投資が行われた一方、その効果はほんの少しだけだったと述べた。同事務局長によると、低炭素電源としての原子力の発電量は世界でも2番目となるが、地球温暖化防止や持続可能な経済という目標を達成するには、世界全体のエネルギーミックスのなかで原子力による発電シェアを拡大する必要がある。「各国経済はパンデミックで大きな痛手を被ったが、今やすべての国が純粋に持続可能な世界の構築に向けて、チャンスが得られるような政策的対応を慎重に模索している」と述べており、低炭素な上に回復力があり、価格も手ごろなエネルギー・電力インフラをコスト的にも効果のある方法で開発するチャンスだと指摘。その上で、「原子力はパンデミック後の経済を回復させる際、中心的役割を果たすことができる」とした。 同事務局長は新型コロナウイルスが引き起こした危機への直近の対応として、また、地球温暖化や大気汚染、エネルギー利用へのアクセスといった、一層規模の大きい慢性的課題で将来的に危機が発生するのを防ぐためにも、各国政府が原子力発電に投資を行う絶好の機会であると説明。このような投資は社会的に責任の大きいものとなり、一層クリーンで将来的に持続可能な社会・経済を形成する一助になると強調した。同事務局長の認識では、原子力に投資することで世界のエネルギー供給保証が強化されるとともに、ほかの部門の脱炭素化にも有効な低炭素な熱や水素が供給されるなど、エネルギー供給全体への貢献が可能である。また、新しい原子力発電設備の建設は、1970年代や80年代の傾向から見ても速やかに実行することができるとしており、同事務局長は「今回のように、低炭素な電力を緊急に増やさねばならない時期には非常に大きな助けになる」と表明している。(参照資料:WNAの発表資料、WNAの10月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」、原産新聞・海外ニュース、ほか)
02 Nov 2020
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