総合資源エネルギー調査会の発電コスト検証ワーキンググループ(座長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構副理事長)は4月12日の会合で、火力と原子力について取り上げた。〈資料は こちら〉同WGは2015年に15種類の電源について発電コストに係る試算をまとめているが、昨秋からのエネルギー基本計画見直しの本格化に伴い、3月末に約6年ぶりに再開。資源エネルギー庁は、前回会合で取り上げた再生可能エネルギーに続き、火力発電と原子力発電のコスト算定方法と必要となる各諸元を整理し、火力については、石炭、LNG、石油の他、CCS(CO2回収・貯留技術)付火力発電、水素、アンモニアに係るコスト試算の考え方を新たに示した。原子力については、2015年の試算時に整理された考え方を踏襲した上で、(1)新規制基準への対応を踏まえた追加的安全対策、(2)事故リスク対応、(3)核燃料サイクル――に係る増額などを適切に反映することとしている。委員からは、増井利彦氏(国立環境研究所社会システム領域室長)が、IEAの「ワールド・エナジー・アウトルック」が示すシナリオや米国の炭素の社会的費用評価(自動車の燃費規制など)を巡る動向を踏まえ、発電コストの検討におけるCO2対策費用の論点を提示。松尾雄司氏(日本エネルギー経済研究所研究主幹)は、OECD/NEAが試算した原子力発電所建設単価の各国比較を示した。松尾氏は、「継続的に原子力発電建設を進めてきた韓国やロシアにおいて建設単価は低い水準にある」としたほか、日本の再稼働プラントの設備利用率を示した上で、原子力発電の経済性維持のため、遅延のない建設の遂行と安定的な運用が必要なことを示唆。また、高村ゆかり氏(東京大学未来ビジョン研究センター教授)は、日本原子力学会が昨夏取りまとめた福島第一原子力発電所廃炉に係るエンドステート(最終的状態)までを見通した報告書「国際標準からみた廃棄物管理」に触れ、事故廃炉費用について改めて精査する必要性を述べた。これに対し、今回オブザーバーとして出席した原子力損害賠償・廃炉等支援機構理事長の山名元氏は、福島第一原子力発電所における燃料デブリ取り出し・廃棄物に関し、「工法によって発生量も大きく変わってくる。規制基準、社会的問題も含め、まったくの『白紙状態』」などと述べ、現状ではコスト算定に採り入れられる十分なデータは皆無であることを強調した。
12 Apr 2021
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原産協会の新井史朗理事長は4月7日、記者会見を行い、13、14日に開催される「第54回原産年次大会」(東京国際フォーラムよりオンライン配信)について紹介した。今回は「コロナ禍の世界と日本-環境・エネルギーの課題と原子力」がテーマ。コロナ禍の影響を含め、地球規模で人々が直面する課題(変化する世界情勢・経済の変化、気候変動、エネルギー・原子力利用)を俯瞰。また、事故から10年が経過した福島第一原子力発電所廃炉の現状と福島復興を展望するとともに、昨秋より本格的に検討が開始された次期エネルギー基本計画を念頭に、あるべき日本のエネルギー・原子力の課題について考える。原産年次大会は、新型コロナウイルス感染症による影響を考慮し2020年は中止となった。新井理事長はまず、2年ぶりの開催となる今回大会について「海外の非常にハイレベルな方々の登壇も適うこととなった」と、オンライン併用による開催のメリットを強調。今回のテーマに関し、昨今のエネルギー安定供給を巡り、「世界的なパンデミックにより、エネルギーにおけるサプライチェーンの課題がクローズアップしてきた」などと、国際情勢の変化を概観するとともに、「わが国は化石燃料の大部分を海外からの輸入に頼っており、一次エネルギー自給率は約12%と、先進国の中でも特に低い」と、日本の現状を改めて述べた。さらに、今冬の電力需給ひっ迫に関し、「特に厳しかった1月6~12日の間、全国で稼働していた原子力発電プラントはわずか3基だった」と振り返り、原子力の電力需給における位置付けを考える契機となったことを強調。原子力発電の環境適合性については、「日本の年間CO2排出量は約11億トン。100万kW級のプラント1基が稼働すれば年間310万トンのCO2を削減できる。2050年カーボンニュートラル実現に不可欠」とした上で、今回の年次大会を通じ「脱炭素社会の実現と持続的発展に貢献する原子力の価値について国民の皆様の議論が深まることを期待する」と述べた。次期エネルギー基本計画に関する記者からの質問に対し、新井理事長は「安全を大前提とした3E(安定供給、経済効率性、環境適合性)の観点のもと、将来にわたって一定規模の原子力発電を利用していくというメッセージを発信して欲しい」としたほか、再稼働が進まぬ状況下、「既存炉の徹底活用」の重要性を繰り返し強調。また、原子力イノベーションに関し、先般の日揮ホールディングスによる米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)開発への出資について触れ、「日本の企業が海外と連携することは技術力の維持にもつながり喜ばしいこと」と、歓迎の意を述べた。
08 Apr 2021
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原子力産業新聞が電力各社より入手したデータによると、2020年度の国内原子力発電所の設備利用率は13.4%で、対前年度比7.2ポイント減少。総発電電力量は同約4割減の387億5,169万kWhだった。2018年6月に発電を再開した九州電力玄海4号機を最後に新たな再稼働プラントはなく、2020年度は引き続き、関西電力高浜3、4号機、同大飯3、4号機、四国電力伊方3号機、九州電力玄海3、4号機、同川内1、2号機の、いずれもPWR、計9基での運転。川内1、2号機では、新規制基準で求められるテロ対策の「特定重大事故等対処施設」(特重施設)が初の事例として運用を開始し、それぞれ11、12月に発電を再開した。また、関西電力高浜3、4号機では、それぞれ8、10月に特重施設の設置期限を満了。そのうち、3号機で12月に同施設の運用が開始され、3月10日に発電再開となった。4号機も3月25日に特重施設に係る原子力規制委員会の使用前確認が終了しており、5月中旬にも本格運転に復帰する見通し。7月に定期検査入りし停止中の関西電力大飯3号機では、傷の確認された配管の取替を行うこととしており運転再開時期は未定。年度内を通じ停止した四国電力伊方3号機については、3月18日に広島高裁で運転差止仮処分命令を取り消す決定がなされた。*各原子力発電プラントの2020年度運転実績(2021年3月分を併記)は こちら をご覧下さい。
07 Apr 2021
