旭硝子財団は9月8日、8月にインターネットを通じて実施した日本人の環境危機意識調査の結果を発表した。全国各地の男女1,092名(18~24歳:519名、25~69歳:573名)が回答。それによると、「日本国内の環境問題において、危機的な状態にあると考える」項目として最も多かったのは、「気候変動」(46.6%)で、続く「環境汚染」(13.6%)、「社会、経済と環境、政策、施策」(11.9%)を大きくしのいでいた(図上、旭硝子財団ホームページより引用)。「気候変動」をあげた理由としては、「ここ数年の豪雨災害」、「35度C以上の異常な気温上昇」、「温暖化が年々進行している」など、気候の変化を肌で感じている回答が多く見られた。7月からのレジ袋有料化後の環境問題に関わる意識や行動については、「マイバッグを持ち歩くようになった」とする人が60.7%に達するなど、全体の74.3%が「変化があった」と回答。新型コロナウイルス感染症流行以降の環境問題に関わる意識や行動については、「変化があった」との回答が62.0%で、そのうち、「食品ロスが出ないように気を付けるようになった」(14.3%)や「省エネに気を付けるようになった」(13.5%)など、前向きな変化が全体の43.0%に上っていた。一方、「家庭ごみの量が増えた」(22.2%)、「使用する電力量が増えた」(22.1%)も多く、自宅で過ごす時間が増えた影響によるものと分析している。また、環境危機意識を時刻(0:01~12:00の範囲で針が進むほど深刻)に例えた「環境危機時計」上、現在は、回答者全体で「6時40分」、18~24歳で「6時20分」、25~69歳で「7時00分」にあるとしており、年長者の方がより不安を感じていることが示された。旭硝子財団は、これと合わせて、毎年国内外の有識者を対象に実施している「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の2020年調査結果を発表(送付数:27,925件、回収率6.5%)。世界の「環境危機時計」の時刻は「9時47分」を指し、1992年の調査開始以来、最も高いレベル「極めて不安」の危機意識が持続している(図下、旭硝子財団ホームページより引用)。同調査では、前年に続き、パリ協定採択以降の環境問題への取組に関し、「脱炭素社会への転換の進み具合」について、「一般の人々の意識」、「政策・法制度」、「社会基盤(資金、人材、技術、設備)」の要素から定量的評価を実施。前回の調査と比べすべての要素でプラス側にシフトしており、地域によって差が見られるものの、全体として、「政策・法制度」や「社会基盤」の面は、「一般の人々の意識」ほどは進んでいないという結果だった。
09 Sep 2020
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日本原子力学会の専門委員会は、地球環境問題に対する原子力発電の潜在的能力の活用と役割について、IEAなどのデータに基づき定量的調査を行い、9月4日に最終報告書を発表した。日本が地球環境問題への対策強化を図り、世界の持続可能な発展への実現に貢献する上で、「安全・信頼性を高めた原子力発電技術は極めて重要な技術選択肢」との考えから、同報告書では、エネルギーセキュリティ、電力市場、放射性廃棄物を巡る諸課題も含め提言をまとめている。地球環境問題の観点から、今回の調査では、原子力の環境価値についてエネルギー技術選択モデルによる分析・評価を行った。2050年までに日本のCO2排出量を8割削減するための原子力の将来シナリオとして、既設炉の運転期間を60年として新増設を行わない「基準シナリオ」と、2050年まで現状の設備容量を維持する「維持シナリオ」を想定。「基準シナリオ」では、設備容量が2050年に2,000万kWにまで縮小し、電力供給における原子力発電への依存度が徐々に低下する。分析の結果、2050年の日本の総発電量に占める原子力発電比率は、「基準シナリオ」で9%、「維持シナリオ」で18%となった。また、2050年までの電源構成をみると、「維持シナリオ」の方が、太陽光発電、風力発電(陸上)、同(洋上)の導入量で、「基準シナリオ」よりも、それぞれ2,300万kW、1,100万kW、3,200万kW減少しており、原子力発電を維持することにより、再生可能エネルギーへの投資が大幅に抑制できることが示された。