カナダ・オンタリオ州の州営電力会社であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は7月12日、米X-エナジー社が開発している小型のペブルベッド型高温ガス炉「Xe-100」をカナダ国内で幅広く産業利用する可能性を探るため、同社と協力する枠組み協定を締結したと発表した。OPG社は昨年12月、既存のダーリントン原子力発電所で完成させるカナダ初の小型モジュール炉(SMR)として、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定。「Xe-100」はその際、候補の3設計の中に含まれていた。今回の協定を通じて、両社は「Xe-100」を用いて産業界の脱炭素化を促したいと考えている。オンタリオ州内の様々な産業サイトで「Xe-100」を建設する機会を模索するだけでなく、カナダ全土においても同設計の活用が可能な産業サイトやエンド・ユーザーを特定していく。発表によると、「Xe-100」では電力と高温蒸気の生産技術を効率的に組み合わせるなど、国内産業の脱炭素化に貢献できる実証済みの原子力技術を最大限に採用。具体的には、オイルサンドから石油を抽出する事業や鉱山での採掘事業などでの応用が可能だとしている。第4世代の原子炉設計に位置付けられる「Xe-100」は、需要に応じた出力の変動が可能で、1基あたり最大で20万kWの熱出力と8万kWの電気出力を備えている。565℃の高温蒸気を効率的に生産できるなど、柔軟性の高いコジェネレーション(熱電併給)オプションとなるため、両社は「複数の産業プロセスの脱炭素化を促進するとともに、エンド・ユーザーの電力ニーズにも応えられる理想的な設計」だと評価している。連邦政府の天然資源省が作成した「SMR行動計画」によると、カナダにおけるSMRの開発と建設は2030~2040年の期間に、年間190億カナダドル(約2兆250億円)の経済効果を国内で生み出すほか、カナダ全土で年間6,000名以上の新規雇用を創出する可能性がある。カナダはまた、地球温暖化への対応およびエネルギー供給保証の観点から、世界中でSMRの建設機会が生まれるようリードしていく方針。「SMR行動計画」では、2040年までにSMRは世界中の様々な分野で年間1,500億加ドル(約15兆9,900億円)の価値を生み出すと試算。具体的にそれらの分野は、重工業への熱電併給に加えて石炭火力発電所のリプレース、遠隔地の島国や送電網が届かないエリアへの電力供給だと指摘している。 X-エナジー社カナダ法人のK.M.コール社長は、「オンタリオ州のみならず、カナダ全土におけるクリーンエネルギーの課題に、当社は腰を据えて取り組んでいく。今回の枠組み協定を通じて、当社のSMRが産業界の脱炭素化に貢献できることを実証するが、このことは州政府とカナダ連邦政府が地球温暖化の防止で掲げた目標の達成においても重要だ」と指摘した。 オンタリオ州政府のT.スミス・エネルギー相は、「原子力分野の技術革新とエネルギー供給の保証対策という点で、当州は引き続き世界をリードする」と表明。その上で、「SMR技術への初期投資、およびカナダのその他の州政府や諸外国と進めている協力はCO2排出量の削減に役立つだけでなく、経済成長や雇用の創出などの機会を国中に提供している」と強調した。(参照資料:OPG社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jul 2022
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国際原子力機関(IAEA)は7 月4日、小型モジュール炉(SMR)を始めとする先進的原子炉設計の標準化や関係する規制活動の調和を図ることにより、その開発と建設を安全・確実に進めていくという新しいイニシアチブ「Nuclear Harmonization Standardization Initiative(NHSI)」を開始したと発表した。初回会合を6月23日と24日の両日にウィーンのIAEA本部で開催しており、この目標の達成に向けたロードマップ作りについて協議したことを明らかにしている。発表によると、IAEAはNHSIを通じてSMRの建設を円滑に進めるとともに、最終的には2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するための、SMRの貢献を最大限に拡大する方針である。初回会合には33か国から原子力関係の上級規制官や産業界のリーダーなど125名が参加し、規制当局者による会合、および先進的原子炉技術の開発事業者や運転事業者などに分かれて議論。互いに補完し合うこれらの議論を通じて、2024年までの共同作業計画を策定するとしている。開会挨拶をしたIAEAのR.M.グロッシー事務局長は、「原子力発電では安全・セキュリティの確保で最も厳しい基準をクリアしなければならないが、これらの安全・セキュリティは必要な規模の原子炉建設が可能であるかを計る基準になる」と指摘。その上で、「NHSIは懸案事項を減らすための構想ではなく、現状を正しく理解して速やかな目標達成を促すためのものだ」と説明した。規制当局者の会合では、①情報共有インフラ、②事前の規制審査を行う国際的な枠組み、③ほかの規制当局の審査結果を活用するアプローチ、それぞれの構築に向けて3つの作業部会が設置され、作業を並行的に進めることになった。同会合の座長を務めたIAEAのA.ブラッドフォード原子力施設安全部長は、「目標としているのは、規制当局者同士の協力を拡大することで審査の重複を避け、規制面の効率性を強化、原子炉の安全性と各国の国家的主権を損なわずに規制上の見解を一致させることだ」と述べた。原子力産業界による会合では、SMRの製造と建設および運転で一層標準化したアプローチをとることが目標に掲げられ、SMRの許認可スケジュール短縮やコスト削減、工期の短縮を図ることになった。SMR開発のビジネス・モデルにおいてはこのような標準化アプローチにより、初号機を建設した後の連続建設時にコストや工期の削減が可能になることが多い。産業界の会合ではこのため、①高いレベルのユーザー要件の調和を図る、②各国の関係規格と基準について情報を共有する、③コンピューター・シミュレーションでSMRをモデル化する際のコードについて、実験と検証を重ねる、④SMRに必要な原子力インフラの実現を加速する、といった目標の達成に集中的に取り組むとしている。NHSI初会合ではこのほか、SMR建設の加速で規制当局者と原子力産業界の協力を促進するのにあたり、重要になる分野として、「特定のSMR設計とその安全・セキュリティに関する両者間の情報共有で解決策を確立すること」などが指摘された。NHSIの次回会合は2023年に予定されており、それまでの進展状況等を評価することになる。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jul 2022
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ポーランドの原子力規制当局である国家原子力機関(PAA)はこのほど、小型モジュール炉(SMR)建設を計画する国内2社から、PAA長官による「包括的な(評価)見解」の取得申請書を受領したと発表した。米ニュースケール社の「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数基備えた原子力発電設備「VOYGR」の建設は、ポーランド鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社が計画中。一方、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の「BWRX-300」については、オーレン・シントス・グリーン・エナジー社が建設を計画している。「包括的な(評価)見解」の取得は予備的な許認可手続きの一つであるが、原子力安全と放射線防護の確保に関わるため同国の原子力法にも規定されている。当該設備の設計や技術、事業者の組織構造等に対するPAA長官の評価によって、その設備が原子力安全面と放射線防護面の要件を満たしているかの決定で直接的な影響を与える。PAA長官は通常6か月かけて評価結果をまとめるが、複雑な案件であることから3か月延長して9か月後に見解を提示する可能性があるとしている。KGHM社はポーランド南西部にある欧州最大規模の銅鉱床で採掘を行っている企業で、これらの事業に必要な電力や熱エネルギーの約半分を2030年末までに社内設備で賄う方針。同社はまた、2050年までに同社事業によるCO2排出量の実質ゼロ化を目指しているため、太陽光などの再生可能エネルギーや先進的SMRなど原子力発電の開発を進めている。PAAの今回の発表によると、KGHM社が建設を計画しているのは1モジュールの出力が5万kWのNPM。NPMは2020年9月に米国のSMR設計として初めて、原子力規制委員会(NRC)から「標準設計承認(SDA)」を取得している。今年の2月には、同社は「VOYGR」の国内建設に向けてニュースケール社と先行作業契約を締結しており、早ければ2029年にも最初のNPMの運転を開始する方針。今回の申請について同社は「ポーランド初の申請者になった」と強調しており、次の段階として立地点の選定準備を始めるほか、運転員など原子力関係の専門家訓練も実施すると表明している。一方のオーレン・シントス・グリーン・エナジー社は、同国の大手化学素材メーカーであるシントス社(Synthos SA)のグループ企業シントス・グリーン・エナジー(SGE)社と、最大手の石油精製企業であるPKNオーレン社が50%ずつ出資して設立した合弁事業体。シントス社は無炭素電源による電力に関心が高く、PKNオーレン社は2050年までに自社のCO2排出量を実質ゼロ化することを目指している。これらのことから、オーレン・シントス・グリーン・エナジー社はポーランド国内でSMRの商業化を進める方針。GEH社の「BWRX-300」を選択した理由については、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社がオンタリオ州内のダーリントン原子力発電所で建設するSMRとして、3つの設計候補の中から「BWRX-300」を選択した事実を挙げた。「BWRX-300」は出力30万kWのBWR型SMRで、2014年にNRCから設計認証を受けた第3世代+(プラス)のGEH社製設計「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」がベース。今回の申請にともないオーレン・シントス・グリーン・エナジー社がPAAに提出した技術文書は、カナダ原子力安全委員会の「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」に向けてGEH社が準備した文書が元になっている。OPG社がカナダで「BWRX-300」の初号機を建設すれば、オーレン・シントスJVのSMRは同設計の2基目となるため、その開発や投資の準備、許認可、建設・運転まで、OPG社の経験を参考にできると説明している。(参照資料:PAAの発表資料①、②(ポーランド語)、KGHM社、およびオーレン社の発表資料(ポーランド語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jul 2022