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ニュースケール社が開発するSMR(©NuScale Power社)日揮ホールディングスは4月6日、海外における小型モジュール炉(SMR)のEPC(設計・調達・建設)事業に進出すべく、米国ニュースケール社に4,000万ドルの出資を行うことを決定したと発表した。〈日揮発表資料は こちら〉ニュースケール社は、アイダホ州の国立研究所内に2029年の運転開始を目指し軽水炉型SMR(直径約4.5m、高さ約23m、1基当たりの電気出力7.7万kW)の開発を進めている。SMRは小型炉心のため、自然循環を使用した原子炉の冷却機構など、システムのシンプル化を通じた信頼性向上とともに、工場でのユニット生産も可能。従来の100万kW級原子炉に比べ工期短縮・建設コスト削減を図れるメリットを持ち、米国の他、カナダ、英国でも、実証炉建設から第三国への展開に向けた開発プロジェクトが進行中だ。日揮ホールディングスは、SMRの将来的な市場拡大に加え、再生可能エネルギーと並び、脱炭素社会の実現に貢献できるものと期待。中でもニュースケール社の技術が、他のSMR技術に先駆けて、2020年8月に米国初の設計認証を取得し、米国原子力規制委員会(NRC)によりその安全性が認められたことから、商業化に最も近いSMR技術であると見て、今回の決定に至った。今後は、海外市場を中心にSMRのEPCプロジェクトの受注・遂行を視野に活動していくほか、SMRと再生可能エネルギー設備、水素製造設備、海水淡水化設備とを統合したプラントシステムの開発も検討していく。会見を行う梶山経産相(インターネット中継)2050年カーボンニュートラル宣言を受けて2020年12月に策定された「グリーン成長戦略」では、原子力産業の取組に関し、「海外で進む次世代革新炉開発に、高い製造能力を持つ日本企業も連携して参画していく」とされている。梶山弘志経済産業相は、4月6日の閣議後記者会見で、「多様な原子力技術のイノベーションを促進することは、原子力の安全性向上を絶えず追求する観点からも重要。今回、日米企業の連携による具体的取組に進捗が見られたことは大変喜ばしい」と述べた。
06 Apr 2021
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農林水産省は3月31日、福島県産農水産物の流通に係る2020年度の実態調査結果を発表した。福島県の農林水産業の再生に向けて、県産品の市場における販売不振の実態と要因を明らかにするため2017年度より行われているもの。それによると、調査対象の25品目中、重点6品目とする米、牛肉、桃、あんぽ柿、ピーマン、ヒラメについて、出荷量は依然と震災前の水準までに回復しておらず、価格は全国平均と比較し差が徐々に縮小し、ピーマンとヒラメではほぼ全国水準に達しているものの、他の品目では下回っているといった実態が明らかとなり、「引き続き販売不振の解消に向けた取組が必要」としている。同調査で実施した全国消費者約1万人へのアンケートによると、県産米では20.9%、県産桃では23.6%が購買したと回答しているほか、6品目ともに7~8割が「非常によい」、「よい」と評価。なお、桃の出荷量は、台風に伴う大雨や病害の影響で前年度より約2割減少している。全国平均との価格差が生じる背景については、事業者へのヒアリングでマーケティング面の課題も数多く指摘されており、消費者の需要の変化に応じた対応とともに、ブランド力や商品開発力の強化も求められているなどと分析。一方で、納入業者(仲卸業者など)が納入先(加工業者、小売・外食店など)の福島県産品の取扱い姿勢を過剰にネガティブに評価している、という「認識のそご」があることから、今回の調査では、人の感情に働きかけて“何となく”行動を促す「ナッジ」(nudge:「そっと後押しする」の意)と呼ばれる手法を用いた実証試験を実施。東京・大田市場内の青果仲卸業者125社を2グループに分け、一方には「認識のそご」を単に説明したチラシを、他方には「ナッジ」を利用して納入先への提案を促すチラシを配布し、納入先の福島県産品の取扱い姿勢について確認してもらうよう依頼した上で、両グループの行動・意識の変化を比較した。つまり、Aグループには「取引先はあなたが思っているほど福島県産品であることを気にしていない」と端的に説明するのに対し、「ナッジ」を利用するBグループには「納品先に自分から福島県産品を提案する方が多くなっている」と、「同調行動」を促すという仕掛け。その結果、Bグループの方が「販売先への福島県産品の提案を増やそうと思った」割合が6.9ポイント高くなっていた。さらに、「チラシ形式の通知を受け取ったことにより、福島県産品の扱いについて考えるきっかけとなった」とする事業者も前年度調査と比べ増えており、情報発信において、「ナッジ」を活用したチラシ発出の重要性が示されたとしている。
02 Apr 2021
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原子力安全推進協会(JANSI)は4月1日、福島第一原子力発電所事故に係る教訓集をホームページ上に公開した。JANSIは、事故の反省に立ち、原子力安全を牽引する産業界の「自主規制組織」として2012年に発足。「世界最高水準の安全性の追求」をミッションに掲げ、発電所の評価活動(ピアレビュー)、運転情報の収集・分析、技術者養成などに取り組んできた。このほど公開された教訓集は、事故発生から10年の節目に際し、これまでに発表されてきた事故調査報告書などが示す教訓を改めて再整理するとともに、教訓の元となった事象や事実をさかのぼる検索システム(準備中)を構築し、「事業者が事故の教訓を日常的に学び現場で活用できる」よう作成したもの。教訓集は、政府事故調査委員会が最終報告書で示した委員長所感7項目を「知見」として活用し、(1)原子力施設の運営に係る教訓を再整理する際の基軸、(2)各事故調査報告書の教訓や指摘事項の体系的な整理、(3)原子力産業界だけでなく他産業界にも通じる教訓――といった「汎用的」な効果に結び付くことを期待している。政府事故調による7項目に加え、緊急時に活動する要員の環境整備や対外対応に関する「その他」項目を合わせた8つの「知見」を柱に、計71の「教訓細目」を示し、その根拠となる175の関連資料を分類整理。「知見」の第一にあげられた「あり得ることは起こる。あり得ないと思うことも起こる」からは、8つの「教訓細目」を示している。その一つ「他社事例から脅威となる本質を見抜き、ここでも起こり得るとの現実感をもって分析する」では、福島第一原子力発電所事故の要因となった津波による全電源喪失の経験から、「来ない」、「発生しない」といった思い込みを戒め、問いかけ学ぶ姿勢を堅持し他者の意見に耳を傾ける重要性を強調。また、「自分の目で見て自分の頭で考え、判断・行動することが重要であることを認識し、そのような能力をかん養すること」との「知見」では、「極限状態の中での意思決定に資する訓練を行う」必要性を述べており、各種事故報告書が記述した事故発生当時の現場での指揮状況について拾い上げ、冷静な決断力と信頼される人間力が極限状態の判断者には求められるとしている。この他、複合災害に鑑み緊急時要員の長期的な安全・健康管理や、情報発信に関し日頃からのリスクコミュニケーションを通じ「伝わること」を目指す重要性なども述べている。
01 Apr 2021
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総合資源エネルギー調査会は3月31日、各電源の発電コストなどを試算するワーキンググループを始動した(=写真、オンライン中継)。エネルギー基本計画の見直しに向け「現実的かつバランスのとれたエネルギー需給構造の将来像」の検討に資するべく、同調査会基本政策分科会のもと、「発電コスト検証ワーキンググループ」(座長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構副理事長)が約6年ぶりに再開。〈資料は こちら〉同ワーキンググループでは2015年に、2014年策定のエネルギー基本計画に基づき、エネルギーミックス検討に向けて試算結果をまとめた。原子力、石油火力、石炭火力、LNG火力、地熱、水力、バイオマス、風力(陸上)、太陽光など、15種類の電源ごとに、モデルプラントを想定し、資本費、運転維持費、燃料費、社会的費用(事故リスク対応費、政策経費、環境対策費など)の総和を稼働期間の発電電力量で除したものとして算出。原子力については、発電に直接関係するコストだけでなく、将来発生する廃炉・核燃料サイクル(放射性廃棄物最終処分を含む)に係るコストや、事故対応費用、電源立地交付金などの社会的費用も織り込んで試算し、全電源の中では最もコストが低かった(設備利用率70%、稼働年数40年、事故リスク対応費用を最小とした場合)。今回、再開したワーキンググループで、発電技術そのものの評価に適した「モデルプラント方式」によるコスト試算方法を継続することについては概ね合意。これに関し、OECDのコスト試算専門家会合に参画する松尾雄司氏(日本エネルギー経済研究所研究主幹)は、OECD/NEA・IEAが12月に公表した世界の電源別発電単価に係る最新の評価レポートを紹介し、(1)CO2回収・利用・貯蔵技術や原子力の寿命延長、(2)蓄電池の評価、(3)非OECD諸国のデータ、(4)新たな評価指標――に注目すべきとした。同氏は、欧米で用いられる種々の発電コスト評価指標を例示した上で、「各電源のコストは単一の値によって示されるものではなく、それが存在するエネルギーミックスの状況によって変化する」などと示唆。委員からは、新たな脱炭素技術として期待される水素・アンモニアに関する評価や、今冬の電力需給ひっ迫を省み送配電網の強靭化についても考慮すべきといった意見、2050年カーボンニュートラル実現を踏まえ「大きな政策目標との観点から議論していく必要」との声もあった。
