国際原子力機関(IAEA)は4月22日、同機関が2015年3月から主催している「小型モジュール炉(SMR)規制者フォーラム」が先月下旬の会合で、SMRの安全性に関する新しい提言を出したと発表した。同フォーラムによると、SMR開発では設計それぞれの新たな技術領域に関わる安全性問題で、柔軟な規制の枠組みが必要である。SMRに採用されているモジュール方式やコンパクト設計が発電所の安全性に影響を及ぼすかもしれないとしたほか、SMRの設計から建設、起動、運転、廃止措置まで、ライフサイクル全般の許認可の枠組みにも新たな課題をもたらすと指摘している。このフォーラムには、米国、英国、カナダ、仏国、中国、韓国、ロシア、フィンランド、サウジアラビアの原子力規制当局が参加し、出力30万kW以下の様々な新しいSMR設計を規制する際に課題となる点を協議。規制関係の知識や経験を共有するとともに、共通する安全性問題について解決策を特定・提案することなどを目的としている。IAEAによると、数多くの加盟国政府が温室効果ガスの排出量を最小化しつつ、多量の電気を使って経済の活性化を目指しており、SMRを含む先進的な原子炉設計はそうした目的の達成に重要な役割を担うことが期待される。しかし、SMRを設計・開発するための新たなアプローチは、既存の原子力規制の枠組みにこれまでとは違った観点の課題を突き付けることになった。IAEAが設定した原子力発電所の安全基準は、放射線の有害な影響から人々や環境を守る包括的規範として機能し、SMRにもほとんどの場合は適用可能。しかし、「SMR規制者フォーラム」の専門家は新しい概念の原子炉であるSMRに最適の規制を開発し、各国規制当局の一助とする考えである。同フォーラムはまた、SMRの許認可プロセスにおける課題や作業手続の現状について理解を深める方針。IAEA原子力安全・セキュリティ局のG. リジェットコフスキー原子力施設安全部部長は、「現時点でSMRに特化した安全基準を策定する計画はないが、特定の技術にこだわらない総体的な安全性の枠組みを設定する際、SMR関係の洞察を利用する」と説明した。そうした枠組みを新しい設計に適用するほか、IAEAの安全基準を活用して各国の様々なアプローチを調和させるのに役立てたいとしている。今回の提言のうち、SMRのモジュール方式に起因する安全性への影響について、同フォーラムはまず、複数のモジュールを接続することで電力供給などのサービス利用率や信頼性が向上する利点があると述べた。一方、複数ユニットで構成する既存の原子力発電所の運転経験から、安全面で明確な配慮を必要とする可能性が示されたと指摘。具体的には、福島第一原子力発電所で複数ユニットが関わった事故の教訓を挙げており、複数のシステムを共有することで設備同士が依存しあうなど、設計に脆弱性リスクがもたらされるかもしれないとした。また、SMRのコンパクト設計に起因する安全性問題に関しては、まずSMRを工場で製造しトラックで設置場所まで輸送するため、そのような設計になっていると説明。しかし、SMRで運転やメンテナンス、点検等を実施するとなると、SMRのコンパクト設計にはライフサイクル全般にわたって根本から考えなければならない点があると指摘。一例として、SMRの品質チェックのために機器の溶接部で点検や非破壊検査をどこでどのように行うかなどを検討課題として挙げている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Apr 2020
3248
日立製作所が出資する英ホライズン・ニュークリア・パワー社は4月22日、ウィルヴァ・ニューイッド原子力発電所を建設・運転する際に必要となる近隣国道(A5025)の改修計画について、取得していた許可が今年7月で期限切れとなるため、これを2023年7月まで延長する方策を探る方針だと発表した。この許可は、同発電所の建設予定地であるウェールズ地方アングルシー島の郡議会から2018年に取得していたもの。A5025国道は、アングルシー島内のグレートブリテン島に近いランヴァイルプルグウィンギルから、北海岸周りでバレーまで続く幹線道路だが、発電所建設サイトでは建設資機材や大型機器等を搬入するため、バレーから建設サイトの連結道路まで同国道を延長するほか、一部区間で舗装の改修工事や道路幅の拡張工事等が必要となっている。ウィルヴァ・ニューイッド建設計画は現在保留中となっているが、国道改修の「計画許可」については7月に有効期限が迫っている。ホライズン社としては、仮に建設費の確保で適切な資金調達モデルが確立され、今年後半にも英国政府から「開発合意書(DCO)」が発給されるのであれば、速やかに同計画を再開させたいとしている。同原子力発電所建設計画では、アングルシー島北部のすでに閉鎖されたウィルファ原子力発電所の隣接区域で、日立GEニュークリア・エナジー社製の英国版ABWR(出力135万kW)を2基建設する計画である。ホライズン社は2018年6月にDCO申請書を計画審査庁(PI)に提出したが、資金調達面で同社と英国政府が折り合わず、同社は2019年1月に同計画の作業を一時保留すると表明していた。新規原子力発電所建設プロジェクトの資金調達モデルについては、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)が昨年、「規制資産ベース(RAB)モデル」の実行可能性を調査。同モデルで発電所の建設段階から出資者が一定のリターンを受け取れるなら、民間からの資金調達コストを抑えられる可能性があると結論付けていた。(参照資料:ホライズン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Apr 2020
5158
ベラルーシ初の原子力発電設備を2013年から建設しているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は4月15日、ベラルシアン原子力発電所1号機(119.4万kWのPWR)で大がかりな温態機能試験が無事に完了したと発表した。この試験は、機器の性能・機能を原子炉停止中の常温常圧状態で確認する冷態機能試験に続き、運転時と同じ高温高圧下で確認する重要な起動準備プログラムである。これにより準備作業は次の段階に移行し、6月半ばの完了を目指して1次系と2次系の主要機器や補助機器の検査が行われる。同発電所では同型設計の2号機の建設工事も約半年のインターバルで進められており、両炉はそれぞれ年内と2021年に起動できると見られている。旧ソ連邦に属していたベラルーシはウクライナと隣接しており、同国との国境から約16km地点のチェルノブイリ原子力発電所事故(1986年)では多大な放射線被害を被った。しかし、国内のエネルギー資源は乏しく1次エネルギーの8割を輸入に依存するという事情により、1990年代後半に原子力の導入に関する実行可能性調査が行われた。福島第一原子力発電所事故直後の2011年3月15日、A.ルカシェンコ政権は同国初の原子力発電所建設でロシアとの二国間協力に合意した。翌年11月には、総工費の90%をカバーする100億ドルの低金利融資をロシア政府が25年間で提供することを約束。同国の全面的な支援を受けて、2013年11月にフロドナ州オストロベツで120万kW級ロシア型PWR「AES-2006」の1号機が本格着工したほか、翌2014年4月には2号機の建設工事が開始された。昨年12月に始まった1号機の温態機能試験では、原子炉系統の機器・システムを定格出力で稼働させた際の設計との適合性を確認するため、ロスアトム社エンジニアリング部門の専門スタッフが242項目の試験を実施した。運転パラメーターとして、1平方cmあたり160kgの圧力と280℃以上の温度下で4つすべての1次系冷却材ポンプの機能を試験したほか、補助動力供給系と制御・防護系の操作性をチェック。蒸気発生器や加圧器の主蒸気安全弁についても、性能を確認した。ロスアトム社傘下の総合エンジニアリング企業「ASEエンジニアリング社(ASE ・EC・ JSC)」でベラルーシ原子力発電所建設プロジェクトを担当するV.ポリアニン副総裁は、発電所の予熱段階から冷却段階に至るまで、試験全体が定格出力で行われた点を強調。この試験によって、すべての機器やシステムが設計に適合していることが明らかになったとしている。 (参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Apr 2020
4874
