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東北発の優れた映像作品が公開中、震災復興や福島産品紹介も
東北発の優れた映像コンテンツを表彰するコンテストで地域振興コンテンツ部門大賞「東北経済産業局長賞」を受賞した「Changing Minamisanriku 震災から10年間の変革」((株)はなぶさ)など、2021年の優秀賞受賞計10作品が「東北映像フェスティバル」(主催=東北映像製作社協会)の特設サイトにて公開されている。「Changing Minamisanriku 震災から10年間の変革」は、東日本大震災で被災した宮城県南三陸町で大学や企業の研修を受け入れている「南三陸ラーニングセンター」が発災後10年間の変化を踏まえ次の10年を考えるというテーマで制作したもの。復興支援のアルバイトをきっかけに南三陸町に移住し竹の栽培・活用に取り組む東京出身の若者、地元に観光果樹園と直営のカフェを開くことを夢見る若手就農者と師匠、都会での会社員生活を辞しUターンして漁業を継いだ漁師らへのインタビュー映像を通じ、10年を経過し南三陸町で働く人たちに生じた価値観の変容を描いている。ワカメ、ホヤ、ホタテ、カキなどの養殖に従事してきた漁業者は、養殖棚を競うように増やしていったかつての状況が震災後、漁師仲間との議論も経て「海を守り質の高いカキを生産するため養殖棚の数を3分の1に減らす決断」により変化した経験を述懐。不安もあったが水揚げまでの期間が以前より短くなり生産コストも下がってきたとした上で、「自然の海から恩恵をもらって仕事していたことに気付いた」と語っている。フルーツピークス福島西店を紹介する「福島にイクンジャー」隊員ことJR福島駅・鈴木さん(右、東北映像フェス特設サイトより引用)この他、地域振興コンテンツ部門の優秀賞として、「福島のイイところ教え隊『福島にイクンジャー』タベルンジャー出動篇!」(JR東日本企画、デンタ・クリエイティブワークス)を紹介。東日本大震災発生から10年の節目をとらえJRグループが4~9月にかけ実施している東北観光の魅力発信・誘客の取組「東北デスティネーションキャンペーン」のPRとして制作されたシリーズ動画の一つで、JR福島駅の若手社員らが駅長が率いる観光戦隊「福島にイクンジャー」に扮し、福島市内の観光物産館やグルメスポットを案内する。番組部門では大賞「東北総合通信局長賞」を、「『日本のチカラ』なりたい自分になるって決めたんだ!」(東北映音)が受賞。事故で車いす生活を余儀なくされているYou Tuberの渋谷真子さん(山形県鶴岡市)の日常を取材したもので、「真子さんやご家族、友人の人柄や思いが表情からも十分に伝わってくる」などと評価されている。また、CM・PRキャンペーン部門の大賞では、岩手県のクラフトビール「ベアレンビール」のイメージCM「ベアレンフアンになろう」((有)哲学堂)が紹介されている。
- 17 Aug 2021
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福島県・内堀知事、東京オリンピックの所感述べる
会見を行う福島県・内堀知事(インターネット中継)福島県の内堀雅雄知事は8月11日、記者会見を行い、コロナ対策として134億円を計上した2021年度8月補正予算について説明後、東日本大震災からの復興を世界に発信する「復興五輪」を掲げ8日に17日間の日程を終了した東京オリンピックの所感を述べた。内堀知事はまず、「『光と影』が混ざり合った『復興五輪』だった」と回想。その上で、「明るい光」として、(1)3月に聖火リレーがJヴィレッジをスタートし浜通り地域を巡り大会期間中には聖火台で浪江産の水素により輝き続けた、(2)県内で野球・ソフトボールの計7試合が開催された、(3)選手村で福島県産の農産物が活用された――ことをあげ、「これらが『復興五輪』の一つの形につながっていると思う」とした。一方で、「深刻な影」として、(1)聖火リレースタート直前の開催延期決定、(2)無観客での競技開催、(3)根強く残る風評被害――を指摘。特に、今回のオリンピックが無観客開催となったことに関し、内堀知事は、「『復興五輪』の重要な部分は、世界各国からの観客・報道陣が福島の地に来て、見て、感じてもらうことだ」と強調し、「一番根幹の部分が失われてしまった」と、無念の意をあらわにした。また、福島県産の農産物・花きに対する誤解・偏見に基づく風評が一部にみられたことを振り返り、「福島第一原子力発電所事故発生から10年5か月が経過したが、今なお根強く風評被害が続いている」とし、県産品の輸入規制を講じている国々の温度差に言及しながら「愚直に粘り強く事実を訴え続け、この状況を変えていかねばならない」と強調。内堀知事は、ソフトボール金メダリストの上野由岐子選手の言葉「あきらめなければ夢はかなう」を紹介。続くパラリンピアンの活躍に期待するとともに、「福島へのエール、『復興五輪』のレガシー」と受け止め、引き続き途上にある福島の復興、今回のオリンピックでなし得なかったインバウンドの集客にも取り組んでいく考えを述べた。
- 11 Aug 2021
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2020年度版原子力白書が発表、福島第一原子力発電所事故発生から10年で特集
原子力委員会定例会の模様原子力委員会は7月27日の定例会で2020年度版の原子力白書を決定、発表した。今回は、3月に福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎えたのをとらえ、特集として、10年を経た「福島の今」、事故の検証と教訓、福島の復興・再生について整理。これを踏まえ、原子力委員会として、「すべての原子力関係者が忘れてはならないこと」、「すべての原子力関係者が協働して取り組まなければならないこと」を述べている。白書の冒頭で、上坂充委員長は、「福島の着実な復興と再生、様々な改善に真摯に取り組むことは、わが国の原子力利用にとって必須であるとともに、世界に誇ることのできる活力ある日本を再生していくために必要不可欠な要素」と、今回特集の意義を強調。白書は今後、閣議配布となり諸々の政策立案に供されるものとなるが、定例会での決定に際し、上坂委員長は、「わかりやすくまとまっている」と、所感を述べた上で、9月に開催予定のIAEA総会他、OECD/NEAなどの国際機関に紹介する考えとともに、人材育成の観点から大学の講義で活用されることにも期待を示した。原子力委員会がまとめた福島第一原子力発電所事故に関する見解(原子力白書より引用)福島第一原子力発電所事故発生から10年を過ぎ、白書では、「10年以上の長期にわたって住民や地域社会にここまで大きな被害をもたらすことを誰が予想していただろうか」と自省。福島が直面している課題の一つとして、「風評」と「風化」をあげ、原子力関係者に対し、「二度と事故を起こさないために、原子力災害に関する記憶と教訓を忘れないこと」、「事故によって生じた風評が固定化され、福島の人たちを苦しめている」と、改めて強調。風評問題が復興・再生の壁となっていることを指摘し、「専門的な取組だけでなく、福島を知ること、行ってみること、食べてみることといったシンプルな取組を続けることも重要」などと、各人による地道な努力の必要性を述べている。白書では随所にコラムを設けており、世界的な新型コロナウイルスの拡大を踏まえた経済回復や環境保全における原子力の役割に関し、OECD/NEA、世界原子力協会(WNA)が2020年に発表した政策文書について取り上げている。
- 28 Jul 2021
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福島第一2号機燃料デブリ取り出しのロボットアームが英国より到着
東京電力福島第一原子力発電所2号機における燃料デブリ取り出しの試験的取り出し装置(ロボットアーム)が7月12日、英国より神戸市内に到着した。福島第一廃炉の中長期ロードマップでは、燃料デブリ取り出しの先陣として、同2号機での2021年内の試験的取り出し開始を目標としており、国際廃炉研究開発機構(IRID)と英国VNS社がロボットアームの開発を行っていたが、新型コロナウイルスのまん延状況や技術者の入国制限などに伴い、日本への輸送時期を精査し一部の性能確認試験が英国内での実施となった。2号機燃料デブリ取り出しのイメージ(エンクロージャ:アームを内蔵する箱、東京電力発表資料より引用)ロボットアームは英国で予定された作業を終了し、今後、日本国内で性能試験、モックアップ試験、訓練が行われる。これと並行し福島第一2号機では2021年後半よりX-6ペネ(格納容器貫通孔)のハッチ解放・堆積物除去、ロボットアーム設置が進められ、2022年後半にも内部調査・試験的取り出し作業に入る計画だ。英国で開発されたロボットアーム(東京電力発表資料より引用)英国企業との協力により開発されたロボットアームは、伸ばしてもたわまない高強度のステンレス鋼製で、長さ約22m、重さ約4.6トン、耐放射線性約1メガグレイ。先端に取り付ける燃料デブリ回収装置先端部(金ブラシ型、真空容器型)で原子炉格納容器内の粉状の燃料デブリ(1g程度)を取り出す。2号機の燃料デブリ取り出しに向けては、2018、19年に釣りざお型調査装置による原子炉格納容器内部調査が行われており、小石状の堆積物が動かせることを確認している。
