原子力産業を支援している業界団体の「世界原子力協会(WNA)」は7月9日、新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)後の世界の原子力発電について、現状分析と将来展望をまとめた白書「Building a StrongerTomorrow:Nuclear power in the post-pandemic world」を公表した。それによると、COVID-19が世界規模で拡大(パンデミック)したことで世界中の地域社会が深刻な影響を受けたが、多くの国では今後、一層クリーンで頑健かつ回復力のある社会をどのように構築するのが最良かについて、それぞれの政府がレビューを進めている。WNAはパンデミックに対して適切な政策的対応が取られれば、真に持続可能な世界を作り上げるまたとないチャンスがもたらされると認識。原子力は、低炭素で機能停止からの回復力が高く価格も手頃な電力の供給インフラを支える一方で短期的な経済成長を促すなど、COVID-19後の世界の復興に向けて中心的役割を担うことができる。原子力発電に対する投資もまた、エネルギー供給保証の強化につながるほか、水素や熱の供給に貢献して他部門の脱炭素化を支援することも可能だと強調している。今回の白書でWNAは、原子力発電所の建設プロジェクトが各国内で重要な投資を呼び込み、地域レベルや国家レベルで経済成長を長期的に持続させる原動力になると説明。世界では現在、108基ほどの新規原子炉建設計画に予算がついたり承認が得られるなど、すぐにも着工可能な段階に達しており、適切な支援さえあれば直ちに高賃金で長期の雇用機会を創出することができる。これらの建設計画はすべてCOVID-19後の復興にとって重要であり、膨大な社会的利益を生む可能性がそれぞれにあるものの、これを実現するには原子力の特質を高く評価するメカニズムが必要だとWNAは指摘した。また、直ぐに使える方策として、WNAは既存の原子力発電所における運転期間の長期化を挙げており、運転開始後30年以上が経過した世界中の原子炉約290基で運転期間を延長することは、低炭素な電力を発電する最も廉価な方法だと説明している。WNAとしては、COVID-19が引き起こした喫緊の危機に各国政府が取り組む際、原子力発電への投資は絶好のチャンスになると捉えている。また、地球温暖化や大気汚染、エネルギー貧困(近代的なエネルギー・サービスに対するアクセスの欠如)のように、規模が大きくて繰り返し発生する課題に取り組む際、原子力への投資は将来、これらの課題関連で危機が発生するのを防ぐことができるとした。こうした背景からWNAは、原子力に対して投資することは社会的な責任を負うことになるだけでなく、一層クリーンかつ万人に公平な未来の構築に向けて、持続可能な経済・社会の構築をも支援することにつながると強調。このような状況の下で、各国の為政者に対しては以下の点を実行に移すことを求めている。いかなるエネルギーへの移行計画においても、原子力と原子力が持つ社会経済面、環境面、公衆衛生面の利点を考慮し、それらの利点を現実化するための政策を制定する。各国政府がすでに検討中の原子炉建設計画合計108基分を実行に移し、30年以上稼働している既存の原子炉290基についても運転期間を延長する。原子力への投資を促す同時に顧客価値が生み出されるよう適切な枠組みを設定し、原子力に対する資金調達上の制限を解除する。(参照資料:WNAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jul 2020
3551
英コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)は7月7日、EDFエナジー社が5月下旬に提出していたサイズウェルC原子力発電所(SZC)建設計画の「開発合意書(DCO)」申請を6月24日付で受理したと発表した。この申請書は今後、PIが詳細に審査した上でビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)に勧告事項を提示、BEIS大臣がDCO発給の最終判断を下すことになる。なお、これに先立ち英原子力規制庁(ONR)は6月30日、SZCの運転会社としてEDFエナジー社が設立したNNBジェネレーション(SZC)社が、同発電所の原子力サイト許可(NSL)を申請したことを明らかにした。こちらの申請書は審査を評価段階に進めるのに十分な完成度だったが、ONRの作業量が膨大であるため、少なくとも2021年末までONRとして最終的な判断を下すことはできないとしている。PIによると、DCOの申請内容はイングランド地方の南東部サフォーク州にあるサイズウェルB原子力発電所(125万kWのPWR)の北側に、出力約167万kWのフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)(英国仕様版)を2基建設するというもの。主要な原子力発電設備のほかに、海上設備や発電所の建設と操業を円滑に進めるための設備などで構成される。また、サイズウェルB発電所の運転に関わる補助施設の中から、特定の既存設備を移設したり取り換えるなどして使用。建設工事は段階毎に分けて行われるため9~12年を要する見通しだが、完成すれば設計上の運転期間である60年間運転を継続し、その後は廃止措置が取られるとしている。また、申請書の受理に際し、担当大臣が2017年のインフラ計画(環境影響評価)規制に基づき、このプロジェクトが周辺国の環境に及ぼす影響についてスクリーニング評価を行った。その結果、英国以外のいかなる国においても環境面で多大な悪影響が及ぶ可能性は低いと結論付けている。英国政府はさらに、国連欧州経済委員会(UNECE)が1991年に採択した「越境環境影響評価条約(エスポー条約)」と1998年の「環境に関する情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセスに関する条約(オーフス条約)」を考慮。EDFエナジー社が提案したプロジェクトの情報をこれらの締約国すべてとその市民に提供すると決定しており、これらの市民が公聴会などの意思決定プロセスに参加するよう呼びかけている。(参照資料:英国政府、ONR、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jul 2020
1981
経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は7月2日、原子力発電所の建設コスト削減によってクリーン・エネルギーが普及する未来への道筋を示した報告書「原子力建設コストの削減:関係者のための解説書(Unlocking Reductions in the Construction Costs of Nuclear: A Practical Guide for Stakeholders)」を公表した。同報告書は結論として、「世界各国が脱炭素化やエネルギー供給保証に向けた目標を達成したいのなら、今こそ行動を起こすべき時だ。新規原子力発電所の建設コストが廉価なものであれば、原子力はこれらの目標達成に重要な役割を果たすことが可能。各国政府は、産業界がこれまでに獲得した能力を活用するための政策枠組を創設することで、原子力建設コストの迅速な削減を支援できるかもしれない」と表明している。OECD/NEAのW.マグウッド事務局長は「我々の分析によれば、建設プロジェクトにかかる高額なコストとスケジュールの遅延は原子力技術に固有の特徴ではなく、サプライチェーンの脆弱さやOECDに加盟する西側諸国で近年、原子力発電所の建設経験が不足していることが原因だ」と説明。建設コストが市場ニーズに沿ったものなら、原子力は新型コロナウイルスによる感染後の短期的な経済復興や地球温暖化に関わる長期的な環境目標の達成に大きく貢献することができるとした。同事務局長はまた、今回の報告書で原子力発電所建設コストの劇的な削減を高率で達成することができる確かな証拠を提示したと表明。世界ではすでにいくつかの国で同コストの削減対策が進められているが、産業界と規制当局が一層協調していけば今後さらに大きな長期的利益がもたらされる。産業界が片付けるべき課題が山積する一方で、各国政府がリーダーシップを取り、時宜に適った行動を起こすこともまた重要だと強調している。OECD/NEAの報告書は主に、近年普及している第3世代の原子炉設計について潜在的なコストとプロジェクト・リスクを削減する可能性に焦点を当てている。これらの設計では2030年までの短期間にコストの削減が可能であるほか、長期的には削減策を小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉設計を建設する際にも適用できるとした。2030年以降の長期的なコスト削減策に関してはまた、建設プロジェクトに資金調達する枠組の設置段階で、政府と産業界および社会全体でリスクを分担・軽減するための構想について詳細な研究を行っている。同報告書はさらに、原子力発電所建設プロジェクトの様々な段階で活用可能な8つのコスト削減項目を特定した。それらは初号機の建設に際して「完成度の高い原子炉設計を開発すること」と「効果的なプロジェクト管理」、「規制面の予測可能性と安定性の確保」、および「同一サイトでの複数ユニット建設と複数サイトでの同一設計建設で習熟効果を得ること」である。初号機の完成後は「設計の合理化」や「技術とプロセスの刷新」、「規制当局への対応の再検討」、「原子炉設計の規格と各国毎の許認可体制の間で一層の調和を図ること」を指摘。これらを通じて、建設コストを一定値まで下げることができるとしている。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jul 2020
