チェコ電力(ČEZ)は8月27日、チェコ政府と小型モジュール炉(SMR)の開発に係る安全保障協定を締結した。国内に導入するSMRのサプライヤーを選定する際、大型炉の建設と同様に、国家の安全保障を確保するのが目的。2021年9月に成立した低炭素エネルギーへの移行法により、サプライヤー選定に先立ち必要となる取決めである。J. スィーケラ産業貿易相は、「SMRは老朽化した石炭火力発電を代替し、チェコの将来のエネルギーミックスにとって不可欠となる可能性がある。同時に、SMR建設プロジェクトはチェコ経済にとって大きな好機。大型炉の場合と同様に、機器の製造やサプライチェーンに参加する機会もある。本協定は、SMR開発における国家の安全保障の確保を保証するものだ」と語る。ČEZは、チェコのエネルギー安全保障を維持するため、SMRが大型炉を適切に補完し、長期的に原子力と再生可能エネルギーの組合わせによるエネルギーミックスを追求する中で、大きな役割を果たすと考えている。現在、チェコの総発電電力量に占める原子力発電のシェアは40%である。ČEZは、南ボヘミアのテメリン原子力発電所の近くにSMR初号機の建設を計画している。2040年までに予定されている大型炉の運転に先立ち、完成させる計画だ。ČEZは南ボヘミア州政府および同社子会社であるÚJV Řežと、「南ボヘミア原子力パーク」プロジェクトを始動、緊密に協力して準備を進めている。また後続のSMRの建設サイトについては、閉鎖予定の石炭火力発電所サイトであるチェコ北東部のジェトマロヴィツェ(Dětmarovice)および北西部のトゥシミツェ(Tušimice)で、サイト適性の調査を集中的に進めている。なお、ČEZはこれまでに、米ニュースケール社、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社、英ロールス・ロイス社、フランス電力(EDF)、米ウェスチングハウス(WE)社、韓国水力・原子力会社(KHNP)、米ホルテック・インターナショナル社とSMR分野での協力覚書を締結し、建設の実行可能性等を調査中である。チェコ政府内で独立した第三者機関である競争保護局(UOHS)は8月27日、米WE社と仏EDFが、チェコのドコバニ原子力発電所5、6号機のほか、テメリン原子力発電所3、4号機の増設で、今年7月に韓KHNPが優先交渉者に選定された入札手続きの見直しを求めていることを明らかにした。EDFは入札の競争者。WE社は、必要な条件を満たしていないという理由で1月に入札から除外されていた。WE社は、韓国のAPR1000やAPR1400はWE社の技術を組み込んでいると主張、知的財産権と輸出管理をめぐってKHNPと係争中だ。WE社は、国際仲裁が2025年後半までに決着する可能性は低いとみている。
03 Sep 2024
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米原子力規制委員会(NRC)は8月28日、ドミニオン・エナジー社がバージニア州で運転するノースアナ1、2号機(PWR、各100万kW級)に対して、2回目となる運転期間延長を承認した。1978年と1980年に送電開始した両機は、2003年に当初の運転期間である40年間にプラス20年間の運転期間延長が認められ、現行の運転認可はそれぞれ2038年と2040年まで有効。今回さらに20年が追加されたことから、それぞれ運転期間は80年に延長され、1号機は2058年4月まで、2号機は2060年8月まで運転することが可能になった。ドミニオン社はこれまで両機の運転継続に向けて、発電機や復水器の交換、原子炉冷却ポンプの改修などの改造工事のほか、追加検査や機器の試験などを実施してきた。ドミニオン社が両機の2回目の運転期間延長申請を発表したのは2020年9月。その前月には、NRCは同社の申請書を既に受理しており、NRCの担当部門は2022年1月に安全性評価報告書(SER)の最終版を発行したほか、今年7月には環境影響声明書(EIS)の最終版を発行。これらの中で、両機の運転期間をさらに20年延長したとしても、安全面や環境影響面の問題はないと結論付けている。また、NRCの原子力安全許認可会議(ASLB)は、反原子力3団体がノースアナ・サイトの地震リスクを理由に聴聞会を要請したことに対応。2024年7月、ASLBは同要請について、「解決すべき争点が残っていない」と結論、反原子力団体による申し立てを退けた。なお、ASLBの決定は現在、NRCに上訴されているが、NRCの規則により上訴中であっても認可を発給することが可能。NRCはこれまでに、送電開始以降の運転期間を合計で80年とする認可をフロリダ・パワー&ライト(FPL)社のターキーポイント3、4号機(PWR、各82.9万kW)、コンステレーション・エナジー社とPSEG社が共同所有するピーチボトム2、3号機(BWR、各141.2万kW)、およびドミニオン社のサリー1、2号機(PWR、各89万kW)に対して発給している。そのうち、気候変動を含む潜在的環境リスクの見直しに伴い、再評価が必要となったターキーポイント3、4号機とピーチボトム2、3号機については、再評価完了まで80年運転認可の効力が一時停止している。 NRCによると、後続案件として7サイト・14基について現在、2回目の運転期間延長申請を審査中で、今後の申請予定については、名前が明らかにされていない原子力サイトを含め、18サイト・少なくとも20基以上にのぼるとみられる。
03 Sep 2024
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米ウェスチングハウス(WE)社は8月23日、英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)が同社製の小型モジュール炉(SMR)であるAP300(PWR、30万kWe)の英国の包括的設計審査(GDA)への参加を正式に承認したと発表した。WE社は今年2月、DESNZにAP300のGDAを申請していた。DESNZはWE社のGDA申請書を事前に精査、AP300のGDA開始前の評価基準適合を確認後、原子力規制庁(ONR)が同設計の安全性とセキュリティ面について、環境庁(EA)が(該当する場合、ウェールズ自然保護機関(NRW)も)環境影響面について、英国の基準を満たしているかを2段階で、サイト特定後の建設許可申請とは別に評価する。WE社が2023年5月に発表したAP300は、同社のAP1000型炉をベースとした1ループ式のPWRで、2030年代初頭に初号機の運転開始を目指している。AP300は、AP1000のエンジニアリング、コンポーネント、サプライチェーンを活用し、許認可手続きの合理化が可能だ。WE社傘下のWEエナジー・システムズ社のD. リップマン社長は、「英国はAP300の基盤技術に精通しており、AP1000が英国および世界で許認可を取得してきた確固たる実績があるため、GDA手続きを迅速に進められる」と指摘し、自信を示した。英政府は原子力発電設備容量を、現在の653.4万kWから2050年までに2,400万kWまで拡大する計画を発表しており、SMR導入も謳われている。すでにAP300は、英国の原子力発電所新設の牽引役として2023年7月に発足した政府機関「大英原子力(Great British Nuclear:GBN)」が実施するSMRの支援対象選定コンペの最終候補の1つに選定されており、現在、評価中だ。今年2月、WE社は英国のコミュニティ・ニュークリア・パワー(CNP)社と、AP300×4基の建設で合意した。建設予定地はイングランド北東部、ティーズ川北岸にあるノース・ティーサイド地域。経済発展が著しい同地域では、カーボンフリーで安定した電力供給が可能な電源が必要とされており、英国初の民間出資の建設プロジェクトとなる。WE社によると、AP300は英国の他、欧州、北米の顧客に導入が検討されているという。
