米エネルギー省(DOE)は12月16日、今年5月に設置した「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における支援対象として、新たにウェスチングハウス(WH)社など5社の設計を選定したと発表した。これらの企業には、2020会計年度予算から差し当たり合計3,000万ドルを提供。分担金全体の少なくとも20%を産業界側がマッチング・ファンドで賄う一方、DOE側が今後7年間に拠出する総額は、これら5件で6億ドルを超える見通しである。ARDPは、国内原子力産業界による先進的原子炉設計の実証を、政府がコスト分担方式で支援する官民連携プログラム。DOEの原子力局が担当しており、支援ルートは設計の成熟度に応じて以下に示すような3方式がある。すなわち、①「先進的原子炉の実証」ルート:5~7年の間に2つの先進的原子炉が確実に稼働できるよう支援、②「将来的な実証に向けたリスク削減」ルート:商業化の達成目標時期を①より約5年延長し、5件の支援対象設計について技術面や運転面の課題を解決、③「先進的原子炉概念2020(ARC20)」ルート:2030年代半ばの商業化を目標に様々な革新的設計の開発を支援――である。①についてはDOEがすでに今年10月、テラパワー社が開発している「ナトリウム冷却高速炉」と、X-エナジー社の小型ペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」を選定。今後7年間で運転開始を実現するため、2020会計年度から8,000万ドルずつ交付することが決まっている。今回、支援対象に決まったのは②ルートに区分されるもので、DOEは今後10~14年間に許認可手続きと建設工事を実施する可能性がある設計について技術的なリスクを削減し、安全かつ適正コストの原子炉開発を支援する。5件の対象技術や投資額、またDOE負担額等の概要は以下のとおり。ケイロス・パワー社による「ヘルメス規模縮小版試験炉」、7年間の投資額6億2,900万ドル(うちDOE負担分3億300万ドル):ヘルメスは、商業規模の「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」開発につなげるためにケイロス社が設計、建設、操業を計画している設計。燃料として、3重被覆層・燃料粒子「TRISO」をペブルベッド方式で使用する。WH社の極小原子炉「eVinci」、7年間の投資額930万ドル(うちDOE負担分740万ドル):2024年までに実証炉開発することが目標で、原子炉の冷却に使われる伝熱管の製造能力を改善するとともに、経済的に実行可能な燃料交換プロセスなどを開発する。BWXTアドバンスド・テクノロジーズ社の「BWXT先進的原子炉(BANR)」、7年間の投資額1億660万ドル(うちDOE負担分8,530万ドル):輸送が可能な極小原子炉となる予定で、炉心に一層多くのウランを装荷するためTRISO燃料を使用。また、炭化ケイ素製マトリックスを利用できるよう炉心設計を改善する。ホルテック・ガバメント・サービシズ社の「SMR-160」設計、7年間の投資額1億4,750万ドル(うちDOE負担分1億1,600万ドル):軽水炉方式となる同設計の開発を加速するため、初期段階の設計・エンジニアリングや許認可手続き関係の作業を支援する。サザン・カンパニー・サービシズ社の「溶融塩実験炉(MCRE)」、7年間の投資額1億1,300万ドル(うちDOE負担分9,040万ドル):世界初の高速スペクトル型溶融塩原子炉として、設計と建設および運転を目指す。このほか、開発の初期段階にある設計を支援する③ルートについて、DOEは今月末にも支援対象を公表するとしている。(参照資料:米エネ省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
17 Dec 2020
3055
米国の原子力技術・エンジニアリング企業であるケイロス・パワー社は12月11日、開発中の「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」(電気出力14万kW)の試験炉を、テネシー州にあるエネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」内で建設する方針を明らかにした。ケイロス社のFHR (KP-FHR)は、コンバインドサイクル発電とコスト面で競合可能な無炭素電源となるよう、同社が商業化を目指している先進的原子炉。同社は2018年11月から原子力規制委員会(NRC)と許認可申請前の相互交流活動を展開しており、2030年までに実証炉を米国内で建設する計画である。同社が目標としているのは、先進的技術によってクリーンエネルギー社会への移行を促し、環境を保全しつつ人々の生活の質を劇的に向上させること。KP-FHRの強固な安全性と適正な価格を通じて、この目標を達成できるとしている。ケイロス社はKP-FHRの冷却に低圧の液体フッ化物塩を用いており、燃料には3重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用する。固有の安全性を保持したまま、大容量の電力と高温のプロセス熱を生成できると言われており、2002年にDOE傘下のオークリッジ国立研究所(ORNL)がFHRの概念を提案した後、これを元にMITやUCバークレーなどが個別の要素技術の研究を進めていた。また、建設サイトとなるETTPでは、DOEが40年にわたって軍事用と民生用のウラン濃縮複合施設を操業していた。1987年に永久閉鎖した後は、DOEの環境管理局(EM)が同サイトを民間企業保有の多目的産業パークとするため浄化作業を継続中。EMは今年に入り、同サイトで主要部分の浄化作業が完了したことを明らかにした。一方、ケイロス社は同サイトの「K-33ガス拡散法ウラン濃縮プラント」が立地していた跡地を取得するため、管理会社と了解覚書を締結、現在はこの土地の評価作業が行われている。ケイロス社の創業者の1人であるM.ローファーCEOは、「ETTPで様々なインフラ設備を利用できるほか、主要な協力者が近隣のORNLに存在するため、当社の技術を実証するには最適のロケーションだ」と指摘した。オークリッジ市のW.グーチ市長も、「当市は原子力技術革新では由緒ある歴史を持つ土地柄。今後も近代的原子力技術への転換を推し進めるにあたり、ケイロス社は当市が技術革新の中心地であることを実証する重要な部分を担うだろう」と述べた。(参照資料:ケイロス・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Dec 2020
2774
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は12月14日に新しいエネルギー白書を公表し、この中でイングランド地方南東部のサフォーク州でサイズウェルC原子力発電所を建設する計画について、事業者のEDFエナジー社と交渉に入ることを確認した。同社は現在、南西部サマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所(170万kW級の欧州加圧水型炉: EPR×2基)を建設中である。政府は現在の選出議員による議会会期中に、少なくとも1件の原子力発電所新設計画への投資を可能にするオプションを検討しており、サイズウェルC計画が進展した場合、建設と運転の両期間中に国内で数千人規模の雇用が創出されると政府は予想。交渉次第では、EDFエナジー社がプロジェクト実施の最終判断を下す前に、投じた金額に見合う価値のある取引として同社と政府の合意が成立する可能性もある。ただし、こうした結論に到達するまでには、建設計画の徹底した精査が行われるほか、法制面や規制面および国家安全保障面で政府の厳格な要件を満たす必要がある。エネルギー白書は具体的に、規制資産ベース(RAB)モデルも含めて、新規の原子力発電所建設計画に資金調達が可能な複数のオプションを引き続き検討すると明記した。これによって、民間部門の投資を促進し消費者の負担も長期的に軽くする可能性を探るが、資金調達の規模によっては建設期間中に政府が財政支援する可能性も検討する。ただしその折には、建設計画に消費者や納税者の支払いに見合う確固たる価値が見いだせなければならない。政府のこのような方針について、EDFエナジー社は同日コメントを発表した。同社の英国法人のS.ロッシCEOは、「ヒンクリーポイントC発電所やサイズウェルC発電所、および再生可能エネルギーへの投資を通じて、英国全土に雇用を創出しつつ、政府の目指す脱炭素化を支援していく」と表明。「そのためには今こそ行動を起こすべき時であり、原子力発電所新設計画への資金調達問題も含めて、エネルギー問題や地球温暖化防止政策の実施に向け政府に協力していきたい」と述べた。同社で原子力開発を担当するH.カドゥ-ハドソン取締役も、「CO2排出量の実質ゼロ化に向け、大型原子力発電所の果たす極めて重要な役割が改めて認識された」と指摘。「サイズウェルC計画を進めるという政府の判断は、(排出量の実質ゼロ化に向け)B.ジョンソン首相が先ごろ公表した『緑の産業革命に向けた10ポイント計画』における重要施策を英国民のために実施し、数千人規模の雇用や実習制度の創出を約束する。国内の原子力サプライチェーンに属する数千の企業に対しても、大規模な支援を提供する」と強調した。同取締役はまた、建設プロジェクトに適切に資金調達するモデルについても、政府と協議を始めたいと表明。サイズウェルC発電所はヒンクリーポイントC発電所と同型の原子炉を同数備えた発電所となる計画で、これにより建設コストや資金調達コストについては大幅な減少が予想されている。これらの点から同取締役は、「(両者の協議においては)費用対効果が見込めるとともに、消費者の負担も軽くなる資金調達策に必ず辿り着ける」との期待を示した。今回の政府発表についてはさらに、英国原子力産業協会(NIA)のT.グレイトレックス理事長が歓迎の意を表明した。同理事長によると、英国では今後、化石燃料発電のみならず輸送部門ではディーゼルを、暖房部門ではガスを使うことも停止していくため、大型炉や小型炉、先進的原子炉に限らず無炭素な発電技術で現在の4倍の設備容量が必要になる。このため同理事長は、政府がその他の原子力開発事業者についても(「先進的原子力基金」の創設に最大3億8,500万ポンドを投じて)協働していくと約束した点を高く評価。ウィルヴァ・ニューウィッド原子力発電所建設計画やブラッドウェルB発電所計画、ムーアサイド発電所計画で確保されたサイトのすべてが、大規模原子炉の建設に適していると強調した。(参照資料:英国政府、EDFエナジー社、NIAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Dec 2020