3436
仏国内すべての原子力発電所を所有・操業するフランス電力(EDF)は6月29日、ドイツとの国境に近い東部に立地するフェッセンハイム原子力発電所2号機(PWR、92万kW)を、同日夜11時に永久閉鎖したと発表した。同炉は国内で稼働中の原子力発電所としては最古となる1978年に営業運転を開始、昨年9月に公表されていた予定日より1日前倒しの閉鎖となった。これは、2015年8月に成立した「エネルギー移行法」に基づき、現在約75%の原子力発電シェアを2025年までに50%に削減し、原子力発電設備も2015年レベルの6,320万kWに制限するための施策。これらの施策は元々、F.オランド前大統領が当時公約していたもので、手始めとして、フェッセンハイム発電所で1977年に運転開始した1号機(PWR、92万kW)が今年2月に永久閉鎖された。2017年5月に就任したE.マクロン大統領はオランド前大統領の方針を引き継いだが、「2025年までにシェアを引き下げる」方針を現実的で制御可能、経済的かつ社会的にも実行可能な条件下で達成するため、2018年11月の「エネルギーと地球温暖化に関する仏国戦略」の中で目標期日を10年先送りすると発表した。その際、フェッセンハイム発電所の2基を含め、国内の58基中合計14基の90万kW級原子炉を2035年までに永久閉鎖する方針を明らかにした。閉鎖の可能性がある90万kW級発電所は、トリカスタン(4基)、ビュジェイ(4基)、グラブリーヌ(6基)、ダンピエール(4基)、ルブレイエ(4基)、クリュアス(4基)、シノン(4基)、サンローラン・デゾー(2基)など。同大統領は、フェッセンハイムの2基の閉鎖後に国内の電力供給にリスクが及ばないと判断された場合、後続の2基を2025年から2026年の間に閉鎖する可能性を示唆していた。なお、仏政府の環境連帯移行省は同日、フェッセンハイム2号機の永久閉鎖について「エネルギー消費量の中でも特に化石燃料による発電電力の消費量を削減し、温室効果ガス排出量の削減を目指した政策の一部である」と説明。これとともに再生可能エネルギー源の開発を通じて国内エネルギー・ミックスの多様化を図り、自然災害等に対する送電網のレジリエンス(回復力)も一層強化すると述べた。一方、仏原子力学会(SFEN)のV.フォードン事務局長は一般紙のインタビューに対し、私見と断ったうえで、「フェッセンハイム原子力発電所が閉鎖されたことでCO2の排出量は年間約1,000万トン増えることになる」と指摘している。(参照資料:EDFフェッセンハイム原子力発電所(仏語)、仏環境連帯移行省(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jul 2020
3701
ハンガリーの国家原子力庁(HAEA)は6月30日、国営MVMグループのパクシュII開発会社からパクシュ原子力発電所II期工事の建設許可申請書を受領したと発表した。この増設計画では、国内唯一の原子力発電設備であるパクシュ発電所の隣接区域に第3世代+(プラス)の先進的な120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を2基建設することになっており、HAEAは翌7月1日から審査手続を開始。12か月後には最終的な判断を下すが、必要であればさらに3か月を審査に費やすとしている。一方、パクシュII開発会社では「建設前サイト準備許可」を取得できれば2021年初頭にも地盤の工事を開始できると予想。最短で同年9月に主要建屋の建設許可を取得し、本格的な建設工事を始められるとしている。パクシュ発電所I期にあたる4基はいずれも出力50万kWのVVER-440で、これらでハンガリーの総発電電力量の約半分を賄っている。また、これらの原子炉ではすでにVVERの公式運転期間である30年が満了したため、追加で20年間運転期間を延長する手続が完了した。II期工事で建設される5、6号機は最終的にI期の4基を代替することになっており、ハンガリー政府は2014年1月にこの増設計画をロシア政府の融資により実施すると発表。翌月に両国は、総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)の低金利融資について合意したほか、同年12月には双方の担当機関が両炉のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約など、関連する3つの契約を締結した。しかし、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は2015年11月、これらの契約が公的調達に関するEU指令に準拠しているかという点、およびEU域内の競争法における国家補助規則との適合性について調査を開始。2017年3月までにそれぞれについて承認裁定が下されたものの、プロジェクトの実施は当初計画から少なくとも3年遅延している。HAEAは2014年に同計画についてサイト調査とその評価作業を実施する許可を発給したほか、2017年にはサイト許可を発給した。2つの事務棟や作業員100名分の食堂とキッチン、作業用建屋、資機材の貯蔵建屋など建設工事に必要な建屋の建設許可も発給済みで、パクシュII開発会社は昨年6月に建設工事の準備作業として、80以上のこれら付属施設の建設工事を開始している。今回、パクシュII開発会社が提出した建設許可申請書は28万3千ページに及んでおり、HAEAは審査を効率的に行うために専用の作業プログラムを開始した。複数の法規が関係することから、HAEAのスタッフ180名のうち半数以上がこの審査に関与することになる。HAEAはまた、外部専門家の意見を取り入れるため、年末に国際原子力機関(IAEA)の技術安全レビュー(TSR)調査団を招聘する計画。申請書の中心部分である予備安全解析書を独立の立場の国際的な専門家に評価してもらうことが目的であり、調査団はIAEAの安全基準に対するパクシュ5、6号機の適合性について報告書を作成。HAEAはこの報告書に基づいて最終判断を下すことになる。なお、建設許可申請書の提出後3か月が経過すれば、パクシュII開発会社は関連するその他の許可も申請することができる。今年行われた原子力安全条例の修正にともなうもので、建設サイトの土壌改良やベースマット部分の掘削といった特定のサイト準備活動、および原子炉圧力容器のような長納期品の製造に関する許可申請などがこれに相当するとしている。(参照資料:HAEA、パクシュⅡ開発会社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jul 2020
2783
原子力産業を支援する世界規模の業界団体である「世界原子力協会(WNA)」は6月30日、原子力発電所で運転開始当初に設定された期間を超える「運転長期化(LTO)」を推奨する新しい技術政策方針書「原子力発電資産の価値を保持するために(The Enduring Value of Nuclear Energy Assets)」(=写真)を公表した。「原子力発電所がもたらす環境面、雇用面および経済面の恩恵を最大限に享受するには、より多くの政府が国内の原子力発電所にLTO支援方策を導入しなければならない」と訴えている。この技術政策方針書はWNAのLTOタスクフォースが取りまとめたもので、A.リーシング事務局長は「既存の原子力発電所での運転長期化は喫緊の優先的政策課題であり、もしも各国政府が地球温暖化や新型コロナウイルス拡大下でのエネルギー供給システムのレジリエンス(回復力)問題に真剣に取り組むのなら、低炭素電源で信頼性も高い原子力発電所の閉鎖を許すべきではない」と断言。世界各国の政府に対しては、以下の項目を実行するよう求めている。原子力産業界で優秀な労働力を確保するため、基礎教育機関や高等教育機関、および関係の訓練プログラムに投資を行う。原子力サプライチェーンを万全に整備するため、産業戦略を策定する。その他のクリーン・エネルギーと同様に、発電以外で原子力のもたらす価値が高く評価されるよう電力市場を改革する。LTO導入プロセスへの国民参加が要件となっている国では、プロセスの透明化を図るとともに、ステークホルダーに対しては他の電源方式と比較しての安全性や環境面のリスク、社会経済的な恩恵等についても事実に基づいた情報を提供する。WNAによれば、原子力発電所のLTOは多くのエネルギー市場で「耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)」が最も低い発電オプションと位置付けられており、このことは今後数十年間変わらない見通し。これまでに世界中の原子力発電所でLTOが実証され、今や世界の標準的慣習となりつつあり、一般的とされる運転期間は60~80年となっている。またWNAの認識では、世界中の大多数の原子力発電所でLTOが技術的に可能である。近年閉鎖された原子力発電所の閉鎖理由はどれも政治的要因や市場構造の欠陥などによるもので、設計面の技術的制約が原因ではなかった。またこれ以外にも、WNAはLTOの利点として新規原子炉建設までの期間をカバーする橋渡しとして機能すること挙げた。LTOによって産業界の能力と競争力が温存されるだけでなく、高度な技能が要求される雇用を維持、地元コミュニティを支援することにもつながると強調している。(参照資料:WNAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Jul 2020