02 Sep 2024
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英国のロンドンに拠点を置く世界原子力協会(WNA)は8月19日、世界中で稼働する商業炉の2023年の運転実績について取りまとめた報告書「World Nuclear Performance Report 2024」を公表した。 原子炉配管の応力腐食割れ(SCC)の保守作業が終了したフランスの原子力発電所が再稼働したことなどが主に影響し、原子力の総発電電力量は2022年実績の2兆5,440億kWhから2兆6,020億kWhに増加。総発電電力量に占める原子力の割合は、約9%となった。また、原子力発電設備容量は3億9,200万kWと、2022年実績から100万kW減少した一方、平均設備利用率は2022年実績の80.4%から81.5%に増加した。報告書によると、2000年以降、世界的に原子力の平均設備利用率は、プラントの新旧を問わず、総じて高めで推移していると分析している。報告書の結論の中で、WNAのS.ビルバオ・イ・レオン事務局長は、世界の原子力発電開発推進の勢いがさらに高まっている現状をふまえ、「世界中の多くの原子炉は優れた運転実績を積み重ねてきており、これらの実績を基に今こそ新規建設を大幅に加速させる時だ」と主張した。 報告書によると、2023年末現在、世界で運転可能な商業炉は437基。2023年に5基の原子炉が閉鎖されたものの、5基が新たに送電を開始したため、2022年と比較して基数に変化はなかった。 なお、日本の商業炉は運転停止中のものも含め33基が運転可能としてカウントされている。また、同事務局長は2023年12月に開催されたCOP28での「原子力3倍化の宣言」に触れ、目標達成のためには大幅な新規建設の拡大が必須と指摘、特に西側諸国での新規プロジェクトの成功は、資金調達、サプライチェーン、規制の課題を原子力産業界がクリアできるかどうかにかかっていると強調した。今回の報告書のその他の主な判明事項は以下の通り。 原子力発電電力量の増加は、フランスが420億kWh増加したこと、中国、韓国などアジア地域での新規系統接続の増加が主な要因。 2023年に世界で6基の原子炉(中国5基、エジプト1基)が着工しており、いずれも大型のPWRである。新たに中国、スロバキア、米国、ベラルーシ、韓国で各1基が送電を開始した一方、5基が永久閉鎖された。その内訳は、ベルギー、台湾で各1基、ドイツで3基で、いずれも脱原子力政策により閉鎖されている。世界の原子炉の3分の2が、80%以上という高水準の設備利用率をマークした。地域別では、北米の平均設備利用率が最も高い。炉型別で比較した場合、BWRが最も高い設備利用率を達成している。2023年に送電を開始した原子炉の平均建設期間は115か月で、2021年の88か月、2022年の89か月から増加し、近年の平均よりも長期に及んでいる。原子炉の運転実績は、ばらつきはあるものの、経年による低下はみられない。また、運転期間が25~35年の場合は原子炉の平均設備利用率が低く、運転期間が45年を超えると平均よりも設備利用率が高い傾向にある。そのほか、報告書では、米国のパリセード原子力発電所(PWR, 85.7万kW)の再稼働、韓国水力原子力(KHNP)の運転期間延長、チェコのドコバニ原子力発電所(VVER-440×4基)の出力増強に関する、各々の取り組みがケーススタディとして紹介されている。
02 Sep 2024
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米テネシー州のテネシー峡谷開発公社(TVA)の理事会は8月22日、テネシー州オークリッジ近郊のクリンチリバー・サイトへの小型モジュール炉(SMR)建設に向けて、1.5億ドル(約217.5億円)の追加出資を承認した。すでに2022年2月の理事会で2億ドル(約290億円)の出資を承認しており、今回の承認によりSMR建設プロジェクトは総額3.5億ドル(約507.5億円)となる。人口および経済が拡大する地域の電力供給にSMRを活用し、クリーンエネルギーへの移行の加速化をねらう。TVAのJ. ライアシュCEOは、「SMRは、米国が覇権を握るべきエネルギー革新技術。米国のエネルギー安全保障のためであり、まさに国家安全保障である」と述べた。また、テネシー州のB. リー知事は、「テネシー州民は、安全でクリーンで信頼性の高い原子力へのTVAの継続的な投資を高く評価。テネシー州は原子力エネルギー企業が投資して繁栄するナンバーワンの州となる」と今回の追加出資を歓迎している。TVAはクリンチリバー・サイトについて2019年12月、米原子力規制委員会(NRC)より、SMR建設用地として事前サイト許可(ESP)を取得済みだ。TVAは合計電気出力が80万kWを超えない2基以上のSMRの同サイトでの建設を想定し、2016年5月にNRCにESPを申請していた。TVAは、SMRの中でも最も実現性が高いとの判断から、2022年8月、クリンチリバー・サイトで、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMRのBWRX-300(BWR、30万kWe)を建設する可能性に基づき、予備的な許認可手続きを開始した(既報)。TVAは、先進炉の開発・導入には連邦政府による支援が不可欠であり、財務的・技術的リスク回避の観点から、複数のパートナーと連携して開発すべきとの考えだ。そのため、カナダのダーリントン新原子力プロジェクトにBWRX-300を採用した、加オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社と2022年4月に提携で合意、SMRの設計、許認可、建設、運転について協力するほか、ポーランドにBWRX-300導入を計画する、オーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社とも革新技術導入に伴う財務リスク低減のためノウハウの共有促進で協力する。さらに、TVAは2022年4月、米ケイロス・パワー社が結成した北米電力会社のコンソーシアム(加ブルース・パワー社、米コンステレーション社、米サザン・カンパニー)にも参加し、ケイロス社のフッ化物塩冷却高温炉(FHR、14万kWe)の開発を支援している。2021年5月、ケイロス社と低出力(熱出力3.5万kW)のFHR実証炉ヘルメスの建設への協力を表明。クリンチリバー・サイトに近い、米エネルギー省(DOE)の東部テネシー技術パーク(ETTP)内での建設に向けて、エンジニアリング、運転、許認可手続関係の支援を実施している。TVAは1933年、米大統領F. ルーズベルトが、世界恐慌の対策として実施したニューディール政策の一環として、テネシー川流域の総合開発と失業率対策を目的に行われた米政府による公共事業を実施する国有電力企業。現在、アラバマ州、テネシー州において3サイトで計7基の120万kW級の大型軽水炉を所有/運転する。
30 Aug 2024
