米国の原子力発電事業者としては最大手のエクセロン・ジェネレーション社は8月26日、イリノイ州で稼働するバイロン(120万kW級PWR×2基)とドレスデン(91.2万kWのBWR×2基)の両原子力発電所を2021年の秋に早期閉鎖する方針を明らかにした。信頼性の高い両発電所の運転により、同社はイリノイ州の北部約400万の世帯や事業所にCO2を排出しないクリーンな電力を供給してきたが、バイロン発電所は2021年9月、ドレスデン発電所については同年11月に永久閉鎖する計画である。米国の電力市場が自由化された地域では、独立系統運用者(ISO)や地域送電機関(RTO)が運営する容量市場で卸電力の取引が行われている。バイロン発電所では現行の運転認可が満了するまで残り約20年、ドレスデン発電所でも10年ほど残っているが、どちらも近年はエネルギー価格の低迷や、北東部の代表的なRTOである「PJMインターコネクション(PJM)」の容量オークションで化石燃料発電に競り勝つことができず、数億ドル規模の歳入不足に陥っている。また同社によると、連邦エネルギー規制委員会(FERC)が最近指示したオークション関係の価格規則はクリーン・エネルギーに対する同州の財政支援策を台無しにし、容量オークションでも化石燃料発電を優遇しているため、両発電所の財政問題はさらに悪化している。イリノイ州では2016年12月、州内の原子力発電所に対する財政支援策を盛り込んだ包括的エネルギー法案が成立しており、エクセロン社は早期閉鎖を予定していたクリントン(107.7万kWのBWR)とクアド・シティーズ(91.2万kWのBWR×2基)の両原子力発電所で今後少なくとも10年間、運転継続させることを決定した。しかし、近年はFERCの価格規則等により、今回の2つの原子力発電所のみならず同社が保有するラサール(117万kWのBWR×2基)原子力発電所とブレードウッド(120万kW級PWR×2基)原子力発電所についても、早期閉鎖のリスクは高いと同社は主張している。同社のC.クレイン社長兼CEOは「エクセロン社全体でほかの雇用を維持するために、不経済なプラントを閉鎖しなければならないことを頭ではわかっているが、お粗末なエネルギー政策によって発電所の優秀な従業員が職を失うことになるのは胸が痛む」と述べた。しかし、エクセロン社は両発電所の早期閉鎖を回避できるよう、今後も州政府の政策立案者と協議を続ける考えであり、すでに会計帳簿も開示したことを明らかにしている。バイロンとドレスデン両発電所の閉鎖により、イリノイ州は温室効果ガスの排出量削減目標の達成に向けた進展が鈍化するなど妨げられるが、エクセロン社としては正式決定後にPJMに事前連絡を行う方針である。需要のピーク時においても、両発電所の閉鎖がイリノイ州北部で発電容量不足を生じさせないことをPJMが確認できるよう、分析する猶予を与えなければならない。同社はまた、原子力規制委員会(NRC)に対して30日以内に正式な閉鎖連絡を行うほか、両発電所を長期運転する際に必要とされていた設備投資プロジェクトを終結させる。さらに、今年の秋に両発電所で予定されていた燃料交換のための停止日程を縮減するとしている。(参照資料:エクセロン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの2月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Aug 2020
3992
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は8月26日、トムスク州セベルスクにあるシベリア化学コンビナート(SCC)で、100万kW級のロシア型PWR「VVER-1000」に装荷するレミックス(REMIX)燃料集合体の製造ラインを2023年に完成させる計画を明らかにした。レミックス燃料(=写真)は、使用済燃料からウランとプルトニウムの混合物を分離せずに回収し、最大17%の濃縮ウランを加えて製造する軽水炉用の原子燃料。ロスアトム社によると、同燃料は高速炉用のウラン・プルトニウムの混合窒化物(MNUP)燃料や混合酸化物(MOX)燃料と異なり、プルトニウムの含有量が最大で1.5%と小さい。一方、中性子スペクトルが一般的な軽水炉燃料とあまり変わらず、燃料集合体の炉内挙動が似ていることから、軽水炉への導入にあたって設計変更や追加の安全対策が不要である。このため同燃料は、軽水炉でのプルトニウム・リサイクルにより、使用済燃料の貯蔵量削減やウラン燃料の節約に寄与すると期待されている。ロスアトム社はこれを、ロシア国内で稼働する主力設計炉「VVER-1000」の全炉心に装荷することを検討している。今回、同社の投資委員会がSCCで試験用燃料製造の現場を近代化するプロジェクトを承認したことから、レミックス燃料棒が組み込まれた「TVS-2M」モデルの燃料バンドルとVVER-1000用燃料棒を組み合わせる新しい燃料集合体製造ラインの設置が可能になったもの。同ラインが設置されるSCCはロスアトム社の燃料製造部門であるTVEL社の子会社で、プルトニウム取扱専門技術をもつ中心的機関。MNUP燃料の試験集合体をベロヤルスク原子力発電所の3号機(60万kW級FBRの「BN-600」)用に製造しているが、レミックス燃料の製造ではクラスノヤルスク州ゼレズノゴルスクにある鉱山化学コンビナート(MCC)が燃料ペレットの生産等で協力する。ロスアトム社は2016年以降、6本のレミックス燃料棒を含む「TVS-2M」燃料集合体を3体、バラコボ原子力発電所3号機に装荷して、パイロット運転プログラムを実行中。今年は同炉で3回目の18か月サイクル運転が始まっているが、少量の試験用レミックス燃料棒による2サイクルの運転が成功裏に完了したことから、同社は次のステップとして、レミックス燃料集合体を原子炉にフル装荷することを検討している。こうしたことからSCCの燃料集合体製造ラインは、パイロット運転プログラムの燃料バンドル(束)に必要な量の製造規模になる模様。今のところ同燃料技術は試験の第一段階にあるが、ロスアトム社はパイロット運転の結果次第では、将来的にレミックス燃料を連続生産する産業規模の施設建設も可能になるとしている。(参照資料:ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
27 Aug 2020
2423
英国のロンドンに本拠地を置く世界原子力協会(WNA)は8月25日、世界の原子力発電所における昨年1年間の実績をまとめた「世界の原子力実績報告(World Nuclear Performance Report)2020」を公表した。2019年末に世界中で稼働する原子炉442基(3億9,200万kW)の総発電量は、ピークとなった2006年(2兆6,610億kWh)に次いで大きな値の2兆6,570億kWhだったことを明らかにしている。この発電量は世界の総電力需要の10%以上を賄うのに十分な量であるものの、WNAは新規の雇用を生み出すとともに経済を発展させ、将来的にクリーンエネルギー社会を実現するには、「新たに100基以上の原子炉建設計画を始動させるために、直ちに行動を起こす必要がある」と提言している。WNAのA.リーシング事務局長は、「世界では原子力発電所の運転実績が近年、堅調に推移しており、2019年実績により発電量は7年連続で増加したことになる」と説明。これらの発電所は、新型コロナウイルス感染症への対応を要する2020年も引き続き優れたレジリエンス(一時的な機能不全等から復帰する力)や柔軟性を発揮しており、需要量の変化に対応しつつ安定的に信頼性の高い電力供給を続けていると述べた。WNAによると、発電量の増加が著しい地域はアジアで、2019年は前年実績から17%増加している。中国の原子力発電量は2013年に1,050億kWhだったのが2019年は3倍以上の3,300億kWhに増えており、今やアジア地域における原子力発電量の半分以上が中国によるものだとした。しかし、運転実績が継続的に改善されても、新規原子炉の運転開始ペースは原子力産業界が目指す「ハーモニー・ゴール(2050年までに世界の電力需要の25%を原子力で担う)」の達成には不十分で、今後は一層拍車をかける必要がある。2016年から2020年までの新規送電開始容量の目標値として、WNAは年平均1,000万kWを掲げているが、2019年に世界で送電を開始した原子炉は6基(520万kW)に過ぎない。