31 Mar 2021
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原産協会はこのほど、プレイしながら原子力発電に係る知識を深めポジティブなイメージを持ってもらえるよう、原子力発電所に必要なものを題材としたボードゲーム(2~6人用)を作成した。「原子力発電 THE ボードゲーム」と題するこのゲームの手順は、原子力発電所に必要な10種類の「対策」のいずれかが記載・説明されたカードを切り混ぜ、各プレーヤーに分配(残りは山札としてストック)。トランプゲームに似た要領で、各プレーヤーは順にルールに従って、各々の原子力発電所を模したゲームシートに、カードを置きながら完成形に近づけていく。以下の10種類の「対策」、地震に対する対策原子炉を止める原子炉を冷やす放射性物質を閉じ込める非常用電源の設置津波に対する対策発電設備の設置多様な電源と注水設備の準備操作・訓練の充実意図的な航空機衝突などに対応――をゲームシート上に揃え、「プラント起動!」のカードを最初にゲットした者が「勝者」になる。一番最初にすべての「対策」カードをゲームシート上に置き終えたプレイヤーが、「プラント起動!」カード(頂点)をゲットしできるのだ各プレーヤーが持つカードには、原子力発電所に必要な「対策」の他、ゲームを進める上で自分に有利となる「効果」も書かれており、ゲームに勝つには、これらの「効果」を上手く活用する戦略が必要となる。例えば、他のプレーヤーに対し、「提携」のカードを行使すると相手の手札1枚を選び抜いて自身の持ち札に加えることができ、「働き方改革」のカードでは対戦相手を「1回休み」にすることができるといった具合だ。ゲームを行う上で、原子力に関する予備知識は特段必要ないため、幅広い年代(中学生~大人)が一緒に遊ぶことができる。また、説明書ではカードに書かれた「対策」について詳しく解説している。コンピューターゲームが席巻する中、ボードゲームはコミュニケーションツールの一つとして見直されつつあり、百貨店の特設売場・専門店でも根強い人気を集め、家族や友人との娯楽・コミュニケーションアイテムとして活用される以外に、近年では企業研修にも供されているほどだ。今回、ゲームの制作に当たった原産協会地域交流部では、「学校教育でも使用しやすいものであり、関係各所にボードゲームを頒布することで場所や人を問わず遊んでもらうことができる」と、期待を寄せている。「原子力発電 THE ボードゲーム」(非売品)の問合せは、原産協会地域交流部(電話03-6256-9320、9377)まで。
29 Mar 2021
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原子力発電環境整備機構(NUMO)は3月26日、高レベル放射性廃棄物の最終処分地選定に向け文献調査を実施している北海道の寿都町と神恵内村にそれぞれ、対話・広報の拠点となる「NUMO寿都交流センター」、「NUMO神恵内交流センター」を開設した。〈NUMO発表資料は こちら〉寿都交流センター(NUMOホームページより引用)交流センターには、NUMO職員を常駐させ、地域の要請に応じた問合せにきめ細かく対応していく。また、同日、両センターを支援する「札幌事務所」も開設された。実施中の文献調査に関連し、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会で3月22日、今後の主な課題として、(1)当該2自治体での対話活動、(2)周辺自治体も含めた地域での対話活動、(3)全国のできるだけ多くの地域での文献調査の実現、(4)技術的信頼性のさらなる向上――があげられている。現在、NUMOでは、寿都町・神恵内村に、地層処分の仕組みや安全確保の考え方、文献調査の進捗状況、地域の発展ビジョンに資する取組について意見交換を行う「対話の場」(住民20名程度で構成)の立ち上げに向け、自治体との調整を行っているところだ。
26 Mar 2021
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日本動力協会による「エネルギートップ講演会」が3月23、24日、オンラインで開催された。同協会が電力、ガス、石油などのエネルギー関連業界団体トップを招き3年おきに実施しているもの。24日には、電気事業連合会会長の池辺和弘氏が講演を行うとともに、動力協会会長の桝本晃章氏と対談した。池辺氏は、2050年カーボンニュートラル実現に向けた電力業界の取組として、(1)供給側の「電源の低・脱炭素化」、(2)需要側の「電化の推進」、(3)イノベーション・課題克服――を掲げ説明。12月に設置した電力各社社長による「2050年カーボンニュートラル実現推進委員会」で、今後、「社会の脱炭素化に貢献できる対策をしっかり議論していく」と述べた。また、同氏は、喫緊の課題として、新型コロナウイルス感染症への対応をあげ、「感染予防・拡大防止策を講じ、業界一丸となって日々緊張感を持ちながら、電力安定供給に万全を期している」と、電気事業者としての使命を改めて強調した。対談に入り、桝本氏が電力安定供給に係る現場の努力に労いの言葉を述べたのに対し、池辺氏は、2020年に運用を開始した九州電力川内原子力発電所1、2号機のテロなどに備えた「特定重大事故等対処施設」(特重施設)設置工事を例示。感染症対策下、3,000~4,000人の作業員が従事する中、特重施設が完成に至ったことを振り返り、「もしここでクラスターが発生したら、10~20日にわたり工事が止まってしまう」と、電力安定供給に係る現場意識の重要性を再認識した上で、「今後も気を引き締めて取り組んでいく」との決意を表明した。桝本氏は、昨今の報道による「再生可能エネルギーで電力供給がすべてまかなえる」といった誤解に危惧を示し、電圧や周波数などが安定した「電気の品質」の重要性からも、改めて「安定供給維持は電力マンの大きな仕事」と強調。池辺氏は、今後の電力需要の見通しに関し、「人口は減少しても電化が進むにつれ増えていくと思う」と予測。電力供給サイドとして、原子力については「科学的・技術的には完成されており、安全性をより高めるよう努めていくが、世の中の皆様に理解してもらう努力が必要」などと述べた。再生可能エネルギーや火力の必要性と課題もあげ、すべての電源を最大限活用しても「2050年ではぎりぎり対応できるところ」との見通しを示した。また、検討が進められているエネルギー基本計画見直しや2050年カーボンニュートラル実現に関し、池辺氏は、中国の習主席が2020年の国連総会で表明した「2060年カーボンニュートラル」に言及するなど、他国の脱炭素化に向けた躍進を示唆。将来に向けて「中国や米国などのビッグパワーの中で日本がどういう立ち位置にあるのか。どういうエネルギー構造が望ましいのか」を真剣に議論していく必要性を強調した。