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カザフスタンの首都アスタナで8月20日、今秋に予定されている原子力発電所の建設に関する国民投票を前に、20回目となる最後の公開討論が開催された。公開討論は、原子力分野の専門家、政府関係者、一般市民が参加し、国内複数の地域で2023年夏から開催されてきた。同討論会で、エネルギー省原子力産業局のG. ムルサロヴァ副局長は、同国は総発電電力量の70%を石炭火力に依存しており、複数の石炭火力発電所が今後10年で閉鎖されると指摘。一方、電力消費量は年間約3%増加し、2023年には消費電力1,150億kWhの内、20億kWhがロシアから供給されたと懸念を表明。エネルギー安全保障の観点から、今こそ原子力発電所の建設に向けて行動する時だと述べた。また、周辺国の状況として、ベラルーシとアラブ首長国連邦が初の原子力発電所を運転開始し、トルコでは現在建設中、隣国ウズベキスタンは小規模な原子力発電所の建設を発表していると強調した。有限責任事業組合「カザフスタン原子力発電所」(KNPP)のT. ジャンチキン事務局長は、首都アスタナを含むカザフスタン北部では電力不足はないが、同国最大の人口を擁する南部の都市アルマティ周辺の状況は複雑で、既存の送電線も南部地域への送電には十分な容量ではないと説明。なお、アルマティ州のジャンブール地区にあるバルハシ湖西南のウルケン村が原子力発電所の建設サイトとして選定されている。また同事務局長は、13件の炉型候補から、建設と運転経験で実証済みの4炉型の選定に言及したほか、原子力発電所の建設は、新たな雇用創出だけでなく、同国経済と関連産業の発展に重要な相乗効果を与えるものだと強調した。KNPPは、カザフスタンにおける原子力発電所建設の事業化可能性調査や設計文書の作成などを目的に2014年に設立された。2023年9月、K.-J. トカエフ大統領は国民向けのメッセージの中で、原子力発電の導入は経済的・政治的に重要であると強調し、原子力発電所の建設を国民投票で決議することを提案。同大統領は今年6月下旬、原子力発電所の建設に関する国民投票を今秋実施すると発表した。なお、大統領直轄の戦略研究所はこのほど、8月7日~18日に実施した原子力発電所建設に対する国民の意識調査の結果を公表した。調査は、大都市であるアスタナ、アルマティ、シムケントを含む17の地域の18歳以上の1,200名を対象に電話で実施された。回答者の53.1%が原子力発電所建設を支持し、32.5%が反対を表明している。
29 Aug 2024
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中国国務院の常務会議は8月19日、5サイトで、11基の新設を承認した。なお、「安全確保は原子力発電の発展の生命線。原子力発電の安全技術水準とリスク防止の能力を絶えず向上させ、全分野にわたり安全監督管理を強化、原子力業界の長期的かつ健全な発展を促進しなければならない」と強調した。今回承認された新設11基は、以下の通り。■中国核工業集団公司(CNNC)江蘇省 徐圩原子力発電所第1期プロジェクト計3基(PWR=「華龍一号」(HPR1000)×2基、各120.8万KWe、HTGR「HTR-PM600S」×1基、66万kWe)■中国広核集団(CGN)山東省 招遠原子力発電所1、2号機(「華龍一号」(HPR1000)×2基、各121.4万kWe)広東省 陸豊原子力発電所1、2号機(PWR=CAP1000×2基、各124.5万kWe)浙江省 三澳原子力発電所3、4号機(「華龍一号」(HPR1000)×2基、各121.5万kWe)■国家電力投資集団(SPIC)広西チワン族自治区 広西白龍原子力発電所第1期プロジェクト1、2号機(CAP1000×2基、各125万kWe)CNNCの徐圩原子力発電所第1期プロジェクトは、中国が独自開発した第3世代の加圧水型炉と第4世代の高温ガス炉を連結した世界初の原子力発電所となる。原子炉、蒸気タービン発電機、加熱システムを含む統合運転方式を採用。主に工業用熱(高温蒸気)供給に焦点を置き、余剰熱エネルギーを電力供給に転用する。加熱負荷に応じて発電量を決定する運転モードの採用は初となる。第1期プロジェクトの発電所が完成すれば、近隣の連雲港石油化学工場に低炭素電源による大規模で高品質な熱を供給し、エネルギー集約型産業の脱炭素化を後押しするという。CGNの陸豊原子力発電所では、現在、5、6号機(華龍一号、各120万kWe)が先行して建設中。今回、承認された同1、2号機で採用されるCAP1000は、米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000の中国版標準炉モデルである。また、三澳原子力発電所では現在、1、2号機(華龍一号、各112.6万kWe)が建設中だ。CGNによると現在、承認された新設に向けて様々な準備作業を進めており、国家核安全局(NNSA)から建設許可を取得した時点で着工する予定だ。SPICの広西白龍原子力発電所第1期プロジェクトでは、今回承認された同1、2号機が建設されるが、後続のプロジェクトでは「国和一号」(CAP1400、153万kWe)を採用した4基の建設が計画されている。2023年の中国における総発電電力量のうち、原子力発電シェアは約4.9%。同年の原子力発電電力量は4,065億kWhで、米国に次いで第2位である。なお、原子力発電設備容量は5,699.3万kWで、米国、フランスに次ぎ、第3位。
28 Aug 2024
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南アフリカのK. ラモコパ・エネルギー・電力相は8月16日、計250万kWeの原子力発電所の建設の調達プロセスに関する大臣決定を撤回すると発表した。パブリックコメントを募集しなかったことが、手続きの上で不備と指摘されたため、あらためてパブコメを募集し、手続きの透明性を確保するという。同大臣は、原子力は南アフリカのエネルギーミックスの重要な構成要素であり、国のエネルギー安全保障と気候目標に大きく貢献できる低炭素で信頼性の高い電力を供給するものと強調。「今回の撤回は、このような重大な決定において国民の声が確実に考慮されるようにする重要な一歩だと考えている」と述べた。プロセスは3~6か月遅れとなるが、確実に調達プロセスを実施するという。新規原子力発電所の建設計画は、2019年に公表された、国のエネルギー・インフラ開発計画である「2030年までの統合資源計画(IRP2019)」に明記されている。現在、政府は改定版となるIRP2023の草案を最終調整中だ。
27 Aug 2024