2313
国際エネルギー機関(IEA)は加盟各国のエネルギー政策を定期的にピアレビューしているが、6月25日に欧州連合(EU)のエネルギー政策についての評価結果をまとめた報告書「欧州連合2020、エネルギー政策レビュー」を公表した。新型コロナウイルスによる感染の拡大で打撃を被った欧州経済の立て直し策が模索されるなか、昨年末に就任したばかりのECのU.フォンデアライエン委員長は、2050年までに欧州大陸で温室効果ガスの排出量実質ゼロ化(気候中立)を目指す工程表「欧州グリーンディール」を推進中。このような意欲的な取組により、EUは一層クリーンでレジリエンス(回復力)の強いエネルギー供給システムへのシフトを加速させ、温室効果ガス排出量の削減で世界のリーダー的立場をさらに強化するチャンスがあるとIEAは評価している。IEAの報告書によると、EU域内における2019年の温室効果ガス排出量は1990年実績から23%削減されており、2020年までに排出量の20%削減という目標はすでに達成済み。この背景にはクリーン電源が主要な推進力として働いたという事実があり、欧州の炭素強度(carbon intensity)は今や世界の大半の地域をはるかに下回っている。EUはまた、洋上風力発電など再生可能エネルギー技術のリーダーであり、多くのEU加盟国が石炭火力からの段階的撤退政策を敷いている。ただし、輸送部門の温室効果ガス排出量については未だに上昇していることから、IEAは同報告書のなかで、温室効果ガスや再生可能エネルギー、エネルギーの効率化等についてEUが設定した2030年までの目標、および長期的な脱炭素化目標が達成されるよう複数の勧告事項を提示した。EUの野心的な目標を達成するにはすでに実施中のエネルギー政策をさらに強化する必要があり、温室効果ガス排出量でEU全体の75%を占めるエネルギー部門については特にそうした施策の中心部分に位置付けられねばならないとした。また、「欧州グリーンディール」の公表後、ほどなく発生した新型コロナウイルスによる感染拡大は世界経済を低迷させ、政策決定者が約束したクリーン・エネルギーへの移行やエネルギー部門のレジリエンスを試す試金石となった。EUのエネルギー部門は今のところこの経済的な重圧に良く持ちこたえているが、経済の悪化は引き続き関係企業や政府のバランスシートを圧迫している。こうした背景からIEAは、異なるエネルギー政策や脱炭素化アプローチを取るEU加盟各国に対し、それぞれの「国家エネルギー気候変動計画(NECP)」の枠内で協力を強化する必要があると指摘。域内の統合エネルギー市場や越境取引に基づいて事業を進め、EUの排出量取引制度における炭素の価格付けでは一層強力なシグナルを発するべきだと勧告した。また、域内の温室効果ガス排出量の実質ゼロ化に向けたあらゆるエネルギー・オプションを維持するため、脱炭素化に役立つエネルギー技術の開発とそれに向けた投資、および持続的な資金調達でそれぞれに平等な条件を確保すべきだとしている。原子力発電オプションの維持原子力に関しては、ECの長期ビジョンの中で2050年までに総発電量の15%を賄うと予想されているものの、域内の既存の原子炉では経年化が進んでいる。新たに建設中のものはわずかであり計画中についても同様であることから、IEAは運転期間の延長など国家レベルで新たな政策アクションが取られなければ、EU域内の原子炉の約半数が今後5年以内に閉鎖され、原子力発電設備は2040年までに域内電源ミックスの5%まで低下すると指摘した。このようなことは発電原価に影響するだけでなく、適切な調査や取り組みが行われなければ世界の地域レベルの電力供給保証にまで影響が及ぶ可能性があるとIEAは説明。欧州の低炭素電力の大半を賄う原子力発電オプションを2030年以降も維持していくには、EUが原子力に対する資金提供条件を少なくともほかの電源と平等に保ち、原子力が受け入れられている国で新たなプラントの建設や既存炉の運転期間延長を支援する必要がある。また、既存の原子力発電所で廃止措置を取る際は、安全性に留意するとともに放射性廃棄物の処分を促進しなければならないと強調している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Jul 2020
4441
トルコのエネルギー・天然資源省は6月26日、同国初の原子力発電設備として建設中のアックユ発電所(120万kWのロシア型PWR×4基)サイトで、2号機用のコンクリート製ベースマットが完成したことを明らかにした。同サイトでは2018年4月から1号機の建設工事が始まったのに続き、同年12月に2号機の部分的建設許可が降り、2019年4月には同炉の本格着工許可が発給されたこの日は、同省のF.ドンメズ大臣が地中海沿岸のメルシン地区にある発電所建設サイトを視察した。同大臣はトルコが建国100周年を迎える2023年に1号機の運転開始を目指すと述べた。また、2号機に関しても同年末までに起動させることを希望している。同サイトでは、建設工事を請け負ったロシア国営原子力総合企業ロスアトム社のエンジニアリング部門AEMテクノロジー社が、2年かけて1号機用の蒸気発生器4台を完成させている。ドンメズ大臣によると、同サイトでは現在約6,700人の建設作業員が働いており、エンジニアも含めてほぼ90%がトルコ国民。専門的知見が必要な部分ではロシアなど外国から来た専門家が働いているが、4基すべての建設工事が始まれば、同サイトでは1万5,000~1万6,000人が作業に従事することになる。後続の3号機については2019年4月3日、ロスアトム社のトルコ子会社であるアックユ原子力発電会社が同国の規制当局であるトルコ原子力庁(TAEK)に建設許可申請書を提出した。なお、TAEKの安全規制機能はその後、独立の原子力規制機関である原子力規制庁(NDK)に移管されている。また、作業員のうち143名のトルコ人は建設プロジェクトが始まる前にロシアに留学して学位を取得。これに続いて、新たに102名が今後1~2年以内にロシアの大学を卒業して建設チームに加わる予定であるほか、22名がロシアで勉強を継続し修士号の取得を目指す。今年はさらに、25名のトルコ人学生をロシアの大学に送り出す計画だとしている。(参照資料:トルコ・エネルギー・天然資源省(トルコ語)と半国営アナトリア通信(トルコ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
30 Jun 2020
2446
ロシアの民生用原子力発電会社であるロスエネルゴアトム社は6月26日、第3世代+(プラス)のロシア型PWR(VVER)である「VVER-TOI」も含め、合計4基の新規原子炉について着工準備をレニングラードとスモレンスクの両原子力発電所で開始したと発表した。計画ではまず、レニングラード原子力発電所Ⅱ期工事の3、4号機として、第3世代+のVVER「AES-2006」を2基(合計出力239.8万kW)増設するための準備作業を年末まで実施し、仮設の作業員宿舎も設置。その後2022年までに両炉の認可の妥当性や環境影響評価ついて公開ヒアリングを行い、建設プロジェクト全体の評価も実施する。同発電所ではすでに、同じ設計を採用したⅡ期工事1号機が2018年から稼働中のほか、2号機が2010年から建設中。これらは3、4号機の参照炉に位置付けられている。また、スモレンスク原子力発電所ではⅡ期工事1、2号機として、I期工事のRBMKが3基(各100万kW)稼働する地点から6 km離れた場所に「VVER-TOI」を2基(合計出力251万kW)建設する。既存のRBMKはすべて今後10年以内に運転期間が満了するため、新しい2基はこれらのリプレースということになる。「VVER-TOI」は「AES-2006」設計をベースに技術面と経済面のパラメーターを最適化したもので、初号機となるクルスク原子力発電所Ⅱ期工事1、2号機の建設工事が、それぞれ2018年4月と2019年4月に始まっている。ロスエネルゴアトム社は今後、スモレンスク計画の投資プロジェクトについてアクション・プランの準備と承認取得を2020年末までに完了、同プランに沿って資金調達手続きを開始することになる。今回の準備作業の開始決定は、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社のA.リハチョフ総裁が関係文書に署名した上で指示したもの。同総裁によると「AES-2006」はすでに国内外で建設中であり、どちらの設計も近年の国際的な安全要件をすべて満たすなど、最新の研究開発成果に基づいて設計されている点を強調した。また、これら4基の建設計画は2035年までの電力設備投資計画に組み込まれており、ロシア政府が承認済みである。ロスエネルゴアトム社はこれらの投資計画で技術コーディネーターを務めるとともに、事業会社の役割も担うことになる。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jun 2020
