米エネルギー省(DOE)の国家核安全保障局(NNSA)は11月19日、サウスカロライナ(SC)州サバンナリバーサイトで昨年10月に建設工事の中止が決定した「ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料製造施設(MFFF)」に関して、契約企業のCB&IアレバMOXサービス社、およびその親会社と包括的な和解協定を結んだと発表した。中止決定の後、余剰プルトニウムを処分するための代替策や、70%まで完成したMFFFを核弾頭の中枢部分である「プルトニウム・ピット」の生産施設として活用するというNNSAの計画は、MFFFの建設契約に関わる様々な訴訟等により遅れていた。今回の協定により、これらの訴訟はすべて解決し、契約終了にともなうコストもカバーされるとNNSAは説明。和解金の額は公表していないものの、「MFFFの建設を継続した場合、(2016会計年度時点の見積額である)170億ドルのコストをかけたとしても2048年までに完成させることはできなかった」との認識を強調した。今後はプルトニウムの希釈・処分(D&D)など、納税者に負担をかけない合理的な方法によってSC州から余剰プルトニウムを取り除き、国家安全保障の使命を遂行するとしている。MFFFの目的は、米国の兵器級余剰プルトニウム34トンから不純物を取り除き、酸化ウランと混合して商業炉用のMOX燃料集合体を製造すること。米デューク・エンジニアリング社と仏コジェマ社、およびストーン&ウェブスター社で構成される企業連合(DCS)は1999年3月、MFFFの設計・建設・操業について1億3,000万ドルの契約をDOEから受注した。MFFFの建設は、米国とロシア両国の兵器級余剰プルトニウムを、双方の核兵器削減のために処分するという2000年の「米ロ・プルトニウム管理処分協定」と並行して実施されるもので、DCSは2001年2月、米原子力規制委員会(NRC)に対してMFFFの建設許可(CA)を申請。2005年3月にCAが発給されたのを受けて、2007年8月から建設工事が始まった。しかし、2004年当時に18億ドルと見積もられていた総工費は、2007年の見積で48億ドルに上昇。その後さらに、68億ドルに拡大したことから、米国会計監査院(GAO)は2013年2月の報告書で、MFFF建設計画を財政的危険性の高い政策プログラムの1つに挙げている。建設工事の遅れも指摘されており、契約企業のCB&IアレバMOXサービス社(DCSから改名)の要請を受けたNRCは2014年11月、CAを2025年3月末まで10年延長することを許可した。しかし、着工当時に操業開始が予定されていた2016年になると、当時のB.オバマ政権が「MFFFの建設を打ち切って余剰プルトニウムは希釈・処分(D&D)を検討する」と表明。後続のD.トランプ政権もこの方針を支持しており、NNSAは2018年10月、CB&IアレバMOXサービス社に対してMFFFの建設終了を通知した。NRCも、同社からのその後の要請により、今年2月にCAの終了を決めている。(参照資料:NNSAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月20日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Nov 2019
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フランス電力(EDF)は11月20日、所有していた米コンステレーション・エナジー・ニュークリア・グループ(CENG)の株式49.99%を、共同保有者であるエクセロン・ジェネレーション社に売却する方針を表明した。これにともない、CENGが米国内で保有する3サイト・5基(約400万kW)の商業炉についても、両者の今後の交渉次第ですべての所有権がエクセロン社に渡ることになる。CENGはコンステレーション・エナジー(CE)社の原子力発電子会社であり、EDFが2009年にCE社株を購入した際、CE社とEDFの合弁事業体として設立された。エクセロン社は2011年にCE社を買収しており、CENGに関しては、CE社が確保していたCENG株の50.01%をエクセロン社が引き継いだ。また、5基の商業炉(ニューヨーク州のR.E.ギネイ発電所とナインマイルポイント発電所1、2号機、およびメリーランド州のカルバートクリフス発電所1、2号機)についても、エクセロン社が2014年にEDFと結んだ「共同運転サービス協定」に基づき、同率の所有権に加えて運転認可がエクセロン社に譲渡されていた。 一方のEDFは、4億ドルの特別配当金を受け取ることになったほか、2016年1月1日から2022年6月末までの期間、CENG株を市場の適正価格でエクセロン社に売却できる権利「プット・オプション(売付け選択権)」を得ていた。EDFは今回、このオプションを行使するとエクセロン社に伝えたもので、理由としては「中核部分を除いた資産売却計画」の一部であると説明。取引価格は同オプションの契約条項に沿って後日決定されるが、取引を完了するにはニューヨーク州公益事業委員会、連邦エネルギー規制委員会(FERC)、および原子力規制委員会(NRC)の承認が必要になる。このためエクセロン社は、規制関係のこれらの手続で1~2年、あるいはそれ以上の期間を要する可能性があると説明。同社のC.クレーン社長兼CEOは、「これら5基の運転を引き継いで以降、当社の管理モデルによって全体的な運転効率と実績が向上するなど、EDFと当社には多くの利益がもたらされたが、今後はEDFが保有する株式の購入プロセスで同社と連携していきたい」と述べた。また、取引価格の交渉で両者が合意に至らなかった場合、第三者の調停により決定されるとしている。なお、EDFは2007年、CE社との折半出資による合弁事業体「ユニスター・ニュークリア・エナジー(UNE)社」を設立しており、仏アレバ社(当時)製の欧州加圧水型炉(EPR)を北米市場で販売することを計画していた。UNE社は、同設計を採用したナインマイルポイント3号機、およびカルバートクリフス3号機の建設計画について、建設・運転一括認可(COL)をNRCに申請したほか、米国企業と共同で進めていたキャラウェイ2号機とベルベンド1号機の建設計画についても、同様の申請を行った。しかし、2010年にUNE社からCE社が撤退し、外国資本であるEDFの100%出資企業となったのに加え、2014年に巨額の損失を計上した仏アレバ社の米国法人が、EPRの米国版の設計認証(DC)審査について一時停止を2015年2月にNRCに要請。これらのCOL申請は2016年9月までにすべて、取り下げられている。 (参照資料:EDFとエクセロン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月20日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Nov 2019
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カナダの国立原子力研究所(CNL)は11月15日、同国内で小型モジュール炉(SMR)の研究開発と建設を促進するため、今年7月に設置した「カナダの原子力研究イニシアチブ(CNRI)」の候補となる企業4社を選定したと発表した。CNRIは世界中のSMRベンダーに対し、CNLの専門的知見や世界レベルの研究設備を提供する新しいプログラム。対象分野としては市場分析や燃料開発、原子炉物理、モデリングなどを指定しており、これらに関するプロジェクトの提案企業を毎年募集することになっている。参加企業はCNLが提供する資源を最大限に活用するとともに、技術的知見を共有。開発中のSMR技術の商業化に向けた支援を、出資金あるいは現物出資の形でCNLから受けることができる。次回の募集についても、CNLは来年初頭を予定していることを明らかにした。同イニシアチブで最初の受益者に選ばれたのは、(1)英国の原子炉開発企業モルテックス・エナジー社のカナダ支社、(2)米カリフォルニア州のKairosパワー社、(3)米ワシントン州のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)、(4)カナダを本拠地とするテレストリアル・エナジー社。CNLは今後、研究開発費の分担等について、これら4社との最終交渉を開始する。モルテックス社は現在、カナダのニューブランズウィック大学と共同で、カナダ型加圧重水炉(CANDU)の使用済燃料をピン型溶融塩炉(SSR)の燃料に転換する試験装置について、建設と合理化を進めている。また、Kairos社の提案プロジェクトは、高温のフッ化塩で冷却する「KP-FHR」設計を実現するため、トリチウムの管理戦略を策定するというもの。片やUSNCは、同社製「Micro Modular Reactor(MMR)」の開発で浮上する様々な技術的課題について、解決に向けた作業プロジェクトを提案した。テレストリアル社は、同社製「一体型溶融塩炉(IMSR)」等に対して、安全・セキュリティや核不拡散関係の技術を適用する可能性を評価したいと提案。CNLが保有する設備の中でも特に、「ZED-2原子炉」の利用機会を得たいとしている。CNLのM.