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米ホルテック・インターナショナル社は8月15日、同社のパリセード原子力発電所の改修の一環として、ミシガン湖の水温上昇予測に対応する新しい熱交換器システムを製造中であると発表した。ホルテック社によると、湖や海、川などの水域からの冷却水に依存する発電所の出力は、地球温暖化の影響で水温が上昇するにつれて確実に低下。現在、改修工事中のパリセード原子力発電所に冷却水を供給するミシガン湖の水温は、世界の他の貯水池と同様に上昇を続けており、今後数十年の運転期間延長の間にも、上昇を続けると予想している。パリセード発電所の改修の一環として、ホルテック社は、ペンシルベニア州ピッツバーグにある自社の工場で冷却水熱交換器システムを製造している。既存の熱交換器の設置スペースが極めて限られる中、予想される湖水温度の上昇に対応するため、新しい熱交換器は既存の2倍以上の伝熱面積が必要であった。自社の革新的な設計開発によりアップグレードされた熱交換器セットは、2025年末に予定されるパリセード発電所の再稼働のため、今後1年以内に設置される予定。この冷却システムのアップグレードには土木/構造工事がほとんど必要なく、費用は当初の見込みより50%以上削減できる可能性があるという。ホルテック社のJ. ラッセル広報担当責任者は、「地球温暖化が原子力発電所やその他の発電所に及ぼす悪影響と闘うために何が可能か、この技術的成果を他の発電所の関係者と共有したい」と述べた。パリセード発電所(PWR、85.7万kWe)は、1971年に営業運転を開始し、2022年5月に永久閉鎖となり、翌6月、同発電所は所有者・運転者のエンタジー社から、廃止措置を実施するため、ホルテック社に売却された。近年、各国が炭素負荷の抑制に取り組み、原子力のようにクリーンなエネルギー源が重視される時代となったことを受け、ホルテック社は同発電所を再稼働する方針に切り替え、2023年10月、米原子力規制委員会(NRC)に運転認可の再交付を申請した。パリセード発電所の再稼働方針については、ミシガン州のG. ホイットマー知事が2022年9月に支持を表明。2023年7月には、同発電所の再稼働に1.5億ドル(約215.4億円)の支援を盛り込んだ2024会計年度の州政府予算法案に署名している。2024年4月には、米エネルギー省(DOE)が融資プログラム局(LPO)を通じて、同発電所の再稼働に向けた融資保証として15.2億ドル(約2,183.2億円)を上限とする条件付きの提供を発表。ホルテック社は、少なくとも2051年まで運転できるよう種々の機器の大規模な改修や交換工事プラントの改良を実施中だ。なお、ホルテック社は、同社製小型モジュール炉「SMR-300」(PWR、30万kWe)を2基、パリセード発電所サイトに建設する計画も進めている。同2基が稼働すれば、ミシガン州の無炭素電源の設備容量はほぼ倍増となる。2026年の建設許可申請を予定している(既報)。
26 Aug 2024
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米ウェスチングハウス(WE)社は8月15日、米原子力規制委員会(NRC)から、同社製事故耐性燃料(ATF)であるEncore燃料の燃焼度制限引上げの承認を取得した。国内で初承認となる。燃料効率の向上、燃料交換間隔の延長により、運転コストの削減に貢献する。米国のPWRは現在18か月サイクルで運転されており、この新しい高燃焼度燃料によって供給バッチサイズを小さくすることが可能になり、燃料サイクルの経済性が改善される。米国で初めて62,000MWd/tの燃焼度制限を超えた燃料装荷が可能となり、将来的には24か月サイクル運転になることが期待される。WE社は、今回の燃焼度引上げの承認が、2012年に同社が開始したATF開発プログラムにとって重要なマイルストーンと強調する。同プログラムには、米エネルギー省(DOE)が資金拠出。米国のエネルギー安全保障と気候目標の達成支援のため、原子炉性能と安全性を向上させることを目的としている。WE社のEncore燃料は、既存燃料よりもはるかに厳しい条件下で耐性を持つ。炭化ケイ素燃料被覆管の融点は極めて高く(2,800℃以上)、水との反応が少ないため、特にジルコニウム燃料被覆管が1,200℃を超えると水素と熱の生成反応が著しくなるのに比べ、過酷事故条件下で画期的な安全性を発揮するという。また、同社はジルコニウム-蒸気反応も抑制する代替被覆管材料であるクロムコーティングジルコニウム合金も開発している。
26 Aug 2024
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欧州原子力共同体(ユーラトム)供給局は8月13日、欧州域内における燃料供給に関する2023年の年次報告書を公表。多くの国でロシア型PWR(VVER)向け燃料の供給保証が大幅に向上したとする一方、転換・濃縮サービスの多様化に関しては課題が残ると強調している。報告書はまず、2023年の核燃料供給状況について、ウクライナ紛争の影響やロシア依存脱却に向けた供給多様化の必要性、地政学的影響に関連した供給の不確実性に直面したと指摘。同時に、一部の国による原子力発電所の運転期間延長や拡大計画、小型モジュール炉(SMR)や先進モジュール炉(AMR)などの革新炉プロジェクトの出現、さらには医療用RIの利用に対する関心の高まりにより、ヨーロッパにおける核物質の供給状況が変化していると指摘した。報告書は今後も、少なくとも中長期的には、天然ウラン、燃料加工、関連サービスに対する需要は、地政学的状況の課題やさまざまなリスクに左右されるであろうと結論付けている。こうしたなか、EU域内(27か国)では103基の原子炉が運転中で、2023年の原子力発電電力量は5,876億kWh、総発電電力量に占める原子力の割合は約23%であった。このうち、フランス、スロバキア、ハンガリー、ブルガリアの原子力シェアは40%を超えている。EUの天然ウランの調達先をみると、カナダが約33%(4,801トンU)、ロシアが約23%(3,419 トンU)、カザフスタンが21%(3,061トンU)、ニジェールが約14%(2,089 トンU)と、EUの天然ウランの91%以上をこれら4か国が供給。このうち、カナダからの供給が前年比約86%増、ロシアからの供給も約73%増と大きく伸長した。ロシアからの供給増について、報告書は、ロシアのウクライナ侵攻による地政学的緊張を受けた、VVER用燃料備蓄の動きによる影響であり、現段階ではEUのロシア依存の高まりとして解釈すべきではないとした。2022年以降、VVERを運転するハンガリーを除くEUの事業者(ブルガリア、チェコ、フィンランド、スロバキア)は、新たな燃料サプライヤーとの燃料供給契約を締結するなど燃料供給先の多様化に取り組んでいるが、代替燃料等が完成、認可されるまでの期間をカバーするため、既存の燃料の備蓄を積み上げている状況だ。不安定な市況に対応するため、EUの電力会社は在庫を積み増した結果、2023年のEU全体の在庫水準も約5%増加、さらに濃縮ウランの在庫も13%増加した。報告書は、大多数の電力会社は、2 回以上の燃料再装荷が可能な在庫状況にあるとし、健全なレベルを維持しているとの見方を示している。一方で、報告書は、原子力発電に対する関心が世界的に再燃するなか、エネルギー自立を維持しつつ、気候目標を達成するためには、信頼性の高いサプライチェーンの開発に向けたさらなる取り組みが必要と指摘。特に、転換・濃縮における西側諸国の潜在的な能力不足を挙げ、これらサービス確保の重要性を強調した。そのうえで、今後、転換・濃縮サービスの安定的かつ信頼性のある供給を確保するためには、新たな生産能力へのさらなる投資が不可欠であり、原子力産業が多額の投資をできるよう、安定した予測可能な市場環境の整備、投資家に保証を与える長期契約や明確な政治的コミットメントの必要性を勧告した。なお、EU域内における転換サービスは、仏加米などの西側諸国が約66%を供給、一方、EU域内での濃縮は55%と半分以上を占めている。