米国で地球温暖化防止対策の推進を呼びかけている団体「Climate Coalition」は新型コロナウイルスによる感染の拡大が深刻化するなか、ニューヨーク(NY)州内で今月中に予定されているインディアンポイント原子力発電所2号機(106.2万kWのPWR)の早期閉鎖を延期し、運転を継続するよう同州のA.クオモ知事に訴える書簡を公開した。ウイルス感染にともなう呼吸器不全で多くの州民が亡くなっているが、原子炉の早期閉鎖を延期すれば化石燃料発電所から有害な汚染物質が新たに大量に排出されるのを抑えられると同団体は指摘。これはパンデミックによる影響が一層悪化するのを防止し、これ以上の死者を出さないために知事が実行できる最も重要かつ予防的な措置であり、CO2を排出しないクリーン・エネルギー源をこのように不味いタイミングで停止させてはならないと訴えている。同団体はクリーン・エネルギーの支持団体や環境保護グループ、個人などの連合体であり、クオモ知事が2016年8月、NY州北部で稼働する3つの原子力発電所への助成金プログラムを盛り込んだ包括的温暖化防止政策「クリーン・エネルギー基準(CES)」を州議会で成立させたことを称賛している。しかし同知事は、NY市の北約40kmに立地するインディアンポイント原子力発電所については、「大都市圏に近すぎる」としてかねてより早期閉鎖を要求。同発電所を所有するエンタジー社と州政府が協議した結果、2号機を2020年4月に、3号機(107.6万kWのPWR)を2021年4月に永久閉鎖することで2017年1月に合意していた。知事宛ての書簡の中で同団体は、「パンデミック対応でNY市の財政は火の車となっており、ここで原子炉を止めてしまえば財政面の脆弱性は余計に増す」と指摘した。その上で知事に対して、「あなたは本当に送電網を一層脆弱なものとし、この危機的状況に新たな不確定要素を加えたいのか?」と詰問。夏が急速に近づくなかで異常気象により熱波が長引いた場合はどうなるのか、NY市全体が室内に避難し続けねばならないのかと疑問を投げかけた。また、ウォールストリート・ジャーナルのコラムニストで新型コロナウイルスに感染したP.ヌーナン氏の言葉を引用し、「電気さえあれば何もかもが上手くいく。世の中はすべて送電網にかかっている」と指摘。数百万のニューヨーカーの生命がエアコンや換気扇に左右されるにも拘わらず、最も信頼性が高くクリーンな電源を本当に知事の一存で止めてしまうのかと非難している。同団体はさらに、クオモ知事が昨年、州内のCO2排出量の100%削減に向けた法案を可決させた事実に言及した。クリーン・エネルギー源としては州内最大規模のインディアンポイント発電所の早期閉鎖を画策しておきながら、知事は代わりの電源として再生可能エネルギーではなく、大気汚染を助長する化石燃料を選んだと糾弾。ニューヨーカーが望まない政策によって、知事は数百億ドルの価値を持つ資産を無駄にしようとしていると述べた。もしも知事がNY州にとって本当に意味のあるCO2削減を約束したいのなら、安全でクリーンな原子力発電所の閉鎖を全力で阻止しなければならないと同団体は強調。インディアンポイント発電所の閉鎖はクリーンな大気とCO2の削減、両方に向けた努力を数十年分後退させるほか、脱炭素化した未来のために原子力発電は非常に重要だとする最新の科学的知見とも矛盾するとした。同団体によれば、インディアンポイント原子力発電所の早期閉鎖で州政府と事業者が合意して以降、原子力発電に対する世間の見方は劇的に変化した。原子力発電所を廃止して再生可能エネルギーで代替するというドイツの取り組みの失敗により、A.メルケル首相は停電回避のために古来の森林を伐採し、採炭に抗議する者を逮捕せざるを得なくなった。もっと科学的思考を持つ環境保護派のリーダーであれば、原子力発電が地球温暖化との戦いに必要なことを認識している。「憂慮する科学者同盟」や世界的自然保護団体の「Nature Conservancy」、科学雑誌の「ナショナル・ジオグラフィック誌」などは、ここ数年間で原子力発電に関する勧告を改訂。否定的に見られていた原子力発電は今や、重要なクリーン・エネルギーと位置付けられ、それなくしては迅速かつコスト面の効果もある方法で化石燃料から脱却することはできないと見られている。同団体から見て、クオモ知事はコロナウイルスによる感染の拡大を抑えるために医療専門家の意見を聞くよう繰り返し強調しているが、知事こそ地球温暖化関係の主要な専門家の意見を聞き、最新の知識を受け入れるべきだと表明。地球温暖化防止で正しいことを行うのは、新型コロナウイルスとの戦いで正しいことを行うのと同じであると主張している。(参照資料:Climate Coalitionの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Apr 2020
4857
ロシア建設省傘下の設計評価機関である国家専門家審査会(Glavgosexpertiza)は4月15日、極東地域北東部のチュクチ自治管区内ペベクで、昨年12月に送電を開始した世界初の海上浮揚式原子力発電所(FNPP)「アカデミック・ロモノソフ号」の水利・港湾・物理的防護の各機能を含むインフラ全体の審査結果を承認すると発表した。施設の設計書や建設プランの工事測量結果を審査した上で、FNPPを防護する特別な機器等の保管・活用設備などをペベク海峡沿岸に建設する計画に肯定的結論を出したもの。これらの施設では具体的に、モーターボートやオフロード用の車両、小型そりといった機器を収納するほか、モーターボートを係留する固定式船渠(ドック)や雪上そり用スロープ、照明塔、配管の架台、外部の熱電供給網や通信網との接続設備等が建設される。Glavgosexpertizaの専門家はまた、これらの建設コスト見積もり額の信頼性をチェックしており、FNPPから沿岸区域の供給網に電力や熱エネルギーを確実に送る技術についても確証を得たとしている。「アカデミック・ロモノソフ号」は出力3.5万kWの小型炉「KLT-40S」を2基搭載しており、ロシア領の約半分を占める北部の遠隔地域や、それに類する地域への熱電供給に最も適した設備と考えられている。Glavgosexpertizaは、FNPPを建設したことはチュクチ自治管区全体のみならずペベク市にとっても非常に重要であると指摘。この区域で順次閉鎖されていくビリビノ発電所(1.2万kWのEGP-6×3基)の商業炉やチャウンスカヤ熱電併給発電所に代わってFNPPはエネルギーを供給するだけでなく、金銀や銅、非鉄金属といった資源を豊富に有するチャウン-ビリビノ産業ハブにとっても重要なエネルギー供給基盤になるとした。また、同区域で化石燃料の輸入依存度を軽減して電熱料金の増大を抑えるとともに、同区域における人口問題や環境状況など社会的条件を改善する一助にもなると説明している。(参照資料:国家専門家審査会の発表資料(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Apr 2020
4024
米国で約30年ぶりの新設計画として、A.W.ボーグル原子力発電所で3、4号機(各110万kWのPWR)を増設中のジョージア・パワー社、およびその親会社のサザン社は4月15日、新型コロナウイルスによる感染の影響を軽減するため、増設サイトの労働力を約20%削減する方針を明らかにした。これは、米証券取引委員会に対する同日付報告書のなかで両社が表明したもの。増設サイトでは協力会社などを中心に約9,000人が作業中と伝えられているが、ジョージア・パワー社によると、このうち多数の作業員がこれまでにPCR検査で陽性と判定されており、その影響から現場の労働生産性が悪化している。労働力の削減はそうした影響を緩和するための措置であり、夏まで数か月間継続されるものの、ジョージア・パワー社は引き続き新型コロナウイルスによる感染の影響を監視。建設プロジェクトの総資本費や、両炉の現行の完成日程である2021年11月と2022年11月に影響が及ぶことはないと強調している。報告書によるとジョージア・パワー社は、現場の労働力は削減されるが残りの労働力でも生産性改善の工夫により、作業員の疲労や欠勤率が下がると指摘。これによって、増設工事全体の作業効率を向上させることができるとした。また、作業員間のソーシャルディスタンスの確保という副次効果も生まれ、連邦疾病管理予防センター(CDC)が推奨している最新項目の順守促進にもつながるとしている。このプロジェクトでジョージア・パワー社は45.7%出資しているため、今回の措置により同社が負担する経費は合計1,500万~3,000万ドルほどとなる。そのほかの出資企業は、オーグルソープ電力が30%、ジョージア電力公社(MEAG)の子会社が22.7%、ダルトン市営電力が1.6%となっている。2013年の3月と11月に始まった3、4号機増設プロジェクトでは、昨年7月に3号機の初装荷燃料が発注されたほか、同年12月には遮へい建屋に円錐形の屋根を設置。4号機についても、今年3月に格納容器に上部ヘッドを設置する作業が完了しているが、サザン社は証券取引委員会に対する4月1日付け報告書の中で、新型コロナウイルスによる感染の拡大により、同社とその子会社は増設プロジェクトの遅れや混乱といった様々なリスクにさらされているとの懸念を表明していた。(参照資料:サザン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
17 Apr 2020
3909