レジンスキー所長兼 CEOは今回の選定について、「CNLが実施した市場調査の結果や、カナダのSMR開発ロードマップの判明事項からも、原子力産業界がCNLの知見や設備を一層必要としていることが明確に示された」と説明。CNLのCNRIプログラムは、そのような利用機会を実現する方法として設置されたと強調した。CNLのK.マッカーシー科学技術担当副所長も、「カナダをSMR研究のハブとするため、CNLが過去3年間に実施した作業は大きく前進した」と指摘。SMRに共通する主要な技術分野で、CNLが膨大な知見を蓄積してきたという事実に言及した。SMR開発についてCNLは、2017年4月に公表した今後10年間の「長期戦略」の中で、2026年までにCNLの管理サイト内で少なくとも1基、実証炉を建設するという目標を明示した。2017年中にSMRの開発企業から19件の関心表明を受けており、2018年4月に開始した全4段階の審査プロセスにより、提案企業の募集と選定作業を進めている。今年2月には、USNCが開発したMMR設計が同審査で唯一フェーズ3に進んだほか、テレストリアル社のIMSRもフェーズ2に移行している。MMRについては、エネルギー関係のプロジェクト開発企業グローバル・ファースト・パワー(GFP)社が今年4月、CNLのチョークリバー・サイト内で建設するため、SMRとしては初の「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。CNLの審査プロセスは、CNSCの許認可プロセスから完全に独立していることから、許認可段階に進展した建設プロジェクトには法的規制要件が課され、提案企業は一般国民や先住民コミュニティなどとプロジェクトの重要事項に関する協議を行わねばならない。 (参照資料:CNLの発表資料、原産新聞・海外ニュース、WNAの11月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Nov 2019
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米国のX-エナジー社は11月15日、同社製の小型ペブルベッド式高温ガス炉(HTR)「Xe-100」(熱出力20万kW、電気出力7.5万kW)(=図)を2030年までにヨルダン国内で建設するため、基本合意書(LOI)をヨルダン原子力委員会(JAEC)と交わしたと発表した。 同社とJAECは2017年11月、「Xe-100」の建設に向けて、技術的なフィージビリティと開発準備状況を評価するための了解覚書を締結。今回のLOIで建設プロセスを加速するとしており、2030年までにヘリウム冷却型の「Xe-100」を4基備えた合計電気出力30万kWの原子力発電所をヨルダンで建設し、同設計で使用する3重被覆層・燃料粒子「TRISO」の供給を目指すとしている。 X-エナジー社によると、「Xe-100」は物理的にメルトダウンの恐れがないHTR設計であり、冷却材喪失時も運転員の介入なしで安全性が保たれる。機器類を工場内で組み立てられるため工期が短縮され、コストも大幅に削減できるとした。 ウラン酸化物を黒鉛やセラミックスで被覆するTRISO燃料については、元々米エネルギー省(DOE)が開発した技術に基づくことから、テネシー州のオークリッジ国立研究所内に同社のプロトタイプ製造施設が存在する。同社はさらに、商業規模の製造施設「TISO-X」を2025年までに操業開始するため、米国内のウラン濃縮企業セントラス・エナジー社(旧USEC)と予備設計を共同で進める契約を2018年11月に締結。必要な機器の供給に関しても、日本の原子燃料工業(原燃工)と協力していく覚書を今年5月に結んでいる。 今月11日のLOI締結に際しては、ワシントンDC駐在ヨルダン大使館の大使が主催する記念式で、X-エナジー社のK.ガファリアン会長とJAECのK.トゥカン委員長がLOIに署名した。これには、同社のC.セルCEOとJAECのK.アラジ副委員長が同席。このほか、両者の代表団とDOE、商務省、原子力産業界の代表者らが参加した。 JAECは、ヨルダン国内のエネルギー供給保証を目的に民生用原子力発電プログラムの開発を進めており、この要件を満たす上で最良の原子炉設計を選択するため、評価プロセスを実行中。首都アンマンの東85km地点のアムラで100万kW級のロシア型PWR(VVER)を2基建設することで、2013年10月にロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社を選定したが、その後の建設資金調達交渉が上手くいかず、2018年6月にJAECはこの取引の破棄を発表している。 一方、SMRについては海水脱塩や地域熱供給にも利用できることから、ヨルダン政府は大型炉の建設プロジェクトと並行して導入の可能性を検討していた。2016年12月には、運転員の教育訓練用を兼ねる多目的の韓国製「ヨルダン研究訓練炉(JRTR)(熱出力0.5万kW)」が、同国初の原子力設備としてヨルダン科学技術大学内に完成。ロシアとの協力においても、ロシア製SMRのフィージビリティ・スタディ(FS)を共同実施することでJAECが合意したと、2018年5月にロスアトム社が発表した。 JAECはまた、2017年3月に、韓国原子力研究所(KAERI)が中東諸国向けに開発した小型炉「SMART」(電気出力10万kW)を、ヨルダン国内で2基建設することを想定したFSの実施で合意。これ以外では、英ロールス・ロイス社や米ニュースケール・パワー社とも、それぞれが開発中のSMR設計についてFSを実施するとしている。 (参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
18 Nov 2019
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チェコのA.バビシュ首相は11月13日、自らが議長を務める「原子力発電所の建設に関する常設委員会」の第2回会合後に記者会見を開き、ドコバニ原子力発電所(51万kWのロシア型PWR×4基)で2036年にも新規原子炉を完成させる方針を明らかにした(=写真 バビシュ首相は右から2人目)。同国にとってエネルギーの供給保障は最優先事項であることから、首相は今回の会合で、エネルギーの自給を維持するために増設計画の具体的な日程が示されたことは喜ばしいとコメント。ドコバニ発電所Ⅱ期工事の最初の1基について、供給企業の選定を2022年末までに終え、遅くとも2029年までに建設工事を開始、2036年までに同炉の運転開始を目指すとしている。新規原子炉の増設に踏み切った理由の1つとして、バビシュ首相は近年、欧州で地球温暖化防止とCO2の排出量削減に関心が高まっている点を指摘。50基以上の原子炉で総発電量の75%を賄う仏国の例を挙げ、同国は2050年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指すリーダー的存在であるとした。一方、チェコの原子力発電シェアは30%台に留まっており、2040年までに少なくとも40%に引き上げることが目標。首相は、「我々は地球温暖化を深く憂慮しており、チェコ政府にはこれに対応する明確な計画がある」と強調した。同首相はまた、国営送電会社(CEPS)が10月にまとめた「(国内の発電システムに関する2040年までの)中期的適性評価予測報告」に言及した。この報告書は、国内で既存の石炭火力発電所が閉鎖されるのにともない、チェコは2030年代初頭から徐々に電力を輸入し始めると指摘。新規電源を増設しなかった場合に、供給力不足に陥る時間数の予測値も提示していた。これらのことから、同首相は「石炭火力に代わる新規の電源が必要だ」と述べる一方、再生可能エネルギーでは国内すべての電力消費量を賄うことは出来ないと説明。K.ハブリーチェク副首相兼産業貿易大臣も、チェコの原子力発電レベルは世界的にも認められていることから、「原子炉を増設するのが論理的選択だ」と述べた。同首相はさらに、ドコバニ発電所Ⅱ期工事について今年7月、国営電力のCEZ社グループが100%子会社を通じて資金調達するという投資家モデルをチェコ政府が承認した事実に触れた。新規原子炉の建設協議は、これを持って具体的な準備段階に移行しており、政府が2015年に承認した改定版の「国家エネルギー戦略」は徐々に実行に移されつつあるとした。このことは、チェコの原子力発電開発にとって非常に重要であり、地球温暖化の防止目標を達成する上でも大きな影響があると首相は指摘。差し当たりドコバニ発電所を優先するものの、投資金の回収問題で2014年に頓挫したテメリン原子力発電所増設計画についても、協議をいずれ再開することになると強調した。なお、現地の報道によると、記者会見に同席したCEZ社のD.ベネシュCEOは「来年6月までに新規原子炉の入札準備を進め、2021年に最大で5社から提案を申し受ける」と発言した。市場の見積価格として1基あたり1,400億~1,600億チェコ・コルナ(約6,500億~7,500億円)を予想していると述べた模様。これまでに6社が入札に関心を示しており、それらは中国広核集団有限公司(CGN)、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社、韓国水力・原子力会社(KHNP)、仏電力(EDF)、米国のウェスチングハウス(WH)社、三菱重工業を含む仏ATMEA社の企業連合であると伝えられている。(参照資料:チェコ首相府(チェコ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Nov 2019