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英国の環境庁(EA)は7月4日、イングランド南東部サフォーク州でサイズウェルC(SZC)原子力発電所を建設・運転した場合の環境影響に関して、3種類の許可を発給する方針を提案。同提案を9月25日まで12週間にわたりパブリックコメントに付した。同提案について、国民やエネルギー関係の産業界、学界、NGO等から幅広く意見を募集、その上で最終的な判断を下し2023年初頭に結果を公表するとしている。EDFエナジー社の下でSZC計画を担当する子会社のNNB GenCo(SZC)社は2020年5月、SZC発電所の運転に際して放射性廃棄物を排出・処分する方針と、同発電所の予備電源としてディーゼル発電機を使用すること、および温排水と液体排出物を北海に放出する方針について、EAに許可申請書を提出した。EAは同年7月から10月までこの3つの申請書を審査した上で今回の判断を下したもので、これについては放射線影響に関する評価や周辺生態系の規制に関する評価、関係水域の水質や量に関する対策の枠組み評価等からも、EAの判断を支持する結果が得られたとしている。EAでSZC計画を担当するS.バーロー・マネージャーは、「これは発電所を建設する何年も前からNNB GenCo社が申請していた許認可。プロジェクトの開始前に発給の判断を下せば、発電所の設計や資機材の調達、起動などの面で良い影響があるし、周辺環境や野生生物の保全という点でも万全だ」と指摘した。パブコメの募集に関しては「我々の提案を関係者およびその他の人々に広く知らしめた上で意見を伺いたいし、我々が見落としているかもしれない情報の提供もお願いする」と表明。最終判断を下す際には、得られた意見を注意深く考慮すると約束している。SZC計画では、フラマトム社製の167万kWの欧州加圧水型炉(EPR)を2基建設する予定で、NNB GenCo(SZC)社は2020年5月、計画法(2008年制定)に基づき「開発合意書(DCO)」の申請書を計画審査庁(PI)に提出した。計画法によると、担当大臣は審査機関がDCO発給の可否に関する審査報告書を提出してから3か月以内に可否の判断を下さねばならず、SZC計画のDCOに関しては7月8日が、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣が議会に結果を報告する現時点での期限となっていた。しかし、住宅・コミュニティ・地方自治省のP.スカリー閣外大臣は今月7日(※スカリー大臣は同日付でBEIS政務次官から異動)、議会の下院に対し「DCO発給の可否を公表する期限として新たに7月20日を設定した」と発表。理由として、BEIS大臣に十分な検討時間を与えるためだと説明している。EDFエナジー社は現在、イングランド南西部サマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所(172万kWのEPR×2基)を建設中だが、このプロジェクトでは中国広核集団有限公司(CGN)が2016年9月に33.5%の出資を約束した。その際、CGNはSZC計画に関しても20%の出資を約束していたことから、DCOの発給判断を下すのに先立ち今一度熟慮が必要と見られている。(参照資料:英国政府の発表資料①、②、英国議会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Jul 2022
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欧州連合(EU)の主な政策決定機関である欧州議会は7月6日の票決の結果、環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準「EUタクソノミー」において、持続可能とみなすための技術的精査基準となる「地球温暖化の影響を緩和する(補完的な)委任法令(Delegated Act: DA)」に、一定条件下で原子力関係の活動を加えるとした欧州委員会(EC)の提案に異存はないと発表した。欧州議会とともにEUの政策決定を担う欧州連合理事会が、今月11日までに異議を唱えなければ、同DAは2023年1月1日付で発効し適用が開始される見通しだ。EUは2050年までに域内CO2排出量の実質ゼロ化を目指しているが、その達成に資する諸活動には多額の民間投資が必要。このため、EUの執行機関であるECは、同タクソノミーを通じて民間投資を誘導する方針である。ECは近年の科学技術の進歩を考慮すると、原子力および天然ガスへの民間投資もCO2ゼロ化への移行促進に有効と考えている。このためECは今年2月、同タクソノミーの下で1月1日から施行されている現行のDAで、原子力と天然ガスに関する経済活動を過渡期の暫定的な活動として認めると同時に、これらに関して明確かつ厳密な条件を設定する提案を行った。しかし、欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会と経済通貨委員会は6月14日、この提案を否決すべきだとする動議を提議、欧州議会では今回この動議に関する票決が行われた。結果として278議員がこの動議に賛成したのに対し、328議員が反対票を投じたほか33議員が棄権。EC提案を退けるには欧州議会の絶対多数である353議員がこの動議に賛成する必要があり、その場合ECはこの提案を取り下げるか、あるいは修正を余儀なくされることになっていた。 この結果についてECは同日、「加盟国でCO2排出量ゼロ化への移行を支援する現実的なアプローチとして、一定条件下で原子力の活動も加えるとしたECのDA提案が認識されていることが明確になった」と表明。「CO2のゼロ化はEUの目標であり、それゆえに法的拘束力ももつので、CO2を多量に排出するエネルギー源の排除に利用できる手段はすべて活用したい」と述べた。また、「ウクライナに対するロシアの理不尽な軍事侵攻は、クリーンエネルギーへの移行を早め一層緊急性を帯びたものにしたが、ECが今回提案したDAは、ロシア産化石燃料依存から脱却するための具体策『REPowerEU Plan』と同じくこのような現実を反映しており、ロシアからの天然ガス輸入量の削減に有効である」と指摘した。欧州原子力産業協会(今年6月に英名称をフォーラトムからニュークリアヨーロッパへ改称)は同日、欧州議会の決定を祝福するコメントを発表した。Y.デバゼイユ事務局長は、「原子力が持続可能なエネルギー源であるとともに、地球温暖化との闘いにおいても重要であることは科学的に明快だ」と指摘。その上で、「欧州議会の大多数がEC共同研究センター(JRC)の専門家の意見に耳を傾け、正しい判断を下したことは本当にすばらしい」と称賛している。(参照資料:欧州議会①、②、EC、Nucleareuropeの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jul 2022
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国際エネルギー機関(IEA)は6月30日、特別報告書「Nuclear Power and Secure Energy Transitions: From today's challenges to Tomorrow's clean energy systems 」を発表。世界中で燃料価格が高騰し供給保障上の懸念が高まるなか、低炭素エネルギー・システムを備えた社会への移行を目指す国では、原子力発電が重要な役割を果たす可能性があると強調した。IEAによると、原子力発電を今後も継続利用する、あるいは利用拡大する道を選択した国では、輸入化石燃料への依存度が軽減されCO2の排出量が削減、太陽光や風力等の発電シェアが拡大した低炭素な電力システムを構築することが可能である。逆に、原子力なしで持続可能なクリーン・エネルギー・システムを構築することは非常に難しく、リスクが高い上にコストもかかる。IEAは、「世界的なエネルギー危機への取り組みで、原子力は再生可能エネルギーを中心とするエネルギー・システムへの確実な移行を促進できる」と強調している。プレスリリースの中でIEAは、世界では現在32か国が原子力発電所を運転しており、低炭素な電力の生産量では原子力が水力に次いで第2位になると指摘。これらの原子力発電設備のうち約63%は1970年代のオイルショック直後に建設されたため、運転を開始してからすでに30年以上が経過している。しかし近年は、先進国から新興経済国にいたるまで、様々な国がそれぞれのエネルギー戦略の中で原子力に多くの役割を担わせるとともに、原子力への大規模な投資を奨励している。IEAのF.ビロル事務局長は「エネルギーを取り巻く近年の世界情勢や地球温暖化防止への意欲的な取り組みなどから、原子力が返り咲くまたとないチャンスが訪れたと確信している」と表明。しかしその一方で、「『新たな原子力時代の到来』は決して保証されたものではなく、返り咲けるかどうかは各国政府が原子力発電所を安全に運転させ、新たな原子力技術への投資を支持する政策を打ち出せるかにかかっている」と指摘した。また、原子力産業界に対しては、「いくつかの先進国を悩ませている新規建設計画の工期延長とコストの増加という課題に、早急に取り組まねばならない」と言明。「結果として、先進諸国が原子力市場で主導的な立場を失い、2017年以降に世界で着工された原子炉31基中、27基までがロシア製と中国製になった」と指摘している。IEAではこのように、原子力発電所の安全性を高めその利用を支援するには、各国政府の断固とした政策が必要と考えているが、産業界側でも建設プロジェクトを予算の範囲内に収めるなど、その発電電力が競争力を持つよう上手く進めねばならない。原子力のように大きな資本を必要とする長期資産の建設で、民間部門だけで十分な資金を調達できることは滅多になく、採用する技術の新旧に関わらず政府の財政支援が引き続き必要になると強調している。2050年までのCO2排出量実質ゼロ化に向けIEAが設定した進路では、世界の原子力発電設備は2020年から2050年までの間に倍増させる必要があり、今世紀半ばまでに排出が抑制されるCO2の約半分は、まだ商業化されていない新しい技術によるものとなる。その中には、出力が従来の大型炉の約3分の1(30万kW以下)という先進的原子炉「小型モジュール炉(SMR)」が含まれており、IEAはそのコストの低さやサイズの小ささ、プロジェクトリスクの低さという点から、これまでの大型炉より社会的に広く受け入れられ、民間投資が集まるかもしれないと指摘した。SMRはまた、閉鎖された火力発電所の跡地にも建設できるため、既存の送電網や冷却水、熟練した労働力の再利用が可能。ただし、これを長期的に建設していくには政策立案者の強力な支援が必要であり、IEAとしてはただ単に投資を促すだけでなく、規制の枠組の合理化や調整も必要と考えている。原子力の継続利用を決めた国へのIEA勧告これらを踏まえ、IEAは原子力を今後も活用する国の政策立案者に向けて以下の事項を勧告。原子力を利用しない国については、その選択を尊重するとした。既存の原子力発電所の運転期間延長を承認し、安全性が保証される限りできるだけ長期に運転を継続する。CO2を排出せず、継続的に電力供給が可能という原子力発電所の長所が、公平かつ競争性を維持したやり方で補償されるよう電力市場の構造を設計する。新規の原子炉建設計画を支援するため、投資家と電力消費者の間でリスクを共有する枠組や、適正なコストで新設計画への投資が行われるような資金調達の枠組を創設する。新設計を採用したプロジェクトも含めて、建設プロジェクトの安全規制を効果的かつ効率的に進めるため、十分な財源と規制の能力を確保する。高レベル放射性廃棄物の最終処分場をこれから建設する国では、サイト近隣住民の合意が優先されるよう住民を交えて計画を推進する。低炭素な電力や熱、水素を低コストで供給可能な小型モジュール炉(SMR)の開発と建設を加速するため、実証炉計画やサプライチェーン開発への投資を支援する。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jul 2022
