国際エネルギー機関(IEA)は2月11日、世界のエネルギー部門から排出されるCO2の量が2019年は過去2年続いた増加傾向が停止し、2018年実績とほぼ同レベルの約330億トンだったと発表した。世界経済が2.9%拡大するなか、CO2排出量がさらに増加するとの予想に反して「横ばい」となったのは、主に先進経済諸国で発電にともなう排出量が減少したからだと説明。これらの国では、風力や太陽光など再生可能エネルギーの役割が強化されるとともに、石炭火力から天然ガス火力への転換、原子力発電所の高稼働などが功を奏した。日本については特に、近年再稼働を果たした商業炉により原子力発電量が40%拡大し、石炭や天然ガス、石油による発電量を押し下げたと指摘。CO2排出量も対前年比4,500万トン(4.3%)減の10億3,000万トンになったが、これは2009年以降最速の削減ペースであるとともに、発電部門での最大下げ幅になったと強調している。「横ばい」の他の要因として、IEAはいくつかの国で気候が穏やかだったことと、新興国市場の一部で経済成長が鈍化したことなどを挙げた。このような結果についてF.ビロル事務局長は、「CO2排出量の増加傾向が一時的にただ停止したと言うよりも、2019年に決定的なピークを迎えたと後々に記憶されるよう、今こそ最大限の努力を傾注する必要がある」と明言。世界にはそのためのエネルギー技術が存在することから、それらはすべて活用しなければならない。IEAとしては、排出量の削減に向けて各国政府や企業、投資家、温暖化防止に純粋に取り組んでいるリーダー達との協力体制を構築中だとした。同事務局長はまた、排出量の増加が止まったことは、この10年間で地球温暖化に立ち向かえるとする根拠になっていると説明。クリーン・エネルギーへの移行が進んでいる証であり、一層意欲的な政策や投資によってCO2の排出量に有意な変化をもたらすことができると示された。このような目標の達成支援で、IEAは今年6月に「世界エネルギー見通し(WEO)特別報告書」を刊行する予定。2030年までにエネルギー関係のCO2排出量を3分の一削減し、世界を長期的な温暖化防止目標の達成に向かわせる方策を策定する。7月6日にはさらに、「クリーン・エネルギーへの移行サミット」をパリで開催し、主要各国の閣僚や関係企業のCEO、投資家などとともに意欲的な解決策を探るとしている。IEAによると、先進経済諸国におけるCO2排出量の実質的な低下は、他の国で排出量が引き続き増加するのを相殺する結果になった。米国は国ベースの下げ幅が最大値を記録し、2019年は1億4,000万トン(2.9%)の削減となった。これにより、米国では2019年の排出量がピーク時の2000年から約10億トン削減されたことになる。欧州連合(EU)諸国の排出量も、2019年は発電部門の排出量が下がったため、全体で1億6,000万トン(5%)の排出量が削減された。原因としては天然ガスの発電量が初めて石炭火力を抜いたほか、風力発電量も石炭火力と肩を並べるまでに増加したとしている。一方、残りの国々では2019年にCO2排出量が合計4億トン近くまで増大。増加分の約80%は、石炭火力発電量が引き続き上昇したアジア諸国のものだと指摘した。先進経済諸国では各国ともに発電部門からの排出量が1980年代の後半レベルまで低下したが、この当時の電力需要量は現在の3分の一程度だった。これらの国々では、再生可能エネルギーや原子力による発電量の増加、石炭火力からガス火力への転換、電力需要量の低下などにともない、石炭火力の発電量が約15%低下している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Feb 2020
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仏原子力安全規制当局(ASN)は2月6日、国内で稼働する8基の130万kW級PWRで、地震発生時に非常用ディーゼル発電機を動かす機器の一部に不具合があると報告された件について、国際原子力機関(IAEA)の国際原子力事象評価尺度(INES)で下から3番目の「レベル2:異常事象」に判定したと発表した。この事象は、仏国内すべての原子炉を所有・運転するフランス電力(EDF)が1月31日にASNに伝えたもので、外部からの電力供給途絶につながるような地震が発生した際、機器の耐震面の脆弱性により所内に電力を供給する非常用発電機の稼働を保証できないという内容。これらの不具合は昨年2月の点検時にASNが確認しており、具体的には(1)弾性パイプを接続する金具の接続不良、(2)パイプとその支持構造の一部における腐食、(3)電源盤の一部の接続不具合、――の3タイプだとしている。 ASNによると、この事象が周辺住民や環境に影響を及ぼすことはないが、1つの原子炉で地震発生時に非常用発電機が2つとも機能不全に陥った場合、影響が出る可能性が懸念される。このため、INESの「レベル0:安全性に影響を与えない」から福島第一原子力発電所事故の「レベル7:深刻な事故」まで、8段階評価のうち「2」に判定したと説明。対象となる原子炉としては、フラマンビル1、2号機、パリュエル1、3、4号機、ベルビル1号機、ノジャン・シュール・セーヌ1号機、およびパンリー2号機の8基を挙げた。ASNはまた、不具合がそれほど深刻ではなく、2つの発電機が同時に機能しなくなる心配がない別の8基の130万kW級PWRについては「レベル1:運転制限範囲からの逸脱」に指定。これらは、パリュエル2号機、サンタルバン・サンモーリス2号機、ベルビル2号機、カットノン1、3号機、パンリー1号機、ショーB2号機、シボー1号機となっている。これらの不具合はすべて、原子炉関係のものはEDFが修理するほか、弾性パイプ接続金具の不適切な組立に関しては、次回の定検時までモニタリングを強化した上で取替を実施する。なお、フラマンビル2号機は現在定検に入っていることから、すでに修理作業を実施中だとしている。(参照資料:ASN(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
10 Feb 2020
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国際原子力機関(IAEA)で昨年12月、故天野事務局長の後任に就任したばかりのR.M.グロッシー事務局長は2月5日、米ワシントンDCで開催されたカーネギー国際平和財団のイベントで講演し、「原子力の安全・セキュリティからガン治療、IAEA内での男女比平等化に至るまで、幅広い分野に特別な注意を払いIAEA業務の再調整を図りたい」との抱負を述べた。同事務局長は「福島第一原子力発電所の事故後も数多くの国が原子力発電を拡大、あるいは自国のエネルギー・ミックスへの導入に関心を抱いており、地球温暖化防止策として果たす役割も注目されている」と説明。拡大国として中国やインド、ロシアを、新規導入国としては初号機を建設中のベラルーシ、アラブ首長国連邦(UAE)の例を挙げ、原子力専門家や外交官、ジャーナリスト等の聴衆を前に「原子力発電事業は確実に成長している」との認識を強調した。IAEA予算の最大拠出国である米国への公式訪問は、同事務局長が昨年12月にエジプトおよび国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP25)の開催国スペインを訪問したのに続くもの。前日の4日にはM.ポンペオ国務長官やR.オブライエン(国家安全保障担当)大統領補佐官を含む複数の米国政府高官と協議し、世界の平和と発展に向けたIAEAの使命遂行に対し引き続き強力な支援が約束されたとした。また、米原子力規制委員会(NRC)のK.スビニッキ委員長とも会談の場を設けたとしている。今回の講演のなかでグロッシー事務局長は、原子力エネルギーとその他の分野における原子力技術の利用が拡大した結果、世界では部分的に核物質の使用量が継続して増大していると指摘。これにより、安全・セキュリティ面の国際協調を強化する必要性が高まりつつあると述べた。同事務局長は「セキュリティ上の注意を払わずに、原子力ビジネスを行うことは出来ない」とした上で、IAEAはこの分野でさらに思い切った努力を払う必要があると明言。原子力テロの防止対策に向けた国際協力でIAEAが果たす重要な役割を強調するとともに、IAEAが翌週の10日から14日までウィーンに閣僚級の出席者50名以上を招き、核セキュリティ国際会議(ICONS)を開催予定であることを明らかにした。また、IAEAのその他の活動分野に関して事務局長は、「171加盟国の多くが、ガン治療や水質管理、食糧安全保障などの面でIAEAから恩恵を受けている」とした。この関係で、アフリカ大陸における28か国以上の人々が、未だに放射線によるガン治療を受けられないことは「恥ずべきこと」だと指摘。IAEAがこの部分でやれることは、まだまだ沢山あるとの認識を示している。 (参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月6日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Feb 2020
1450
フィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)は1月30日、一般に「小型モジュール炉(SMR)」と呼称される原子炉の安全な運転条件について取りまとめた報告書を公表した。SMRに対して国内外の関心が高まっていることから、その安全性評価など特有の課題を議論する内容であり、許認可体制についても原子力法の改正等を対象項目とすることを検討中だとしている。 フィンランドでは今のところSMRを建設する具体的な計画は存在しないものの、STUKは今後のことを考慮した準備体制を整える方針である。STUKのP.ティッパナ長官は「我々は新型の原子力プラントに適用される安全要件についても関係者に考慮すべき内容を通達できるようにしておかねばならない」と説明。そうしたプラントの安全評価に関してもSTUKが状況に応じて対応できるようにしておく必要があると述べた。 発表によると、この件については現在、同国の経済雇用省が作業部会を設置して調査を実施中。課題の1つは原子力施設に関する既存の法定許認可システムを、どのようにしてSMRの許認可や放射線安全モニタリング等に適合させるかであるとした。また、世界では近年、SMR開発に莫大な投資が行われており、伝統的な原子力発電企業に加えて市町村の自治体、プロセス産業なども新たにSMRの電力とプロセス熱の利用に関心を表明しているとした。STUKは今後10年以内に、国内市場にもSMRなどの新型原子力プラントの投入が予想されることから、今回の報告書ではSMRの安全性評価や許認可、モニタリング等で持続可能な条件を設定するため、当局や政策立案者、科学コミュニティ、エネルギー企業らが行う議論に対してガイドラインを提示。技術の進展にともない、当局の規制環境では社会の期待に直ちに応えられないようなリスクも生じることを想定した上で、そうした状況への対策については次のような認識の共有を図りたいとしている。すなわち、(1)SMR向けに法体系を修正する必要性を見極める:既存の許認可手続きや安全要件は主に軽水冷却方式の大型炉向けに設定されている。今こそ政府が原子力法を包括的に改正する準備を進め、これらとは大幅に異なるSMR用の許認可システムを策定する好機である。(2)関連の国際協力に参加することが重要:SMR製造業者の主な目的は国際市場向けにSMRを量産することにあるが、ここでの課題は国毎の安全要件が少しずつ異なる点。様々な国の安全規制当局が協力してSMRの安全要件を調和させれば、適切な許認可システムや実行可能な良好事例が明確になるため、STUKはこの作業に積極的に関わっている。(3)研究と経験に基づく知見がSMRの安全性の基盤になる:SMRの性質はそれぞれに異なり、いくつかのSMRでは現在世界で稼働中の原子炉とも違っている。このため、SMRの安全性は実地で証明しなければならず、それぞれの安全確保対策を設計・評価する際も、膨大な量の研究や経験に基づく知見、実験・計算などが必要になる。(4)SMRの安全性は全体的な評価が必要:SMRは地域暖房用のプロセス熱を供給する目的のものがあるため、住宅地に比較的近い地点での設置がしばしば検討されるが、緊急時に備えた予防的防護措置の準備区域については適切に配慮する必要がある。(5)放射性廃棄物の管理を確実に:フィンランドでは世界に先駆けて放射性廃棄物の地層処分場を建設中であり、軽水炉方式のSMRについては同様の措置が有効と考えられる。ただし、SMRの放射性廃棄物管理用に新たな責任体制や組織モデルが必要になるかも知れない。 (参照資料:STUKの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月30日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Feb 2020
1471
米ノースカロライナ州ウィルミントンを本拠地とするGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は2月3日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」をチェコで建設した場合の経済的・技術的な実行可能性を探るため、チェコの国営電力会社(CEZ)と覚書を締結したと発表した。CEZ社はすでに昨年9月、SMR設計として唯一米原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)審査が行われているニュースケール・パワー社製パワー・モジュール(NPM)について、国内での建設可能性を模索する覚書を同社と結んでいる。「BWRX-300」では今のところDC審査の日程が発表されていないものの、同設計の建設に向けた実行可能性調査の実施でGEH社はバルト三国のエストニア、東欧のポーランドと覚書を締結済み。先月30日には、多くの許認可申請に共通する安全審査事項をまとめた同設計の技術文書(トピカルレポート)をNRCに初めて提出したと発表、NRCの正式な許認可プロセスとして先行安全審査が始まったことを強調している。チェコではテメリンとドコバニの2つの原子力発電所で総発電電力量の約3分の1を賄っているが、国営送電会社は昨年秋、これらの運転期間満了や経年化した石炭火力発電所の閉鎖にともない、同国は2030年初頭から次第に電力を輸入するようになるとの予測報告書を公表した。チェコ政府は近い将来、このような石炭火力発電所を新規の原子炉や再生可能エネルギーで代替することを計画しており、同国のA.バビシュ首相は昨年11月、ドコバニ原子力発電所(51万kWのロシア型PWR×4基)(=写真)で2036年にも新たな原子炉を完成させる方針を表明した。GEH社による今回の発表の中でも、チェコのK.ハブリーチェク副首相兼産業貿易相が「チェコ政府にとって技術革新は最優先事項であり、SMRは原子力発電の将来を担う可能性がある」と強調。原子力発電分野の研究開発におけるCEZ社の集中的な取り組みに満足の意を表するとともに、「GEH社との協力により世界でも最高レベルにあるわが国の原子力研究がさらに進展する」との見方を示した。また、CEZ社のD.ベネシュCEOは「新たなエネルギー技術やソリューションには、当社も重点的に取り組んでいる」とした。その上で、同社グループの中でも特に「主要な関係機関の国立原子力研究機関(UJV Rez)がSMR関係の研究を進めており、SMRは将来的に無視できない重要選択肢になり得る」と指摘。このような背景から、GEH社との共同作業は同社にとって自然な展開だと説明している。 (参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月4日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Feb 2020
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南アフリカ共和国の国営電力会社ESKOM社は1月31日、ペブルベッド・モジュール型高温ガス炉(PBMR)の商業化を目指して、かつて設立したPBMR社を売却するため、前日付で同設計の商業化に対する関心表明(EOI)を産業界から募集したと発表した。南アにおけるPBMR開発計画はすでに中止されているが、小型モジュール炉(SMR)の1つであるPBMRの設計開発・製造・建設技術に加え、PBMR以外でも様々な原子炉設計に利用出来る3重被覆層・燃料粒子「TRISO」燃料の製造技術も売却することになったもの。売却先となる企業には、知的財産権保持のため保存整備(C&M)状態にあるPBMR社の株式購入や、関係技術の商業化への投資を求める方針で、これにより市場には無制限の自由オプションが提供されるとESKOM社は強調した。また、EOIを募集する具体的な目的は、PBMRへの関心の質を厳しく見極める市場調査であり、次のステップとして提案募集(RFO)や情報依頼書の募集(RFI)をかける際、その範囲を特定するためだと説明。提出締め切り日は2月28日となっている。PBMRは電気出力16.5万kW(熱出力40万kW)の小型ガス炉で、これに加えて750度Cの水蒸気を供給可能な蒸気発生器とで構成される。炉心溶融の心配が無いなど安全性の高さが特長で、大型炉と比べて初期投資が少なくて済むほか、送電線が本格的に整備されていない地域にも適したプラントと位置付けられている。PBMR社はESKOM社が大株主となって1999年に設立したもので、株式の一部は米国のエクセロン社やウェスチングハウス社が一時期保有。日本の三菱重工業も2001年にガス・タービン発電機のフィージビリティ・スタディでPBMR開発計画に参加したほか、2010年2月には熱出力を20万kWに半減させた実証炉の共同開発を検討することでPBMR社と合意していた。2010年9月に南ア政府がPBMR開発計画の中止を発表した際、理由として同炉の潜在的顧客や投資パートナーの確保に行き詰まったことや、計画を継続した場合に少なくとも300億ランド(約2,200億円)の追加投資が必要になること、近年の経済不況により開発の優先順位が変更されたことなどを指摘。南ア政府はまた、PBMR計画のその後に関して(1)PBMR社をC&M状態に置き、その資産と知的財産権を保護する、(2)南ア核燃料公社の燃料開発工場で廃止措置を取り、冷却材であるヘリウムの試験施設は密封管理下に置く――などを勧告していた。(参照資料:ESKOM社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月31日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Feb 2020