さらに、CO2排出削減に要するコストに関し、両シナリオとも、2040年代後半から急上昇する試算結果を示し、「2050年までにCO2排出8割削減を達成することは経済的にみて容易ではない」として、既存技術と新技術を最大限活用した経済的合理性のあるCO2削減に向け、「原子力発電は経済的にCO2削減を達成する上で重要なオプション」と指摘。これらを踏まえ、「原子力技術先進国」として日本は、技術開発を一層強化し、安全性をさらに高めた原子力発電所の新増設・リプレースを実現すべきとし、新興国における開発も通じ地球環境問題への国際貢献も期待されると述べている。この他、将来のエネルギー資源調達におけるリスクに向け、(1)どのような環境下でも安定的出力が期待できる、(2)短期・長期で燃料備蓄効果により燃料供給途絶にも強靭である、(3)エネルギー価格高騰を抑制する、(4)核燃料サイクルにより資源の有効利用が可能である――ことから、「エネルギーセキュリティに貢献できる重要な選択肢」と、原子力の有効性を述べている。
08 Sep 2020
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日本原子力研究開発機構は9月3日、放射線影響研究所(放影研、広島市・長崎市)他との日米共同研究により、原爆被爆者の臓器線量を精度よく評価する手法を確立し、同機構の大型計算機を用いたシミュレーションにより、約3万通りの照射条件に対する「臓器線量データセット」を整備したと発表した。〈原子力機構発表資料は こちら〉放射線による健康影響に関しては、被ばくした人のグループと被ばくしていない人のグループの発がん率を比較し影響の有無を調べる疫学調査が行われており、広島・長崎の約12万人の調査集団における疫学調査が基礎となっている。1945年の日本人標準体型に調整した在胎週別妊婦に対する人体模型(原子力機構発表資料より引用)今回の共同研究では、「原爆被爆者に対する疫学調査は、世界的な放射線防護指針を策定するための最重要データ」との認識のもと、放影研が数十年にわたり整備・改良してきた原爆被爆者線量推定システムを踏まえ、原爆投下時の日本人の標準体型を精緻に再現した人体模型や、原子力機構が開発した放射線解析コード「PHITS」を活用し被爆状況に合わせた臓器線量を再評価。再評価では、最新のCT画像などに基づき、米国国立がんセンターとフロリダ大学による臓器形状を詳細にモデル化する技術を用いて、1945年の日本人の年齢・男女別標準体型(0歳、1歳、5歳、10歳、15歳、成人、各男女)と、妊婦(8週、15週、25週、38週)に対する人体模型を開発した。本研究と現在使われている線量推定システムで計算した臓器線量の差分(原子力機構発表資料より引用)新たな手法を用いた再評価結果によると、代表的な被爆条件に対する臓器線量については、概ね現在の線量推定システムの評価結果と一致したものの、結腸や複雑な構造を有する骨髄で約15%の差が生じていた。現在のシステムは、成人、小児(3~12歳)、幼児(0~3歳)に大別し単純な面を用いて表現した人体模型で被爆者の臓器線量を計算しており、胎児の臓器線量についても、成人人体模型の子宮に対する線量で代用されていたことから、今回の再評価で最大20%程度低くなることが判明した。原子力機構の説明によると、1945年頃の日本人(成人)の平均身長は男子160cm、女子152 cm程度で、現在より数cm低かったものとみられる。原子力機構では、新たな「臓器線量データセット」を構築することで疫学調査の精緻化が可能となるとして、今後も、被爆者各人の位置、方向、遮蔽データベースとを組み合わせた臓器線量の再評価を実施するとしている。
04 Sep 2020