26 Mar 2021
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原子力災害を経験した福島の10年を振り返り、「30年後の未来に向けてできること」をテーマに学生たちを交え話し合う環境省主催のトークイベントがこのほど「Jヴィレッジ」(楢葉町)で開催された。東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から10年を契機に、福島の環境再生と未来について考えるシンポジウムの中で行われたもの。東京からオンライン参加した小泉環境相(左)と丸山桂里奈さん環境省では昨秋より、「いっしょに考える『福島、その先の環境へ。』チャレンジ・アワード」と題し、福島の復興に関心を持つ中学生から大学生を対象に、これからの福島について、「こう変えたい」、「こうなって欲しい」という未来や希望に関するアイデアや想いを募集。3月12日に優秀作品が発表された。今回のトークイベントは、「チャレンジ・アワード」の受賞学生たちに加え、9月に環境省から「福島環境・未来アンバサダー」の第1号として任命されたタレントのなすびさんの他、オンラインを通じ、小泉進次郎環境相、内堀雅雄福島県知事、元サッカー女子日本代表で福島第一原子力発電所での勤務経験を持つ丸山桂里奈さんが参加。学生たちにエールを送る内堀知事トークイベントに先立ち行われた「チャレンジ・アワード」表彰式で、内堀知事は、「Jヴィレッジ」の名付け親である元サッカーイングランド代表のボビー・チャールトン氏の言葉「福島県の皆様が示した『あきらめない魂』は多くの人々に感動を与えている」を紹介し、今後の学生たちの活躍に期待を寄せた。「チャレンジ・アワード」最優秀賞を受賞した守谷さん(左)と林さん「チャレンジ・アワード」中学生部門最優秀賞を受賞した林佳瑞さん(ふたば未来学園中学校)は、「里山モデル福島への道」と題する作品の中で、「生物多様性での地域おこし」を提案。「双葉町では稲作をやめ水田に水が入らなくなったためタガメが消滅したが、帰還困難区域が解除された土地で再び人間が農業を始めると、消えた生物が戻ってくるケースが多い」という県職員の話に衝撃を受け、「絶滅に瀕した生物を救いたい」想いに至ったという林さんは、イベントで、「観察会もできるビオトープ(生物空間)を創りたい」と将来の希望を語った。なすびさん、2016年のエベレスト登頂経験を語り若者のチャレンジ精神を応援また、「蝶の研究から学んだ『自然と共生する福島』の実現方法」で高校生部門最優秀賞を受賞した守谷和貴さん(福島高校)は、福島県内の蝶を「自然のバロメーター」として調査し続け、急激な再生可能エネルギー開発や原子力災害に伴う森林管理の放棄などで生じた環境破壊を危惧したという。作品の中で空地への太陽光パネル設置や風車の小型化の他、県内森林資源への需要喚起、地形を活かした牧場・スキー場の創設を通じ観光産業の振興を提案する守屋さんは、「福島の美しい光景を未来に残していきたい」と意気込みを見せた。山村留学を通じ「人のつながりの大切さ」を学んだという東京出身の高校生・三宅さん、「福島を新しい社会のモデルへ」とこの他、高校生部門の入賞者から、カフェを拠点とした地域情報発信の提案や、福島県只見町への山村留学で得たふれあい体験など、コミュニティの視点からの福島復興・再生に向けたアイデアや想いも語られ注目を集めた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
25 Mar 2021
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廃止措置が進められている高速増殖原型炉「もんじゅ」のサイトに新たな研究炉を設置するため、概念設計や運営のあり方について検討する委員会が3月23日、福井大学(敦賀市)で初会合を行った(=写真、オンライン中継)。昨秋、文部科学省の作業部会は、「もんじゅ」サイトの活用として、(1)西日本における原子力分野の研究開発・人材育成の中核的拠点にふさわしい機能の実現、(2)地元振興への貢献――の観点から最適なものとなるよう取り組むことを基本的考え方に、2020年度中の概念設計着手、2022年度中の詳細設計開始を目指し、中出力の研究炉(熱出力10MW未満程度、中性子ビーム研究を主目的)の設置検討を決定。概念設計や運営のあり方について検討する中核的機関として、日本原子力研究開発機構(代表機関、試験研究炉の設計・設置・運転)、京都大学(幅広い利用運営)、福井大学(地元関係機関との連携構築)を選定した。今回の委員会は、中核的機関に加え、研究炉の利用ニーズを有する学術界、産業界、地元関係機関などからなる「コンソーシアム」(共同事業体)によるキックオフ会合として開催。会場とオンラインとの併用で行われた。開会に際し、文科省審議官(研究開発)の堀内義規氏は、国内で多くの研究炉が廃止に進む一方、2050年カーボンニュートラルの実現を目指すといった原子力利用を巡る状況を述べ、「人材確保は非常に重要」と強調。地元として、福井県地域戦略部長の前田洋一氏、敦賀市長の渕上隆信氏は、地域経済に与える効果からも研究炉の果たす役割の重要性を述べ、今後の委員会による議論に期待した。新たな研究炉のイメージ(文科省発表資料より引用)2月に原子力機構の研究炉「JRR-3」(東海村)が運転を再開したところだが、現在、西日本において原子力研究開発・人材育成の中心的な役割を有している京都大学研究炉「KUR」は、2026年以降の運転継続が困難な状況。同学複合原子力科学研究所所長の川端祐司氏は、新たな研究炉構想を踏まえ、「KUR」の経験に基づいた(1)利用分野の調査、(2)利用者のニーズ把握、(3)求められる要件の明確化――の方向性とともに、福井分室の新設など、2030年以降を見据えた将来目標・計画を披露した。研究炉の中性子利用は、医療、工業他、多分野に応用されており、新たに設置する研究炉も、「JRR-3」や大強度陽子加速器施設「J-PARC」などと分担し効果的に運用していく必要がある。原産協会理事長の新井史朗氏は、新たな研究炉が半導体や医療用アイソトープの製造に活かされるとともに、若手への関心喚起や原子力の合理的な規制につながることを期待。地元企業として東洋紡総合研究所分析センターリーダーの船城健一氏は利便性を、近畿大学原子力研究所所長の山西弘城氏は研究炉建設に係わる人材育成を図っていく必要性をそれぞれ述べた。
24 Mar 2021
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総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会(委員長=安井至・バックキャストテクノロジー総合研究所エグゼクティブフェロー)は3月22日、核燃料サイクル、最終処分、廃炉について議論した。〈資料は こちら〉エネルギー基本計画の見直しに資するべく約2年ぶりに再開した前回の会合で、同小委員会は原子力政策の課題と方向性を、(1)安全性の追求、(2)立地地域との共生、(3)持続的なバックエンドシステムの確立、(4)原子力発電の事業性向上、(5)人材・技術・産業基盤の維持・強化と原子力イノベーション――に整理。その中で、40年超運転が立地地域に与える影響などを踏まえ、国、自治体、事業者らが参画する「立地地域の将来像を議論する場」の創設が提案された。今回会合で、資源エネルギー庁より、福井県における「立地地域の将来へ向けた共創会議」を設置し、(1)原子力関連の研究・産業、(2)新たなエネルギー・環境産業、(3)今後の地域環境の変化を踏まえた新たな産業・地域振興や暮らし生活――といったテーマを柱に検討を進めていく考えが示され、福井県知事の杉本達治氏は、「当事者として前向きの意見を述べていく」などと述べた。