- 13 Jul 2021
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福島第一処理水で政府WGが茨城県で開催
福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに関する基本方針決定を受けた関係閣僚会議下のワーキンググループ(座長=江島潔経済産業副大臣)の第3回会合が6月25日、茨城県水戸市で行われた。5月31日の福島県、6月7日の宮城県での開催に引き続き、地元自治体・産業団体代表らより意見を聴取。経産省、復興庁、農林水産省、環境省、東京電力が対応策などについて回答した。〈配布資料は こちら〉茨城県・大井川知事今回の会合に出席した茨城県の大井川和彦知事は、政府による行動計画の策定に関し、「漁業関係者などの声をしっかりと受け止めた上で、具体的かつ効果的な対策を明確に打ち出し国民の理解を得ていくこと」と要望。その上で、処理水の取扱いに係る今後の対応について、(1)関係者に対する説明と理解、(2)国内外への情報発信、(3)海洋放出設備に係る安全対策の徹底、(4)万全な風評被害対策、(5)風評被害が生じた場合の政府が前面に立った損害賠償、(6)茨城県沖のモニタリングの強化、(7)国際社会の理解醸成、(8)東京電力の指導・監督――を求めた。茨城沿海地区漁業協同組合連合会会長の飛田正美氏、茨城県水産加工業協同組合連合会会長の髙木安四郎氏は、いずれも「海洋放出に反対」との立場を明示。飛田氏は漁師の後継者問題を、髙木氏は水産物加工品の新製品開発・販路拡大に及ぼす影響をそれぞれ懸念し、具体的・長期的な風評被害への対応策を求めた。情報発信に関しては、茨城県商工会議所連合会会長の大久保博之氏が、消費者の声を踏まえ女性の視点から見たわかりやすい説明の重要性を強調したほか、地元への風評被害相談窓口の設置を要望。この他、農業、ホテル・旅館業の関連団体も意見を陳述し、1999年に東海村で発生したJCO臨界事故の経験から「風評被害にさらされるのはこれで2度目」といった声もあがった。県内自治体からは漁港・海水浴場を有する大洗町の國井豊町長らが出席。同氏はマスコミの報道姿勢やSNSを通じた流言飛語を危惧し、「まずは今ある風評被害をしっかり解決すべき」と訴えた。茨城県産の水産物に関し、政府関係からは、葉梨康弘農水副大臣が自身の衆議院議員選挙区内に位置する霞ヶ浦の天然ナマズが最近出荷解禁となったことを紹介。江島副大臣は前職で市長を務めていた山口県下関市の名産でもあるアンコウを例に「日本の財産の一つ」と称え、それぞれ支援を惜しまない姿勢を示した。WGによるヒアリングなどを踏まえた対応すべき課題や必要な対策は関係閣僚会議に報告され、今夏の中間とりまとめ、年内を目途とする中長期的行動計画策定に資することとなる。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 25 Jun 2021
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原子力学会、福島第一処理水に関しオンラインセミナー開催
原子力学会・中島会長(原子力学会ホームページより引用)日本原子力学会は6月12日、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いに関するオンラインセミナーを開催した。4月に「海洋放出を選択する」との政府による基本方針が決定されたのを受け、同学会は6月7日、「廃炉の円滑な遂行と地元産業の再生・コミュニティの復興」の総合的推進を妨げない考えから、科学的・技術的に実行可能でリスクの少ない選択肢として、できるだけ速やかな実施を提言する見解を発表。今回のセミナーは、見解を踏まえ、福島復興・廃炉推進に向けた36学協会連携の連絡会「ANFURD」との共催で行われたもの。処理水中のトリチウム濃度希釈のイメージ(資源エネルギー庁発表資料より引用)処理水の取扱いに関する政府の基本方針については、資源エネルギー庁原子力発電所事故収束対応室長の奥田修司氏が説明を行った。これを受け、原子力学会会長の中島健氏は、2年後を目途に開始される海洋放出に関し、処理水中に含まれるトリチウムの希釈濃度(WHO飲料水基準の約7分の1)と管理目標値(年間22兆ベクレル)を踏まえ、「完了まで40年程度はかかる」見通しから、今後の廃炉戦略構築に向けて課題となることを示唆。「ANFURD」では放射線被ばく・健康影響に係るリスクコミュニケーションなど、情報発信活動に取り組んでいるが、同氏は、地域社会の理解・合意形成の重要性を改めて強調する一方で、「風評被害について発信すること自体が却って風評被害の発端となっているのでは」とも懸念した。その上で、アカデミアの立場から、今後も原子力・放射線分野だけに留まらず、社会科学の専門家からも知見を受けるとともに、海外の学会とも連携しながら国・東京電力の取組を支援していく考えを述べた。また、トリチウムの海洋拡散予測について、日本原子力研究開発機構システム計算科学センター副センター長の町田昌彦氏が研究成果を説明した。数理科学が専門の同氏は、自然発生、核実験、原子力施設に由来するトリチウムの沿岸/沖合での存在量を「ボロノイ分割法」と呼ばれる手法で調査・分析した評価結果を披露。同氏は、海洋放出の管理目標値(年間22兆ベクレル)は、調査で設定した一定のエリアの沖合における平均存在量(250兆ベクレル)の11分の1に過ぎず、「放出による福島沖合への影響は僅か」であることを説いた。加えて、過去には核実験に伴いトリチウムの存在量が基本方針に示す管理目標値を遥かに上回る時期もあったとしている。風評被害対策については、社会学の立場から筑波大学社会学類准教授の五十嵐泰正氏が調査データや取材経験に基づき問題点を指摘した。同氏はまず、消費者庁が毎年実施する「風評被害に関する消費者意識の実態調査」結果を示し、福島県産品への忌避傾向が年々下がっている状況下、出荷制限体制・検査実施に係る認知度が最近1年間で大きく下落しているとして、「コロナの影響もあるが関心低下が極めて顕著に進んでおり、科学的な説明・啓発も時期を追うごとに効果が限定的になる」などと懸念。さらに、他の調査結果から、処理水が海洋放出された場合の福島県産海産物に対する購入の忌避傾向に関し、「2018年時点の2倍以下で、事故直後よりは低い」とした上で、いわゆる「買い控え」が長期化・固定化する市場的要因として、(1)取引順位の低下(代替産地の台頭)、(2)流通のスイッチングコスト(仕入産地を変える際のバイヤー交渉)、(3)関連業者の廃業、(4)過剰な忖度(取引先・贈答先に対するネガティブ評価)――をあげた。流通量が低迷する懸念に関しては、都内大手スーパーによる福島県産品販売促進イベントでの「売れ行きは良好でリピーターも多いが、十分な供給量がなく安定して売り場を作れず、取組店舗を増やせない」といった現場の声を例示。五十嵐氏は、「販路を絶対に閉ざさない」覚悟で、適切な供給量を維持し消費者に近いところからコミュニケーション促進を図っていく必要性を強調した。
- 16 Jun 2021
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2021年版環境白書が閣議決定