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国際エネルギー機関(IEA)は11月13日、世界のエネルギー・ミックスに関する2040年までの見通しを3通りのシナリオで解説した最新の年次報告書「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)2019年版」を公表した。それによると、今日のエネルギー世界は現状と到達点に大きな差異が生じており、石油市場に十分な供給量があるにも拘わらず、生産国を巡る地政学的な緊張と不確実性は増大。かつてないほど大量の温室効果ガスが排出される一方、国際的な温暖化防止目標に沿って排出量を削減するための現行政策は不十分である。また、世界中すべての人へのエネルギー供給を約束しながらも、今なお世界の8億5,000万人の人々が電気のない生活を強いられており、将来、持続的で確実なエネルギーが確保される方向に世界を向かわせるには、エネルギー・システムのあらゆる部分で、迅速かつ大規模な変革が必要になると報告書は訴えている。WEOはIEAが発行する最も重要な刊行物の1つであり、最新版はこのような差異の広がりについて詳細に分析した。今日下された政策的な判断は、将来のエネルギー・システムに影響を及ぼすとの観点から、世界的に人口が増加する中、信頼性のある適正価格のエネルギー供給に今後も大きな重点を置きつつ、地球温暖化や大気汚染の防止目標を達成するための道筋を示している。WEOによれば、各国政府による決定事項は将来のエネルギー・システムにおいて、引き続き重要なものとなる。このことは、WEOが以下の3つのシナリオで示した今後数10年間の異なる道筋においても明白であり、政策立案者が現在推し進めている政策や投資、技術などがこれに相当する。【現状政策シナリオ】:これは世界が今、正に進んでいる道筋で、各国政府が現状の政策を維持した場合、世界のエネルギー・システムがどのように発展するか、基本的な状況を描いたもの。このシナリオによると世界のエネルギー需要は2040年までに1.3%上昇し、結果としてエネルギー市場のあらゆる側面に緊張がもたらされる。エネルギー部門のCO2排出量も、大幅に上昇し続けるとした。【決定政策シナリオ】:これまで「新政策シナリオ」と呼称していたシナリオで、既存の方策に加えて、現時点の政策目標が盛り込まれている。現行計画による影響の説明を目的としたもので、このシナリオが描く将来のエネルギー像でもやはり、持続可能で確実なエネルギーという目標からは、かなり不十分なものになる。すなわち、2040年時点においても世界の何億もの人々がやはり、電気のない生活をしており、大気汚染で早死にする人の数は現状の高めのレベルに留まる。また、地球温暖化がもたらす深刻な影響も定着するとしている。【持続可能な発展シナリオ】:世界各国の政策決定者が、地球温暖化やその他のエネルギー問題で設定した目標の全面的な達成に向け、それぞれについて何をしなければならないかの抜本策を示したもの。このシナリオはパリ協定の履行と完全に一致する道筋を示したもので、世界の平均気温の上昇を2度C以下に抑えることを目的としている。ここでは、エネルギー・システム全体で大掛かりな変更を迅速に行わねばならならないが、温室効果ガスの大幅な削減は複数の燃料と発電技術を組み合わせることで可能であり、効率的かつコスト面の効果も高いサービスの提供につながる。IEAのF.ビロル事務局長は、今回のWEOが極めて明確に示した事実として、「世界のエネルギー・システムを変革する上で、ただ1つの単純な解決策というものは存在しない」という点を強調。複数の発電技術や燃料が各国経済のあらゆる部門でそれぞれの役割を担っていることから、各国政府は将来を形作るための幅広い視野を持ち、行動するという明確な責任を負う一方、政策立案者に強力なリーダーシップが求められると指摘している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月13日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN」)
14 Nov 2019
625
南仏のサン・ポール・レ・デュランス(呼称を「カダラッシュ」から行政住所に変更)にある国際熱核融合実験炉(ITER)建設サイト(=写真)で、主要建屋の建設を担当する仏国VINCI社の企業連合は11月8日、トカマク実験炉を格納するトカマク建屋の土木工事が完了したと発表した。 このプロジェクトを主導するITER機構、および欧州連合(EU)の担当組織である「フュージョン・フォー・エナジー(F4E)」と共同で発表したもので、前日の段階で、同建屋の上部に最後のコンクリートを注入する作業がスケジュール通りに終了。建屋内では間もなく、トカマク実験炉の組立てが行われるが、この作業により建屋は屋根部分に金属フレームを設置することが可能になり、「2025年にファースト・プラズマを達成する(運転開始)」という意欲的な目標に、これまでどおり変更はないと強調している。ITER計画は、平和目的の核融合エネルギーが科学技術的に成立することを実証するため、人類初の核融合実験炉を実現しようとする超大型国際プロジェクト。日本、EU、ロシア、米国、韓国、中国、インドの7極が技術開発や機器製造を分担して進めており、2005年6月に建設サイトを決定した後、2006年11月に参加7極がITER協定に署名。翌2007年10月に同協定が発効したのを受けてITER機構が正式に設立され、建設工事が始まった。トカマク建屋は、トリチウム建屋および計測建屋とともに「トカマク複合建屋」を構成しており、複合建屋の高さは73m、幅は120mとなる。土木工事は2010年に開始されたが、用途の特殊性から、並外れて複雑なプロジェクト管理能力と最先端の専門知識を要したという。建設作業が進むにつれITER科学チームが要請してくる設計変更すべてを統合するため、VINCI社の企業連合(仏国のRazel-Bec社、スペインのFerrovial社など)の作業チームは、効率的かつ迅速に動けるようプロジェクト組織を編成した。トカマク建屋に使用する非常に特殊なコンクリートの生産にあたっては、約10通りの製造方式を開発。これらのいくつかは、核融合エネルギーが発する放射線から作業員や環境を防護する特殊機能を備えたものとなった。同建屋ではまた、通常のアパート壁で使用する補強鋼材の10倍の密度を持つ鋼材を必要とした。最終的に、同建屋中心部へのアクセスに使われる46の特注遮へい扉については、各70トンのドイツ製の扉をサイトに搬入。コンクリートを充填した上で、同建屋の中心部で組み立てたとしている。(参照資料:VINCI社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月8日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Nov 2019
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国連安保理の5か国とドイツ、および欧州連合が2015年にイランと結んだ「核合意」から米国が離脱し、イランもウラン濃縮量を拡大するなど、同合意が崩壊の危機に瀕するなか、ロシアの国営通信社を母体とするRIAノーボスチ通信社は11月10日、商業規模の原子力発電所としては中東唯一というイランのブシェール発電所で、2号機(PWR、105.7万kW)の原子炉系統部分に最初のコンクリート打設が行われたと報道した。イラン駐在のロシア大使館から得られた情報だとしており、イラン原子力庁(AEOI)のA.サレヒ長官と、建設工事を受注したロシア国営原子力総合企業ロスアトム社のA.ロクシン第1副総裁は、双方が署名した記念のコンクリート・キューブ(立方体)を交換。ブシェール発電所がイランの長期計画通り、現在稼働中の1号機に続き、2、3号機が2026年までに運転開始すれば、AEOIは同国の原子力発電設備容量が300万kWを越えると指摘している。イラン南西部に位置するブシェール発電所では、2011年5月にイラン初の商業炉となる1号機(PWR、100万kW)が初めて臨界条件を達成し、同年9月から国内への送電を開始。建設工事を請け負ったロスアトム社傘下のNIAEP-ASE社は、2016年4月に同炉をイラン側に正式に引き渡した。2014年11月にロスアトム社は、同発電所Ⅱ期工事となる2、3号機の増設契約をイランの「原子力発電開発会社(NPPD)」と締結した。これと同時に、両国間の既存の協力協定を補完するための議定書にロスアトム社とAEOIは調印。ここでは、同発電所でロシア型PWR(VVER)をさらに2基、その他のサイトでも4基をターンキー契約で建設することが明記された。これら8基の原子燃料はロシアが供給するとともに、使用済燃料も再処理・貯蔵のためにロシアが引き取る約束。両国の協力は平和利用分野に限定され、国際社会が危惧する核兵器開発への転用疑惑は払拭されるとしている。ロスアトム社は、ブシェール発電所Ⅱ期工事の起工式を2016年9月に執り行っており、2、3号機は1号機と同様100万kW級のVVERになると説明。最新の安全性能を有する第3世代+(プラス)の「AES-92」設計を採用するため、動的と静的両方の安全システムや二重の格納容器が装備されるほか、欧州電力会社要求事項(EUR)の技術要件にも適合するとした。2号機用の地盤掘削作業などはすでに2017年に始まっており、これまでに300万立方m以上の土砂が掘削され、ベースマットには3,000トンの鉄筋コンクリート、35万トンものセメントを使用。最初のコンクリート打設を実施したことにより、AEOIは建設プロジェクトの約30%が完了したことになると強調している。(参照資料:RIAノーボスチ通信社(ロシア語)、AEOI(アラビア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月11日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Nov 2019