核燃料サイクルに関する議論では、まず、資源エネルギー庁が取組状況を説明。電気事業連合会による「2030年度までに少なくとも12基の原子炉で」とする新たなプルサーマル計画の発表など、今後の進展を見据え、使用済MOX燃料の再処理技術を2030年代後半目途に確立すべく、2021年度以降、(1)使用済MOX燃料と使用済ウラン燃料を混合再処理する技術、(2)廃液から半減期の長い物質を分離する技術――の確立に向け、官民連携で研究開発を加速化するとした。バックエンドに係る取組も含め、事業者からは、電事連原子力開発対策委員長の倉田千代治氏、日本原燃社長の増田尚宏氏、原子力発電環境整備機構理事長の近藤駿介氏が説明。委員からは、六ヶ所再処理工場しゅん工時期の延期に伴うコスト面での懸念、クリアランス物再利用の科学的安全性に係る国民理解やビジネス化に一層取り組むべきとの意見があった。また、最近発表された日本原子力文化財団による世論調査の結果に関し、「『国民の約4割しか、原子力は発電の際にCO2を出さないことを知らない』という事実を押さえるべき」、「立地地域と消費地域を分けて分析するなど、もう少し深く検討していくべき」などと指摘された。この他、風評被害対策に関して「社会学の専門家も交えて議論を」、昨今の核セキュリティに係る事案発生に鑑み「現場の士気が損なわれぬよう外部支援も必要では」といった声もあった。原子力小委員会は、次回会合で人材育成について議論する予定。
22 Mar 2021
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原子力安全推進協会(JANSI、ウィリアム・エドワード・ウェブスター・ジュニア会長)は3月17日、「JANSI Annual Conference 2021」をオンラインで開催。海外からのビデオメッセージ発表やパネルディスカッションなどが行われた。 JANSIは、福島第一原子力発電所事故の反省を踏まえ、「世界最高水準の安全性の追求」をミッションに掲げた原子力産業界による自主規制組織として2012年に発足し、(1)発電所評価(ピアレビュー)、(2)安全文化醸成支援、(3)運転経験情報の収集・分析・提示、(4)リーダーシップ研修、(5)安全向上策の評価・提言――などの活動を展開している。現在、事故の教訓が確実に事業者の活動において継続活用されることを目的とした「教訓集」の公開を準備中。 感染症拡大により2年ぶりの開催となった今回、来賓挨拶としてビデオメッセージを寄せたOECD/NEA事務局長のウィリアム・マグウッド氏は、「新型コロナのパンデミックで電力供給がいかに重要かを学んだ」とした。11日に福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎えたのに際し、「これまで日本の原子力は多くの難題に直面した。今後もたくさんの課題が待ち受けているが、是非とも前に進んで欲しい。原子力は経済と環境の両面から将来に向けなくてはならないエネルギー」などと述べ、JANSIの今後の活動に期待を寄せた。 この他、世界原子力発電事業者協会(WANO)議長のトム・ミッチェル氏は、福島第一原子力発電所事故がもたらした信頼失墜の厳しさを改めて述べ、「積み上げてきた知識の土台の上に立ち、業界全体の改善に取り組んで欲しい」と強調。原子力規制委員会委員の山中伸介氏は、JANSIに対し、社会とのコミュニケーションの必要性などを指摘した上で、「事業者のマネジメントシステムの改善や、人材育成にもより一層取り組むことを期待する」とした。 パネルディスカッションでは、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会に参画する東京大学大学院工学系研究科教授の山口彰氏が座長を務め、これまでの自主的・継続的安全性向上の取組について、「米国からみてどう評価できるか」、「他産業からみて改善点はないか」などをポイントに議論。パネラーとして、JR西日本副社長の緒方文人氏、元米国サウス・カロライナ・エレクトリック&ガス社(SCE&G)副社長のジェフリー・アーチー氏、北海道電力社長の藤井裕氏、九州電力社長の池辺和弘氏らが登壇し発言した。 緒方氏は、2005年の福知山線脱線事故を踏まえた「能動的な事故防止」の取組について紹介した上で、「事故当時の社員が少なくなっている」として、事故の教訓を後進につないでいく重要性を強調。アーチー氏は、「米国では継続的改善の文化が強く浸透している」として、JANSIが設立に際し手本とした米国原子力運転協会(INPO)による原則文書「トップであり続ける」(Staying on Top)を示し、JANSIのミッション追求に向け事業者のリーダーは全面的に参画する必要があるとした。 地域への電力安定供給に係る立場から、藤井氏は、2018年の北海道胆振東部地震に伴う大規模停電や、積雪・厳寒対策を踏まえた安全性向上活動について述べた上で、泊発電所の停止期間の長期化に鑑み「技術継承やモチベーションの維持が重要な課題」と強調。また、社会とのコミュニケーションに関し、池辺氏は、発電所周辺の「フェイス・トゥ・フェイス」を基本とした取組に一定の評価を示しつつも、「九州全体、日本全体をみるとまだ不十分」として、プラントの安定的な運転とともに、原子力に対する理解促進にJANSIと連携し取り組んでいく考えを述べた。
19 Mar 2021
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日本原子力文化財団はこのほど、全国1,200人(15~79歳男女)を対象に実施した2020年度の「原子力に関する世論調査」の結果を発表した。それによると、今後の原子力利用に関して、「原子力発電を増やしていくべき」(増加)、「東日本大震災以前の原子力発電の状況を維持していくべき」(維持)、「原子力発電をしばらく利用するが、徐々に廃止していくべき」(徐々に廃止)、「原子力発電は即時廃止すべき」(即時廃止)、「その他」、「わからない」、「あてはまるものはない」の選択肢で尋ねたところ、最も多かったのは「徐々に廃止」の48.0%だった。近年の調査で、「徐々に廃止」は最多を維持し続け回答割合もほぼ同水準で推移している。また、「即時廃止」は8.4%で4年連続の減少。「増加」は2.2%、「維持」は8.0%で、両者を合わせた割合は「即時廃止」を上回った。今回、「わからない」が28.2%で前年度調査より5.5ポイント増加し、近年で最も高い水準となった。「増加」と「維持」と「徐々に廃止」を合わせた割合について、性別にみると、男性は65.2%、女性は51.3%と、男性の方が高く、原子力やエネルギーに関する情報の保有量別(他の設問への回答から、多、中、少、無に4分類)では、「多」が80.2%、「中」が71.9%、「少」が62.8%、「無」が27.9%と、情報保有量との正の相関がみられ、この傾向は前年度調査と比べ顕著となっていた。「わからない」について、性別にみると、男性が19.8%、女性が36.3%となり、年代別にみると、10代が39.2%、20~30代が36.7%、40~50代が27.0%、60~70代が19.8%と、女性と低年齢層で高くなっており、この傾向も前年度調査と比べ顕著であった。また、原子力発電所の再稼働に関する意見では、「国民の理解は得られていない」が最も多く44.7%で、前年度調査より5.6ポイント減少。2017年度調査では、電力安定供給、地球温暖化対策、経済影響の各視点からも「必要ない」が「必要」を上回っていたが、その後、要否の意見は逆転または拮抗しており、「再稼働に否定的な意見は軒並み減少の傾向にある」と、同財団では分析している。高レベル放射性廃棄物については、「私たちの世代で処分しなければならない」が41.7%、「自分の住む地域または近隣地域に最終処分場が建設されたら反対すると思う」が52.7%などとなり、「直近の4年間では大きな傾向の変化はみられない」としている。原子力やエネルギーに関する情報源については、約8割が「テレビ(ニュース)」をあげ、年代を問わず最も高く、これに次ぐ「新聞」は10代で20.3%、70代で80.9%などと、年齢層による開きが極めて顕著だった。10代では「LINE」が他の年齢層に比べ多かったが、ここ数年で高年齢層でもインターネット関連を情報源とする回答が増加傾向にあった。
