[原子力産業新聞] 2000年6月22日 第2043号 <4面> |
[ドイツ] 原発政策「連邦政府と電力会社の取決め」全文3面所報のとおり、ドイツ政府は14日、主要電力4社とドイツ国内で稼働している原子力発電所の運転期間について基本的な合意に達した。これは現在稼働している原子力発電所が今年1月から発電する総発電量が2兆6,233万kWhになるまで認めるというもので、約90%の設備利用率とすると平均の運転年数は約32年間となる。この取り決めによって政府は安全基準や安全思想を独自に変更することはしないと明言している。またバックエンド政策についても中間貯蔵施設の設置、再処理のための輸送の許可などについても合意した。こうした合意事項は今後原子力法に盛り込むことになる。今号では「連邦政府と電力会社の取り決め」文書の全文と合意した電力4社連名の「共同プレスリリース」(15日付)を掲載する。(原産で日本語仮訳) 1.はじめに わが国では、原子力の責任をめぐる論争が数十年来続いており、激しい論議と対立が社会に生じている。原子力利用には依然として異なる立場があるにしても、電力会社としては、原子力発電を整然と廃止したいという連邦政府の決定を尊重するものである。 以上を背景として、連邦政府と電力会社は、既設原子力発電所の今後の利用に期限を設けることでお互い了解した。一方、その残りの供用期間中、高い安全水準を維持し、また原子力法の要求条件を遵守することを条件に、原子力発電所の妨害なき運転とそのバックエンドが保証されることになった。 双方は、この取り決めの内容を継続的に実行に移すに際し、応分の責任を果たす。この趣旨に基づき、連邦政府は、原子力法改正法案を起草する。 また、連邦政府と電力会社は、今回の取り決めとその実行をめぐり、当事者間で補償請求を行わないことを約束する。 連邦政府と電力会社は、今回達せられた合意を、包括的なエネルギー・コンセンサスにいたる重要な貢献と理解する。環境に優しく、また欧州市場で競争力あるエネルギー供給をわが国でさらに発展させるべく、双方は今後とも力を合わせて取り組んでいく。これにより双方は、可能なかぎり多くの職場をエネルギー産業で確保するという、重要な貢献も果たすことになる。 2.既設発電所の運転制限 (1)個々の原子力発電所について、2000年1月1日から、閉鎖されるまでに最大限の発電が許される発電量を計算し、確定する(残余発電量)。各々の原子力発電所について予定された発電量、または発電枠を譲ることで変更された発電量に達したとき、その発電所に与えられた運転権が消滅する。 (2)残余発電量(ネット)を次のように算出する。 ▽各々の発電所について、送電の開始から数えて32暦年という通常運転期間をベースとし、2000年1月1日以降まだ残っている残余運転期間を計算する。オプリッヒハイム原子力発電所については、2002年12月31日まで経過期間を置くことで合意をみた。 ▽さらに、各々の発電所について、1990〜99年の中から年間発電量の最も多かった5年分を選び、その平均値を計算する。この年単位の基準発電量をベースに置く。全原子力発電所による基準発電量は、1,609億9,000万kW/年である(ミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所を除く)。 ▽残余運転期間中に個々の発電所で技術的改良が継続的に行われる点、出力増強がなされる点、送電網安定化のための予備容量確保義務が電力市場の自由化等により変わる点などを考慮すると、実際の年間発電量は、基準発電量を5.5%上回る。 ▽5.5%上積みした基準発電量に残余運転期間を乗じて残余発電量を求める。 個々の原子力発電所について、このようにして求めた残余発電量を[付属資料1]として添付する。 この残余発電量を原子力法改正法の付則に添付し、法的拘束力をもたせる。ただし、下記2(4)の規定には影響しない。 (3)電力会社は、連邦放射線防護庁に対し、発電電力量を毎月報告する義務を負う。 (4)電力会社は、当事者たる運転者が連邦放射線防護庁に通知することにより、ある原子力発電所から別の原子力発電所に発電量(発電権)を譲ることができる。 あまり経済的でない発電所から経済性の高い発電所に発電量の粋を譲る柔軟性をもたせることで、当事者間で了解がなされた。