報告書はまた、MOX燃料や再処理による回収ウランといった二次資源の利用が増加している点にも着目、今後10年間でこれらの利用が大幅に増加すると予測している。報告書によれば、2023年のMOXおよび回収ウランの装荷量は、天然ウラン換算で前年比44%増の481トンU、年間の原子炉所要量の3.6%を占めた。この二次資源利用の増加の傾向は今後も継続し、2034年以降は2,800トンU程度で安定すると分析している。なお、2023年のEU域内におけるMOX燃料の装荷量(プルトニウム換算)は、前年比59%増の4,787kgとなり、これによる天然ウランと濃縮役務(分離作業単位: SWU)の節減は、天然ウランで427トンU、濃縮役務で300,000SWUとなった。1996年から2023年までのMOX燃料装荷量は、累計で24万6,009kg(プルトニウム換算)となり、天然ウランと濃縮役務の節減もそれぞれ26,626トンU、18,085,000SWUに達している。EUにおけるMOX燃料装荷量は、2008年の16,430 kg(プルトニウム換算)をピークに、徐々に減少。報告書によると、2023年にMOX燃料を利用した国は、フランスとオランダの2か国のみとなっている。
26 Aug 2024
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英国のコアパワー社は8月15日、ロイド船級協会(LR)、海運業界最大手のデンマークのA.P.モラー・マースク社とともに、第4世代原子炉を動力源としたコンテナ船の実現に向けて、規制要件や安全性を調査する共同研究プロジェクトを開始した。 コアパワー社の発表によると、今回の共同研究は、温室効果ガス(GHG)排出量削減を求められている海運業界全体に、原子力船の実現に向けた判断材料を提供するのが狙いで、同社の浮体式原子力発電所プロジェクトを手掛けてきた経験、LRの長年にわたる船級協会としての専門知識、海運業界最大手のマースク社の経験を活かしていくとしている。コアパワー社のM. ボーCEOは、「原子力がなければ、ネットゼロを実現することは不可能だ」と述べ、LRのN. ブラウンCEOも「今回の共同研究開始は、海運業界に原子力発電の可能性を解き放つ刺激的な旅の始まり。海運業界の脱炭素化に向けた原子力を含む多燃料化は、国際海事機関(IMO)が求める排出削減目標を達成するために不可欠」と述べた。マースク社の船舶技術責任者である、O.G.ヤコブセン氏は、安全性、廃棄物処理、地域の理解といった原子力発電に関する課題に触れつつ、「これらの課題が第4世代の原子炉開発によって解決されれば、今後10~15年で物流業界の脱炭素化のオプションの一つとなり得る」と期待した。 IMOの「2023 IMO GHG削減戦略」は、国際海運からのGHG排出量を2050年頃までに正味ゼロにすることを目標として掲げ、海運業界にとってGHGの削減は大きなミッションとなっており、原子力船についても様々な方向から検討がなされている。今年6月にコアパワー社が英国で開催した「第5回海事向け新原子力サミット」には関係者250人以上が集まり、原子力と海事の専門家が原子力船実現に向けた講演やディスカッションを行った。なお、今年7月には韓国の大学で世界初の小型モジュール炉(SMR)搭載船舶を研究する機関が設立されている。
23 Aug 2024
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カナダの環境影響評価庁(IAAC)と原子力安全委員会(CNSC)は8月12日、オンタリオ州のブルース原子力発電所増設に係る初期プロジェクト概要(Initial Project Description:IPD)に対するパブリックコメントを開始した。同発電所を運転するブルース・パワー社は2023年10月、周辺住民や環境等への増設計画の潜在的な影響評価(Impact Assessment=IA)手続きの開始と、将来的にサイト準備許可(LTPS)を申請する方針について、IAACとCNSCに書簡で正式に伝えており、今回のパブリックコメントはIA手続きの一環。ブルース・パワー社は、ヒューロン湖畔にある既存サイト内の932ヘクタールのスペースでブルースCの最大480万kWeの増設を計画している。同サイト内では、ブルースA(1~4号機)とブルースB(5~8号機)の各サイトで80万kWe級のCANDU炉が運転中。IAACとCNSCは現在、先住民族と一般市民に対し、9月12日までにIPDの概要をレビューし、提案されたプロジェクトに関するフィードバックを提供するよう呼びかけている。なお、ブルース・パワー社はIPDの中で、ブルースCで検討している採用炉型として、加アトキンス・リアリス社の新型CANDU炉のMONARK、フランス電力(EDF)のEPR、日立GEニュークリア・エナジー社のABWR、米GE・日立ニュクリアエナジー(GEH)社の小型モジュール炉(SMR)であるBWRX-300、米ウェスチングハウス(WE)社のAP1000を挙げているが、今後、進行中の技術評価プロセスや、先住民族や地域社会との連携活動の中で変更される可能性があるとしている。ブルース・パワー社は、ブルースCプロジェクトのIA手続きに約3~4年、IAの承認とLTPS取得に2028年~2031年の約3年間、建設許可取得ならびに建設と試運転期間に2031年~2045の約14年を見込む。採用炉型にもよるが、運転期間は60年~100年間を想定している。2023年7月、オンタリオ州政府は、州の経済成長に向けたクリーンな長期的電力システム構築計画「Powering Ontario’s Growth」の中で、ブルース・パワー発電所での増設に係る開発前段階の準備作業を支援すると発表。今年2月、カナダ連邦政府はブルースCプロジェクトの実行可能性調査(FS)を支援するために5,000万加ドル(約53.7億円)を拠出すると発表している(既報)。連邦政府は2050年までに電力需要の倍増を予測、現在の電力設備容量を今の2.2~3.4倍にする必要があるとし、原子力プロジェクトをタイムリーで予測可能かつ責任ある方法で実施することを支援していく考えだ。なお、ブルース・パワー社は増設計画と並行して、既存炉の運転期間延長に向け、蒸気発生器や圧力管等の主要部品交換(MCR)を主とする大規模改修プロジェクトを実施中。3~8号機を対象に2064年まで既存施設の運転期間を延長する計画だ。1、2号機はすでに改修済み。2020年1月に始まった6号機の改修工事は予定より早く2023年8月に終了、同年9月に営業運転を再開した。現在、3号機の改修中で、残る4、5、7、8号機の順で改修工事を進め、2033年までに完了させる予定。ブルース発電所による発電電力量は現在、オンタリオ州の総発電電力量の約30%を占めている。
23 Aug 2024