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ユン大統領©Office of the President (South Korea)今年5月に発足した韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)政権の産業通商資源部(MOTIE)は7月5日、同政権による初のエネルギー政策が同日の国務会議で決定したと発表した。ムン・ジェイン(文在寅)前政権が定めた脱原子力政策を正式に撤回し、総発電量における原子力発電のシェアを上方修正すると表明。2030年に原子力で少なくとも総発電量の30%を賄う方針であることや、白紙撤回された新ハヌル3、4号機(各PWR、140万kW)建設計画の再開方針などを明確に示している。新しいエネルギー政策の背景として、ユン政権はCO2排出量の実質ゼロ化に向けた傾向が世界中で加速するなか、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻等によりエネルギー・サプライチェーンへの不安が高まっていると指摘。気候中立とエネルギー供給保証という2つの目標の達成において、エネルギー政策が担う役割はこれまで以上に重要になってきていると強調。国内外の状況変化に対応し、原子力の比重拡大など気候中立関係の課題を克服するには、新しいエネルギー政策の目標と方向性を設定する必要があるとした。その主な柱として、ユン政権は①地球温暖化への対応、②エネルギー供給保証の強化、③エネルギー関係の新たな産業創出により堅固なエネルギーシステム実現、を明示。具体的な項目として、2021年に27.4%だった原子力発電シェアを2030年に30%、あるいはそれ以上とするほか、化石燃料の輸入依存度を削減、革新的なエネルギー技術を持つベンチャー企業の育成を挙げている。原子力に関しては、2017年の「エネルギー転換(脱原子力)ロードマップ」と2019年の「エネルギー基本計画」に明記された原子力発電所の段階的削減政策を撤回。これに代わって、新ハヌル3、4号機建設計画の再開を確定しており、これらの早期実施に向けて、年内にも両炉で停止している設計作業の再開に120億ウォン(約12億円)を提供するとした。原子力発電シェアの拡大は、建設中の原子炉が正常に稼働すること、および既存の原子炉についても安全性の確保を条件に支障なく運転継続すると仮定して算定したもの。また、高レベル放射性廃棄物の処分も、特別法の制定などを通じて実施する方針で、首相が司令塔となって処分実施の専門機関を設置する。ユン政権はさらに、2030年までに10基の原子炉を輸出するとともに、韓国独自の小型モジュール炉(SMR)開発を促進するため4,000億ウォン(約414億円)を投入すると表明。これらの作業スケジュールを早期に策定することで、韓国原子力産業界の再活性化を目指すとしている。このほかユン政権は、世界でも一流の水素産業を国内で育成するとともに、太陽光や風力などの再生可能エネルギー分野でも、タンデム太陽電池や超大型風力タービンといった次世代技術を早期に商品化する方針である。これらのエネルギーや原子力を調和させることで、化石燃料の輸入依存度は2021年の81.8%が2030年には60%に削減され、輸入量では2021年比で約4,000万トン(石油換算)の減少になると予想。技術革新を担うベンチャー企業の総数も、エネルギー関係の新産業創出とその輸出産業化によって、2020年の2,500社が2030年には約5,000社に倍増するとしている。(参照資料:MOTIE(韓国語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jul 2022
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欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)は6月30日、チェコのドコバニ原子力発電所・増設計画に対し、チェコ政府が予定している補助金等の支援がEU域内の競争法であるEU機能条約(TFEU)の国家補助規則に適合しているか、詳細な調査を開始すると発表した。ドコバニ原子力発電所(各PWR、51.0万kW×4基)は、国内のもう一つの原子力発電設備であるテメリン発電所(各PWR、108.2万kW×2基)と同様、国営電力のCEZグループが運転している。1980年代に運転を開始したドコバニ発電所の4基は徐々に閉鎖時期を迎えるため、同グループはⅡ期工事として出力の大きい5、6号機(各最大120万kW)の増設を計画中。2015年には、建設プロジェクトの準備と実施を担当する子会社として「ドコバニⅡ原子力発電会社(EDUⅡ)」を設立した。テメリン発電所でも一時期、3、4号機の増設計画が進められていたが、チェコ政府が「完成した原子炉からの発電電力を固定価格で買い取る保証はしない」と明言したため、計画は2014年に頓挫した。ドコバニ発電所の増設計画に関しては、同国のA.バビシュ首相が2020年5月、「総工費の7割までを政府が低金利で融資する」と表明。2021年9月には、完成した原子炉の発電電力を政府が保証価格で買い取るメカニズムを盛り込んだ「低炭素エネルギーへの移行法」が成立している。 ECの今回の発表によると、チェコ政府がドコバニ5号機の増設と運転の支援方針を伝えてきたのは今年3月のこと。運転開始は2036年に予定しており、同炉でチェコおよび近隣諸国の電力供給を強化するとともに、国内エネルギー部門の脱炭素化を促進、エネルギー・ミックスの多様化を図るとしていた。具体的な支援として、チェコ政府は以下の3つの方法を提示した。①約75億ユーロ(約1兆673億円)の総工費を100%カバーする低金利の国家融資を提供する、②ドコバニ5号機が稼働する60年の間、国有の企業がEDUⅡ社から発電電力を買取る契約を結ぶ、③法制の変更など不測の事態で増設計画が頓挫した場合に備え、同プロジェクトに多額の投資を予定しているCEZグループ、およびチェコ政府を守るためのメカニズムを設置する。現段階でECは予備的に実施した評価の結果として、「建設プロジェクトは必要なものであり、政府の支援方法は経済活動を発展させると思われる」と指摘した。しかし、これらの方法がEUの国家補助規則に厳格に適合しているかは疑わしいため、以下の点について詳細な調査を行うとしている。3つの支援方法の妥当性とその配分比率。これらの方法はすべて、EDUⅡ社が被るかもしれないリスクの軽減を目的としているが、全体として必要以上の支援にならないようにすることは重要である。発電電力の売買契約は特に、ほかの2つの方法が十分考慮された場合に60年という適用期間が正当化される。市場の競争原理に対する影響、およびこの影響を最小限に抑えられるかという点。ECは特に、CEZグループ以外にも建設プロジェクトのプロモーターになり得る企業があったのではないかという点、また、発電電力を買い取り転売する国有企業の設置という判断が市場にもたらす影響にも疑念を抱いている。なお、ドコバニ発電所の増設計画に対しては、2021年3月に原子力安全庁(SUJB)が2基分の立地許可を発給。今年3月には、EDUⅡ社が最初の一基となる5号機のサプライヤーについて競争入札を開始した。同計画を所轄する産業貿易省が入札の実施と、同計画への参加に関心を表明していた米ウェスチングハウス(WH)社とフランス電力(EDF)、および韓国水力・原子力会社(KHNP)の入札招聘を正式に承認したもの。これらのほかに、ロシア国営の原子力総合企業ロスアトム社と中国広核集団有限公司(CGN)も参加を希望していたが、産業貿易省は資格審査の実施に先立ち、これら2社を除外する判断を下している。(参照資料:ECの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Jul 2022
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エジプトの原子力・放射線規制機関(ENRRA)は6月29日、原子力発電庁(NPPA)に対し、エルダバ原子力発電所1号機の建設許可を発給した。同機はエジプト初の原子力発電所で、ロシアのロスアトム社が建設している。エルダバ発電所の建設サイトは首都カイロの北西300 km、地中海沿岸のエルダバ市内にあり、第3世代+(プラス)の最新鋭の120万kW級ロシア型PWR(VVER-1200)を4基建設することになっている。エジプト電力・再生可能エネルギー省の下でこの計画を担当するNPPAは、2021年6月にENRRAに対し1、2号機(各120万kW)の建設許可を申請、同年12月には、3、4号機(各120万kW)の建設許可申請書も提出した。これらの動きから、ロスアトム社は2021年7月に機器の製造を開始。2028年にも1号機の商業運転を開始するとしている。NPPAのA.エル・ワキル長官は、「原子力発電所の建設は我が国が1950年代から70年以上にわたって切望していたもの。ようやく念願が叶いエジプトはその仲間入りをする」と強い意欲を示している。建設許可の発給についてロスアトム社は、「申請書の準備では膨大な作業を必要としたが、その甲斐あって1号機では最初のコンクリート打設を含む本格的な建設工事の開始が可能になった」と表明した。同社のA.リハチョフ総裁はVVER-1200について、「世界で最も厳しい安全基準を満たした信頼性の高い設計であり、ロシア国内ではすでに4基が稼働中だ」と説明。エルダバ原子力発電所はアフリカ大陸で建設される最初の第3世代+プラントとなることから、「エジプトはこの地域で技術面のリーダーシップを握ることになる」と指摘している。ロスアトム社によると、VVER-1200はロシアのノボボロネジ原子力発電所Ⅱ期工事、およびレニングラード発電所Ⅱ期工事で採用されており、両発電所ではすでに2017年2月から2021年3月にかけて、2基ずつ(各118万~120万kW)営業運転を開始。国外ではベラルーシのベラルシアン原子力発電所1号機(119.4万kW)が2021年6月に営業運転を開始したほか、同2号機(119.4万kW)も2014年4月から建設中となっている。エルダバ原子力発電所の建設については、2015年11月にエジプトとロシアの両政府が2国間協力協定(IGA)を締結しており、翌2016年5月にロシア政府は最大250億ドルの低金利融資(年3%)をエジプトに提供するための大統領令を公布。2017年12月になると、両国政府はエルダバで4基のVVERを建設する内容のパッケージ契約に調印した。これらの契約に基づき、ロシア側はエジプトで原子力発電所を建設するのに加えて、各原子炉の運転期間である60年分の燃料を供給する。エジプト側の人材育成についても教育訓練を実施するほか、運転開始後10年間は発電所の運転・保守(O&M)を支援、使用済燃料の中間貯蔵施設もエジプト国内で建設し、貯蔵用コンテナを提供することになる。 (参照資料:ロスアトム社、NPPA(アラビア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Jul 2022
3163
