国際エネルギー機関(IEA)は10月13日、世界のエネルギー・システムが今後10年間でどのように展開していくか包括的に検証した「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2020年版」を公表した。今年は、新型コロナウイルスによる感染の世界的拡大(パンデミック)が世界中のエネルギー部門にかつてないほどの混乱を引き起こし、その傷跡の影響は今後何年にもわたり続いていくと予想される。これに対し、このような大混乱がクリーン・エネルギー社会への転換加速や地球温暖化の防止という目標の達成に対してどのように働くかは、各国政府による対応の仕方と十分に検討された適切なエネルギー政策にかかっていると報告書は強調している。IEAは今回、世界のエネルギー供給システムを一層確実かつ持続可能なものにするための努力が新型コロナウイルス危機によって後退させられるのか、あるいは逆にクリーン・エネルギー社会への移行を加速する触媒となるのか、断定するには時期尚早だと説明。パンデミックは未だに終息しておらず、数多くの不確定要素を残したままエネルギー政策に関する重要判断がこれから下されることになる。このためIEAは今回のWEOで、2030年までの重要な10年間に新型コロナウイルス危機からの脱却に向けた複数のシナリオを検証。エネルギー部門や地球温暖化の防止対応にとって極めて重要なこの時期に、人類がこれから進もうとしている立ち位置を形作る様々な選択肢やチャンス、あるいは隠れた危険の特性について、IEAは今回のWEOでその可能性を幅広く想定した。今回のWEO評価によると、2020年は世界のエネルギー需要が5%低下する見通し。これにともない、エネルギー関係のCO2排出量は7%、投資は18%減少する。影響は燃料毎に異なっており、石油の需要量は8%減、石炭の利用量が7%減少するのに対し、再生可能エネルギーへの需要はわずかに上昇。天然ガスの需要量も約3%減少するが、電力需要の低下は比較的穏やかな2%程度だとした。エネルギー部門のCO2排出量も24億トン低下し、年間排出量は10年前のレベルに戻るとしたが、強力な温室効果ガスであるメタンの年間排出量が同じように低下しないと警鐘を鳴らしている。世界のエネルギー部門は4種類のシナリオで展開エネルギー部門の今後に関しては予測方向が一つに絞られているわけではなく、IEAはパンデミックによる社会や経済への影響、対応政策によって、将来的なエネルギー動向には幅広い可能性があるとした。このような不明部分を複数の評価方法で考慮するため、IEAは最新のエネルギー市場データやエネルギー技術などとともに以下のシナリオを検証している。「すでに公表済みの政策によるシナリオ(STEPS)」:これまでに公表された政策や目標を全面的に反映したシナリオで、2021年に新型コロナウイルス危機が次第に沈静化し、世界経済は同年中に同危機以前のレベルに戻る。「危機からの回復が遅れるシナリオ(DRS)」:前提となる政策はSTEPSと同じだが、世界経済に対するパンデミックの影響が長期化することを想定しており、危機以前のレベルに戻るのは2023年になってから。「持続可能な開発シナリオ(SDS)」:このシナリオでは、クリーン・エネルギー政策や投資が大規模に展開され、世界のエネルギー供給システムはパリ協定など持続可能な開発目標の達成に向けて順調に進展する。「2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するケース(NZE2050)」:IEAが今回新たに加えたシナリオで、SDSの分析を拡大展開させたもの。現在、数多くの国や企業が今世紀半ばまでに排出量の実質ゼロ化を目指しており、SDSシナリオでは2070年までにこれらが達成できる見通し。NZE2050シナリオではこれを2050年までに達成するため、今後10年間で何が必要になるか詳細なIEAモデルを示している。IEAの分析によると、世界のエネルギー需要が危機以前のレベルに戻るのはSTEPSでも2023年初頭のこと。DRSではパンデミックの影響長期化と深刻な不況により、2025年まで戻らないとした。また、電気を利用できない人々の状況については過去数年間の進展が覆され、今年はサハラ以南のアフリカ大陸で利用不能の人口が増加する見通しである。再生可能エネルギーはすべてのシナリオで利用が急速に拡大すると予想されており、太陽光発電は数多くの新しい発電技術の中でも中心的な立場を獲得。これに加えてSDSとNZE2050では、原子力発電所の建設もクリーン・エネルギー社会への移行に大いに貢献するとしている。IEAはまた、CO2排出量の削減問題で発電部門は主導権を握っているが、エネルギー部門全体でこの問題に取り組むには幅広い戦略と技術が必要になると指摘。SDSでは2030年までに太陽光発電による発電量が現在の3倍近くになり、発電部門のCO2排出量は40%以上削減される。このように再生可能エネルギーと原子力による発電量が増えるにつれて発電部門からのCO2排出量が抑えられるなど、エネルギー消費全体の中で電力の果たす役割はますます大きくなるとしている。IEAはさらに、NZE2050のシナリオどおり2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、次の10年間でさらに意欲的なアクションを取る必要があると表明。2030年までに排出量の約40%を削減するため、この年までに世界の総発電量の75%近くまでを低炭素エネルギー源から賄い、販売される乗用車の50%以上を電気自動車にしなければならない。また、電力供給に限らず行動様式の変更や効率性の強化など、これらすべてがそれぞれの役割を果たし、水素発電から小型モジュール炉(SMR)に至るまで幅広い分野の技術革新を加速する必要があるとしている。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Oct 2020
9019
仏国の原子力安全規制当局(ASN)は10月8日、フランス電力(EDF)が北西部シェルブールの近郊で建設中のフラマンビル原子力発電所3号機(163万kWのPWR)(FL3)について、敷地内への初装荷燃料の搬入を許可したと発表した。2007年12月に本格着工した同炉では、フラマトム社製の第3世代設計「欧州加圧水型炉(EPR)」を仏国内で初めて採用。初号機ゆえの土木エンジニアリング作業見直しのほか、原子炉容器の鋼材組成異常や2次系配管溶接部の品質上の欠陥等により完成は大幅に遅れている。EDFが当初予定していた同炉の運転開始は2012年だが、同炉では今年2月にようやく温態機能試験が完了した。昨年10月時点のEDFの最新スケジュールによると、同炉への燃料装荷は2022年末になる見通しで、送電開始は2023年になると見られている。また、EDFはこの時、溶接部の修理にロボットを使うため建設コストは15億ユーロ(約1,856億円)増加して124億ユーロ(約1兆5,345億円)になるとの見積結果を明らかにしている。今回の発表によると、ASNは同発電所での燃料の受け入れに際し、その取り扱いや特設プールへの貯蔵作業など、事業者の準備ができているかについて8月18日と19日の両日に点検を実施。関係機器の設置状況や事業者の準備体勢は満足のいくものだったとした。また、この燃料を落下させてしまった場合に放射性物質の放出というリスクが発生するが、このような事故を防ぐ対策をEDFが取っているため影響は限定的だと述べた。ASNはこのほか、特定のフィルター装置について放射性ガスを使った効率性試験の実施をEDFに許可している。このような事項に関するASNの決定案はすでに公開協議にかけられており、関係するEDFの申請資料も8月末から9月21日までの期間、一般に公開された。FL3に実際に燃料を装荷する際も、ASNによる事前の承認と公開協議の実施が必要である。(参照資料:ASNの発表資料(仏語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
14 Oct 2020
3978