フランス電力(EDF)は新型コロナウイルス感染の拡大にともなう影響について4月14日に新たな経過報告を公表し、EDFグループが2020年の減価償却・控除前利益(EBITDA)の目標額を3月23日の報告で下端値の175億ユーロ(約2兆500億円)と設定していたことも含め、同年および2021年の財務目標をすべて撤回すると発表した。感染の拡大が引き起こした経済的混乱により電力需要量が低下しており、原子力発電や原子力発電所の新規建設プロジェクト、その他のサービスも含めたEDFグループによる事業の多くが深刻な影響を受けていると説明。原子力による総発電量についても、予測値を下方修正する方向だとしている。全開3月23日に公表された経過報告では、EDFグループは新型コロナウイルス感染の拡大という危機的状況の中、グループの重要活動を維持するために関係企業を全面的に動員、仏国内で予見され得るシナリオすべてで必要な電力を供給する経営能力や財務能力が備わっているとしていた。すなわち、一貫した金融ニーズの予測方針により、同グループは2019年末時点の流動性資産として換金価値228億ユーロ228億ユーロ(約2兆6,800億円)を保有。これに加えて、いつでも融資を受けられる金額の上限(極度枠)として総額103億ユーロ(1兆2,000億円)が確保されている点を明らかにしていた。この時点でEDFは、電力需要量の低下が同社の電力供給事業に及ぼす影響は限定的だとしており、零細な小規模企業に対する電気料金面の一時的な救済策についても、年末時点で大きな影響が及ぶことはないと予測していた。しかしその一方で、外出禁止令が発令されたことにより発電設備のメンテナンス作業が中断し、EDFグループは定期検査日程の再調整を迫られることになった。これにともない、3月23日の段階で原子力発電による2020年の発電量は、当初予測していた3,750億~3,900億kWhから大幅に下方修正する見通しになっていた。2020年のEBITDA目標額である175億~180億ユーロ(約2兆500億円~2兆1,130億円)も、(この時点では)下端値を維持するとしたものの、設備の稼働率や関連コストの予測が明確になった時点で改訂される可能性があるとした。同グループはまた、(3月23日の段階で)2021年の財務目標に及ぶ影響についても正確に評価できないと表明。定期検査日程の再調整は、2020年末から2021年にかけての冬季に設備の稼働率を最大とするのが目的だが、2021年の全体的な発電量には悪影響が及ぶかもしれないと予測していた。同様に、電力卸売市場における電力価格の低下も、年末時点の負債比率に大きく影響する可能性があると指摘していた。仏国では2015年8月に成立した「緑の成長に向けたエネルギー移行法」により、原子力による発電シェアを2025年までに50%まで削減するほか、原子力発電設備も当時のレベルである6,320万kWに制限することが義務づけられた。現在、フラマンビル原子力発電所で163万kWの3号機(PWR)を建設中であることから、EDFは今年2月、国内で最も古いフェッセンハイム原子力発電所1号機(92万kWのPWR)を永久閉鎖とした。同型設計の2号機についても、6月30日に永久閉鎖することが決まっている。(参照資料:EDFの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Apr 2020
4551
仏国のフラマトム社は4月8日、ロシアにおけるクルスク原子力発電所Ⅱ期工事の1、2号機(各125.5万kWのPWR)建設計画に対し、デジタル計装・制御(I&C)安全システム「TELEPERM XS」45台で構成される保護システムの納入契約を、ロシアのルスアトム・オートメテッド・コントロール・システムズ(RASU)社から受注したと発表した。これは2018年5月、RASU社を傘下に収めるロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社が、仏国の原子力・代替エネルギー庁(CEA)と結んだ「原子力平和利用分野における戦略的連携の強化合意書」に基づいている。RASU社はI&C系供給や電気工事を専門とするロシア企業だが、この合意にともない同社とフラマトム社はI&C系分野で双方が利益を得られるよう、国際的なロシア型PWR(VVER)の建設計画やフラマトム社の原子力発電所建設計画にお互いが参加する枠組みの構築等で協力覚書を締結していた。クルスクII-1、2号機は、第3世代+(プラス)の120万kW級VVER「AES-2006」をベースに、技術面と経済面の性能をさらに最適化したという最新設計「VVER-TOI」をロシアで初めて採用。運転期間は60年に設定されており、両炉ともそれぞれ2018年4月と2019年4月から建設を開始した。RASU社はこれら2基の建設プロジェクトでI&C系の全体的開発と供給、起動等を担当しているほか、同発電所に330kVのガス絶縁型開閉器や変圧器も納入する。一方のフラマトム社は、「AES-2006」設計を採用してロシアで稼働中のノボボロネジII-1号機とレニングラードII-1号機にも、すでに「TELEPERM XS」を納入済み。この納入実績により今回の契約獲得に至ったと説明している。今回の契約で、フラマトム社はクルスク発電所用にI&C系を設計・製造し、モスクワにあるRASU社の統合センターに納入する。設置と起動ではテスト室での監督サービスも提供、安全保護システムの設置が完了するのは2025年末になる計画である。同社はまた、関係する機器・システムをロシア企業が製造可能になるよう協力する方針。フラマトム社でI&C系の販売を担当する上級副社長は、「クルスクII期工事には最高レベルの技術で貢献しており、当社とRASU社のパートナーシップは今後ますます拡大する」と述べた。またほかで建設中の新しいVVERにも同社の先進的技術を提供するため、引き続き前進していきたいとしている。(参照資料:フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Apr 2020
4472
米原子力規制委員会(NRC)は4月10日、ドミニオン・エナジー社がバージニア州で操業するサリー原子力発電所1、2号機(各87.5万kWのPWR)について、運転期間を追加で20年延長するための2回目の審査で環境影響声明書(EIS)の最終版を発行したと発表した。同審査では安全性評価報告書(SER)の最終版が今年3月に発行済みであることから、NRCは今年6月にも、送電開始以降の両炉の運転期間をそれぞれ80年に延長するかの最終的な判断を下す。NRCはすでに、フロリダ・パワー&ライト(FPL)社のターキーポイント3、4号機(各76万kWのPWR)とエクセロン社のピーチボトム2、3号機(各118.2万kWのBWR)について、それぞれ2019年12月と2020年3月に2回目の運転期間延長を承認。サリー1、2号機でも承認されれば、米国内で3件目ということになる。1972年と1973年に送電開始したサリー1、2号機に対して、NRCは2003年3月に運転開始当初の運転期間40年に20年追加して、それぞれ2032年5月と2033年1月までとすることを承認。これにさらに20年間追加する申請書は、ドミニオン・エナジー社が2018年10月にNRCに提出していた。今回の最終EISでNRCスタッフは、両炉の運転期間延長を阻むほどの有意な環境影響の可能性は低いと判断した。これによりNRCスタッフによる技術面の審査が完了したことになり、同文書や最終SERをNRC委員が承認すれば、両炉はそれぞれ2052年5月と2053年1月まで延長運転することが可能になる。これらに続き2回目の運転期間延長が検討されている商業炉としては、同じくドミニオン・エナジー社が2017年11月にバージニア州のノースアナ原子力発電所1、2号機(99.8万kWと99.4万kWのPWR)についても申請を行う予定だと発表。デューク・エナジー社も2019年9月、南・北カロライナの両州に立地する6サイト・11基(合計出力約1,123万kW)に関して申請書の提出方針を明らかにした。NRCはこれらのうち、ノースアナの2基の申請書が今年10月~12月の期間に、デューク・エナジー社のオコニー1~3号機(1、2号機は88.7万kW、3号機は89.3万kWのPWR)の申請書が2021年10月~12月に提出されると予想している。なお、NRCは今回のサリー1、2号機のEIS報告書やドミニオン・エナジー社による申請書をウェブサイト上に公開しているが、CDなど物理的な媒体の送付は現在、新型コロナウイルス感染による緊急事態のため行えない状況。入手希望者に対しては、NRCウェブサイトからコピーを直接ダウンロードすることを推奨している。(参照資料:NRCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
14 Apr 2020
4341