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原子力規制委員会は9月2日の定例会合で、リサイクル燃料備蓄センターが新規制基準に「適合している」とする審査書案を了承した。今後、原子力委員会と経済産業相への意見照会、パブリックコメントを経て正式決定となる運び。同施設は、東京電力と日本原子力発電の原子力発電所から発生する使用済燃料を、再処理工場へ運び出すまでの間、専用の鋼鉄製容器(金属キャスク)で安全に貯蔵・管理するもの。いわゆる中間貯蔵施設で、両社が青森県むつ市に設立したリサイクル燃料貯蔵(株)により、2010年に工事が開始され、2013年に燃料貯蔵建屋3,000トン分(最大貯蔵能力:金属キャスク288基)が完成。その後、新規制基準への適合性確認のため、2014年1月に審査の申請がなされ、およそ6年半を経て審査書案の取りまとめに至った。審査では、外部事象に関して、事業者が施設近傍の活断層「横浜断層」(15.4km)を震源とする地震動や、敷地付近の最大津波高さで青森県想定の11.5mに対し大きく保守性を持たせた23mの「仮想的大規模津波」を設定・評価しており、これらを踏まえた設計方針についても妥当性を確認したとしている。また、金属キャスクの臨界防止、遮蔽、閉じ込め、除熱などの機能が基準に適合するものと判断。会合終了後の記者会見で、更田豊志委員長は、「ずいぶん時間がかかった」と、審査の所感を語った。また、同施設の運用開始後に関し「出ていく先がないままキャスクの許容年数が近付く」ことに不安を示し、バックエンド対策全般について長期的視点でとらえておく必要性を強調した。核燃料サイクル施設では、7月29日に日本原燃の六ヶ所再処理工場が、8月26日に同高レベル放射性廃棄物管理施設が、それぞれ新規制基準適合性審査を経て、原子炉等規制法に基づき同社に変更許可が発出されている。同MOX燃料加工工場の審査についても、更田委員長は、「大きな論点はもうない」と述べ、審査書案取りまとめの段階に入りつつあることを示唆した。
03 Sep 2020
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日本原子力産業協会はこのほど、米国、欧州、英国、カナダの原子力産業団体と共同で、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックからの復興と気候変動・環境対策に関するオンライン・プラットフォーム「Platform for Redesign 2020」にビデオメッセージを提出した。〈原産協会プレスリリースは こちら〉「Platform for Redesign 2020」は、小泉進次郎環境大臣が全体議長を務めるオンラインの閣僚級会合(9月3日開催)に合わせて立ち上げられた「新型コロナウイルスからの復興×気候変動・環境対策」に関する各国の取組状況などを共有する情報プラットフォームで、各国の大臣、国際機関、地方自治体、産業界、市民などからのビデオメッセージの提出を呼びかけている。提出されたビデオメッセージは順次「Platform for Redesign 2020」のサイトに掲載されている。ビデオメッセージに登場するのは、原産協会(JAIF)の新井史朗理事長、米国原子力エネルギー協会(NEI)のマリア・コースニック理事長、欧州原子力産業協会(FORATOM)のイヴ・デバゼイユ事務局長、英国原子力産業協会(NIA)のトム・グレイトレックス理事長、カナダ原子力協会(CNA)のジョン・ゴーマン理事長。COVID-19パンデミックと気候変動という2つの直面する危機に対応するには、持続可能で強靭な社会経済システムの構築が必要であり、それに大きく貢献する原子力の価値について、安定供給、脱炭素、エネルギー安全保障、経済復興などの観点から訴えかけている。今回のオンライン閣僚級会合の立ち上げに際し、小泉環境大臣は、(1)各国の「コロナ復興×気候変動・環境」の知見共有、(2)コロナ禍によりCOP26が延期される中においても気候変動対策を後退させずむしろ世界の気運を高めていく――との目的を示した上で、1997年のCOP3以来の気候変動閣僚級会議における議長国として、「わが国が国際社会にイニシアティブを発揮してきたい」と意気込みを述べている。会合の成果は「Platform for Redesign 2020」にも掲載される。
03 Sep 2020
2011