2021年版の「環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書」が6月8日、閣議決定された。会見を行う小泉環境相、白書の若者啓発に向け漫画の活用にも言及(環境省ホームページより引用)今回の白書は、「2050年カーボンニュートラルに向けた経済社会のリデザイン(再設計)」をテーマに、2020年度に環境省が講じた施策として、「脱炭素社会・環境経済・分散型社会への3つの移行」などを紹介。小泉進次郎環境相は、同日の閣議後記者会見で、「特にこれから気候変動の深刻化から逃れられない時代を生きていく若い世代に読んでもらえれば」と述べ、白書を通じ若者から政策課題に対する様々な意見・提案が寄せられることを期待した。また、白書では、「地域や私たちが始める持続的な社会づくり」に係る施策として、ライフスタイルの変革についても取り上げており、衣・食・住において自ら実践できる環境保全の取組事例を紹介したコラムを設けている。これに関し、豆類由来の「代替肉」を用いたハンバーガーの製造・流通など、食分野の新たな技術・ビジネス「フードテック」の事例について、小泉環境相は、福島県のふたば未来学園で実施されている動物性タンパク質を一切使わない給食日「ベジタブルマンデー」の取組に触れながら、「健康によいものを食べたいが、できるだけ環境負荷を減らして生活したいという人もいる」と、食の選択肢拡大を通じた持続的な社会づくりの意義を語った。東日本大震災・福島第一原子力発電所事故の関連では、2021年3月に発災から10年が経過したのを節目ととらえ、「東日本大震災から10年を迎えた被災地の復興と環境再生の取組」を章立て。放射性物質による汚染からの環境再生・復興に向けたこれまでの取組を概観しており、2021年4月決定の福島第一原子力発電所の処理水取扱いに関する政府基本方針を受けた海域モニタリングの強化・拡充についても述べている。除染の実施状況に関しては、農業・観光再開の事例もコラムで紹介。富岡町の「夜の森の桜並木」や浪江町の地域ぐるみによる稲作再開、森林除染により観光スポットとしての人気を取り戻した田村市の「行司ヶ滝」などを取り上げている。
- 09 Jun 2021
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福島第一処理水に関する政府WGが宮城県で開催
福島第一原子力発電所で発生する処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向け、関係閣僚会議のもとに置かれたワーキンググループが6月7日、宮城県内(県庁)で第2回会合を開催。同WGは5月31日に福島県内で初会合が行われたが、今回は、宮城県設置の処理水取扱いに関する連携会議との併催として、村井嘉浩知事(連携会議座長)他、同連携会議を構成する県産業団体・自治体関係者が意見を述べ、WG座長の江島潔経済産業副大臣らが質疑に応じた。宮城県・村井知事開会に際し挨拶に立った村井知事は、「インフラ復旧などのハード面については多くの被災地で取組が完了した一方で、被災者への心のケアや移転先でのコミュニティ形成の問題、産業の再生支援など、ソフト面については今後も中長期的な取組が必要となっている」と、東日本大震災発生から10年を経過した県内復興・再生の現状を概括。その上で、処理水の海洋放出に関し、「震災から立ち直りつつある本県の水産業を始め、多くの産業に多大な影響をもたらすもの」などと懸念を述べ、地元の意見を十分に受け止めるよう要望した。宮城県水産林政部長の佐藤靖氏は、県水産業界としての「海洋放出には反対」とする大勢の意見とともに、他の処理水処分方策の再検討、今後の風評抑制・賠償に係る具体策の提示、諸外国による輸入規制の撤廃に向けた働きかけなど、国や東京電力に対する要望事項を説明。宮城県水産物流通対策協・布施副会長県漁業協同組合代表理事組合長の寺沢春彦氏は、ホヤの輸入規制継続など、水産物への風評が根強く残る現状から、「放出するのであれば禁輸措置の解除まで待つなど、目標を定め強い信念をもった対応を求める」と訴え、県水産物流通対策協議会副会長の布施三郎氏は、トリチウム除去技術の実用化の見通しについて尋ねたほか、若手水産業者からも意見を聴取するよう求めた。江島経産副大臣これに対し、江島経産副大臣は、水産行政に対する思い入れを国政入りする前の山口県下関市長在任時に抱いたとし、ホヤ漁の乗船体験にも触れた上で、「宮城県の漁業が次世代に継承されるよう支援していく」と強調。トリチウム除去については、「専門家による評価から現時点で実用化できる方法は確立していないとの結論に至ったが、常に方針を見直せる体制をとっている」と、引き続き技術動向を注視していくものと説明した。また、観光産業の立場から県ホテル旅館生活衛生同業組合理事長の佐藤勘三郎氏はまず、昨今の新型コロナウイルス拡大に伴う集客の急激な落ち込みを踏まえ、2年後目途の海洋放出開始時期におけるホテル・旅館の経営状況に悲観的な見方を示した。その上で、処理水の処分方策に係るこれまでの説明を振り返り、「会話になっておらず、これでは絶対に風評被害はなくならない。まず信頼感を熟成すべき」と厳しく指摘。トリチウムの自然界への排出に係る情報発信に関し、県議会副議長の外崎浩子氏は、「宮城県は水産業を生業としている。『他国でも行われているから問題ない』という説明は、どこでも通用するものではない」などと述べ、慎重な対応を求めた。さらに、県市長会副会長で気仙沼市長の菅原茂氏は、現在放映中の同市を舞台とした連続ドラマ「おかえりモネ」に描かれる地元漁港のシーンをあげ、「被災地の漁業者たちは復興に向けた手応えを感じつつある」とした上で、国・東京電力に対し最大限の風評被害対策を切望。東京電力・髙原福島復興本社代表横山信一復興副大臣は、国際機関や地元とも連携した正確かつ臨機応変な情報発信の重要性を強調し、SNSやインフルエンサーも活用した「プッシュ型」の取組を進めていく考えを述べた。茨城県選出の衆議院議員である葉梨康弘農林水産副大臣はまず、最近の霞ヶ浦産天然ナマズの出荷解禁を紹介。農水産物の輸入規制撤廃に向け、農水省に7月に新設される「輸出・国際局」を通じ取り組んでいくとした。オブザーバーとして出席した東京電力福島復興本社代表の髙原一嘉氏は、「事故の当事者としての責任を自覚し、信頼回復に全力を挙げて取り組んでいく」との決意を示した上で、処理水の安全性に関する国内外への情報発信や風評影響の抑制に努めていく考えを述べた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 08 Jun 2021
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福島第一処理水の処分で政府WGが初会合、地元関係者より意見を聴取
福島第一原子力発電所で発生する処理水の処分に向けた政府による基本方針決定を受け、風評被害対策などの諸課題について整理するワーキンググループが5月31日、福島県内2か所(福島市、いわき市)で初会合を行い、鈴木正晃副知事他、地元の産業団体より意見を聴取した。基本方針では、処分方法として「海洋放出を選択」、東京電力に対し「2年程度後を目途に福島第一原子力発電所の敷地から放出するための準備を求める」とした上で、風評被害対策については、政府が前面に立ち一丸となって、(1)国民・国際社会の理解の醸成、(2)生産・加工・流通・消費対策、(3)損害賠償――に取り組むとされている。同基本方針の着実な実行に向け、関係閣僚会議が新たに設置されたが、同WGでは今後他県でもヒアリングを実施し、調査・議論の結果を取りまとめた上、同会議が年内を目途に策定する中長期的な「行動計画」に資する運び。江島経産副大臣初会合には、WG座長を務める江島潔経済産業副大臣の他、政府関係者として、横山信一復興副大臣、葉梨康弘農林水産副大臣、神谷昇環境大臣政務官ら、東京電力からは小野明・福島第一廃炉推進カンパニープレジデントらが出席。開催に当たり、江島副大臣は、「現場の生の声を一つ一つ受け止め、関係省庁がそれぞれの課題に取り組むことを通じ、次に講ずべき対策に反映させていきたい」と述べた。鈴木福島県副知事福島市内の会場では、まず鈴木副知事が意見陳述に立ち、処理水処分の基本方針決定に関し、「県民の間にはこれまで10年にわたり積み重ねてきた復興や風評払拭に向けた努力の成果が水泡に帰する不安感が増大している」と、懸念を表明。その上で、風評被害対策について、「回復傾向にあった農林水産業の県産品価格や担い手に再度下落・減少が生じないよう、観光誘客に影響が及ばないよう、将来にわたり安心して事業を継続できるよう、県全域を対象とした具体的な対策を被害が顕在化する前に講じてもらいたい」と切望した。この他、福島県商工会議所連合会、福島県農業協同組合中央会、福島県水産市場連合会、福島県旅行業協会が意見を陳述。各者ともそれぞれの立場から風評被害対策の拡充を要望・提案したが、県水産市場連会長の石本朗氏は、卸売業者として「世界一の安全・安心」を自負しつつも県産水産物が置かれた厳しい流通状況を訴え、「一番の問題は『消費者の心』の部分にある」と、風評の本質に対する十分な理解を国に求めた。野﨑福島県漁連会長WG会場はいわき市内に移り、続いて福島県漁業協同組合連合会会長の野﨑哲氏、福島県水産加工業連合会代表の小野利仁氏より意見を聴取。両氏とも処理水の海洋放出に反対の立場を明示した上で、野﨑氏は今回の基本方針決定に至ったプロセスに関し「何とも割り切れないものがある」と疑問を呈したほか、小野氏は最近のクロソイからの放射性物質検出を受けた消費者への問合せ対応を振り返り、情報発信の工夫とともに、「信なくば立たず」として根底に信頼関係が必要なことなどを訴えた。福島県の漁業再生に関し、葉梨農水副大臣は、2020年の沿岸漁業・海面養殖業の水揚量が2010年比の18%にも満たない現状をあげ、「大変深刻。本格的な回復・再生に向けもっと力を入れていかねばならない」と強調。横山復興副大臣は、福島県産品に係る理解活動の一例として、1月に開催された県産魚介類「常磐もの」を使った全国オンライン料理教室を紹介するなどした。地元産業団体からは、風評被害対策の他、廃炉人材の確保に向け原子力教育の充実化を求める意見、最近の東京電力における核セキュリティ上の疑義に対する危惧の声もあがるとともに、漁業・水産加工業の後継者問題に関する質疑応答もあった。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 01 Jun 2021