中国核工業集団公司(CNNC)は6月28日、浙江省の三門原子力発電所で、3号機(PWR、125.1万kW)の原子炉系統の据付部分に最初のコンクリートを打設したと発表した。同炉は今後着工する4号機(PWR、125.1万kW)とともに同発電所のⅡ期工事に位置付けられており、CNNCはこれにより正式にⅡ期工事の建設工事開始を宣言した。同発電所および山東省の海陽原子力発電所では、受動的安全系を装備した米ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)設計の「AP1000」が2基ずつ、それぞれ1、2号機(三門は各125.1万kW、海陽は各125.3万kW)として、2018年から2019年にかけて営業運転を開始。これらのうち、最も早い2018年9月に運転を開始した三門1号機は、世界で初のAP1000となった。今回の発表で、CNNCは三門3、4号機の炉型に言及していないが、AP1000設計中国版の標準設計「CAP1000」になるとの見方が有力である。CAP1000の開発は、その容量拡大版のCAP1400が中国に知的財産権を認めるとのWH社との契約にはあったものの、これまでその進展状況が明らかにされていなかった。中国・国務院の常務委員会は今年の4月20日、三門発電所と海陽発電所、および広東省の陸豊原子力発電所で、大型炉を新たに合計6基建設する計画を承認した。これを受けてWH社は同月26日、「新たに4基のAP1000建設が三門と海陽で承認されたことから、世界のAP1000は米国で建設中のものも含めて合計10基になる」とコメントしている。CNNCによると、浙江省には中国初の原子力発電所となった秦山原子力発電所(I期工事~Ⅲ期工事まで合計7基)が立地するなど、同国の原子力産業の発祥地である。三門発電所では最終的に合計約600万kWのPWR建設が予定されており、1、2号機の発電量は累計ですでに600億kWhを超えた。Ⅱ期工事の3、4号機が完成した場合、同発電所の設備容量は500万kWを超え、これらによる総発電量は年間400億kWhに到達する見通し。これは年間3,000万トンのCO2の排出が抑制されることを意味しており、浙江省と長江デルタ地域における中・長期的な電力供給を支えるとともに、産業構造とエネルギーミックスの最適化を促進。クリーンで低炭素なエネルギーへの移行が促され、同省の高度な社会経済の発展がもたらされる。 CNNCの顧軍・総経理も三門3号機が本格着工したことについて、「浙江省とCNNCの産業開発にとって非常に重要な意味があり、エネルギー分野における両者の協力は今後さらに進展する」と指摘した。また、今後の抱負として、「国家の要求に応じてCNNCは今後も原子力開発を積極的かつ整然と進めていき、クリーンなベースロード電源としての原子力の役割を十二分に発揮させる。科学的な計画立案と高い技術を備えた開発を精力的に促して、電力・エネルギーの供給と低炭素社会への移行を確実なものとし、経済の安定化を図りたい。中央企業としての実践活動の中で社会・政治的な責任を果たすとともに、中国原子力産業界の質の高い発展を牽引していく」としている。(参照資料:CNNCの発表資料①、②(中国語版)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jun 2022
3079
カナダ中西部サスカチュワン州の州営電力会社であるサスクパワー社は6月27日、同州内で2030年代半ばまでに小型モジュール炉(SMR)を建設する場合、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製のBWR型SMRである「BWRX-300」(出力30万kW)を採用すると発表した。このSMR建設計画を実際に実行するかについて、同社は2029年まで判断を下さない方針だが、そのために必要なプロジェクトの開発業務や許認可など規制関係業務を現在進めている。この中でも特に重要なのが、採用炉型の選定と建設サイトの選定で、サスクパワー社はSMRを受け入れる可能性のあるサイトの詳細な技術評価をさらに進め、年内にも適切と思われるサイトを複数選定するとしている。サスクパワー社は、2030年までに州内の温室効果ガス(GHG)排出量を2005年レベルの50%削減し、最終的には2050年までに実質ゼロ化することを目標に掲げている。そのため、GHGを排出しない発電オプションについて技術評価を実施しており、その中には風力と太陽光発電の拡大、隣接州との送電網相互接続、バイオマス、地熱、および原子力としてのSMR導入が含まれている。この評価で同社が特に重点を置いたのは、安全性や発電技術としての完成度のほかに、発電規模、燃料のタイプ、予想される発電コストなど。SMRに関しては、カナダ全域で複数のユニットを建設するアプローチについて、2019年から独自の包括的な評価作業をオンタリオ州の州営電力(OPG)などと緊密に協力して実施した。同社によれば、この方式であれば規制面や建設・運転面のコストが低く抑えられるほか、初号機建設にともなうリスクも回避され、サスカチュワン州にとって多くの利点がある。OPG社は2021年12月、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所内で、早ければ2028年初頭までに完成させるSMRとして「BWRX-300」を選定しており、GEH社の今回の発表では、OPG社は年内にも同SMRの建設許可を申請する見通しである。これらのことから、サスクパワー社は同じ設計を選択することで「カナダ全域で複数ユニット」方式の利点が発揮されると説明している。同社の今回の決定について、サスカチュワン州政府のD.モーガン・サスクパワー社担当大臣は、「当州が一層クリーンで持続可能な未来に向けて前進する重要な節目になった」と評価。同州が設定した「サスカチュワン成長計画」に基づき、CO2を排出しないSMRの建設計画がさらに進展したと強調した。サスクパワー社のT.キング暫定社長兼CEOは、「原子力産業界の一リーダーであるGEH社は、当社とサスカチュワン州の住民に今後数十年にわたって恩恵をもたらす可能性がある」と指摘。「同社の『BWRX-300』設計は、安全で信頼性の高い持続可能な電力を供給しつつCO2排出量を削減するという当社の目標達成に大きく貢献する」と述べた。カナダでは2019年12月、大型の原子力発電所が立地するオンタリオ州とニューブランズウィック州、およびウラン資源が豊富なサスカチュワン州の州政府が、出力の拡大・縮小が可能で革新的な技術を用いた多目的SMRを国内で建設するため協力覚書を締結。2021年4月にはこの協力覚書にアルバータ州も加わっており、これら4州は今年3月に、SMRを開発・建設してくための共同戦略計画を発表している。SMR建設の許認可手続については、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が2019年7月、プロジェクト開発企業のグローバル・ファースト・パワー社が、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社製「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」をオンタリオ州内のチョークリバー・サイトで建設するために提出した「サイト準備許可(LTPS)」の申請書を受理。同審査は2021年5月、技術審査段階に進展している。一方、ダーリントン発電所内でOPG社が建設する「BWRX-300」については、同社が大型炉建設計画のために2012年に取得したLTPSの10年延長を、2020年6月にCNSCに申請。CNSCは2021年10月にこれを承認しており、ダーリントン・サイトは現在、カナダで唯一LTPSが認められている地点である。(参照資料:サスクパワー社、GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Jun 2022
3605
G7で発言するバイデン大統領 ©White House米国のJ.バイデン大統領は6月26日、ドイツ南部のエルマウにおける主要7か国(G7)首脳会議で、ルーマニアが進めている米ニュースケール・パワー社製・小型モジュール炉(SMR)の建設計画を支援するため、1,400万ドルを拠出すると発表した。この日のG7では、発展途上国へのインフラ投資を促す新たな枠組み「グローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)」の発足が決定しており、米国政府は助成金や連邦政府資金、および民間資金も含めて今後5年間で2,000億ドルを調達すると表明。対象案件の一つとして、ルーマニアにおける「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の建設計画を挙げたもの。米国政府がニュースケール社とともに拠出する助成金の1,400万ドルは、候補地である同国南部のドイチェシュティ(Doicesti)で出力7.7万kWのNPMを6基備えた発電設備「VOYGR-6」を建設するのに先立ち、実施が予定されている「(予備的な)基本設計(FEED)調査」に充てられる。この計画については、米貿易開発庁(USTDA)がすでに2021年1月、建設サイトの選定作業を支援するため、ルーマニア国営の原子力発電会社(SNN)に約128万ドルを交付した。このような実績に基づき、今回の助成金は政府資金を呼び水として、数十億ドル規模の企業投資を促すことを狙っている。同時に、先進的原子力技術の分野で米国が保有する技術力を明確に示し、クリーンエネルギーへの移行を加速するほか、数千人規模の雇用を創出する意図がある。また、原子力発電で高いレベルの安全・セキュリティや核拡散抵抗性を維持しつつ、欧州のエネルギー供給を強化・保証するものでもある。この発表については、SNNが翌27日に謝意を表明している。ドイチェシュティのFEED調査で得られる重要データは、コストの見積もりや綿密なスケジュールの立案、許認可手続きなど国内外の規制要件に基づいたプロジェクト設計に役立てるほか、ルーマニア国内で機器の製造・組立てや関連サービスを提供する可能性のあるサプライヤーを、この段階で特定すると説明した。SNNのC.ギタCEOは、「米国の原子力規制委員会(NRC)が初めて承認した唯一のSMR設計を、我が国の脱炭素化のみならず、エネルギーの自給力向上と繁栄にも役立てたい」とコメント。その上で、「米国との協力を通じて、原子力分野の新しいプロジェクトでは最も厳しい安全基準を確実にクリアしていくとともに、ルーマニアが既存のチェルナボーダ1、2号機で25年以上にわたり蓄積してきた安全運転の経験や専門的知見で、欧州初のSMR建設に貢献したい。民生用原子力プログラムの導入を検討中の国々には、その範例を示すつもりだ」と述べた。なお、ルーマニアではこのほか、建設工事が停止中のチェルナボーダ3、4号機(各70.6万kWのカナダ型加圧重水炉)を完成させる計画も進められており、米国政府は2020年10月、同計画への支援とルーマニアの民生用原子力発電部門の拡大と近代化に協力するため、ルーマニアとの政府間協定(IGA)案に調印した。米輸出入銀行(US EXIM)もこれと同じ日、ルーマニアのエネルギー・インフラ分野等に対する最大70億ドルの財政支援に向けて、同国の経済・エネルギー・ビジネス環境省と了解覚書を締結している。(参照資料:ホワイトハウス、SNNの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jun 2022
2227