米エネルギー省(DOE)は10月9日、ルーマニアのチェルナボーダ原子力発電所3、4号機を完成させる計画への支援、および同国の民生用原子力発電部門の拡充と近代化に協力するため、両国が政府間協定案に仮調印したと発表した。これにともない、米輸出入銀行(US EXIM)は同日、ルーマニアのエネルギー・インフラ分野等に対する最大70億ドルの財政支援に向けて、同国の経済・エネルギー・ビジネス環境省と了解覚書を締結している(=写真)。1989年のチャウシェスク政権崩壊により、チェルナボーダ3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)の建設計画は進捗率がそれぞれ15%と14%のまま工事が停止した。ルーマニアの国営原子力発電会社(SNN)はこれらを完成させるため、2009年にプロジェクト会社を設置したが、同社への出資を約束していた欧州企業6社すべてが経済不況等により撤退。SNNは2011年に中国広核集団有限公司(CGN)から出資参加表明を受け、2015年11月に両炉の設計・建設・運転・廃止措置に関する協力で了解覚書をCGNと締結した。その後、SNNとCGNの間では合弁事業体設立に向けた協議が行われていた模様だが、米国とルーマニアは2019年9月、原子力の平和利用とルーマニアの民生用原子力プログラムを共同で進めるための了解覚書を締結、双方の国家安全保障と戦略的利益に基づいた連携協力を強化することになった。また、米国のD.トランプ政権による中国政府への対決姿勢が強まったこともあり、ルーマニアのL.オルバン首相は今年1月、地元メディアに対しCGNとの協力をキャンセルすると表明、その後6月には同協力から撤退したことが報じられた。DOEの発表によると、今回の政府間協定案が正式なものになった場合、チェルナボーダ原子力発電所では1号機(70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)の改修工事が行われ、3、4号機関連ではルーマニアが多国籍の建設チームとともに米国の技術や専門的知見を活用する道が開かれる。今回の協定案によって、双方でルーマニアのエネルギー供給保証を確保し、戦略的連携関係を築くことの重要性が浮き彫りになっている。DOEのD.ブルイエット長官は、「信頼性が高くてCO2を排出せず、価格も手ごろな電力供給をルーマニアが確保する上で原子力は重要だ」と指摘。この重要なエネルギー源をルーマニアで発展させるため、米国の原子力産業界は喜んで専門知識を提供すると述べた。ルーマニア経済・エネルギー・ビジネス環境省のV.ポペスク大臣も、「民生用原子力分野の協力で米国との戦略的連携関係構築に向けた大きな一歩が刻まれた」とコメントしている。(参照資料:米エネルギー省、輸出入銀行の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Oct 2020
3027
ポーランドの気候・環境省は10月9日、同国における複数年の原子力開発プログラムを内閣が承認したと発表した。それによると、原子力の導入はポーランドがCO2を出さない安定したエネルギー源を獲得するための道筋を付けるという意味で重要なもの。今回、第3世代あるいは第3世代+(プラス)のPWRを600万kW~900万kW分、建設することを確認した気候・環境省の決議が正式に認められ、最新の原子力開発プログラムは近日中に官報に掲載されることになった。同省のM.クルティカ大臣は発表の中で、「原子力発電によってポーランドは国内のエネルギー供給を確実に保証できる」と表明。世界原子力協会(WNA)が先月に開催したパネル討論会では、「2033年に初号機の運転を開始した後は2~3年毎に後続の原子炉を起動、2043年までに原子力開発プログラムの6基すべての建設を終える」と述べており、CO2を排出しない強靱な電力供給システムを作り上げる方針を明らかにしていた。同国の原子力発電開発利用では主に3つの目標の達成を目指すとしており、それらは①「エネルギーの供給保証」、②「気候変動対策と環境の保全」および③「経済性」である。①の説明として気候・環境省は、「供給保証を強化するため、原子力でエネルギー源となる燃料の多様化を図るとともに、CO2を大量に放出する古い石炭火力発電所を高効率のものに置き換える」としている。②については、「発電部門から大気中に放出される温室効果ガスの量を原子力で劇的に削減し、環境保全面のコストを抑える」と説明。仏国やスウェーデン、カナダのオンタリオ州など、原子力発電開発が進んだ大規模産業国/地域の例を挙げ、「これらの国の原子力発電は、発電部門の効率的かつ早急な脱炭素化に貢献している」と指摘した。同省はまた、③の説明として「原子力は顧客のエネルギー料金が増加するのを抑えるだけでなく、削減することさえ可能だ」と強調。投資家関係やシステム、送電網、地元住民の健康面や環境保全など原子力発電に関わるすべてのコストを考慮した場合、最も廉価な電源になるとしたほか、減価償却後も長期にわたって利用可能であるという事実に言及した。こうした背景から、原子力は個人顧客と企業顧客のどちらにも適しており、製鋼業や化学産業といったエネルギー多消費産業の発展には特に欠かせないとの認識を示している。同省はさらに、世界では長年にわたって原子力発電所の運転が続けられている点から、原子力設備への投資は重要だと説明。例えば、1つの原子力技術に絞ったプロジェクトへの投資モデルではスケールメリットを享受できるほか、財務省が引き続き原子力開発プログラムの実施を監督することが可能だとした。このほか同省は、国有企業が実施する政府プロジェクトでは、安全性や運転経験などで広範な実績のある100万kW級PWRの利用が可能になると指摘。建設サイトについては、2014年の原子力開発プログラムで特定したのと全く同じ地点(北部ポモージェ県のルビアトボ-コパリノ地区とジャルノビエツ地区)を明記したと説明している。(参照資料:ポーランド気候・環境省(ポーランド語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
12 Oct 2020
2306
韓国電力公社(KEPCO)の子会社として発電所のエンジニアリングと建設を担当する韓国電力技術(KEPCO E&C)はこのほど、海上浮揚式原子力発電所の技術開発で造船大手の大宇造船海洋と長期的に協力していくため、覚書を締結したと発表した。韓国電力技術は、遠隔地域に対する熱電供給や海水の脱塩、再生可能エネルギーによるハイブリッド発電システムの開発などに利用可能な小型モジュール炉(SMR)「BANDI-60」を2016年から開発中。今回の覚書では、同社の世界レベルの先進的原子力設計技術と建設技術、および大宇造船海洋の船舶製造における様々な経験とノウハウを活用し、海上浮揚式原子力発電技術の開発と関係事業の発掘、これらを応用した共同プロジェクトを進めていく方針である。韓国電力技術は両社それぞれの技術で相乗効果が期待できると考えており、「BANDI-60」を搭載した海上浮揚式原子力発電所の開発にさらに弾みがつくとした。このため、今回の覚書を契機に両社間の戦略的協力を長期的に継続していきたいと述べた。大宇造船海洋側も、「国内外の原子力発電所で設計と建設を経験した韓国電力技術との協力により、安定性と信頼性をワンランク高めた製品を顧客に提供することができる」としている。ブロック型のPWRとなる「BANDI-60」は熱出力20万kW、電気出力6万kWの原子炉設計で、韓国電力技術が従来の大型発電所向けサービスで40年以上積み重ねてきた経験と実証済みの技術に基づいている。基幹送電網への接続を想定して設計された化石燃料発電所や大型炉と競合させるというより、分散型エネルギー供給インフラとしてニッチ市場を狙ったものだと同社は説明した。原子炉の安全性と操作性を向上させるため、同設計では減速材中に可溶性ホウ素を使用せず(SBF)、原子炉容器内に制御棒駆動装置(CEDM)を設置する。また、原子炉容器上部に炉心計装(ICI)を搭載するほか、残留熱の除去や格納容器の冷却等で各種の受動的安全システムを備えたものになるとしている。(参照資料:韓国電力技術(韓国語)、韓国原子力学会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Oct 2020
2468
米商務省は10月6日、今年の年末で満了する予定だった「ロシアからのウラン購入に関する反ダンピング課税調査の停止協定」を2040年まで延長するなど、同協定案の中の複数項目での修正でロシアの原子力総合企業ロスアトム社と合意し、双方がそれぞれの政府を代表して同協定の最終修正版に調印したと発表した。延長された同協定の有効期間中は米国内ウランのロシア産ウラン割合が軽減されることから、商務省のW.ロス長官は「米国の原子力産業界の再活性化につながるとともに、米国の戦略的な利益を長期的に満たすものだ」と評価。トランプ政権が推進する「アメリカ・ファースト」政策が、国際的な通商協定においてさらなる成功を納めたと強調している。米国は1980年代の後半、国内の濃縮ウラン所要量の約12%を輸入しており(※注1)、輸入分の約10%がソ連製の濃縮ウランだったと見られている。分量としてさほど大きいものではなかったが、国内のウラン採掘業者は1991年11月、「ソ連が濃縮ウラン輸出でダンピングを行っている」と商務省に提訴。商務省はその直後に崩壊した旧ソ連邦のカザフスタンやウクライナ、ロシア等に対し、ダンピング停止協定に署名させている。同省はまた、1992年にこれ以上の反ダンピング課税調査の実施を中断する一方、これらの国からのウラン輸出量を制限することを決めていた。今回更新された「反ダンピング課税調査の停止協定」では、修正案がパブリック・コメントに付された9月11日時点の内容が踏襲されており、以下の項目が含まれている。・現行協定を少なくとも2040年まで延長して、ロシア産ウランの輸入量を定期的にチェック。それにより、潜在的可能性として米国の原子燃料サイクルのフロントエンドが損なわれることを防ぐ。・現行協定では、ロシア産ウランの輸入量を米国の総需要量の約20%までとしていたが、今後20年間でこの数値を平均約17%まで削減、2028年以降は15%以下にする。・既存の商業用ウラン濃縮産業の保護策を強化し、同産業が公平な条件の下で競争できるようにする。・国内のウラン採掘業者や転換業者の保護でかつてない規模の対策を講じる。現行協定でロシアは、濃縮役務のみならず天然ウランと転換役務の販売で輸出割り当て枠一杯の利用が許されていたが、修正版ではこの割り当て枠の一部のみ利用が可能。ロシアが輸出できるのは平均で米国の濃縮需要量の約7%相当、2026年以降は5%以下となる。・商務省が今回の協定延長交渉を実施していた時期、あるいはそれ以前に米国の顧客が締結済みだったロシア産ウランの購入契約については、それを全面的に履行することが許される。(参照資料:米商務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)(注1)出典:広島大学平和センター・友次晋介氏「ロシア解体核兵器の平和利用―メガトンからメガワット計画再訪」