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福島第一、処理水の海洋放出に向け測定・評価用の「サンプルタンク群」整備へ
東京電力は5月27日、福島第一原子力発電所廃止措置の進捗状況を発表した。同社は4月に、汚染水の浄化に伴い発生する処理水の処分方法として「海洋放出を選択する」との政府の基本方針が示されたのを受け、2年後を目途に海洋放出を開始するため、必要な設備の設計・運用の具体的検討に向けて、トリチウムの希釈評価やタンクの取扱いなどに関する当面の前提条件を整理。今回、「放出設備」の一つとなる「サンプルタンク群」を約3万㎥分用意する考えを明らかにした。放出する前に行う放射能濃度の測定・評価は核種により時間を要するものもあるため、「受入」「測定・評価」「放出」の3つの役割を持つ「サンプルタンク群」のそれぞれに、日々発生する処理水150㎥の2か月分となる約1万㎥ずつを割り当て、これらを6か月周期でローテーションしながら効率的に運用。測定・評価の円滑な実施を図る。「サンプルタンク群」は、処理水を再浄化する可能性も考慮し、多核種除去設備(ALPS)近傍の既存タンク群(K4タンク群)を、「放出設備」として用途を変更する形で起用。処理水の保管用タンクと異なり、循環用とかくはん用のポンプ、弁、試料採取用配管、電源、制御装置を追設するなど、改造を行う。K4タンク群の用途変更に伴う処理水保管容量約3万㎥分の受入れ先については、同容量のタンクを別途建設することで対応。合わせて、貯留されている処理水の減少に向け、汚染水発生量の低減、核種の測定・評価時間の短縮にも継続的に取り組んでいく。処理水の取扱いに関する政府の基本方針では、「新たな技術動向を注視し、現実的に実用可能な技術があれば積極的に取り入れていく」とされているが、東京電力は同日、第三者機関を活用したトリチウムの分離技術に関する公募を開始した。この他、2020年に内閣府が示した日本海溝津波に係る評価を踏まえた「日本海溝津波防潮堤」の設置工事に6月中旬以降より着手することも発表。津波リスクの低減に向け2023年度下期の完成を目指すとした。
- 28 May 2021
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原子力学会、福島第一原子力発電所事故調査で「10年目のフォローアップ」を発表
日本原子力学会は5月14日、福島第一原子力発電所事故の反省・教訓に基づき2014年に示した提言を踏まえ、関係機関における取組の実施状況に関する調査報告書を発表した。事故から5年目となる2016年の第1回調査に続く、「10年目のフォローアップ」として行われたもので、今後原子力学会として取り組むべき課題についても述べている。〈報告書ダウンロードは こちら〉同学会は、2012年に福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会(学会事故調)を立ち上げ、「事故と災害の科学的・専門的分析による背景と根本原因の解明」を目指して、専門家集団の立場からサイト内外で行われた事故対応について調査し、様々な観点から事故の分析評価と課題の抽出を行い、2016年に最終報告書を取りまとめ、刊行。津波・過酷事故対策が不十分であったことなど、「直接要因」とともに、(1)専門家自らの役割に関する認識の不足、(2)事業者の安全意識と安全に関する取組の不足、(3)規制当局の安全に対する意識の不足、(4)国際的に謙虚に学ぼうとする取組の不足、(5)安全を確保するための俯瞰的な視点を有する人材および組織運営基盤の欠如――からなる「背後要因」をあげ、これら要因の改善に向け50項目の提言を示した。提言では、「背後要因のうち組織的なものに関する事項」として、第一に、専門家集団としての学会・学術界が自由な議論、学際的取組の強化に努める必要性などが指摘されていた。今回の「10年目のフォローアップ」では、原子力学会が2016年より行っている福島復興・廃炉推進に向けた36学協会連携の活動「ANFURD」による情報発信や若手の意見交換を「成果が上がっている」とするなど、学際的取組の進展を評価。その上で、「社会との対話を進め、情報の共有や理解を得て新たな取組に反映させる」、「広い分野での専門家を集めて自由に議論できる仕組み、場を設ける」ことを課題として指摘し、他分野の知見を引き出し具体的な成果があがるよう、学術界におけるリーダーシップの発揮を期待。3月11日に福島第一原子力発電所事故発生から10年を機に同学会が開催したシンポジウムでは、研究者だけでなく、実務者・利害関係者・当事者も問題の発見、知識の創出、成果の普及に関与する「超学際的活動」の必要性が議論された。原子力人材の育成に関しては、「原子力安全を最優先する価値観の醸成」、「資格制度の充実」、「大学における原子力教育・研究の充実」、「小中高校における原子力・放射線教育の充実」が提言されていたが、この10年間を振り返り、原子力プラントの長期停止による実務経験の機会減少、技術士受験者数の減少、原子力分野の大学教員・研究者の減少、若年層の放射線知識レベルが低い状況などを課題提起。原子力学会としては今後、「各層の教育に積極的に関与し実践すべき」としている。
- 19 May 2021
- NEWS
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暴言と常識
「常識的に考えて、あり得ないでしょう!」先日参加した講演会で、ある専門家の原発事故後の対応につき、別の専門家やジャーナリストが集団罵倒する、という場面に遭遇しました。福島の復興に関わった方であれば、一度は目にしたことがある光景だと思います。興味深いこのような状況で頻回(ひんかい)に用いられるのが「常識」という言葉だ、ということです。常識と自意識今般のコロナ禍でも見られることですが、有事には雨後の筍のように様々な「常識」が生み出されます。しかしそれは本当に常識なのでしょうか。言うまでもなく常識とは「人々が共通に持っている知識や判断基準のこと」であり、大災害とはその常識が通じなくなる為に生じる社会混乱のことです。目まぐるしく状況が変化する被災地では、もとより共通に持てる価値観は存在しません。そう考えれば被災地で聞く常識が多くの人の「当たり前」である可能性は低いのではないでしょうか。「常識的に考えて福島に住むことはあり得ない」「常識的に考えて健康被害が出ることはあり得ない」当時福島県ではこのような正反対の「常識」同士が戦っていたこともあります。当時の私には、これらは常識ではなく、それを主張する方の「自意識」であるように聞こえました。常識人とトリックスター常識は、ある人間が他人を測る為に用いられるものさしです。人はその「ものさし」が自分に近いほど、自分が他人を評価する権利があるかのような気分になりがちです。大災害後にはこのものさしが失われてしまうため、一刻も早く新たなものさしを作ろうという動きが盛んになります。その時なるべく自分に近いものさしを作れば、自分が測られる側になることを避けられます。有事に生まれる「常識論」が「自意識論」の押し付け合いとなりがちなのは、そんな自己防衛を反映しているように思います。これまでこのコラムでは、復興最前線で生き生きと暮らしていた方々を多く紹介してきました。そういう方々からは、不思議なほど「常識」という言葉を聞いたことがありません。非常時にあって淡々と日常を暮らす方、むしろ愉快に過ごされる方、新たなことに邁進される方…自分の物語を展開することに没頭する「トリックスター」たちは、他人を測るものさしなど不要だったのではないでしょうか。異能への攻撃一方、有事には行動を起こさず安全な場所から常識の後だしじゃんけんをする人々もいます。