したがって、より古い発電所からより新しい発電所へ、またより小型の発電所からより大型の発電所に発電量の枠を原則的に譲ることができる。 万一、より新しい発電所からより古い発電所に発電量を譲る場合には、関係電力会社の参加のもと設置するモニタリング・グループ(下記(7)を参照)の枠組みを通じ、交渉当事者間で了解を得ることが必要になる。より新しい発電所をいちどきに閉鎖する場合には、この了解を得る必要はない。 (5)RWE社は、ミュルハイム・ケールリッヒ原子力発電所の許認可申請を撤回する。同様に、RWE社は、ラインラント・プファルツ州を相手どって起こした損害賠償請求訴訟を取り下げる。 今回の取り決めにより、発電所の許認可手続きや運転停止期間に係わるいっさいの法律上、事実上の請求が清算された。 RWE社は、今回の取り決めにより、上記(4)に基づき、1,072億5,000万kWhの発電量の枠を他の原子力発電所に譲るチャンスを得た。 この発電量の枠を、エムスラント原子力発電所がより新しい別の発電所とグントレミンゲンB,C原子力発電所に譲り、なおかつ最大20%までビブリスB原子力発電所に護ることで了解が得られた。 3.残余運転期間中の発電所の運転 (1)安全基準/国の監督 原子力利用のリスクにどう責任を負うかについて異なった考え方があるにしても、わが国の原子力発電所やその他の原子力施設が国際的にみて高い安全水準で運転されている点については、双方の見解が一致している。双方は、この安全水準を引き続き維持していくというお互いの所見を確認しあった。 残余運転期間中、法令の求める高い安全基準を引き続き確保する。連邦政府は、この安全基準やその根底にある安全思想を変更する、いかなる自主的取り組みも講じない。連邦政府は、原子力法の要件が遵守される場合、発電所の運転を妨害しないことを保証する。 ビブリスA原子力発電所でバックフィットを行う手続きをさらに進めるために、連邦政府がRWE社に行った声明を[付属資料2]として添付する。 電力会社は、[付属資料3]で指定した期限までに安全検査(安全状態解析(SSA)と確率論的安全解析(PSA))を実施し、その結果を監督官庁に提出する、これにより、おおかたの原子力発電所で始まっている手法を定着させる。 安全検査を10年ごとに繰り返し行う。[付属資料3]で指定する期限が経過して3年以内に施設の運転を中止すると運転者が拘束力をもって言朋する場合、もはや安全検査を行う必要はない。 安全検査は、定期安全検査要綱に基づいて実施する。 定期安全検査要綱を改訂する場合、連邦環境・原子炉安全省は、州、原子炉安全委員会、原子力発電所運転者をこれに参加させる。 原子力法第19条の規定に基づく、国の監督に協力する運転者側の義務として、安全検査報告書の提出義務を法制化する。 原子炉安全協会(GRS)の独立性と適格性を引き続き保証する。 安全性を中心とする原子力技術分野の研究は、今後とも自由とする。 (2)経済的な枠組み条件 連邦政府は、一方的な措置により原子力利用を差別的に扱う、いかなる自主的取り組みも行わない。これは租税法にもあてはまる。ただし、いわゆる第二の財源またはそれに類する調整資金を上乗せし、填補(損害賠償)準備金を50億マルクに引き上げる。 4.バックエンド (1)中間貯蔵施設 電力会社は、可能なかぎりすみやかに原子力発電所サイト内か、その近くに使用済み燃料中間貯蔵施設を設置する。また同様に、中間貯蔵施設が運転を開始するまでの間、サイト内に暫定的な貯蔵スペースを確保する可能性を追求する。 (2)再処理 2005年7月1日以降、原子力発電所の運転から発生する放射性廃棄物の処分を直接最終処分に限定する。この時点まで、再処理を目的とした便用済み燃料の輸送を許す。搬送分について再処理を認める。なお、再処理を行う場合には、返還される再処理プロダクトを無害な形でリサイクルするという証明が必要となる。 電力会社は、できるだけ早く再処理を終了するため、その国際的パートナーに要求しうるあらゆる契約上の可能性を追求する。 まだ残っている使用務み燃料を予定の期間中に輸送してさしつかえないという点で、連邦政府と電力会社は合意した。さらに、再処理を目的とした使用済み燃料輸送の許認可手続きを法的前提条件に従って2000年夏までに完了できるという点でも、双方は合意をみた。