このほか、WNAは2019年の世界の原子力発電実績として以下の事項が判明したとしている。・新たに送電開始した6基のうち4基が大型PWRで、内訳は韓国とロシアの各1基に加えて中国の2基である。残りの2基は世界初の海上浮揚式原子力発電所で、ロシア北東部のペベクで起動した。・原子力発電量は北米と西・中欧地域でわずかに減少した一方、アフリカ、アジア、南米、東欧およびロシアでは増加した。・世界の原子炉の平均設備利用率は、前年実績の79.8%から82.5%に上昇した。・世界の原子炉の3分の2以上が80%以上の設備利用率を記録しており、1970年代以降大幅に改善されている。・2019年に世界で5基の原子炉が50年間の継続運転を達成した。・高経年化により設備利用率の下がった原子炉は皆無で、むしろ40~50年稼働している原子炉の方が平均設備利用率は上がっている。・2019年に世界で合計13基の原子炉が永久閉鎖されたが、このうち日本で閉鎖された4基は2011年以降稼働していなかった。また、韓国とドイツおよび台湾で各1基が脱原子力政策により閉鎖されている。・2019年に世界で5基の原子炉が着工しており、内訳は中国で2基、イランとロシアおよび英国で各1基である。・2019年に起動した原子炉の工事期間は中央値が117か月で、2001年以降の平均値より高くなっているが、理由の1つはこれらの多くが設計初号機だった、あるいは初号機の直後に着工した原子炉だからである。・新設計を採用したからといって必ず工事期間が長くなるわけではなく、「ACPR-1000」設計採用炉としては2基目となる中国の陽江6号機は、完成までの期間が66か月だった。(参照資料:WNAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Aug 2020
8919
米国のホルテック・インターナショナル社は8月20日、子会社のSMR社が開発している小型モジュール炉(SMR)設計「SMR-160」(電気出力16万kW)が、カナダ原子力安全委員会(CNSC)による「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」の第1段階を成功裏に通過したと発表した。2018年7月に開始されたVDRでSMR社は19の技術レビューの重点項目に集中的に取り組んでおり、CNSCに提出した文書は数百点にのぼる。第2段階でフォローアップの必要な分野がいくつか特定されたことから、SMR社は近々、こうしたフィードバックを踏まえて同審査の第2段階に進む予定。同設計は、事故時に運転員が現場を離れても安全性が保たれる特性(walk-away safe)を備えており、カナダ国内で同設計の許認可手続きを確実に進めるため同社はVDRを継続する考えである。VDRは建設・運転許可の取得に向けた正式な申請手続きに先立ち、当該設計がカナダの規制要件を満たしているか、CNSCがメーカー側の要請に基づいて実施する全3段階の評価審査。法的に有効な設計認証や関係認可は得られないものの、VDRによってカナダの規制要件に関する初期フィードバックが得られるほか、技術面の潜在的な課題を設計の早い段階で特定し解決策を探ることができる。CNSCは今回、VDR第1段階の審査の結論として、「SMR社は全体的にみて規制要件におけるCNSCの意図を正しく理解している」と表明。一方、今後フォローアップすべき部分として、SMR社が使用した米国のコードや基準について、詳細な選択理由の提示を求めているほか、これらの基準をどのようにカナダの要件に適合させるかについても説明を要請している。またCNSCによると、SMR社は評価の際に確率論的安全分析(PSA)を実施する必要性を認識していながら、いくつかの点についてはPSAや外部ハザードに対するリスク評価の準備を期日までにしていなかった。これらは外部事象や内部火災、洪水、複数事象の発生などの影響を評価する際に活用されるため、ベンダーによるCNSC要件の理解度を測る上で必要なものである。米国ではすでに、オレゴン州のニュースケール・パワー社が開発したSMRについて、原子力規制委員会(NRC)が米国内での建設・運転に必要な設計認証(DC)審査をSMR設計としては初めて2017年3月に開始している。ホルテック社傘下のSMR社は同様に「SMR-160」を米国内で建設・運転するため、DC審査の申請準備を進めているが、カナダでの建設については、「2020年代後半に初号機の運転が可能になる」と説明している。同設計についてはまた、ウクライナ原子力発電公社のエネルゴアトム社が同国内で6基建設することと、一部機器の国内製造を検討中。ホルテック社とエネルゴアトム社およびウクライナの国立原子力放射線安全科学技術センター(SSTC)は2019年6月、この目的を実行に移すため、国際企業連合を結成している。(参照資料:ホルテック・インターナショナル社、CNSCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Aug 2020
3477
カナダで原子力発電所を運転するブルース・パワー社と大手ウラン生産業者のカメコ社は8月20日、「次世代原子力技術センター」の創設を中心とする複数の共同イニシアチブを起ち上げると発表した。両社のこれまでの連携関係を活用して、新型コロナウイルス感染後のカナダ経済の再生を支援するとともに、CO2を排出しない原子力発電で地球環境を保全。世界中に蔓延したコロナウイルス感染症のような疾病との戦いにおいても、原子力サプライチェーンを使ってコミュニティの必需品を確保するなどの協力を強化する。両社は原子力技術革新によって小型モジュール炉(SMR)のような新技術を開発する基盤を築き、ガン治療に役立つ放射性同位体(RI)や水素経済への移行に向けた水素の生産技術の進展を後押しできると確信。すなわち、原子力インフラへの投資を通じて現行経済を刺激し、将来的には世界に力を与えることも可能だと考えている。原子力発電所の運転企業および燃料サプライヤーとして蓄えてきた専門的知見を一層深め、ブルース・パワー社が電力供給するオンタリオ州やカメコ社が本拠地を置くサスカチュワン州のみならず、カナダ全体の将来的な経済や輸出を支援していく考えである。両社はそれぞれ、オンタリオ州とサスカチュワン州の産業リーダー的存在であり、間接雇用も含めた従業員の総数は約2万7,000人。カナダ経済への投資額は年間90億~120億カナダドル(約7,200億~9,600億円)に達するなど、カナダ全体の原子力産業を代表する企業として、温室効果ガスを排出しない発電やガン治療用RIの生産といった科学技術革新の最前線に留まっている。今回の発表で両社は、これら2つの州政府が経済を立て直すためのチャンスをもたらしたいとしている。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大に際しても、両社はCO2を排出しない電力をカナダ全土に安全・確実に供給し続けている。今後は、カナダ最大のインフラ・プロジェクトの1つと言われるブルース・パワー社のブルース原子力発電所(=写真)運転期間延長プログラムを活用して、国家経済の再構築を手助けしていく方針。州を跨いだ両社間の重要な連携関係を拡大・強化するため、「次世代原子力技術センター」は、両社がBWXT社やオンタリオ州のブルース郡とともに2018年に創設した「原子力技術革新協会(NII)」の付属施設とする計画。NIIは、カナダの原子力産業界で技術革新を促進することを目指した非営利組織である。なお、両社間の今回の協力では、ブルース発電所の運転期間延長プログラムと既存の長期燃料供給契約に加えて、ブルース6号機が機器の交換を終えて再起動する2024年にカメコ社が追加で1,600体の燃料バンドルをブルース・パワー社に供給することになった。これは、2017年に両社が締結した20億カナダドル(約1,600億円)の既存の燃料供給契約に基づいて決定したとしている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Aug 2020
3171
アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入計画を担当する首長国原子力会社(ENEC)は8月19日、同連邦初の商業炉となるバラカ原子力発電所1号機(140万kWの韓国製PWR「APR1400」)が初めて送電を開始したと発表した。2012年7月に本格着工した同炉では、今年3月に燃料の初装荷が完了。7月末には初めて臨界に達しており、今回、同発電所が立地するアブダビ首長国の送電送水会社(TRANSCO)と、ENEC傘下の原子力発電所運営管理会社であるNAWAHエナジー社が協力して初併入を成功させた。同炉は現在、TRANSCO が設置した952 kmの400kV架空線でUAE初のクリーンエネルギーを連邦内に配電している。2021年の営業運転開始に向けて出力を徐々に上げるプロセスに入るが、フル出力に到達するまでに国際的な先行模範事例に倣って様々な試験を実施する。これらの試験においては、独立の規制機関である連邦原子力規制庁(FANR)が継続的に同炉を監督することになる。導入初号機が安全かつ成功裏に送電開始したことについて、ENECのM.アル・ハマディCEOは「1日24時間の絶え間ないエネルギー供給により、UAEのさらなる経済成長を促すという当社のミッションが開始され、輝かしい歴史を印すことができた」と表明。「安全性や信頼性で厳しい基準を満たしつつ、ENECが長年進めてきた準備作業の賜物であり、UAEの原子力発電導入プロジェクトにおける新たな時代の幕開けになった」と述べた。今後、残り3基(各140万kWのAPR1400)の原子炉を含め4基すべてが完成すれば、少なくとも60年間、UAEの総電力需要の25%を賄うという目標を満たすことになるとしている。同CEOはまた、UAEがその他のクリーン発電技術の実施計画も進めており、これに加えて原子力導入プロジェクトを実行することで、中東地域および世界全体のエネルギー源をクリーン電力に変革することに言及。UAEを持続可能な発展と電化への道筋に導いていくとの抱負を述べた。ENECによれば、電気は世界中で最も生活の近代化に適したエネルギー源であり、人々の生活や経済など様々な側面で利用が拡大している。バラカ原子力発電所はUAEエネルギー部門の脱炭素化と電化に大きく寄与するだけでなく、持続可能な原子力産業とサプライチェーンをUAE内で構築。付加価値の高い数千人規模の雇用を生み出すなど、UAE経済の多様化にも貢献を深めている。ENECは今年7月、バラカ発電所で2号機の建設工事が完了したと発表しており、NAWAHエナジー社が現在、運転開始の準備を進めている。3、4号機の建設進捗率も、それぞれ93%と86%に達するなど最終段階に入っており、発電所全体が概ね完成(進捗率94%)に近づいたことを強調している。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Aug 2020
2829
カナダの核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は8月14日、国内で使用済燃料の深地層処分場が2040年代に完成することを念頭に、各発電所の中間貯蔵施設から同処分場まで使用済燃料を輸送する計画の枠組策定で一般からの意見を募集すると発表した。NWMOは今回、同計画枠組の案文を公表しており、これに対するカナダ国民や先住民のコメントを今後数か月にわたって手紙やファックス、eメールで受け付ける。また、関係する協議に国民が加われるよう、NWMOがウェブサイト上に設定した「オンライン調査」への参加も呼びかけている。カナダでは2007年、使用済燃料を直接処分することを定めた国家方針「適応性のある段階的管理(APM: Adaptive Phased Management)」が採択され、実施主体となるNWMOは2010年から処分場建設の「サイト選定プロセス」を開始した。2012年9月末までに国内の22地点が処分場の受け入れに関心を表明し、NWMOは現時点で候補地域をオンタリオ州南部のサウスブルース地域と北西部イグナス地域の2地点まで絞り込んだ。これらのうちどちらかを、処分場建設サイトとして最も好ましい地点として2023年までに確定する方針である。鉄道やトラックを使用する使用済燃料の輸送計画に関しては、NWMOは一般国民の利益や意見を反映させるため、2016年以降に数千人規模の人々と協議。今回公表した枠組計画の案文はこうした作業の結果を盛り込んでいるほか、次の段階の重要ステップともなるため、NWMOは今回のコメント募集とオンライン調査の実施を決めた。NWMOのB.ワッツ副理事長は、「使用済燃料の安全な輸送に向けて、今こそ社会的に受容可能な枠組を策定すべきだ」と表明。NWMOはこれまで数多くの人々の意見に耳を傾けてきたが、輸送計画の枠組を最終決定し追加・変更部分の必要性を判断するには、カナダ国民に案文をレビューしてもらい意見を得ることが重要になる。副理事長は、「2040年代を迎えるまでにどのようにして安全な使用済燃料輸送を確保するか、できるだけ多くの人々に議論に加わってもらいたい」と強調した。カナダにおける使用済燃料の輸送はカナダ原子力安全委員会と連邦政府の運輸省が共同で規制することになる一方、国際的な輸送に際しては国際原子力機関(IAEA)の安全要件を満たさねばならない。NWMOの輸送プログラムでは規制要件の遵守で技術的側面が含まれるのに加え、国民の不安や質問に答えるなど国民が最優先とする事項を理解することが必要。このためNWMOは、使用済燃料の輸送に安全・確実を期すとともに、国際的な良慣行も取り入れたいとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Aug 2020
2015
米国のX-エナジー社は8月11日、同社が開発している小型のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」について、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が提供する予備的設計評価(ベンダー設計審査)を開始したと発表した。このベンダー設計審査では建設・運転許可の取得に向けた正式な申請手続に先立ち、当該設計がカナダの規制要件を満たしているかCNSCがメーカー側の要請に基づいて評価する。法的に有効な設計認証や関係認可が得られるわけではないが、X-エナジー社は今回、カナダのパートナー企業やサプライチェーンとの協力により、同国でXe-100の建設準備を進めるには効率的と判断したもの。同設計の完成度の高さから、3段階で構成される同審査のフェーズ1と2が一まとめに実施される予定だが、審査に際してはカナダ国籍のKinectrics社がX-エナジー社を支援する。Kinectrics社は、カナダ電力部門の専門的知見やエンジニアリング・コンサルティングで100年以上の卓越した実績を誇っている。X-エナジー社はCNSCの先進的な審査を通じて、Xe-100設計がカナダの規制要件に適合していることを実証し、カナダでXe-100の許認可手続きを進める際に根本的な障害が全くないことを確認する方針。また、Xe-100設計のさらなる改善に向けて、貴重な初期フィードバックを得る考えである。同社によれば、リスク情報を活用したカナダの進歩的な規制枠組みと定評のあるサプライチェーンを組み合わせれば、カナダはXe-100初号機を建設する理想的な場所となり、その将来的な輸出に向けた連携関係も構築される。さらに、ベースロード運転や負荷追従運転が可能な同設計を使って、カナダはクリーン・エネルギーの比率を高めるという目標を達成しつつ、遠隔地域のコミュニティに十分な電力と高温の蒸気を提供、海水の脱塩や水素生産などにも活用できるとしている。 Xe-100は電気出力7.5万kWのSMRだが、これを4基連結することで出力は30万kWまで拡大が可能。X-エナジー社は同設計により、世界中で高まっているクリーン・エネルギーの需要に応えられると考えている。同設計はまた、燃料として3重被覆・粒子(TRISO)燃料を用いるため、同社は2025年までに商業規模のTRISO燃料製造加工工場「TRISO-X」を米国内で完成させる方針。この目標の達成に向けて、同社は米国のウラン濃縮企業セントラス・エナジー社や日本の原子燃料工業と協力する契約や覚書を締結している。また、ヨルダンがXe-100を2030年までに国内で4基建設することを希望しているため、同社は2019年11月にヨルダン原子力委員会と基本合意書を交わしている。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Aug 2020
6670