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フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は11月8日、完成が遅れているオルキルオト原子力発電所3号機(OL3)(PWR、172万kW)について、今年7月に公表した最新の起動スケジュールからすでに作業が6週間遅延していることを明らかにした。これは、建設工事を請け負った仏アレバ社と独シーメンス社の企業連合による提供情報に基づいており、同企業連合は今後、プロジェクト最終段階におけるスケジュールの全体的な見直しを行った上で、12月に結果を改めてTVOに提示する。OL3は2005年8月、世界で初めてフラマトム社製欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用して本格着工したものの、様々なトラブル等により当初2009年に予定していた完成には至っていない。最新のスケジュールでは、2020年1月に燃料を装荷した後、同年4月にOL3を送電網に接続、定常的な発電の開始は同年7月から予定している。同企業連合によると、OL3では機械システムと電気系統、および計測制御(I&C)系の最終的な確証を、高い品質水準で注意深く行う必要がある。完成がさらに遅れるにしても、OL3が燃料の初装荷段階と起動に至る直ぐ手前まで到達したことをTVOは認識しており、同社は現在、燃料装荷の申請準備を進めている。運転認可についてはすでに今年3月、フィンランド放射線・原子力安全庁(STUK)からの意見書に基づいて雇用経済省が発給した。現地の報道によると、TVOは今回の遅れを6週間に留めるため、あらゆる手立てを尽くす方針。遅れの原因としては、今年の起動試験時に2~3のバルブが破損し、取り替える必要性が生じたことを示唆している。(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月8日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Nov 2019
1525
英国で小型モジュール炉(SMR)開発の企業連合を率いるロールス・ロイス社は11月5日、同国の準自治的非政府組織で戦略的政策研究機関の「UKリサーチ・アンド・イノベーション(UKRI)」から、英国政府の「産業戦略チャレンジ基金」のうち1,800万ポンド(約25億2,000万円)を受領したと発表した。これは、国内初のSMRを予備設計している同企業連合への、4年にわたる共同投資金の初回分となるもの。ロールス・ロイス社は英国全体の計画として、2050年までに最大で16のSMR発電所を国内で建設できると考えており、これにより最大4万人分の雇用が創出されるとともに、英国経済に対する貢献は520億ポンド(約7兆3,000億円)、輸出への貢献は2,500億ポンド(約35兆円)にのぼるとした。また、必要な法制やサイト選定プロセスなど、許認可手続や支援措置が順調に進めば、2030年代初頭から最初のSMRで信頼性の高い低炭素なエネルギーを得られるとしている。UKRIは2018年4月、革新的技術開発企業に研究開発費などの助成を行う英国政府機関「イノベートUK」、科学政策を調整する政府外公共機関である国内7つの「英国研究会議(RCUK)」、および大学の研究活動や知識交換活動への助成を担当する「リサーチ・イングランド(RE)」を統合して設立された。UKRIの投資金は、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)の科学予算を通じて提供されている。英国では今年6月、国内すべての温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロとするための法案が可決・成立した。この目標を達成するには、政府と産業界との協力が不可欠であるとの認識から、BEISは7月、新規原子力発電所建設プロジェクトの資金調達モデルとして検討中の「規制資産ベース(RAB)モデル」について、実行可能性の評価結果をパブリック・コメントに付した。また、革新的技術を用いたSMR原子力発電所の建設に対し、政府資金の中から最大で1,800万ポンドの投資を提案していた。ロールス・ロイス社の企業連合は、国際的な原子力エンジニアリング・研究開発サービス企業のアシステム社とアトキンズ社、建設土木企業のBAMナットル社とレイン・オルーク・グループに加えて、英国溶接研究所(TWI)、国立原子力研究所(NNL)、先進的原子力機器製造研究センター(NAMRC)などで構成される。ロールス・ロイス社によると、同企業連合が計画しているコンパクト設計の原子力発電所であれば、既存の原子力サイトへの輸送前に機器類を工場で製造し、サイト内の雨よけのある場所で迅速に組立てることが可能。天候による作業の中断を回避できるためコストの削減につながり、標準化・合理化された機器製造プロセスの活用により効率性も徐々に向上していくとした。また、各発電所の目標建設コストとして、同社は5つ目までは18億ポンド(約2,500億円)を設定、それぞれの運転期間は60年を想定している。今回の投資金は、規制当局が実施する包括的設計審査(GDA)の準備に宛てられるほか、革新的技術の開発推進と実現に向けた最終意思決定に活用される。ロールス・ロイス社のP.ステイン最高技術責任者は、「官民が連携することで、2050年までのGHG排出量実質ゼロ達成に向け、持続可能で適正価格かつ効率的な方策を見つけることができる」と強調。「政府との連携作業は、英国経済の低炭素化に向けた、また、英国社会にとって極めて重要な電力需要量を満たすための重要な一歩になる」と述べた。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月7日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Nov 2019
1873
米メリーランド州のセントラス・エナジー社(旧米国濃縮会社(USEC))は11月5日、新型原子炉用の燃料として使用が見込まれているHALEU(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の生産能力を実証するため、遠心分離機カスケードをオハイオ州パイクトンの「米国遠心分離プラント(ACP)」に配備するという3年契約を米エネルギー省(DOE)と締結した。HALEUを国内で確保できなければ、米国が世界の新型原子炉開発市場でリーダー的立場を確立する上で、大きな障害になることは広く知られていると同社は指摘。2017年の調査によると、米国内で新型原子炉を開発している大手企業のうち67%が、「HALEUの供給確保は緊急の課題」あるいは「重要課題」と回答したという。今回の契約の下で、同社は独自に開発した新型遠心分離機「AC100M」、およびHALEU生産用のカスケードを構成するインフラについて、許認可手続と建設・組立および運転を請け負うことになる。HALEUで製造した燃料は、米国の政府と民間の両部門で開発されている数多くの新型原子炉で必要となる一方、国内で商業的に入手することは困難。典型的な既存の原子力発電所ではU235の濃縮度が5%程度のウランを燃料に使用するのに対し、HALEUではこれが最大で20%となるため、セントラス社は「技術面と経済面ともに潜在的な利点がある」とした。一例として、ウラン濃縮度が高まることによって燃料集合体や原子炉を小さくすることが出来、燃料交換の頻度は低下すると同社は指摘。原子炉内では高い燃焼度を達成できるため、燃料の必要量が少なくなり、結果的に放射性廃棄物の排出量も少なくなる。HALEUはまた、米国をはじめ世界中で稼働している既存の原子炉に対し、将来的に次世代燃料を製造する際に用いられる。HALEUをベースとするこれらの新しい燃料であれば、既存の原子炉で発電量を増やしつつ、経済性を改善し固有の安全性も得られると同社は説明している。DOEとセントラス社による今回の連携プログラムは、今年5月末に両者が調印した予備的合意書簡に基づき進められてきた。セントラス社のD.ポネマン社長兼CEOは、「(この連携により)次世代の新型原子炉への移行を米国がリードする一助になる」と指摘。官民の両部門で様々な使命を持つ新型原子炉に、同社が力を与えられると確信していると述べた。また、国産HALEU技術への投資は、新型原子炉や燃料を開発している顧客のニーズに同社が応えることを可能にすると強調した。米国内では現在、HALEUの製造が直ちに可能な商業施設が存在せず、DOEはアイダホ国立研究所(INL)内に保管中のHALEU約10トンを使って、原子燃料を製造加工するパイロット・プログラムを推進中。昨年10月に、同プログラムが周辺環境に大きな影響を及ぼすことはないとする評価結果(案文)を1か月間、パブリック・コメントに付しており、今年1月には、INL設備を使ってのHALEU燃料製造が決定している。(参照資料:セントラス・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Nov 2019