2999
ベルギーの大手エンジニアリング企業であるトラクテベル社は12月11日、小型モジュール炉(SMR)に対する同社のビジョンを記した白書「2.0バージョンに進展する原子力技術」を公表した。その中で同社の将来展望として、SMR事業をエネルギー問題の統合的解決策として重点的に推進していく方針を表明している。同社は、ベルギーで稼働する原子炉7基中6基の建設でアーキテクト・エンジニアを務めたほか、世界中の複雑な原子力開発プロジェクトにおいてもエンジニアリング企業として活動。半世紀以上にわたって原子力に関する経験を蓄積してきた。同社によると、SMRは単なる原子力製品ではなく、21世紀の重要なエネルギー問題に懸命な解決策をもたらす「ビジネス・モデル」である。エネルギーの生産・貯蔵から輸送まで、分野横断的な事業を幅広く手がける中心的企業として、トラクテベル社はSMRによるソリューションの提案を推し進める考えである。同社はまず、コストの超過やスケジュールの遅延といった大型原子炉の新設にともなう課題によって、原子力産業界がダメージを負ってきたと指摘。その結果、民間部門からの投資が減少し、自国内で原子力を長期的に開発していこうとする国でのみ建設プロジェクトが維持されてきた。同様の現象は航空業界でも見られており、今や規模の小さい柔軟性のある航空機利用が新たなスタンダードになってきている。原子力産業界でも、シンプルで規格化した小型のモジュール式原子炉を新たな「標準」として定義しつつあるが、革新的な設計を普及させるには許認可の枠組などが必要になってくる。同社はこのため、通常よりも一層拍車をかけてSMRを量産し、そこから経済的恩恵を得るというビジョンがSMR産業界には必要だと説明。それに不可欠な事項として、SMRが第3世代炉の新規建設プロジェクトから教訓を学んでおり、予算内でスケジュール通りに完成させることができると投資家に証明しなければならないとした。また、現実問題として、需要に応じて出力調整する能力と、既存の産業ハブに隣接する地点でプラントの立地が可能という2重の基準を経済的に満たせる無炭素発電技術はほとんどない。これらのことからトラクテベル社は、電力や水素、蒸気など複数のエネルギーを統合したエコ・システムの中心にSMRを置くというビジョンを描いている。同社によれば、米国やカナダ、仏国、英国、フィンランド、エストニア、ポーランド、チェコ、およびその他の東欧諸国は、すでにSMRを活用して将来を築くという方針を明確に表明済み。SMRには無炭素社会への移行を可能にする能力が複数あり、それらは具体的に、①再生可能エネルギーの間欠性を補い、その普及を助ける出力調整能力と100万kWh規模のエネルギー貯蔵能力、②市場の需要に応じた発電所規模や運転時の温度の高さなどにより、地域熱供給や海水脱塩など幅広い分野の適用が可能--などである。トラクテベル社は、現実社会の産業プロジェクトを通じてSMRのこのような価値を実証し、今後活用される複雑なエネルギー・システムの全側面を経験した企業として、建設プロジェクトの機会を世界中で模索していく。その一環として同社はすでに今年1月、エストニアのエネルギー企業が同国内で計画しているSMR建設に協力するため、フィンランドのフォータム社とともに協力覚書を締結している。(参照資料:トラクテベル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Dec 2020
3368
米国で約30年ぶりの原子炉新設計画を進めているジョージア・パワー社は12月9日、A.W.ボーグル原子力発電所で完成間近の3号機(PWR、110万kW)サイトに初装荷燃料が到着したと発表した。同発電所3、4号機は、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代設計AP1000を国内で初めて採用し、それぞれ2013年3月と11月に建設工事が本格的に始まった。3号機では今年10月に冷態機能試験が完了し、建設進捗率は12月現在で約96%に到達。ジョージア・パワー社は現在、3号機の温態機能試験を来年1月に開始する準備を進めており、燃料の初装荷は同試験が完了した後の2021年4月を予定している。しかし、同社の親会社であるサザン社は、新型コロナウイルスによる感染の影響や一部作業の遅れにより、燃料装荷は来年夏ごろになるとの見方を別途表明したと伝えられている。ジョージア・パワー社は今のところ、両炉をそれぞれ2021年11月と2022年11月までに完成させる考えだが、ひとたび運転が始まれば、両炉は60年から80年の間、クリーンで安価な電力を50万戸以上の世帯や企業に安全に供給し続ける。また、サザン社が掲げている「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」という目標の達成にも大いに貢献するとしている。今回到着した燃料は、長さ14フィート(約4m)の燃料集合体が157体で、運転開始後は、燃料交換時に約3分の1ずつ新しいものと交換することになる。ジョージア・パワー社の発表によると、今年は3、4号機の建設サイトで以下の作業を完了している。・3号機の常温状態試験で冷却系の溶接部や接合部、配管等が設計通り機能するか、また高圧システムで漏れが生じないかを確認した。・3号機で緊急事象の発生を想定した対応訓練を実施し、近隣住民の健康と安全を効率的かつ効果的に確保する能力を実証した。*・原子力規制委員会(NRC)が3、4号機の運転員および上級運転員となる62名に免許を交付した。・3号機の格納容器で構造性能確認試験と全体漏えい試験を実施し、同容器が設計要件を満たしていることを確認した。・3号機の格納容器と遮へい建屋の上部に水タンク用のモジュール(CB-20)を設置し、緊急時に原子炉を冷却するための水75万ガロンの注入性能を確保した。・3号機の原子炉容器上部に一体型ヘッドパッケージ(IHP)を設置し、運転員が同容器内の核反応を監視・制御できるようにした。・3号機の原子炉容器の蓋を開けた状態で、主要な安全系から同容器に水を流す試験を実施し、流路がふさがれたり狭まったりしていないか、およびシステムの構成要素が設計どおり機能するか確認した。・ポーラー・クレーンを設置して両炉の格納容器内部への大型機器吊り上げ・設置作業を完了した。このほか同社によると、今年初頭に世界原子力発電事業者協会(WANO)が建設サイトを訪問し、両炉の起動前審査を実施。2基のAP1000原子炉で安全な運転が可能か、準備状況を評価している。(参照資料:ジョージア・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Dec 2020
2939
国際エネルギー機関(IEA)と経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)は12月9日、2020年版の「発電コスト予測(Projected Costs of Generating Electricity)」を発表し、低炭素電源の発電コストが次第に低下しており、従来の化石燃料発電を下回りつつあるとの分析結果を明らかにした。この報告書は、発電所の「耐用期間中の均等化発電コスト(LCOE)」について両機関が5年ごとに共同で取りまとめているもので、今回の報告書で9版目となる。化石燃料や原子力のほかに、風力や太陽光、水力、バイオ燃料といった様々な再生可能エネルギーなど、24か国から提供された243の発電所データを個別プラントベースで分析している。最新版の判明事項として両機関は、国毎、地域毎に条件は異なるものの、低炭素電源が全般的にコスト面の競争力を増してきており、再生可能エネルギーについては近年、発電コストが引き続き低下中だと指摘。風力と太陽光のコストは今や、多くの国で化石燃料発電と競合できるレベルに到達したほか、原子力発電のコストもまた、近い将来さらに低下していくことが予想されるとした。その理由として、複数のOECD加盟国で開発初号機の建設プロジェクトから改善を重ね、コストの削減が進展。新規の原子力発電所は出力制御が可能な低炭素電源の中でも、発電コストが2025年には最も低いレベルになるとした。また、既存の原子力発電所で「運転期間を40年以上に延長して継続すること(long-term operation: LTO)」は、低炭素電源の中では費用対効果が最も高い電源となる。コスト比較という点では水力も同様の貢献が可能だが、それぞれの国の自然環境に大きく左右されるとの見方を示している。