地球温暖化対策計画の見直しを含めた今後の気候変動対策について検討する環境省と経済産業省の合同会合が9月1日に行われた。それぞれ、中央環境審議会、産業構造審議会のもとに、有識者らによる新たなメンバーが構成され、「環境と成長の好循環」を回す両輪としてキックオフ会合に臨んだ。〈配布資料は こちら〉日本は2015年7月に「2030年度に2013年度比26.0%減の水準にする」との温室効果ガス排出削減目標を国連に提出し、同12月のCOP21で国際的枠組み「パリ協定」が採択された。これを踏まえ2016年5月に地球温暖化対策計画が閣議決定されている。2020年3月には「日本のNDC(国が決定する貢献)」を国連に提出しており、ここで示された「エネルギーミックスの改定と整合的に、さらなる野心的努力を反映した意欲的な数値を目指す」とする今後の削減目標の検討に向けた方向性や、昨今の新型コロナウイルス感染症が及ぼす経済社会活動への影響もとらえながら、日本における気候変動対策について議論することとなった。経産省の総合資源エネルギー調査会では、7月にエネルギー基本計画の見直しに着手したところだ。合同会合の開始に先立ち挨拶に立った小泉進次郎環境大臣は、(1)NDCに留まらないさらなる温室効果ガスの削減努力、(2)新型コロナウイルス感染症がどのように気候変動に作用するか――を論点に掲げ、特に、コロナ禍による社会構造の変化を認識する必要性を「リデザイン(Redesign)」と強調。委員らに対し、「脱炭素社会、循環経済、分散型社会に移行する必要がある。経済社会の将来像をしっかりと見据え、今までの前提条件にこだわらず議論して欲しい」と訴えかけた。また、松本洋平経済産業副大臣は、「地球温暖化対策は、『制約』ではなく『機会』ととらえることが重要」と強調した上で、経済活動を犠牲にすることなくCO2排出削減を実現すべく、イノベーション、ファイナンス、ビジネス主導の国際展開の3本柱で取り組んでいく考えを述べた。委員からの意見表明で、総合資源エネルギー調査会の原子力小委員会委員を務める伊藤聡子氏(フリーキャスター)は、中小企業向けのセミナーに関わった経験から、エネルギーのコストが企業経営に与える影響を懸念し、「やはり安定的に供給できる原子力は欠かせない」とした上で、国民理解の促進なども含め、より現実的な施策を考えていく必要性を強調。環境省で脱炭素化に向けた石炭火力輸出支援に関する有識者検討会をリードした髙村ゆかり氏(東京大学未来ビジョン研究センター教授)は、「昨今環境戦略を取り入れる企業が増えてきた」と、2015年の現行エネルギーミックス策定時以降の企業経営スタンスの変化を述べ、民間投資の有効性などを指摘。様々な被災地を取材してきたという山口豊氏(テレビ朝日アナウンサー)は、昨今の豪雨災害の甚大化などに触れた上で、「地産地消と分散型社会」の構築を主張。災害に強い再生可能エネルギーのポテンシャルに関し、「工場の屋根の上など、地方には利用できる資源がまだたくさん眠っている」と述べ、長期的視点から主力電源として活用を検討していく必要性を述べた。また、山下ゆかり氏(日本エネルギー経済研究所常務理事)は、「これまでの延長線上に答えはないことを肝に銘ずるべき」とした上で、中小企業がリードする仕組み、分野・部門を越えた新たなエネルギー供給システム、消費者自らによる行動とリテラシーの向上、成果の正しい評価と可視化などを議論のキーワードとして提示。この他、社会イノベーション、デジタル化、海外への技術的貢献、産業界と金融機関との対話、統計・観測データの整理に関する意見があった。
02 Sep 2020
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原子力委員会は8月31日、2019年度版原子力白書を取りまとめた。「原子力分野を担う人材の育成」を取り上げ、今後の取り組むべき方向性として、研究・教育の国際的なプレゼンスの向上学生を含む社会に対する原子力の魅力的な広報産業界・国立研究機関と大学との連携による教育の質的向上――を示している。白書では、同委が概ね1年間にわたり実施した有識者からのヒアリングを踏まえ、研究基盤の老朽化、学生間での人気低下、学部の大括り化による教育実験内容の希薄化など、国内の原子力教育を巡る課題を指摘。その上で、原子力分野の維持・発展のためには、「安全の確保を図りつつ、研究・開発および利用を支える人材を育成・確保していくことが必要」、「関係するセクター間での役割分担と連携により、優秀な人材を輩出していく好循環を構築していくことが重要」との考えから、今後の人材育成の参考となりうる海外での良好事例を紹介している。