米国のテネシー峡谷開発公社(TVA)は4月7日、小型モジュール炉(SMR)など費用対効果の高い新世代の先進的原子炉設計をテネシー州クリンチリバー・サイトで建設することについて実証・評価を行うため、テネシー大学(UT)と了解覚書を締結したと発表した。TVAは昨年12月、クリンチリバー・サイトについて原子力規制委員会(NRC)から「事前サイト許可(ESP)」を取得したが、審査を受ける際に採用する予定の炉型を特定しておらず、「2基以上のSMRで合計の電気出力が80万kWを超えないもの」を想定。ニュースケール・パワー社やホルテック・インターナショナル社、ウェスチングハウス社などが開発している4種類の軽水炉型SMR設計のパラメーターを技術情報として示していた。ESPは20年間有効だが、実際に原子炉を建設すると決定した場合、TVAは別途NRCに対して建設・運転一括認可(COL)を申請する必要がある。今回の連携協力でTVAは、UT原子力工学部の専門的知見を活用して、原子炉設計の経済的な実現可能性を軽水炉型にこだわらず評価する方針。この協力を通じて同社はまた、将来の原子力産業を担う同部の学生達と交流する機会も得られるとした。TVAのJ.ライアシュ総裁兼CEOは、「原子力発電における技術革新という当社のミッション遂行において、UTはそれを支える特殊な能力を提供してくれる」とコメント。UTの先進的なモデリングやシミュレーションのツールを活用して、新たな原子力技術を模索したいと述べた。UTのW.ハインズ工学部長も、「我が学部の原子力部門は1957年に創設された米国で最も古く権威あるものであり、高度に効率的な先進的原子炉の建設に向けたTVAとの戦略的連携により、クリーンで信頼性の高い将来エネルギーの活用に道を拓きたい」としている。TVAはすでに今年2月、米エネルギー省(DOE)傘下のオークリッジ国立研究所と同様の協力覚書を締結。経済性や安全性、柔軟性の高い次世代技術を採用した先進的原子炉設計を検討するとしており、今回の覚書と併せて、TVAが最新の原子炉設計の建設見通しで初期段階の評価を下す重要なステップになると述べた。(参照資料:TVAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Apr 2020
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経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)のW.マグウッド事務局長(=写真)は4月8日に声明文を発表し、新型コロナウイルスによる感染が拡大するなかで、NEAとしては加盟する33か国がこのような状況に対応できるよう支援する覚悟であり、有効な措置に関する情報や良好事例、アイデア等の迅速な交換を可能にする手段を構築中であると説明した。仏国パリにあるNEAの事務局では3月12日から全スタッフがテレワークに入ったが、同事務局長は「パンデミックの脅威が速やかに終息することを望む一方、多くの専門家は5月から6月にかけても、あるいは9月から10月にかけて第二波の感染発生のリスクがあると予想している」と指摘。NEAでは緊急の事態に対応するだけでなく、このように長期的な対応の準備も進めていると強調している。マグウッド事務局長によると、グローバリゼーションや相互連携の時代に人類が直面している今回の危機は、これまでに経験したことのないものであり、すべての経済大国が影響を受け人々は脅威にさらされている。大方の予測では、この危機はあと数か月間続くと見られているが、短期的に見て如何なる国においてもパンデミック対応戦略で重要な柱となるのは信頼性の高い電力供給である。これなくしては、近代生活における重要インフラの大部分が機能できないが、パンデミックによって発電施設の職員が長期にわたって直接的、間接的な影響を受け、その施設の操業が脅かされることになる。同事務局長の認識では、近代社会におけるその他すべての分野と同様、原子力発電部門は感染者数の削減に貢献している。すなわち、世界中の原子力発電所が安全かつ効率的に稼働することで、テレワーク中の膨大な数の人々や自宅待機中の人々、対応キャパシティを超えて活動中の医療施設に対しても信頼性の高い電力が供給される。しかし、原子力発電部門自体もパンデミックの影響を受けるため、絶え間なく変化する前例のない不確かな状況にも臨機応変に対処しなければならないとした。原子力発電部門では、慎重に分析した結果や膨大な数の見解を考慮した上でプロセスや手順を変更するのが常であるが、同事務局長によれば、今現在直面している危機はすべてにおいて迅速な対応を必要としている。規制当局は発電所の点検計画の妥当性を審査しなければならないし、事業者は発電所の定期検査や改修日程を延期せざるを得ない。通常とは異なる作業環境で使われる技術は全く新しい方法で適用する必要があり、原子力発電所における安全性の確保は、今後もすべてに優先する事項であると述べた。同事務局長はまた、今回のパンデミックはNEA自身の安全文化をも評価する試金石になったと指摘。NEAは原子力施設の運転に関する出版物の中で運転員や住民の安全と健康を第一とする文化を強調しているが、今回はこれと同様の安全文化がNEA自身にも適用されている。NEA全体は3月12日からテレワーク体制に入っているが、職務に混乱が生じることはほとんどなく、重要な業務のいくつかは延期となったものの、複数の委員会の活動業務は続けられている。パンデミック関連のイベントも近々ウェブ上で主催する予定だが、これらは皆NEAスタッフが加盟国と緊密な連携の上、主導している献身的業務の賜物であり、現時点でどれほどの問題に直面しようと、明るい未来が必ず来るというNEAの原子力部門のメンバーすべての確信に基づくものだと説明している。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Apr 2020
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フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は4月8日、オルキルオト原子力発電所で建設中の3号機(OL3)について、燃料の装荷許可を放射線・原子力安全庁(STUK)に申請したと発表した。建設プロジェクトの最新スケジュールでは、2020年6月に燃料を装荷した後11月に送電を開始、2021年3月から営業運転入りすることになっていた。しかし、新型コロナウイルスによる感染の拡大にともない、建設サイトではプロジェクトへのリスクを最小限に留める膨大な対策作業を実施中。この対応により、建設プロジェクトの進行状況には不透明感が増してきており、工事を請け負った仏アレバ社と独シーメンス社の企業連合はTVOに対し、2020年6月の燃料装荷が難しくなり定常的な発電の開始も遅延する可能性を伝えている。同企業連合はパンデミックの拡大状況や影響が判明し次第、OL3の完成スケジュールを更新する方針。プロジェクト完了まで資金が十分確保されるよう、関係機関から支援を受けつつ取り組むプランを作成中だとしている。TVOの燃料装荷許可申請書には、装荷前にサイトで必要とされる作業などOL3の準備状況が盛り込まれており、STUKの審査は数か月を要する見通し。残っている機能試験の結果分析や原子炉の性能確認結果等に基づいて、燃料の装荷許可が発給される予定である。OL3の建設工事は2005年8月、世界で初めて欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用して始まったものの、初号機であるが故に規制関係文書の確認作業や土木工事、品質検査等に予想外の時間を費やした。同炉の完成は当初、2009年に予定されていたが、フィンランド政府が同炉に運転認可を発給したのは2019年3月のことである。TVOは最終的にOL3に対する総投資額を約55億ユーロ(約6,508億円)と見積もったが、同企業連合とのターンキー契約額は約30億ユーロ(約3,550億円)。2018年3月に両者が結んだ包括的な和解契約により、同企業連合は工事の遅延にともなう超過コストおよび損害賠償金として、TVOに合計4億5,000万ユーロ(約532億円)を支払うことが決定している。仏国で初めてEPR設計を採用したフラマンビル3号機の建設工事も、原子炉容器鋼材や主蒸気配管溶接部の品質問題等により完成が遅れている。一方、同じ設計で2009年と2010年に中国でそれぞれ着工した台山1、2号機については、建設工事が比較的順調に進展。それぞれ2018年12月と2019年9月に営業運転を開始している(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
09 Apr 2020
3172