ポーランド政府所有の電力会社であるエネア(Enea)・グループは6月22日、米国の小型モジュール炉(SMR)開発企業であるラスト・エナジー社と基本合意書を締結。SMRのポーランドへの導入を目指す。同設計の経済面と技術面の実行可能性を検証した後、エネア・グループが実施した市場分析等に基づいて、さらなる協力の範囲を定めるとしている。基本合意書によると、ラスト・エナジー社はSMRの設計・建設から、資金調達、設置とメンテナンス、燃料供給、廃棄物の回収、廃止措置に至るまで、開発プロジェクトの全般にわたりエネア・グループに協力する。一方、ポーランド側では、この合意で石炭や輸入天然ガスへの依存度を下げ、クリーンで価格も手ごろな電力の利用拡大を目指しており、エネア・グループは共同建設を担当する合弁会社の設立も想定している。自社の発電設備としてSMRを活用するだけでなく、将来的には産業界への熱供給も計画。同グループの開発戦略に沿って原子力関係の新しい事業を創出するほか、2050年までにポーランドがCO2排出量を実質ゼロ化する一助としたい考えだ。ラスト・エナジー社のSMR(電気出力2万kW、熱出力6万kW)は、実証済みのPWR技術を用いたモジュール式の設計で、ベースロード用電源として活用が可能。同社によると、従来の大型炉と比べて製造に必要なコストと時間が大幅に削減される見通しで、最終投資判断が下されてから24か月以内に納入することを目指す。同設計は運転期間42年を想定している。同社はすでに、欧州のみならず南米やアジア諸国の政府や規制当局、およびエネルギー企業などと同社製SMRに関する協議を実施。今年3月には、ルーマニアのN.チューカ首相が、同社と協力して同社製SMRをルーマニア国内に導入する意欲を表明している。基本合意書の調印は、ポーランド大統領の後援で2016年から毎年開催されている大型の経済イベント「コングレス590」で行われた。調印式に同席したポーランドのJ.サシン副首相兼国有財産相は、「国家のエネルギー供給を長期的に保証していくため、従来の大型炉や全く新しい小型炉設計など、その規模に関わらず原子力発電を導入していきたい」と表明。今後、未知の多難な方向へ歩を進めるエネア・グループが、信頼できる案内役をパートナーとして見つけたことを祝福すると述べたほか、「ポーランドがエネルギー供給を維持していけるか決定づける時が来た」と強調した。ポーランドではこのほか、化学素材メーカーのシントス社と石油精製企業のPKNオーレン社が昨年12月、合弁事業体を設立してSMRの中でも米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」の建設に重点的に取り組むと表明。また、ポーランド鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘(KGHM)会社は今年2月、米ニュースケール・パワー社の先進的SMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数備えた「VOYGR」発電設備を、2029年までに国内で建設するため、先行作業契約を同社と締結している。また、フランス電力(EDF)は昨年10月、ポーランド政府に対し2~3サイトで4~6基のフラマトム社製「欧州加圧水型炉(EPR)」(合計660万~990万kW)の建設を提案していたが、今月22日に「この提案を再確認するため、ポーランド国内でこの計画に参加する資格がある5つの企業と、新たに協力協定を締結した」ことを明らかにしている。(参照資料:エネア・グループ、ラスト・エナジー社、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jun 2022
2333
米原子力エネルギー協会(NEI)のM.コースニック理事長は6月21日、会員企業やその他の原子力関係者らを招いて毎年開催している「Nuclear Energy Assembly」で、原子力産業界の現状に関する講演を行った。同理事長によると、地球温暖化やエネルギー関係の重要な国際会議では、この1年間に原子力に対する認識に大きな変化が見られ、今や地球温暖化の防止に欠かせない電源であるとの評価を受けつつある。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に関しては、「ロシアの核燃料供給に依存しないためにも、燃料供給企業や電気事業者、投資家、大学等に至るまで、全員が協力して既存の原子炉を動かし続けねばならない」としたほか、米国の電気事業者が2050年までに、米国内で9,000万kWの原子炉新設を検討中であることを明らかにした。同理事長の講演概要は以下のとおり。♢ ♢世界では近年、干ばつや洪水、山火事など気候変動に起因する災害が激しくなり、停電も頻発するようになってきた。我々に敵対する国々が燃料供給を世界的規模で操作しているため、同盟諸国では燃料の利用や送電網の安定性が脅かされている。幸いなことに、米国を含む同盟諸国の指導者たちは、地球温暖化への対応が我々の送電網や経済、エネルギーの供給保証と本質的に結びついていることを理解しているため、CO2排出量の削減に向け、利用可能なクリーンエネルギー源すべてを活用するという政策目標を一致して掲げている。我々は原子力が最も信頼性の高い低炭素な発電オプションであることを知っているが、原子炉の新設を現在のスローなペースで進めていけば、脱炭素化の意欲的な計画も計画のままで終わる。我々はこの観点から、世界が切実に必要とする実質的な脱炭素化を達成する上で、何が欠かせないのかを真摯に見つめなければならない。今から30年後の未来に、既存の大型炉や最新の先進的原子炉など、数百基の原子炉を中心とする低炭素なエネルギーシステムの構築に我々が成功すると想像してみたが、大気を汚さず、陽が差さなくても毎日24時間絶え間なく稼働する原子力は無炭素な未来を切り開くカギであり、我々が今、正しい選択を行えば、このような想像を現実のものにすることが出来る。英国グラスゴーで開催されたCOP26を始め、世界中のエネルギー関係会議でCO2排出量の削減に原子力の果たす役割が着実に認められてきており、米国でも議会が超党派で原子力の支援を約束している。2021年にバイデン政権は原子力への支援政策を開始しており、エネルギー省(DOE)のJ.グランホルム長官は「我々の脱炭素化政策のなかで原子力は絶対的な重要部分を担っている」と表明。超党派議員の大多数が「無炭素で低コストな将来エネルギーへの道は原子力によって実現する」ことを理解し、既存炉の維持と新しい技術を用いた原子炉の建設に向けて、かつてない規模の予算措置を講じている。その一例が、昨年11月に成立した「超党派のインフラ投資法」であり、インフラ産業全体で1兆2,000億ドル規模の投資を約束。その中で原子力関係にも既存炉の早期閉鎖を防止するため、「民生用原子力発電クレジット・プログラム」に60億ドルを配分したほか、「先進的原子炉の実証プログラム」については予算が25億ドルに増額された。太陽光や風力といった再生可能エネルギーも重要だが、次世代の原子炉は陽が差さない時や風が吹かない時にも電力を供給するなど、これらを完璧に補うことが可能である。その他にも、先進的な原子炉設計には様々な用途があり、世界最大規模の都市から遠隔地のコミュニティに至るまで、どのような規模においても無炭素エネルギーの供給に新たな可能性を拓くことができる。将来必要になる原子炉を、仮に複数建設することになった場合、次の課題は「いつ、どこで」ということになるが、近年公表された報告書によると、小型モジュール炉(SMR)の場合、閉鎖される石炭火力発電所の跡地に建設して関係インフラを利用することができる。また、石炭火力の既存の労働力も最大で75%までが原子力発電所に移行可能と見積もられており、そこでは発電所の運転期間である60年間の雇用が保証されるほか、高い賃金も支払われる。CO2を排出しないという原子力の利点はまた、その他の産業からも認められている。CO2排出量の45%を排出する運輸業と製造業は、国連から排出量の早急な削減を求められている。このため、化学製造業のダウ・ケミカル社や米国最大の鉄鋼メーカーのニューコア社、ポーランドの合成素材メーカーであるシントス社などが、SMRの活用に関心を表明。SMR開発企業への投資も進めているケースもある。いずれにしても、原子力発電所を建設するという選択は小さな決断ではないし、これを建設することは経済面や安全セキュリティ面で100年にわたり信頼関係を構築することになる。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、エネルギーの供給保証が国家の安全セキュリティと結びついていることを明確に示したが、米国の原子力産業界はロシアからの燃料輸入を排除できるよう、バイデン政権や議会および同盟諸国とともに、世界中の原子炉に確実かつ信頼性の高いやり方でウラン燃料を供給していく考えだ。我々はまた、ウラン燃料の転換や濃縮分野で米国がリーダーシップを取り戻したいと考えており、それには連邦政府の支援が必要になる。欧州諸国は今まさに、ロシアからのエネルギー輸入から脱却する方策を模索しているところだが、米国のウェスチングハウス社が燃料の供給と原子炉の新規建設でウクライナの原子力発電公社と進めている協力は、そのような国際連携に価値があることの証拠である。米国の原子力規制委員会(NRC)は近年、新しい原子炉関係の審査で急速に増加する申請への対応に直面しており、これらを実際に建設することになれば一層効率的な規制手続きが必要になる。NEIが最近、会員の電気事業者に対して実施した聞き取り調査では、これらの企業は2050年までに新たに9,000万kWの原子力発電設備を米国の送電網に接続することを検討中。これは今後25年間に、約300基のSMRを建設することに相当する。DOEではすでに、融資プログラム局が米国内での原子炉新設プロジェクトに関する複数の申請書に対応している。米輸出入銀行(US EXIM)も、米国企業との事業協力を希望する外国企業への融資案件に対応中だが、その輸出にともなう売り上げは莫大で、今後30年間で1兆9,000億ドルに及ぶと見積もられている。この講演の冒頭では、30年後の原子力産業界のビジョンについて述べたが、このような未来の実現に向けた活動の開始を1年も待つ余裕はないし、半年でも遅い。次世代原子炉の開発に今取り組まなければ、代償は送電網にかかる経費や我々の経済、環境という形で現れる。事はすでに進み始めており、今こそすべてを原子力に賭けるべき時だ。(参照資料:NEIの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jun 2022