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カナダ中西部に位置するサスカチュワン州政府は6月24日、同州の原子力政策・プログラムの調整を図るため、環境省の気候変動・対応局内に原子力事務局を設置すると発表した。同局では、クリーン・エネルギー源である小型モジュール炉(SMR)を州内に建設するという戦略計画の策定と実施が最優先事項になるとしている。サスカチュワン州には今のところ原子力発電所は存在しないもののウラン資源が豊富であり、2018年に世界のウラン生産量国別ランキングでカナダを世界第2位に押し上げた。こうした背景から、同州は昨年11月に公表した2030年までの経済成長計画の中に、発電部門におけるCO2排出量の削減と無炭素発電技術であるSMRの開発方針を明記。州内のウラン資源を活用して、2030年代の半ばまでに初号機の完成を目指すとした。翌12月には、商業用原子力発電所を州内に擁するオンタリオ州、ニューブランズウィック州の両政府とSMRの開発・建設に向けて協力覚書を締結した。この中で3州は、「遠隔地域も含めたカナダ全土でSMRは経済面の潜在的可能性を引き出す一助になる」と明言。国内の主要発電業者に協力を求めてフィージビリティ報告書を作成し、2020年秋までにSMRの戦略的開発計画を策定する。今回の発表を行ったサスカチュワン州政府環境省のD.ダンカン大臣は、「SMRを開発してその恩恵を全面的に享受するには、複数のパートナーとの協力が不可欠だ」とコメント。SMRが内在する利点として、州内のウラン資源に経済的価値連鎖を付与できるほか雇用を促進、同州独自の気候変動対策策定にも寄与する点を挙げた。また、カナダでSMR開発が進展すれば経済・環境面の恩恵に加えて、安全で信頼性が高く価格競争力もあるクリーン・エネルギー源が同州に新たにもたらされると強調している。なお、カナダでは連邦政府もSMRの潜在的可能性に期待をかけており、2018年11月には天然資源省が「カナダにおけるSMR開発ロードマップ」を公表した。サスカチュワン州政府によると、カナダの全州および準州の電気事業者がこの構想への参加機会を模索しており、同州としてもSMRの利点を享受するためこれらとの協力を拡大していく考えである。(参照資料:サスカチュワン州政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Jun 2020
3343
英国原子力産業協会(NIA)は6月24日、新型コロナウイルスによる感染危機終息後のクリーン経済再生と2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするという英国政府の目標を達成するには、新規原子力発電所の建設実施を明確に確約する必要があるとの認識の下に作成した原子力ロードマップ「Forty by‘50」を公表した。これは、地球温暖化防止関連で英国政府への勧告義務を負う気候変動委員会(CCC)が、25日に年次経過報告書を国会に提出したのに先立ち、英国政府と産業界の共同フォーラムである原子力産業審議会(NIC)のためにNIAが取りまとめたものである。NICが承認した同ロードマップの中で、NIAは「長期的な温暖化防止目標の達成支援に加えて、新規原子力発電プログラムの決断を速やかに下せば、新型コロナウイルス感染のエネルギー供給への影響緩和に即座に役立つ巨大プロジェクトを進展させられる」と明言。英国では現在、新旧様々な技術に基づく意欲的なプログラムにより、2050年までにクリーン・エネルギーを全体の40%まで拡大し、水素その他のクリーン燃料製造や地域熱供給などを通じて大規模な脱炭素化を進められる可能性がある。また、これらによって最終的に30万人分の雇用と年間330億ポンド(約4兆3,900億円)の経済効果がもたらされるとしている。原子力発電は英国で年間に発電されるクリーン電力量の40%を賄っているが、NIAは化石燃料のリプレースや電気自動車の普及、暖房部門が好況なことから、今後の需要は4倍に増加することが見込まれると述べた。折しも、国際エネルギー機関(IEA)が先週、持続的な回復に向けたプランを各国の政策決定者に向けて勧告。NIAのT.グレイトレックス理事長は「原子力には膨大な可能性がありコストも下がってきているが、チャンスを逃さぬためにも今、一致協力した行動を取る必要がある」と指摘した。また、CO2排出量の実質ゼロ化を達成するには原子力が必要だが、先行する原子力発電プラント新設プログラムから教訓を学び、資金調達方法を大きく変更すれば、以後の大規模建設プロジェクトを大幅に安く仕上げることができる。同理事長はさらに、新たに建設する最初の原子力発電所で1MWh(1000kWh)あたり92.50ポンド(約12,300円)の電力価格を、それ以降の発電所では60ポンド(約7,980円)近くまで、将来的には約40ポンド(約5,320円)に引き下げる自信があると明言。原子力発電の設備容量についても、3倍に拡大する見込みがあるとしている。そのためのロードマップとなる「Forty by‘50」で、NIAはこのような産業界の大望実現に向け2020年に講じなければならない6つの重要対策を提示している。(1)原子力産業界は、新設プロジェクトのコストを2030年までに30%押し下げる努力を続けなければならない。(2)英国政府は、新規の原子力発電所を建設するという明確かつ長期的な方針を確固たる形で示すべきである。(3)新たな原子力発電所建設計画への投資を刺激し資本コストを低減するため、適切な資金調達モデルの設定作業を進展させねばならない。(4)小型モジュール炉(SMR)の立地や許認可申請に向けて、国家政策声明書や促進プログラムを作成すべきである。(5)官民の戦略的パートナーシップである「原子力部門別協定」に明記された2030年の目標を維持し、新設計画や廃止措置計画のコスト削減、民生用原子力部門における女性従事者の比率を40%に引き上げること、英国サプライチェーンで国内外からの契約総額20億ポンド達成、などを目指すべきである。(6)英国政府と産業界は、医療用放射性同位体や水素および輸送用合成燃料の生産、地域熱供給など、伝統的な発電事業以外の分野の協力に重点的に取り組むための枠組みの設定等で合意すべきである。(参照資料:NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jun 2020
2491
新型コロナウイルスによる感染が世界的に拡大するなか、国際エネルギー機関(IEA)は6月18日、主力報告書である「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)」のスペシャル版として「持続可能な回復」を公表した。各国のエネルギー供給システムを一層クリーンかつ回復力の高いものにしつつ、パンデミックで大きな打撃を被った世界経済を立て直して雇用を押し上げるため、各国政府が2023年までの3年間に取るべき複数の方策に焦点を当てている。IEAは国際通貨基金(IMF)と協力して取りまとめた同報告書の中で、各国政府が経済成長に拍車をかけて数百万もの雇用を創出し、CO2排出量を世界レベルで削減するための「エネルギー部門ロードマップ」を提案。新型コロナウイルスによる経済的打撃への対応策にエネルギー政策を盛り込み、①世界経済の成長率を年平均1.1%に引き上げ、②年間900万人分の雇用を創出・維持、そして③年間45億トンのCO2削減を目指すとした。また、同報告書のプランにより人々の健康と福利のさらなる向上を図るとしており、そのための投資として世界全体で今後3年間に毎年約1兆ドルが必要だとしている。エネルギー部門の投資については、IEAは2020年に世界全体でマイナス20%というかつてないほどの落ち込みが予想されると分析。エネルギーの供給保証とクリーン・エネルギーへの移行については、深刻な懸念が生じているが、今回の報告書のプランを実行すれば、世界のエネルギー部門は強靱なものになり、今後の危機に対しても各国は十分な準備を整えることができるとした。具体的にIEAは、送電網の強化や水力発電設備のアップグレード、既存の原子力発電所の運転期間延長、エネルギー効率の改善などに投資することが重要になると強調。これらは発電所の停止リスクを低減して電力の供給保証を改善、運転のロスを減らしつつ柔軟性を拡大するほか、太陽光や風力といった変動し易い再生可能エネルギーの発電シェアを増大することに繋がるとした。原子力に関しては、報告書の「電力」項目の中で「水力と原子力の役割維持」として取り上げており、IAEAはまず、これら2つの電源だけで低炭素な電源による発電量の70%を供給している点に言及。ただし、これらは化石燃料の輸入量削減や、電力の供給保証と顧客の値ごろ感改善に役立つ一方、多くの設備で経年化が進んでいる。また、新型コロナウイルス危機により収益が減るなど財政上の課題にも直面しており、早期閉鎖のリスクが高まるとともに新たな投資が行われる見通しも限定的である。こうした背景からIEAは、原子力という選択肢の維持を決めた国で既存設備の近代化やアップグレードに投資が行われれば、低炭素電源による発電量の急速な低下は避けられると指摘。さらに新規の設備が建設されれば、そうした電源の発電量を一層拡大することができると訴えている。 原子力で推奨される政策的アプローチこれらに向けて推奨される政策的アプローチとして、IEAはこれら2つの電源の開発には政府からの持続的支援が必要だと述べた。いずれも資本集約的な電源であり、開発プロジェクトに要する総投資額もエネルギー部門では最大になる。また、開発に要する期間が長期であるため、リスクと資金調達コストを抑える方法の模索は非常に重要。直接的な財政支援は必ずしも必要ではなく、長期の電力購入契約や固定価格の電力買い取り制度を通じて価格を安定させることができる。また、米国内の5州で実行されているように、CO2を出さないという原子力の貢献を認めて「ゼロ排出クレジット」を原子力発電所に提供。同国では課題満載の市場条件の下で、複数の原子力発電所が運転を継続している。経済への影響雇用などの経済との関わり合いに関しては、IEAは原子力によって80万人以上の雇用が確保されており、このうち約半数が発電所関係であると説明。