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は4月7日、バングラデシュ初の原子力発電所サイトで建設工事に従事する4,000名以上の作業員のうち、新型コロナウイルスの感染拡大にともないロシアへの一時帰国を希望する178名にチャーター機を手配したと発表した。同国では、首都ダッカの北西160kmの地点でルプール原子力発電所1、2号機(各120万kW)がそれぞれ2017年11月と2018年7月に本格着工。これらでは国際的な安全要件をすべて満たした第3世代+(プラス)のロシア型PWR(VVER)設計「ASE-2006」を採用しており、同国の原子力導入初号機となる1号機は2023年、2号機は2024年の営業運転開始を予定している。今回、下請け企業社員を含む一部の作業員が一時的に帰国するものの、建設プロジェクトをスケジュール通り遂行する上で支障はないとロスアトム社は強調している。同工事はロスアトム社傘下のASEエンジニアリング社が請け負っており、同社の本拠地ニジニ・ノブゴロドには6日夜、ロシア連邦政府の許可を受けた最初のチャーター機がダッカから帰国希望者を乗せて到着した。これらの帰国者すべてにコロナウイルス検査が義務付けられ、その後は2週間にわたって地元の医療管理付き診療所で隔離されることになる。発表によると、建設サイトではコロナウイルス感染の蔓延を防ぐために様々な対策が講じられている。サイトの正面玄関や事務所ビルの入口、食堂など複数の場所で作業員の体温を遠隔検温する体制を導入したほか、すべての事務所スペースを消毒、雇用者全員に対してマスクを支給した。ロスアトム社としては、ウイルス感染の世界的拡大がサプライチェーンに及ぼす悪影響を最小限にとどめるとともに、契約書に明記された完成日程を順守するため、あらゆる手段を講じるとしている。同社のA.リハチョフ総裁による4月1日付の声明文では、ロスアトム社関係の感染者はこれまでに4例報告されており、1名は同社がハンガリーで進めているVVER建設計画の関係者(ハンガリー人)。残り3名はロスアトム社傘下の民生用原子力発電公社の職員だが、同社が関わるすべての都市では追加的な医療措置や組織的対策が取られている。同総裁はまた、国外の原子力発電所建設計画に携わるロシア人で、一時帰国を希望する者には数日以内にその機会が与えられるとも述べていた。なお、在バングラデシュの日本大使館によると、同国政府は感染の拡大防止目的で国際線フライトの乗り入れ停止措置を4月14日まで延長したが、対象国・地域のなかにロシアは含まれていない。また、日本貿易振興機構(JETRO)の現地通信は、バングラデシュにおける6日時点の感染者数は合計123名で、このうち12名が死亡したことを伝えている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①(英語)、②(ロシア語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
08 Apr 2020
3697
ロシアの民生用原子力発電公社のロスエネルゴアトム社は4月1日、同国中央部スベルドロフスク州のベロヤルスク原子力発電所で、3号機として1980年から稼働しているナトリウム冷却高速原型炉「BN-600」(FBR、60万kW)の運転期間が2025年まで5年間延長されたと発表した。同発電所で実施した研究の結果から、BN-600は技術的に2030年まで運転継続可能であることが実証されたと所長のI.シドロフ氏は明言している。ロスエネルゴアトム社と同じく、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社傘下の設計会社アトムプロエクト社が現在、同炉の運転をさらに延長するための投資プロジェクトを策定中であり、2024年にこの作業を完了する予定。ロスエネルゴアトム社はこれを受けた後、同炉の運転を2025年以降2040年までの期間、運転継続するための申請書を連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)に提出する方針である。ロシアは国内のエネルギー需要を満たしつつ、天然ウランと使用済燃料の有効活用が可能な核燃料サイクルを確立するため、高速中性子炉の実用化を進めている。「BN-600」に加えて電気出力1.2万kWの高速実験炉「BOR-60」が1969年12月からディミトロフグラードで稼働しているほか、80万kW級の高速実証炉「BN-800」もベロヤルスク4号機として2016年10月から営業運転中。120万kW級の商業用高速炉「BN-1200」(ベロヤルスク5号機)についても建設準備が進行中である。また、これらのナトリウム冷却高速炉開発と並行して、鉛冷却高速炉の研究開発も進めるという「ブレークスルー(PRORYV)」プロジェクトでは、出力30万kWの鉛冷却高速実証炉「BREST-300」をトムスク州セベルスクのシベリア化学コンビナート(SCC)で建設することになっている。「BN-600」の運転開始当初に許された運転期間は30年間で、ロスエネルゴアトム社は30年目に当たる2010年に運転期間を2025年まで15年間延長することを計画。2009年に、安全性関係すべてをカバーする大規模な設備の最新化プログラムを開始した。空気熱交換器を使った緊急冷却システムやバックアップ用の制御盤を設置するなど、機器類の点検とアップグレードで膨大な作業を実施。2010年には最新の安全基準に完全に適合していることが確認されており、同社はこれに基づき運転期間の15年延長が可能と考えていた。しかしROSTECHNADZORは、交換できない機器の能力実証を追加で要求した後、2020年まで10年間だけ運転の延長を認める許可を発給。ロスエネルゴアトム社によると、その後これらの関係作業はすべて完了しており、同国のエンジニアリング企業で元実験機械製造設計局のOKBMアフリカントフ社や構造材中央研究所「プロメティ」は、同炉で運転をさらに継続することは技術的に可能との結論を明示。これに基づき、ROSTECHNADZORが2025年までの延長を承認している。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Apr 2020
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米国で約30年ぶりの新設計画としてA.W.ボーグル原子力発電所3、4号機(PWR、各110万kW)増設計画を進めているサザン社は4月1日、新型コロナウイルスによる感染の発生にともない、同増設工事の混乱や遅れなど、同社とその子会社は様々なリスクにさらされているとの認識を表明した。これは、米証券取引委員会に対する2019年末の年次財務報告におけるリスク要因補足文書の中で同社が明らかにしたもの。これまでに世界保健機関(WHO)と連邦疾病管理予防センター(CDC)が感染の世界的流行(パンデミック)を宣言し、全米を含む多くの国にウイルス感染が広がるなか、その対応として各国は旅行や人の密集の禁止、特定のビジネスの自粛など数多くの制限を設けている。複数の電気事業子会社の供給区域にも経済活動の混乱という深刻な影響が生じてきており、資本市場では株価が乱高下した。このコロナウイルス感染拡大に関連して、サザン社の電気事業子会社は電気代を滞納中の一部顧客に対して、電気の使用停止を一時的に解除している。感染が拡大し続けていることや政府の対応等によってサプライチェーンや資本市場にも混乱が広がり、労働力や生産性の低下、経済活動の縮小といった状況が継続、サザン社は同社とその子会社にも様々な悪影響が及ぶことになると指摘した。具体的にはエネルギー需要量の低下、特に法人需要が少なくなり、営業権や長期性資産が減損、同社と子会社が施設を設計・建設・操業したり、金融機関や資本市場から資金調達する運用にも陰りが出てくる。とりわけボーグル3、4号機に関しては、建設工事や試験の実施、その監督・支援活動にも遅れの生じる可能性も出ている。子会社の一つであるサザン・ニュークリア・オペレーティング社はこれまで、建設サイトでウイルスの伝染リスクを軽減するため、感染症状が出た人員や感染者と濃厚接触した人員を隔離したり、作業者間で距離を取るなどの措置や手続きを実行してきた。しかし、感染者の急激な増加で建設工事のスケジュールや予算にどのような影響が及ぶか、見極めるのは今のところ時期尚早との見方を示している。サザン社は現時点で、ボーグル3、4号機の稼働開始日程をそれぞれ、2021年11月と2022年11月に設定。3号機については昨年7月に初装荷燃料を発注したほか、同年12月には遮へい建屋に円錐形の屋根を設置した。また、4号機についても今年3月、格納容器に上部ヘッドを設置したと発表している。(参照資料:サザン社の報告資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Apr 2020
3618