そういう方々の槍玉に上がりやすいのが、このトリックスターたちです。行動の結果生じた誤りを「過ち」であると責め、その功績を貶める。それは今もなお繰り返されている光景です。不安な方々が秩序を取り戻すため、自分のものさしで人を測ろうとする。そのこと自体が全て悪いわけではありませんし、秩序を取り戻す際に必要なこともあるでしょう。問題は、それを「共通の価値基準=常識」とするために、マナー違反の「暴言」を用いて人を攻撃する方も多い、ということです。常識と暴言の親和性悪口はシンプルで没個性的な方が効果的、という事は子どもの頃に多くの方が経験されているのではないでしょうか。気の利いた言葉や正確な言葉を使おうと思うと、悪口は何となくつまらないものになります。これは、悪口というものが「大勢である人間を悪し様に評価する」ために用いられる共通言語だという点にあると思います。この「悪し様に」という部分を除けば、前述の「常識」と悪口の目的はよく似ているのではないでしょうか。秩序を求めて常識論を振りかざす人々と、暴言を吐く人々の親和性が高くなるのはこのためだと思います。そして残念ながら良い言葉よりも悪口の方がグルーヴ感を生み出すことは容易です。「常識」を訴える方が時に恍惚として平時には許されないルール違反の暴言を吐く、という矛盾が度々見られるのは、おそらくこの為なのではないかと思います。体制批判と同調圧力同じ事が「体制批判」にも言えます。徒党を組んで批判をするためには、檄文という名の暴言・悪口を使うのが一番簡単です。社会混乱が増し、対処すべき物事が複雑化するほど、紋切り型の体制批判をする人間もまた人を集めるための「暴言」を用いるようになります。つまり体制・大勢批判をしている筈が、結果として「常識」という言葉を用いて同調圧力を強要する、という矛盾も生じるということです。恐ろしいことは、その結果「非常識」と言われること恐れ、有事に動けない責任者が増加してしまうことです。それは医療訴訟を恐れて医者が手術しなくなる、という状況と同じくらい危うい状況だと思います。今般のコロナ禍でも行政の一挙手一投足が批判を浴びていますが、そのような硬直した体制を作り上げた責任の一端は、批判と常識という名の元に暴言を吐いてきた方々にある、という側面は無視できないと思います。徒党からの独立幸いなことに、今の私たちの暮らしは、ひと昔前ほど徒党を組まなくても生きていける仕組みになっています。テレビを消し、スマートフォンを閉じれば「空気を読む」必要は激減します。オンライン記事で書くには矛盾だらけの結論ではありますが、有事だからこそ、この現代の恩恵を享受し、大勢・常識から耳を塞いで過ごす時間を作ることも大切なのかもしれません。
- 18 May 2021
- COLUMN
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規制委、福島第一原子力発電所事故の調査報告に対する事業者の見解を整理
原子力規制委員会は5月12日の定例会合で、3月に取りまとめた福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間報告が示す技術的事項に対し事業者より提出された見解について整理した。今後、関連の検討会で議論に付される。同委は、高い放射能汚染レベルが確認された1~3号機原子炉格納容器上部のシールドプラグ(直径約10m・厚さ約60cmの鉄筋コンクリートを3枚重ねた蓋)の汚染状況など、今回中間報告での指摘事項について、廃炉作業の進捗を見ながらさらに調査・分析を進めることとしており、今後の検討に資するべく事業者に意見を求め、10日までに東京電力を含め原子力発電所を有する計11社より報告があった。事業者に対し意見を求めた技術的事項は計9項目。例えば、ベント(格納容器内の放射性物質を含む気体を外部環境に放出し内部の圧力を降下させる措置)に関しては、1990年代以降に事業者が講じてきた自主的安全対策「アクシデントマネジメント」として整備された「耐圧強化ベントライン」の設計方針や系統構成の妥当性があげられており、これらに対する各社の見解を把握した上で、過去の安全対策の検証も通じ今後の規制基準への反映などを図っていく。各社による見解では中間報告に対し追加調査の必要性は特段みられなかったが、3号機水素爆発の関連で水素以外の可燃性ガスが寄与した可能性について、有機化合物の混在など、爆発のメカニズム解明や新知見の集約に向けて、今後規制委員会が実施する調査への協力姿勢が示された。水素挙動に関しては、1号機原子炉建屋への逆流と水素爆発との関係が未解明となっている。委員からは、BWRの水素漏えい対策について、各社から個別に聴取し議論を深めていく必要性が述べられた。
- 12 May 2021
- NEWS
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大成建設が中間貯蔵施設の土壌分別を効率化、AIを活用した安全管理も
大成建設はこのほど、福島県の中間貯蔵施設内の作業を効率化する技術開発成果を発表した。中間貯蔵施設は、除染に伴う放射性物質を含む土壌や廃棄物を最終処分までの間、安全に集中的に管理・保管する施設で、輸送対象物量約1,400万㎥(2019年10月時点推計)のうち、累計約1,038万㎥(2021年1月末時点)が輸送済み。2021年度までに県内に仮置きされている除去土壌(帰還困難区域)を概ね搬入完了することが目標となっている。今回の技術開発成果は、中間貯蔵施設のうち、仮置場から運ばれた大型土のう袋を破り、ふるいにかけて可燃物や金属などを取り除く受入・分別施設の作業に係るもの。ふるい分けは2段階で行われ、2段階目のふるい分けの前に改質材を投入するが、同社の発表によると、除去土壌中の水分を多く含む粘性土が処理で使用する各装置や残さに付着し処理効率が低下するのが課題だった。そのため、短時間で粘性土を砂状にできるよう、紙おむつなどに使われる吸水性ポリマーを主成分とした分別促進材「T-クイック土ライ」を開発。これを、ふるい分け前の破袋機に投入することで、除去土壌の効率的な分別処理が可能となった。「T-クイック土ライ」は、従来の改質材よりも細かい材料を採用しており、効率よく粘性土と混合でき、十分な給水量を確保しつつ吸水速度が向上する。粘性土の分離速度を高める吸水性ポリマーに関しては、粒径範囲75~150μmで吸水倍率(体積に対する吸水量)約300と、最も効果が発揮されることを実証している。〈発表資料は こちら〉「T-iSafety Protection」による安全装備の確認(大成建設ホームページより引用)また、大成建設は、除染や中間貯蔵施設関連工事に従事する作業員の放射線被ばく管理強化に向け、入場時の画像データをもとにAIを用いて安全装備の装着を高速・高精度で確認できるシステム「T-iSafety Protection」を開発。作業員が立ち止まることなく安全装備が確認でき、不備状況を音声と警告灯で知らせる。目視による人的ミスを防ぐとともに、データベース化により効果的な安全教育も可能。同システムは昨秋より中間貯蔵施設関連工事で試験導入されている。〈発表資料は こちら〉
- 21 Apr 2021
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規制委、東京電力より福島第一ALPS処理水の海洋放出対応について聴取
原子力規制委員会の福島第一原子力発電所廃炉に関する監視・評価検討会は4月19日、東京電力より、ALPS処理水(トリチウム以外の放射性物質が規制基準値を下回るまで多核種除去設備等で浄化処理した水)に係る政府の基本方針を踏まえた対応について聴取した。13日に、政府の「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚会議」は、2年後を目途にALPS処理水を海洋放出する方針を決定。これに対し、実施主体となる東京電力は、「基本方針に基づき、国際基準に準拠した原子力安全に係る規制を始め、各種方針等を厳格に遵守することはもとより、風評影響を最大限抑制するための対応を徹底するべく取り組んでいく」との姿勢を示し、16日にはALPS処理水の処分に関する対応(基本的考え方)を発表した。規制委員会は、今後の海洋放出実施に関し、同社からの福島第一原子力発電所廃炉に係る実施計画変更認可の申請を受け、排水設備の設計、希釈方法、核種濃度の測定・評価方法などの審査を行う。検討会では、東京電力福島第一廃炉推進カンパニープロジェクトマネジメント室長の松本純一氏らが説明。ALPS処理水の海洋放出に当たっては、基本姿勢として、法令に基づく安全基準はもとより、関連する国際法や国際慣行に基づくとともに、人および環境への放射線影響評価により、放出する水が安全であることを確実にし、公衆や周辺環境、農林水産品への安全を確保するとしている。放出する水については、トリチウム以外の放射性物質が規制基準値を下回るまで何回でも浄化処理し、濃度の測定・評価、第三者による確認を行い、取り除くことが難しいトリチウムは大量の海水で(100倍以上)希釈。「二次処理」、「第三者による確認」、「十分な希釈」により、安全であることを確実にする。ALPS処理水の処分完了には10年以上が見込まれるため、モニタリングの拡充・強化、タンクからの漏えい防止、情報発信・風評被害対策、適切な賠償に努め、環境モニタリングの一環として魚類の飼育試験計画や、現状では困難なトリチウムの分離技術についても継続的に知見獲得を図っていく。海洋放出に必要な設備配置・設計に関し、検討会の有識者からは、具体的計画を順次示して欲しいとの意見や、信頼性の観点から新たな風評被害発生を懸念する声もあった。また、元原子力規制庁長官で事故直後の現場指揮に当たった経験を持つ安井正也氏は、3号機使用済燃料取り出しで生じたトラブルも振り返りながら、「確実に動かせる、何か不具合があっても対応できるバックアップ体制を築くよう、十分な資源を投資し余裕のある設計・施工がなされることを願う」と要望した。