08 Oct 2020
3866
カナダ・オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は10月6日、同州内で小型モジュール炉(SMR)を建設する道を拓くため、北米の有力なSMRデベロッパー3社と設計・エンジニアリング作業を共同で進めていると発表した。3社のうち、カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社は、第4世代の革新的原子炉技術として電気出力19.5万kW、熱出力40万kWの小型一体型溶融塩炉(IMSR)を開発中。また、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は、受動的安全システムなどの画期的な技術を採用した電気出力30万kWの軽水炉型SMR「BWRX-300」を、同じく米国のX-エナジー社は小型のペブルベッド式高温ガス炉(HTR)「Xe-100」(熱出力20万kW、電気出力7.5万kW)を開発している。一方のOPG社はカナダで稼働する全19基の商業炉のうち、オンタリオ州内に立地する18基を所有しており、これらの原子炉と再生可能エネルギーの活用により、同州ではすでに2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功した。同社のK.ハートウィック社長兼CEOは、「CO2を排出しない原子力技術の開発で当社は50年以上にわたる経験を活用中。3社との協力では、その他のSMR計画と合わせて当社がSMR利用の世界的リーダーになることを実証したい」と述べた。同社は今回の計画の他に、遠隔地のエネルギー需要を満たすための支援として、カナダのグローバル・ファースト・パワー社との協力により、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をカナダ原子力研究所内で建設・所有・運転することを計画している。これらのSMRはオンタリオ州の経済を再活性化する一助となるだけでなく、地球温暖化の防止目的で同州とカナダ連邦政府が目指しているCO2排出量ゼロの電力供給にも役立つとした。OGP社はこの関連で、昨年12月にオンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州の3州が革新的技術を用いた多目的のSMRをそれぞれの州内で開発・建設するため、協力覚書を締結した事実に言及。今年8月には、同覚書にアルバータ州が新たに加わることになった。OPG社は近年、オンタリオ州内でのSMR建設に向けて適正評価をその他の大手電力企業と共同で実施しており、その結果からその他の州においてもSMRを建設する可能性が拓かれる。このことは、カナダが優先順位の高い政策として、次世代のクリーン・エネルギー技術を開発・建設するというアプローチとも合致するとしている。同社によると、オンタリオ州のSMR開発は州内の既存の原子力サプライ・チェーンをフルに活かすことになるほか、他の州においても石炭火力から脱却することに繋がる。また、エネルギー集約型産業に代替エネルギーのオプションが提供され、カナダにおける雇用の促進と技術革新の進展にも貢献。温室効果ガスの排出量が経済的に持続可能な形で大幅に削減されるため、カナダの電力網では化石燃料からCO2排出量ゼロの電源への移行が進むと強調している。(参照資料:OPG社、GEH社、テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Oct 2020
4012
ウクライナの民生用原子力発電公社であるエネルゴアトム社は10月1日、同国のV.ゼレンスキー大統領が同社のロブノ原子力発電所が立地する地域を訪れ、「ウクライナ政府は今後も原子力発電を擁護しその拡大を支援していく」と明確に表明したことを明らかにした。これは大統領が現地メディアとの会見の場で述べたもので、建設工事が中断しているフメルニツキ原子力発電所3、4号機(各100万kWのロシア型PWR)の今後に関する質問に対して、同大統領は「我が国には原子力発電開発と原子力発電所の完成に向けた確固たる戦略がある」と回答した。「両機を完成させた後はロブノ地域についても原子力発電所の建設を検討するし、これらは必ず実行する」と明言。その上で、「いずれにせよ、ウクライナではすでに原子力で総発電量の半分以上を賄っているし顧客が負担する電気代も最も安い」などと指摘した。同大統領はまた、原子力には潜在的な危険性があるとの非難に対し、「根拠のない非難だ。専門の業者が原子力発電所を建設し国家がその安全性確保のために働けば、自然環境への悪影響や地球温暖化を懸念することもなくなる」と説明。「原子力は安全な発電技術である」との認識を改めて強調している。同大統領はこれに先立つ9月22日、「エネルギー部門の状況の安定化と原子力発電のさらなる開発に向けた緊急方策のための大統領令」を公布しており、この中でフメルニツキ3、4号機を完成させるための法案を2か月以内に議会に提出するよう内閣に指示した。また、2017年にP.ポロシェンコ前大統領時代の内閣が承認した「2035年までのエネルギー戦略:安全性とエネルギー効率および競争力」を実行に移すため、原子力発電開発のための長期プログラムを策定することも命じている。ウクライナではまた、公共の利益を守るために電力市場の参加者が公共部門の特殊な義務事項を履行した結果、電気事業者に負債が生じる事態となっていた。このため、同大統領令は内閣に対して返済のための包括的な対策を取るよう命令。さらに、エネルゴアトム社を含む電気事業者に今後、同様の負債が生じることを防ぐため、内閣にはあらゆる手段を講じることを指示していた。旧ソ連邦時代の1986年、国内でチェルノブイリ原子力発電所事故が発生した後、ウクライナは1990年にフメルニツキ3、4号機の進捗率がそれぞれ75%と28%の段階で建設工事を停止した。しかし、国内の電力不足と原子力に対する国民の不安が改善されたことを受けて、同国政府は2008年に両炉を完成させる方針を決定している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料と大統領令(ウクライナ語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Oct 2020
2573
英ウェールズ地方のアングルシー島に、135万kWの英国版ABWRを2基建設するウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設計画に対する「開発合意書(DCO)」発給の可否判断が、今年の12月末日に延期となった。これは英コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)が9月30日に明らかにしたもので、当初予定では、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)によるDCOの判断は9月末とされていた。DCOは国家的重要度の高いインフラ・プロジェクトに取得が義務付けられている主要認可で、ウィルヴァ・ニューウィッド計画については日立製作所の子会社で同計画のデベロッパーであるホライズン・ニュークリア・パワー社が2018年6月、審査の実施機関であるPIに申請書を提出。PIは同計画が英国政府の要件を満たしているか判定した上でPIとしての見解をBEISに勧告、BEISの大臣がDCO発給の可否について最終判断を下すことになっている。しかし、日立製作所が9月16日に同計画から撤退する意向を表明したことから、ホライズン社のD.ホーソーンCEOは同月22日と28日の2回にわたりBEIS大臣に書簡を送付、発給の可否判断を3か月間延期するよう要請した。日立の撤退表明以降、同社はウィルヴァ・ニューウィッド計画の行く末に関心を持つ複数の第三者と協議中だが、この協議は今のところ初期段階にある。このため、同計画の確かな将来を保証するオプションについて、建設的に確定するための時間を取りたいと述べた。同社としては、英国がエネルギー需要を満たしつつ地球温暖化の防止目標を達成し、クリーン・エネルギー関係の雇用を創出して経済のレベルアップを図るには、原子力発電所が重要な役割を担うと認識。DCOの発給判断が先送りされれば、同社と第三者は日立製作所が不在の中でもウィルヴァ・ニューウィッド計画を前に進められるか否か、あるいは進める場合の方法等についても判断を下すことができる。商業的に機微な協議なため詳細を伝えることは出来ないが、今後数か月の間に同CEOと関係チームは肯定的な結論を出せるよう努力するとしている。これに対して、BEISのA.シャルマ大臣は9月30日付けで同CEOに返信を送付。DCO判断の締め切り日を年末まで先送りすることは妥当とした上で、2008年の計画法に基づき、新たな締め切り日を確認する大臣声明を出来るだけ早急に書面で議会の下院と上院に送ると述べた。ただし、同大臣としては11月30日までにその後の経過に関する情報が新たに必要だと強調。年末に最終判断を下す前に、十分考慮する時間を取りたいとしている。(参照資料:計画審査庁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Oct 2020