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米国で先進炉開発を進めているオクロ社は8月13日、同社が開発する小型モジュール炉(SMR)である「オーロラ」向け電力変換システムに関する優先サプライヤー契約を、独シーメンス・エナジー社と締結した。オクロ社によると、本契約は昨年12月に締結した覚書に基づいており、顧客の増大する電力需要に応えるため、生産の拡張、コスト効率、および迅速な展開を強化するという同社のビジョン上、重要なステップとなるという。オクロ社は、複数の発電所全体で機器を標準化し、製造、建設、運転、メンテナンスのコスト削減のみならず、メンテナンスによる停止期間を短縮させ、全体的なパフォーマンスを向上させたい考えだ。オーロラは、液体金属冷却の高速中性子炉で、ヒートパイプを使用して炉心から超臨界二酸化炭素発電システムに熱を運び発電する。HALEU((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))燃料を使用しており、少なくとも20年間、燃料交換なしで熱電併給が可能である。出力は顧客のニーズに合わせて1.5万~5万kWeの範囲で調整が可能だ。米エネルギー省(DOE)は2019年12月、先進的原子力技術の商業化を支援するイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」の一環として、アイダホ国立研究所(INL)敷地内でオーロラの建設を許可。これを受けてオクロ社は翌2020年3月、原子力規制委員会(NRC)にオーロラ初号機の建設・運転一括認可(COL)を申請したが、NRCは、審査の主要トピックスに関する情報がオクロ社から十分に得られないとして、2022年1月に同社の申請を却下した。オクロ社は同年9月、オーロラの将来的な許認可手続きが効率的かつ効果的に進められるよう、NRCとの事前協議を提案する「許認可プロジェクト計画(LPP)」をNRCに提出している。なお、DOEおよびアルゴンヌ国立研究所やアイダホ国立研究所などと共同で、使用済み燃料から残りの潜在的エネルギーの90%以上を抽出し、オーロラの燃料として利用する、先進的な燃料リサイクル技術の開発にも取り組んでいる。
21 Aug 2024
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ノルウェーの新興エネルギー企業ノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社は8月8日、複数の小型モジュール炉(SMR)で構成される原子力発電所建設に向けた評価提案書をエネルギー省に提出した。同社による提案書の提出は3件目で、今回の建設サイトはノルウェー西岸ヴェストラン県ベルゲン市の西にあるエイガーデン(Øygarden)自治体。ノルスク社は、ノルウェー国内の複数の自治体や電力集約型産業と連携したSMRの立地可能性調査を実施し、SMRの建設・運転を目指している。エネルギー省への提案書の提出は、発電所建設に必要な正式なプロセスの第一段階。提案書はエネルギー省の他、放射線防護・原子力安全局(DSA)、ノルウェー環境庁にも送付されている。自治体や住民、産業界からのコメントを得て、エネルギー省から最終承認されれば、ノルスク社は環境面や技術面、経済面、および安全面の影響評価を実施する。提案書では、エイガーデンにおける原子力発電所の立地条件を説明するほか、原子力発電所がエネルギーと気候に関する同国の公約の達成にどのように役立つかについても説明している。提案書には調査プログラム案が盛り込まれており、調査範囲は、発電所の建設、運転、廃炉の社会的・環境的影響の評価に限定されている。建設予定サイトはコルスネス工業地帯に隣接し、エイガーデンの前首長が所有する250エーカー(約1km2)の土地。ノルスク社は、SMR発電所の建設サイトとして同サイトを取得することを明記した意向書を前首長と交わしている。ノルスク社は、同サイトに電気出力30万kWのSMRを5基建設する計画で、年間125億kWhの発電が可能。これはノルウェーの現在の総電力消費量の約10%に相当する(既報)。ヴェストラン県はノルウェーで最も温室効果ガス排出量の多い地域。エイガーデン自治体はすでに大規模な電力不足に陥っており、計画されている石油・ガス設備の電化プロジェクトなどが実施されると一層の深刻化が予想される。SMR発電所が立地した場合、ベルゲン市の既存および計画中の送電インフラを利用可能で、石油・ガス設備の電化、電力集約型の新産業の創設、電力の安定供給が可能となる。ノルスク社はこれまでエネルギー省に対し、2023年11月、ノルウェー西部のアウレ自治体とハイム自治体の境界に位置する共同工業地帯でのSMR発電所建設の評価提案書を、今年6月には、ノルウェー最北東部のフィンマルク県ヴァードー自治体のスヴァルトネス村における建設の評価提案書を提出している。なお、ノルウェー政府は今年6月、同国における将来の原子力発電所建設の可能性について様々な側面から広範なレビューと評価を行う委員会を設立した。2026年4月1日までに政府に報告書を提出することになっている(既報)。
21 Aug 2024
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国際原子力機関(IAEA)は8月9日、「原子力発電のための国家インフラ開発におけるマイルストーン」の改訂版を公開。その中で、小型モジュール炉(SMR)に関する諸問題を考察している。改訂版は、原子力発電の新規導入または既存の原子力発電計画の拡大の準備方法に関するIAEAの基本的な指針を示し、小型モジュール炉(SMR)特有の導入問題を概説した付属文書を含む。原子力発電所導入の計画、建設、運転、廃炉の全プロセスを通じて各国の指針となる段階的手法であるマイルストーン・アプローチが定義する、3つの全フェーズを完了または大きく進展させた国の現況にも焦点を当てている。IAEAは、「今は、多くの国がネットゼロの公約を達成するためエネルギーミックスとして原子力を検討する重要な時期。2007年の初版発行、2015年の改訂を経て、今回2度目となる改訂は時宜を得たもの」と指摘する。今回の改訂版では、原子力発電を新規導入または拡大している国に対する最近の統合原子力基盤レビュー(INIR)ミッションから得られた教訓を取り入れている。また、今後数年の間に、新規炉の多くが大型水冷却炉となると予想する一方で、SMRが排出削減と持続可能な発展のために重要な役割を果たすとの認識を示している。SMR導入の利点として、遠隔地や送電網が貧弱な地域への導入の利便性のほか、モジュール設計による工期短縮を掲げている。なお、増大する電力需要に応えるため原子力発電導入を検討するデータセンターなどの新たなエンドユーザーや、脱炭素化を必要とする産業用途が多数あり、SMRの展開は迅速なライセンス取得と商業化の達成次第であると強調する。IAEA原子力局のA.クロワゾー部長は、「原子力を取り巻く状況が進化するにつれて、IAEAの支援も進化していかなければならない。SMRがクリーンエネルギーへの移行に不可欠な要素であることは明白であり、SMRに関心を持つ国がプロジェクトを成功するには何が必要かを確実に理解するよう支援したい」と語った。改訂版では、SMRは従来の原子炉とシステムの多くが共通で、法的・規制的枠組み、ステークホルダーの関与、環境保護への配慮などもほとんど同じだが、低出力や簡素化された設計などの独自の特徴により、特定のインフラ要件が異なる可能性を指摘。特に非水冷却炉のSMR導入を計画する国は、新たな形態の放射性廃棄物が発生する可能性があるため、廃棄物管理計画への留意の必要性や、新たな種類の燃料採用にあたり、安定調達を可能にするサプライチェーンの確保、新設計の特徴に対応した、新たな保障措置アプローチの開発などが重要であると言及している。IAEAは、今年10月21日~25日にウィーンで「第1回SMRとその応用に関する国際会議」を開催する。会議ではSMR開発および展開の加速に向けた機会、課題、実現条件について議論する予定だ。
20 Aug 2024