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ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は1月28日、ベロヤルスク原子力発電所で2016年10月から営業運転中の高速実証炉「BN-800」である4号機(FBR、88.5万kW)に、初回分の取替用ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料集合体装荷したと発表した。同炉は燃料交換を含む定期検査を終え、すでに運転を再開している。運転開始当時、同炉の初期炉心はウラン燃料とMOX燃料の両方が含まれる炉心であり、今回の取替により炉内のMOX燃料集合体は合計18体となった。民生用原子力発電公社のロスエネルゴアトム社とロスアトム社の燃料製造子会社であるTVEL社は、今年中にさらに180体のMOX燃料集合体を同炉に装荷し、2021年末までには残りすべてのウラン燃料をMOX燃料に交換。ロシアの歴史上初めて、フルMOX炉心で運転を行うとしている。高速炉用のMOX燃料を産業規模で生産することは、2020年までを展望した「ロシア連邦目標プログラム」の目標の1つに指定されていた。ここでは高速炉とクローズド核燃料サイクルの技術開発が最優先に行われており、ロスアトム社は「熱中性子炉と高速炉をセットで稼働」という2つの要素を持つシステムに原子力発電を移行させる戦略である。同社はこれらによって(1)原子力発電所の燃料物質の量を飛躍的に増加できる、(2)使用済燃料をただ貯蔵しておくのではなく、リサイクルが可能になる、(3)施設内に蓄積されている劣化ウランとプルトニウムを有効利用できる――など、様々な重要タスクが解決されるとの認識を示している。ベロヤルスク4号機の初期炉心は、モスクワ州エレクトロスタリにあるTVEL社のエレマシュ工場で製造されたウラン燃料集合体と、ウリヤノフスク州ディミトロフグラードの国立原子炉科学研究所(RIAR)で製造されたMOX燃料集合体で構成されていた。今回のMOX燃料集合体は商業炉の使用済燃料から生成されたプルトニウム酸化物と、ウラン濃縮後の劣化六フッ化ウランから生成された劣化ウラン酸化物を材料に、クラスノヤルスク地方ゼレズノゴルスクにある鉱業化学コンビナート(MCC)で製造されたもの。MCCでは2013年8月にBN-800用のMOX燃料製造施設(定格製造能力:60トン/年)が本格着工、2014年12月から製造能力6トン/年の規模で運転が始まり、取替用MOX燃料一式については2018年後半から製造開始したとしている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月28日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Feb 2020
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米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は1月30日、同社製小型モジュール炉(SMR)の「BWRX-300」設計について、米原子力規制委員会(NRC)の許認可プロセスが昨年12月30日付けで正式に始まったと発表した。この日、多くの許認可申請に共通する安全審査事項をまとめた技術文書(許認可トピカルレポート:LTR)を初めてNRCに提出したもので、これによりNRCは同設計の先行安全審査を開始する。本格的な許認可プロセスの1つである設計認証(DC)審査の実施についてGEH社は何も言及していないが、LTRは顧客となる事業者が後に予備安全解析書(PSAR)を作成・提出する際、基礎的な文書になると説明している。発表によると「BWRX-300」は、2014年にNRCから設計認証(DC)を取得した第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化(BWR)」がベースになっており、自然循環技術や受動的安全システムなど画期的な技術を採用した電気出力30万kWの軽水炉型SMR。原子燃料としてはすでに承認された設計を利用するほか、機器類やサプライチェーンも技術的に実証済みのものを取り入れている。また、原子力産業界で深刻な課題となっているコスト面の対策として、同社は設計開発の全段階を通じてコストを目標内に収めるアプローチを採ったという。具体的には、設計の大幅な簡素化等によって「BWRX-300」の資本コストは従来型の大型炉やその他の軽水炉型SMRと比べて大幅に削減され、コスト的にコンバインドサイクル・ガス発電や再生可能エネルギーより競争力を持った設計になると強調している。「BWRX-300」で許認可プロセスが始まったことについて、GEH社のJ.ボール上級副社長は「商業化に向けた重要な節目になった」と指摘。CO2を排出しないエネルギー源への需要は世界的に高まりつつあるとした上で、「当社はSMRの画期的な技術に強い関心を抱いており、米国で許認可を取得する努力を継続していく」との決意を述べた。同社製「BWRX-300」については、これまでに北欧バルト三国のエストニアや東欧のポーランドが国内での建設に関心を表明、可能性調査の実施に向けた覚書がすでに現地企業との間で結ばれている。GEH社はまた、同設計をカナダでも建設可能にする方針で、カナダ原子力安全委員会が提供する許認可申請前設計審査(ベンダー審査)が始まったことを昨年5月に明らかにしている。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
31 Jan 2020
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アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電導入事業を担当する首長国原子力会社(ENEC)および同社の子会社で発電所の運転管理を担当するNAWAHエナジー社は1月28日、初号機となるバラカ原子力発電所1号機で起動の準備が整っていることを世界原子力発電事業者協会(WANO)が確認したと発表した。これは、WANOの原子力国際専門家チームが同炉の起動前準備状況について広範に評価した結果に基づいている。今後すべての起動要件が遵守されていることを連邦原子力規制庁(FANR)が確認し、NAWAHエナジー社に運転認可を発給し次第、今年の第1四半期にも同社は1号機に燃料を装荷し、出力上昇試験に向けた起動シークエンスを開始するとしている。同発電所建設サイトでは2012年7月以降、韓国製の第3世代140万kW級PWR「APR1400」×4基が順次着工しており、2018年3月には1号機の竣工式が執り行われた。現在、2号機の建設進捗率は95%以上、3号機が91%以上、4号機は83%以上で、発電所全体の進捗率は93%に達しているが、運転員の訓練とFANRからの承認取得に時間を要するため、ENECらは1号機の燃料装荷日程を延期して国内外の複数の規制機関等による評価審査を実施していた。発表によると、昨年11月に1号機で実施されたWANOアトランタ・センターの「起動前審査(PSUR)」は、産業界の国際基準に沿った評価審査であると世界的に認識されており、ENEC社とNAWAH社はともにWANOの会員組織となっている。WANOの専門家チームは1号機の安全な起動と運転、すなわち運転員の能力や運転管理、作業管理、緊急時対応に至るまで、多数の機能について審査を実施した上で今回の最終結果をUAE側に伝えたもの。原子力関係機関とのこのような国際協力は、UAEが2008年の政策「原子力平和利用開発の可能性と評価」の中心項目となっている。この政策でUAEは、原子力発電所の操業に透明性を持たせるとともに最高レベルの安全・セキュリティを追求する主要な手段として、WANOやその会員と互いの評価結果や経験を共有し、フィードバックするとの目標を設定していた。ENECのM.アル・ハマディCEOは、「今回の結果から安全・セキュリティ等の追求に向けた決意が我々のプラントで全面的に実行されていることが国際的に認知された」と強調。今後60年間にわたって、クリーンで安全、信頼性の高い電力をUAEの成長のために供給できるよう、NAWAHエナジー社を支援するとした。NAWAHエナジー社のM.レデマンCEOも「パートナーらと緊密な連携を続け、運転認可の取得準備が整っていることをアピールしていきたい」と述べた。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月28日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jan 2020
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北欧バルト三国の1つ、エストニアのエネルギー企業であるフェルミ・エネルギア社は1月28日、同国初の原子力発電プラントとなる小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた調査で、原子力発電所を運転するフィンランドの国営電気事業者のフォータム社、およびベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業であるトラクテベル・エンジー社の3者で協力覚書を締結したと発表した。フェルミ・エネルギア社は第4世代炉の導入を目的に、エストニア原子力産業界でSMR開発/建設を支持する専門家らが起ち上げた企業である。同国が加盟する欧州連合は(EU)2018年6月、バルト三国とポーランドを2025年末までに旧ソ連・東欧圏をカバーする旧ソ連の総合電力システム「IPS/UPS」から切り離し、欧州24か国が共同管理する「大陸欧州送電網」に統合するという政策ロードマップに全関係国が調印したと発表。ロシアからの電力輸入停止まで期限が迫っていることから、同社はSMRの形で原子力発電を国内に導入してEUの「2050年までにCO2排出量実質ゼロ」目標の達成に貢献するとともに、エストニアのみならずバルト三国全体において、天候に左右されることなく信頼性の高いCO2排出ゼロのエネルギーを供給する体制を確立したいとしている。