2660
ロシアの民生用原子力発電公社であるロスエネルゴアトム社は11月1日、モスクワの南約500kmに位置するノボボロネジ原子力発電所で、II期工事2号機(PWR、115万kW)が予定より30日前倒しで営業運転を開始したと発表した(=写真)。出力3万kW以上の商業炉としては同国33基目のもので、これにより原子力発電設備容量は3,000万kWを越えた。また、ロシアで開発された第3世代+(プラス)の120万kW級ロシア型PWR(VVER)「AES-2006」としては、2017年2月と2018年10月にそれぞれ営業運転を開始した同発電所II期工事1号機(118万kW)、レニングラード原子力発電所Ⅱ期工事1号機(118.8万kW)に次いで国内3基目となる。ベラルーシやバングラデシュ、トルコなどでは、すでに同設計を採用した原子炉を建設中であるほか、ハンガリーやフィンランドでも計画中。中国で建設する話も提案されている。ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社は、ノボボロネジ発電所で完成した2基を参考炉として、海外で同設計をさらに建設していく考えである。ロスアトム社によると、同設計は第2世代の100万kW級VVER「VVER-1000」と比較して、経済面と安全面で数多くの利点がある。出力が20%向上した一方、必要とする運転員は30%~40%削減され、公式の運転期間も「VVER-1000」の30年から60年に倍増。さらに20年間、延長することも可能である。2009年7月に本格着工したノボボロネジII-2号機は、同発電所I期工事のVVER×5基(1号機:21万kW、2号機:36.5万kW、3、4号機:各41.7万kW、5号機:100万kW)から数えて7基目にあたるが、1号機から3号機は1984年から2016年までの間に永久閉鎖されている。II-2号機では今年2月に燃料が装荷され、3月に初めて臨界条件を達成。5月には送電を開始しており、営業運転を開始するまでに25億kWhを発電した。また同炉により、ロシア中央連邦管区の原子力発電シェアは27%に増加。同管区における経済成長を一層促進しつつ、CO2も年平均で400万トン分、排出を抑えられるとしている。(参照資料:ロスエネルゴアトム社、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月1日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Nov 2019
1568
英国最大の産業組織で日本の経団連に相当する英国産業連盟(CBI)は11月4日、国内の温室効果ガス(GHG)排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を掲げた英国にとって、「クリーン・エネルギー産業中心の経済成長に向けた投資の促進」といった国家的なアクションが緊急に必要とする報告書を公表した。発電部門においては、再生可能エネルギーに加えて原子力に対する支援を(12月の総選挙後の)次期政権に要請する考えで、2030年までに小型モジュール炉(SMR)の初号機を完成させるため、新設計画への資金調達用に「規制資産ベース(Regulated Asset Base=RAB)モデル」を構築すべきだと強調している。英国は2020年11月の国連気候変動枠組条約・締約国会議(COP26)を国内で開催予定であり、CBIによれば、GHGの削減で英国が世界的リーダーとなるための国際的協調活動と並行して、長期の国家的アクションの重要性を実証することになる。このため、直面している事態の複雑さと早急に動く必要性等に鑑み、ビジネス界が今後10年間で加速していくアクションに対し、政府による支援策の中でも優先すべき決定項目のいくつかを今回の報告書の中で指摘した。分野としては具体的に、(1)CO2の削減に向け輸送部門全体で必要となる(電気自動車の導入など)重要な変更事項の促進、(2)熱源の低炭素化とエネルギー効率の改善、に加えて(3)発電部門におけるCO2排出量の削減――など。(3)の中でCBIは、SMRの初号機建設を支援する資金調達の枠組整備を挙げた。政府は新規の原子炉建設に対する支援方針を明確に表明しているが、それは適正なコストでの建設であり、その他の低炭素電源に対してもコスト面の競争力を実証しなくてはならない。また、資金調達の新たなアプローチにより、将来的な原子炉建設プロジェクトでコストを削減できることも判明した。この点に関してCBIは、「RABモデル」を詳細に検討する方向性を支持しており、これにより建設期間中のリスク共有と収益確保の可能性が高まるとした。RABモデルはまた、資本コストの大幅な削減により、電気料金の削減という形でエンド・ユーザーに利益をもたらすことも可能。CBIは、政府が「環境と社会およびガバナンス(ESG)を考慮した責任投資」の中に原子力を含める努力を続けるべきだと指摘している。CBIはまた、従来の大型炉に加えてSMRも、コスト面や革新的技術の側面で英国のエネルギー・ミックスに貢献できる可能性があるとした。もちろん、2030年までに初号機の運転開始を可能とするためには、政府が時宜を得たタイミングで行動する必要がある。CBIによると、この目標の達成に向け、政府は可能な限り早急にSMRの建設サイトを特定しなければならず、SMRへの将来的な投資を支えていく政策面での支援も必要。政府はまた、今後のSMR建設プロジェクトでコストを削減するためには、サイト許可が継続的に発給されるよう規制手続の整備を確実に進める必要があるとしている。今回の報告書に関してCBIのC.フェアバーン事務局長は、「温暖化防止への取組みで残されている時間を考えると、我々はこれまで以上に迅速、かつ一層踏み込んだ取り組みが必要で、これからの10年間は非常に重要な時期だ」と指摘。「技術開発が急速に進展しコストも低下しているため、CO2排出量の実質ゼロという目標達成は可能だが、ビジネス界だけで成し遂げることはできない。目標達成までのあらゆる段階で、政府と連携することが必要だ」と訴えている。(参照資料:CBIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月4日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Nov 2019
1413
ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社の傘下で、核燃料の濃縮・転換・成型加工を担当するTVEL社は10月31日、同国で初めて軽水炉用に開発した事故耐性燃料(ATF)の原子炉試験で第一段階が完了したと発表した。同社は今年1月、ウリヤノフスク州ディミトロフグラードにある国立原子炉科学研究所(RIAR)で、ロシア型PWR(VVER)用と外国製PWR用の実験集合体2体を、所内のMIR材料試験炉に装荷。同炉の水流ループで設計外事象発生時のATFの耐性を試験するため、それぞれ2種類の燃料ペレットと被覆管を使って、合計4通りの異なる材料を組み合わせたATF燃料棒を1体に付き24本ずつ組み込んでいた。同社は今後、原子炉試験をさらに拡大していく方針で、2020年はATF燃料棒を含めた(取替用燃料1回分の)実験集合体を商業用の100万kW級VVERに装荷する計画。また、新たな有望材料を燃料ペレットと被覆管に組み合わせて、最適なATFを模索していくとしている。今回の原子炉試験でTVEL社は、被覆管としてジルコニウム合金にクロムをコーティングしたものと、クロムとニッケルによる合金製を使用。燃料ペレットについては、従来型の二酸化ウラン製のものに加え、高い密度と熱伝導率を持つウランとモリブデンの合金を使った。初回の照射サイクルを終えたこれらの実験集合体は、すでにMIR材料試験炉から取り出されており、モスクワにあるロシア無機材料研究所(VNIINM)の専門家が予備的な試験を実施。その結果、燃料棒の形状や被覆管表面に変化や損傷は認められなかった。また、それぞれの燃料集合体から燃料棒を何本か抽出して照射後材料科学研究を行っているほか、未照射の燃料棒をさらにMIR材料試験炉に装荷する試験も実施中だとしている。ロシアのATFコンセプトは、冷却材の喪失など、原子力発電所で過酷な設計基準外事象が発生した際の耐性を高めることが主な目的。炉心からの崩壊熱除去に失敗した場合でも、ATFは蒸気とジルコニウムの反応によって水素が発生するのを抑えつつ、長時間にわたって健全性を維持するよう設計されており、ATFは原子力発電所に全く新しいレベルの安全性と信頼性をもたらすとTVEL社は指摘している。(参照資料:TVEL社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月31日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Nov 2019