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クリーンで安全な第4世代の先進的原子炉を開発するため、2021年9月に英国で設立された新興企業のニュークレオ(Newcleo)社は6月20日、今年3月の初回の株主総会を契機に開始した資金調達で、2か月間で3億ユーロ(約429億円)の調達に成功したと発表した。この資金を活用して、同社は今後5年から7年の間に、英仏の両国で鉛冷却高速炉(LFR)の電熱加熱式プロトタイプ装置(出力3万kW)を建設するほか、LFRで使用するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の製造工場についても建設を進める方針。このため、グローバルな原子力産業企業である仏オラノ社には、同工場建設の実行可能性調査を依頼中であり、今年の後半にもLFRプロトタイプとMOX燃料製造工場の建設サイトの確保に向けて、優先業務を進めていきたいとしている。ニュークレオ社は最終的に、モジュール式で受動的安全系を備えた小型の可搬式LFR(出力20万kW)の開発を検討しており、今年3月にはイタリア経済開発省の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)と協力する枠組協定を締結した。ENEAは液体鉛の分野で世界レベルのノウハウを蓄積しており、欧州原子力共同体(ユーラトム)が進めているLFR開発プロジェクトでは、イタリアのアンサルド社とともに主導的役割を担っている。ニュークレオ社はまた、LFRの製造販売に向けた国際拠点として、子会社の「ニュークレオSA社」をフランスで設立した。同国では今年2月、CO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するため、E.マクロン政権が既存の商業炉の運転期間延長と新たな原子炉の建設を含むエネルギー政策を公表したことから、同社にとって戦略的に重要な市場になると考えている。フランスではすでに高速炉でのMOX燃料使用が認められているため、同社はLFRでこの燃料を使えばコスト面の競争力が上がるだけでなく、本格的に持続可能な原子力アプローチになると考えている。具体的には、長寿命の放射性廃棄物を処分する環境面や財政面の負担を減らせるほか、核拡散上のリスクも軽減、新たな原子燃料の入手でウランを採掘する必要性も完全になくなるとした。これらのことから、ニュークレオ社は産業規模のMOX燃料製造工場を建設して、LFRプロトタイプの将来的な運転に必要な燃料を確保、その後に英仏の両国で建設する複数のLFRにも活用すると述べた。重要な点は、同社のLFRが英仏両国の原子力増強戦略に合致するとともに、これらを補完する手段にもなることだと強調。ニュークレオ社は、すでに排出された廃棄物と新たに発生する廃棄物を持続的に管理する安全かつ効率的な方法としてMOX燃料を製造し、最終処分しなければならない廃棄物の量を大幅に削減していく考えだ。ニュークレオ社のS.ブオノ会長兼CEOは、「(ロシアによるウクライナへの軍事侵攻など)近年の地政学的展開は、世界レベルのエネルギー供給保証や脱炭素化に必要な措置として、原子力がますます重要になることを明確に示している」と指摘。「当社はクリーンで持続可能なエネルギーの必要性という差し迫った課題に迅速に対応中で、市場の状況から見て今こそ、原子力の枠組みを新たな技術に変化させる時期だと考えている。この新しい原子力技術なら、コストと安全性、放射性廃棄物という産業界の大きな懸念事項にも、効率的に取り組むことが可能になる」と強調した。(参照資料:ニュークレオ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jun 2022
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米国のニュースケール・パワー社は6月20日、同社製の小型モジュール炉(SMR)「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の商業化を一層加速していくため、同社の戦略をSMRの開発と製造から、今後はNPM納入後のライフサイクルを通した顧客満足の重点化にシフトすると発表した。新しい事業組織「VOYGRサービシズ&デリバリー(VSD)」を設置し、NPMを複数備えた「VOYGR」発電設備の製造と販売、納入および商業運転にともなう機器・サービスの提供など、顧客との協力に特化した対応を取る方針。VSDの社長には同社のT.マンディCOO(最高商務責任者)が就任する予定で、J.ホプキンズCEOの直属組織となるVSDの堅実な運営について、全面的な責任を担うことになる。米原子力規制委員会(NRC)は2020年9月、1モジュールの出力が5万kWの同社製「NPM」に対し、SMRとしては初の「標準設計承認(SDA)」を発給した。これを受けてニュースケール社は、「VOYGR」発電設備の建設に向け、プラントとしての設計標準化やサプライチェーンの確保といった長期的視点での活動の在り方を検討している。同社はまた、今年5月に特別買収目的企業(*未公開会社の買収を目的として設立される法人)であるスプリング・バレー社(Spring Valley Acquisition Corp.)との合併を完了し、SMRの設計・開発企業としては初めて株式を公開。今回の戦略シフトと併せて、同社製SMR技術の商業化を長期的観点から促進・強化していく考えだ。「NPM」初号機については、ユタ州公営共同事業体(UAMPS)が出力7.7万kWのNPMを6基備えた「VOYGR-6」をアイダホ国立研究所内で建設する計画を進めており、最初のモジュールは2029年の運転開始を目指している。SMRを通じて、UAMPSは2015年に開始した「無炭素電力プロジェクト(CFPP)」を推進する方針で、すでにSMRの長納期品発注に向けた活動を実施中。このため、顧客を中心に据えた組織改革となるVSDの設置は、世界で急速に進展している脱炭素化への需要に、同社のクリーンエネルギー技術で迅速に対応する非常に重要なステップになると同社は指摘している。「VOYGR」発電設備についてはまた、ポーランドとルーマニアで建設する計画があり、これらの計画で効率的かつ効果的にSMRを納入するには事前の組織改革が必要だと同社は強調。ホプキンズCEOも、「設備の納入とその後に目を向けた組織改革は、当社が次の段階に進む上で自然なことだ」と指摘した。同CEOによると、ニュースケール社のSMRは、クリーンで信頼性の高い安全なエネルギーの生産に新たな時代を開く画期的な技術。「その建設で顧客と緊密に連携していくことは、当社の重要な使命の一部でもある」と述べた。VSDの社長に就任するマンディCOOは、「他にも数多くの国家や電気事業者がグローバルな繁栄を維持しつつ地球温暖化の影響を緩和する主要な取り組みとして、VOYGR発電設備の導入を検討している」と指摘。その上で、「あらゆる人々の将来のエネルギー利用による恩恵を究極的に改善・拡大するため、今こそ組織的な準備を進めるべき時だ」と強調している。(参照資料:ニュースケール社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jun 2022
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カナダで使用済燃料の深地層最終処分場・建設候補地を選定している核燃料廃棄物管理機関(NWMO)は6月15日、立地点として最終決定した場合にNWMOが約束する事項について、候補に残っている2地点のうち、オンタリオ州南部のサウスブルース地域の自治体と了解覚書を締結したと発表した。同覚書は、最終的に処分場の受け入れ合意書(案文)を作成する際、叩き台になるとNWMOは説明。同自治体が実施を求める優先事項にNWMOが重点的に取り組めるほか、今後さらなる合意文書を結ぶための下準備にもなるとしている。カナダでは、原子力発電所の使用済燃料を再処理せずに直接処分する方針であり、NWMOはそのための処分場建設に向け、2010年からサイト選定プロセスを開始した。処分場の受け入れに関心を表明した22地点は、これまでにサウスブルース地域、および同じオンタリオ州の北西部イグナス地域の2地点に絞り込まれており、NWMOは周辺の住民や環境の安全が確保されるだけでなく地元コミュニティには利益がもたらされることを確認した上で、協力的で好ましい1地点を2023年までに最終決定する方針である。サウスブルース地域の自治体はすでに、コミュニティとして優先したい事項や希望項目を「指針となる36の原則」に取りまとめており、NWMOはこれに応えて、同自治体が建設サイトとなった場合に次の事項を実行すると約束。すなわち、同地域を科学技術に関する世界的な中核拠点とし、地元コミュニティの役に立つ様々な機会を通じて協力関係を結ぶほか、地上施設の設置面積を抑えるなど可能な限り現在の地形を維持して地元の資産価値を保全。NWMOはまた、処分するのはカナダの原子力発電所から出る使用済燃料のみで他国の廃棄物を対象としないこと、処分場にNWMOから継続的に資金を提供する、などとしている。NWMOはこのほか、これらの両地点について「最終処分場建設の要件を満たすことが可能であり、建設に適している」とする報告書を16日付けで公表した。両地点で数年にわたり、NWMOが注意深く実施した研究やフィールド調査の結果を地点別にまとめたもので、両地点はともに、使用済燃料を周辺住民や環境から安全に隔離し閉じ込められる地質学的特徴を備えているとNWMOは指摘。具体的には、地震活動が少ない安定した地点であり、使用済燃料の処分に必要な深さや幅、容積を持った岩石層を備えている。また、この岩石層には鉱物資源や塩など経済的利益が見込めるような成分が含まれていないため、将来的に人が立ち入るリスクも少ないとした。建設サイトに決定した地点については後日、処分場設計との適合性や長期的な安全性の保証に関する規制審査が追加で行われるとしている。NWMOのL.スワミ理事長兼CEOは、「安全性の確保がこのプロジェクトの最優先事項であり、我々が実施する設計・エンジニアリングや環境調査、地元コミュニティとの協力等に至るまで、すべてこの原則に貫かれている」と説明。これら2つの報告書は、NWMOが10年以上前に開始したサイト選定プロセスにおける重要な成果だと強調した。(参照資料: NWMOの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jun 2022
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フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は6月15日、オルキルオト原子力発電所で今年3月から試運転中の3号機(OL3)(欧州加圧水型炉=EPR、172万kW)について、9月に予定していた営業運転の開始が12月に延期になったと発表した。同炉の建設を担当した仏アレバ社と独シーメンス社の企業連合の説明では、同炉では先月、タービンの蒸気再加熱器の蒸気誘導プレートから異物が剥離し、その点検・修理作業が7月末までかかると見込まれる。修理の完了後も、同炉では出力60%で外部送電網から切り離して実施する系統単独運転試験や、出力を25%と65%の間で変動させるランプ試験、およびこれらの解析作業等が予定されている点を、営業運転の延期理由として挙げている。OL3の建設プロジェクトは2005年、世界で初めてEPR設計を採用して開始され、運転開始は当時2009年に予定されていた。しかし、技術的な課題が次々と浮上したためこのスケジュールに大幅な遅れが生じ、コストもターンキー契約による固定価格の約30億ユーロ(約4,100億円)が倍以上に拡大した。約17年間に及んだ建設工事を経て、同炉は2021年12月に臨界条件を達成し、今年3月に欧州初のEPRとして送電を開始した。その際、TVOは約4か月の試運転期間中に出力を定格まで徐々に上げていき、7月末の営業運転開始を予定していたが、今年4月に冷却系で追加の機器点検・修理が必要になったことから、9月への延期を発表。このスケジュールが今回さらに3か月延期されたもので、TVOは現在その影響等を評価中である。OL3建設プロジェクトの遅れについては、TVOと企業連合が2018年3月に超過コストと損害賠償に関する包括的和解契約(GSA)を締結。企業連合側が分割払いで、総額4億5,000万ユーロ(約632億円)をTVOに支払うことになった。両者はまた、建設プロジェクト完了の条件事項について、2021年5月に合意。OL3ではこの年の3月に燃料の初装荷が開始されていたため、この時点で営業運転の開始は2022年2月に設定されていた。その際に両者が合意した完了条件としては、「2018年のGSA締結時にアレバ社が設置した専用の信託に、企業連合側から新たに約6億ユーロ(約843億円)を補充しOL3の完成費用に充てる」、「2022年2月末までにプロジェクトが完了しなかった場合、企業連合側が実際の完了日に応じて、遅れにともなう追加の補償金をTVOに支払う」、などが決まっている。(参照資料:TVOの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Jun 2022