フェルミ・エネルギア社はすでに昨年9月、GE日立・ニュクリアエナジー社が開発中のSMR「BWRX-300」を国内で建設するための可能性調査の実施で同社と協力覚書を締結した。このほか、英国のモルテックス・エナジー社、カナダのテレストリアル・エナジー社、米国のニュースケール・パワー社それぞれが開発するSMRについても、国内で建設する選択肢として検討中と伝えられている。同社はまた、今回の発表のなかで使用済燃料の管理やSMR建設のスケジュール、計画立案等について、詳細に検討するための了解覚書締結に向け、欧州の原子力企業2社と協議中だと表明。これらの調査検討を年内に完了し、2021年初頭に公表する方針だ。今回の3者の協力覚書で最も意義深い側面として、同社は原子力発電事業者との実際の共同作業を通じて相互理解が得られる点を挙げた。原子力発電を導入するには様々な要素を徹底的に分析し、他のエネルギーオプションより競争力が備わるよう開発する必要があるとした上で、同社はすでに最良の解決策を見つける作業の初期段階にあり、後の段階で相互理解は一層深まることになると述べた。また、協力覚書の結果、同社はEU域内で最初のSMR建設プロジェクトを主導する企業となり、その建設ノウハウと能力でエストニアを支援する協力モデルが構築されると説明。SMRに適した許認可体制や軽水炉型SMRの事前立地調査等についても、3者で集中的に研究していく方針を明らかにした。(参照資料:フェルミ・エネルギア社(エストニア語)、フォータム社、トラクテベル・エンジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月28日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jan 2020
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カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は1月24日、使用済燃料の深地層最終処分場建設計画で立地候補地点として残っている2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域の地主らと調査のための立入等で合意したと発表した。これにより、NWMOは今後数か月のうちに同地域で試験抗の掘削や基本的な環境モニタリング等の作業を開始し、処分場建設地としての適性を評価する。NWMOは同じくオンタリオ州の北西部イグナス地域でも、2017年11月から同様の調査を実施中で、2023年までにこれらのうち使用済燃料の安全かつ長期的な処分に適し、施設の受け入れに協力的な好ましい1地点を最終的に確定する。昨年11月の時点では、サウスブルース地域と隣接するヒューロン=キンロス地域も候補地点に含まれていたが、NWMOは今回、同地域を潜在的な候補から外すと明言。ただし、サウスブルース地域の隣接区域として、今後もサイトの選定活動に大きな役割を果たすと述べた。カナダでは使用済燃料を直接処分するための国家方針として「適応性のある段階的管理」(APM:Adaptive Phased Management)が2007年に採択され、NWMOは処分の実施主体として、処分場の建設から操業までを含む「サイト選定プロセス」を2010年に開始した。2012年9月末までに国内の22地点が施設の受け入れに関心表明したが、NWMOは2017年12月までにこれらをオンタリオ州内の5地点まで絞り込んだ。それ以降はプロセスの第3段階として、これらの自治体の「潜在的な適合性の予備的評価」を実施中。机上調査を行う第1フェーズを終えた後、地質学的調査や制限付き掘削調査などの現地調査を行う第2フェーズの作業を進めている。現地調査の実施権取得を目的とした「土地への立入プロセス」は、2019年5月にサウスブルース地域で始まっており、NWMOは今回合意文書を交わした地主も含めて複数の地主と交渉。これまでに合計約526ヘクタールの土地でこの権利を確保した。合意文書には、NWMOが土地を購入する取引のほかに、選定した土地で調査を実施しつつも地主が土地を継続的に利用できる「リースバック」取引も含まれるが、仮にこれらの土地で最終処分場を建設する場合、NWMOはこれらを購入することになっている。NWMOは今後さらに数か月から数年間にわたり、既に合意を得た土地に隣接する地主らとも協議を続け、処分場の建設に必要な約607ヘクタールまで土地を追加で確保していく方針である。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月27日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jan 2020
1867
英国で小型モジュール炉(SMR)の開発企業連合を率いるロールス・ロイス社のP. ステイン最高技術責任者は1月24日、同国の公共放送局BBCのインタビューに答え、2029年までに同社製SMR初号機の完成と運転開始を目指していることを明らかにした。同社の企業連合には、国内の大手エンジニアリング企業や建設企業であるアシステム社やアトキンズ社、レイン・オルーク社などが参加。発表によると、英国原子力産業界はSMRのような小型原子炉であれば、工場で大量生産して設置場所までトラック輸送ができ、洋上風力発電のような再生可能エネルギーと競合できるレベルまで低コスト化が可能と認識している。ステイン氏は、ヒンクリーポイントC原子力発電所の大きさの16分の一程度というSMRを約10エーカー(約4万平方メートル)の敷地で建設できるとしており、カンブリア地方やウェールズ地方など、閉鎖済みの原子力発電所も含めた3地点で10~15基のSMR建設を計画中だと述べている。英国ではエネルギー気候変動省(DECC)(当時)が2016年3月、英国にとって最適なSMR設計を特定するためのコンペを開始し、SMR技術の開発業者や電気事業者、潜在的投資家等から関心表明(EOI)を募った。2017年12月に同コンペの終了後、DECCを改組して発足したビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、先進的モジュール炉(AMR)の実行可能性・開発(F&D)プロジェクトで改めてコンペを実施。2018年6月に民生用原子力部門との戦略的パートナーシップとなる「部門別協定」を発表した際、BEISはAMRの研究開発資金として5,600万ポンド(約79億8,000万円)を充てるとしたほか、同年9月にはこの中から400万ポンド(約5億7,000万円)をコンペの第1フェーズで選定した企業8社の実行可能性調査用に提供するとしていた。この8社の中にロールス・ロイス社は含まれなかったが、同社はこれとは別枠で2019年11月、BEIS傘下の戦略的政策研究機関「UKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)」から、英国政府の「産業戦略チャレンジ基金」の中から初回の共同投資金として1,800万ポンド(約25億6,000万円)を受けることが決定。同社はまた、ヨルダンで同社製SMRを建設するための技術的実行可能性調査実施に向け、2017年11月にヨルダン原子力委員会と了解覚書を締結した。2018年2月には、風力や太陽光よりも競争力のある英国型SMRの実証モジュールを開発するため、ロールス・ロイス社が産業界側の窓口を勤める英国政府の「先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)」と契約を結んでいる。今回の発表でロールス・ロイス社は、「過去数年間に複数の大型炉建設プロジェクトが資金調達問題により凍結されたが、再生可能エネルギーのコストが急落するなか、SMRでコスト削減の可能性があることは、資金面で苦戦を強いられてきた原子力産業界にとって珍しく明るいニュースだ」と指摘。コスト削減の秘訣は、先進的デジタル溶接法やロボット組立等で予め製造したパーツを建設サイトで組み立てることであり、このように原子炉建設費を大幅に削減することで、電気料金を一層安く抑えることができると強調した。同社はまた、SMRの輸出で大量生産によるスケールメリットを実現し、コスト面の障害を克服したいと表明。これに関しては地元メディアの情報として、2,500億ポンド(約35兆6,000億円)規模の輸出市場で出力44万kWの同社製SMRの建設コストを約17億5,000万ポンド(約2,500億円)と試算した上で、は1MWhあたり60ポンド(約8,500円)を下回ること、すでに複数の外国政府から書面で関心表明があり、交渉中であると同社が述べたことが伝えられている。(参照資料:BBCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月24日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jan 2020
2636