1942
仏国のB.ル・メール経済・財務相は10月28日、北西部にあるフラマンビル原子力発電所3号機(FL3)の建設プロジェクトが大幅に遅延し、建設コストも超過していることについて、事業者であるフランス電力(EDF)のJ.-B.レビィ会長に対し「(問題解決に向けた)アクション計画を1か月以内に提示すること」を要請した(=写真)。これは、この件に関してPSA(プジョーシトロエン)グループのJ.-M.フォルツ元会長が独自に取りまとめた監査報告書が25日に公表され、「度重なる計画の遅れとコストの超過はEDFの失策」と指摘したことを受けたもの。ル・メール経済・財務相は記者会見で、「これは仏国の原子力産業界全体で挽回しなければならない問題だ」と述べ、仏国におけるエネルギー産業の存立に関わる重要問題と訴えている。フラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)設計を採用したFL3の建設は2007年12月に開始されたが、原子炉容器鋼材の品質問題など様々なトラブルにより、2012年に予定されていた完成は2023年にずれ込む見通しである。EDFは2018年3月に2次系配管で事前点検を行った際、溶接部で複数の欠陥を検知。同年7月に修理を行ったものの、格納容器の2重壁を貫通する溶接部8か所については同年12月、仏原子力安全規制当局(ASN)に「十分な品質があり破断の心配はない」と保証した上で、修理対象から外していた。しかしASNは、諮問機関らの協力によりEDFの提案内容を引き続き検証。今年6月にはEDFに対して、「FL3の運転を開始する前に8か所の修理を終えること」を命じていた。今回の監査報告書は今年7月、EDFのレビィ会長がフォルツ氏に宛てた書簡の中で、10月末までに取りまとめることを依頼していた。この中でレビィ会長は、ASNが6月にEDF提案を却下した点に触れ、「プロジェクトにEPR設計を採用した理由や、スケジュールがたびたび遅延した原因、コストの初期見通しと完成までの差額、建設に関わる様々な企業の責任等について、株主である国に対し正確かつ完全な分析結果を示したい」と説明。同型設計ですでに営業運転を開始した中国の台山原子力発電所、およびフィンランドで完成に近づいているオルキルオト3号機と比較することも求めていた。フォルツ氏はEDFの内部資料や幹部職員へのインタビュー等を通じて検証を行い、2006年5月当時に33億ユーロ(約4,000億円)と見積もられていた建設コストが、今年10月までに7回改定され、現時点で124億ユーロ(約1兆5,000億円)に増加した事実に言及。完成の遅れと合わせて、これらはEDFの失策と考えられるが、台山発電所の2基が世界初のEPRとして営業運転を開始したことにより、EPRのコンセプトと設計が妥当であることが実証されたとフォルツ氏は見ている。当然のことながらEPRのシリーズ建設再開に向けて、これまでに得られた経験を保持しつつ、EPRのコスト削減と「建設可能性」について一層の改善を図るべきだとフォルツ氏は勧告。FL3計画の遅れは、必ずしも現行のプロジェクト管理チームが原因というわけでは無いが、最新のプロジェクト管理技術を持った常勤スタッフ、および潤沢な自己資金を備えた、強力なプロジェクト・チームに立て直すべきだとした。フォルツ氏はまた、EDFに対しても、安全規制当局やサプライヤーと更なる調整を図ることを進言。産業界に対しても、より一層協調していくことで作業員の訓練、とりわけ溶接作業員の能力が改善される。要求の高い分野で質の高い専門家を多数蓄えるためには、初期の訓練と能力の維持で多大な努力を積み重ねることが必要だと強調している。(参照資料:仏経済・財務省(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月29日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Oct 2019
1812
国際原子力機関(IAEA)の加盟国中35か国で構成される理事会は10月29日、天野之弥事務局長の後任指名のため同日に実施した選挙で、在ウィーン国際機関アルゼンチン政府代表部のラファエル・M・グロッシ大使(58)(=写真)が過半数の24票を獲得し、新たな事務局長に決定したと発表した。今年7月に天野事務局長が任期半ばで死去した後、アルゼンチン、ブルキナファソ、ルーマニア、スロバキアの各国政府は、9月5日までに理事会に対し、それぞれの後任候補者を推薦。10月10日以降、当選に必要な3分の2以上の票数を獲得する候補者が現れるまで、理事会で非公開の投票が重ねられていた。今後は10月30日に、全加盟国の参加も可能な理事会を開催して、グロッシ大使を任期4年の新事務局長に指名。さらに、この決定を臨時総会に提出し、これら171加盟国の代表から承認を得るとしており、同大使は2019年中に6人目のIAEA事務局長に就任する。1957年にIAEAが設立されて以来、米国、スウェーデン、エジプト、日本が歴代事務局長を輩出しており、グロッシ大使は初の南米からの選出となる。グロッシ大使は学生時代、政治学で学士号、国際関係学で修士号を取得したほか、国際史と政治学および国際関係学で博士号を取得。IAEAでは2010年~2011年まで事務局長室のトップ、その後2013年までは政策関係の幹部職(Assistant Director General for Policy)も勤めた。アルゼンチン国内では、連邦計画・公的投資省の戦略計画委員会で原子力問題の特別顧問、外務省の政策調整官、アルゼンチン宇宙活動委員会(CONAE)の特別顧問などを歴任。国際機関関連では、化学兵器禁止機関(OPCW)の事務局長室や北大西洋条約機構(NATO)のアルゼンチン政府代表部で外交活動を担った。また、IAEAに加えて包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)、国連薬物犯罪事務局(UNODC)、国連工業開発機関(UNIDO)でも、アルゼンチン大使を務めている。2015年に国連安全保障理事国+ドイツが結んだイランとの核合意(「包括的共同行動計画(JCPOA)」)は、米国の離脱により、ますます危機的状態に陥っているが、現地の報道によると同大使は、この問題も含めてIAEAの役割を確実に、しかし「公平に」扱っていきたいとしている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
30 Oct 2019
4906
カナダで使用済燃料の処分事業を担当する核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は10月15日、深地層処分場の建設サイト選定のため、オンタリオ州イグナス地域で進めていた2本目の試験坑のボーリング作業が9月中旬に完了したと発表した。同処分場の受け入れ自治体については、NWMOが2010年から選定手続を開始。イグナス地域は、オンタリオ州とサスカチュワン州で関心表明していた22地点のうちの1つである。選定プロセスの第1フェーズである予備評価の結果から、同地域を含む9地点が2015年に第2フェーズに選ばれ、地質調査や制限付きボーリング調査が実施されることになったが、その後の調査で候補地点はオンタリオ州内の5地点に絞られた。NWMOは同地域でボーリング作業を継続し、最終的に施設の受け入れに協力的な1地点を2023年までに選定することになる。残っている5地点は、イグナス地域のほかにヒューロン=キンロス、サウスブルース、ホーンペイン、およびマニトウェッジの各地域。イグナス地域での試験坑掘削は2017年11月から始まっており、NWMOは掘削済みの2本で現場試験を行うほか、掘削時に掘り出した円柱形の地質サンプルや採取水等の分析・調査を国内外の研究所で進めていく。現場試験には約8週間を要するのに加えて、その後に研究所で実施する分析作業については数か月かかる見通し。しかし、このような作業を通じて地球科学や地力学、石油物理学に関する様々なパラメーターが得られ、地層に対する統合的理解が深まるとした。NWMOはまた、1本目と2本目の試験坑から2.5km離れた地点で、すでに3本目のボーリング作業を開始。さらに4本目~6本目に関しても、今月から掘削準備を始めている。地層科学に関する情報やデータ、知見を収集して、使用済燃料の長期的な安全管理のためにカナダが策定した計画を前進させたいとしている。(参照資料:NWMOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月28日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Oct 2019