結論として両機関は、国や地域毎に重要条件は必然的に異なるものの、低炭素電源の競争力が増してきたという事実が今回の報告書の洞察と指摘。低炭素電源には、風力や太陽光など出力が変動しやすい再生可能エネルギーのほかに、LTOを含む原子力や水力など柔軟性の高い電源が含まれるが、CO2価格が1トン当たり30米ドルと安価であっても高効率化していない石炭火力に競争力はない。一方、ガス火力はガスの価格が非常に低いので、北米などいくつかの特異な市場においては特に、競争力を維持することが可能。CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)が競争力を得るには、現在の市場の多くでCO2価格がこれまで以上に高くなければならないと述べた。原子力発電の見通し今回の報告書によると、一般的な原子力発電所における設計上の運転期間は40年であるが、これは圧力容器など取り換えの難しい主要機器で十分余裕を持った設計上の耐用年数に基づいている。しかし現在、設計機能を安全に果たす上では、その多くの機器の耐用年数が40年以上となっている。米国ではすでに、約100基の原子炉のうち90%について、運転開始当初の運転期間である40年が60年に延長された。また、いくつかのプラントでは80年まで延長されており、技術面でLTOに大きな障害がないことが確認されている。IEAの既刊の報告書では、世界の気温上昇を50%の確率で2℃未満に留める「持続可能な開発シナリオ(SDS)」の場合、2015年のパリ協定における目標を達成するには、原子力発電設備の新規建設と既存炉で運転期間を40年以上に延長することが不可欠だと明記している。今回の報告書では、こういった既存炉の運転期間延長をしないのであれば2021年以降に最大で2,000万kWの追加設備が原子力で必要になると指摘。これに加えて、脱炭素化も進めるとなると課題の解決はますます難しくなり一層の経費がかさむが、いくつかの国では原子力や水力のように出力制御が可能な一方、莫大な資本を必要とする低炭素電源の価値が電力市場で適正に評価されていない。政治的判断によって早期閉鎖されるプラントもあることを考えると、既存炉のLTOこそ、低炭素な電源に対する投資のなかでも高い競争力を持ち続けるとしている。(参照資料:IEAとOECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Dec 2020
4376
英国のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は12月2日、商業的に利用が可能な世界でも初のプロトタイプ核融合発電所を国内で建設するため、受け入れ地域やコミュニティを募集すると発表した。2024年までに概念設計を完成させた後、2040年までに同発電所の送電網への接続を目指して詳細設計と建設を進める。その間、高度なスキルを要する雇用も英国全土で創出し、諸外国への輸出も視野に入れた全く新しい産業を作り上げる方針である。この計画は、BEISが昨年10月に公表した「球状トカマク核融合設計プログラム(STEP)」の枠組で行われる。同プログラムでは、地球温暖化防止に向けた世界的取組の一環として、英国政府が革新的技術の開発に大規模投資を行うことになっており、2億2,200万ポンド(約309億円)をかけて核融合エネルギーの実現を目指す。STEPにおける具体的な核融合研究は、英国原子力公社(UKAEA)が英国政府に代わって実施することになる。STEPへの投資は今年11月、英国内の温室効果ガス排出量を実質ゼロとするため、B.ジョンソン首相が公表した10項目の重要施策「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」にも明記された。英国政府はSTEPの設計活動開始に必要な2億2,200万ポンドに加えて、1億8,400万ポンド(約256億円)を2025年までの期間に投資。オックスフォードシャーにあるUKAEAのカラム科学センターに、新たな核融合関係施設とインフラ、および実習制度を設置する計画で、核融合と革新的技術開発の中心的存在である同センターに一層の支援を提供する考えだ。BEISは核融合について、太陽と同じくクリーンで低炭素な電力を無尽蔵に供給できるエネルギー源と認識しており、英国はその商業化を成し遂げる最初の国になろうとしている。BEISのA.シャルマ大臣は、「何世代にもわたって利用可能という驚くべきエネルギー源に資本投下することで、英国を核融合開発の先駆者にしたい」と抱負を述べた。今回の核融合発電所の受け入れ募集で、関心を持つ自治体は2021年3月末までに候補地となるための申請書を提出するが、その際、受け入れに適した土地条件や送電網との接続、水の供給など、社会面や商業面および技術的側面からも条件を満たしていると実証しなければならない。BEISによればサイトに決定した場合、その自治体では発電所の建設中から運転中に至るまで、地元のサプライチェーンで数千人規模の雇用創出が約束される。また、英国政府が進める「緑の産業革命」の中心地となって、関係企業を引き寄せるほか、核融合と関連産業の世界的拠点にもなるとしている。UKAEAのI.チャップマンCEOはSTEPについて、「研究開発を製品として完成させ、核融合が単なる『見果てぬ夢』ではなく、その商業開発を英国が主導しパイオニアになることを実証するためのものだ」と説明。「この意欲的な目標を達成するため、UKAEAは今後数年にわたって英国の科学エンジニアリング産業界と協力し、プログラムの技術的発展に向けた投資と支援を提供する。このような内外のパートナーとの連携を通じて、英国は革新的な核融合技術を市場に出すことが出来るだろう」と述べた。(参照資料:BEISとUKAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Dec 2020
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英国のロールス・ロイス社は12月7日、同社の民生用原子力発電所用の計装制御(I&C)系事業を仏国のフラマトム社に売却する合意文書に調印したと発表した。この合意に含まれるのは、仏国のグルノーブルとチェコのプラハ、および中国の北京と深セン(センは土へんに川)におけるI&C系事業の全活動と担当チームで、対象となる従業員の総数は550名。同事業による2019年の収益は9,400万ユーロ(約118億4,500万円)にのぼっている。英国内の民生用原子力事業や小型モジュール炉(SMR)の開発事業は、今回の売買の対象外。英国内の雇用に影響が及ぶことは全くなく、同社は今後も引き続き英国で低炭素な電力の供給に尽力すると強調している。発表によると、この合意は今年8月に同社が公表した事業のさらなる簡素化戦略の一環であり、その他事業の売却益も含め、少なくとも20億ポンド(約2,778億円)以上を捻出する方針。新型コロナウイルス感染の世界的広がりにより、同社の民間航空部門はかつてない規模の打撃を被っており、同部門の再建と財政立て直しが同社にとって最大の急務となっている。今回の合意はまた、通例通り規制上の承認等を得る必要があるため、売却手続きが完了するのは2021年の半ば頃を予定。それまでは両社の事業はともに独立性を保ち、通常の経営が行われる。一方のフラマトム社は、この合意を通じてエンジニアリング関係の専門的知見を深め、I&Cシステムの製造能力を拡充する戦略である。同社の発表によると、原子力発電所の中枢神経であるI&C系は原子炉制御をつかさどっており、同社はロールス・ロイス社の製品や技術を取り入れて、原子力発電所の重要な安全機能をすべて統合。ロールス・ロイス社の技術はすでに世界中で稼働する150の原子力発電所に採用されているが、フラマトム社としては顧客の中でも特に、仏国の原子力発電所に優れた製品を提供していく考えである。なお、中国関係観測者によると、中国はこれまでに導入、あるいは独自開発した原子力発電所に諸外国メーカーのI&C系技術を採用。中国国内の関連企業を通じて、I&C系技術を吸収し国産化を進めてきた。フラマトム社は中国の原子力開発利用黎明期から協力関係にあったことから、中国は同社からもI&C系のノウハウを吸収し、世界のI&C系技術開発で先頭に立つ戦略とみられる。(参照資料:ロールス・ロイス社、フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Dec 2020