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社の傘下企業で燃料製造を専門とするTVEL社は1月20日、子会社であるシベリア化学コンビナート(SCC)の化学・冶金プラントで、鉛冷却高速炉(LFR)用ウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の新しい試験燃料集合体が完成し、受け入れ試験が完了したと発表した。試験燃料を使って製造した燃料棒4本が、それぞれ試験燃料集合体に組み込まれたもので、今後は原子炉試験を実施するため、今年の第1四半期中に複数の高速炉が稼働するベロヤルスク原子力発電所に移送するとしている。発表によると、これらの試験燃料(ETVS-22、ETVS-23、ETVS-24)は実際の操業時に近い条件下で製造されている。核燃料サイクルの確立に向け、実績豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)に加えてLFRの研究開発も並行して実施するという「ブレークスルー(PRORYV)プロジェクト」の一環として開発されたもので、2011年に始まった同プロジェクトでは、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」として電気出力30万kWのLFRパイロット実証炉「BREST-300」をSCC内で建設するほか、同炉用のMNUP燃料製造加工モジュールと専用の使用済燃料再処理モジュールも併設予定。今回完成した燃料の技術は、燃料製造加工モジュールで活用されることになる。ロスアトム社はまた、PDEC建設の第2段階として「BREST-300」を2026年末までに完成させるため、昨年12月に総額263億ルーブル(約465億円)の総合建設契約をTITAN-2社と締結している。「BREST-300」用試験燃料集合体の原子炉試験は、すでに出力60万kWのベロヤルスク3号機(BN-600)で始まっており、今回完成した燃料の原子炉試験はこれに続いて行われる。燃料の受け入れに関する専門委員会では、TVEL社の代表のほかにロシア無機材料研究所(VNIINM)、エネルギー技術研究所(NIKIET)、実機機械製造設計局(OKBM Africantov)などの専門家が出席。これらの委員は最新のMNUP試験燃料集合体について、定性的・定量的な特性や溶接部の品質、設計文書との適合性、燃料集合体としての構造や表面部分に放射能汚染がないか、等をチェックし、これらが技術文書と設計文書の要件を完全に遵守していることを確認した。 (参照資料:TVEL社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月22日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jan 2020
1966
2018年に米エネルギー省(DOE)の「多目的試験炉(VTR)」プログラムの支援企業に選定されたGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は1月21日、ビル・ゲイツ氏が出資する原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社と共同で、VTRの設計と建設に向けた官民協力を推進していくと表明した。VTRは、新型炉に使われる革新的な原子燃料や資機材、計測機器等の開発で重要な役割を担うナトリウム冷却式の高速スペクトル中性子照射試験炉となる予定。DOEは官民の費用分担で同プログラムを進めたいとしており、テラパワー社はすでにVTRの設計促進等で同プログラムを支援中。DOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)で運営を担当するバッテル・エネルギー・アライアンス(BEA)が、昨年11月に費用分担パートナーシップの構築をDOEに代わって関係者に依頼した際、GEH社とテラパワー社は共同で提案書を提出していた。また、ワシントン州の地方自治体など27の公益電気事業者で構成されるエナジー・ノースウェスト社は両社の連携協力を支援していく考え。これに続くその他の企業や投資家が、両社の取組に追加で参加する意思を表明している。米国には現在、高速スペクトル中性子の照射を行える施設が存在せず、それが可能なVTRの国内建設は、2018年9月に成立した「2017年原子力技術革新法(NEICA2017)」でも必要性が強調されていた。DOEは、GEH社のモジュール式ナトリウム冷却高速炉「PRISM」で実証済みの技術をVTR開発に活用する方針で、2019年3月にはVTRの概念設計に取りかかると発表。VTRプログラムを通じて建設プロジェクト全体のコストやスケジュールの見積作業を進め、本年中には建設の可否について最終的な判断を下す。建設が決まれば、2025年12月までに建設工事をINL内で完了し、2026年から最大限に利用できる施設として運転開始することになる。GEH社は今回の連携によって、ナトリウム冷却炉の技術で豊かな経験を有するエンジニアや科学者の最強チームが結成されると説明。双方のチームがVTRの設計と資機材調達・建設に関する特殊な経験を互いに補い合えるとした。テラパワー社は第4世代の進行波炉(TWR)を開発するため、10年にわたってナトリウム技術の開発に投資を行っているが、原子力のポテンシャルを最大限に活かすには、新素材の実験や最新技術の実証に対する投資で産業界と政府が協力していかねばならないと指摘した。また、同社によれば米国の原子力産業界は、原子力技術で世界のリーダーシップを握るため、次世代の原子力技術を構築する準備が出来ている。VTRによって原子力技術革新の基盤が米国にもたらされ、それが米国の経済や国家安全保障を促進することになるとしている。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月22日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Jan 2020
2293
ロシア国営原子力総合企業ロスアトム社のA. リハチョフ総裁は1月20日、中国・江蘇省で同社が建設した田湾原子力発電所において、今年12月にも7号機を当初予定より5か月前倒しで本格着工することを目指すと表明した。同炉から5か月~10か月遅れで着工する8号機とともに、それぞれ2026年と2027年に営業運転を開始すると見られている。同発電所ではすでに、I期、II期の1~4号機(100万kW級ロシア型PWR)が営業運転中。これに続いて、中国核工業集団公司(CNNC)が仏国の技術をベースに開発した第3世代の100万kW級PWR設計「ACP1000」を採用して、III期の5、6号機の建設が予定されている。IV期の7、8号機については第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR (VVER)設計を採用することになっており、ロスアトム社とCNNCは2018年6月に枠組契約を締結済み。2019年3月には、両炉の建設に関する一括請負契約が両者間で交わされた。ロスアトム社はこの契約に基づき、2019年7月から両炉の原子炉容器に使用する鍛造品など、長納期品の製造を開始している。今回の発表は、2018年2月に営業運転を開始した田湾3号機をロシア側から中国側に正式に引き渡すため、同発電所で開催された記念式典の場で明らかにされた。リハチョフ総裁は7、8号機用建設用地の準備が進む同発電所を視察するとともに、中国国家原子能機構(CAEA)の張克儉主任とも会談。7、8号機では、動的と静的両方の安全系やデジタル式計測制御(I&C)系、二重格納容器、コア・キャッチャーなどが装備されると強調した。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月20日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jan 2020
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トルコのF. ドンメズ・エネルギー・天然資源相は1月20日、三菱重工業と仏アレバ社(現フラマトム社)の合弁企業ATMEA社が110万kWのPWR×4基を供給予定だった黒海沿岸のシノップ原子力発電所建設計画について、別のサプライヤーに建設を依頼する可能性があることを同省のウェブサイトで明らかにした。同計画については、主要パートナーの三菱重工が実行可能性調査を実施してトルコ側に提出したが、建設予算と完成スケジュールの調査結果は同省の期待に添うものではなかった。このため同省は現在、建設パートナーの再評価を行っているところで、パートナーを変えて計画を進める事を検討中だとしている。4基分で総額200億ドルのシノップ計画では初号機を2017年に着工し、2023年に運転開始することが予定されていた。しかし、安全対策費の高騰などから総事業費が当初予定の2倍以上になるとの見方が広がり、発電電力の買取でトルコ電力取引・契約会社(TETAS)が支払う価格ではコストの回収が難しくなった模様。これにともないメディアでは、建設計画の受注が内定していた三菱重工業らの国際企業連合から伊藤忠商事が撤退したことや、三菱重工自身も建設を断念したことなどが1年以上前の段階で報じられていた。一方、ロシアが受注したトルコ初のアックユ原子力発電所(120万kW級のロシア型PWR×4基)に関しては、2018年4月に1号機が本格着工して以降、建設計画は順調に進展。ロシアの建設事業者は昨年12月、同発電所をトルコの送電グリッドと接続する契約を国営送電会社(TEIAS)と締結した。同炉は2023年に運転開始予定だが、その約1年後に運転開始する2号機についても、トルコの規制当局が昨年8月に建設許可を発給している。ドンメズ・エネルギー・天然資源相によると、2号機の建設工事はまもなく開始されることになっており、続く3号機についてもプロジェクト企業が昨年、建設許可を申請。トルコの規制当局が現在、同炉の部分的建設許可の発給作業を進めているとした。この許可の下では、原子炉系統の安全性に関わる部分を除き、すべての建設工事が可能になる。(参照資料:トルコのエネルギー・天然資源省(トルコ語)、半国営アナトリア通信(英語版)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