2220
欧州の原子力企業約3,000社を代表する欧州原子力産業協会(フォーラトム)は9月29日、欧州の原子力産業界が今後も低炭素なエネルギーや重要な医療診断・治療を提供し続けるには、適切な能力を持った人材を一定数、確保することが重要との見解を表明した。これは同日、フォーラトムが新たに公表した政策方針書の中で述べられたもので、「原子力分野で能力のある人材を十分な数だけ確保するため、欧州連合(EU)が政策面でその教育と訓練を一層充実させねばならない」と強調。原子力関係の高い技能を持った人材が欧州で維持され、その恩恵が末永く欧州社会にもたらされるよう、原子力産業界はEUおよびその加盟各国の政策立案者と協力し合う必要があると訴えている。フォーラトムによると、欧州社会は今、地球温暖化や価格が適正なエネルギーの利用、健康や雇用などの分野で課題に直面しているが、欧州原子力産業界にはこのような課題に対応する準備ができている。ただし、同産業界の総体的な「能力不足」という問題があり、とりわけ、かなりの数の人材が引退年齢に達しつつあることを考えると、今後は短期間で世代交代を行う必要がある。またそれを実行する際、例えばデジタル化への移行に取り組むには人材の技能再教育、能力アップといったものが要求されるとした。フォーラトムのY.デバゼイユ事務局長は、「EUの地球温暖化との闘いに対する支援や救命治療の提供に至るまで、欧州の原子力産業は日々の暮らしに多くの恩恵をもたらしている」と指摘。雇用面においても同産業は欧州の様々なレベルで機会の創出を幅広く支援するなど、欧州社会が直面する難問への対処で多くの恩恵をもたらしていると述べた。こうした背景からフォーラトムは、EUが今後も原子力を活用し続けるために、適切な能力を持った十分な数の人材確保という観点から以下の項目を勧告している。科学・技術・工学・数学(STEM)などの理系教科に若者たちを引き付けるため、これらを魅力的な学科とし、欧州が技術面で確実に世界のリーダーシップを握れるようにする。原子力が社会に貢献している側面を一層積極的に若者たちに伝えるなど、若者たちが原子力分野の学問を学び就職することを奨励する政策を実施・展開する。EU域内の様々な低炭素発電部門の雇用においては、科学的事実を根拠とする政策に基づいて、すべての発電技術を平等に取り扱うとともに正確な情報を提供する。原子力関係の教育・訓練に対するEU基金からの資金援助を増額すべきであり、重要な研究開発や革新的プロジェクトに携わる優秀な人材を支援する。これにより、EUが原子力技術革新においてリーダー的立場を維持する。 原子力教育・訓練の分野でEUが資金援助するプロジェクトについては、長期的なアプローチを取る。期間の限られたプロジェクトでも短期的メリットはあるものの、長期間続けることでより多くの達成が可能になる。人材の世代交代や技術の伝承においては、政策立案者や教育機関、産業界が一丸となって協力し、デジタル化などの新しい技術に人材が適用できるよう支援を行う。(参照資料:フォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Oct 2020
2469
米原子力規制委員会(NRC)は9月29日付けの連邦官報で、ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)設計に対し、同月11日付けで「標準設計承認(SDA)」を発給していたと発表した。これにより同設計はNRCの安全・規制要件をすべて満たした米国初のSMR設計となり、建設・運転一括認可(COL)および各種の申請書への記載が可能になった。同設計の初号機については、ユタ州公営共同電力事業体(UAMPS)がエネルギー省(DOE)のアイダホ国立研究所内で建設することを予定しており、同計画は2029年に最初のモジュールの運転開始を目指して大きく動き出す。ニュースケール社は2016年12月末日にSMR設計としては初めて、同設計の設計認証(DC)審査を申請しており、NRCは翌2017年3月にこの申請を受理。その後42か月にわたった同設計の技術審査を終えて、NRCスタッフは今年8月末に最終安全評価報告書(FSER)を発行していた。今回のSDA発給は、DC審査における技術審査とFSER発行が完了したことにより、当該設計が技術的に受け入れ可能とNRCスタッフが判断したことを意味している。委員会としての全面的な認証を得るには認証規則の制定とNRC委員による承認が必要で、NRCは現在、同規則の制定準備を進めている。来年にもニュースケール社製の電気出力各5万kWのモジュールに対し、DCが発給されると見られている。ニュースケール社のSMRはモジュール統合型のPWRで、このモジュールを12基連結することで電気出力を最大60万kWまで拡大することができる。同社によれば、同設計は固有の安全性能により異常な状況下で原子炉を自動停止し、人の介入や追加の注水、外部からの電力供給なしで原子炉の冷却が可能である。ニュースケール社はまた、2018年6月に同モジュールの出力を20%増強して6万kWとすることが可能になったと発表した。これにより12モジュールの合計出力は72万kWに拡大、同社は6万kW版の「ニュースケール720」について、2021年(暦年)の第4四半期にもNRCにSDA申請することを計画している。なお、現地の報道によると、UAMPSに所属するユタ州内の市町村のうち、主要都市であるローガン市とレヒ市の両市議会が8月25日までに同SMRの建設プロジェクトから撤退することを決議した。同プロジェクトに遅れが生じ、コスト超過などの財政リスクが発生することを懸念したと見られている。(参照資料:9月29日付け米連邦官報、原産新聞・海外ニュース、ほか)
30 Sep 2020
6367
米ミズーリ州のセントルイスを本拠地とする公益事業持株会社のアメレン社は9月28日、同社のミズーリ部門が操業するキャラウェイ原子力発電所(PWR、124.6万kW)で2回目の運転期間延長を計画していることを明らかにした。これは、同部門で今後数10年間の電源ミックスを最も望ましい配分に変革するため、3年に1度取りまとめている統合資源計画(IRP)の中に盛り込まれた。IRPは毎回、ミズーリ州の公益事業委員会(PSC)に提出され、州内の将来の電力需要やその対応策などを評価している。今回公表したIRPの中で、同社はミズーリ部門とイリノイ部門が電力供給するミズーリとイリノイ両州の全事業において、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すと表明した。クリーンエネルギーの生産量は主に、太陽光や風力など再生可能エネルギー源に過去最大規模の設備増強を行って拡大する方針で、今後10年間の総投資額は約80億ドルに達する予定。一方で、原子力や水力などCO2を排出しない既存の電源についても、引き続き投資を行う考えを強調している。キャラウェイ発電所は1984年10月に送電を開始しており、アメレン社は40年目にあたる2024年から追加で20年間運転継続する許可を2015年に原子力規制委員会(NRC)から取得した。同社は今回、この認可が満了する2044年以降も同発電所の運転期間をさらに延長するつもりであると説明。同社ミズーリ部門のM.ライオンズ会長兼社長は「CO2を排出しない発電所で効率的な運転を続けることは、2050年までのCO2排出量実質ゼロ化も含め、当社の目標をすべて達成する上で重要なものだ」と指摘している。このような最終目標は、同社が2017年に誓約したCO2排出量の削減目標を一層強化するものであり、2015年のパリ協定で合意された「世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ2℃より十分低く保ち、1.5℃までに抑える」という目標とも合致。アメレン社はCO2排出量の実質ゼロ化に向けて、まず2030年までに排出量を2005年レベルの50%まで削減、2040年時点では85%削減するとしている。(参照資料:アメレン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
29 Sep 2020
2167