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ロシア国営原子力企業のロスアトムは8月5日、ロシアのウドムルト共和国のグラゾフにあるロスアトムの燃料部門傘下のチェペツク機械工場において、クロムメッキの燃料被覆管の商業規模のパイロット生産を開始したことを明らかにした。同施設では従来のジルコニウム合金製の長い被覆管に、スプレーを用いてクロムの保護コーティングを直接塗布し、燃料被覆管のパイロットバッチを製造した。ロスアトムによると、この構造材料は燃料の安全性を向上させた新世代燃料である、事故耐性のある先進技術燃料(Advanced Technology Fuel:ATF)に応用が可能で、原子炉の安全性と効率を高めるという。ロシア南西部のロストフ原子力発電所2号機(VVER-1000、100万kWe)では、2021年から、クロムメッキのジルコニウム合金とクロムニッケル合金の2種の燃料被覆管を用いた試験用ATF燃料棒を各6本、燃料集合体3体に組み入れてパイロット運転をしてきた。この技術ソリューションは、緊急時に炉心でのジルコニウム蒸気反応の進行を排除または大幅な減速を可能にするという。チェペツク機械工場では今後、クロムメッキの燃料被覆管の燃料集合体を数体製造、大型炉に装荷してパイロット運転をする予定。ATF燃料の適格性を確認し、その商業生産に道筋をつけたい考えだ。
20 Aug 2024
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米ウェスチングハウス(WE)社は8月7日、英国のスプリングフィールド燃料加工工場で高濃縮度の新燃料ペレットの製造に成功した。この燃料ペレット「LEU+ADOPT」は、原子力発電所の性能と安全性の向上を目的に、米エネルギー省(DOE)の事故耐性燃料(ATF)プログラムを通じて開発された。同プラグラムは10年以内に商業化される可能性のある新燃料ペレットと被覆管設計を支援している。従来の燃料より安全性能を向上させ、濃縮度を8%まで高めることで、より長時間の運転を可能にし、燃料交換に必要な停止回数を減らして運転コストを改善する。現在、ほぼすべての商業用原子燃料はウラン235を3~5%に濃縮したものである。新燃料は英国の工場で4体の先行試験用燃料集合体に組み込まれ、2025年春、米ジョージア州にあるA.W.ボーグル2号機(PWR、122.9万kWe)での照射試験のため出荷される。
19 Aug 2024
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リトアニアのイグナリナ原子力発電所は7月30日、深地層処分施設(GDF)の建設に向け、国内29の自治体において候補サイト計77地点を特定した。リトアニアは2020年、イグナリナ発電所で発生した使用済み燃料と長寿命放射性廃棄物を最終処分することを目的としたGDFの建設プロジェクトを開始した。イグナリナ発電所が同プロジェクトの実施主体となり、同発電所のほか、エネルギー省、財務省、環境省、原子力安全検査局(VATESI)、放射線防護センター、リトアニア地質局の専門家から構成される作業部会がプロジェクトを監督する。同発電所は初期の現地調査をリトアニア地質局、フィンランドのポシバ社、および建設コンサル、エンジニアリングの多国籍企業であるスペインのIDOM社と協力して実施。110地点の候補サイトが初期評価で検討されたが、地下水や鉱床の存在や、地域の将来構想、環境基準、地質学的要件などの観点から33地点が却下された。2047年には最終候補地の選定を行いたい考えだ。それまでに潜在的に適した地点での詳細な調査や環境影響評価(EIA)、公開協議を実施する。イグナリナ原子力発電所(軽水冷却黒鉛減速炉=RBMK-1500×2基、各150万kWe)は、リトアニアが欧州連合(EU)に加盟する条件として2009年に閉鎖されるまで、リトアニアの電力の70%を供給していた。現在、すべての使用済み燃料は取出され、ドライキャスクに収納、少なくとも50年間使用できるように設計されたサイト内の中間貯蔵施設に保管されている。GDFは、政府が承認した「2021~2030年原子力施設の廃止措置と放射性廃棄物管理プログラム」に規定され、GDF最終候補地の選定後、①設計(2048~2057)、②建設(2058~2067)、③操業(2068~2074)、④閉鎖(2075~2079)の4段階を計画している。現在、GDF建設プロジェクトの基本概念の開発が、ポシバ社傘下の廃棄物管理会社Posiva Solutionsの支援下で進行中。地層の適合性や、GDF設置に必要な工学的要素と技術的手法を評価、分析し、プロジェクト実施のための基本計画と予算の準備を行う。
19 Aug 2024
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英国の先進炉の開発企業であるニュークレオ社は8月7日、スロバキアの大手原子力エンジニアリング企業であるVUJE社と、スロバキアにおける先進モジュール炉(AMR)と先進的な燃料サイクルの開発の協力強化で合意した。具体的な協力分野は、ニュークレオ社が開発した鉛冷却高速炉(LFR)および、LFR向けMOX燃料。スロバキアが所有する使用済み燃料をMOX燃料としてLFRで再利用する可能性を探り、スロバキアの核燃料サイクルの完結を目指す。ニュークレオ社は2023年以来、スロバキアの原子力産業および政府の主要企業と積極的に接触しており、同年12月には、スロバキア経済省および国営バックエンド企業のヤビス(JAVYS)と、協力機会の模索とAMR開発を目的とする覚書を結んでいる。ニュークレオ社は、LFR建設を複数の国が関わるヨーロッパ大のプロジェクトと位置づけ、2021年の設立以来、欧州の多数の企業・機関との協力提携を推進している。2022年3月には、イタリア経済開発省の傘下で液体鉛の分野では世界レベルの新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)と枠組み協定を締結。2023年10月には、イタリアの機器製造企業のトスト・グループと、LFRの研究・設計から実証、商業化まですべての段階をカバーする協力・投資協定を締結した。同年6月には、LFRに装荷するMOX燃料の製造工場建設に向け、仏オラノ社に事業化調査を依頼。さらに今年4月には仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)とフランスにおけるLFRの開発シナリオ、燃料の適格性評価、計算コード、材料などの分野で提携契約を締結している。ニュークレオ社は、2030年には、フランスにおいて電気出力3万kWの鉛冷却高速中性子実証炉(LFR-30)を、2033年には英国で電気出力20万kWの商業炉(LFR-AS-200)の初号機を完成させる計画だ。
16 Aug 2024