21 Jan 2020
5672
仏オラノ社は1月15日、同社の米国子会社で放射性物質の梱包・輸送を専門とするオラノTN社が、米国のとある原子力発電所で通常より高い崩壊熱を発する使用済燃料を、貯蔵プールから敷地内の同社製・独立型乾式貯蔵施設(ISFSI)最新版に初めて移送する一連の作業を完了したと発表した。「NUHOMS拡張型最適化貯蔵(EOS)システム」と呼称されるこのISFSIは、原子力産業界における通常レベルの崩壊熱(キャニスター1基に付き14~34kW)よりはるかに高い熱負荷に耐えられるとしており、EOSキャニスター1基分の合計崩壊熱は平均44.75kW。今回、2019年の移送活動で最終となる第5回目の作業で使用済燃料296体の移送を終えたもので、「NUHOMS EOS 37PTHキャニスター」8基の使用済燃料が8つの「NUHOMS EOS水平貯蔵モジュール(HSM)」に安全に貯蔵されたとしている。使用済燃料の貯蔵方法に関して米原子力規制委員会(NRC)は、湿式と乾式どちらも住民の健康と安全および環境を防護する上では適切であり、乾式貯蔵施設への使用済燃料の移送を早めなければならないような安全・セキュリティ上の懸念は無いという見解である。しかし、2001年の9.11同時多発テロ事件や2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、米国の一部議員は米国の原子力発電所のどこかで使用済燃料貯蔵プール火災が発生すれば、大量の放射性物質が放出されて広域汚染が広がるなど、2兆ドル規模の損害がもたらされると考えている。また、プリンストン大学の調査では、使用済燃料を乾式貯蔵キャスクに移すことで火災の発生リスクが大幅に下がるとの結果が出ている。オラノ社の先進的なEOS技術を使った燃料集合体の移送はすでにNRCの認可を取得済みで、キャニスター1基あたりの崩壊熱は産業界ではこれまでで最大級の50kWまで。このキャニスターはノースカロライナ州カーナーズビルの同社施設で製造されたもので、PWR用の高燃焼度燃料集合体37体を貯蔵可能な設計になっている。また、「NUHOMS EOS水平貯蔵モジュール」はノースカロライナ州モヨックのプレキャスト・コンクリート施設で製造されており、外部事象に対して最大級の核物質防護が可能であると同社は説明。崩壊熱の消散能力も50kWと最高レベルであるほか、被ばく放射線量は垂直型モジュール・システムの約半分だと強調した。今後は米国内のその他の原子力発電所でも、崩壊熱の大きい使用済燃料集合体の移送にEOSシステムの先進的な能力が活用されることになっており、燃料貯蔵プールから乾式貯蔵に移す前の冷却期間の短縮が可能。燃料貯蔵プールの管理が簡素化されるだけでなく、同プール内で管理する使用済燃料集合体の数量を削減することにもつながるとしている。 (参照資料:オラノ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月16日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jan 2020
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欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は昨年12月、EU域内がクリーンで循環型経済に移行することにより資源の効率的な利用を拡大し、気候変動を食い止めることなどを目指した2050年までの工程表「欧州グリーンディール」を公表したが、今月14日にはこれに続き、欧州グリーンディールの実行を可能にするための投資計画案と、ポーランドのようにこのような移行から最も影響を受ける地域や部門に資金提供する「公正な移行メカニズム(JTM)」を公表した。それによると、2050年までに欧州大陸を世界で初めて温室効果ガスの排出量実質ゼロ(気候中立)とするためには、EUと加盟各国の公的部門に加えて、民間からも相当額の投資が必要になる。今回の「持続可能な欧州への投資計画」では、まず公的な投資手段を結集。とりわけEUの複数の投資プログラムを統合した「InvestEU」など、EUの資金調達手段によって民間投資を引き出し、少なくとも1兆ユーロ(約122兆7,000億円)の投資につなげたいとしている。ただし、この投資計画では原子力発電への言及が一切なく、フォーラトム(欧州原子力産業協会)のY. デバゼイユ事務局長は翌15日、EC提案がこのような資金援助の対象から原子力を除外していることを憂慮すると発表。「低炭素経済への移行で社会が不利益を被ることはあってはならない」とした上で、EUによる資金割当が炭素集約型部門の従業員を低炭素産業に移行させる一助となるよう、全面的に支援したいと述べた。昨年12月の「欧州グリーンディール」ECが策定した「欧州グリーンディール」では、運輸、エネルギー、農業などすべての経済分野に加えて、鉄鋼、セメント、繊維、化学などの産業をカバー。あらゆる政策分野で気候と環境に関する課題を機会に変え、EU経済を持続可能なものに転換するとともに、この移行がすべての域内住民にとって公正なものとなることを目指している。このためECは、2050年までにCO2排出量実質ゼロを達成するという政治的な目標を法制化するとしており、100日以内に初の「欧州気候法」を提示する方針である。また、気候と環境に関するEUの目標達成に向け、新産業政策や循環型経済行動計画、公害のない欧州に向けた提案も提示する。さらに、2050年までの目標達成に現実的な道筋を付けるため、EUによる2030年の温室効果ガス排出量削減目標の引き上げに向けた作業も開始する予定である。「持続可能な欧州への投資計画」「持続可能な欧州への投資計画」案の提示も、ECが「欧州グリーンディール」を公表した際、同様に明らかにされていた。昨年11月にEC委員長に就任したばかりのU. フォンデアライエン委員長は、「2050年までに欧州で気候中立を達成することは前例のない移行計画であり、域内住民の誰1人として置き去りにしないよう支援する」と明言。「欧州グリーンディール」の実施で重要となる投資の必要性を「投資の機会」に変えて、域内にグリーン投資の波を引き起こす方向性を示したいと述べた。今回の発表でECは、「持続可能な欧州への投資計画」は気候の中立やクリーンで競争力のある経済への移行に向け、官民の投資促進の枠組を生み出すとともに、必要なEU資金を調達すると指摘。「欧州グリーンディール」で表明した財政イニシアチブを補完するため、「投資計画」は3つの特徴を持ったものになるとした。それらはすなわち、(1)今後10年間の持続可能な投資として少なくとも1兆ユーロを調達、(2)官民の投資機会を開放するとともに、その適用を可能とするためのインセンティブを提供、(3)公的機関やプロジェクトのプロモーターに対し、持続可能なプロジェクトの計画・立案・実行で必要な実質的支援をECが提供――など。(1)においては、欧州投資銀行が主要な役割を果たすとした。この中でも「公正な移行メカニズム(JTM)」は、気候中立に向けたの経済への移行を公平な方法で確実に実行する重要ツールになるとECは説明。すべてのEU加盟国や地域、部門が今回の移行で協力が求められる一方、解決すべき課題の規模はそれぞれ異なるため、ポーランドなど石炭火力に依存する一部地域では、社会経済面で広範な改革を行うことになる。JTMはこのように移行の影響が大きい地域に対し、2021年~2027年までの期間の支援目標額として少なくとも1,000億ユーロ(約12兆2,762億円)を調達。化石燃料に依存するコミュニティや労働者の支援に必要な投資の枠組を生みだし、社会経済的な影響を緩和するとしている。EC提案に対するフォーラトムの見解このような提案に対し、フォーラトムのY. デバゼイユ事務局長はまず、「石炭火力依存国の脱炭素化努力に財政支援を与えるというEUの目標には賛同する」とした。その一方で、過去18か月間に「国連・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」や国際エネルギー機関(IEA)、およびECさえも「炭素を排出しない原子力は低炭素経済において不可欠」とする報告書を公表していた事実に言及。昨年末になると複数のEU加盟国が、2050年までに脱炭素化目標を達成するには原子力発電への投資が必要になることを明確に示していたと述べた。同事務局長は、「石炭産業の労働者を原子力産業に移行させるメリットについては、すでに仏国と英国が立証済みだ」としており、フォーラトムとしては、今回のようなEC提案を正当とするのはなかなか難しいと指摘。「EUも結局のところ、石炭火力依存地域の人々を低炭素産業に移す支援に集中的に取り組むのだろうが、資金援助を受ける資格のある低炭素部門に制限をかけるのなら、誰1人置き去りにせずに今回の目標を達成することは非常に難しくなるだろう」と強調した。同事務局長はまた、世界最大の会計事務所デロイト・トーマツの調べによると、欧州の原子力産業界は現在、110万人以上の雇用を域内で維持しており、域内総生産(GDP)のうち5,000億ユーロ(約61兆3,800億円)以上を原子力産業界が生み出していると指摘。原子力産業は発電部門の低炭素化と欧州域内の雇用創出という両面において、恩恵をもたらしていると訴えている。(参照資料:EC、フォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月15日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Jan 2020