18 Mar 2021
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原子力規制委員会は3月17日の定例会合で、九州電力玄海原子力発電所の使用済燃料乾式貯蔵施設に関し、設置許可基準に「適合している」とする審査書案を取りまとめた。今後、原子力委員会と経済産業相への意見照会を経て正式決定となる運び。九州電力は2019年1月、玄海原子力発電所の使用済燃料貯蔵の増強に向け、リラッキング(使用済燃料プール内のラックの材質改良と稠密化を図ることで、貯蔵容量が約1.5倍に増加)および乾式貯蔵施設設置に係る申請を規制委員会に対し行った。そのうち、リラッキングに関しては、2020年3月までに原子炉設置変更許可取得および工事計画認可に至っている。電気事業連合会が7月に発表した「使用済燃料対策への対応状況」によると、2020年3月時点で、九州電力玄海発電所の使用済燃料は、管理容量1,190トンに対し貯蔵量が1,010トンに上っている。同社では、今回審査書案取りまとめに至った乾式貯蔵施設の2027年度運用開始を目指しており、玄海発電所についてはリラッキングと合わせて730トン分の貯蔵能力増強が図られることとなる。この他、17日の規制委員会会合では、日本原子力研究開発機構の研究炉「JMTR」の廃止措置計画認可などが決定した。
17 Mar 2021
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原子力人材育成の高度化に向けた高専連携の取組について話し合うフォーラムがこのほどオンラインで開催された。PINフォトダイオードを利用した放射線検出器(福井高専発表資料より引用)「基盤的な知識を身につけた高専卒業生は産業界から高く評価されている」との観点から、全国の国立高専を設置・運営する高等専門学校機構では、原子力産業を支える人材育成を担う立場として、大学や産業界とも連携した原子力教育・研究のネットワーク化を図る事業(文部科学省の「国際原子力人材育成イニシアティブ事業」として採択)を2020年度より開始。今回のフォーラムでは、同事業を取りまとめている富山高専教授の高田英治氏が、これまでの取組状況を報告し、原子力の基礎を学ぶ“eラーニング”など、遠隔教育ツールの整備について紹介したほか、各高専が大学や産業界とも連携し実施しているバーチャル研究室や電力会社でのオンライン実習の成果が披露された。その中で、富山高専・福井高専は、市販の電子部品(PINフォトダイオード)を利用した放射線検出器製作を「学生実験にも使用可能」などと、簡単な回路図とともに紹介し、機械・電気分野と原子力工学の知識を兼ね備えた人材の育成を図る教材となることを示唆。川崎病罹患数は近年急増している(岐阜高専発表資料より引用)また、全国9高専が参画する核融合・プラズマ分野のバーチャル研究室を率いる岐阜高専講師の柴田欣秀氏は、「核融合分野で培ったデータ解析技術を医療分野に活用できないか」と、医工連携による研究活動の取組として、機械学習を用いた川崎病発症に関する調査について披露。乳幼児特有の重篤疾患として知られる川崎病は未だ原因が解明されておらず、発見した川崎富作博士も昨夏に亡くなったところだ。柴田氏は、川崎病罹患率(0~4歳)が2000年以降急増しているデータや、細菌説・ウイルス説など、発症原因の推察をあげた上で、自治医科大学他と共同で昨今の感染症拡大に鑑みた三密回避と川崎病発症との関係を調査しているとした。この他、バーチャル研究室の取組として、福島高専・久留米高専によるエネルギープラント用構造材料の経年劣化の考え方・評価方法の習得を目的とした「鉄鋼材料の高温酸化挙動」の材料実習計画などが紹介された。
17 Mar 2021
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【国内】▽1日 高浜町が関西電力高浜1、2号機の再稼働(40年超運転)に同意▽10日 文科省がクリアランス制度でシンポ、福井県内市民も参加(~11日)▽12日 経産相と福井県知事と関西電力社長とがTV会談、関電より使用済燃料の県外搬出に向け「2023年末を期限に計画地点を確定」と▽13日 福島県沖を震源とする大地震発生、原子力発電所に大きな影響なし▽15日 美浜町が関西電力美浜3号機の再稼働(40年超運転)に同意▽16日 杉本福井県知事、議会に美浜3号機など3基の40年超運転に関する検討を要請▽16日 「原子力人材育成ネットワーク」が報告会開催、遠隔教育に関し議論▽18日 「ATENAフォーラム2021」がオンライン開催、海外からビデオメッセージも▽24日 総合エネ調基本政策分科会で経団連などが2050年カーボンニュートラルに向けリプレース・新増設の必要性を述べる▽24日 NUMOが高レベル放射性廃棄物の地層処分に係る「包括的技術報告」改訂版(原子力学会レビュー後)を発表▽25日 総合エネ調原子力小委員会が2年ぶりに開催、2050年カーボンニュートラルを見据え議論▽25日 山形大で重粒子線治療が開始、東芝エネシステムズ他開発による装置導入▽26日 電力11社がプルトニウム利用計画を発表、「プルサーマルの推進に最大限取り組む」と▽26日 東京電力が柏崎刈羽7号機の再稼働時期に関し「未定」と発表、安全対策工事の一部未完了などを受け▽26日 関西電力グループが「ゼロカーボンビジョン2050」発表、CO2排出削減に向け「原子力エネを最大限活用」▽26日 原子力機構の研究炉「JRR-3」が10年ぶりに運転再開▽26日 原産協会・新井理事長が福島第一原子力発電所事故発生から10年でメッセージ発信▽28日 福島第一3号機で使用済燃料プールからの燃料取り出しが完了 【海外】▽2日 ポーランド内閣、2040年までの新しいエネルギー政策を承認▽2日 フラマトム社、米発電所で同社製試験用事故耐性燃料が18か月の運転サイクルを完了したと発表▽4日 欧州の13労組、「EUタクソノミー」に原子力を含めることをEC委員長に要請▽4日 ブルガリア原子力発電所へのWH社製原子燃料装荷に向け安全解析実施へ▽5日 英ウェールズ政府とサイズウェルC企業連合が協力覚書を締結▽5日 ロシアのロスアトム社、総裁メッセージで「2021年は海外市場に注力する」と発表▽9日 米エネ省、使用済燃料輸送用車両の試作・試験で許可取得▽10日 ロシアの規制当局が鉛冷却高速実証炉「BREST-300」に建設許可発給▽10日 カナダNB州、SMRの州内導入に向けARC社に2,000万加ドル追加提供▽12日 ロシア企業が中国・徐大堡3号機の機器製造を開始▽17日 ブルガリア、SMR建設の実行可能性調査でニュースケール社と覚書を締結▽17日 スペイン規制当局、コフレンテス原子力発電所の運転期間延長を承認▽18日 インドのL&T社、ロシア製クダンクラム5、6号機の土木建築契約を獲得▽22日 フラマトム社の2020年決算、収益が3.1%下落▽24日 ロシアの高速実証炉「BN-800」、MOX燃料のみで燃料を交換▽25日 仏国の90万kW級原子炉32基、50年間運転継続する見通しだと発表▽25日 米エネ省長官にジェニファー・グランホルム元ミシガン州知事が就任▽25日 ブラジル、アングラ3号機の建設再開に向け土木建築契約の入札公告 ☆過去の運転実績