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米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は11月30日、米原子力規制委員会(NRC)が同社製小型モジュール炉(SMR)の「BWRX-300」について実施している先行安全審査で、最初の許認可トピカル・レポート(LTR)に対する最終安全評価報告書(FSER)が発行されたと発表した。米国で開発中のSMRについては、今のところニュースケール・パワー社製のSMRについてのみ、設計の本格的な許認可プロセス「設計認証(DC)審査」が行われている。GEH社は未だ、同審査をBWRX-300で申請していないが、LTRは多くの許認可申請に共通する安全審査事項をまとめた技術文書であり、顧客となる電気事業者が後日、当該設計を選定して予備的安全解析書(PSAR)を作成・提出する際の基礎的文書になる。BWRX-300の先行安全審査でGEH社は、設計の飛躍的な簡素化を実現した原理について2019年12月に最初のLTRをNRCに提出した。今年初頭に後続のLTRを2件提出した後は、4件目のLTRを今年9月に提出。2件目と3件目については、今後数か月以内に審査が完了すると同社は予想している。BWRX-300では、すでに2014年にDCを取得した同社製「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」から多くの技術を流用しているため、GEH社は今回のLTRによってBWRX-300の商業化に向けて審査がさらに進展すると強調。2020年代後半にも最初のBWRX-300の運転を開始するため、今後も集中的に作業を進めていく考えである。GEH社によるとBWRX-300は出力30万kWの軽水冷却式SMRで、ESBWRにも採用した受動的安全系を装備。自然循環技術等により冷却水を制御する仕組みで、設計を簡素化したことでMWあたりの資本コストはその他の軽水冷却式SMRや大型原子炉と比較して大幅に低下した。また、すでに認可が得られた燃料設計や技術的に実証済みの機器、サプライチェーンなどを活用しているため、BWRX-300はGE社が1955年に原子炉を商品化して以降、最もシンプルで革新的な技術を用いたコスト面の競争力も備えた設計になる。同設計については、これまでにバルト三国のエストニアやポーランドのエネルギー企業、チェコの国営電力会社などが、それぞれの国内で建設の可能性を探ると表明。いずれもCO2排出量の実質ゼロ化やエネルギーの自給等で新世代のSMR技術に期待を抱いており、BWRX-300のほか複数のSMR設計について同様の活動を行っている。 (参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
07 Dec 2020
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スウェーデンの電力大手バッテンフォール社は11月30日、エストニアの新興エネルギー企業「フェルミ・エネルギア社」が国内で進めている小型モジュール炉(SMR)導入計画への協力強化に向け、同社と基本合意書を交わしたと発表した。バッテンフォール社は過去数年間にわたり、SMR建設に向けたフェルミ社の実行可能性調査に参加してきた。近年世界では、ますますSMRへの期待が高まりつつあることから、バッテンフォール社は欧州でSMR建設イニシアチブを成功させたいとするフェルミ社への協力を今後さらに強化。具体的には、原子力発電所の建設や資金調達、発電所スタッフとSMR運転員の教育訓練を含む人的資源開発、サプライチェーン開発などで同社の経験を提供。個別の作業分野で一層調査を掘り下げていき、フェルミ社がSMR建設計画を申請しエストニア議会がこれを「原則決定」するまで支援を続ける考えである。バッテンフォール社はこの協力を通じて、SMR技術の成熟度や1基以上のSMRをエストニア国内で建設する可能性などを検証。同社以外にも、このイニシアチブには複数の欧州企業が参加しているため、「参加企業すべてが実用的なSMR技術についての洞察を深め、それぞれにとって貴重な経験となるようにしたい」と述べた。バッテンフォール社によると、発電をオイル・シェールなどの化石燃料に依存するエストニアは、EU加盟国のなかでもkWh当たりのCO2排出量が最も多い。これに対してスウェーデンは、水力と原子力、および風力と太陽光を組み合わせた電力供給により、化石燃料による発電はほとんどゼロ。世界の中で排出量が最も低い国の一つであり、こうした事実がエストニアに協力する最大の背景になっていると説明した。一方のフェルミ社は、第4世代炉の導入を目的に、エストニア原子力産業界でSMR開発/建設を支持する専門家らが立ち上げた企業。2030年代初頭にも、欧州連合(EU)域内で初のSMR建設を国内で目指している。EUとしては、2025年末までに同国を含むバルト三国およびポーランドを旧ソ連の統合電力システムから切り離し、欧州24か国が共同管理する「大陸欧州送電網」に統合する方針。しかし、これらの地域がロシアからの電力輸入を停止する期限が迫っているため、フェルミ社はSMRの形で原子力発電を国内に導入し、EUが掲げる「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化」の目標達成に貢献したいとしている。フェルミ社のK.カレメッツCEOは、「SMRの高度な安全性とシンプルな設計、資本コストの低さは、エストニアにおける原子力導入を現実的なオプションにした」と指摘。このことは同国政府も認識しており、原子力の導入影響を評価するため、すでに国家作業グループの設置を決めた。同グループは年内にも初会合を開催して、来る2年間に行う作業の計画を作成。諸外国の専門家の支援も得ながら、エストニアの確実なエネルギー供給保証にとり原子力発電の導入が適切であるか分析する。同社はまた、これまでに実施した調査結果に基づき、エストニア国内の2つの自治体とSMRの受け入れ条件に関する協議を正式に開始した。首尾よく進展すれば、自治体は政府の正式な選定プロセスの下で「国家指定国土形成計画(NDSP)」に組み込まれ、適切なサイトの選定に向けて戦略的環境影響声明書(EIS)などが作成される。エストニアのSMR導入計画には、すでにフィンランドの国営電気事業者フォータム社やベルギーの大手エンジニアリング・コンサルティング企業トラクテベル・エンジー社が協力中。このほかフェルミ社は、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や英国のモルテックス・エナジー社などとも協力覚書を締結しており、それぞれが開発したSMRの建設可能性を探るとしている。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Dec 2020
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インド原子力規制委員会(AERB)は11月27日、インド北部ハリヤナ州のゴラクプールで、1、2号機(各70万kWの国産加圧重水炉)を建設するためのコンクリート打設実施を認めたと発表した。この許可は、同月18日付けで発給済みとなっている。ゴラクプールはハリヤナ州では初の原子力発電所立地点で、インド原子力発電公社(NPCIL)は最終的に、70万kWの加圧重水炉(PHWR)を4基建設する計画。インド内閣はこれらも含め、4サイトで合計10基の70万kW級国産PHWRを新たに建設することを2017年5月に決定した。NPCILがゴラクプールで2014年1月に起工式を開催した後、AERBは2015年7月に4基分の立地許可を発給。2018年1月には最初の2基(1、2号機)について掘削工事の実施を許可しており、NPCILは同年3月から掘削工事を開始していた。発表によると、デリー首都圏から北西170kmのゴラクプールは地質が柔らかい沖積土であるため、NPCILは地質工学的調査や地震関係の調査を詳細に実施した。地盤の改良工事が完了した後は、気象学的なパラメーターを収集・記録中。ゴラクプール1、2号機はまた、今年7月に初めて臨界に達したカクラパー3号機(70万kWのPHWR)と同様の設計になるとしている。一方のAERBは、複数階層で構成される安全関係の委員会を通じて、建設計画が安全規定要件に適合しているか審査した。特に土木建築工事や1、2号機の安全性関係の設計、およびレイアウトの変更などに集中したと説明している。なお、AERBは同日、70万kW級国産PHWRの新規建設で閣議決定した4サイトのうち、インド南西部の既存のカイガ原子力発電所について、5、6号機(各70万kWのPHWR)の立地許可を11月18日付けで発給したと発表した。同発電所では出力22万kWのPHERが4基稼働中だが、5、6号機の設計とレイアウトはゴラクプール1、2号機と同じものになる。この安全審査でAERBは、通常運転時や事故発生時に放射性物質が放出される可能性を集中的に評価したほか、サイト特有の人的要因や自然発生的な外部要因の影響を評価。これらはすべて許容可能であり、AERBの他の安全規定要件もすべて満たされているとしている。(参照資料:AERBの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Dec 2020
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中国核工業集団公司(CNNC)は11月27日、世界で初めて国産第3世代炉「華龍一号」を採用した福清原子力発電所5号機(115万kWのPWR)を同日未明に送電網に接続し、初めて送電したと発表した。これにより、CNNCは「諸外国による原子炉技術(市場)の独占状態を打ち崩し、中国は正式に原子力技術先進国の仲間入りを果たした」と表明。原子力大国から原子力強国への飛躍を実現する重要な節目になったとし、同炉の輸出促進で習近平国家主席が提唱するシルクロード経済圏構想「一帯一路」が一層強化されると強調している。「華龍一号」はCNNCと中国広核集団有限公司(CGN)双方の第3世代PWR設計「ACP1000」と「ACPR1000+」を一本化して開発され、主要技術と機器の知的財産権は中国が保有。CNNCの発表によると、同設計では炉心の出力密度を下げて安全性の改善を図っているほか、設計上の運転期間は60年を想定している。輸出用主力設計としての海外への売り込みも積極的で、CNNCとCGNは2016年1月22日、「華龍一号」の国際展開を促進するため、登記資本金5億元(約78億円)の合弁事業体「華龍国際核電技術有限公司」を設立した。「華龍一号」の実証炉プロジェクトと位置付けられた福建省の福清5、6号機建設工事は、2015年5月と12月にそれぞれ始めており、5号機では今年3月に温態機能試験が完了。9月初旬に177体の燃料が装荷された後、10月下旬には初めて臨界条件を達成していた。中国国内では今年8月、田湾5号機(111.8万kWの「ACP1000」)が送電開始したことから、福清5号機はこれに次いで年内にも中国49基目の商業炉となる見通しである。福清5、6号機に続く「華龍一号」採用炉としては、中国国内でさらに5基(防城港3、4号機、漳州1、2号機、太平嶺1号機)、およびパキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機が建設中である。作業においては安全性や品質ともに厳しい管理下に置かれているとCNNCは強調。2015年と2016年に本格着工したパキスタンの2基は、それぞれ2021年と2022年に営業運転を開始するとみられている。また、英国でもブラッドウェルB原子力発電所建設プロジェクトへの採用が決まっており、同設計の英国版「UK HPR1000」を原子力規制庁(ONR)が2017年1月から包括的に審査中。2021年後半にも、設計承認確認書(DAC)が発給されると見られている。(参照資料:CNNCの発表資料(英語版)と(中国語版)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Dec 2020