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米GE社と日立製作所の合弁事業体であるグローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)社は1月14日、ノースカロライナ州のウィルミントン施設で製造したBWR用事故耐性燃料(ATF)の先行試験集合体(LTA)を、イリノイ州にあるエクセロン社のクリントン原子力発電所(107.7万kWのBWR)に装荷したと発表した。この燃料集合体には、クロムとアルミニウム鉄合金の燃料被覆材「IronClad」、および標準型ジルコニウム被覆管に「ARMORコーティング」を施すという2つの技術による先行試験燃料棒(LTR)が含まれているが、3種類の「IronClad」被覆管に酸化ウラン燃料を充填して装荷したのは今回が初めてとなる。同社は2018年にも、これらのソリューションに基づくLTR入り集合体をジョージア・パワー社のE.I.ハッチ原子力発電所1号機(91.1万kWのBWR)に装荷したが、「IronClad」のLTRには酸化ウラン燃料を充填していなかった。このようなATF開発は、米エネルギー省(DOE)が福島第一原子力発電所事故の教訓から、2012会計年度予算で開始した「ATF開発プログラム」の下で行われている。GNF社のほかに、フラマトム社やウェスチングハウス(WH)社、ライトブリッジ社などが産業界から参加協力。2022年頃まで3段階でATFの開発・実証戦略を進めることになっている。GNF社の「IronClad」技術はこれまでのATF技術との比較で、様々な条件下における一層優れた材料挙動と確実な耐酸化性の確保を目的としている。高温状態のなかで燃料や部材の酸化速度を抑えることができれば、安全性の限界マージンをさらに改善できると同社は指摘。クリントン発電所に装荷された「IronClad」燃料棒のうち、1種類についてはGE社の研究開発部門が開発に協力しており、燃料棒の製造に繋がるエンジニアリング支援や成形加工機器を提供中である。GNF社はまた、「ARMORコーティング」によって燃料棒をデブリによる表面損傷からさらに防護することを目指しており、この技術で一層優れた材料挙動と確実な耐酸化性の確保することが可能であり、摩耗耐性や安全性マージンの改善に導く魅力的な技術になると強調している。(参照資料:GE社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月15日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jan 2020
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ロシアでは現在、海上浮揚式原子力発電所に搭載の小型炉2基も含め35基(合計出力約3,000万kW)の商業炉が稼働中だが、これらのうち5基について昨年12月から今月にかけてそれぞれ運転期間が延長され、最長のもので60年間になることが明らかになった。ロシアで近年開発された最新鋭の第3世代+(プラス)のロシア型PWR(VVER)は、運転期間が当初から60年に設定されているが、それ以前のVVERにおける運転認可期間は最大30年。この年数が経過しつつある商業炉については、連邦政府の原子力発電所開発プログラムと民生用原子力発電公社のロスエネルゴアトム社による「2013年~2023年までの運転期間延長プログラム」に基づき、運転期間が適宜10~25年の幅で延長されている。ロスエネルゴアトム社は、高経年化した既存炉で改修工事を行い運転期間を延長することは世界中で実行されている効果的な良好事例だと指摘。取替用の原子炉施設を建設する準備が整うまで、十分な時間を確保する上で非常に重要との認識を示した。2001年以降、昨年12月27日までに国内で27基の原子炉の運転期間が延長されたが、このうち3基についてはすでに運転が終了。現在、廃止措置の準備中だと説明している。昨年12月17日には、1989年に送電開始したスモレンスク原子力発電所3号機(100万kWのRBMK)について、15年間の運転期間延長が承認され、同炉は2034年まで45年間の稼働が可能になった。同月の20日にはまた、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)が、コラ原子力発電所2号機(44万kWのVVER)に対し、15年間の運転期間延長を許可。1974年に送電開始した同炉は、2004年時点ですでに1回、運転期間が15年延長されていたため、合計の稼働期間は2034年までで60年に達する。同月27日にはさらに、極東地域のビリビノ原子力発電所で2号機(1.2万kWのEGP-6)の運転期間が6年間延長された。同炉も2004年に15年間の期間延長が許されており、最終的に2025年末まで合計51年間運転を継続することになった。30日になると、ROSTECHNADZORがノボボロネジ原子力発電所4号機(41.7万kWのVVER)について2回目の運転期間延長を承認。1972年に送電開始した同炉の運転期間も、2032年までで合計60年に達する予定である。このほか、年明けの今月10日、ROSTECHNADZORはロストフ原子力発電所1号機(100万kWのVVER)の運転期間を2031年末まで延長する新しい認可を発給したと発表した。同炉は2001年2月に送電開始したが、何らかの理由により当初の運転期間が2020年までに設定されていた模様。今回の延長より、同炉も標準的なVVERと同様、30年間稼働することになった。ロストフ発電所の4基(各100万kWのVVER)は2019年中に目標値を超える合計約340億kWhを発電しており、ロシア南部地方における信頼性の高い電力供給源となっている。その他の発電所も2019年の発電実績は良好で、コラ発電所の4基(各44万kWのVVER)は100億kWhを超える電力を発電。ノボボロネジ発電所では出力の大きいⅡ期工事1、2号機(各110万kW級VVER)が2017年と2019年末にそれぞれ送電を開始したことから、ロシアの原子力発電所による総発電量の約10%分に相当する約210億kWhを発電したとしている。(参照資料:スモレンスク3号機、コラ2号機、ビリビノ2号機、ノボボロネジ4号機、ロストフ1号機の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2019年12月17日付、23日付、30日付、2020年1月10日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jan 2020
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英国を本拠地とする世界的建設エンジニアリング企業のアトキンズ社は、このほど「CO2の実質ゼロ化に向けて」と題する報告書を公表し、国内すべての温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロにする英国政府の目標を達成するには、国内エネルギー・ミックスに原子力や二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)等が含まれるよう改革することや、そのための大規模投資が必要になると英国政府に訴えた。同社は、EDFエナジー社がサフォーク州で進めているサイズウェルC原子力発電所(160万kW級のPWR×2基)建設計画で、建設作業の最初のプログラムとなる開発準備基本設計契約を昨年7月に受注したほか、日立製作所が凍結したウィルヴァ・ニューウィッド計画(135万kWの英国版ABWR×2基)では、支援企業の1つとして近隣海底の調査などを行っていた。今回のレポートで同社は、近年世界で進展中のCO2排出抑制努力だけでは、世界の平均気温が人々の生活様式や安全性に影響するレベルまで上昇するのを食い止めることは出来ないと指摘。このまま行けば、2100年までに平均気温は3.2度C上昇するとの国連環境報告の見方を、改めて提示している。英国では昨年6月、世界主要7か国の中では初めて、国内GHG排出量の実質ゼロ化を法的拘束力のある目標として掲げた法案が可決・成立した。地球温暖化がもたらす破壊的な影響の根拠と各国の政治的な約束が明らかになるなか、GHG排出量は今後も増加し続けると同社は予測。破壊的影響の根拠や関連のデータが蓄積されるにつれ、人類がこれまで取ってきたアクションに限界があることが分かっており、小出しの対応では最早、破壊的影響を抑えるには不十分だとした。このため同社は今回の報告書を通じて、英国による実質ゼロ化の目標達成を妨げる技術的要素をどのように解決すべきか、詳細な技術レポートや一連のブログ記事により英国のエネルギー・ミックスを考察し、同社の考え方を具体的に説明している。同社によると、英国は地球温暖化への対応政策やアクションで世界のリーダー的役割を果たしており、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという法的な約束の下、地球温暖化のリスクに効率的に対応するため、先進各国の誓約すべてを統率し続ける方針。今後数か月間でエネルギー・システム開発における既存の中心政策を補完し、2020年の早い時期にインフラ部門や輸送部門にも焦点を当てたいと述べている。同社は今回の報告書で、英国のエネルギー・システムで2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化することは可能であるが、エネルギー・システムの構造変革で柔軟なアプローチを採るべきだとしており、現時点で2050年以降の最終的なシステムを決定することは難しいと指摘。今後数年間の判断でCO2の実質ゼロに向けた市場の枠組が設定されるため、あらゆる選択肢はオープンにしておかねばならないとした。