- 20 Apr 2021
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【第54回原産年次大会】セッション2「福島のさらなる復興に向けて」
4月14日のセッション2「福島のさらなる復興に向けて」は、福島第一原子力発電所事故発生から1年後の2012年以来、続いているテーマ。今年は事故から10年が経過した福島第一原子力発電所の廃炉の現状を踏まえつつ、今後の福島復興の展望に向け意見交換が行われた。セッション冒頭、東京電力ホールディングス株式会社 常執執行役で福島第一廃炉推進カンパニーのプレジデント 小野明氏が福島第一原子力発電所の現状と課題を報告。まず、小野氏は今般の柏崎刈羽原子力発電所の核物質防護に関する不備の問題について、深く反省と謝罪の意を表した。その上で、福島第一原子力発電所の汚染水対策について、小野氏は、地下水・雨水の流入を抑制することによって、汚染水の発生が2020年には140㎥/日まで低下しているほか、多核種除去設備(ALPS)処理水貯蔵のために、計画通り2020年末で137万トン分のタンクを確保済みであるが、タンク貯蔵量が2021年2月時点で約125万トンに達している中、計画容量を超えてタンクをさらに建設すると、必要な施設の建設に支障を来し、今後の廃炉の進捗に多大な影響を与える可能性があることを懸念。ALPS処理水については、前日の4月13日に海洋放出の政府方針決定が発表されたところ。これに関し、小野氏は「当社としては、国の方針を受けて、関係者との協調を図りながら今後の処理に向けた具体的な作業を進めていく。しっかりやっていきたい」と述べた。小野氏は続いて、使用済燃料プールからの燃料取り出し、燃料デブリ取り出しに向けた作業の進捗状況、固体廃棄物管理、そして、「復興と廃炉の両立」について説明。「とくに、福島の復興について、我々はいかに1F(福島第一原子力発電所)の廃炉を復興に向けて活用していけるか、を考える必要がある。その鍵は、1Fの廃炉作業に地元の企業のみなさまに積極的に参入していただくことだ」と述べ、そのための企業向け説明会や地元企業と元請企業とのマッチングを増やしていく考えを示した。また、去る2月13日の地震発生時、3号機原子炉建屋の地震計が7月の大雨の影響により故障していたことを始め、タイムリーな情報発信がなされておらず、地元の方々による受け止めと東京電力の取組姿勢にギャップがあると自省し、「そうしたギャップを埋めていくことがまず必要。地域目線でしっかりと双方向のコミュニケーションに取り組んでいきたい」とも述べた。続いて、福島大学国際交流センター 副センター長のウィリアム・マクマイケル氏(モデレーター)の進行のもと、「震災から10年 福島が拓く未来」と題して、福島復興の第一線に関わってきた若手のパネリストたちが語り合った。 株式会社小高ワーカーズベース代表取締役の和田智行氏は、南相馬市小高区に生まれ育った。震災前に東京からUターンし、地元でITベンチャー企業を経営していたが、福島第一原子力発電所事故により避難生活を余儀なくされた。2014年2月、当時まだ避難指示区域で居住が認められていなかった南相馬市小高区に株式会社コワーカーズスペースを創業。小高区は2016年7月に避難指示が解除され帰還が進んではいるが、元は1万2千人を超えていた人口が、3分の1程度の約3,700人にまで減少。その半数を高齢者が占めるとともに、子どもの数も激減し、超少子高齢化の状況となっている。「本当に厳しい状況で、地域には課題が多く、それが帰還を阻んでいるが、見方を変えれば課題はすべてビジネスの種。ここでしか生み出せないビジネスがある」と、和田氏は反骨精神をみせる。最初に手がけたのは、人がいない町で働く場としてコワーキングスペースをつくること。また、食堂や仮設スーパーもつくった。生活環境が整っても若い世代がなかなか戻って来ないという課題に対し、若者にとっても魅力的な仕事として、ガラスアクセサリーの工房を立ち上げると、地元の若い女性たちが工房で働き、カフェのオープンや若者の来訪にもつながるという好循環が生まれた。今は、この地域の可能性を感じてチャレンジする起業家へのサポートと、コミュニティづくりのフェーズに移っており、これまでに全国から8人の起業家が集まっている。さらに、ゲストハウスやキッチンを備えたコワーキングスペース「小高パイオニアヴィレッジ」も新設。ここでは、地域の事業者と外部からの来訪者の交流の場として、コロナ禍中リモートワークで滞在しながら一緒に仕事をする人も増えている。最近、震災当時10代だった若者たちの起業支援や人材育成のためのプロジェクトも始めた。「最終的にこの地域を自立した地域にしたい」と和田氏は語る。そして、「先人たちの努力で豊かに成熟した現代日本だが、そこで閉塞感を抱える人も多い。逆にこの地域には何もなく、新しく創るしかない。その意味で、この地域は現代日本唯一で最後のフロンティアだ。予測不能な未来を楽しみ、フロンティアを開拓していく」と、意気込んだ。双葉郡未来会議「ふたばいんふぉ」の辺見珠美氏は、東京都生まれ。大学で原子力と放射線について学んだ。2011年、福島第一原子力発電所事故により富岡町から東京に避難してきた子どもたちの学習支援のボランティアに取り組む中で双葉郡とのつながりができ、2012年、川内村に移住し、福島大学川内村サテライト職員として、放射線についての相談受付などの住民対応を行った。2020年から富岡町に移住。双葉郡のインフォメーションセンター「ふたばいんふぉ」のスタッフとして双葉郡の情報発信や草の根の活動に取り組んでいる。辺見氏は地図を示しながら、「冬は出稼ぎに行く地域だったが、東京に出稼ぎに行く代わりに東京の電気をつくることで電源供給地となった」と、双葉郡の歴史に触れた後、2011年の福島第一原子力発電所事故発生からの避難区域設定の変遷を振り返った。現在の帰還困難区域の人口22,332人の規模感について、各電力会社の従業員数と比較したグラフで表現。「原子力発電所の事故は、『それまで』をすべて失うことだった」と辺見氏は言う。さらに、「ひと、もの、こと、思い出、いつもの日常がどれだけ幸せなことか。私の周りには、小学生の時に震災に遭い、いつもそばにあった夜ノ森の桜並木が帰還困難区域のバリケードで隔てられ、その桜を特別に感じてしまうこと自体に嫌悪感がある、という複雑な心情を抱えた若者たちがいる」と。そんな想いを抱き、双葉郡で活動する。新しく未来を築き、暮らしを取り戻すために、川内村で「村の暮らしを楽しもう」をコンセプトに、村内外の人々が楽しめる企画を展開している。中には養鶏を営む農家で「鶏をさばくところから始めるソーセージづくり」など、ここでしかできない講座もある。また、富岡町での「とみおかこども食堂」の活動は、廃炉作業員など移住してきた人々や帰還者を含めて、子どもたちを通して地域のコミュニティを再構築しようというユニークな試みである。「避難、軋轢、格差、高齢化、コミュニティの崩壊、考え方の違いなど、いろいろなことが原子力発電所の事故で引き起こされた。しかし、これらはどこにでも起こりうることだ」と辺見氏は指摘。さらに、「より良い未来をつくっていくには、『お互いを知り、対話を重ね、理解し合うこと』に丁寧に取り組むことが遠回りなようで近道であり、様々な課題に対して解決へ導く鍵となるのではないか」とも述べる。そして、原子力関係者に対しても「再稼働や処理水の海洋放出などに関して行われる説明会や公聴会も、一方的なものではなく、双方の立場の違いを理解し合った上での話し合いを丁寧にやってもらえればと思う」と強調した上で、「ぜひ双葉郡の方々の生の声を聞きに来てほしい」と呼びかけた。