16 Mar 2021
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日本財団はこのほど、全国17~19歳の男女1,000名を対象に「脱炭素」をテーマとして1月に実施したアンケート調査の結果を発表した。同財団が選挙権年齢の引き下げを機に様々な社会課題をテーマに継続実施している「18歳意識調査」として行われたもの。それによると、地球温暖化の主な原因として66.7%が「人間の社会活動に伴う温室効果ガスの排出」と、77.4%が地球温暖化のリスク(異常高温、豪雨災害など)を「知っている」と回答。「日本のCO2排出量を削減すべき」と回答した割合は73.0%で、これらはいずれも2019年に実施された「気候変動」をテーマとする「18歳意識調査」での結果と比較しいずれも上昇していた。CO2排出を削減するために進めるべき取組としてあげられたのは、「再生可能エネルギーの開発促進」が2位以下を大きく引き離し最も多く66.0%で、「電気自動車および蓄電池の開発促進」の36.4%、「家庭および企業の省エネ対策の推進」の33.7%がこれに次いだ。この他、「火力発電の比率を低くする」は27.9%、「停止中の原子力発電の再稼働」は10.7%だった(複数回答)。2050年カーボンニュートラルについては、「評価する」が60.4%、「評価しない」が10.3%、「わからない」が29.3%で、実現可能性については、「わからない」が50.2%と半数を占め、「実現可能だと思う」は14.4%、「実現可能だと思わない」は35.4%となった。「評価する」と回答した人のうちでも、実現可能性については「わからない」が42.9%、「思わない」が36.6%に上っており、「目標を掲げること自体は評価するが、今の生活スタイルを続ける限りCO2排出は防ぎようがない」といった若者の意識が浮き上がった。再生可能エネルギーのうち、最も期待が集まったのは太陽光発電の69.1%で、水力発電39.9%、バイオマス34.9%、地熱発電30.7%がこれに次いだ(複数回答)。「脱炭素社会に向けて日本のエネルギー政策はどのように変わるべきか」との問いに対する自由回答で、太陽光発電の導入促進については、家庭への設置義務付けをあげる意見もあった。また、原子力の推進に関し肯定的な意見(安全確保を条件、分散化、核融合、電力需給安定化に向けて再検討、現状やむなしも含む)は32件、否定的な意見(シェアの低減も含む)は25件だった。この他、自動車走行の圧力や雷を利用したエネルギーシステムの研究、国民の意識変革を促す取組、研究開発や人材育成への投資などもあがった。今回の調査結果を受け、日本財団会長の笹川陽平氏は3月11日の自身のブログで、「30年後の地球環境をイメージするのは難しいが、健全な地球を将来に引き継ぐためにも世代を超えた最大限の努力が欠かせない」と述べている。
15 Mar 2021
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東日本大震災・福島第一原子力発電所事故発生から10年を迎え、東京電力の小早川智明社長は3月11日、社員らに対し訓示を行った(=写真上)。〈動画は こちら〉発災時の14時46分より1分間の黙とうをささげた後、小早川社長は、震災による犠牲者への哀悼の意を述べるとともに、「今なお福島の方々を始め、広く社会の方々に多大なご負担・ご心配をかけていることに心よりお詫び申し上げる」と改めて表明。その上で、社員らに対し、(1)過去から学び実践に移す、(2)常に社会やお客様の目線で考える、(3)全員が主役となって安全性や品質を高め続ける――ことの重要性を強調。事故を振り返り「防ぐことができなかった根本原因や背後要因を省み日常業務に活かして欲しい」と、一人一人の行動姿勢が体現化されることを求めた。さらに、福島県出身の野口英世の名言「過去を変えることはできない。人生で変えることができるのは自分と未来だけ」をあげ、「過去から学び、心一つにして福島の復興、福島の未来のために、それぞれの持ち場で全力を尽くしてもらいたい」と訴えかけた。続いて福島復興本社から、大倉誠代表が訓示に立ち、「福島への責任に立ち向かうことは会社の経営方針」と強調。3月末で現職を退く同氏は、発災後の避難住民の方々への支援活動を振り返りながら、信頼失墜の厳しさを改めて認識した上で、「今から5年先か、10年先か、廃炉を成し遂げたときか、『東京電力は責任に向き合い続けた』と言われる日がきっと来る。3月11日の振り返りを新しい力に」と、社員らの今後の活躍に期待を寄せた。東京電力の取組に対し、電気事業連合会の池辺和弘会長は同日発表のコメントの中で、「安全確保を最優先とした廃炉や、生活環境の再生、産業基盤・雇用機会の創出といった取組を、引き続き全力で支援していきたい」としている。また、原子力規制委員会では、更田豊志委員長が、発災10年の節目に際し同委発足時の「初心を忘れぬよう」として所感を表明(=写真下)。更田委員長は、まず、原子力行政組織における推進と規制との分離を巡り議論となったいわゆる「規制の虜」(規制当局が被規制産業である事業者の利益に傾注する〈国会事故調報告書〉)の再来を危惧。さらに、「世界最高水準」と呼ばれる新規制基準においても「継続的改善を怠ることがあってはならない」と、慢心に陥ることを戒めた上で、改めて「新たな安全神話を生まないよう十分注意していく」との決意を述べた。その上で、原子力規制庁や事業者に対して、現在進めている審査・検査のガイドライン整備などが思考停止をもたらすことを懸念し、「安全を求める戦いは想定外を減らす戦いであって、新たに考え続けることが常に不可欠。時には白紙に戻って考える『ちゃぶ台返し』も必要」と警鐘を鳴らした。〈動画は こちら〉※写真は、いずれもインターネット中継より撮影。
11 Mar 2021
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関西経済連合会など、西日本の6つの経済団体(他、九州経済連合会、四国経済連合会、中国経済連合会、中部経済連合会、北陸経済連合会)は3月9日、総合資源エネルギー調査会で検討が行われているエネルギー基本計画の見直しに向けて連名による意見書を発表した。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、(1)研究開発戦略の明確化、(2)革新的イノベーションによる需要の高度化、(3)電源の低炭素化・脱炭素化、(4)適正な企業評価につながる情報開示の仕組み作り、(5)世界のCO2排出削減に対する貢献、(6)カーボンプライシング(温室効果ガス排出量に対し均一の価格を付けコスト意識を持たせる経済的手法)の慎重な議論、(7)国内外に向けたPR戦略の策定――を提言。革新的技術の研究開発戦略を明確化し、その成果をあらゆる部門に実装することで、最終エネルギーを電気または水素の利用に転換する「需要の高度化」に取り組むとともに、「電源の低炭素化・脱炭素化」を同時に進めるという考え。原子力発電については、「エネルギー安全保障の向上に加え、CO2フリー水素の安価で安定的な製造にも寄与する」と、重要性を改めて述べた上で、新増設・リプレースや次世代原子炉の開発・普及に取り組むことを明確に示すとともに、現行のエネルギー基本計画が掲げる「可能な限り原発依存度を低減する」との方針を見直すべきとしている。また、再稼働が進まぬ現状から、諸外国の事例や保全技術の進展などを踏まえ、運転期間延長認可制度の見直しにも言及した。意見書では、エネルギー政策に関する基本的考え方として、中長期的に「3E+S」(安定供給、経済効率性、環境適合性、安全性)を根幹とすることを第一にあげ、まずは2030年エネルギーミックスの達成に向け、原子力、再生可能エネルギー、石炭火力について取組を加速すべきことを強調。昨今の新型コロナ拡大による厳しい経済状況下、「再生可能エネルギーの大幅な積み上げによる温室効果ガス削減目標の上積みは、電力コストの上昇、わが国の産業競争力のき損につながる」と危惧し、今冬の電力需給ひっ迫にも鑑み、「3E+S」のうち、特に安定供給と経済効率性の重要性を訴えている。