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X-エナジー社の「Xe-100 」 ©X-Energy 米メリーランド州のエネルギー管理局(MEA)は6月14日、州内の石炭火力発電施設をX-エナジー社製・小型高温ガス炉「Xe-100」にリプレースする場合の、経済的実行可能性や社会的な便益を評価するため、同社およびフロストバーグ州立大学と共同調査を実施すると発表した。同州を本拠地とするX-エナジー社との協力により、同社の先進的な小型モジュール炉(SMR)を州内で建設する実行可能性を探るとともに、クリーンエネルギー開発を推進する機会や新たな関係雇用を創出する可能性についても調査を実施。判明事項はフロストバーグ州立大が経済影響面の分析を行い、今年後半にも結果を公表することになる。メリーランド州は東海岸北部に位置する州で、首都ワシントンDCに隣接している。同州の州議会は、今年初頭に成立させた「地球温暖化防止法」のなかでCO2排出量の本格的な削減目標を掲げており、最終的には2045年までに州経済におけるCO2排出量の実質ゼロ化を目指している。今回の調査協力にともない、MEAはX-エナジー社とフロストバーグ州立大に補助金を交付している。MEAの発表によると、3者の協力は同州内におけるSMR立地調査の最初の一歩となる。受動的安全性を備えたペブルベッド式SMRの建設は、信頼性の高い無炭素電源が得られるなど様々なメリットがあり、広い意味では州内のエネルギー生産やビジネスにも多大な利点があるとした。既存の発電設備をSMRで置き換え、州内で増大する電力需要に応えることが出来れば、発電資産の標準的取得原価が抑えられ高サラリーの雇用も維持が可能。SMRの建設とメンテナンスで州内の製造・建設部門に新たな事業機会がもたらされるほか、州民や企業等の消費者は低コストで供給上の柔軟性が高い電力を得ることができる。 MEAのM.B.タング局長は今回、「低炭素なエネルギーシステムへの移行を目指す当州では、エネルギーの供給情勢が急速に変化するなか、毎日24時間確実に発電可能な新しい方法を見出さねばならない」と表明。その上で、「技術の進歩の最先端に留まりつつ、脱炭素化目標の達成方法を模索する当州にとって、SMRは最も適している」と指摘しており、「今回の調査協力では、この先進的無炭素電源の建設が当州の状況に適っているか、また、良好な調査結果が出た場合は建設をどのように進めるのが最善かの判断を下せると思う」と述べた。X-エナジー社の「Xe-100」は、第4世代の非軽水炉型・先進的SMRで、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、同社を「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」で支援金を交付する対象企業の1つに選定した。CO2を発生しない「Xe-100」では電気出力と熱の生産量を柔軟に変更することができ、海水脱塩や水素製造などの幅広い分野に適用可能。1つのサイトで「Xe-100」を最大12基連結することで、出力は約100万kWに達すると同社は強調している。同設計については、西海岸ワシントン州の2つの公益電気事業者が2021年4月、X-エナジー社とパートナーシップを組むための了解覚書を締結。州内の使用電力を2045年までに100%無炭素化するため、「Xe-100」を同州で建設し商業化の可能性を実証する。世界では、ヨルダンが2030年までに「Xe-100」の4基建設を希望しており、X-エナジー社とヨルダン原子力委員会は2019年11月、基本合意書を交わしている。X-エナジー社は現時点で、同設計を米原子力規制委員会(NRC)の設計認証(DC)審査に申請していないが、2020年8月からはカナダ原子力安全委員会(CNSC)が同設計の予備的設計評価(ベンダー設計審査)を実施中である。(参照資料:メリーランド州政府、X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jun 2022
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英ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)のK.クワルテング大臣は6月14日、イングランド南東部のサフォーク州でEDFエナジー社が計画している「サイズウェルC(SZC)原子力発電所建設プロジェクト(約167万kWの欧州加圧水型炉=EPR×2基)」に対し、「規制資産ベース(RAB)モデル」を通じて資金調達を行う手続が大きく進展したと発表した。今年3月に成立した「原子力融資法」の基準に基づき、同相はこの日、同モデルの支援を受けるSZC発電所の開発事業者として、EDFエナジー社の子会社であるNNB GenCo(SZC)社を指名した。指名理由をまとめた文書案は7月4日までの期間、NNB GenCo(SZC)社と規制当局の原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)、ガス・電力市場局(Ofgem)に提示される。また、資金の調達方法や収益調整など同モデルの詳細に関する見解も、複数の原子力開発事業者やエネルギー企業、英国の送電系統運営者、スコットランドとウェールズの関係閣僚といったステークホルダーから聴取する。これらは同モデルで事業者支援を行う最初のステップになるとしている。これとは別に、SZC建設プロジェクトを正式に進めるには、主要認可である「開発合意書(DCO)」を英国政府から取得しなければならない。NNB GenCo(SZC)社は2020年5月、計画審査庁(PI)に「DCO」の申請書を提出しており、BEISの担当相はPI勧告に基づいて7月8日までに可否の最終判断を下す予定。この締め切り日は当初、今年の5月22日に設定されていたが、関係情報を十分検討する時間が必要だとして、PIが5月12日に日程の延期を発表していた。英国では現在、EDFエナジー社が南西部サマセット州でヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所(172万kWのEPR×2基)を建設中だが、開発リスクに対する英国政府の保証として発電電力の売買に「差金決済取引(CfD)」を適用することが決まっている。しかし、CfDでは開発事業者が建設資金を全面的に賄わねばならない上、発電所の運転開始後に初めて資金の回収が可能になることからリスクが大きく、後続のカンブリア州のムーアサイド計画や、ウェールズにおけるウィルヴァ・ニューウィッド計画は撤回された。これに対して、RABモデルで建設資金を調達した場合、事業者は経済規制当局の認可に基づき、建設工事の初期段階から平均的な世帯の年間電気代に数ポンドを上乗せできるほか、本格的な工事期間中は月額平均で約1ポンド(約162円)が徴収可能。資金の調達コスト(借入利子)も軽減されるため、プロジェクトの確実性という点で民間部門の投資家に安心感を与え、最終的には消費者の電気代が削減される。英国政府は、大型炉建設プロジェクトの全期間中に節約される金額は、1件当たり300億ポンド(約4兆8,700億円)を超えると試算している。このような手続を通じて、原子力発電所の新設交渉はまた一歩、実現に近づいたとBEISは指摘。SZC建設プロジェクトは、新しい資金調達の枠組を原子力で活用する最初の事例となり、英国では2030年までに新たな原子炉の建設計画を最大で8基分承認するほか、2050年までに原子力発電設備を2,400万kWまで拡大、「英国の原子力ルネサンス」を実現に導くことができると強調している。(参照資料:BEIS、EDFエナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jun 2022
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国際原子力機関(IAEA)は6月10日、ブラジルのアングラ原子力発電所(PWR×2基)で1985年から稼働している同国最古の1号機(PWR、64万kW)について、運転期間をこれまで設定されていた40年から60年に延長した場合の安全審査を完了したと発表した。IAEAは加盟国における原子力発電所の長期運転(LTO)を支援するため、LTOに係る組織や体制、設備・機器の経年変化(劣化)管理などの活動がIAEAの最新の安全基準を満足しているか評価し、事業者にさらなる改善に向けた推奨・提案事項を提供するためのプログラム「SALTO」(Safety Aspects of Long Term Operation)を2005年から実施している。IAEAのSALTO担当チームは今回、2018年にアングラ1号機で実施した「事前SALTO調査」の勧告事項が実行に移されているかについて、事業者の要請を受けて今月7日から10日までフォローアップ調査を行った。チーム・リーダーのM.マルチェナ原子力安全管理官は、「LTO期間中の1号機の安全確保に向けて、準備作業がタイムリーに進められている」と評価。同炉では特に経年変化管理が大幅に改善されたとしており、残りの事項についてもさらなる改善活動に取り組むよう促した。ブラジルでは、2020年12月に鉱山エネルギー省(MME)が「2050年までの国家エネルギー計画(PNE 2050)」を決定しており、その中で新たな原子力発電設備として1,000万kW分を建設することを想定。既存の商業炉については、諸外国における実績等から運転期間を20年延長した場合、コスト面等で競争力が高くなると指摘している。ブラジル唯一の原子力発電所であるアングラ発電所は、電力大手エレトロブラス社(旧電力公社)傘下のエレトロニュークリア社が運転しており、建設工事が2015年に中断した同3号機については、完成に向けて入札等の手続きを実施中。エレトロニュークリア社はまた、新規原子力発電所の立地点を選定するために、MMEが今年1月に電力研究機関と協力協定を締結したことを明らかにしている。アングラ1号機については、同社は2045年まで運転継続することを計画中。このため、IAEAのSALTOチームは今回の安全審査で良好だった点として「LTO実施に向けて規則に則った方針が策定され、関係組織の改革なども行われている」と指摘した。また、「期間を限定した経年変化現象の分析作業(TLAAs)」も完了し、機器素材の疲労計算や経年腐食か所の特定や再確認などが行われていた。同炉ではさらに、多数の機器について経年変化管理プログラムが策定されており、SALTOチームはこれらがすでに開始されている点などを評価した。一方、さらなる改善が必要な部分として、SALTOチームは厳しい条件下における電気機器の耐久性を確認するため包括的プログラムを本格的に実施すること、LTOに対応する長期的な人員配置計画の策定と実施を求めている。このような結果を取りまとめた暫定報告書は、調査の完了時点でSALTOチームがエレトロニュークリア社とブラジルの規制当局に提示済み。正式な最終報告書については、これらにブラジル政府を加えた3者に対して、SALTOチームが3か月以内に提出することになっている。エレトロニュークリア社側では、改善項目に意欲的に取り組むことと、同炉に2023年に再び本格的なSALTOチームを招聘することを決定している。(参照資料:IAEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jun 2022