米エネルギー省(DOE)は9月23日、「多目的試験炉(VTR)」の開発プロジェクトについて、その概念設計と複数の代替案について開発工程や費用の範囲などを連邦政府の関係委員会が分析審査した結果、その意義と概要が認められたため、意思決定(CD)プロセスの第2段階である「重要決定1(CD-1)」を承認したと発表した。VTRはDOEが傘下のアイダホ国立研究所内で2026年初頭からの運転開始を目指しており、原子力など革新的な技術の研究開発に資する米国で唯一無二の施設になる予定。CD-1が承認されたことでVTRの開発プロジェクトは、DOEが2021会計年度(2020年10月~2021年9月)で要求した2億9,500万ドルを議会が割り当て次第、CDプロセスのエンジニアリング設計段階に入る。このプロセスは、米国で1993年に超伝導超大型粒子加速器(SSC)の建設計画が頓挫した教訓から、大型の研究インフラ・プロジェクトを建設する際、これを0から4まで段階的に管理・承認するプロセスとして活用されている。CD-2で詳細設計や技術の検討を行い、CD-3で当該施設の建設開始を承認した後、CD-4で運転開始を承認することになるが、DOEはVTR計画について2021年後半にも環境影響声明書(EIS)を発行し、建設計画が「決定事項(ROD)」となった場合、VTRの設計や採用技術の選定、建設サイト等について最終判断を下す方針。DOEはすでに2019年8月、CD-1段階の活動の一部としてEISの作成準備を開始する旨、意思通知書を連邦官報に掲載していた。VTRは、新型の原子炉設計で使用される革新的な原子燃料や資機材、計測器等の開発で重要な役割を担う「ナトリウム冷却式の高速スペクトル中性子照射試験炉」となる。米国には現在、この中性子の照射を行える施設が存在せず、それが可能なVTRの建設は2018年9月に成立した「2017年原子力技術革新法(NEICA)」でも必要性が強調されていた。DOEの原子力局(NE)は2018年、同様の必要性を指摘する複数の報告書や新型原子炉設計を開発中の企業からの要請に対応し、VTRの開発プログラムを設置した。新しい原子炉設計の多くが既存の試験インフラとは異なる試験性能を必要とすることから、6つの国立研究所と19の大学、および9社の原子力産業企業から専門家がチームを組み、VTRの設計や費用見積、開発工程等を作成中。既存の試験インフラより高濃度の中性子を高速で生み出すVTRは、先進的な原子燃料や物質、センサー、計測機器の試験をさらに加速する最先端の能力を提供することになる。CD-1の承認についてDOEのD.ブルイエット長官は、「原子力発電の研究や安全・セキュリティ、低炭素なエネルギーを世界に供給する最新技術の開発で米国が世界のリーダー的立場を取り戻すのに向け、重要な一歩が刻まれた」と指摘。VTRは米国で長年にわたって問題になっていた研究インフラの欠落部を埋めるとともに、切望されているクリーンエネルギー技術の研究開発を支援、原子力産業界を再活性化するカギにもなると強調している。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Sep 2020
3228
仏国のフラマトム社は9月22日、仏国内ですべての商業炉を所有・運転するフランス電力(EDF)グループと政府の研究開発機関である原子力・代替エネルギー庁(CEA)、および同国の原子力産業界や学術界に属する6つの企業・組織が共同で進める「原子炉のデジタルツイン構築に向けた研究開発プロジェクト(PSPC)」に、同社が新たに加わると発表した。デジタルツインは現実世界に存在する製造設備の情報や運転データ、環境データなどを収集し、サイバー空間上にまったく同じ状態・状況を再構築する技術。設備に不具合が発生した際、サイバー空間にあるこの「仮想モデル(クローン)」の設備を分析して原因を究明するなど、高度なシミュレーションを実行することが可能になる。4年計画で実施される同プロジェクトでは、パリの南西約25km地点にあるEDFのパリ・サクレー研究所に本部を置く方針。原子炉物理分野におけるCEAの科学的統率力とEDFが原子力発電所の設計と運転について保有する知識、およびフラマトム社が原子炉の設計エンジニアリングとサービスで蓄積した専門的知見を統合することになる。これらの組織から100名以上の専門家が協力し、仏国内にある各原子炉のクローンをデジタル技術で構築。これらのクローンは若い世代の原子炉運転員の訓練用シミュレーターとして機能するほか、エンジニアリング学習に必要なシミュレーション環境を提供する。このプロジェクトはまた、2019年1月に原子力関係企業などで構成される原子力産業戦略委員会(CSFN)と当時の環境連帯移行大臣、および経済・財務大臣が締結した4分野の「戦略協定」に直接貢献する内容となっている。4分野のうちの1つは「原子力産業のデジタル改革」であり、仏国の原子力産業界が収益面でハイリスク・ハイリターンのプロジェクトで成功を納められるよう、デジタル技術を通じて技術革新に向けた道筋を確立し、仏国原子力部門の技術や専門知識が維持・発展されるよう保証することが目的。フラマトム社らは国内にある原子炉それぞれの設計や改修部分に合わせて、デジタルツインを発展させる計画である。今回のプロジェクトについてフラマトム社の担当理事は、「経験豊富で卓越した産業界のリーダーや学術界のパートナーとの協力により、世界中の顧客のために新たなエンジニアリング・サービスが展開される」とコメント。同プロジェクトを通じてフラマトム社の社員もさらに技能を高め、安全でクリーンかつ信頼性の高い発電をする上で同社に不足しているデジタル技術を長期的に補完していきたいと述べた。(参照資料:フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Sep 2020
3253
欧州連合(EU)の司法裁判所は9月22日、EDFエナジー社が英国で建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWの「欧州加圧水型炉:EPR」×2基)に対し、英国政府が提供する国家補助を欧州委員会(EC)が2014年10月に承認したことについて、これを無効とするよう求めていたオーストリアの上告を棄却すると裁定した。EU域内の国家補助は一般に禁止されているが、EU競争法(TFEU)第107条・第2項、第3項の下でEU域内の市場に適合すると認められた場合は、ECがそのための適格な方策を承認することがある。新たな発電設備の建設を目的とした英国政府の国家補助は経済活動を促進するためのものであり、EU競争法の国家補助規則に適合するとECはこれまでも判断していた。EU司法裁は同域内の最高裁に相当するため、反原子力の立場を取るオーストリアがこの件についてこれ以上、上告する手段はなく、今回の裁定が事実上の最終判断となる。英国は今年1月末付でEUを正式に離脱しているが、通商協定の交渉期限として今年の年末まで移行期間が設けられていることから、英国は今回の裁定を受け入れると見られている。同発電所では2025年末の初号機完成を目指して建設工事が進められているが、着工前の2013年10月に英国政府は事業者である仏電力(EDF)グループと3種類の財政支援策で合意した。それらは、①完成した発電所からの電力価格を安定させるため、固定価格で差金決済する制度(CfD)を適用する、②政治的理由により同発電所が早期閉鎖された場合、英国政府の担当大臣がEDFエナジー社の運転子会社(NNBジェネレーション社)に補償を行う、③英国政府の信用保証制度を適用し、NNB社が発行する社債について最大170億ポンド(約2兆2,755億円)の適格債務を保証する――である。ECがこれらの国家補助を認めたことを受けて、オーストリアは2015年にその取り消しを求める手続きを開始。EU司法裁の下級裁判所である第一審裁判所は2018年7月、「英国には自国のエネルギー・ミックスの構成要素を自由に決定する権利がある」としてEC承認を再確認すると裁定。オーストリアはその後さらに、EU司法裁にこの裁定の破棄を申し立てていた。今回の裁定についてEU司法裁はまず、「問題の国家補助に域内市場との適合性ありと裁定するには2つの条件がある」と指摘した。一つ目は、一定の経済活動あるいは一定の経済分野の発展を促すものでなくてはならず、二つ目としては域内市場の共通利益に一定程度反するような悪影響が及ばないことだと述べた。その一方で、この条項は「共通利益の追求」という目的を国家補助に含めるよう要求してはいなかった。またEU司法裁によると、オーストリアが第一審裁判所判決の取り消し論拠とする環境防護原則や予防原則、汚染者による負担原則等では、あらゆる状況から見て原子力発電所の建設や運転に対する国家補助を阻むことはできない。これらの理由から、EU司法裁はオーストリアの主張する(新規原子力発電所の建設から共通の利益はもたらされないという)様々な異議には「正当な理由が存在しない」と判断したと説明している。(参照資料:欧州司法裁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Sep 2020
1781
スウェーデン放射線安全庁(SSM)は9月21日、使用済燃料の集中中間貯蔵施設(CLAB)と低中レベル放射性廃棄物処分場(SFR)を操業するスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)について、「2028年までこれらの施設を安全に操業することが可能である」との見解を表明した。オスカーシャムにあるCLABとフォルスマルクにあるSFRの安全・放射線防護に関する包括的評価は、スウェーデン国内の他の原子力施設と同様、少なくとも10年に一度の実施が事業者に義務付けられている。SSMは、両施設についてSKBが2018年9月に提出した最新の包括的評価報告書を審査した結果、原子力活動法の要件を概ね満たしていると評価。報告書の書類手続上いくつか不十分な点も見受けられたが、放射線安全上の重要度は低いとした。SKBにはこれらの点を改善し、両施設の安全性を維持・向上させる能力があるので、SSMは次回の評価が行われる2028年までに同社はそれを実施すべきであると指摘。SSMによれば、同社は現時点でもそのための合理的かつ適切な対策を「アクション計画」として日々の操業に盛り込んでおり、報告書も体系的かつ自己批判的にまとめられている。これらのことからSSMは、今後も同社が関連要件を満たし続けられると判断したもの。スウェーデンでは、稼働中の原子力発電所から出る使用済燃料を地下500mの結晶質岩盤に直接、最終処分することになっている。このため処分事業者のSKBは2006年11月、CLABの隣接区域で使用済燃料をキャニスターに封入するプラントの建設許可申請書を、2011年3月にはエストハンマルにあるフォルスマルク原子力発電所の近接エリアで、使用済燃料最終処分場を立地・建設するための許可申請書をSSM等に提出した。1985年から操業中のCLABは、最終処分場が完成するまでの間、最大で8,000トンの使用済燃料を貯蔵することが可能。この容量のうち約7,300トン分がすでに埋まっており、SKBは2015年に貯蔵容量を11,000トンに引き上げるための申請を行っている。なおSSMは2018年1月、使用済燃料の封入プラントと最終処分場、2つの施設の建設許可申請について、許可の発給を促す最終勧告をスウェーデン政府に対して行ったが、政府としての結論はまだ出ていない。(参照資料:SSM(スウェーデン語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Sep 2020