国際原子力機関(IAEA)は3月30日、新型コロナウイルスによる感染の拡大時に取られる支援方策として「国際緊急時対応演習(ConvEx)」を同月24日から26日まで実施したと発表した。ConvExの中で、支援の要請と提供の仕組みを試験する演習「ConvEx-2b」に35のIAEA加盟国と世界気象機関(WMO)の2つの地区特別気象センター(RSMC)が参加。コロナウイルス感染の世界的流行(パンデミック)にともない原子力事故または放射線緊急事態が発生したことを想定し、IAEAの「事故・緊急事態対応センター(IEC)」が中心となってウィーンから遠隔操作で支援方策を行った。IAEAは「この種の緊急事態対応で準備し過ぎるということはない。だからこそ、その演習シナリオには発生確率は低くてもリスクが高く、能力を試されるような事象が含まれるべきなのだ」と指摘した。IAEAのR.M.グロッシー事務局長も、「自然災害やパンデミック、その他の危機にともなう事象から、原子力事故や放射線緊急事態が発生する可能性に備えなくてはならない」と強調した。「コロナウイルスにより、我々の生活すべてが深刻な混乱に陥っている時期に今回の演習を行ったことで、緊急時の対応能力を絶えず維持するというIAEAの強い決意が示された」と指摘。如何なる事由や危機的状況の下におかれても、IAEAは効果的な国際対応を調整するため迅速に行動するとしている。ConvExの実施は、チェルノブイリ事故を契機に1986年のIAEA総会で採択された2つの条約「原子力事故早期通報条約」と「原子力事故援助条約」に基づいている。「ConvEx-2b」では、支援要請する発災国の役割を演じる国とそれを提供する役割の国それぞれが、関係活動と情報交換の効率性と有効性を試されことになっており、IECのE.ブグロバ・センター長は「世界中で同時発生する様々な危機への対応で、迅速かつ効率的な支援を加盟国に提供することは戦略的に重要な要件になる」とした。今回の演習では、IAEAの17加盟国が発災国役を演じる一方、18加盟国と2つのRSMCが支援提供国役を務め、パンデミック対応の安全・セキュリティ対策に集中的に取り組んだ。発災国役が仮想の緊急事態に必要な支援をIAEAに要請した後、IECは支援提供国役の所管官庁に指定されている機関および関係する国際機関に要請内容を伝達。これにより、発災国に対してどのように支援提供していくか決定する手続きが発動され、IECは発災国役と支援提供国役双方と協議した上で「支援行動計画」を作成、これには双方の役割と責任、および両者間で合意・調印した活動内容が記された。また、このような環境下での初期対応は非常に困難との認識から、発災国役は支援提供国役が派遣する現地支援チームに対して追加で予防的な防護プランを提示。また、IECの「支援行動計画」には、現地支援チームの到着と同時にウイルス検査を実施することや、個人用防護装備の提供等が盛り込まれたとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの4月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Apr 2020
3317
チェコ国営電力のCEZ社グループは3月25日、経年化が進んでいるドコバニ原子力発電所(ロシア型PWR×4基、各51万kW)で、ネット出力が最大120万kWのPWRをⅡ期工事として新たに2基増設するための立地許可申請書を原子力安全庁(SUJB)に提出した。準備作業にCEZ社が5年を費やした増設計画であり、これにより同計画は許認可プロセスへの移行準備が整う。包括的環境影響評価(EIA)についてはすでに昨年9月に、環境省が承認済みとなっている。A.バビシュ首相は昨年11月、チェコのエネルギー自給を維持するためにドコバニⅡ期工事の最初の1基について2022年末までにプラント供給企業の選定を終え、遅くとも2029年までに建設工事を開始、2036年までに運転開始を目指すと発表していた。SUJBは今後原子力法の条項に則り、12か月以内に立地許可発給の是非について判断を下すとしている。チェコ政府は2015年5月の「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約30%から2040年までに60%近くまで上昇させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画としてその翌月に閣議決定した「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減していくのにともない、既存のドコバニとテメリン両原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設する準備を進める必要があるとしていた。A.バビシュ首相はまた、地球温暖化防止のためCO2排出量の実質ゼロ化に向けた動きが欧州で活発化している点を指摘。チェコ政府内では、「石炭火力に代わる新規電源としては再生可能エネルギーでは不十分であり、原子炉を建設することが論理的」との認識が定着している。CEZ社の発表によると、申請書に添付された文書は約1,600ページに達する膨大なもので、作成にはCEZ社のほかに水研究所や国立マサリク大学、原子力研究機関(UJV Rez)などの専門家30名以上が従事した。建設を支持する論拠として200以上の専門的な分析・調査結果が活用され、申請書を構成する重要部分として広範な「入札保証」報告書も付け加えられている。内容は主に建設サイトの特性を評価・説明するもので、発電所近郊の自然状態や給水設備、人的活動などを検証。建設プロジェクトのコンセプトや質、周辺の住民と環境および将来的な廃止措置に関する影響なども評価している。 建設用地そのものについては最も入念な分析が行われており、底土の状態を見極めるため専門家らは全長4km以上にわたる部分で170本以上の地層掘削を行った。これに加えて、最大深度150mの深井戸を30本掘削して地下水の状態を観察。周辺エリアにおいても66か所で試験掘削を実施したため、得られた岩石試料のコンテナは1,300本以上に達したとしている。(参照資料:CEZ社グループ、チェコ原子力安全庁の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Apr 2020
3163
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は3月26日、新型コロナウイルスによる感染への対応についてA.リハチョフ総裁の声明文を発表し、原子力発電所における安全確保と同社傘下の全組織の従業員およびロシア一般国民の生命と健康の防護で最優先の対策を取っていると表明した。安全性の確保はロスアトム社にとって重要な価値基準であり、従業員の健康に影響するコロナウイルス感染の世界的流行(パンデミック)など、様々な筋書きに応じて如何なる緊急事態についても常に対応策を敷いている点を強調している。同総裁によると、ロスアトム社は現在、国内すべての原子力発電所で従業員の定期健診など複数の追加的措置を導入した。出来るだけ多くの従業員が互いに距離を置いて作業できるよう手配したほか、個人用のウイルス防護製品や保護具を大量に調達。関係する生産設備や車両を繰り返し消毒しており、すべての出張/旅行を原則キャンセルとした。また、従業員の健康状態については、施設が立地する地元当局との緊密な連携によりモニターしている。同総裁はまた、多くの国でコロナウイルスによる感染が拡大しているものの、輸出原子炉を建設中の国のすべてで同様の措置を取っていると説明。作業員を防護するため建設サイトでは最も厳しい対策が敷かれており、ロスアトム社はその国の政府や疾病管理サービス当局の勧告に従っている。また、地元の当局が隔離対策や従業員の退避策を導入した場合に備えて、感染拡大防止策を強化する準備も全面的に進めている。さらに、この健康上の危機がサプライチェーンに及ぼす悪影響を最小限に抑えるとともに、契約書に規定されたスケジュールを完璧に順守できるよう、あらゆる事前の注意対策を取っていると述べた。ロスアトム社は現在、ロシア国内で3基の大型商業炉を建設中であるほか、2基の小型炉を搭載した海上浮揚式原子力発電所が昨年12月から試運転中。海外ではバングラデシュやベラルーシ、トルコ、フィンランド、ハンガリー、インド等で請け負った合計36基の原子炉建設プロジェクトが様々な段階に達している。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Mar 2020