例えば、研究インフラ活用・整備の取組としては、米国エネルギー省(DOE)による「原子力エネルギー大学プログラム」(NEUP)をあげ、22大学で運転中の研究炉のみならず、ニュースケール社が開発する小型モジュール炉(SMR)のシミュレータ設置(3大学)など、実用炉も支援の対象となっているとした。産官学の連携としては、フランスの様々な教育機関で実施されるプログラムの集約「12EN」を例示。原子力事業者もインターンシップの受入れや実験施設の提供などを通じ参画しており、「教育は原子力新規導入国への輸出コンテンツの一つ」との位置付けから、国際的なスケールで活躍できる人材の育成を目指している。また、原子力発電所の新設が計画されている状況下、人材不足や専門的知見の喪失が課題とされる英国の取組として、産業界の主導による原子力労働需給評価(NWA、2019年)を紹介。それによると、現在計画中の原子炉(900万kW)が2030年頃までに運転するシナリオ1、その倍となる原子炉が運転開始するシナリオ2を設定・分析し、2017年の常勤雇用者数87,000人に対し、2030年までにシナリオ1では約40,000人、シナリオ2では約60,000人を新規雇用する必要があると予測している。
31 Aug 2020
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早稲田大学理工学術院の研究チームは8月27日、X線とガンマ線を1台で同時に可視化できる「ハイブリッド・コンプトンカメラ」を開発したと発表した。〈早大発表資料は こちら〉放射性物質(200keV以上のガンマ線)を可視化する装置としては、入射したガンマ線を散乱体と吸収体の2つの検出器により飛来方向を推定する小型・軽量のコンプトンカメラがあり、日本原子力研究開発機構や千代田テクノルが開発したドローン搭載型の機材が福島の環境モニタリングなどで活用されている。今回の研究成果は、このコンプトンカメラをベースとし、散乱体の中心に3×3mm程度のピンホールを開ける「アクティブ・ピンホール」という新たな仕組みを導入することで、すべてのエネルギー帯を網羅するX線・ガンマ線(数十keV~数MeV)の同時イメージングを可能にした。同研究では、大阪大学のラジオアイソトープ総合センターで、マウスにアスタチン211を投与し撮影。アスタチン211は、放射性物質を体内に取り込むことでがん治療を行う核医学治療用のアルファ線源だが、ここでは、アルファ線と同時に放出されるX線(79keV)とガンマ線(570~898 keV)をイメージングすることで、体内に集積した薬剤の可視化を試みたところ、従来のコンプトンカメラでは困難だったX線のイメージングの有効性が実証された。研究チームでは、今後装置を大型化し人体の薬剤の伝達可視化を目指すとしており、また、核医学治療薬がX線・ガンマ線を出す強さは薬剤によって異なることから、「ハイブリッド・コンプトンカメラ」の開発により、使用できる薬剤の選択肢が大きく広がるものと期待を寄せている。日本アイソトープ協会の調べによると、日本における核医学治療件数は、ラジウム223製剤(アルファ線源として日本で初めて薬事認証を受けた)による前立腺がん治療の増加に伴い、2007~17年でほぼ倍増。しかしながら、米国(白血病)やスウェーデン(卵巣がん)で既に臨床利用されているアスタチン211については、いまだ基礎研究の段階にあるなど、正常細胞への侵襲が少なく多くの症例で治療効果が確認されている核医学治療では世界各国に遅れをとっている状況だ。
28 Aug 2020
2309