2864
国際原子力機関(IAEA)は9月16日、世界の原子力発電設備の長期的な傾向を地域ごとに分析した最新の年次報告書「2050年までのエネルギー、電力、原子力発電予測」(第40版)を公表した。R.M.グロッシー事務局長は、「原子力発電は今後も世界の低炭素エネルギー・ミックスの中で主要な役割を果たし続ける」と指摘。高ケースの予測シナリオでは、2050年までに世界の原子力発電設備容量は現在の倍近くに増大するとしており、「原子力発電を維持・拡大することは引き続き、地球温暖化の影響を緩和する主要な推進力となる可能性が高い」と指摘している。原子力の設備容量と発電シェア今年の報告書は、昨年版の予測と比較して数値にそれほど大きな変化はなく、野心的だが妥当と思われる見通しに基づく「高ケース」の場合、世界の原子力発電設備容量は2019年実績の3億9,210万kWが2030年には約20%増えて4億7,500万kWに、2050年には82%増の7億1,500万kWになるとしている。一方、市場で既存の技術やリソース傾向が持続することを前提とした「低ケース」では2040年に約10%減の3億4,900万kWに低下するものの、2050年時点では下げ幅が若干持ち直して7%ほどとなる。設備容量は3億6,300万kWに留まると予測している。高ケースで原子力発電の設備容量が倍化するのにともない、原子力の総発電量も2050年には高ケースで倍以上に増加するとIAEAの専門家は見ている。見通しでは2019年実績の2兆6,573億kWhが2030年には3兆6,820億kWh、2040年には4兆9,330億kWhと増えていき、2050年には5兆7,620億kWhに達することになる。ただし、すべての電源の総発電量に占める原子力発電シェアは、高・低両ケースともに2050年まで一定割合を保つ、あるいは若干低下していくとIAEAは予測。2019年の実績は10.4%だったが、2050年までに低ケースで3ポイント減、高ケースでも1ポイント以下とは言え低下が見込まれる。IAEAによれば、高ケースで原子力発電シェアを2050年までに11%に向上させるには、各国が緊急かつ共同のアクションを取る必要がある。低ケースではまた、総発電量の約6%に低下するかもしれないとしている。原子力の場合、2016年のパリ協定その他の地球温暖化防止イニシアチブで設定された目標のお蔭で、開発への支援が期待できるものの、条件としては(原子力を含む)低炭素でオンデマンド利用が可能な電源への投資を促すエネルギー政策や市場構造が不可欠となる。IAEAの報告書は、原子力にはこのような利点に加えて電力消費量の増加や大気汚染問題、エネルギー供給保証、その他の電源による発電電力の価格変動なども解決できる可能性があると指摘している。閉鎖予定の原子炉と新規原子炉IAEAはこのほか、閉鎖される原子炉と新規原子炉の見通しについても言及している。世界では今や稼働中原子炉の三分の二で運転開始後30年以上が経過。これらは近い将来閉鎖されるため、その分を相殺する相当量の新規設備が必要になると強調。実際のところ、2030年頃あるいはそれ以降に閉鎖が予定されている多数の原子炉のリプレースについては、北米や欧州では特に不確定要素が残る。こうしたことから、経年化管理プログラムや運転期間の長期化を実施する原子炉の数は次第に増えつつあるとしている。高ケースでは閉鎖が予定されている原子炉のうち、いくつかでは運転期間が延長されることから、報告書は2030年までに実際に閉鎖される設備容量は2019年時点の約12%に過ぎないと予想。結果として、この年までに(新規建設分から閉鎖分を差し引いて)正味追加される容量は約8,000万kW、2050年まででは2億kW以上になる。また、低ケースにおいては2030年までに既存原子炉の三分の一が閉鎖されることを前提とする一方、新規建設分として約8,000万kW分が追加される。その後、2050年までの期間は、新規建設分と閉鎖される容量はほぼ同じになると報告書は予想している。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Sep 2020
3185
日立製作所が9月16日の取締役会後、英国ウェールズ地方北部におけるウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設計画(135万kWの日立GEニュークリア・エナジー社製・英国版ABWR×2基)から撤退すると表明したことについて、英国の関係者の間では様々な波紋が広がっている。同計画では2017年12月、英国の原子力規制庁(ONR)が英国版ABWR設計の事前設計認証審査を終え、同設計の安全・セキュリティ面に関する「設計容認確認書(DAC)」を日立GEニュークリア・エナジー社に発給した。また2018年6月には、日立の100%子会社で英国のプロジェクト企業である「ホライズン・ニュークリア・パワー社」が、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に建設プロジェクトの「開発合意書」を申請。その審査結果が今月末にも発表されると見られていた。BEISはさらに2019年7月、原子力発電所建設プロジェクトに資金調達するための新たな方法(規制資産ベース・モデル)について実行可能性評価の結果を公表。一般からのコメント募集を開始しており、ホライズン社はその結果次第でプロジェクトを再開できると期待していた。しかし、今回の日立の撤退表明にともないホライズン社は同日、ウェールズ地方アングルシー島における同プロジェクト、およびイングランド地方グロスターシャー州南部のオールドベリー原子力発電所計画に関し、すべての活動を停止すると表明。ウィルヴァ・ニューウィッド計画では明確な資金調達モデルについて英国政府との調整に時間を要することから、2019年1月以降の活動が凍結されていた。ホライズン社は「今となってはすべての活動を整然と終わらせる一方、当社は両サイトの今後の利用オプションに関して英国政府その他の主要関係者と十分に連絡を取ってこの後の調整に尽力したい」とコメントしている。同社のD.ホーソーンCEOは、「原子力発電は英国のエネルギー需要を満たすとともに地球温暖化の防止目標達成を支援、クリーンな経済成長や雇用の創出促進など英国経済のレベルアップにも重要な役割を担っている」と明言。「アングルシー島とオールドベリーは原子力発電所の新設には非常に有望なサイトなので、国家や地元自治体、環境に対して原子力が提供できる掛け替えのない利点がこれらの地でさらに展開されるよう、また英国政府が目指す2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成できるよう最善を尽くしたい」と述べた。また、これと同じ日に英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長は、「日立の撤退表明は残念なニュースだが、もしも英国が本当にCO2排出量の実質ゼロ化を実現させたいのなら、新しい原子力発電所の建設を早急に進めなくてはならないと明確に示すことになった」と指摘。日立とホライズン社が建設サイトの今後の扱いについて、英国政府や関係組織と共同で調整する方針であることを歓迎したいと述べた。同理事長によると、地元コミュニティやアングルシー島の関係者が強力に支援するウィルヴァ・ニューウィッド計画の建設サイトは、新たな原子力発電設備を建設する上で最良の地点である。低炭素で信頼性の高い電源によりCO2排出量の実質ゼロ化を後押ししつつ、地元に数百もの雇用実習機会や数千もの雇用を提供、経済的発展のために数百万ポンドを投資することは、同サイトの将来展開に道を拓く非常に重要なことだと強調した。一方、英国の経済専門誌「フィナンシャル・タイムズ」は、日立が建設計画からの撤退理由の1つとして、新型コロナウイルスによる感染の拡大で投資環境が厳しくなったとしている点に注目。今回の日立の決定は、英国の将来のエネルギー政策に影を落とすとともに、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すという英国政府の意欲に大きな打撃を与えたと分析している。しかし、とある政府報道官がこの決定について「落胆した」といいつつも、「ウェールズ地方の北部地域も含め、原子力発電所を建設するサイトの開発に意欲的な企業や投資家と、新規の原子力発電所プロジェクトについて議論するのは自由だ」と発言していた点に言及。この報道官がさらに、「小型モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)への投資を通じて、英国民は低炭素経済への移行を目指しており、原子力は英国の将来エネルギーミックスの中で主要な役割を果たすだろう」と述べたことを付け加えている。(参照資料:ホライズン社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Sep 2020