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国際原子力機関(IAEA)は3月25日、超小型炉を含む小型モジュール炉(SMR)の経済性評価に特化した3年計画の協働研究プロジェクト(CRP)を開始すると発表した。現在世界中で開発されている様々なコンセプトのSMR(約50設計)を実際に建設する際、必要となる経済性評価の枠組みや背景情報を加盟各国に提供することが目的。参加希望者は4月30日までに、研究契約や協定書の案をIAEAの研究契約管理部に提出するよう義務付けられている。IAEAが定義するSMRはモジュール毎の電気出力が最大30万kWであり、一部のものは予め製造したシステムや機器類を工場で組み立てるなどして建設コストや工期を削減。その安全性や設置方法、利用分野などで様々な設計が存在し、近年これらへの関心は急速に高まっている。また、新しい世代の原子炉は従来の100万kW級原子炉と比べて設計がコンパクトであり、1,000kW規模の超小型炉ならトラックや鉄道、船舶、航空機で容易に輸送することが可能。送電網の規模が小さい地域や遠隔地域にも信頼性の高い熱電供給を実現できるほか、出力が変化しやすい再生可能エネルギーや様々なエネルギー貯蔵システムに対応する進化型の送電網に、発電設備系統連系(アンシラリー)サービスを提供することも可能だとした。IAEAの認識では、現在開発中のSMR技術の成熟度はそれぞれ異なっており、建設に際してコストや納期を適切に評価・分析し、合理化する必要がある。市場のニーズに応えるにはSMR用のビジネスモデルを構築しなければならず、市場そのものについても、機器の需要や産業支援サービスが維持されるような規模の大きさが求められる。SMRの開発と建設にともなう経済面の効果を数値化し、社会的支援が得られるよう伝えていく必要があるとした。このためIAEAは今回のCRPで、①採用されている技術の成熟度の違い、②採用技術の詳細、③各設計コンセプトの潜在的なユーザー、および付随するリスク特性と収益への道筋――に集中的に取り組む方針。CRP参加者は以下の分野の調査を通じて、SMR開発プロジェクトの経済的評価に資する系統的アプローチを共同で開発することになる。調査分野とはすなわち、SMRの市場、SMRと非原子力による代替選択肢間の競争力分析、価値の高いプロジェクトの提案とその戦略的位置づけ、プロジェクト全体の企画経費予測と分析、プロジェクトの構成とリスク配分および財政評価額、経営計画とビジネス事例の実証、経済的な費用便益の分析-—など。評価の枠組みが完成した後は特に、SMRの量産に関する経済性評価に適用される予定で、既存の工場で量産する際の条件設定や、サプライ・チェーンを現地化する機会や影響の評価に使われる。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月26日付け「ワールド・ニュークリ ア・ニュース(WNN)」)
30 Mar 2020
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仏国資本のEDFエナジー社は3月26日、英国南東部のサフォーク州で進めているサイズウェルC原子力発電所(PWR、163万kW×2基)建設計画について、新型コロナウイルスによる感染の拡大に配慮し、今月末までに予定していた「開発合意書(DCO)」の申請書提出を数週間延期すると発表した。「開発同意」は、申請された原子力発電所等の立地審査で合理化と効率化を図るための手続きである。「国家的に重要なインフラプロジェクト(NSIP)」に対して取得が課せられているもので、コミュニティ・地方自治省の政策執行機関である計画審査庁(PI)が審査を担当、諸外国の環境影響に関する適正評価もPIの担当大臣が実施する。本審査が完了した後は、PIの勧告を受けてビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の大臣がDCOの発給について最終判断を下すことになる。EDFエナジー社は今回、DCO審査プロセスが公開協議段階に入った場合は、国民の参加登録期間に余裕をもたせると明言。これにより、地元住民が十分な時間をかけて申請書を検討できるとした。同社の原子力開発担当常務も、「地元コミュニティを含むサフォーク州民の多くが、現在コロナウイルス感染への対応に追われている。DCO申請書の提出は延期するものの、過去8年以上にわたる関係協議で当社はプロジェクトの透明性に配慮するとともに、プロジェクトに関心を持つ国民一人一人が意見を言えるよう努力を重ねており、今の難しい局面に際してもこの努力を続けたい」と述べた。同プロジェクトに関して、EDFエナジー社は2012年以降すでに4段階の公開協議を実施しており、1万人以上の地元住民や組織がこれに参加した。サイズウェルC発電所では、南西部サマセット州で建設中のヒンクリーポイントC(HPC)発電所と同じ欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用しているため、同社は建設コストをある程度削減することが出来ると説明。サフォーク州のみならず英国全土に雇用や投資の機会をもたらすとともに、常時発電可能な低炭素電源として英国政府が目指すCO2排出量実質ゼロへの移行を後押しするとしている。なお、EDFエナジー社は3月24日にHPCプロジェクトの現状を公表し、作業員や地元コミュニティの安全を最優先に、新型コロナウイルスによる感染拡大から防護する措置を広範に取っていると強調した。(参照資料:EDFエナジーの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Mar 2020
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米原子力エネルギー協会(NEI)のM. コースニック理事長は3月20日、エネルギー省(DOE)のD. ブルイエット長官に書簡を送り、新型コロナウイルスによる感染が世界的な流行(パンデミック)となる中、国内原子力発電所でこの春に燃料交換やメンテナンスを実施する際、必要となる支援の提供を要請した。同理事長はまず、「パンデミック対応時に特に重要となる送電網の維持で原子力発電所は必須のインフラである」と国土安全保障省が位置付けている点に言及。実際に国内の原子力発電所では、パンデミック時にも運転を継続できるよう複数段階のプランを設定し、地元の状況に応じてすでに実行中である。これまでのところ全国の原子力発電所は順調に運転を続けているが、これらは18か月毎あるいは24か月毎に取替用の新燃料を装荷する必要があり、その他のメンテナンスも含めて2~4週間、稼働できない期間があるという点をDOE長官に伝えておきたいとした。燃料交換は通常、電力需要量が最も少なくなる春や秋頃に行われ、発電所毎に数100人規模の専門作業員が30~60日間動員されるが、これらの作業員が宿泊するホテルや地元住民宅、食事のためのレストラン等が必要である。また、このような作業に使われる医療用レベルの手袋やマスク、使い捨ての消毒布や体温計といった放射線防護のための個人用装備がパンデミック時には不足することが予想される。コースニック理事長によると、米国では今春、21州に立地する32の原子力発電所が燃料交換を予定しており、これらを含めた原子力発電所ではすでに、このような作業期間中にコロナウイルスのリスクを最小限に抑える予防的措置が取られている。具体的には、具合の悪い従業員を自宅待機とすることや感染者数の多い国に最近渡航した従業員の除外、発電所ゲートにおける従業員や契約請負作業員等の健康チェック、カフェテリアなど従業員が集まる場所の閉鎖や入場制限などを挙げた。その上で同理事長は、国内の原子力部門が発電所の運転や経済活動を途絶させないために、DOEの支援を緊急に必要とする個別のアクションを以下のように特定した。国内のエネルギー需要を、今日だけでなく明日以降も長期的に、また、安全で信頼性が高く価格も適正な原子力発電で満たせるよう、これらに対する政府の助力が不可欠だと訴えている。・原子力発電所の運転や燃料交換など、重要業務の担当従業員を連邦政府が確認する、・これらの重要業務の履行にともない作業員の発電所への移動を許可する、・これらの重要業務の履行に必要な宿泊所や飲食物の提供サービス等を維持する、・発電所サイトや宿泊所、飲食物のサービス施設などへ移動で、作業員が州境やコミュニティの境界を自由に越えることを許可する、・放射線防護のための個人用装備や新型コロナウイルスの検査キットなどを原子力作業員が優先的に入手できるようにする、・高度に特殊な技能を有する外国人作業員が米国に入国することを許可する、である。(参照資料:NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Mar 2020
2017