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英国政府の財務省は11月25日、「国家インフラ戦略-より公平、迅速かつ環境に優しく」を公表し、英国が国家としてレベルアップを図るとともに連合王国としての結束を強め、2050年までにCO2排出量実質ゼロに移行するためのインフラ計画を明らかにした。この中で原子力発電については、「実証済みの技術を用いた費用対効果の高い電源であり、再生可能エネルギーの補完も可能な信頼性の高い低炭素電源」と説明。今月18日に公表した「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」にも明記したように、英国政府は今後、大型原子炉建設や先進的原子力研究開発への投資に最大で5億2,500万ポンド(約728億円)投入すると約束している。発電部門のインフラ戦略財務省は、英国全体のCO2排出量のうち発電部門の排出シェアが過去10年間に27%から12%まで減少したことに触れ、主な成功要因は再生エネ源の拡大と石炭火力発電所の削減だったと指摘。民間部門による投資が再生エネの発電コストを大幅に低下させる一方、数多くの補助金制度や市場改革が再生エネへの投資を着実に増加させたとした。2014年以降、30%だった石炭火力への依存度も1%以下に下がっており、英国は2050年までに石炭火力発電所の全廃を目指す方針である。英国政府はまた、脱炭素化を進めるにあたり、これまで通り電力の安定供給を最優先事項としており、この世代初の原子力発電所となるヒンクリーポイントC発電所(172万kWのPWR×2基)を建設中。今世紀後半に運転が開始されれば、低炭素で信頼性の高い電力を年間約600万戸の世帯に供給するのとほぼ同量、発電することになる。財務省によれば、2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を達成するには、発電システムを事実上「CO2フリー」なものとし、輸送部門の電化等にともなう追加の電力需要に対処しなければならない。このために必要となる電力量の大部分を低コストな再生エネで供給することになるが、その間欠性を補うには一層信頼性の高い電源として、原子力や二酸化炭素の回収・貯蔵(CCS)、水素燃焼等の機能を持つ発電所が将来的に必要。このため英国政府としては、民間部門の資本投資が確実に継続されるよう保証するとしている。原子力発電今回の戦略の中で、財務省はこれまで長い間、原子力が発電部門で重要な役割を果たしてきたと明言。一定期間内や予算内での建設が可能なら、原子力は今後も同様の役割を果たし続けるし、ヒンクリーポイントC原子力発電所では、パンデミックの最中も新たな作業環境の下で建設工事が続けられている。英国政府としては、電力消費者や納税者にとって明らかに費用対効果が高く、関係する承認すべてが得られることを条件に、大規模な原子力プロジェクトを進めていく。「10ポイント計画」では今後、大型原子炉や先進的原子力研究開発に大規模な投資を行うが、このうち最大3億8,500万ポンド(約534億円)は、小型モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)の開発に向けた「先進的原子力基金」に投入することになる。英国政府はまた、新規原子力発電所建設プロジェクトに対する資金調達で、「規制資産ベース(RAB)モデル」の実行可能性調査の結果を昨年、パブリック・コメントに付した。現在はコメントへの対応を取りまとめているところで、近いうちに報告書として公表する予定。RABモデルの検討と同様、英国政府は引き続き建設期間中に英国政府が財政支援する可能性を検討していくが、ここでも明確な費用対効果の高さが条件になるとしている。(参照資料:英財務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Nov 2020
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トルコでアックユ原子力発電所(120万kWのロシア型PWR=VVER×4基)の建設工事を請け負っているロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は11月18日、トルコの規制当局が13日付で同社のトルコ子会社であるアックユ原子力発電会社(ANPP)に3号機の建設許可を発給したと発表した。ANPP社は2019年3月、原子力規制庁(NDK)に同許可の申請書を提出していた。発給が決定したことで、同炉では原子炉建屋など安全性に関わる部分の作業も含め、関係施設すべての建設工事が可能になった。これまでANPP社は、今年7月に取得した部分的建設許可(LWP)の下、原子炉建屋やタービン建屋のベースマット下部に敷くコンクリート・パッドの作業等を実施。NDKは3号機の建設許可審査を進めるなかで、質問その他の追加要請を同社に行ったが、同社はこれに応えつつ膨大な量の準備作業を行っていた。トルコ初の原子力発電プラントとなる同発電所では、第3世代+(プラス)のVVERを4基建設する計画。現在、1、2号機の本格的な建設工事が、それぞれ2018年4月と2020年4月から行われている。1号機については今年10月、4台の蒸気発生器が現地に到着したのに続き、今月10日には、ロシアのアトムエネルゴマシ(AEM)社(AEMテクノロジー社のボルゴドンスク支部)が約3年かけて製造した原子炉圧力容器(RPV)が到着した。2号機については、今年6月に原子炉建屋のベースマットが完成したほか、8月にはコア・キャッチャーが到着している。これまでに、1~3号機すべてで環境影響評価報告書の承認や発電許可、建設許可といった主要認可が発給され、4号機についてもANPP社が今年5月に建設許可申請書をNDKに提出した。トルコ・エネルギー・天然資源省(ETKB)のF.ドンメズ大臣は、トルコが建国100周年を迎える2023年に1号機が運転開始することを希望しており、2号機に関しても同年中に起動させたい考えである。(参照資料:ロスアトム社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
27 Nov 2020
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インド駐在の米国大使館は11月24日に米印両国の共同声明を発表し、両国がインドの「世界原子力パートナーシップ・センター(GCNEP)」について10年前に締結した協力覚書を、10年間延長することで合意したことを明らかにした。同覚書の延長は、10月27日にインドのニューデリーで第3回米印外務・防衛担当閣僚会議(米印2プラス2)が開催された際に決定した。この協議にはインドのS.ジャイシャンカル外相、米国のM.ポンペオ国務長官が両国の国防大臣とともに出席。協議のなかで両国は、「原子力の平和利用分野に関する協力のための米合衆国政府とインド政府との協定」が2008年10月に正式発効し、これに基づいて米国籍のウェスチングハウス(WH)社がインド東海岸のアンドラ・プラデシュ州コバダで同社製AP1000を6基建設することなったという事実に触れた。このことから両国政府は、WH社とインド原子力発電公社(NPCIL)との間で技術的な商業提案に向けた協議の進展を期待すると述べた。GCNEPはインド原子力省(DAE)の後援により、2010年9月にインド北部のハリヤナ州に設置された原子力研究開発のための組織。正式に発足したのは2017年のことだが、GCNEPは原子力施設と放射性物質の効率的な監視や、核拡散抵抗性の高い先進的原子炉開発などのほかに、原子力・放射線利用分野の安全性向上に向けたマンパワー訓練などを目的としており、これらの分野毎に教育・訓練学校を5校備えている。今回の共同声明では、放射線源のセキュリティも含めた原子力安全確保の重要性に鑑み、両国は引き続き原子力安全セキュリティの問題に取り組むと表明。世界の原子力安全体制を一層強化し、包括的かつ持続可能なものにしていくと明記した。両国政府はまた、民生用原子力安全確保の分野で米印が連携強化する重要性を認識しており、両国国民および世界中の人々の利益を守る上で、米印の民生用原子力・放射線関係協力が大いに貢献していると改めて確認。こうした背景から、GCNEPにおける米印協力を10年間延長することになったと説明している。今後の協力については、これまでの協力実績に基づき両国は以下の点に力を入れると表明した。すなわち、・原子力安全セキュリティと原子力科学技術の研究開発促進に資する協力イニシアチブを、GCNEPの教育・訓練学校で推進する。・次世代技術など様々な先進的プロジェクトの協力を通じて、原子力・放射線セキュリティに関する相互理解を深め、その結果を国際的な場で分かち合う。・様々な見解を包括的に取り入れられるよう、両国の政府機関のみならず原子力・放射線セキュリティに関わるその他機関とも幅広く連携する。(参照資料:米国大使館とGCNEPの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Nov 2020