フィンランドのフォータム社は8月13日、保有するロビーサ原子力発電所で2回目の運転期間延長を行い2050年頃まで営業運転を継続するか、あるいは現行認可の満了とともに廃止措置を取るかの両方について、周辺環境や住民の健康と安全、および近隣コミュニティの経済に及ぼす影響等の評価(EIA)手続を開始したと発表した。フィンランドは西側諸国の一員である一方、国境を接するロシアとの関係も深く、ロビーサ発電所の2基はそれぞれ出力約53万kWのロシア型PWR(VVER)である。第3世代+(プラス)より前の世代のVVERは公式運転期間が最大30年であるため、1977年2月と1980年11月に運転を開始した1号機(LO1)と2号機(LO2)は、LO1の運転開始後30年目にあたる2007年に国家評議会から20年間の運転期間延長を認められた。両機で現在認可されている運転期間は、それぞれ2027年と2030年の末までとなっている。フォータム社によると、ロビーサ発電所は2019年に設備利用率92.4%をマーク。総発電量もフィンランド全体の10%以上に相当する82億kWhになるなど技術的なトラブルは無く、安全要件も満たしている。同社は過去5年間に合計約4億5,000万ユーロ(約568億円)を同発電所に投資しており、設備の近代化を継続的に行う事により世界でも最高レベルの設備利用率が達成されたと述べた。同社はまた、CO2を排出せず天候にも左右されずに信頼性の高いエネルギーを生み出す原子力は将来的にも必要であると認識。再生可能エネルギーとともに、フィンランドのエネルギー需要を支えつつ地球温暖化の影響緩和に寄与するエネルギー源だと強調している。同発電所の2基は世界で初めて、西側諸国と東側諸国双方の原子力技術を統合して建設されたもので、原子炉やタービン発電機、その他の主要機器など設備の約50%が旧ソ連製。一方、安全系や制御系、自動化システムなどは、西側諸国の安全基準を満たせるよう西側の技術に基づいており、鋼鉄製の格納容器と関連のアイスコンデンサについては、ウェスチングハウス社のライセンスを使って製造されている。フォータム社は今回、同発電所で環境影響評価(EIA)プログラムを実施するための申請書を経済雇用省に提出。2段階構成の同プログラムは完了までに18か月を要する見通しで、調整役を担う経済雇用省は「越境環境影響評価条約(エスポー条約)」に従い同プログラムに関する公開協議を実施する。今月27日から10月26日までの期間、様々な関係当局や企業からオンラインで意見募集するとともに、一般市民やコミュニティのために公聴会を開催。聴取した意見や声明書すべてを取りまとめた上で、経済雇用省としての見解を報告書に明示することになる。(参照資料:フォータム社、経済雇用省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Aug 2020
2775
ベラルーシ初の原子力発電設備となるベラルシアン発電所(VVER-1200、出力120万kWのロシア型PWR×2基)を建設中のロシア国営原子力総合企業ロスアトム社は8月7日、燃料の初装荷作業を1号機で開始したと発表した。前日の6日に連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)が燃料の装荷許可を発給しており、今月末までに合計163体の燃料集合体を装荷する。その後、同炉の出力を最小制御可能出力(MCP)レベル(臨界条件を達成する段階において核分裂連鎖反応を安定した状態に維持するのに十分な出力(1%未満)のこと)まで上げて試験を実施するが、この段階で設計パラメーター通りの信頼性と安全性を確認できれば、同炉の起動プロセスは次の段階に移行、初めて国内送電網に接続されることになる。旧ソ連邦に属していたベラルーシはウクライナと国境を接しており、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故では多大な放射線被害を被った。しかし、エネルギー資源が乏しく1次エネルギーの8割を輸入に依存する事情により、原子力の導入に関する実行可能性調査を1990年代後半に実施していた。ベラルーシ初の原子力発電所建設計画については、福島第一原子力発電所事故が発生した直後の2011年3月15日に同国のA.ルカシェンコ政権がロシアとの二国間協力に合意。総工費の低金利融資などロシア政府の全面的な支援を受けて、2013年11月に1号機がフロドナ州オストロベツで本格着工したほか、翌2014年4月には2号機の建設工事が開始されている。ロスアトム社のA.リハチョフ総裁は、「これでベラルーシも最新の第3世代+(プラス)設計「AES-2006」原子炉の保有国になった」と表明。同設計では、ロシア国内の稼働中原子炉ですでに実証・試験済みの技術が使われていると強調した。同総裁はまた、この設計では福島第一発電所事故後の安全要件すべてが満たされており、国際原子力機関(IAEA)の複数のミッションも同設計の信頼性を認めていると指摘。「この設計の原子炉がロシア以外の国で初めて、それもロシアの「良き隣人」たるベラルーシで完成したことは、ロスアトム社にとって非常に重要なことだ」と述べた。「AES-2006」設計は、ロシア国内ではノボボロネジ原子力発電所とレニングラード原子力発電所双方のⅡ期工事に2基ずつ採用され、このうち3基がすでに営業運転中。国外ではバングラデシュとトルコで建設中であるほか、エジプト、フィンランド、ハンガリーで計画中となっている。(参照資料:ロスアトム社、ASEグループの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Aug 2020
3048
中国核工業集団公司(CNNC)は8月10日、江蘇省の田湾原子力発電所で建設中だった5号機(111.8万kWのPWR)を8日の夜8時頃、初めて送電網に接続し送電したと発表した。中国国産の第3世代設計「ACP1000」を採用して2015年12月に本格着工した同炉は、7月27日に初めて臨界に達していた。(参照資料:CNNC(中国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」
11 Aug 2020
2068
ロシア国営原子力企業ロスアトム社傘下の燃料製造企業TVEL社は8月6日、ロスアトム社がトルコで請け負ったアックユ原子力発電所建設プロジェクトの原子炉4基それぞれについて、同社の設計・技術関係子会社であるCPTI社が燃料装荷機を供給すると発表した。発注したのはTITAN2 IC ICTAS INSAAT社で、同社はアックユ・プロジェクトで原子炉系統施設の建設を受注したTITAN-2社とトルコの建設大手IC ICTASグループの合弁事業体。CPTI社はこの事業体に1号機用の燃料装荷機を2022年に納めるため、すでに技術開発と製造に必要な設計文書作成に着手している。同社はまた、4基の原子炉すべての燃料装荷機納入を2025年末までに終え、2026年初頭にはこれらの据付と調整を完了する計画である。CPTI社はTVEL社の設計部門と技術開発部門を統合して設立されたエンジニアリング企業で、原子力施設の複雑な設計や包括的エンジニアリング、放射線研究、原子力・放射線設備を廃止するプロジェクトのコンセプト開発、および規格外技術機器の設計・製造および供給が主な業務である。同社が受注した燃料装荷機は重さ約55トンという大きなものだが、原子炉容器の上部に設置される予定。燃料集合体や制御棒の装荷、使用済燃料の取り出しに加えて、燃料被覆管の不具合検出が可能である。トルコ初の原子力発電設備となるアックユ発電所は、地中海沿岸のメルシン地区で2018年4月に1号機が本格着工した。第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)を4基建設することになっており、トルコ政府は同国が建国100周年を迎える2023年中に最初の2基を起動させることを希望。ロスアトム社は昨年12月、同発電所とトルコの送電グリッドを接続する契約を国営送電会社(TEIAS)と締結したほか、今年2月には傘下の機器製造企業が1号機の原子炉容器となる上下2つの容器の胴部で溶接作業を完了した。また、2号機については、今年6月にコンクリート製のベースマットが完成している。(参照資料:TVEL社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
07 Aug 2020
2140