仏国の商業用原子炉57基すべてを所有・運転するフランス電力(EDF)は3月23日、新型コロナウイルスによる感染影響について現状を公表し、2020年の「金利・税金・償却前利益(EBITDA)」は現段階で目標とする金額幅175億~180億ユーロ(2兆1,000億~2兆1,700億円)の低い方の数値に留めるものの、原子力発電所における目標発電量については下方修正中であることを明らかにした。発表によるとEDFグループは、感染影響下においても発電事業者としての重要な活動を維持するため全精力を傾注中。国内で予期される発電シナリオすべてに対応可能な運転能力と資金力があり、昨年末時点の現金同等物と売却可能な短期金融資産の総額は228億ユーロ(2兆7,400億円)にのぼるなど、健全な状態にあるとした。電力需要量の低下が送配電事業に及ぼす財政上の影響も限定的だと見ており、脆弱な小規模企業の電気料金で一時的な救済措置を取るため同グループの必要運転資金が暫時増加するものの、その影響は年末までに解消されるとした。その一方、E.マクロン大統領が3月17日に発表した2週間の「外出禁止令」により、発電設備のメンテナンス作業が中断され、EDFでは定期検査日程の再調整を余儀なくされている。2020年に予定していた原子力発電所による発電量3,750億~3,900億kWhも下方修正に向けた見直し作業中であり、設備利用率の見通しや関連コストが明確になってからこれらの目標数値の改定版を作成するとしている。2021年の影響見通しについては、現段階では正確に評価できないとEDFは述べた。現在進めている定期検査日程の再調整は、2020年末から2021年にかけて冬季の利用率を最大限にすることが主な目的だが、発電量は2021年もマイナス影響を受けると予想される。同様に電力卸市場においても価格の低下が見込まれており、これによって同年末時点の負債比率に深刻な影響が及ぶ可能性があるとしている。なお、EDFが運転するフェッセンハイム、ベルビル、カットノン3つの原子力発電所について、3月11日付のロイター電は「新型コロナウイルス検査で各1名ずつ合計3名の従業員に陽性反応が出た」と報道した。これに関してEDFからの発表はなかったが、濃厚接触があったその他の従業員とともにこれら3名を14日間の自宅待機とし、通常通りの運転を続けた模様。EDFが国家計画に沿って2009年に策定したという「パンデミック時に人員を削減して運転を継続するプラン」は、発動されなかったと伝えている。(参照資料:EDFの発表資料、ロイター電、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Mar 2020
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国際エネルギー機関(IEA)のF.ビロル事務局長(=写真)は3月22日に「LinkedIn」に投稿し、「新型コロナウイルスがもたらした危機によって、電力の供給保証がこれまで以上に重要欠くべからざるものであることが再認識された」とコメントした。原子力発電の設備容量に関しても「確実な電力供給を支える重要要素」と位置付けており、「電力供給保証に対する貢献など、様々な電源がもたらす恩恵に見返りを与えられるような市場を政策立案者が設計する必要があり、これによって実行可能なビジネスモデルの構築も可能になる」と説明。クリーン・エネルギー経済に移行する中で、あらゆる発電オプションを維持することが重要だと強調している。ビロル事務局長によると、コロナウイルス危機による経済活動の大規模な途絶は、近代社会がどれほど電力に依存しているか明確に示した。数百万の人々が自宅に閉じこもってテレワークで仕事をこなし、買い物は電子商取引サイトが頼り。このようなサービスのすべてが信頼性の高い電力供給によって支えられているが、これを当然のことと思い込んではならない。アフリカでは今なお、数億もの人々が電力を使用できない環境にあり、病気その他の危険に対し非常に脆弱な状態にさらされている。我々の生活の中で電力の果たす重要な役割が、今後数年先あるいは数十年先にどの程度大きく拡大・進化していくか、コロナウイルス危機は手がかりを提供している。多くの経済圏がこの危機に対し強力な封じ込め対策を取っているが、工場や事業活動が停止したことにより電力需要量は約15%低下。そうした経済圏のなかで、スペインや米国のカリフォルニア州は風力と太陽光の発電シェアが世界でも最も高いが、気象条件が普段と変わらないなかで電力需要が急落すると、これらの発電シェアは通常より高まることになる。 ビロル事務局長は、「需要量が低下すれば発電設備は十分だと見なされがちだが、実際に近年、最も注目された停電のいくつかは需要量が低い時期に発生している」と指摘。風力や太陽光からの発電量で需要量の大半が満たされていても、電力系統の運用者は日没など電力供給パターンの変化に備えて、その他の電源による発電量を素早く増やせるよう柔軟性を維持しなければならない。このため、風力や太陽光からの発電シェアが常に高い状態になれば、送電網の安定性を維持することは一層難しくなると説明した。今回のように、大規模なパンデミックで国全体が封鎖されるような事態においては、欧州の大部分で経済活動が突然停止し電力需要量も低下。これは、電力系統から柔軟性のある主要電源を取り除くことにもなるため、政策立案者は極限の状況下で柔軟性の高い電源を利用できるか注意深く評価する必要がある。同事務局長の認識では、現状で多くの電力系統運用者が頼りとしているのは天然ガス(LNG)火力発電所だが、これらが仮に送電システムにおける需要量の調節のみに使われれば、多くのLNG発電所が赤字を出すことになる。今般のコロナウイルス危機においても、電力需要量が低下したことでこのようなプレッシャーが加わっていると警告した。ビロル事務局長はまた、「コロナウイルス危機によって、電力関係のインフラやノウハウの持つ重要な価値が明確に示されたが、これらはまた、クリーン・エネルギー技術の台頭で将来の電力システムが変化した場合においても、その信頼性を維持するために政策立案者が何をすべきか等について極めて重要な示唆をもたらした」と指摘。各国政府は国民の健康上の緊急事態に対応するため適切な策を取っているが、これらの政府はまた電力の供給保証についても警戒を怠らず、市場が乱高下するなかでも生命維持に必要な資産を守らねばならない。このように異常な事態において人々は、「他のものはどうでも、電力なしではどうにも生きられないのだ」と強調している。(参照資料:IEAビロル事務局長の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Mar 2020
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英国のロールス・ロイス社は3月19日、開発中の小型モジュール炉(SMR)をトルコ国内で建設する際の技術面と経済面、および法制面の適用可能性評価を実施するため、関連企業や団体8社と結成した国際企業連合を代表して、トルコ国営発電会社(EUAS)の子会社のEUASインターナショナルCC(EUAS ICC)社と協力する了解覚書を締結した。同覚書ではまた、SMRをトルコ側と共同生産する可能性も探ると明記。トルコは大型原子炉に加えてSMRも建設し、クリーン・エネルギーによる経済成長を支えていく考えだ。ロールス・ロイス社とトルコ政府エネルギー部門との協力は2013年に遡り、その際はエネルギー天然資源省およびイスタンブール工科大学とともにサプライチェーンの調査に着手した。今回の発表はトルコに低炭素なエネルギーシステムを導入する一助となるほか、トルコと英国間の強力な連携関係構築に向けて新たな1ページが刻まれると強調しているロールス・ロイス社の企業連合には、仏国を拠点とする国際エンジニアリング企業のアシステム社、米国のジェイコブス社、英国の大手エンジニアリング企業や建設企業のアトキンズ社、BAMナットル社、レイン・オルーク社のほか、溶接研究所と国立原子力研究所(NNL)、および英国政府が産業界との協力により2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(N-AMRC)が参加している。今回の覚書で同企業連合は具体的に、SMR建設に関わる技術や許認可、投資等の状況および建設プロセスの見通しなどを重点的に調査、トルコのみならず世界中の潜在的な市場についても検討する。SMR用の機器はサイト内の全天候型施設で迅速に組み立てられるよう、規格化して工場内で製造する方針で、天候によって作業が中断されなければコストの削減につながるほか、作業員にも良好な作業条件が保証されると述べた。合理化された先進的な製造工程により効率性も徐々に改善されていき、結果的に初期費用の大幅削減と迅速かつ予測可能な建設と起動が確保されるとしている。ロールス・ロイス社のD.オル理事(=写真左)は、「地球温暖化への取組は最も差し迫った長期的課題であるとともに、経済的には重要なチャンスにもなり得る」と指摘。同社製SMRであれば迅速かつ適正価格で建設が可能であり、数万規模の雇用を創出する魅力的な投資機会となるほか、今後数十年間にわたってトルコの繁栄と生活の質の向上が約束されると述べた。EUAS ICC社のY.バイラクタルCEO(=写真右)は、「原子力で電源の多様化を図ることが我々の展望であり、そのためにトルコの社会経済に貢献する持続可能な原子力産業を開発したい」とコメント。トルコはすでに、パートナーであるロシアと大型原子力発電所(120万kW級PWR×4基)を地中海沿岸のアックユで建設中だが、価格面での競争力は重要な指標になるとした。またSMRの実行可能性については、その研究開発を継続的にモニターしていくとしている。なお、ロールス・ロイス社はすでに2017年11月、同社製SMRをヨルダンで建設する技術的実行可能性調査の実施に向け、ヨルダン原子力委員会と了解覚書を締結済みである。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの3月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Mar 2020
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