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スウェーデン政府は8月1日、米国と新たな原子力発電開発に向けた両国間の協力強化をめざし、了解覚書(MOU)を締結。スウェーデンのE. ブッシュ・エネルギー・ビジネス・産業大臣兼副首相と米国のJ. グランホルム・エネルギー省(DOE)長官が同覚書に署名した。両国は今後、サプライチェーン、資金調達モデル、次世代核燃料等に関わる政策、研究、革新的技術についてノウハウを共有する。 ブッシュ大臣は、「両国の原子力協力は、労働市場や競争力にとっても有益。今後の原子力分野での協力と知見の強化に期待している」とコメント。一方のグランホルム長官は、今回のMOUにより、サプライチェーンと核燃料供給の多様化、新規原子炉の展開、使用済み燃料管理の解決に向けて、両国の協力がさらに強化される、とその意義を強調した。なお、スウェーデンは英国ともSMR開発や規制、燃料多様化といった原子力分野で協力を行うことが、2023年10月に締結された戦略的パートナーシップでも明記されている。スウェーデンは脱原子力路線を撤回し、大規模な原子力発電開発に向け、大きく舵を切っている。2022年の総選挙によって誕生した中道右派連合の現政権は、40年ぶりに原子力を全面的に推進しており、2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップを発表した。同ロードマップには、2035年までに少なくとも大型原子炉2基分、さらに2045年までに大型原子炉10基分を新設することなどが盛り込まれている。また、8月12日には、N. ウィクマン財務副大臣・金融市場大臣が、昨年12月に政府が任命したM. ディレン政府調査官とともに、新設のための資金調達とリスク管理について、国による補助金や差金決済(CfD)モデルの導入などを盛り込んだ報告書を発表。翌13日、国営電力のバッテンフォールがコメントを発表し、同報告書を歓迎する一方、建設リスクなど考慮すべき要素全てを反映しておらず、これから更に詳細な分析が必要と指摘した。スウェーデンでは現在、フォルスマルク、オスカーシャム、リングハルスの3サイトで計6基(718.4万kW)が運転中。2022年の原子力発電電力量は500.6億kWhで、総発電電力量に占める原子力の割合は約30%だった。同国では、1980年5月にオスカーシャム3号機(BWR、145.0万kW)が着工して以降、40年以上、原子力発電所は建設されていない。
16 Aug 2024
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インド北西部で建設中のラジャスタン原子力発電所7号機(加圧重水炉=PHWR、70万kWe)で8月1日、燃料装荷を開始した。燃料装荷は8月8日に完了し、392個の冷却水チャネルに計4,704本の燃料バンドルが装荷された。インド原子力発電公社(NPCIL)によると、同機は年内に営業運転を開始し、同サイトで建設中の8号機(PHWR、70万kWe)は来年に送電を開始する予定だ。NPCILは、計16基からなる70万kW級の国産PHWR建設プロジェクトを掲げており、ラジャスタン7号機が運開すると、同プロジェクトではカクラパー3、4号機に次いで、3基目となる。カクラパー3号機は2023年6月、4号機は2024年3月にそれぞれ営業運転を開始している。なおインドでは、2022年10月より運転を停止していたラジャスタン3号機(PHWR、22万kWe)が冷却材チャネルやフィーダーの交換などの大規模なバックフィット作業を経て、7月24日に送電を再開している。
15 Aug 2024
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米ホルテック・インターナショナル社製の小型モジュール炉「SMR-300」(PWR、30万kWe)が8月1日、英国の包括的設計審査(GDA)のステップ1(GDA範囲とスケジュールの合意段階)を完了し、ステップ2(実質的な技術評価段階)に進んだ。GDAとは英国で初めて建設される炉型に対して行われる設計認証審査で、英原子力規制庁(ONR)が設計の安全性とセキュリティの観点から、環境庁(EA)およびウェールズ自然保護機関(NRW)が環境影響の観点から英国の基準を満たしているかを、サイト特定後の建設申請とは別に評価する。米ホルテック・インターナショナル社傘下の英国法人ホルテック・ブリテン社の代表申請によるGDAは、2023年10月に開始された。ステップ1では、SMR-300の技術評価に加え、ホルテック・ブリテン社の運用準備状況についても肯定的な評価を行った。なお、ホルテック・ブリテン社は2023年12月、SMR-300のGDAの準備のために、英政府の「未来の原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund:FNEF)」から3,000万ポンド(約57億円)の補助金を交付されている。英政府は、2050年までに原子力発電設備容量を2,400万kWまで拡大する計画を発表しており、SMR導入も謳われている。ホルテック・ブリテン社は、英国の原子力発電所新設の牽引役として2023年7月に発足した政府機関「大英原子力(Great British Nuclear:GBN)」が実施するSMRの支援対象選定コンペの最終候補の1つに選定され、現在評価中だ。ホルテック社は英国において、米国の既存の工場を模倣したSMR-300のコンポーネント製造工場を建設すべく、サイト選定を進めている。ホルテック社によると、2011年から開発中のSMRは設計上の進化を遂げ、最新のものがSMR-300となる。2基構成のツインユニットで、所要面積はわずか0.12km2。事故時に運転員が現場を離れても安全性が保たれる特性(walk-away safe)を持つ。
14 Aug 2024
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米ケイロス・パワー社は7月30日、熔融塩実証炉「ヘルメス(Hermes)」の建設予定サイトで土木工事を開始した。テネシー州オークリッジにある米エネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」内に建設される。ヘルメスは昨年12月、米原子力規制委員会(NRC)が50年以上ぶりに建設を許可した非水冷却炉。ヘルメス(熱出力3.5万kW)は、2020年12月にDOEによる「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象炉に選定。DOEは、同炉の設計、建設、試運転の支援のため最大3.03億ドルを資金援助することになっている。ヘルメスは、安価でクリーンな熱生産を実証するため、TRISO燃料((ウラン酸化物を黒鉛やセラミックスで被覆した粒子型の燃料))と熔融フッ化物塩冷却材を組み合わせて原子炉の設計を簡素化している。2027年に運開予定だ。また、ケイロス社はロスアラモス国立研究所と提携し、同研究所の低濃縮燃料製造施設でヘルメス向けのTRISO燃料を製造するほか、テネシー峡谷開発公社(TVA)とは、設計、許認可、建設、運転等で協力する共同開発契約を締結している。なお、ケイロス社は今年7月上旬、ニューメキシコ州アルバカーキの製造施設における最初の工学試験ユニット(ETU 1.0)でフッ化物熔融塩12トンを使った2,000時間の運転試験を完了した。ETU 1.0はヘルメスの実物大の電気加熱プロトタイプで、ヘルメスの設計、建設、運転の支援向けのユニット。熔融塩システムの試験ユニットでは世界最大規模だ。現在、ニューメキシコ州でヘルメスのモジュール設計の実証に焦点を当てたETU 2.0を建設中。最終段階のETU 3.0は、ヘルメスのサイトに隣接して建設される。
14 Aug 2024
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