この点で、インドや中国など新興国における近年の新規原子力発電所建設プロジェクトでは雇用が突出している。また、既存の原子力発電所の運転期間延長は設備投資額100万ドルあたり2~3人の雇用を創出、発電所の所在地では運転・保守点検管理(O&M)のための雇用が維持されている。また、大型原子力発電所の開発プロジェクトを促進することは、多くの課題を内在しているとIEAは指摘。例として、サイト探しに長期のプロセスが必要だったり、着工前に最良の条件が揃っていた場合でも数年を要することなどを挙げた。それでも世界では、欧州も含めて少数ながら直ぐに取り掛かれる開発プロジェクトがあり、小型モジュール炉(SMR)に関しては特に、世界中の政策立案者や投資家の間で関心が高まりつつあるとしている。CO2排出量、送電システムの回復力に対する影響原子力は水力とともに世界のCO2排出量削減に大きく貢献しており、IEAの調べによれば先進経済諸国で原子力発電所の運転期間がこれ以上延長されなかった場合、クリーン・エネルギーへの移行で年間約800億ドルが追加で必要になるほか、消費者の電気代は約5%上昇する。また、多くの国で原子力と水力の拡大にともない石炭火力の必要性が低下。100万kWの原子力発電所があれば、年間約600万トンのCO2排出が抑えられるとした。また、これらの電源はともに稼働率の高い低炭素電源であるため、IEAは多くの国の電力供給において必須のものになっているとした。原子力は特に、常に一定出力で発電することが可能なほか、発電システムとしての柔軟性も保有。一方、核燃料の調達先は少数のサプライヤーに限られているものの、燃料の交換頻度は18か月から2年に一度である。発電所の設計や運転上、重要鉱石への依存度も他の低炭素発電技術に比べて低い点を強調している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jun 2020
3334
ロシア国営原子力総合企業ロスアトム社傘下の燃料製造部門であるTVEL社は6月15日、シベリア化学コンビナート(SCC)で建設している窒化物燃料製造ユニット(FRU)で、主要機器の設置を開始すると発表した。作業の完了までには、1年半かかるとの見通しを明らかにしている。FRUは、同じエリアで建設準備中の鉛冷却高速炉(LFR)パイロット実証炉「BREST-300」(電気出力30万kW)専用の燃料製造施設となる。これらに同炉の使用済燃料再処理プラントを加えた3施設は、「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」を構成することになる。PDECは、ロスアトム社が進めている戦略的プロジェクト「ブレークスルー(PRORYV)計画」の主要施設であり、同社はこのプロジェクトにより、固有の安全性を有する高速炉で天然ウランや使用済燃料を有効利用するという「クローズド原子燃料サイクルの確立」を目指している。またPDECを通じて、開発実績の豊富なナトリウム冷却高速炉(SFR)に加えて、LFRの研究開発も並行的に進める考えである。SCCはシベリア西部のトムスク州セベルスクに位置するTVEL社の子会社で、FRUへの機器設置は燃料棒生産ラインの除染セクションから開始する。FRU全体で40品目以上の機器を据え付ける計画で、総重量は約110トンに達するとした。SCCでPRORYV計画を担当するA.グセフ副総裁は、「設計から設置に至るまで世界的にも特殊な機器を使用するため、この種の施設で典型的な手法を使うことはできない」と説明。主要な技術装置の設置については4Dモデリングを使ったデジタル方式で予め準備されており、これによって作業手順の合理化を図るとともに機器に不具合が発生するのを抑えられるとしている。なお、TVEL社は2019年12月、「BREST-300」の原子炉建屋とタービン建屋、および関連のインフラ施設を2026年末までに建設するため、発電施設のエンジニアリング企業TITAN-2社と263億ルーブル(約407億円)の総合建設契約を締結した。また、今年1月にはSCCの化学・冶金プラントで、LFR用のウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料の試験燃料集合体が完成。原子炉試験を実施するため、複数の高速炉が稼働するベロヤルスク原子力発電所に移送すると発表している。(参照資料:TVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Jun 2020
3237
国際原子力機関(IAEA)の理事会は6月19日、核不拡散条約(NPT)に基づく包括的保障措置協定と追加議定書の義務事項、およびIAEAが要請している事項への対応をこれ以上遅らせることなく、全面的に履行するようイランに求める決議を25対2で採択した。この決議は仏国、ドイツ、英国の3か国が提出していたもので、反対票はロシアと中国が投じた。未申告の核物質の保有と原子力活動が疑われる2施設へのIAEAの立ち入りについては特に、速やかに実現させることを要求している。イランの核開発疑惑を巡り、国連安全保障理事会の5か国とドイツおよび欧州連合(EU)は2015年7月、イランのウラン濃縮活動を大幅に制限する一方、そうした制限の実行をIAEAが確認し次第、国連安保理やEU、米国が課してきた制裁の解除を盛り込んだ「包括的共同行動計画(JCPOA)」をイランと締結した。しかし、米国のD.トランプ政権は2018年5月、JCPOAからの離脱とイランへの経済制裁再開を指示。イランもこれに対抗して、一年後にJCPOAで課された制限の一部を今後は順守しないと宣言している。主要当事国が撤退表明したことで、JCPOAは事実上、無効になったと見る向きもあるが、IAEAは今回の決議により、加盟各国が保障措置協定における義務事項を全面的に順守し、IAEAが要求する施設への立ち入りを促進することの重要性が強調されたと指摘。イランが保障措置協定を順守している点や、その原子力プログラムが純粋に平和利用目的である点を確証する際、IAEAが担う重要かつ他からの干渉を受けない独自の役割が明確に示されたと強調している。決議文のなかでIAEA理事会は、R.M.グロッシー事務局長が今年3月3日と6月5日に公表した報告書について言及した。これらの報告書は、保障措置協定と追加議定書に基づきイランの申告が正確で完全であることを解明するためIAEAが傾注した努力や、疑惑があるとしてIAEAがイラン国内で特定した2施設の査察問題について説明している。これらを踏まえた上で同理事会は、2施設への立ち入り容認も含め、これらの協定や議定書の義務事項を遂行するにあたり、イランは全面的かつタイムリーにIAEAと協力すべきだと進言。イランの核物質がすべて平和利用目的であるとの「拡大結論」にIAEAが到達するには、このような協力が不可欠であることを改めて確認したと述べた。また、追加議定書に基づく2施設への立ち入りをイランが拒否している点については、事務局長が報告書の中で示した深刻な懸念に理事会は賛同すると表明。IAEAは未申告の核物質と原子力活動の可能性についてイランとの協議にほぼ1年を費やしたが、これらはあまり進展していない。このため理事会は、イランに対してIAEAのリクエストに速やかに応えることを要請。これにはIAEAが特定した2施設への立ち入りを直ちに許可することが含まれるとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jun 2020
3025
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は6月18日、ブルガリアのベレネ原子力発電所完成計画における戦略的投資家選定手続きで、仏国のフラマトム社および米国のGEスチーム・パワー社と協力するための了解覚書を締結したと発表した。フラマトム社とGE社はロスアトム社と同様、ブルガリア・エネルギー省が昨年12月に戦略的投資家の選定入札で絞り込んだ最終候補の5社に含まれているが、これら2社はともに、機器の供給を通じてプロジェクトに参加することを希望していた。このため、ロスアトム社が戦略的投資家に選定された場合、GE社は今回の覚書通りロスアトム社のパートナーとして、アルストム社が開発した世界最大級の低速タービン「アラベル」を含むタービン発電機一式とタービン室用の機器を同プロジェクトに供給する。また、フラマトム社は主要パートナーとして、計装・制御(I&C)系や電気システム、水素再結合器、換気装置などを供給。両社が協力して、ベレネ計画へのロスアトム社の参加を後押しすることになる。 ベレネ原子力発電所建設計画では、2006年にロスアトム傘下のエンジニアリング会社アトムストロイエクスポルト社(ASE)が主契約者に選定されたが、独RWE社の撤退後は資金調達の目途がたたず、ブルガリア議会は2012年3月に同計画の中止を決めた。その後、ブルガリア議会と内閣は2018年6月、政府による建設資金の保証や長期の電力買取契約なしで、エネルギー大臣が市場原理に基づいて同建設プロジェクトを遂行すると決定。計画再開のためブルガリア電力公社が2019年3月、戦略的投資家を募集すると発表していた。同計画では第3世代の100万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」の採用が決まっており、計画が中止された際に未使用のまま倉庫に保管した1号機の長納期品、および2号機の一部機器を活用する。ロスアトム社のK.コマロフ第一副総裁は今回の覚書締結について、「原子力産業界のリーダー達による国際協力で、ベレネ計画を実行する最高の条件が財政面と技術面で生み出された」とコメントしている。ロスアトム社はすでに、ハンガリーのパクシュ原子力発電所Ⅱ期工事とフィンランドのハンヒキビ原子力発電所1号機建設計画にロシア型PWR(VVER)を供給するため、両社と協力中である。GE社とはさらに、トルコのアックユ原子力発電所とエジプトのエルダバ原子力発電所の建設計画に、タービン系統を供給する合弁事業体として協力している。(参照資料:ロスアトム社とフラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jun 2020