英国のナショナル・グリッド社は7月29日、南西部サマセット州でEDFエナジー社が建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所から、北東方向に57 km離れたエイボン州エイボンマス近郊の変電所までをつなぐ新たな高圧送電ルートの設置計画で、一年後の2021年7月末までに最初の高圧鉄塔(=完成予想図)を建設できる見通しになったと発表した。ナショナル・グリッド社は英国内の送電事業を事実上独占している公益企業で、この計画は「ヒンクリー・コネクション・プロジェクト」と呼称している。HPC発電所からエイボンマス近郊のシーバンクまで、「Tパイロン」型の高圧(400kV)鉄塔を合計116基設置し、600万もの事業所や世帯にHPC発電所の無炭素エネルギーを供給するというもの。既存の送電網部分で改修を行うほか、57kmのうち48.5 km分を架空送電線でつなぐ。一方、メンディップヒル丘陵を含む8.5 km分は特別自然美観地域に指定されているため、パイロンを建てずに地下ケーブルを通すことになる。重要なインフラ・プロジェクトである同ルートの建設工事は2018年に始まったが、ルート全体は14段階に分けて接続が進められることから、完成するのはHPC発電所1号機の営業運転開始が予定されている2025年になる見通し。使用する「Tパイロン」は約100年ぶりに設計を変えた高圧鉄塔で、一本の支柱にT字型の腕が取り付けられており、両方の先端に菱形のワイヤーが吊るされている。高さは約35mと従来の格子型400kVパイロンと比べて三分の一程度低く、必要とする設置面積も少なくて済む。160万kWの欧州加圧水型炉(EPR)2基で構成されるHPC原子力発電所の建設工事は、仏国資本のEDFエナジー社が進めているもので、英国で約20年ぶりの新設原子力発電所計画となる。2018年12月に1号機の原子炉系統部分で最初のコンクリート打設を開始。今年6月に同社は、2号機用のコンクリート製ベース・マットが完成したことを明らかにしている。(参照資料:ナショナル・グリッド社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Aug 2020
2287
韓国原子力研究院(KAERI)は8月3日、米国のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が進めている小型モジュール式高温ガス炉(HTGR)「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」の開発に協力するため、現代エンジニアリング社を加えた3者で7月3日に相互協力協定を締結したことを明らかにした。CO2を排出せずに電力とプロセス熱、および水素の効率的な生産が可能なMMRの開発で技術協力を促進し、国内外のMMR事業を効率的に推進できるよう協力の基盤を造成する考え。超小型炉に分類されるMMRの開発と建設のみならず、熱電併給が可能なHTGRと環境に優しい水素生産を目的とした超高温ガス炉(VHTR)の各技術の開発・利用について、今年7月から5年間にわたり共同作業を進めていく。米国内の報道ではまた、MMRを韓国に建設する可能性についても3者が連携して追求する方針だと伝えられている。今回の発表の中でKAERIは、2004年から韓国政府の原子力研究開発事業の一環としてHTGRベースの原子力水素生産技術を開発中であると説明。今回の相互協力協定を切っ掛けに、産業界との協力を通じて現在進めている研究開発事業を成功に導きたいと述べた。KAERIはまた、USNCが完了したMMRの概念設計活動に参加していたことから、現在進められている基本設計活動においても技術協力を継続中。KAERIの朴院長は、「2社との協力により、原子力技術開発だけでなくビジネス・モデルを共同開発し、海外市場に進出する足場を固めたい」との抱負を述べた。現代エンジニアリング社に関しては、今年3月に現代グループ内の複数企業が共同で大型建設機器用の水素燃料開発を開始した。同社自身も原子炉で水素と熱を生産する技術を開発中であり、MMRの実証炉建設に向けた基本設計活動にはKAERIとともに参加中となっている。USNCのMMRは熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kWで、シリコン・カーバイドで層状に被覆されたウラン粒子を燃料に用いる第4世代の小型モジュール式HTGR。20年の運転期間中に燃料を交換する必要がなく、いかなる事故シナリオにおいても、物理的な対応なしですべての熱が受動的に環境中に放出されるという。カナダのエネルギー関係プロジェクト開発企業であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、パートナー企業であるUSNC社のMMRをオンタリオ州のカナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトで建設するため、SMRとしては初の「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会に申請。現時点では環境影響評価が行われている。また、CNLは2017年4月に公表した今後10年間の「長期戦略」の中で、2026年までにチョークリバー・サイトでSMRを建設するという意欲的な目標を設定。2019年7月にはSMRの研究開発と建設を支援するコスト分担方式の研究開発イニシアチブ(CNRI)を設置しており、最初の支援対象として選定したUSNC社のMMRについては、今年2月に同社の子会社と協力協定を締結している。(参照資料:KAERIの発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、ほか)
05 Aug 2020
4037
米エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)はこのほど、月面での探査活動に使用する原子力発電(FSP)システムを設計するため、革新的技術開発に関する情報提供依頼書(RFI)を原子力産業界や宇宙産業界の上層部宛てに発出したと発表した。このRFI発出はアメリカ航空宇宙局(NASA)の後援によるもので、DOEとINLがこれに協力。実際の発出はINLの管理・運営を担当するバッテル・エナジー・アライアンス(BEA)社が行った。月面の厳しい環境下で長期的に探査活動を行うには信頼性と耐久性の高いエネルギー源が必要なことから、NASAらは月面に設置するFSPの設計の有効性を試験・実証するため、革新的技術に基づいたアプローチを取る方針。火星探査など後続のミッションに流用する考えで、INLは9月8日までの期間、このような技術に関する情報を募集するとともに提案企業と連携関係を構築する。小型モジュール炉(SMR)などの先進的原子炉は、連邦政府が関心を持っている宇宙探査ミッションに不可欠な電力供給能力を持っており、NASAは月面設備に対する信頼性と耐久性に優れたエネルギー供給源となるFSPシステムの必要性を認識。「原子力核分裂発電プロジェクト 」を管理するNASAのグレン研究センターでは、技術実証ミッションの一つとして月面用FSPの開発も担っている。RFIを通じて情報収集した後、INLは今回の計画の第一段階として「提案募集(RFP)」を発出する予定だが、ここではFSPシステムの工学実証ユニット(FSP-EDU)を予備的に設計する。また、これに続く第二段階では、FSPの最終設計を固めた上でFSP-EDUのプロトタイプを製造・建設し、試験も実施。このほか、FSPを月まで輸送する飛行システム(FSP-FS)についても、この段階で月への打ち上げサイトに納める。INLのJ.ワグナー担当副所長は、「有望な先進的原子炉の建設をINLの敷地内で推進するなど、原子力技術革新で米国が世界のリーダーシップを握る上でINLは中心的役割を担っている」と説明。「月面で先進的原子炉を建設できる可能性に胸が高鳴る思いであり、最も先見の明がある民間部門の企業らと連携すればこれを実現する一助になるだろう」と述べた。 なお、類似の月面での発電源開発は、2018年6月の中露原子力技術包括協力でも取り上げられており、原子力技術が宇宙での利用に関心がもたれていることが、今回さらに明確になった。(参照資料:INLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Aug 2020
2761
アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電の導入計画を担当する首長国原子力会社(ENEC)は8月1日、同国初の商業炉であるとともにアラブ諸国においても初となるバラカ原子力発電所1号機(140万kWのPWR)が7月31日の早朝に初めて臨界に達し、安全に起動したと発表した。UAEを構成する7つの首長国のうち西側に大きく広がるアブダビ首長国のバラカで、ENEC傘下の運転管理会社で韓国電力が一部出資するNAWAHエナジー社が、規制上の要件と原子炉の安全に関わる最も厳しい国際基準を満たしつつ同炉の起動プロセスを実行したもの。NAWAH社は今後、同炉で数週間にわたり様々な試験を実施した後、UAEの国内送電網に接続、その後2021年の営業運転開始を目指して出力上昇試験などの試運転を実施する計画である。 バラカ発電所では韓国製の140万kW級PWR「APR1400」を4基建設することになっており、2012年7月に1号機が本格着工した後、約1年間隔で同型の2~4号機を順次着工してきた。1号機については2018年3月に竣工式が執り行われたが、運転員の訓練と連邦原子力規制庁(FANR)からの承認取得に時間を要することから、NAWAH社は燃料の装荷など後続の準備作業を延期した。その間、起動に向けた準備を進めながら国際原子力機関(IAEA)など複数の規制関係機関に1号機の安全評価を依頼しており、今年1月には世界原子力発電事業者協会(WANO)は同炉で起動前審査を実施。起動準備が整ったことを確認したのを受けてFANRは今年2月、同炉に対し60年間有効な運転許可を発給した。これに続いてNAWAH社も、翌3月に燃料の初装荷作業を完了していた。ENECのM.アル・ハマディCEOは、「今日という日はUAEの原子力平和利用プログラムにとって正に歴史的瞬間であり、過去数十年以上の間に我が国が策定したビジョンや戦略計画、盤石なプログラム管理の賜物である」と強調。「最近では(新型コロナウイルスによる感染という)世界的規模の課題が発生するなかで、開発チームは1号機の安全な起動を実証するため優れた忍耐力を発揮した。今後は同発電所で国内電力需要量の4分の1を賄うという目標の達成に向けて更なる一歩を刻み、安全で信頼性が高くCO2も排出しない電力を提供していきたい」と述べた。UAEの原子力開発利用計画は2009年にスタートしており、実際に商業炉を起動した国/地域としては世界で33番目(2009年末までに国内の商業炉を全廃したリトアニア含む)となった。ENECによれば、バラカ原子力発電所はUAEのエネルギー部門の電化に向けて大きく貢献。4基すべてが完成すれば年間2,100万トン以上のCO2排出を抑えつつ560万kWの電力を供給することになる。同発電所では今年2月に2号機が完成したほか、3、4号機についても建設工事が最終段階に入るなど、発電所全体の建設進捗率は94%に達している。(参照資料:ENECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
03 Aug 2020
4906
中国核工業集団公司(CNNC)傘下の中国核能電力有限公司(CNNP)は7月27日、江蘇省の田湾原子力発電所で中国48基目の商業炉となる5号機(111.8万kWのPWR)が同日の午前8時20分、初めて臨界に達したと発表した。CNNCはまた28日、中国の独自ブランドとして開発した第3世代設計「華龍一号」の実証炉となる福建省の福清原子力発電所6号機(115万kWのPWR)で、25日に格納容器へのドーム屋根設置が完了したことを明らかにした。田湾原子力発電所では、営業運転中の1号機から4号機(各100万kW級)まで、および将来的に建設予定の7、8号機(各120万kW級)にロシア型PWR(VVER)設計を採用。現在建設中の5、6号機(各111.8万kW)のみが中国製の「ACP1000」設計を採用しているが、これらはCNNCが仏国のPWR技術に基づいて開発した第3世代のPWR設計である。2015年12月に本格着工した田湾5号機では、今月初頭に運転認可が交付された後、9日に燃料の初装荷作業が完了した。同月23日から24日にかけて中国北部の原子力発電所を管轄する放射線安全監督局が同炉の設備を点検した上で、26日に臨界達成に向けた作業の開始を承認。これを受けて同炉の制御棒が引き抜かれたもので、同炉は年内にも国内送電網に接続された後2021年中に営業運転入りすると見られている。福清6号機©CNNC一方、福清発電所では「華龍一号」の実証炉プロジェクトとして、CNNCが5、6号機の建設工事をそれぞれ2015年5月と12月に開始した。「華龍一号」はCNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代PWR設計を統合して開発されたことから、CGNも同様にCGN版「華龍一号」の実証炉プロジェクトとして、江西省の坊城港原子力発電所3、4号機(各118万kW)をそれぞれ2015年12月と2016年12月に本格着工。これらのほかパキスタンのカラチ原子力発電所でも、「華龍一号」設計を採用した2、3号機(各110万kW)の建設プロジェクトがそれぞれ2015年8月と2016年5月から進行中である。今回の発表によると「華龍一号」の格納容器は二重構造になっているため、飛来物の衝突その他の事故に際して十分な防護能力を持つ。また、同容器の鋼鉄製ドーム屋根は重さ約420トン、直径約53m、高さ約13mで、内部の構造物を守ることができるとしている。なお、福清6号機より7か月先に着工した同5号機は、今年3月に温態機能試験が概ね完了。5、6号機はともに、今年中に送電開始可能になると予想されている。(参照資料:CNNPの発表資料(中国語)、CNNCの発表資料(英語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Jul 2020
2886
米国議会上院のエネルギー天然資源委員会は7月23日、「原子力エネルギーリーダーシップ法案(NELA)(S.903号)」を盛り込んだ修正版の国防省2021会計年度(2020年10月~2021年9月)予算法案(国防権限法:NDAA)(S.4049)が、同日の上院本会議において86対14で可決されたと発表した。NELAはエネルギー天然資源委員会のL.マコウスキー委員長(=写真)が昨年3月に提出していたもので、原子力エネルギー開発における米国のリーダーシップの再構築が目的。具体的にはエネルギー省(DOE)が推進している先進的原子炉概念の実証、これらの多くで使われるHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の供給、および原子力関係の人材育成などに焦点を当てている。NELAが支持する先進的原子炉であれば同委員長が選出されたアラスカ州の遠隔地域や、軍事基地その他の大都市においても安全でクリーンかつ信頼性の高い安価なエネルギーを供給できる大きな可能性があると主張している。共和党員であるマコウスキー委員長と民主党所属のC.ブッカー上院議員は今年6月、NELAに賛同する20名の超党派議員グループ(同委員長とブッカー議員含む)の連名で上院軍事委員会のJ.インホフェ委員長(共和党)とJ.リード幹部(民主党)宛に書簡を送り、NDAAにNELAが盛り込まれるよう支援を要請。この書簡の中で同委員長は、国家安全保障における原子力の貢献を強調した。また、上院本会議におけるNDAA審議の場で、同委員長とブッカー議員はその他の上院議員15名とともに、NELAの文言を盛り込んだNDAAの修正案を提出していた。なお、議会下院では7月21日に下院版のNDAA(H.R.6395)が295対125で可決されたが、これにはNELAが盛り込まれておらず、最終版の可決成立までには双方の内容を擦り合わせる必要がある。マコウスキー委員長は上院採決の後、「革新的な原子力技術の開発は米国の経済や環境、世界的リーダーシップの確保という点で多大な代償をともなうため、米国は非常に長い期間こうした技術の開発で大幅な遅れを取ってきた」と説明。国防省は論理的に見て、先進的原子炉の中でも遠隔地での建設が容易な超小型原子炉の最初の顧客になる可能性が高いとしている。(参照資料:上院・エネルギー天然資源委員会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jul 2020
3643