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南アフリカ共和国の国家エネルギー規制局(NERSA)は11月23日、原子力で将来的に250万kWの新規発電設備を建設するという計画について、ステークホルダーや一般国民の同意を得るため、コメント募集を開始した。書面によるコメントの受付は2021年2月5日までとなっている。この計画は、2019年10月の官報で公表された改定版の「2030年までの統合資源計画(IRP 2019)」に明記されている。南ア国内では今後、2,400万kW以上の石炭火力発電所が廃止されていくことから、2030年以降はクリーン・エネルギー源である原子力の新規設備をベースロード用電源として活用し、エネルギーの需給バランス維持と供給保証体制の改善を目指す。南ア唯一の原子力発電設備であるクバーグ発電所(97万kWのPWR×2基)では、2024年に1号機が40年の運転期間を満了するが、「IRP 2019」によれば、これら2基はその後も運転期間を延長して稼働させる。その上で、2030年以降の新規原子力設備の商業運転開始に備え、ロードマップの作成といった準備作業を直ちに開始する必要があると指摘。その折は複数の発電所を一度に建設するのではなく、モジュール方式で少しずつ無理のないペースで進めなければならないとしている。このため、鉱物資源・エネルギー相は今年8月、「2006年電力規制法」に基づいて新規原子力発電設備の建設実施を決め、NERSAに準備作業の開始を提案した。同相は同時に、建設プログラムの作成は鉱物資源・エネルギー省、その他の国家機関が担当すること、設備の調達プロセスについても、公正かつ透明性があり競争面とコスト面の効果もある入札手続を踏むことなどを提案している。この計画の実施についてはNERSAも同法の規定によりレビューすることになっており、コメントを収集した後は、ステークホルダーが意見表明できるよう、オンラインで公聴会を開催。最終決定となる前にこの計画が「2004年国家エネルギー規制法」その他の法規に適合しているか、NERSAとしての判断を下す。NERSAはまた、「2006年電力規制法」に掲げられた目標についても、確実な達成を追求する方針。それらは、効率的で効果的かつ持続可能な電力供給インフラを南アで適切に開発・運営する、電力のエンドユーザーや消費者によるエネルギー源の選択を可能にするため、電源間の競争を促進する、などとなっている。(参照資料:NERSAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Nov 2020
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ハンガリーでエネルギー関係プロジェクトの規制を担当する「エネルギー・公益企業規制庁(MEKH)」は11月20日、パクシュ原子力発電所II期工事(120万kWのPWR×2基)の建設計画を電力法に基づいて審査した結果、建設工事の実施を承認すると発表した。MEKHは主に、同計画が国内の送電システムに及ぼす影響について、パクシュII開発会社が今年10月に提出した申請書を審査していた。今回、電力供給網のセキュリティ面に問題が生じることはないと判断し、電力法の義務事項に照らし合わせた発電実施許可を19日付で発給したもの。同建設計画の安全面については、国家原子力庁(HAEA)が今年7月からパクシュII開発会社の建設許可申請書を審査中であり、2021年7月頃に最終判断を下すと見られている。 同計画についてパクシュII開発会社側は、「建設前サイト準備許可」が取得できれば2021年から地盤の準備工事を始められると予想。早ければ同年9月に主要建屋の建設許可を取得して、本格的な工事を開始する方針である。パクシュ原子力発電所では現在、I期工事の4基(各50万kWのロシア型PWR=VVER)が同国における総発電量の50%を賄っている。1980年代に運転開始したこれらの公式運転期間は30年であるため、運転期間を20年延長する手続きが4基すべてについて完了している。II期工事の2基は、最終的にI期工事の4基を代替することになっており、ハンガリー政府は2014年1月、ロシアと結んだ政府間合意に基づき、この増設計画をロシア政府の低金利融資で実施すると表明。両炉の設計には、第3世代+(プラス)の120万kW級VVERが採用されることになった。しかし同計画については、欧州委員会(EC)が欧州連合(EU)域内の競争法における国家補助規則との適合性などを審査したため、プロジェクトの実施は当初計画から少なくとも3年以上遅延している。2017年3月までにこれらすべてについて承認裁定が下されたことから、HAEAは同月、パクシュII開発会社に対してサイト許可を発給、同社は2019年6月から付属施設の建設といった準備作業を開始している。パクシュII開発会社によると、今回取得した発電実施許可は2基の本格着工に向けた重要ステップであり、これまでにHAEAから取得済みのサイト許可や環境許可、建設のための補助施設の建設許可と併せて、発電所建設に必要な要件になると説明している。(参照資料:パクシュII開発会社とMEKH(ハンガリー語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Nov 2020
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カナダ東部ニューブランズウィック(NB)州の州営電力であるNBパワー社は11月16日、英国籍のモルテックス・エナジー社および米国籍のアドバンスド・リアクター・コンセプツ(ARC)社がそれぞれ開発している小型モジュール炉(SMR)のNB州内での建設に向け、相互協力メカニズムである「SMRベンダー・クラスター」を同州で設立すると発表した。同クラスターの目的は、3社間で相乗効果が生まれるよう互いに協力しあうこと。NBパワー社とモルテックス社、およびARC社のカナダ法人(ARCカナダ社)は、これまでの協力関係を同クラスターで一層強化するため、同日付けで了解覚書を締結した。具体的には、製造技術・販売また技術教育での提携、関係取引への取組み、共通する研究開発活動などで協力するとしており、早ければ2030年にも、NBパワー社が同州で操業するポイントルプロー原子力発電所(71.2万kWのカナダ型加圧重水炉)の敷地内で、ベンダー2社それぞれのSMRの営業運転を始める方針。州内の原子力産業界が継続的に協力し合うことで、地球温暖化に対処するとともに州の経済成長に貢献、NB州民の生活改善にも役立てたいとしている。NBパワー社によると、次世代の原子力技術と言われるSMRでは様々なタイプの設計開発が進行中で、出力は最大でも30万kW程度。多様な用途に活用が可能であるほか、機器を建設サイトに輸送してその場で組み立てることもできる。また、従来の原子力発電所より規模が非常に小さいため、大量生産により価格が手頃になり、建設工事も容易となる。学界や科学技術関係のコミュニティにも恵まれたNB州には、複数のSMR建設が可能な原子力発電所が立地し原子力関係の専門的知見も支援基盤として根付いているなど、先進的SMRの開発推進に適している。こうした背景からNB州政府とNBパワー社は2018年7月、世界的水準のSMR開発と製造で同州がリーダー的立場を確立するため、90件もの申請の中からARC社とモルテックス社を選定し、SMR開発で協力することで合意。州内唯一の原子力発電設備であるポイントルプロー発電所内で、ARC社製SMR初号機の建設可能性を探るとしたほか、モルテックス社製SMRについても商業規模の実証炉を同発電所内で建設する方針を明らかにした。モルテックス社のSMRは、カナダ型加圧重水炉の使用済燃料を低コストで新燃料に変換するという「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」で、日中のピーク時には出力を2倍、3倍に増やすことも可能と言われている。一方、ARC社が開発中のSMRは、ナトリウム冷却・プール型高速中性子炉の「ARC-100」。米エネルギー省(DOE)傘下の国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」の技術に基づいており、金属燃料を使用する。NBパワー社の発表では、これら2つの設計では互いを補完し合う技術が採用されているが、どちらも受動的安全系を装備。また、方法は異なるものの、ともに使用済燃料の処分問題解決に役立つとしている。(参照資料:NBパワー社、モルテックス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Nov 2020