一般社団法人ふくしま学びのネットワーク理事・事務局長の前川直哉氏は、兵庫県尼崎市に生まれ、1995年、高校3年生の時の阪神・淡路大震災で被災した。大学卒業後、母校の灘中学校・高校の教壇に立ち、2011年の東日本大震災以降、たびたび生徒たちと福島や宮城の被災地を訪れるうちに福島県で仕事をしたいと思うようになり、2014年、福島市に移住して非営利団体「ふくしま学びのネットワーク」を設立。2018年からは福島大学の特任准教授も務める。前川氏は元同僚や大手予備校の講師などを招き、福島の高校生を対象とした無料セミナーを延べ14回開催。セミナーの講師陣は完全手弁当で、面白い授業にはリピーターも多い。「そういう『カッコいい大人』として誰かの力になるには力をつけなければならない。学校はそのための場所だと生徒たちに伝えている」と前川氏は語る。20年後の日本ではロボットやAIが人間の仕事を奪っていく時代になると言われている。しかし、正解のない問い、自ら課題を発見し、解決策を探ることはロボットやAIには決してできない。たとえば、「双葉郡の方々が少しでも日常を取り戻すにはどうすればよいか」を考えるのも人間にしかできない仕事だ。福島では高校生が県内各地で復興や地域貢献のため多様な活動を展開しており、こうした高校生の活動をサービス・ラーニングとして顕彰し、さらなる活性化を図っている。また、福島大学では地域実践特集プログラム「ふくしま未来学」にも取り組む。「福島は、自分のためではなく、誰かのための学びであることが伝わり、知識偏重教育でなく、正解のない問いにチャレンジできる場所。限界に来ている日本の教育を変えられるのは福島からだ」と前川氏は強調。一方で、教育者として、「子どもたちの活動を誇らしいと思うと同時に、福島の問題をどうしても遺してしまい、子どもたちを復興にしばりつけているのではないかと、忸怩たる思いも正直ある」とも。同氏は、そんな葛藤も抱えながらも「今後も子どもたちと向き合っていきたい」と語った。続いて、パネル討論に移り、自他共に認める「カナダ人で一番の福島ファン」マクマイケル氏が30年後の「FUKUSHIMA」について、あるべきイメージを問うと、和田氏は、「住民が自立した暮らしを実現している」ことをあげ、そのために、自社のミッションとして掲げる「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」を遂行し、「旧避難指示区域で事業やプロジェクトを興せる風土を醸成していく」と抱負を語った。また、辺見氏は「地層をつくる」と標榜。その心は、「原子力発電所の事故により暮らしが失われ、豊かな思い出まで『除染』されて、はぎ取られ、町として『欠けている感』が生じてしまった双葉郡の『まちを耕す』。つまり、一度人がいなくなり、それまで培ってきた暮らしが失われてしまった土地に、喪失を埋める『土』となる人の営みを積み重ねていく30年間」だという。また、前川氏は、30年後の福島に「地球と人類の最後の砦」をイメージ。そのためには「教訓の継承」が欠かせないとする同氏は、「原子力発電所の事故を『なかったこと』にせず、失敗を直視し、そこから学ぶこと」と強調した。最後に、「原子力産業に期待することは?」と、マクマイケル氏が投げかけると、和田氏は「幸せな社会をつくりたいのは共通の願いだと思うので、何か一緒にできることがあれば協働していきたい」との姿勢を示し、辺見氏は「原子力は一般市民にとって専門性が高くて遠いものなので、もっと社会との距離を近づけてお互いの理解を深めたほうが良い」と指摘。前川氏は「福島から学べることはたくさんある。ぜひ福島を訪ねてもらい、見聞きしたことを周りの人たちにも伝えてもらえると嬉しい」と期待した。マクマイケル氏は、「福島の人たちに今見えている課題、そして、今後の可能性について、多くの人に共感していただける時間になったと思う。今日の登壇者のみなさんが大切に育んでいる福島の再生の芽は、必ずや世界の未来にもつながると私は信じている。復興を地元で支えている人たちへの敬意を持ちながら、共に未来を形成していく姿勢を持ちたい」と語り、セッションをしめくくった。
- 15 Apr 2021
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農水省、福島産品の2020年度流通実態調査結果を発表
農林水産省は3月31日、福島県産農水産物の流通に係る2020年度の実態調査結果を発表した。福島県の農林水産業の再生に向けて、県産品の市場における販売不振の実態と要因を明らかにするため2017年度より行われているもの。それによると、調査対象の25品目中、重点6品目とする米、牛肉、桃、あんぽ柿、ピーマン、ヒラメについて、出荷量は依然と震災前の水準までに回復しておらず、価格は全国平均と比較し差が徐々に縮小し、ピーマンとヒラメではほぼ全国水準に達しているものの、他の品目では下回っているといった実態が明らかとなり、「引き続き販売不振の解消に向けた取組が必要」としている。同調査で実施した全国消費者約1万人へのアンケートによると、県産米では20.9%、県産桃では23.6%が購買したと回答しているほか、6品目ともに7~8割が「非常によい」、「よい」と評価。なお、桃の出荷量は、台風に伴う大雨や病害の影響で前年度より約2割減少している。全国平均との価格差が生じる背景については、事業者へのヒアリングでマーケティング面の課題も数多く指摘されており、消費者の需要の変化に応じた対応とともに、ブランド力や商品開発力の強化も求められているなどと分析。一方で、納入業者(仲卸業者など)が納入先(加工業者、小売・外食店など)の福島県産品の取扱い姿勢を過剰にネガティブに評価している、という「認識のそご」があることから、今回の調査では、人の感情に働きかけて“何となく”行動を促す「ナッジ」(nudge:「そっと後押しする」の意)と呼ばれる手法を用いた実証試験を実施。東京・大田市場内の青果仲卸業者125社を2グループに分け、一方には「認識のそご」を単に説明したチラシを、他方には「ナッジ」を利用して納入先への提案を促すチラシを配布し、納入先の福島県産品の取扱い姿勢について確認してもらうよう依頼した上で、両グループの行動・意識の変化を比較した。つまり、Aグループには「取引先はあなたが思っているほど福島県産品であることを気にしていない」と端的に説明するのに対し、「ナッジ」を利用するBグループには「納品先に自分から福島県産品を提案する方が多くなっている」と、「同調行動」を促すという仕掛け。その結果、Bグループの方が「販売先への福島県産品の提案を増やそうと思った」割合が6.9ポイント高くなっていた。さらに、「チラシ形式の通知を受け取ったことにより、福島県産品の扱いについて考えるきっかけとなった」とする事業者も前年度調査と比べ増えており、情報発信において、「ナッジ」を活用したチラシ発出の重要性が示されたとしている。
- 02 Apr 2021
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JANSIが福島第一原子力発電所事故の教訓集を公開
原子力安全推進協会(JANSI)は4月1日、福島第一原子力発電所事故に係る教訓集をホームページ上に公開した。JANSIは、事故の反省に立ち、原子力安全を牽引する産業界の「自主規制組織」として2012年に発足。「世界最高水準の安全性の追求」をミッションに掲げ、発電所の評価活動(ピアレビュー)、運転情報の収集・分析、技術者養成などに取り組んできた。このほど公開された教訓集は、事故発生から10年の節目に際し、これまでに発表されてきた事故調査報告書などが示す教訓を改めて再整理するとともに、教訓の元となった事象や事実をさかのぼる検索システム(準備中)を構築し、「事業者が事故の教訓を日常的に学び現場で活用できる」よう作成したもの。教訓集は、政府事故調査委員会が最終報告書で示した委員長所感7項目を「知見」として活用し、(1)原子力施設の運営に係る教訓を再整理する際の基軸、(2)各事故調査報告書の教訓や指摘事項の体系的な整理、(3)原子力産業界だけでなく他産業界にも通じる教訓――といった「汎用的」な効果に結び付くことを期待している。政府事故調による7項目に加え、緊急時に活動する要員の環境整備や対外対応に関する「その他」項目を合わせた8つの「知見」を柱に、計71の「教訓細目」を示し、その根拠となる175の関連資料を分類整理。「知見」の第一にあげられた「あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる」からは、8つの「教訓細目」を示している。その一つ「他社事例から脅威となる本質を見抜き、ここでも起こり得るとの現実感をもって分析する」では、福島第一原子力発電所事故の要因となった津波による全電源喪失の経験から、「来ない」、「発生しない」といった思い込みを戒め、問いかけ学ぶ姿勢を堅持し他者の意見に耳を傾ける重要性を強調。また、「自分の目で見て自分の頭で考え、判断・行動することが重要であることを認識し、そのような能力をかん養すること」との「知見」では、「極限状態の中での意思決定に資する訓練を行う」必要性を述べており、各種事故報告書が記述した事故発生当時の現場での指揮状況について拾い上げ、冷静な決断力と信頼される人間力が極限状態の判断者には求められるとしている。この他、複合災害に鑑み緊急時要員の長期的な安全・健康管理や、情報発信に関し日頃からのリスクコミュニケーションを通じ「伝わること」を目指す重要性なども述べている。