英国の原子力廃止措置機構(NDA)は7月27日、閉鎖された原子力発電所や原子力サイトの廃止措置活動から出る放射性廃棄物の分類と分離で、革新的技術の研究開発コンペを合計390万ポンド(約5億2,932万円)の予算で開始すると発表した。このコンペはNDAの資金提供により、中小企業の技術革新促進に向けた省庁横断的な政策枠組み「中小企業研究イニシアティブ(SBRI)」の枠内で行われる。ロボットやセンサー、人工知能(AI)といった自動制御型の総合ツールキットを開発するのが目的で、これらの技術を通じて処分する廃棄物の分類と分離を適切に行うことで廃棄物のレベルを下げ、廃止措置活動の生産性と安全性を改善、コストの削減を図る考えである。コンペの実施に際しNDAは、英国最大の原子力複合施設セラフィールド・サイトの管理運営と廃止措置業務に当たっているセラフィールド社、および閉鎖済みの旧型ガス冷却(マグノックス)炉すべてを管理しているマグノックス社とともに、英国政府のイノベーション産業助成機関「イノベートUK」と連携。放射性廃棄物の分類・分離で、全く新しい革新的なアプローチを提案するよう英国全土の企業に呼びかけている。提案の受付は8月17日に開始し、11月11日に締め切る予定。60万ポンド(約8,143万円)の予算を割り当てた第1段階としてNDAは来年2月までに最大で10プロジェクトを選定し、3月以降3か月分の研究開発契約費として、それぞれに対し実行可能性調査の実施費用など最大6万ポンド(約814万円)を提供する。同段階が終了する頃、NDAは申請者が取りまとめた技術面の実行可能性報告書を精査し、第2段階への申請が可能な有望プロジェクトを最大4件選定。各申請者と15か月間で90万ポンド(約1億2,215万円)という研究開発契約を結び、非放射性の環境下でフル・スケールのプロトタイプ機器の実証を行うことになる。NDAの担当者は今回のコンペに関連して、「原子力サイトの廃止措置というNDAミッションが進展するなかで、放射性廃棄物の取り扱いは非常に大きな課題になっている」と説明。原子力経験の有無とは関係なく、国内すべての部門から革新的な技術が提案されることを期待すると述べた。イノベートUKの担当者も「SBRIの別事業でNDAと再び協力する機会が得られ、原子力廃止措置のサプライチェーンに技術革新をもたらす手助けができることを歓迎する」と表明。このコンペは英国企業が事業を拡大する好機となるだけでなく、国内の放射性廃棄物をより安全・迅速かつ安価な方法で取り扱うことが可能になると指摘した。(参照資料:NDAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jul 2020
2328
米国政府の独立機関として民間の開発プロジェクトに資金提供を行っている国際開発金融公社(DFC)は7月23日、小型モジュール炉(SMR)や超小型原子炉の建設など、国外の原子力開発プロジェクトに対する財政支援を可能とするため、DFCの「環境・社会政策と関係手続き(ESPP)」の中で資金提供の禁止措置を解除したと発表した。DFCはこれまで、これらのプロジェクトへの資金提供を禁じてきたが、今回の政策等の変更により、DFCは十分な電力が得られない発展途上国のコミュニティに適正価格のエネルギーをもたらすとともに経済成長が促されるよう、原子力というCO2を排出しない安全確実な電源を提供するための支援を約束。米国が核不拡散体制の強化に向けた保障措置を促進し国内原子力企業の競争力を増強する一方、独裁的な体制下の国々の資金調達に新たな選択肢を提供することができると述べた。DFCはまた、エネルギー省(DOE)の下に創設された原子燃料作業部会(NFWG)が今年4月、「米国が原子力で再び競争上の優位性を取り戻すための戦略」を公表した事実に言及。今回政策を変更したことで、この戦略の主要な勧告事項――核不拡散政策との整合性や国家安全保障を維持しながら、関連する輸出も拡大するという方針が実行に移されるとしている。DFCの今回の決定は、政策変更の提案について30日にわたって一般国民から意見を募集した後に下された。これには米国議会や政府機関、非政府組織、民間部門など外部の幅広いステークホルダーが参加しており、DFCが受け取った800件以上の見解のうち98%がこの政策変更を支持。中でも、米国議会の議員らは超党派でDFCに新しい政策への転換を勧告。これには上院のC.クーンズ議員やL.マコウスキー議員のほか、下院のA.キンジンガー議員などが含まれている。このような支持を背景に、DFCは世界でも最も厳しい安全基準を順守しつつ、新興国市場に対する先進的原子力技術の輸出を最優先に支援していく考えである。DFCの前身は、米国企業の新興国への投資を支援していた半官半民の海外民間投資公社(OPIC)である。2019年10月に、米国国際開発庁(USAID)の一部と統合・改組した上でDFCが発足した。DFCのA.ベーラーCEOは「世界中の同盟国のエネルギー需要に応えるという米国の支援努力において重要な一歩が刻まれた」と明言。限られたエネルギー資源の中で、DFCは途上国の経済成長を加速する適正な立場に置かれることになったと強調した。DOEのD.ブルイエット長官は今回、D.トランプ大統領が設置したNFWGの主要勧告の実施に向けてDFCが動き出したことを称賛。過去3年以上の間にDOE高官は、米国の民生用原子力技術を切望する国の政府や民間産業界と会談を重ねてきたが、OPICが必要な財政支援を禁じていたことなどから技術の輸出は実現しなかった。同長官によれば、このような禁止措置の解除は世界中のエネルギー供給保証を強化する健全な行動であり、その他の国々が信頼性の高いベースロード電力を国民のために確保しつつCO2の排出量削減目標を達成するのを支援することにもつながるとした。米原子力エネルギー協会(NEI)のM. コースニック理事長も、DFCの決定は米国の国家安全保障や経済成長を加速させるだけでなく、地球温暖化の防止目標達成にも寄与すると指摘。ロシアや中国のように国営原子力企業を有する国との競争では、米国企業が一層公平な条件で戦えるようになると評価している。(参照資料:DFCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jul 2020
3420
インド原子力発電公社(NPCIL)は7月22日、グジャラート州のカクラパー原子力発電所で3号機が同日の午前9時半頃、初めて臨界に達したと発表した。同炉はNPCILが建設している4基の70万kW級国産加圧重水炉(PHWR)のなかでは最初のもので、今後は様々な試験を実施しつつ出力を徐々に上げていく予定。規制上の認可を取得して10月頃に西部地域の送電網に接続されれば、同炉はインドで23基目の商業炉となり原子力設備容量は748万kWに増加する。N.モディ首相は同炉の初臨界達成について、「メイク・イン・インディア(インドを世界の研究開発・製造ハブとすることを目指した同政権の産業政策)」の模範例であるとともに、将来達成される同様の成果のさきがけになったと称賛している。慢性的な電力不足に悩むインドは、現在678万kWの原子力発電設備に21基(1,570万kW)の原子炉を加え、2031年までに2,248万kWに拡大する計画だと報道されている。2017年5月にインド内閣は国内原子力産業の急速な発展を促すため、マディヤ・プラデシュ州のチャットカ、ラジャスタン州のマヒ・バーンスワーラー、カルナータカ州カイガ、ハリヤナ州ゴラクプールの4サイトで合計10基の70万kW級国産PHWRを新たに建設することを決定。現時点では、カクラパー3号機も含めて合計16基の70万kW級PHWRが建設計画の実施に向けた様々な段階にあり、NPCILによればこれらに対する政府の承認も得られている。このほか、米国や仏国など国外の原子炉ベンダーから軽水炉を導入する計画も徐々に進んでいる。ただし、実際に建設プロジェクトが順調に進展中なのはロシア企業がタミル・ナドゥ州で請け負ったクダンクラム原子力発電所のみで、ここでは1、2号機(PWR、出力各100万kW)がすでに稼働中、3、4号機(PWR、同各100万kW)が建設中、5、6号機(PWR、同各105万kW)が計画中となっている。カクラパー3号機の本格的な建設工事は2010年11月に開始されており、今年3月半ばには燃料の初装荷作業が完了。その後、新型コロナウイルスの感染にともなうロックダウン期間中に、感染防止ガイドラインに沿って多くの試験や手続が行われていた。NPCILによると同炉はインドのエンジニアや科学者が設計した国産PHWRで、原子炉の機器・設備を国内の原子力産業界が製造したほか、建設工事も国内の様々な契約企業が実施した。安全性や品質については世界でも最高レベルの基準を満たしており、内側を鋼鉄で裏打ちした格納容器や受動的な崩壊熱除去システム、水素ガス管理システムなどの先進的な安全機器が導入されている。(参照資料:NPCILの発表資料(ヒンディー語、英語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jul 2020