万一、電力会社の支持しない理由により、再処理の清算手続きが時宜に適した形で実施できなくなった場合、双方は早めに適当な解決策を探す。 (3)輸送 電力会社は、各々のサイト近くの中間貯蔵施設が運転を開始するまで、使用済み燃料を法的前提条件に従って地域の中間貯蔵施設に輸送できる。また電力会社は、再処理を終了するまで使用済み燃料を法的前提条件に従って外国に輸送できる。双方は、サイト近くの中間貯蔵施設の運転準備がどんなに遅くとも5年以内に整うようにする。連邦政府、各州、そして電力会社は共同で輸送を実施する常設調整グループを設置する。連邦と各州の安全当局間の協力もまた進めていく。 (4)ゴアレーベン ゴアレーベン岩塩鉱の調査は、概念上、安全上の諸問題が解明されるまで、最短3年から最長10年の間、中断する。 連邦政府は、ゴアレーベン岩塩鉱の調査について声明を発表している。[付属資料4]として示すこの声明は、今回の取り決めの一角をなしている。 (5)パイロット前処理施設 所轄官庁は、パイロット前処理施設の許認可手続きを法的規定に基づいて完了する。施設の利用は、破損した容器の修理だけに限定する。差し迫った必要のある場合にかぎって、原子力法許認可の即時執行命命を申請する。 (6)コンラット立坑 所轄官庁は、コンラット立坑の計画確認手続きを法的規定に基づいて完了する。申請書は、計画確認決定の即時執行を求める申請を撤回し、本案手続きでの司法審査に委ねる。 (7)ゴアレーベンとコンラット立坑の費用 ゴアレーベンとコンラット立坑に要する費用を必要な経費とする点で、双方が了解した。それゆえ電力会社は、ゴアレーベンに関して、また電力会社が出資して引き継いだコンラット立坑の経費について、前納金の払い戻しを請求しない。凍結期間中、ゴアレーベン・サイトを確保するという連邦の約束を基本に据える([付属資料4]として掲げたゴアレーベン岩塩鉱の調査に関する連邦の声明を参照のこと)。、原状維持に要する費用は、電力会社が(コンラット立坑には出資金をあてて)負担する。 連邦政府が二ーダーザクセン州を相手どり、かつての監督上の命令や許可の不発給をめぐって損害賠償請求を行い、電力会社に匹敵する事態解明の努力をしているのを、電力会社は承知している。電力会社は、当方に割り当てられた出資分に関し、いかなる払い戻し請求も連邦に行わないことを宣言する。 (8)バックエンド準備の証明 バックエンド準備証明の中身を今回の取り決めの内容にあわせて改訂する。 5.原子力法の改正 (1)原子力発電所の新設を法的に禁止する措置と、サイト近くに中間貯蔵施設を設置し、利用する法的義務を連邦政府が導入しようとしているのを電力会社は承知している。 (2)連邦政府はその趣旨に基づき、原子力法改正法察を起草する(この点については[付属資料5]の概要を参照のこと)、今回の取り決めの内容を、その趣旨を含め、改正原子力法に盛り込むことを前提として、当事者はこの取り決めを締結する。改正原子力法の文面については、内閣が処理する前に、政府案をたたき台として交渉当事者間で協議を行う。 6.雇用の確保 連邦政府と電力会社にとって、エネルギー産業界の雇用確保が重要な課題となっている。今回、中期的な目標をねらうアプローチをとり、なかでも運転期間を柔軟に運用できる余地を残しておいたのは、そのような関心に配慮したためである。エネルギー集積地点としてのドイツの地位を強化するため、環境に優しく、欧州市場で競争力あるエネルギー供給を可能にする枠組み条件をいかにして整備できるのか。この点について連邦政府と電力会社は今後、話し合いをすすめていく。発電所やエネルギー供給サービスに投資することにより、結果としてわが国で競争力ある職場を可能なかぎり大規模に確保できるよう、当事者は希望している。 7.モニタリング 共同取り決めの実施を補助するため、高級作業部会を設置する。この作業部会は参加企業の代表者3名、連邦政府の代表者2名をもって構成する。作業部会は内閣官房長官を座長とし、通常年1回、場合によっては外部有識者の意見を聞きながら、共同でこの取り決めに盛り込まれた申し合わせの実施状況を評価する。
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