- 01 Apr 2021
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福島の未来に向け、学生たちが「Jヴィレッジ」でトーク
原子力災害を経験した福島の10年を振り返り、「30年後の未来に向けてできること」をテーマに学生たちを交え話し合う環境省主催のトークイベントがこのほど「Jヴィレッジ」(楢葉町)で開催された。東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から10年を契機に、福島の環境再生と未来について考えるシンポジウムの中で行われたもの。東京からオンライン参加した小泉環境相(左)と丸山桂里奈さん環境省では昨秋より、「いっしょに考える『福島、その先の環境へ。』チャレンジ・アワード」と題し、福島の復興に関心を持つ中学生から大学生を対象に、これからの福島について、「こう変えたい」、「こうなって欲しい」という未来や希望に関するアイデアや想いを募集。3月12日に優秀作品が発表された。今回のトークイベントは、「チャレンジ・アワード」の受賞学生たちに加え、9月に環境省から「福島環境・未来アンバサダー」の第1号として任命されたタレントのなすびさんの他、オンラインを通じ、小泉進次郎環境相、内堀雅雄福島県知事、元サッカー女子日本代表で福島第一原子力発電所での勤務経験を持つ丸山桂里奈さんが参加。学生たちにエールを送る内堀知事トークイベントに先立ち行われた「チャレンジ・アワード」表彰式で、内堀知事は、「Jヴィレッジ」の名付け親である元サッカーイングランド代表のボビー・チャールトン氏の言葉「福島県の皆様が示した『あきらめない魂』は多くの人々に感動を与えている」を紹介し、今後の学生たちの活躍に期待を寄せた。「チャレンジ・アワード」最優秀賞を受賞した守谷さん(左)と林さん「チャレンジ・アワード」中学生部門最優秀賞を受賞した林佳瑞さん(ふたば未来学園中学校)は、「里山モデル福島への道」と題する作品の中で、「生物多様性での地域おこし」を提案。「双葉町では稲作をやめ水田に水が入らなくなったためタガメが消滅したが、帰還困難区域が解除された土地で再び人間が農業を始めると、消えた生物が戻ってくるケースが多い」という県職員の話に衝撃を受け、「絶滅に瀕した生物を救いたい」想いに至ったという林さんは、イベントで、「観察会もできるビオトープ(生物空間)を創りたい」と将来の希望を語った。なすびさん、2016年のエベレスト登頂経験を語り若者のチャレンジ精神を応援また、「蝶の研究から学んだ『自然と共生する福島』の実現方法」で高校生部門最優秀賞を受賞した守谷和貴さん(福島高校)は、福島県内の蝶を「自然のバロメーター」として調査し続け、急激な再生可能エネルギー開発や原子力災害に伴う森林管理の放棄などで生じた環境破壊を危惧したという。作品の中で空地への太陽光パネル設置や風車の小型化の他、県内森林資源への需要喚起、地形を活かした牧場・スキー場の創設を通じ観光産業の振興を提案する守屋さんは、「福島の美しい光景を未来に残していきたい」と意気込みを見せた。山村留学を通じ「人のつながりの大切さ」を学んだという東京出身の高校生・三宅さん、「福島を新しい社会のモデルへ」とこの他、高校生部門の入賞者から、カフェを拠点とした地域情報発信の提案や、福島県只見町への山村留学で得たふれあい体験など、コミュニティの視点からの福島復興・再生に向けたアイデアや想いも語られ注目を集めた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
- 25 Mar 2021
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「JANSI Annual Conference 2021」がオンライン開催
原子力安全推進協会(JANSI、ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア会長)は3月17日、「JANSI Annual Conference 2021」をオンラインで開催。海外からのビデオメッセージ発表やパネルディスカッションなどが行われた。 JANSIは、福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえ、「世界最高水準の安全性の追求」をミッションに掲げた原子力産業界による自主規制組織として2012年に発足し、(1)発電所評価(ピアレビュー)、(2)安全文化醸成支援、(3)運転経験情報の収集・分析・提示、(4)リーダーシップ研修、(5)安全向上策の評価・提言――などの活動を展開している。現在、事故の教訓が確実に事業者の活動において継続活用されることを目的とした「教訓集」の公開を準備中。 感染症拡大により2年ぶりの開催となった今回、来賓挨拶としてビデオメッセージを寄せたOECD/NEA事務局長のウィリアム・マグウッド氏は、「新型コロナのパンデミックで電力供給がいかに重要かを学んだ」とした。11日に福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎えたのに際し、「これまで日本の原子力は多くの難題に直面した。今後もたくさんの課題が待ち受けているが、是非とも前に進んで欲しい。原子力は経済と環境の両面から将来に向けなくてはならないエネルギー」などと述べ、JANSIの今後の活動に期待を寄せた。 この他、世界原子力発電事業者協会(WANO)議長のトム・ミッチェル氏は、福島第一原子力発電所事故がもたらした信頼失墜の厳しさを改めて述べ、「積み上げてきた知識の土台の上に立ち、業界全体の改善に取り組んで欲しい」と強調。原子力規制委員会委員の山中伸介氏は、JANSIに対し、社会とのコミュニケーションの必要性などを指摘した上で、「事業者のマネジメントシステムの改善や、人材育成にもより一層取り組むことを期待する」とした。 パネルディスカッションでは、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会に参画する東京大学大学院工学系研究科教授の山口彰氏が座長を務め、これまでの自主的・継続的安全性向上の取組について、「米国からみてどう評価できるか」、「他産業からみて改善点はないか」などをポイントに議論。パネラーとして、JR西日本副社長の緒方文人氏、元米国サウス・カロライナ・エレクトリック&ガス社(SCE&G)副社長のジェフリー・アーチー氏、北海道電力社長の藤井裕氏、九州電力社長の池辺和弘氏らが登壇し発言した。 緒方氏は、2005年の福知山線脱線事故を踏まえた「能動的な事故防止」の取組について紹介した上で、「事故当時の社員が少なくなっている」として、事故の教訓を後進につないでいく重要性を強調。アーチー氏は、「米国では継続的改善の文化が強く浸透している」として、JANSIが設立に際し手本とした米国原子力運転協会(INPO)による原則文書「トップであり続ける」(Staying on Top)を示し、JANSIのミッション追求に向け事業者のリーダーは全面的に参画する必要があるとした。 地域への電力安定供給に係る立場から、藤井氏は、2018年の北海道胆振東部地震に伴う大規模停電や、積雪・厳寒対策を踏まえた安全性向上活動について述べた上で、泊発電所の停止期間の長期化に鑑み「技術継承やモチベーションの維持が重要な課題」と強調。また、社会とのコミュニケーションに関し、池辺氏は、発電所周辺の「フェイス・トゥ・フェイス」を基本とした取組に一定の評価を示しつつも、「九州全体、日本全体をみるとまだ不十分」として、プラントの安定的な運転とともに、原子力に対する理解促進にJANSIと連携し取り組んでいく考えを述べた。
- 19 Mar 2021
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