4333
欧州連合(EU)の政治的な最高意思決定機関である欧州理事会は7月21日、新型コロナウイルスによる感染で打撃を受けた域内経済の復興に向けて会期を延長して協議した結果、合計7,500億ユーロ(約92兆円)規模の復興基金を創設することで合意した。また、2021年から2027年までの「複数年次財政枠組み(MFF)」に関しては、東欧の3か国が2000年代にEUに加盟した際、交換条件として早期閉鎖した原子炉8基の廃止措置プログラムに対する支援金など合計10億4,500万ユーロ(約1,286億円)が割り当てられることになった。対象となった廃止措置プログラムは、事故を起こしたチェルノブイリ発電所と同じ黒鉛チャンネル型炉(RBMK)と、格納容器のない第1世代のロシア型PWR(VVER)。具体的にはリトアニアのイグナリナ原子力発電所1、2号機(RBMK-1500、出力各150万kW)、スロバキアのボフニチェ原子力発電所1、2号機(VVER-440、同各44万kW)、およびブルガリアのコズロドイ原子力発電所1~4号機(VVER-440、同各44万kW)である。これらは2009年までにすべて早期閉鎖された後に廃止措置活動が始まっており、EUは「国家的なエネルギー生産設備の喪失に対する影響緩和プロジェクト」の中から、これら3国に対して財政支援を提供中。しかし、廃止措置に特化したEUの資金調達プログラムでは、タイムリーかつコスト面でも効率的な廃止措置活動を行おうという動機付けが創出されず、3国の作業には遅れが生じている。また、EUの執行機関である欧州委員会(EC)は今年3月、「これらの廃止措置を日程通り完了するには、2021年から2027までの期間に追加の財政支援が必要」とする報告書を欧州理事会と欧州議会に提出していた。今回の財政復興計画の中で、これらの廃止措置プログラムは「複数年次財政枠組み(MFF)」の1項目「域内セキュリティと防衛」に盛り込まれている。10億4,500万ユーロのうち、イグナリナ発電所に対しては2021年から2027年までの期間に4億9,000万ユーロ(約604億円)、ボフニチェ発電所には2025年までに5,000万ユーロ(約62億円)、コズロドイ発電所については2027年までに5,700万ユーロ(約70億円)の支援を約束。また、EU所有の施設における原子力安全と廃止措置に4億4,800万ユーロ(約551億円)が提供されるとしている。欧州理事会はこのほか、MFFの「単一市場、技術革新、およびデジタル化」の項目で、欧州における複数の大規模プロジェクトに対する継続的な財政支援を確認。その中でも国際熱核融合実験炉(ITER)計画を実行に移すため、2027年までの期間に最大50億ユーロ(約6,156億円)提供する方針を明らかにしている。(参照資料:欧州理事会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jul 2020
2408
メキシコ政府のエネルギー省(SENER)は7月17日、国内唯一の原子力発電設備のラグナベルデ原子力発電所で、今月24日に運転認可が満了する1号機(BWR、80.5万kW)の運転期間を30年延長し2050年7月24日までとする承認を公表した。原子力安全・保障措置委員会(CNSNS)が技術的観点からこの延長を保証したのを受けたもので、同発電所を所有する電力公社(CFE)は今後、最高レベルの運転と信頼性、近隣住民その他の安全を最大限に保証するため、国内外の厳しい規制を順守することを約束。これにより1990年7月に営業運転を開始した同炉の運転期間は60年に延長されることになる。メキシコでは米国から安価な天然ガスを輸入できるため、CFEの電源構成における6割近くを天然ガスのコンバインド・サイクル発電が占めている。総発電量に占める原子力発電のシェアは4.5%ほどで、CFEは昨年12月、国内の電源ミックスを多様化するとともに天然ガスや化石燃料への依存度を下げるため、ラグナベルデ原子力発電所の運転期間延長に加えて同サイトで新たに2基、太平洋沿岸の新サイトにも2基、原子炉の建設を検討中と述べたことが伝えられている。CFEはラグナベルデ1号機で長期にわたって安全かつ信頼性の高い運転を維持するため、2015年に運転期間の延長に向けた準備作業とCNSNSへの申請手続きを開始した。その際、長期運転(LTO)に付随する規制要件に沿って、発電所の機器・システムや構造物で点検や試験、モニタリングを実施すると誓約。2016年にはこれらを実行に移すため、機器・システム等の性能管理で47の点検・監督プログラムを始めている。また、申請書の審査が行われた過去5年間に、CFEはCNSNSから386件の追加情報提出要請に応えたほか、13の点検・監査を通じて複数の技術的課題にも取り組んだ。この12か月間は特に、このような作業が激化したとしている。CFEはまた、2019年3月に国際原子力機関(IAEA)の長期運転安全評価(SALTO: Safety Aspects of Long Term Operation)チームを同発電所に招聘。SALTOチームは結論として、同発電所の維持管理が十分行き届いている、発電所の長期運転に向けて管理部門が準備作業の改善に取り組んでいると評価している。なお、同発電所で1995年に営業運転を開始した2号機(BWR、81.0万kW)については、運転認可が2025年4月10日まで有効である。ただしCFEはこれについても、すでに運転認可の延長手続きを始めている。(参照資料:メキシコ・エネルギー省(スペイン語)の発表資料、現地報道(英語)資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jul 2020
4176
トルコ初の原子力発電設備となるアックユ発電所の建設を請け負っているロシアの原子力総合企業ロスアトム社は7月13日、1号機で原子炉容器(RV)の水圧試験が無事に完了したと発表した。同社のエンジニアリング部門アトムエネルゴマシ社の一部であるAEMテクノロジー社のボルゴドンスク支部が実施したもので、2018年4月に地中海沿岸のメルシン地区で着工した同炉は、2023年の運転開始に向けて作業が着実に進展中である。アックユ原子力発電所建設プロジェクトは2010年5月にトルコとロシアが結んだ政府間協力協定に基づいて進められており、第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)を4基建設する。総工費の約200億ドルは当面ロシア側が全額負担しており、発電所完成後にトルコ電力卸売会社(TETAS)がロスアトム社の設置した現地の事業会社(ANPP)から、12.35セント/kWhの固定価格で15年間電力を購入し返済する予定である。AEMテクノロジー社によると、RVなど1号機に使用する機器の製造プロセスは最終段階に到達。今年2月にRVで上下2つの容器胴を最終溶接する作業を終了したほか、6月末には2年間を費やした蒸気発生器(SG)4台の製造・組立・溶接作業も完了した。また、これと同じ頃に2号機用のコンクリート製ベースマットが完成、同炉の本格着工許可は2019年4月に規制当局が発給済みである。このほか、同発電所をトルコの送電グリッドと接続する契約も、同年12月にANPPがトルコ国営送電会社(TEIAS)と締結している。水圧試験では、系統の構成や流量等を可能な限りプラントの運転状態を模擬して行われる。アックユ1号機の試験はAEMテクノロジー社の専門家が特別な技術の下で、RVの通常運転時の圧力より最大1.4倍高圧(24.5 MPa)で実施。重さ334トンのRVの母材や溶接部の強度を確認するなど、同プラントで60年間運転を継続する準備は整ったとしている。(参照資料:AEMテクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jul 2020
2625