5939
米国のビル・ゲイツ氏が会長を務める原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社は9月15日、数多くの次世代原子炉設計で使用が予定されているHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)について、商業規模の国産製造加工施設を米国で建設するため、セントラス・エナジー社と協力する計画を明らかにした。同社は今月初頭、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と協力して、ナトリウム冷却高速炉技術と溶融塩熱貯蔵システムを組み合わせた「ナトリウム電力貯蔵システム」の開発を決めたが、このシステムにおいてもHALEU燃料を使用することになっている。今回の投資提案はまた、エネルギー省(DOE)が5月に公表した「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」に応募する際の要件の1つにも当てはまる。ADRPはコスト分担方式の官民連携により先進的原子炉設計を2つ選定し、今後5~7年間で初号機の建設をサポートしようというもの。申請者に対しては、それぞれの設計が必要とする燃料や核物質の入手プランも策定するよう求めている。テラパワー社は、同社の先進的電力貯蔵システムがARDPの対象設計に選定された場合、セントラス社と共同でHALEUの製造加工施設を建設して金属燃料の集合体を製造する計画。同燃料を使用することで原子炉の経済性や燃料の効率性が向上するだけでなく、安全性や核不拡散性が強化され、放射性廃棄物の排出量も少なくなると強調している。最初の1年間に、同社はHALEU燃料製造加工施設の設計と許認可について検討を開始するが、これには建設の詳細計画とコスト見積が含まれる。ナトリウムを冷却材に使った原子炉では金属燃料の装荷が必要だが、今のところ米国内で金属燃料を商業的に供給できる業者は存在しない。セントラス社との今回の提携契約は金属燃料の製造インフラで欠損部分を補うだけでなく、急増しつつあるHALEU燃料の需要を満たすためだと説明している。テラパワー社のC.レベスク社長兼CEOは今回、「HALEU燃料の製造に向けた投資では、ナトリウム電力貯蔵システムの商業化という長期的見通しの中で、国産燃料が確保されるという利点がある」と説明。このような努力を通じて、同社はHALEU燃料の生産や国産の先進的原子炉技術の建設といったDOEの幅広い目標達成に向けて支援の提供が可能になると述べた。また、セントラス社のD.ポネマン社長兼CEOは、「将来の先進的原子炉設計に対する燃料供給に関して言えば、米国はテラパワー社の投資のお陰で世界のリーダー的立場を手にすることも可能だ」と指摘。オハイオ州の同社プラントには、需要の増加や市場の成熟度に合わせて燃料の製造加工設備やウラン濃縮設備を増強し続ける十分な広さがあると強調した。セントラス社は現在、DOEと結んだ総額1億1,500万ドルのコスト折半契約の下でHALEU燃料の生産実証作業を実行中。オハイオ州のパイクトンで、3年間に16台の「AC-100」遠心分離機を設置することになっている。2022年の半ばまでにこの実証計画を完了させた後、同社はテラパワー社とともにプラントの規模を拡大、ARDPの応募要項に沿って燃料関係の要件を満たす考えである。(参照資料:テラパワー社とセントラス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
16 Sep 2020
4858
国際原子力機関(IAEA)はこのほど、原子力科学技術や原子力安全・セキュリティ、および核不拡散分野における女性の登用者数の拡大を図るため、新たに設置した奨学金制度「マリー・スクロドフスカ・キュリー奨学金プログラム(MSCFP)」で、これら分野の修士課程に在籍する女子学生からの申請書の受付を開始した。これは原子力分野で優秀な若い女性の育成を促進し、将来的に男女双方を含めた人材を確保するためのもの。応募者の中から年間100名を選抜し、学費として年に最大1万ユーロ(約126万円)、生活費の補助としてさらに1万ユーロを最長で2年間給付。初回となる今回の応募締め切りは、10月11日となっている。同プログラムは、物理学分野と化学分野でノーベル賞を2回受賞した先駆的物理学者「キュリー夫人」に因んで名づけられ、今年3月に設置が決定していた。その際、キュリー夫人の孫娘にあたる原子力物理学者のH.ランジュバン・ジョリオ博士がIAEAにビデオメッセージを寄せ、「科学において女性は男性と同等の能力を持つと祖母は心の底から信じていました。彼女なら、科学分野で女性の地位が今よりはるかに早く確立されることを望んだことでしょう」と抱負を託している。優秀な人材は原子力科学技術の発展に欠かせないだけでなく、生産性の拡大や技術革新を促す上で非常に重要であるとIAEAは認識。近代的な社会の経済成長や革新的技術開発においては、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の能力をもった人材が今まで以上に必要とされている。キュリー夫人は放射性元素の発見と活用で数え切れない恩恵を人類にもたらしたが、後続の女性科学者たちも原子力科学技術の分野ではこれまでに素晴らしい業績や科学的発見を残している。このためIAEAは同夫人の名を冠したプログラムを通じて、原子力部門に根強い男女間の雇用格差を埋めていく方針である。この部門の女性専門家は未だに少数派で、女性がSTEM分野に入って研究を続けるには学生時代から多くの障害に直面する。IAEAの奨学金プログラムは、女性が出来るだけ数多く、世界中で原子力科学技術や安全・セキュリティ分野の教育を受け研究を続けられるよう支援を提供。関連する訓練コースやワークショップ、奨学金制度、科学関連の視察、地域の原子力教育ネットワークにも参加を促し、安全・セキュリティ分野を含む国レベル、世界レベルの原子力プログラムで男女間の機会均等化促進を目的としている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
15 Sep 2020
2319
米国のウェスチングハウス(WH)社は9月8日、スペインのウラン公社(ENUSA)と協力して開発している事故耐性燃料(ATF)「EnCore」を欧州の商業炉としては初めて、ベルギーのドール原子力発電所4号機(PWR、109万kW)に装荷したと発表した。ENUSAは2018年5月、WH社が進めているEnCore燃料開発プログラムに協力することで同意、ドール4号機に装荷した試験用燃料集合体(LTA)は、この協力枠組の下で両社が製造・納入したものである。両社製のLTAはすでに2019年春、米エクセロン社がイリノイ州で操業するバイロン原子力発電所2号機(121万kWのPWR)に初装荷されており、WH 社はEnCore燃料の市場を拡大して世界中に普及させるという目標の達成に向け、ドール4号機への装荷は大きな節目になったと評価している。WH社のATF開発は、米エネルギー省(DOE)の関係プログラムの下で行われているが、これは福島第一原子力発電所事故が発生した後、軽水炉燃料で事故耐性を強化する必要性が注目されたことによる。議会は2012年会計年度からDOEの燃料・被覆材プログラムでATF開発に予算措置を講じており、産官学が連携して2022年までに商業炉への先行燃料集合体の装荷を目指している。産業界からはWH社のほかにGE社とフラマトム社の3グループが協力しており、WH社がDOEから交付された補助金は9,300万ドル以上にのぼっている。WH社の複数のEnCoreブランドATFは、過酷事故が発生した際の厳しい条件に耐えて設計ベースの安全裕度を向上させることや、長期の燃料サイクルを実現して燃料経済の改善を図ることなどを目的としている。コンセプトとしては、融点が非常に高く水と水蒸気の反応を最小限に抑えられる炭化ケイ素を被覆管に用いる方法や、ジルコニウム合金製の被覆管にクロムをコーティングし、ジルコニウムと蒸気の反応を抑える方法などを開発中。ENUSAとの協力では、WH社が二酸化ウランの粉末や先進的な被覆技術を駆使した機器を提供する一方、ENUSAは二酸化ウランでペレットを製造し燃料集合体を供給している。ENUSAの担当理事は、「両社の能力によってATF開発プログラムが現実のものとなり、燃料の発注を受けてから装荷までのリードタイムが削減可能であることが実証された」と述べている。(参照資料:WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Sep 2020
3386