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英国のB.ジョンソン首相は11月18日付けの電子版フィナンシャル・タイムスに寄稿し、2050年までに英国内の温室効果ガス(GHG)排出量の実質ゼロ化を目指して重要施策を10項目に絞り込んだ「緑の産業革命に向けた10ポイント計画」を公表した。英国では2019年6月に、GHG排出量を2050年までに実質ゼロとするための法案が成立し、首相は「10ポイント計画」の当面する重要施策の一つとして新規原子炉の建設を約束。今回の計画では、大型炉のみならず小型炉モジュール炉(SMR)や先進的モジュール炉(AMR)に至るまで、開発のための資金を政府が5億5,000万ポンド(約756億円)以上投資する方針を明らかにしている。「10ポイント計画」全体で、政府は民間部門の約3倍に相当する120億ポンド(約1兆6,500億円)の投資を計画しており、この支援により、地球環境の保全・修復に役立つ「緑の雇用」が約25万人分創出される。ジョンソン首相は同計画について、「雇用を促進し人々の生活様式を維持しつつ、GHG排出量の実質ゼロ化を達成するための『世界的ひな形』になる」と強調。同計画を実行することで、英国は緑の産業技術とそのための資金調達で世界の模範的先駆者となるとした。同首相はまた、GHG排出量の実質ゼロ化を牽引するタスク・フォースを設立するとしている。同計画の中で、先進的原子炉の新規建設は3番目のポイントとして挙げられており、政府はその中で、輸送部門や熱供給部門における低炭素電力の需要が増大し、英国の電力供給システムは2050年までに2倍の規模に成長・拡大すると予想。原子力は信頼性の高い低炭素電源であるため、英国内ではすでに、ヒンクリーポイントC原子力発電所のような大型炉の建設が進められている。国内ではまた、SMRやAMRへの投資が拡大するなど、原子力発電の将来には大きな期待が寄せられている。60年以上前に英国では、本格的な民生用原子力発電所が世界で初めて建設されたことから、政府は現在でも国内に関係技術のポテンシャルがあると考えている。導入規模や技術の世代とは無関係に、新しい原子炉は低炭素な電力と雇用、および経済成長をもたらすので、政府は大型炉の建設を支援するため開発基金を提供する。政府はまた、次世代原子力技術に対する一層の投資を予定。政府内の「歳出見直し」やコストパフォーマンスの点で問題がなければ、政府は「先進的原子力基金」として最大3億8,500万ポンド(約529億円)を充当する方針である。このうち最大2億1,500万ポンド(約295億円)が国内のSMR開発に投じられるほか、民間においても「マッチ・ファンディング」方式を通じて最大3億ポンド(約412億円)の投資機会に道が開かれるとした。政府はさらに、AMRの研究開発プログラムに最大1億7,000万ポンド(約233億円)の投資を約束している。ここでは、800℃以上の高温で稼働し水素や合成燃料を効率的に生産できる高品質の熱供給炉の開発を想定。これらは、二酸化炭素の回収・貯留(CCUS)や水素生産、および洋上風力発電への投資を補うものと位置付けられており、政府としては遅くとも2030年代初頭にこのようなAMRやSMRの実証炉を国内で建設するとともに英国を原子力国際競争の最前線に押し上げる計画である。なお、政府はこのほか、これらの技術を市場に出す手助けとして、規制枠組みの整備と関係サプライチェーンの支援に追加で4,000万ポンド(約55億円)を投資するとしている。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Nov 2020
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カナダ連邦政府のS.オリーガン天然資源相は11月16日、既存の放射性廃棄物管理政策の最新化を図るため、様々な立場のカナダ国民が参加する取組プロセスを開始したと発表した。同相はまた、この政策レビューの一環として、低・中レベル放射性廃棄物の管理で一層包括的な戦略を作成するようカナダ核燃料廃棄物管理機関(NWMO)に要請したことを明らかにした。発表によれば、カナダ政府は2050年までに同国が温室効果ガス排出量の実質ゼロ化を達成する上で、原子力発電が大きな役割を果たすと考えている。原子力はまた、カナダ国内のみならず世界中で雇用とビジネス・チャンスを創出することから、既存の廃棄物管理政策の最新化は政府が今後も、国民の安全と健康および環境を最優先に保全し続ける上で非常に重要である。政府はそのための盤石な枠組を確保しているが、国際的な基準や最良好事例に合致した長期的な放射性廃棄物管理対策を推進するには、これを常に最新のものにしておかねばならない。オリーガン天然資源相が開始したプロセスでは来年3月末までの期間、カナダ政府は様々な方法で放射性廃棄物の発生者や所有者、その他の政府機関、専門家、および一般国民や先住民族など、関係するすべての国民と協議。放射性廃棄物の管理で一層力強いリーダーシップを発揮していけるよう、既存の政策を詳細に説明することになる。カナダでは2007年、使用済燃料の直接処分を定めた国家方針が採択され、実施主体であるNWMOは2010年から処分場建設のサイト選定プロセスを開始した。2012年9月までに国内の22地点が処分場の受け入れに関心を表明し、NWMOは現時点で候補地域をオンタリオ州南部のサウスブルース地域と北西部イグナス地域の2地点まで絞り込んだ。2023年までに、これらのうちどちらかを処分場の建設に好ましい地点として確定することになっている。カナダ政府が国民とコミュニケーションする手段は主にウェブサイトで、国民はネットを通じて放射性廃棄物や政策レビューに関する最新情報、プロセスの進行状況などを把握する。ステークホルダーに対しては、ワークショップや円卓会議などを通じて直接的に対話するほか、オンライン・フォーラムも活用。政府はこのような活動の結果を2021年春までに最終報告書に取りまとめて30日間のパブコメに付し、その年の秋にも最新化した政策を公表する予定である。一方、NWMOに要請した低・中レベル廃棄物の統合管理戦略については、政府は具体的に、戦略の策定に向けた国民との対話を主導するようNWMOに求めている。NWMOが使用済燃料の安全な長期管理について策定済みの計画に基づき、オリーガン大臣は同戦略には以下の項目を含めるべきだと指摘した。それらはすなわち、・廃棄物の現在と将来の排出量、小型モジュール炉(SMR)を設置した場合に排出される廃棄物の特性や所有者、保管場所など、既存の廃棄物管理状況の説明。・廃棄物の長期管理処分に関する現在の計画とその進行状況。・現在および将来排出される放射性廃棄物を取り扱う際の(長期管理処分に関する技術オプションなど)概念的アプローチ。・廃棄物を長期に管理する施設の計画立案や設置、統合、操業などの検討状況。 同大臣は、このような重要任務をNWMOが包括的かつ透明性のあるやり方で実行することは非常に重要だと説明。NWMOは現在、使用済燃料の長期管理計画を遂行中だが、低・中レベル廃棄物戦略の件で国民との対話を進める折にも、NWMOのこのような任務が損なわれてはならないと指摘した。 NWMOによると、現在カナダ国内の低・中レベル廃棄物はすべて安全な方法で中間貯蔵中。NWMOとしてはこの重要な業務の遂行にあたり、その専門的知見を使って実用的な勧告をカナダ政府に提示し、国際的な良好事例に沿った形で廃棄物の長期管理が続けられるようにしたいと述べた。(参照資料:カナダ政府、NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Nov 2020
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カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社の米国法人(TEUSA社)は11月10日、開発中の小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)(熱出力40万kW、電気出力19万kW)で使用する溶融塩燃料について、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所(ANL)と詳細な試験を開始したと発表した。これは、IMSR発電所の燃料や機器・システムについて同社が実施している幅広い確認試験プログラムの一部であり、試験結果は最初の商業炉の建設許認可手続き等で活用する予定。第4世代の先進的原子炉技術のひとつであるIMSRは、コスト面や機能面で革新的と見られており、TEUSA社は安全でクリーン、信頼性が高くコスト面の競争力もあるIMSRのプロセス熱を、化学合成や脱塩など数多くの工業利用に有望としている。IMSRはまた、発電用として既存の電力市場以外での適用が可能なため、TEUSA社としては、産業界が様大規模な脱炭素化を進める有望な手段としてIMSRを提供。米国市場における同設計の商業運転は、2020年代後半にも実現できると予想している。発表によるとTEUSA社とANLとの協力は2016年、民間で進められている先進的原子力技術の商業化支援でDOEが開始したイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」で、TEUSA社が支援対象に選定された折に始まった。TEUSA社は、最初のGAINによってANLとの商業協力が本格的に促され、独力で各種試験を実施するより、世界クラスの国立研究所と協力して関係分野の専門的知見を得る戦略を継続。そのおかげで、TEUSA社は社内の技術資源をIMSR開発に集中させることができ、IMSR発電所を早期に建設する選択ができた。試験に際し、ANLは溶融塩にトリウムなどを混合した液体燃料の熱特性が規制基準を満たせるかの試験に加えて、IMSRの運転サイクル全般で使われる溶融塩の試験用混合物も準備。その上で燃料の融点、密度や粘度、熱容量、熱拡散率なども計測・特定するとしている。IMSR初号機の建設サイトとしては、同じくDOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)が候補に挙がっている。このため、TEUSA社は2018年3月、INLのサイト評価を共同実施するため、ワシントン州の非営利電気事業者共同機関「エナジー・ノースウエスト社」と了解覚書を締結している。(参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Nov 2020