1171
仏国のアレバ社(Areva SA)は10月25日、P.バラン会長の後任人事として、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)の長官経験者であるヤニック・デスカタ氏(=写真)を、前日の理事会で全会一致で指名したと発表した。デスカタ氏は、11月13日に開催される総会で正式に会長職に就任する。アレバ・グループは2014年に48億ユーロ(約5,800億円)という巨額の損失を計上した後、仏国大統領の決定に従い2015年から大規模な再編計画が開始された。その結果、2017年に原子炉機器と燃料の設計・製造、関連サービス部門がフランス電力(EDF)に売却されて「フラマトム社」となったほか、ウランの採掘・濃縮・転換および使用済燃料の再処理を中核とする燃料サイクル部門は「オラノ社」として再出発した。残ったアレバ社(Areva SA)は100%仏国政府の所有となり、フィンランドで長期化しているフラマトム社製・欧州加圧水型炉(EPR)のオルキルオト3号機(OL3)建設プロジェクト等にあたっている。発表によると、同グループの再編が完了しOL3も完成に近づいていることから、バラン会長は今後、同社の非常勤理事に退くほか、オラノ社の会長職などその他の職務に集中する方針である。デスカタ氏は仏原子力産業界で30年以上の経験を積んでおり、エリート養成機関の1つである国立理工科大学卒業後、産業省の原子力発電所建設検査事務局長などを経て、1995年のCEA長官就任をはじめ、CEAが9割出資するテクニカトム社、EDFなどで要職を歴任。2003年から2013年までは、仏国立宇宙研究センター(CNES)の理事長を務めていた。(参照資料:アレバ社(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
28 Oct 2019
1065
チェコの産業貿易省は10月21日、国営送電会社(CEPS)が取りまとめた「(国内の発電システムに関する2040年までの)中期的適性評価予測報告(MAF CZ 2019)」で、国内の電源が今後大幅に減少していくと予測されたことを踏まえ、国内2つの原子力発電所で新規原子炉の建設準備を進めるなど、電力消費量をカバーするための努力が必要だと訴えた。CEPSの最新報告書によると、チェコにおけるエネルギーの自給と電力供給に大きな影響を及ぼす重要なファクターとして、経年化した石炭火力発電所が徐々に閉鎖されていくことや、総発電量の約3分の1を賄う既存の原子力発電所で2030年代に一部の運転期間が満了すること、再生可能エネルギー源の開発も限定的、ということがある。このまま状況が改善されなければ、チェコは早ければ2030年初頭から次第に電力を輸入するようになると指摘している。チェコ政府は2015年5月に公表した「国家エネルギー戦略」のなかで、原子力発電シェアを当時の約35%から2040年までに60%近くまで増加させる必要があると明記。同戦略のフォロー計画として、この翌月に閣議決定した「原子力発電に関する国家アクション計画(NAP)」では、化石燃料の発電シェアを徐々に削減するため、原子力と再生可能エネルギーが重要な役割を果たすとしていた。NAPはまた、既存のドコバニとテメリンの両原子力発電所で1基ずつ、可能ならば2基ずつ増設する準備の必要性を指摘。特にドコバニ発電所では、既存の全4基が2035年から2037年の間に運転を終了するため、原子炉の増設を優先的に行うとしている。 「MAF CZ 2019」は、欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)が欧州全体の電源状況について取りまとめた「中期適性予測(MAF)」を補完するための、国別報告書となる。同報告書はシナリオA(基本版)とシナリオB(低炭素版)の2つを提示しているが、どちらも2040年までにドコバニ原子力発電所で全4基の運転がすでに終了していると想定。バッテリーや燃料電池等から車両の動力を得る「エレクトロモビリティ」の開発が盛り込まれている。CEPSのM.ドゥルチャク会長によると、これらのシナリオでは既存電源の閉鎖にともない、チェコは2030年以降、少しずつ電力の輸入に頼ることとなり、電力輸出を行っている現状から需給バランスは根本的に変化。2040年までに必要な輸入量はシナリオAで230億kWh、Bでは最大300億kWhに達するとした。これに加えてシナリオAでは、新規電源を増設しなかった場合、「1年間に供給力不足が生じる時間の予測値(LOLE)」が2040年までに合計678時間に達するリスクがある。シナリオBに至っては3,622時間になる危険性さえあり、現状を維持するための十分な電力の確保は決定的に重要な課題となる。これらを踏まえてK.ハブリーチェク副首相兼産業貿易大臣は、「これ以上時間を無駄にしている余裕はなく、チェコがエネルギーを自給し十分な電力供給を確保できるよう、失われる電源を埋め合わせていかねばならない」と述べた。欧州の法制に従い、チェコは2025年から2035年までの期間の「戦略的備蓄」に向けて具体的な準備を進めており、原子力発電設備の建設については明確なスケジュールを設定。これに沿って、ドコバニ発電所における新規原子炉の建設準備作業を集中的に続けるほか、テメリン原子力発電所についても、原子炉の増設に関する協議を5年以内に開始しなければならない。チェコにとって、新たな原子炉の戦略的建設計画は無くては不可欠だと強調している。(参照資料:チェコ産業貿易省(チェコ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Oct 2019
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ハンガリーでパクシュ原子力発電所5、6号機(Ⅱ期工事)の建設計画を請け負っているロシアの原子力総合企業ロスアトム社は10月22日、同社の子会社を通じて、両炉用の自動プロセス制御システム納入契約を仏フラマトム社と独シーメンス社の企業連合と締結した(=写真)。同建設計画では今年6月、サイトにおける準備作業の一環として補助建屋や事務棟、倉庫など80以上の関係施設の建設工事が始まったが、建設許可はまだ発給されておらず、原子炉系統部分で最初のコンクリート打設が行われるのは早くても2021年になると見られている。仏独の企業連合は今回、競争入札の末に自動プロセス制御システムの製造と納入を請け負っており、このほかに、情報セキュリティ関係の要件遵守など、同システムの認証手続きも実施する。フラマトム社は長年にわたり、ロシアの原子力発電所で自動システム関係のプロジェクトに携わってきたため、計測制御(I&C)系関連で同社が蓄積してきた専門的知見を、欧州で建設されるロシア型PWR(VVER)にも活かしたいと述べた。パクシュ発電所はハンガリー唯一の原子力発電施設で、出力50万kWのVVER(VVER-440)4基により、同国の総発電量の約半分を賄っている。1980年代後半に運転開始したこれらの原子炉は、すでにVVERの公式運転期間である30年が満了、プラス20年の運転期間延長手続が完了している。Ⅱ期工事で建設される第3世代+(プラス)の120万kW級VVER×2基は、最終的にⅠ期工事の4基を代替することになる。ハンガリー政府は2014年1月、この増設計画をロシア政府の融資により実施すると発表。翌月に両国は、総工費の8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆2,000億円)の低金利融資について合意した。同年12月には、双方の担当機関が両炉のエンジニアリング・資材調達・建設(EPC)契約など、関連する3つの契約を締結している。実際の建設工事は、ロスアトム社のエンジニアリング部門「ASEエンジニアリング社」が進めていくが、自動プロセス制御システムの機器管理など、パクシュⅡ期工事の全段階における技術管理と統合作業については、ロスアトム社傘下の「ルスアトム自動制御システムズ(RASU)社」が担当。仏独企業連合と結んだ契約も、RASU社のA.ブッコCEOがロシア側を代表して調印しており、欧州の顧客が課される高い要件を確実にクリアできるよう、同企業連合とともに全力を尽くすと述べた。RASU社は原子力発電所の電気工事分野で、自動制御システムや統合工学ソリューションの開発経験を長年にわたって蓄積。パクシュⅡ期工事では、レニングラード原子力発電所Ⅱ期工事のVVER-1200を参考炉とし、自動プロセス制御システムの製造と納入、起動までのプロジェクトを包括的に実施することになる。(参照資料:ロスアトム社、フラマトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月23日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Oct 2019