ウクライナの原子力発電公社であるエネルゴアトム社の9月7日付け発表によると、同国西部のフメルニツキ原子力発電所で建設工事が中断している3、4号機(K3/K4)(各100万kW級のロシア型PWR)の完成に向け、ウェスチングハウス(WH)社が支援提供する可能性が出てきた。今月3日と4日の両日、ウエスチングハウス・エレクトリック・スウェーデン社のA.ダグ社長はウクライナの首都キエフにあるエネルゴアトム社を訪問した。ウエスチングハウス社はウクライナの原子力発電所に原子燃料等の供給を行っており、両社間のそうした協力関係を一層強化するための協議をP.コティン総裁代理と行ったもの。その際、同社長はK3/K4の建設計画に関して「燃料を供給するだけでなく、自動プロセス制御システム(APCS)やその他の機器を提供する用意がある」と明言、同社は原則的に、エネルゴアトム社が同計画で必要とするすべてのことに対応可能だと表明している。K3の建設工事は1985年9月に、K4は1986年6月に始まったものの、チェルノブイリ事故の発生により建設工事は1990年に進捗率がそれぞれ75%と28%の段階で停止した。しかし、国内の電力不足と原子力に対する国民の不安が改善されたことを受けて、ウクライナ政府は2008年に両炉を完成させるための国際入札を実施。資金援助を条件に、ロシアのアトムストロイエクスポルト社を選定した。その後、政府に対する抗議活動が頻発するようになり、2014年に親ロシア派のV.ヤヌコビッチ政権が崩壊。クリミア半島の帰属問題や天然ガス紛争の発生によりロシアとの関係が悪化していき、A.ヤツェニュク首相は2015年、ロシアへのエネルギー依存を軽減するためK3/K4建設計画でロシアと結んだ協定の取り消しを決めた。2016年9月になるとエネルゴアトム社が、韓国水力・原子力会社(KHNP)との協力により両炉を完成させると発表する一方、機器のサプライヤーとしては欧州企業を検討中であることを同年11月に明らかにしていた。WH社がウクライナの原子力市場に参入したのは1994年のことで、同社は現在、ウクライナで稼働する商業炉15基のうち6基に対して核燃料を供給中。このうち3基は、全炉心に同社製の燃料集合体が装荷されており、WHスウェーデン社のダグ社長は今回、「2025年までに当社製の燃料のみで稼働する原子炉の基数はさらに増える」と述べている。ダグ社長はまた、燃料の供給以外にもWHスウェーデン社がエネルゴアトム社に協力できる分野は数多く存在すると考えており、その中でもとりわけ有望なのがK3/K4建設計画。同社長は「世界の一般的なエネルギー業界にとっても、またウクライナの将来的なエネルギー・ミックスの中でも特に、原子力が重要な要素であり続けることは間違いない」と指摘した。ただし、ウクライナの原子力発電所では経年化が次第に進んでいるため、「ウクライナで今後も原子力発電を維持できるよう、十分な準備期間の確保が必要なことを肝に銘じておかねばならないし、発電設備の更新は今、直ちに取り組まねばならない問題だ」と強調している。(参照資料:エネルゴアトム社の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
11 Sep 2020
2425
英国ロンドンに本拠地を置く世界原子力協会(WNA)は9月9日から11日まで、原子力関係の政府高官や原子力産業界の幹部を招いたパネル討論会「Strategic eForum」をネット上で開催しており、その中でポーランドのM.クルティカ気候相が発表した「2040年に向けたエネルギー政策案(PEP2040)」の概要を9日付けで公表した。同国では建設・導入を計画している原子炉6基(合計出力600万~900万kW)のうち、初号機については2033年の運転開始を目指すとしている。同相の発表によると、ポーランドは原子炉6基によって国内電力システムの基盤を強化するとともに、エネルギー部門からのCO2排出量を削減。これと同時に、石炭火力など効率性の低い発電所を高効率のものと取り換える考えで、2040年までにCO2を排出しない強靭な電力供給システムを作り上げる方針である。原子力の導入初号機では出力100万~160万kWを想定しており、2033年に同炉が運転開始した後は2~3年毎に後続の原子炉を起動、2043年までに原子力プログラム中の6基すべての建設を終える。同相の考えでは2043年という区切りは、電力需要量の増加にともない電力不足が発生することを考慮したもの。原子力発電を導入すれば、大気汚染の原因となるCO2を排出せずに安定したエネルギー供給が可能になるほか、エネルギー供給構造を合理的なコストで多様化することも可能だと述べた。同相はまた、近年の原子力産業界では第3世代と第3世代+(プラス)の原子炉技術が主流であり、そうした技術と国際的に厳しい基準で発電所の安全性を確保していると指摘。同相としては原子力プログラムの大半に国内企業を参加させる方針だが、その前に関係する法の整備や資金調達モデルの決定が必要になるほか、原子力発電所の建設サイトを選定し、また低・中レベル廃棄物の処分場も操業させねばならない。さらには、発電所の建設や運転、また監督のために必要な人材の養成活動も実施すると表明した。同相はこのほか、大型軽水炉の建設計画とは別に、ポーランドでは高温ガス炉を導入する計画があると説明。高温ガス炉は将来的に、化学産業などの産業用熱供給源として使われる可能性が高いとしている。ポーランドでは石炭や褐炭など化石燃料資源が豊富だが、欧州連合(EU)がCO2排出量の削減目標を設定したこともあり、石油と天然ガスの輸入量を削減するとともにエネルギー源の多様化を推進中。チェルノブイリ事故によって一度は頓挫した原子力発電導入計画も復活しており、2009年に原子力を導入するための開発ロードマップを作成した。その後、2014年に計画全体を4~5年先送りする改訂を行った。この段階で合計600万kWの原子力発電設備建設を目標に掲げていたが、2015年に発足した政権は経費が掛かりすぎるとして見直しを行った模様である。2017年以降は現首相のM.モラビエツキ氏が政権を握っており、原子力導入計画を維持した上で新たなエネルギー政策を模索している。クルティカ気候相が今回発表した「PEP2040」はそうしたエネルギー政策案の最新版で、①クリーン・エネルギーへの移行、②CO2排出量ゼロのエネルギー供給システム、③大気汚染の改善、が主な柱。ポーランド経済は現在、天候に左右されない電源も含め確実な発電技術を必要としており、今後20年間で新たなエネルギー供給システムを構築しなければならない。同相は「顧客にエネルギーを供給する際の安定性と持続性は、そのための投資を引き寄せる不可欠の要素だ」と明言。2040年時点で国内発電設備の半分以上を無炭素電源にする予定だが、それに至る過程のなかで洋上風力発電の導入と原子力発電所の起動は重要な役割を担う。これら2つの分野こそ、ポーランドがこれから構築する新しい戦略的産業であると同相は強調している。(参照資料:ポーランド政府の発表資料(ポーランド語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Sep 2020
3099
中国核工業集団公司(CNNC)傘下の中国核能電力股分有限公司(CNNP)は9月4日、福建省漳州(ショウシュウ)市の漳州原子力発電所建設サイト(台湾のほぼ対岸)で、2号機(121.2万kWのPWR)の原子炉系統が設置される部分に最初のコンクリートを打設したと発表した。CNNPは、これをもって同炉の建設プロジェクトが正式に開始されたと表明している。同炉は昨年10月に着工した同1号機と同じく、CNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代設計を一本化したPWR設計「華龍一号」を採用している。2014年7月当時、国家能源局は同サイトでウェスチングハウス(WH)社製AP1000を6基建設することを計画していた。しかし、建設用地について国土資源部(省)が同年8月に予備的見解を提示した後、プロジェクト企業の中核国電漳州能源有限公司に51%出資するCNNCと49%出資している国電集団公司、および福建省の関係機関は2016年1月、設計については中国が知的財産権を保有する「華龍一号」に変更するとの共同文書を国家能源局に提出。同サイトでは「華龍一号」を含め、第3世代の技術特性を有する100万kW級原子炉が合計6基建設される予定である。©国家核安全局漳州2号機の着工に先立ち、生態環境部(省)の東部原子力・放射線安全監督局が7月下旬、原子炉系統部分の基礎となるコンクリートの打設準備について検査を実施した(=写真)。中核国電漳州能源有限公司に対しては、「習近平国家主席の唱える生態文明建設思想(資源の節約と環境保全を優先する社会の建設)を全面的に実行し、原子力発電の安全確保で新たな状況にも適応、質の高い原子力発電開発を促進しなければならない」と指示している。中国では現在、「華龍一号」の実証炉プロジェクトとしてCNNCが2015年から福建省で進めている福清5、6号機建設計画と、CGNの広西省・防城港3、4号機建設計画が最終段階を迎えつつある。これらのほかに、同じく「華龍一号」を採用したCGNの広東太平嶺1号機建設計画とCNNCの漳州1号機建設計画が昨年から始まったことから、中国国内で建設中の「華龍一号」は漳州2号機を含めて合計7基となっている。(参照資料:中国核能電力有限公司(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Sep 2020
2705