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カナダのオンタリオ州営電力会社(OPG)社は11月13日、既存のダーリントン原子力発電所(93.4万kWのカナダ型加圧重水炉×4基)で、小型モジュール炉(SMR)の建設に向けた活動を開始すると発表した。OPG社はこれに先立つ10月6日、具体的な協力を行うSMRデベロッパーの候補として、カナダのテレストリアル・エナジー社と米国のGE日立・ニュクリアエナジー社、およびX-エナジー社を選定。SMRはオンタリオ州経済を再活性化させる上で非常に重要だと指摘したほか、同州とカナダ連邦政府が推進する温室効果ガス排出量の削減目標達成にも役立つとしている。OPG社は2006年、同発電所で新しく大型炉を増設するため「サイト準備許可(LTPS)」を申請している。カナダ原子力安全委員会(CNSC)は2012年8月にLTPS発給の判断を下したが、オンタリオ州政府は翌2013年に同増設計画の保留を発表。同発電所で稼働中の4基、および同州内にある2つのその他原子力発電所についてもその後、運転期間の延長計画や大規模な改修プロジェクトが進められている。OPG社は今回、原子炉の建設・運転に先立つ許認可手続きの一環として、当時のLTPS復活をCNSCに申請した。早ければ2028年にも同サイトでSMRを完成させ、州民すべてにSMRの恩恵をもたらすとしたほか、同州および同発電所が立地する州南部ダラム地方を、世界でも著名なクリーン・エネルギー地区として確立。「供給エネルギーのクリーン化」を推進するオンタリオ州では、すでに2014年に州内の石炭火力発電所の全廃に成功している。OPG社の発表によると、カナダ産業審議会が実施した調査の結果、同州内で単機の原子炉を新設し60年間稼働させることで、同州には莫大な経済効果が得られることが判明。プロジェクトの開発期間中、間接雇用も含めた新規の雇用者数は年平均で700人以上にのぼる。その後の機器製造・建設期間には1,600人分、原子炉の運転が始まれば約200人分、廃止措置期間中でも160人分の雇用が確保できるとした。また、国内総生産(GDP)に対する直接的・間接的な効果は総額にして25億カナダドル(約1,994億円)に達するほか、オンタリオ州の財政収入も8億7,000万加ドル(約694億円)以上増加すると予測している。今回のOPG社の判断について、オンタリオ州エネルギー省のG.リックフォード大臣は「ダーリントン発電所が立地するダラム地方で、この10年以内に最新鋭のSMR建設に向けてOPG社を後押しできることを州政府は誇りに思っている」と述べた。同州および原子力関係で同州と連携するサスカチュワン州、ニューブランズウィック州、アルバータ州は、カナダにおけるSMR開発で主導的役割を担うとともに、カナダが保有する原子力技術や専門的知見を世界中に知らしめていると強調した。(参照資料:OPG社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、ほか)
16 Nov 2020
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ロシアの民生用原子力発電公社であるロスエネルゴアトム社は11月10日、レニングラード原子力発電所で2号機(100万kWの軽水冷却黒鉛減速炉)が45年間の運転を終えて、永久閉鎖されたと発表した。同発電所では、チェルノブイリ発電所と同型の100万kW級RBMKを4基稼働しており、45年間稼働した1号機を2018年12月に永久閉鎖し、今回2号機を閉鎖する。これらは第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」で順次リプレースされることになっており、同設計を採用したII期工事1号機はすでに2018年10月末に営業運転を開始、II-2号機についても今年10月22日に初めて国内送電網に接続している。発表によると、ロシアで永久閉鎖された原子炉はロシア連邦の規制・規則に基づき、核燃料が抜き取られるまでは「発電せずに運転中」の状態とみなされる。抜き取りが完全に終了するまで約4年を要する見通しで、この間に発電所では廃止措置で使用する技術の確定など、廃止措置プロジェクトの実施準備を進めることになる。ロスエネルゴアトム社のA.ペトロフ総裁は、「レニングラード発電所では原子炉の世代交代が完璧に進められており、2号機の閉鎖に合わせて第3世代+のII-2号機が試験運転を実施中だ。消費者は原子炉がリプレースされたことすら気づかないだろう」と述べた。ロスエネルゴアトム社によれば、最新設計の「AES-2006」では「RBMK-1000」に対して技術的に様々な改良が施されている。出力が20%向上したほか、公式運転期間もこれまでの30年から2倍の60年に拡大。レニングラード発電所のRBMK×4基も30年が経過した後、機器の大規模な点検・補修プログラムが行われ、4基すべてについて追加で15年間の稼働が許可された。同発電所はロシア北西地域では最大の発電所であり、近年はレニングラード州や州都サンクトペテルブルクにおける総発電量の56%以上を賄っている。120万kW級のVVERが2基送電開始した時点で、引き続き約60%を賄うことになると同社は予想している。(参照資料:ロスエネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Nov 2020
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英ロールス・ロイス社は11月8日、同社が率いる官民企業連合の小型モジュール炉(SMR)開発に、米国の原子力発電事業者としては最大手のエクセロン・ジェネレーション社が協力することになり、両社は同日に了解覚書を締結したと発表した。これはロールス・ロイス社が将来、英国その他の国で「UK SMR」を建設する際、エクセロン社が約20年にわたって蓄積してきた20基以上の商業炉の運転経験が役立つとの認識に基づいている。同企業連合が建設した「UK SMR」が発電会社に引き渡されるまでの期間、エクセロン社は同企業連合と緊密に連携し、発電会社の運転能力向上や人材の育成・訓練などに協力する。また、関連スキルの現地化や堅固な安全文化の醸成、運転の効率化などにも尽力することになる。英国政府と原子力産業界が参加する同企業連合で、ロールス・ロイス社は出力40万~45万kW、PWRタイプのSMRを開発しており、運転期間は60年を想定。仕様を標準化した機器や先進的な製造プロセスで経費を削減し、天候に左右されない施設内でモジュールや機器類を迅速に組み立てることで、低コストなSMR発電所を工場生産する方針である。同社によれば、今後10年以内に当面目標とする出力44万kWのSMRが複数運転開始できれば、英国政府が目指す「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ化」を達成する一助となる。また、英国内での量産は、機器やモジュールの製造工場を新たに建設することとなり、新型コロナウイルスによるパンデミックからの英国経済の復活や、SMRの輸出に道が開けるとしている。同企業連合のT.サムソンCEO臨時代行 は、「地球温暖化や経済回復への取り組みで原子力発電は中心的役割を担うが、そのためには価格が手ごろで信頼性が高く、投資可能なものでなければならない」とコメント。同企業連合が目指しているのは、洋上風力発電と同レベルまで発電コストが削減されたSMRであると説明した。同CEOの認識では、SMRによって英国の発電業界には新しい事業者の参入が可能になり、顧客の選択肢の幅も広がる。これによって低炭素なエネルギーの安定供給が確保されるようになる。ロールス・ロイス社の企業連合は、主要メンバーが原子力エンジニアリング企業や建設企業、機器製造センターなどであるため、エクセロン社と連携することで同企業連合に不足している「世界的規模の原子力発電事業者」が補われ、開発プログラムの見通しは非常に明るくなった。また、原子力関係の米英連携が強化されるとともに、将来の顧客にはエクセロン社が最高水準の運転達成能力を提供、同企業連合の成長に向けた重要側面が新たに展開することになる。ロールス・ロイス社の予測によると、英国内でSMRの量産プログラムが本格的に実行された場合、2050年までに最大で4万人分の雇用が創出され、英国経済には520億ポンド(約7兆2,300億円)相当の価値と2,500億ポンド(約34兆7,600億円)の輸出が生み出されるとしている。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Nov 2020
2904