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フィンランド雇用経済省のM.リンティラ経済問題担当大臣は6月7日、「欧州が原子力抜きでCO2排出量の実質ゼロ化やエネルギーの自給を達成することは難しい」と発言、原子力発電は欧州が化石燃料から段階的に撤退するための解決策を提供していると強調した。同相によると、ウクライナにおける昨今の戦況により、フィンランドはロシア産化石燃料の輸入から脱却する方策を見つけねばならない歴史的重要局面を迎えている。「地球温暖化の防止問題などとともに途方もなく難しい課題ではあるが、これらを解決に導きエネルギー供給の途絶から回復する力を増強するには、フィンランドは原子力も含めてすべての利用可能な手段と能力を活用する必要がある」と指摘している。これは同日から9日まで、首都ヘルシンキで開催されていたビジネス・イベント「北欧原子力フォーラム2022」の場で述べられたもの。フィンランドは5月15日、これまでの中立政策を破棄して北大西洋条約機構(NATO)への加盟申請を正式決定したが、これにともないロシアは、同月21日からフィンランドへの天然ガス供給を停止している。同フォーラムでは、北欧諸国における原子力部門の最新情報や実状を知るため、世界中から原子力関係当局や機関、企業、研究者らが出席した。冒頭演説でリンティラ大臣は、「原子力はクリーンエネルギー生産の要であり、フィンランドは2035年までにCO2排出量の実質ゼロ化を目指しているが、これは我が国が既存の原子力発電所を継続利用していく必要があることを示している」と説明。電気事業者のフォータム社が今年3月、保有するロビーサ原子力発電所の2基を2050年末まで約70年間運転するため、申請を行った事実に言及した。 同時にリンティラ大臣は、原子力発電所が建設の計画段階から起動に至るまでに長期間を要するという点も指摘。ティオリスーデン・ボイマ社(TVO)が2005年から建設しているオルキルオト3号機が、今年3月にようやく送電開始したことについて、同相は「待っただけの価値はある」と強調した。同相はまた、フィンランド国民の6割以上が原子力を支持していることから、「エネルギーのエンドユーザーとして、国民や社会にはエネルギー生産について発言する権利がある」と言明。「原子力開発には長期の投資が必要であり、同部門への財政支援を規制する際も、この点を考慮しなければならないと理解する必要がある」と指摘した。リンティラ大臣によると、欧州のエネルギー問題を将来的に解決する一方策として、近年は小型モジュール炉(SMR)に関する議論が幅広く行われている。この点に関しては、「未だ商業利用に至っていないものの、そのための準備として、いつもどおり安全面や経済面、規制面で総合調整を図ることがSMRの将来に繋がる」と述べた。同相はさらに、放射性廃棄物の管理問題も将来の原子力技術を決定づける主要要素だとし、「フィンランドでは放射性廃棄物の管理施設や廃止措置設備に、継続的かつタイムリーに予算措置を講じることが重要になる」と指摘。昨年末、放射性廃棄物の最終処分を担当するポシバ社が世界初の使用済燃料最終処分場の操業許可を雇用経済省に申請したことから、「放射線・原子力安全庁(STUK)とともに当省が審査を開始した。処分場計画をここまで進められたのは、数十年にわたる研究開発の賜物であるとともに、ポシバ社が長期的な作業を地道に実施してきたことによる」と説明した。使用済燃料の処分場については、フィンランドに続いて隣国スウェーデンの政府も今年1月、最終処分場の建設許可を発給。リンティラ大臣は「2020年代半ばまでには我が国の最終処分場が完成する予定。スウェーデンでも同様の判断を下したことを喜ばしく思う」と述べた。(参照資料:フィンランド政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jun 2022
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米国の原子力機器・燃料サービス企業であるBWXテクノロジーズ(BWXT)社は6月9日、国防総省(DOD)が軍事作戦用の可搬式マイクロ原子炉を設計・建設、実証するために進めている「プロジェクトPele」で、同社製の先進的高温ガス炉(HTGR)設計が最終的に選定されたと発表した。DODの戦略的能力室(SCO)から獲得した約3億ドルの契約に基づき、同社は2024年までに米国初の先進的マイクロ原子炉となる同社製HTGRの原型炉(電気出力0.1~0.5万kW)をフルスケールで製造し、アイダホ国立研究所(INL)内に設置。HALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の三重被覆層・燃料粒子「TRISO」を使用する同炉では、INLがその後、最大3年にわたって様々な実験プログラムを実施する。具体的には、同炉の操作性や分散型電源としての性能を確認するほか、システムの分解と再組立て実験を含む可搬化の実証も行うとしている。DODの作戦活動では、年間約300億kWhの電力と一日当たり1,000万ガロン(約37,850m3)以上の燃料が必要。今後、この量は一層増加する見通しであるため、SCOは小型で安全かつ輸送も可能な原子炉でクリーンエネルギーを確保し、遠隔地や厳しい環境下での作戦活動を長期的に維持・拡大する方針である。SCOはまた、マイクロ原子炉を民生部門における災害対応とその復旧活動に活用し、脱炭素化構想の推進に役立てる可能性を指摘している。INLで建設するHTGR原型炉は、市販の輸送用コンテナを使って、鉄道やトラック、船舶、航空機等で安全かつ速やかに運搬することを目指しており、長さ20フィート(約6m)の機器を内蔵した複数モジュールでの構成とする予定。設置場所で組立て始めて、72時間以内に稼働できるようシステム全体を設計する一方、撤収に際しては7日以内の停止、冷却、接続切断、分解、輸送機器への積載を可能にする計画である。「プロジェクトPele」の非営利性に鑑み、SCOはエネルギー省(DOE)の権限の下でマイクロ原子炉の運転や実験を実施する考え。独立の立場から安全・セキュリティ面の規制を担う原子力規制委員会(NRC)も同プロジェクトに参加し、適用される原子力規制や許認可プロセスについて、SCOに正確で最新の情報を提供する。BWXT社は今後約2年にわたり、バージニア州やオハイオ州にあるBWXTアドバンスド・テクノロジーズ社の施設で原型炉の製造に取り組む。約40名の熟練技能者やエンジニアを新たに雇い入れるなど、総勢120名余りを同プロジェクトに動員する計画である。このほか、同プロジェクトの主契約者BWXT社の業務を支援するため、様々な経験を積んだ企業チームが同社に協力。その主要メンバーには、軍需メーカーのノースロップ・グラマン社やエアロジェット・ロケットダイン社、英ロールス・ロイス社の北米技術部門であるリバティワークス、防衛・宇宙製造業のトーチ・テクノロジーズ社が含まれている。BWXTアドバンスド・テクノロジーズ社のJ.ミラー社長は、「環境を保全しつつ必要な動力を得るため、当社は新しい原子炉を設計・建設・試験するというミッションに取り組んでいる」と説明。増加する電力需要に応えながらCO2排出量の大幅削減に貢献するには、先進的原子炉設計が重要な対応策になることを原子力産業界全体が認識していると強調した。(参照資料:BWXT社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jun 2022
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カナダのテレストリアル・エナジー社の6月7日付け発表によると、同国の原子力安全委員会(CNSC)と米国の原子力規制委員会(NRC)が初の「共同技術審査」として実施した同社製小型モジュール式・一体型溶融塩炉(IMSR)の審査が、このほど完了した。この共同技術審査は、NRCとCNSCが小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉設計を一層効率的、効果的かつタイムリーに分析し、原子力安全・セキュリティを一層向上させるために締結した2019年8月の協力覚書(MOC)に基づいており、国境を跨いで両機関が実施する共同規制プログラムの一部である。同MOCは両機関による2017年8月の了解覚書(MOU)の協力項目を拡大させたもので、ここではSMR等の技術開発における経験や専門的知見、良好事例を両機関が共有し、原子力安全規制の実効性をさらに高めることが目標となっている。今回の初の共同技術審査で、両機関はテレストリアル・エナジー社が実施したIMSRの「設計に起因して想定される事象(PIE)」の分析結果やIMSRに使われている技法などを審査。テレストリアル・エナジー社によると、このような作業は将来、同社がカナダや米国でのIMSR建設に向けて許認可申請の準備を行う際、一層詳細な安全評価作業を実施するための基盤になる。CNSCのM.バインダー前委員長は初の共同技術審査が完了したことについて、「IMSRの商業化に向けた規制プログラムが大きく進展するとともに、原子力規制で国際的な調和が可能であることを明確に示した」と評価。「独立の立場を持つ2国家の規制機関が審査することで、対象技術の信頼性が高まるだけでなく、世界市場への投入に向けた推進力が生み出される」と強調した。NRCのJ.メリフィールド元委員は、「2つの規制機関の間で審査の調和を図り、規制の重複を避けるという意味で重要な節目が刻まれた」と指摘。「今回の審査で、北米大陸における次世代原子炉の開発は実際の建設に向けて大きく前進した」と述べた。テレストリアル・エナジー社のIMSR(熱出力40万kW、電気出力19万kW)は、電力のみならずクリーンな熱エネルギーも供給可能な第4世代の原子炉設計。他の先進的原子炉設計の多くがHALEU燃料(U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)を装荷するのに対し、IMSRはこれまで世界中の軽水炉に装荷されてきた(濃縮度5%以下の)標準タイプの低濃縮ウランを使用する。同社としては、まずIMSRの最初の商業用実証炉をカナダで建設し、その後に米国法人(TEUSA社)を通じて、北米を始めとする世界市場にIMSRを売り込む方針。CNSCは現在、カナダの規制要件に対するIMSRの適合性を「ベンダー設計審査」と呼ばれる非公式の予備的設計評価サービスで審査中である。IMSRはすでに同審査の第1段階をクリアし、2018年12月から第2段階の審査が行われている。NRCの設計認証(DC)審査に関しては、TEUSA社が将来的に申請することを計画中である。 (参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jun 2022
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