2989
ベルギーの放射性廃棄物管理実施主体である放射性廃棄物・濃縮核分裂性物質管理機関(ONDRAF/NIRAS)は、国内の高レベル放射性廃棄物と長寿命の低中レベル廃棄物の最終処分方法として地層処分を提案しているが、これに関して4月15日から実施していたパブリック・コメントの募集を6月13日に終えた。ベルギー連邦原子力規制局(FANC)はこの件について、「地層処分は現時点で最も安全な選択肢である」と表明しており、ONDRAF/NIRASの提案を支持する考えを6月15日付で明らかにしている。 ベルギーではこれまで、これらの放射性廃棄物の長期管理方法が決定しておらず、ONDRAF/NIRASは2011年、国内の粘土層で地層処分することを推奨する国家計画案と戦略的環境アセスメント報告書を連邦政府に提出した。しかし、その後も政府としての方針が決まらず、ONDRAF/NIRASは前述のとおり今年4月、地層処分採用の方針を盛り込んだ国家計画案についてパブコメの募集を開始していた。パブコメの募集はまた、放射性廃棄物政策を決定する際のアプローチとしてONDRAF/NIRASが提案したプロセスの一部でもある。処分プロセス全体の実行には数十年を要するが、処分方針の決定は廃棄物の最終処分に向けた一番最初のステップになると強調。パブコメ期間中に数多くの貴重なコメントや知見、助言が得られたことから、今後数か月間にこれらを分析評価し、秋にはONDRAF/NIRASの監督機関やエネルギー・経済問題の関係閣僚に最終的な政策を提案するとしている。FANCは今回のONDRAF/NIRASの提案について意見を求められていたもので、地層処分であれば放射性廃棄物は地下の安定した地層中の処分施設内に貯蔵され、長期的に隔離することができると明言。現在の科学知識では、地層処分が最も安全な長期的処分方法だとするONDRAF/NIRASの見解に同意すると述べた。FANCはまた、今後の世界が現在と非常に異なるものになったとしても地層処分には大きな利点があると指摘。具体的には、戦争や地球温暖化、財源不足といった新展開に付随するリスクを極力抑えることができるとした。さらに、この種の処分方法には「受動性」というもう一つの利点があり、一旦処分してしまえば人の介入を一切必要としない点を挙げている。その一方でFANCは、具体的な地層処分プロジェクトの安全性については、実際の建設までに検証されなければならないと言明。現在の提案では地層処分の原理が議論されているだけで、実際に処分場をいつどこでどのように建設するかなどの議論はされていない。これは、規制当局であるFANCとしては、提案の原子力安全・セキュリティ面について裁定を下すが、今のところ処分施設の認可申請書が提出されておらず、処分に最適の地層やロケーション、深さ等を備えたサイトについても、まだ選定されていないことからの指摘である。ONDRAF/NIRASは今後、パブコメの結果やFANC等の関係機関や地方組織からの助言を考慮した上で政策提案を行うが、FANCとしては、ベルギー政府が放射性廃棄物問題の長期的解決策として地層処分を承認した場合、処分サイトや地層の選定など、将来の決定事項に継続的に関わっていく考えである。(参照資料:ONDRAF/NIRAS(仏語)、FANC(オランダ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Jun 2020
2058
米原子力規制委員会(NRC)は6月15日、カリフォルニア州の原子炉開発企業オクロ(Oklo)社が今年3月に同社製の小型高速炉設計「オーロラ」(=完成予想図)について提出していた建設・運転一括認可(COL)の申請書を受理したと発表した。オクロ社は「先進的な原子炉は地球温暖化の防止対策としても重要なツールであり、そのための申請書が受け入れられたことは先進的原子力技術の商業化に向けたブレークスルーを意味する」と表明している。オクロ社による申請は非軽水炉型の先進的小型原子炉としては初のもので、米エネルギー省(DOE)はすでに昨年12月、「オーロラ」を傘下のアイダホ国立研究所(INL)敷地内で建設することを許可していた。同社は今のところCOLの発給に必要な設計認証(DC)審査を「オーロラ」で申請していないが、NRCは2016年から同社と認可申請前協議を行っており、許認可申請前のガイダンス提供や潜在的課題の事前の指摘などを通じて申請の準備作業を支援。申請書が受理されても最終的にNRCがCOLの発給を承認するとは限らないが、オクロ社としては2020年代初頭から半ばにかけてINLで初号機の着工を目指す考えである。「オーロラ」は電気出力0.15万kWのコンパクト設計で、熱も供給する。同炉では米国でこれまでに開発・実証されてきた先進的な金属燃料を使用するほか冷却水が不要であり、少なくとも20年間は燃料交換なしで熱と電気の供給を続けることができる。また、究極的には燃料をリサイクルしたり、放射性廃棄物からクリーン・エネルギーを取り出すことも可能。NRCの説明によれば、同炉の開発は安全確実な先進的原子炉の商業化という国益にかなうものであり、このことは先進的原子力技術改革への支援を促進する「原子力技術革新・規制最新化法(NEIMA)」の目的でもある。NRCは今後、審査の準備がし易い効率的な審査日程を同社に提示するため、審査の初期段階として同設計の安全面や主要設計部分の作業に集中する。また、COL発給の可否に関する公聴会への参加要項を近いうちに連邦官報に掲載する。COLの発給により影響を受ける可能性のある者や利害関係者として参加を希望する者は、連邦官報で告知された後60日以内に参加申請手続が必要である。なお、SMR関係の許認可手続としては、ニュースケール・パワー社が独自に開発した「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」について、NRCが2017年3月からDC審査を実施中。全6段階ある安全性関係の審査は、昨年12月時点で第4段階まで完了した。NPMの初号機も「オーロラ」と同様、INL敷地内での建設が予定されている。(参照資料:NRCの発表資料①、②、オクロ社の声明文、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Jun 2020
3426
南アフリカ共和国の鉱物資源・エネルギー省(DMRE)は6月14日、将来的に250万kWの原子力発電設備を建設する準備作業として、自国の原子力発電プログラムに適した技術を評価するための情報提供依頼書(RFI)を市場の関係機関に向けて発出した。同RFIでは、伝統的なPWRと2030年までに商業利用可能な小型モジュール炉(SMR)、 またはそれら技術を組み合わせたベースロード電源を南アは希望することが記されている。原子力発電所の新設には長期のリードタイムを要することから、今回のRFI発出は南ア社会における将来のエネルギー供給保証に向け、必要となる建設計画を先行して策定するのが目的。これは2019年10月にDMREが公表した新しい「統合資源計画(IRP)」に沿って行われており、DMREはRFIを通じて建設計画のコストや発電所の所有者構成、建設コストの回収、エンドユーザーのコスト、プログラムの持続可能性等に関する情報を入手し、検討を行う。南アではJ.ズマ大統領による前政権時代、2011年3月に公布したIRPに基づき、2030年までに960万kWの原子力発電設備を新たに建設することが計画されていた。建設候補地に挙がっていた5サイトは2016年3月までに2サイトまで絞り込まれたが、野党が大統領の不信任決議採決を要求したのを受け、政府与党は2018年2月にズマ大統領の解任を決定。同大統領は辞任に追い込まれ、C.ラマポーザ大統領による新政権が誕生している。2019年の改訂版IRPでは、まず国内唯一のクバーグ原子力発電所(97万kWのPWR×2基)について、運転開始後40年の運転期間が満了する2024年以降、エネルギー供給を継続して確保するため、設計寿命を延長することが重要になると明記。2030年以降は既存の石炭火力発電所2,410万kW分が廃止されることから、原子力を含むクリーン・エネルギー源を加える必要があるとした。原子力発電の経済性やこれまでに蓄積した人的資源や運転技術などを考慮した場合、将来の開発拡大プログラムに備えた明確なロードマップの作成など、準備作業を直ちに開始しなければならない。その一方で、この新設プログラムでは複数の発電所を一度に建設するのではなく、モジュール工法を活用し無理のないペースで進めなければならないと提案している。改訂版IRPはまた、アフリカ中央部のコンゴ民主共和国が計画している大規模なインガ水力発電所プロジェクトに言及した。南アはこの計画に参加するためコンゴと「グランド・インガ条約」を締結し、250万kWの電力を同発電所から引き取ることになっているが、コンゴはこれに必要な開発作業を終えておらず、同条約はこのまま2023年に失効する可能性がある。南アにとって、原子力はインガ発電所からの250万kWが実現しなかった場合の「悔いのない長期的な代替選択肢」であり、コスト面ではインガ・オプショに劣るとしても実行可能なオプションと捉えられている。(参照資料:南ア鉱物資源・エネルギー省の発表資料①、②RFI詳細、③改訂版IRP、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jun 2020