10 Mar 2021
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政府は3月9日、2021~25年度の「第2期復興・再生期間」に向け、新たな「東日本大震災からの復興の基本方針」を閣議決定した。原子力災害被災地域については、「福島の復興・再生には中長期的な対応が必要であり、『第2期復興・再生期間』以降も引き続き国が前面に立って取り組む」としている。廃炉・汚染水対策に関し、福島第一原子力発電所で発生する処理水の取扱いについては、「先送りできない課題であり、政府として責任を持って、風評対策も含め、適切なタイミングで結論を出していく」とした。帰還困難区域の避難指示解除に向けては、区域内の「特定復興再生拠点区域」(市町村の計画に基づき、線量の低下状況を踏まえ5年を目途に居住可能となることを目指す復興拠点)以外における方針検討を加速化していく。また、「福島イノベーション・コースト構想」の推進とともに、浜通り地域の創造的復興の中核拠点として新設される「国際教育研究拠点」の整備にも取り組む。復興推進会議・原子力災害対策本部で発言する菅首相(官邸ホームページより引用)閣議に先立ち行われた復興推進会議と原子力災害対策本部の合同会合で、菅義偉首相は、「地元の方々と移住されてきた方々とが協力して、新しい挑戦を行う熱い思いに触れることができた」などと、6日の福島県訪問を振り返った上で、「福島の復興なくして、東北の復興なし。東北の復興なくして、日本の再生なし」と、改めて強調した。会見を行う梶山経産相(インターネット中継)東日本大震災・福島第一原子力発電所事故から明後日で10年を迎えるのに際し、梶山弘志経済産業相は、閣議後の記者会見で、「燃料デブリの取り出し、帰還困難区域の避難指示解除に向けた取組、自立的・持続的な産業の発展など、さらなる難題を一つずつ解決していかねばならない。被災地の課題に正面から向き合い、福島が復興を成し遂げるその日まで全力を尽くす」との決意を述べた。また、原子力委員会は9日の定例会で、委員長談話を発表。「事故による悲惨な事態を防ぐことができなかったことを真摯に反省するとともに、原子力利用に対する国民の不信・不安が払拭できていないことを念頭に置きつつ、事故から得られた教訓を生かして、原子力安全を最重要課題として取り組んでいく必要がある」としている。
09 Mar 2021
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会見を行う内堀知事(インターネット中継)福島県の内堀雅雄知事は3月8日の記者会見で、東日本大震災から10年を迎えるのに際し、「福島第一原子力発電所事故により避難を余儀なくされていた方々が元の生活を取り戻す環境をつくり、ふるさとへの帰還を望む方々に帰ってもらう」という根幹の考え方に変わりはないことを改めて述べた。浜通り地域の住民帰還の状況(2020年6月現在、長崎大復興学セミナー・高村教授講演資料より引用)一方、浜通り地域では自治体により住民の帰還率に差異が生じている。内堀知事は、帰還率8割が見込まれる川内村について比較的早いタイミングで「帰村宣言」が発表された経緯をあげながらも、他市町村に関し「5割がなかなか見えてこない」などと、帰還が滞る現状を懸念。これまでに避難指示解除がなされた自治体の状況から、「長い期間避難先での生活になじんできた。子供の就学の兼ね合いなどもあり、これまで以上に時間がかかる」と、今後はより地道に「住民が戻るプロセス」をつくり出していく必要性を述べた上で、「ふるさとに戻ってもらうことが復興・再生の基軸」であることを繰り返し述べた。政府の復興政策委員会は3月1日、2021~25年度までを「第2期復興・創生期間」として、新たな復興の基本方針案を提示したが、内堀知事は、次のステージにおける重要施策として、(1)移住・定住政策を進める、(2)新しい産業を創出し雇用の確保にしっかり取り組んでいく――ことを強調。今後の産業創生に向け、双葉町の工業団地や大熊町のいちご栽培などを例に、他地域から進出した人たちとの連携にも期待を寄せた。
08 Mar 2021
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消費者庁はこのほど食品中の放射性物質に関する意見交換会を開催。食品に関するリスクコミュニケーションの一環として、消費者庁が食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省と連携し全国主要都市で行ってきたもので、今回は感染症拡大防止に鑑み、ウェブサイトで収録動画を公開し、一般からの質問・意見を受け付ける格好となっている(質問・意見の受付は3月7日まで、収録動画の公開は3月31日までを予定)。〈動画および質問・意見の応募は こちら〉意見交換会ではまず、放射性物質の基礎知識、食品中の放射性物質に係る対策と現状について説明。厚労省と農水省によると、福島第一原子力発電所事故後17都県を中心とする地方自治体で行われてきた食品中の放射性物質に関する検査で、2019年度に基準値(100ベクレル/kg)を超えたものは、栽培・飼養管理が可能な田畑・果樹園の農産物(山菜類を除く)・畜肉と海産魚介類についてはゼロとなっている。一方、消費者庁が2012年度より実施している風評被害に関する消費者意識実態調査の結果で、2020年度は、放射性物質を理由に福島県産品の購入をためらう人の割合はこれまでで最小となった。また、買物をする際に食品の産地を「気にする」または「どちらかといえば気にする」と回答した人のうち、「放射性物質の含まれていない食品を買いたいから」と回答した人の割合は減少傾向にあるものの、前年と同程度の14.1%だった。続くパネルディスカッションでは、フリージャーナリストの葛西賀子氏(コーディネーター)が、こうした根強く残る被災地産食品を忌避する傾向について問題提起。これに対し、消費者の立場から、コープデリ生活協同組合連合会サービス管理部長の篠崎清美氏は、「避けるというよりは、漠然とした不安があるのでは」として、行政機関などによるわかりやすい情報発信を改めて求めるとともに、「生産者と消費者の相互理解が安心して食べることにつながっていくのでは」とも指摘。いわき市で農業を営むファーム白石代表の白石長利氏は、自身を「農家と消費者を結ぶ『畑の仲人』」と称し、「安心・安全はもとよりいかに美味しいものを作るか。生の福島の声を野菜と一緒に届けていきたい」と、生産者としての使命感を強調。流通事業者の立場から、「うまいもんドットコム」などの食品通販サイトを運営する(株)食文化取締役の井上真一氏は、昨今のステイホームの流れにより食品通販の利用者が増えつつあるとする一方、家庭での食事に加工品が多くなりがちなことを懸念し、「食材そのものの魅力を発信したい」と、販路拡大に意欲を燃やす。ディスカッションの結びで、産業医科大学産業保健学部長の欅田尚樹氏は、「この1年間はコロナという新しいものに対する不安が続いてきたが、おうち時間の充実など、色々な工夫がなされてきた」とした上で、福島第一原子力発電所事故後の食品安全についても同様に、前例のない困難に対し検査体制の構築や生産段階での管理など、様々な取組があったことを忘れぬよう訴えている。
04 Mar 2021
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