次に、CO2を実質ゼロ化したエネルギー・システムは構造が高度に複雑になるため、効果的なバランスを保つことが重要であり、政府の介入なしで合理的なシステムを維持することは難しいと説明。発電やインフラ、輸送の各部門にわたり2050年のエネルギー・システム全体を計画・合理化するため、「エネルギー・システム・アーキテクト(ESA)」のような機関を創設する必要があるとしている。このようなエネルギー・システムの電源として、同社が最初に言及しているのが原子力で、英国をCO2排出量実質ゼロに導く上で、クリーンさや信頼性の高さなど原子力が果たす役割は重要だと強調。国内の天然ガス生産が先細るなか、原子力は唯一、低炭素な電力供給を確実に約束できるとした上で、英国政府は原子力発電の開発戦略に一層重点的に取り組む必要があるとした。同社はまた、原子力発電所の建設にともなう資金の調達やリスクの軽減で、革新的な手法を開発すべきだと断言。原子力は技術面のリスクは小さいものの、近年の資金調達モデルには大きな問題があると述べた。英国では現在ヒンクリーポイントC原子力発電所を建設中であり、サイズウェルCとブラッドウェルB原子力発電所計画も含めると、合計840万kW分の計画が進展中だとしている。(参照資料:アトキンズ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月13日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jan 2020
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米オレゴン州のニュースケール・パワー社は1月7日、同社製の小型モジュール炉(SMR)について、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が昨年12月から全3段階で構成される「許認可申請前設計審査(ベンダー審査)(VDR)」を開始したと発表した。同社が開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」は現在、米原子力規制委員会(NRC)による全6段階の設計(DC)認証審査をSMR設計としては初めて、また唯一2017年3月から受けている。同審査は昨年12月にフェーズ4まで終了し、フェーズ5と6に進展中。技術面の審査がほぼ完了したことを示しており、同社は2026年までに初号機の運転開始を目指している。ニュースケール社はカナダでも同様に「NPM」を建設する考えで、ベンダー審査を実施するCNSCに対して12月10日付で最初の情報文書を提出した。同審査は建設・運転許可など正式な申請手続に先立ち、カナダの規制要件に対する対象設計の適合性をメーカー側の要請に基づいて評価するサービス。法的に有効な設計認証や関係認可が得られるわけではないが、カナダの顧客が将来「NPM」の建設許可をCNSCに申請する際、ベンダー審査が完了していれば技術面の審査を最大限効率的に実施することができる。同社のJ.ホプキンズ会長兼CEOは、「カナダでも当社製SMRを建設することへの関心が日に日に高まっている」と指摘。NRCに加えて、もう一つの確固たる規制当局から「NPM」の革新的な安全性能について徹底した評価を受けることにより、出力6万kWのモジュール連結で出力の拡大縮小が可能かつ経済性も高く、低炭素で安全なSMR技術をカナダの顧客に提供したいと述べた。「NPM」設計でベンダー審査を実施することは、2018年2月にCNSC側が公表していた。ニュースケール社としては、完成度の高い「NPM」の場合、同審査の第2フェーズから直接開始することができると認識。このため、第1、第2フェーズをまとめて受ける方針で、VDRで扱う19分野のうち、「一般的な採用プラントの説明」など4分野を初回の提出文書でカバー。これらは残りのVDR審査の基盤となる部分であり、最終段階の第3フェーズも含め、計4回提出する文書の残り3回分に関しては、それぞれ約半年ほど間隔を空けるとしている。ニュースケール社はカナダでの「NPM」建設に関して、オンタリオ州で原子力発電所の運転を担当するブルース・パワー(BP)社と2018年11月に覚書を締結しており、同設計をカナダ市場で売り出す際の投資対効果検討書の作成や許認可活動などの面で協力を得ている。また、カナダの商業用加圧重水炉19基のうち18基を所有するオンタリオ州営電力会社(OPG)社は、ニュースケール社の諮問組織に参加。カナダにおけるSMRの許認可手続や「NMP」建設、およびVDR等について、ニュースケール社に助言を提供している。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月7日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jan 2020
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韓国の科学技術情報通信部(MSIT)は1月3日、サウジアラビアで韓国製小型モジュール炉(SMR)「SMART」を建設する計画や同設計の共同輸出を促進するため、2015年9月に両国の担当機関が締結した「SMART炉の建設前設計(PPE)協力契約」を改定したほか、新たに「韓国-サウジアラビア・標準設計認可取得の共同推進協約」を締結したと発表した。これらによって具体的に、韓国水力・原子力会社(KHNP)を始めとする韓国企業、およびサウジ企業が参加するSMART炉の建設・輸出担当特別合弁企業「SMART EPC社(仮称)」の設立と、同社におけるKHNP社の役割が明文化された。KHNP社はSMART EPC社が設立されるまで同プロジェクトを主導し、サウジ国内の標準設計認可をSMART炉で取得するとともに、ビジネス・モデルの設定や建設インフラの構築、第3国へのSMART炉輸出のための協議を進めていく。SMART炉は海水脱塩と熱電併給が可能なシステム一体型モジュラーPWRで、熱出力と電気出力はそれぞれ33万kWと10万kW。韓国原子力研究院(KAERI)が中東諸国等の需要も想定して開発したSMRで、韓国とサウジアラビアは2015年に同炉のPPE協力契約を締結した後、韓国側が0.3億ドル、サウジ側が1億ドルを投資して、同年12月から2018年11月までSMART炉の設計をPPE事業として共同実施。これには原子力関係の研究者に加えて、韓国側から韓国電力技術(KOPEC)、 韓電原子力燃料(KNFC)、斗山重工業、鉄鋼大手のポスコ社などが参加した。今回の発表によると、SMART炉事業へのKHNP社の参加は、同設計の初号機建設事業におけるリスクを軽減するためサウジアラビア側から要請されたもので、原子力発電所の建設と運転におけるKHNP社の豊富な経験が買われたという。また、「標準設計認可取得の共同推進協約」は、建設許可審査におけるサウジ側の負担軽減と第3国へのSMART炉輸出の促進を目的としており、この作業でKHNP社やKAERI、サウジ側の担当機関「アブドラ国王原子力・再生可能エネルギー都市公団(K.A.CARE)」それぞれが果たす役務範囲や財源分担案などが盛り込まれた。MSITはこれらにより、両国がSMART炉の許認可段階から建設、インフラ構築など、原子力発電全般にわたって協力していく基礎が築かれたと指摘。両国のSMART炉事業推進に一層の弾みが付くと強調した。サウジ側も、同炉の標準設計認可取得や国内の初号機建設を通じて技術やノウハウを蓄積し、同国が原子力発電技術で自立するための大きな資産として活用できると期待している。(参照資料:MSIT(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの1月7日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jan 2020
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スウェーデンのバッテンフォール社は2019年12月30日、リングハルス原子力発電所(=写真)で1975年5月から約44年間稼働した2号機(90万kW級PWR)を予定通りに永久閉鎖したと発表した。同社は昨年9月以降、2号機の出力を定格から徐々に下げていく「コーストダウン運転」を始めており、11月に出力が50%以下になった後、12月に最終停止したと説明した。同社はこのほか、1976年1月に同炉より約8か月遅れで営業運転を開始した同1号機(90万kW級BWR)についても、2020年中に早期閉鎖させる方針である。リングハルス1、2号機を予定より5年早く閉鎖する計画は、2015年9月にバッテンフォール社が公表していたもの。理由としては近年の電力価格の低迷に加えて、安全要件が一層厳しくなったこと、政府の脱原子力政策で議会が原子力税を引き上げたため、採算性が悪化したことなどを挙げていた。電力価格はその後回復を見せたが、同社は両炉の経済性等の観点から運転を継続することはできないと判断。同社の発電担当上級副社長は2015年当時、「電力が余り、風力発電が拡大しつつあるスウェーデンの現状を考えれば、原子力発電も現在の10基は必要ないという点に注目すべきだ」と述べていた。一方、1980年代に運転開始した同3、4号機(各110万kW級PWR)については、同社は9億クローナ(約103億円)をかけて安全性を改善し、予定通り60年間稼働させると強調している。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jan 2020
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