3006
国際原子力機関(IAEA)は6月11日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的拡大(パンデミック)に際し、世界各国の原子力産業界ではこれに対処する特別な措置が取られているため、発電所の労働力やサプライチェーン等への影響により停止を強いられた原子力発電所は、今のところ皆無であると発表した。これは、IAEAが運営するCOVID-19運転経験ネットワーク(OPEX)や「原子力施設事象報告システム(IRS)」を通じて、各国の原子力発電所運転員や規制当局から得られた情報に基づいている。IAEA原子力発電部のD.ハーン部長は「実施が計画されていた定期検査やメンテナンスの日程など、このパンデミックは様々な形で世界中の原子力発電所に影響を及ぼしているが、運転員と規制当局は引き続きこれらの発電所で安全・セキュリティの確保に努めている」とコメント。IAEAがOPEX等から受け取る情報は、パンデミックが原子力産業界に与える影響について重要な洞察力をもたらしているほか、運転員や規制当局が互いの経験を学びあう一助にもなっていると指摘した。発表によると、原子力発電所では日々の運転業務の継続やスタッフ間の感染リスク軽減で複数の方策が取られる一方、経済活動の制限にともない電力需要が低下したことから、いくつかの発電所では出力を下げて運転中。メンテナンスのための定期検査は日程の調整を余儀なくされており、検査期間の短縮や規制当局の許可を得た上で重要度の低い作業を延期する例も見受けられている。これと同様に、発電所スタッフの配置数の検討やスタッフ間で距離を置くことも実行されており、日々変化する前代未聞の状況に際して発電所運転員が柔軟な措置を取り万全に準備している点、トラブルに際しても迅速に健全な環境に復帰できるよう対応している点を強調した。パンデミックが世界経済と産業活動に及ぼしている広範な影響は、今後も継続して世界のサプライチェーンにとっての課題となると予想され、IAEAは例として原子力発電所の中・長期的パフォーマンスへの影響、新規の原子炉建設や大規模改修プロジェクトにおけるリードタイムの長期化を挙げた。また、新規建設プロジェクトの資金調達で不確実性が増し、入札プロセスに遅れが生じる可能性などを指摘した。さらに、スタッフ数をこれ以上削減した場合の緊急時対応計画、発電所スタッフあるいはその家族の感染時に取られる対応措置についてもIAEAは情報を与えられている。IAEA原子力施設安全部のG.リジェットコフスキー部長は、「今回のようなパンデミックは原子力発電所で安全運転を続ける際に障害となり得るので、発電所の安全性を事業や優先事と統合させる特別な措置を講じなければならない」と説明。そのような措置においては、先例のない状況のなかでも安全性で妥協しないことを目標としており、有資格のスタッフ数については特に、適切なレベルを確保しなければならないこと、必要であれば原子炉を停止して、安全な停止状態で維持することも辞さないことを挙げている。IAEAはこのほか、世界原子力発電事業者協会(WANO)や経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)などの国際機関とも調整し、パンデミック状況下の原子力発電やエネルギー市場動向のデータを分析比較。今回のような事態や将来同様のアウトブレイクが発生した場合でも、原子力発電事業を後押ししたいとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jun 2020
3002
欧州で約3,000社の原子力企業を代表する欧州原子力産業協会(フォーラトム)は6月10日、「欧州原子力サプライチェーンの最適化-原子力施設における高品質の一般産業品活用に向けて」と題する報告書を公表した。原子力産業界で高いレベルの安全性と品質、信頼性を確保するためには、盤石で多様な機器サプライチェーンが必要とフォーラトムは認識しており、欧州委員会(EC)は欧州連合(EU)域内の原子力サプライチェーンで一層の調和を図ることの重要性を認めるべきだと主張。フォーラトムによると、欧州原子力産業界では現在、製造委託を受けて他社ブランドの製品を製造する企業(OEM)の多くがもはや市場に存在しない、あるいは当初設計した製品の製造を停止している。これと同時に要件の多様化や厳密化が世界中で進んでいるため、新規参入企業にとっても難度の高いものになっている。このような課題を解決するため、フォーラトムは他産業のために製造された高品質の近代的機器を原子力施設で使用できるよう、EU加盟国が規制の枠組みを見直しする際にECが支援提供することを求めている。また、調和の取れた強力なサプライチェーンであれば、新型コロナウイルスの感染爆発によって損なわれたEU経済を復活させる一助にもなると指摘している。フォーラトムによれば、現在EU域内で発電される総発電量の26%が原子力発電によるものであり、低炭素電源の発電量としては最大となる。しかし、欧州の既存原子力発電所はすでに平均で35年間運転を継続しており、運転期間の長期化措置を取らなければ2035年までにこれらの設備の90%が閉鎖され、リプレースが必要になる見通しだ。フォーラトムのY.デバゼイユ事務局長は、「欧州の原子力発電所で安全かつ信頼性の高い運転を続けるには、適切なサプライチェーンの選択肢が必要だ」と説明。その上で、今回の報告書の勧告事項を実行すれば、欧州のサプライヤーは原子力発電所の運転長期化プロジェクトや新設プロジェクトへの参加で大きなチャンスを得るだけでなく、新型コロナ後のEU経済の復興や2050年までに域内でCO2排出量の実質ゼロ化を達成するという目標の達成にも寄与できるとした。今回の報告書でフォーラトムは、高品質な一般産業品の利用と調和のとれたアプローチの促進に向けて、欧州の原子力産業界は一般産業品のグレード格上げに関する国際経験や既存サプライチェーンのプロジェクトを生かすべきだと強調。また、盤石で多様なサプライチェーンの確保に向けて、以下の点についても勧告している。原子力産業界は、安全性に関わる一定用途に高品質の一般産業品を受け入れるための共通方法論も含め、「欧州ガイドライン」というものを策定すべきである。この目的の達成においては、欧州原子力施設安全基準(ENISS)や西欧原子力規制者協会(WENRA)、欧州原子力規制者グループ(ENSREG)など、ステークホルダー間の境を超えた協力の実施を奨励する。EU加盟国を始めとする欧州の各国は、欧州共通のガイドラインに基づき高品質の一般産業品を国内で使用できるよう、国家毎のガイダンスも策定すべきである。原子力産業界は、一層規模の大きい市場基盤やサプライヤーとの一層効果的な連携が可能になるよう、既存の手続きを見直すべきである。(参照資料:フォーラトムの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jun 2020
2639
カナダのエネルギー関係プロジェクト開発企業であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は6月9日、パートナー企業の米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)およびカナダの発電事業者オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社との3社で合弁事業体(JV)「GFPリミテッド・パートナーシップ」を設立したと発表した。このJVでは、USNC社が開発した第4世代の小型モジュール式(高温ガス)炉(SMR)「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をカナダ原子力研究所(CNL)のチョークリバー・サイトで建設・所有・運転する計画である。GFP社は2018年6月、CNLが公表した独自の戦略的イニシアチブ「CNL管理サイトにおけるSMR実証炉の建設・運転提案募集」にMMRで応募しており、CNLによる全4段階の審査では唯一フェーズ3に進展している。また、2019年3月にはMMRをチョークリバー・サイトで建設するため、「サイト準備許可(LTPS)」をSMRとしては初めて、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請。CNSCはこのプロジェクトの環境影響評価を、昨年7月に開始している3社はすでにMMR開発プロジェクトでは過去数年にわたって協力関係にあり、今回のJVの所有権はOPG社とUSNC社のカナダ法人が均等に保有する一方、2019年に同プロジェクトを開始したGFP社は、JVの代理企業としてプロジェクトを監督。チョークリバーでMMR商業用実証炉を開発・建設し、操業する事業を推進していく。同プロジェクトは将来的に、複数のMMRをカナダ全土で建設するためのモデル計画になる予定で、JVは同MMRを通じて、安全かつ低炭素、持続可能的な熱電を鉱業などの産業や遠隔地域に供給する考え。ディーゼルその他の化石燃料に代わる有望な代替選択肢であるSMRをカナダで実現するため、3社は相互に協力していくとしている。USNC社が開発したMMRシステムは、熱出力1.5万kW、電気出力は0.5万kW。熱と電気を供給する2つのプラントで構成されており、シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子燃料を使用する。これは「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」と呼ばれる事故耐性燃料で、シリコン・カーバイドの層は核分裂生成物の放出を防ぐ堅固なバリアの役割を果たす。MMRはまた、運転期間である20年の間に燃料交換を行う必要がないほか、メルトダウンが発生するリスクもなく、運転員が持ち場を離れた場合でも安全性が保たれる。また、いかなる事故シナリオにおいても、物理的な対応なしですべての熱が受動的に環境中に放出されるとしている。(参照資料:3社の共同声明、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Jun 2020