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GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社は 10月21日、ポーランドで同社製小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」を建設する可能性を探るため、同国最大の化学素材メーカー「シントス社(Synthos SA)」と協力していくことで合意し、了解覚書を締結したと発表した。シントス社は合成ゴムなどの製造で知られる大手企業で、CO2を排出しない発電技術による電力を需要に応じて適正価格で、信頼性の高い専用電源から得ることに関心を持っている。今回の覚書で両社は具体的に、「BWRX-300」の建設可能性調査をポーランドで共同実施することで合意。また、同国におけるエネルギー部門の近代化や現実性を踏まえた脱炭素化達成など、ポーランドが抱えるエネルギー問題への取組みでSMRが果たす役割に期待をかけるとしている。一方、ポーランド政府は昨年11月、公開協議に付した「2040年までのエネルギー政策(PEP2040)」(ドラフト版)の中で、2033年までに出力100万~150万kWの原子力発電初号機の運転を開始し、その後2043年まで2年毎に、追加で5基(合計出力や600万~900万kW)建設していくと発表。これらの原子力発電設備で、国内電力需要の約10%を賄うとしていた。GEH社の発表によると、「BWRX-300」は自然循環を活用した受動的安全システムなど、画期的な技術を採用した出力30万kWの軽水炉型SMR。2014年に米原子力規制委員会(NRC)から設計認証を受けた第3世代+(プラス)の同社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベースとなっており、原子力産業界で深刻な課題となっているコスト面の対策として、開発設計の全段階を通じてコストが目標内に収まるよう管理するアプローチを採ったという。これにより同設計は、コンバインドサイクル・ガス発電や再生可能エネルギー、その他の発電技術に対しても、コスト面で競争力があるとGEH社は強調。1MWあたりの資本コストも、既存の大型炉やその他の軽水炉型SMRとの比較で最大60%削減するとしており、このようなSMR技術に注目し、ポーランドでクリーン・エネルギーの利用オプションも提唱しているシントス社への期待を述べた。シントス社側も、「クリーンなSMRを活用することで石炭火力から脱却する機会が増し、産業界やポーランド全体に良い影響が出る」とコメントしている。なお、GEH社は今年5月、同設計についてカナダで申請していた許認可申請前ベンダー審査が始まったと発表した。今月初旬には、バルト三国の1つであるエストニアでも同SMRが建設可能かを調査するため、同国のエネルギー企業フェルミ・エネルギア社と協力覚書を締結している。(参照資料:GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、WNAの10月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Oct 2019
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国際原子力機関(IAEA)は10月17日、加盟国の民生用原子力発電所で濃縮ウランの供給を保証するため、カザフスタンに設置した「低濃縮ウラン(LEU)備蓄バンク」に、仏国のオラノ・サイクル社から最初のLEUが到着したと発表した。これにより、IAEAが保有しカザフスタンが管理する同バンクは正式に運営を開始。IAEAは1957年の創立以来、最も意欲的かつ挑戦的なプロジェクトが本格的に始動したとしている。IAEAは昨年11月、一般競争入札で選定したオラノ・サイクル社、およびカザフの国営原子力企業カザトムプロムと、原子力発電所用燃料の原料となるLEUの購入契約を締結した。今回、オラノ・サイクル社から出荷されたシリンダー32本分のLEUは、まず仏国の港までトラックで輸送され、その後海路でロシアに到着。そこから列車により、カザフスタン北東部オスケメン市にあるウルバ冶金工場(UMP)の特設貯蔵施設(=写真)に運ばれた。到着までに4週間以上を費やしたが、今回のLEUは典型的な100万kW級軽水炉に装荷される1回分の取替用燃料に十分な量。今年末までには、カザトムプロムから2回目の積荷が到着することになる。核燃料の供給を保証しつつ、核物質の拡散リスク軽減も目指すという多国間管理システムの構築は2003年にIAEAのM.エルバラダイ事務局長(当時)が初めて提唱。2010年12月にIAEA理事会は、これを設置することを決定した。IAEAのLEU備蓄バンクは、商業市場その他の既存ルートからLEU供給が途絶した場合の最終手段として、IAEA理事会の適格性基準を満たした加盟国のみが利用できる。100万kW級の軽水炉を3年間運転するのに十分な最大90トンを備蓄する方針で、施設の安全・セキュリティはカザフ政府が責任を負い、同国の法制と規制要件に準じて運営される。また、LEUはIAEAの保障措置管理下に置かれ、利用国にはIAEAの包括的保障措置協定の締結と遵守が義務付けられる。IAEAは2015年8月、同バンクのホスト国となることを希望したカザフとバンクの設立協定を締結しており、2017年8月にはUMPで同バンク用のLEU貯蔵施設が完成した。設立経費とその後20年間の運営費については、米国と同国の民間団体「核脅威イニシアチブ(NTI)」、欧州連合(EU)、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェート、ノルウェー、カザフスタンから合計約1億5,000万ドルが拠出されている。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月18日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Oct 2019
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米エネルギー省(DOE)のR.ペリー長官は10月17日、今年中に長官職から退くとの意向をD.トランプ大統領宛ての書簡で明らかにした。同氏はトランプ政権発足直後の2017年3月からDOE長官を務めていたが、ここ数か月は、同大統領に対する弾劾調査の原因となったウクライナ疑惑への関与が取り沙汰され、下院からは召喚状を出されていた。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
18 Oct 2019
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英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は10月17日、高レベル放射性廃棄物等の深地層処分インフラ設置に向けたプロセスで、プロジェクトの実施に必要な開発合意書(DCO)の発給審査の基礎となる「国家政策声明書(NPS)」を発行したと発表した。イングランド地方における同インフラ設備(深地層処分場と深地層調査用ボーリング孔)の開発については、BEISが2018年1月から4月にかけてNPSの案文を、建設サイトの選定プロセス提案文書とともに公開協議に付した。得られたコメントを勘案したNPS案文は、同年の夏に議会の上下両院、および関係委員会による精査が完了、今年7月からは改定版が再び議会審議にかけられていた。BEISのN.ザハウィ・ビジネス産業担当相はNPSの発行について、「議会審議プロセスの最終ステップであり、高レベル廃棄物の管理で英国が解決策を見出す重要な節目になる」と指摘。そのような廃棄物を安全・確実に管理するインフラの「必要性」がNPSでは明確に説明されており、計画審査庁が深地層処分インフラの開発でDCOの発給判断を下す際、適切かつ有効な枠組を提供することになるとした。 また、今回のNPSでは2008年の計画法に従い、同NPSが持続可能な開発に貢献するとともに、気候変動の影響緩和と適応、景観等への配慮がなされていることなどを保証する「持続可能性評価(AoS)」の結果と、サイト選定で考慮すべき点などを考慮する「生息環境規制評価(HRA)」の結果が含められた。ザハウィ・ビジネス産業担当相はこれら2点についても最終版を発行し、BEISのウェブサイト上に掲載したことを明らかにした。今回のNPSによると、高レベル廃棄物を深地層処分場で長期的に管理することは、技術的、倫理的および法的側面からも必要なものであり、最良の処分方法であるという点では国際的に圧倒的合意が得られている。その他の処分方法についても検討が行われたが、いくつかの側面で適切でないことが判明。仮に、高レベル廃棄物のいくつかのカテゴリーで他の管理オプションを進めた場合でも、現実的な将来シナリオにおいてはやはり、深地層処分場が必要になるとしている。(参照資料:BEISによる議会声明、発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Oct 2019
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