3255
レーザー分子法で独自のウラン濃縮技術を開発したオーストラリアのサイレックス・システムズ社は6月5日、サイレックス法による商業用ウラン濃縮施設を米ケンタッキー州パデューカで建設するため、同社が出資するグローバル・レーザー・エンリッチメント(GLE)社が米エネルギー省(DOE)と2016年に締結した劣化六フッ化ウラン(UF6)の売買契約を再調整したと発表した。同社は、「パデューカ・レーザー濃縮施設(PLEF)」の建設をサイレックス法技術を商業化するための理想的な道筋と認識している。GLE社はサイレックス法の商業化と運用で独占実施権を保有しており、GLE社がDOE所有の劣化UF6の在庫を購入することは、PLEFでこれを天然ウラン程度まで濃縮し、民生用原子力発電所の燃料製造に利用するという計画を実現する上で非常に重要。小規模でも低コストで同技術の最初の商業用設備を建設することは、市場までの流れを低リスク化することにつながると考えている。GLE社とDOEが2016年11月に劣化UF6の売買契約を交わした頃、ウラン市場は復活に向けて動き出したと見られていたが、近年の市場は十分な回復を見せていない。このためサイレックス社は、GLE社がPLEFプロジェクトで規制面の承認を得つつ市場状況が好転するのを待ち、2020年代後半にPLEFを操業開始するためのプラン作成で十分な時間的猶予が得られるよう、売買契約の一部条項とスケジュールを修正。両者間の契約を引き続き有効とすることで合意したとしている。サイレックス社によると、PLEFで再濃縮プロジェクトが数十年続けば、天然ウラン・グレードの生産品を年間約2,000トン、UF6の形でウランの世界市場で販売することが可能になる。この量は1つのウラン鉱山が年間に産出する酸化ウラン520万ポンド(2,359トン)に相当し、近年の生産量としてはトップ10に入る。また、PLEFのウランにはUF6に転換済みという付加価値が加わっているが、ここ数か月間に転換の市場価値はスポット価格で1kgあたり約22ドルに上昇した。PLEFプロジェクトの予備的な経済分析は、低コストで長期的な生産という基準から見ても、最上位のウラン鉱山と同等のランク付けになることを示している。なお、サイレックス法の商業化プロジェクトについては、GLE社に76%出資していたGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社が2016年4月に撤退する意向を表明した。残りの24%はカナダの大手ウラン生産企業CAMECO社が出資していたが、サイレックス社は昨年12月、関係者間で所有権の購入協定を締結したと発表。GEH社が保有していた76%のうち51%をサイレックス社が購入するほか、25%はCAMECO社が既存の所有権に積み増しして合計49%とした。今回のGLE社とDOEの売買契約の修正は、GLE社の再構築に向けた所有権購入協定を成立させる主要条件となっていた。これについて連邦政府の承認を得るための申請書が今年2月に米原子力規制委員会(NRC)に提出されており、今年の末までに最終承認される見通しである。(参照資料:サイレックス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jun 2020
3245
フィンランド西部のボスニア湾沿岸ピュハヨキで、ハンヒキビ原子力発電所1号機(PWR、120万kW)の建設計画を進めているフェンノボイマ社は6月8日、建設許可の取得に先立ち今年の夏から建設サイトで管理棟の建設工事を開始すると発表した。同社は2015年6月に同発電所の建設許可申請書を経済雇用省に提出しており、原子力法に基づいて許可が発給されるのは2021年になる見通しである。現在、建設に入る前段階の準備として様々な作業を進めているところで、着工で急増する従業員への対処と事務スペースの確保を目的とした管理棟の完成は2022年初頭になる予定。プラントの初期コストや廃棄物管理費など、総投資額65億~70億ユーロ(約7,900億~8,500億円)でハンヒキビ1号機が営業運転を開始するのは2028年になるとしている。 同炉では、建設プロジェクトを受注したロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)を供給するものの、プロジェクトには地元フィンランドのみならず、国際的な原子力関係企業が多数参加している。ロスアトム社傘下の総合建設請負業者RAOSプロジェクト社の主要下請け企業であるロシアのTITAN-2社は昨年10月、同炉の計装・制御(I&C)系製造・納入契約を仏フラマトム社および独シーメンス社の企業連合と締結。この頃、日本製鋼所(JSW)が発電機ローターの鍛造を開始しており、この鍛造品とGE社傘下のアルストム・パワー・システムズ社の低速タービン技術「アラベル」を使って、GEスチーム・パワー社がタービン発電機を製造する計画である。管理棟の建設はフィンランドのレヒト・グループが担当しており、延べ床面積1万600平方メートルの6階建て建造物になる予定。300人規模の事務スペースや会議室のほか、スタッフ用食堂、訓練エリアを含む近代的オフィス空間となるほか、発電所の建設・運転段階では事務棟の役割を担う。同グループはまた、これとは別に5階建ての発電所事務所も管理棟の完成とともに着工するが、こちらは建設段階ではフェンノボイマ社のサイト事務所として使用。これら建屋の総工費は、3,000万ユーロ(約36億6,000万円)にのぼるとしている(参照資料:フェンノボイマ社(フィンランド語)とレヒト・グループ(英語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
09 Jun 2020
2002
カナダのオンタリオ州営電力(OPG)会社は6月4日、州内で保有するダーリントン原子力発電所の2号機(93.4万kWの加圧重水炉)で約3年半に及んだ大掛かりな改修工事が完了し、オンタリオ州の送電グリッドに定格出力で再接続したと発表した。同炉は1990年10月に営業運転を開始しており、今回の改修工事は約10年間の計画準備段階を経て2016年10月から開始していたもの。安全で高品質の作業を成功裏に終えた同炉は、今後30年以上にわたってクリーンで信頼性の高い低炭素電力を同州に供給するとしている。ダーリントン発電所は同出力のカナダ型加圧重水炉(CANDU炉)×4基で構成されており、約128億カナダドル(約1兆440億円)をかけた改修プロジェクトでは、同発電所で最初に営業運転を開始した2号機から作業を開始した。OPG社はこれに続いて、新型コロナウイルスによる感染拡大のため今年5月から予定していた3号機の改修工事を今年の第3四半期に始めるほか、1号機と4号機の作業をそれぞれ2022年と2023年から実施。2026年末までにこれら4基すべての改修工事を予算内で完了し、それぞれの運転期間を30年間延長する計画である。カナダでは一時期、ダーリントン発電所で新規の原子炉を2基、同じくOPG社の所有でブルース・パワー社が操業するブルース原子力発電所(80万kW級CANDU炉×8基)では4基増設する計画が進められていたが、これらの計画は現在すべて中止されている。また、2つの新規立地点における新設計画も中止になっており、その代わりとして、世界でも最大級の複数ユニットが稼働するブルースとダーリントンの両発電所で、運転期間の延長に向けた大規模な改修プロジェクトが進められている。2号機の改修作業ではまず、原子燃料を取り出した後に原子炉を一旦分解。その後、カランドリア管や燃料チャンネル、フィーダー管などを再設置する作業が行われた。複雑な工程であることから、OPG社はダーリントン・エネルギー複合施設のモックアップ設備や訓練設備を使って予行演習を実施。作業チームは76万時間を超える綿密で厳しい実地訓練を事前に受け、作業効率を改善した。また、オンタリオ州内の製造業者数百社が納入した精密機器や革新的な技術を用いることで、2号機の改修工事を成功に導いたとしている。OPG社でこのプロジェクトを担当するD.レイナー上級副社長は、「最良の条件が整ったとしても、これらの作業は非常に骨の折れるものになるはずだった」と説明。新型コロナウイルスによる感染の拡大など、様々な課題や制約があるなかで最終段階の作業を終えられたことは、原子力の専門家である作業チームが同プロジェクトで役割を全うした証であると強調している。(参照資料:OPG社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jun 2020
3363