原子力規制委員会は8月26日の定例会合で、帰還困難区域のうち、自治体の計画に基づき線量の低下状況を踏まえ避難指示を解除し居住可能とすることを目指す「特定復興再生拠点区域」以外(拠点区域外)について、今後の土地活用に向けての住民往来を考慮した放射線防護対策を了承。飯舘村による復興公園整備など、拠点区域外の避難指示解除に関わる自治体や与党からの構想・要望を受けた検討の経緯について、内閣府原子力災害対策本部が説明した。今回了承された放射線防護対策は、住民が日常生活を営むことは想定せず、公園利用などの土地活用に対する地元の意向を踏まえたものだが、住民の安全確保の観点から、避難指示解除はこれまでと同様に「年間積算線量が20mSv以下となることが確実であること」が前提。具体的には、土地活用される区域を往来する(1)住民の個人線量の把握・管理、(2)住民の被ばく線量の低減に資する対策、(3)住民にとってわかりやすく正確なリスクコミュニケーション・健康不安対策――を総合的・重層的に講じることとしている。例えば、住民の個人線量の把握・管理については、土地活用される区域の入り口付近に個人線量計の貸出所を設け往来に伴う被ばく線量を住民自らが確認することや、環境整備に従事する作業員の個人線量の活用があげられた。3月に帰還困難区域で避難指示が解除された双葉駅・大野駅でも、個人線量計の貸し出し・希望者への結果通知が行われている。
26 Aug 2020
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梶山弘志経済産業相は8月25日の閣議後記者会見で、高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けた調査受入れを北海道寿都町が検討しているとの報道に関し、最終処分は原子力発電の恩恵を享受してきた現世代の責任として「必ず実現しなければならない重要な課題」との認識を改めて示した。高レベル放射性廃棄物の最終処分(地下300m以深の地層に処分)については、計画的かつ確実な実施を目指し、2000年の最終処分法制定に基づき、実施主体として原子力発電環境整備機構が設立された。2002年より同機構が調査受入れ自治体の公募を開始し、これまで高知県東洋町による応募(2007年)があったものの取り下げられている。処分地選定に向けて同法で定められた調査は、3段階(文献調査:2年程度、概要調査:4年程度、精密調査:14年程度)に分けられ、調査の各段階で結果を公表し、次の調査段階へは改めて知事と当該市町村長の意見を聴いた上、反対の場合は先へ進まないこととなっている。文献調査は、調査の第1段階として地域固有の文献・データなどの検討材料を収集・提示する「対話活動の一環」だが、放射性廃棄物が持ち込まれることなどへの不安の声もあるため、梶山経産相は、地域に対しその位置付けについて積極的な情報提供・説明を行っていく考えを強調した。一方、北海道の鈴木直道知事は寿都町での調査に対し慎重な姿勢を示しているが、これに関し、菅義偉官房長官は24日の記者会見で、高レベル放射性廃棄物処分に対する問題意識を示した上で、「適切なタイミングで知事の意見を聴きたい」と述べている。
25 Aug 2020
2021
「高レベル放射性廃棄物処分の実現は、原子力を利用するすべての国の共通課題」との観点から、日米を共同議長として原子力主要国政府が参加し行われた「最終処分国際ラウンドテーブル」(=写真、資源エネルギー庁発表資料より引用)の報告書が8月21日までにOECD/NEAより公表された。同ラウンドテーブルは、2019年6月のG20軽井沢大臣会合で立ち上げが合意されたもので、同10月と2020年2月と、2回の会合を開催し、各国における理解活動の経験・知見を共有するとともに、研究施設間の協力や人材交流のあり方について議論。政策面での経験を共有し国際協力をさらに進めることの重要性を認識した。最終処分に関する国際連携はこれまで専門家レベルでの技術連携が中心となっており、国家戦略レベルでの対話は十分に実施されてこなかった。今回OECD/NEAが取りまとめた報告書は、「ハイレベル政府代表からの国際協力に関するメッセージ」との位置付け。報告書では、ベルギー、カナダ、中国、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、韓国、オランダ、ロシア、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、米国の経験は、「すべての参加国にとって学ぶべき教訓」となると、同ラウンドテーブルを通じた戦略強化を評価。最終処分の実現に向けて各国が直面する課題は、「技術的というより、社会的・政治的なもの」との議論から、報告書では、国民理解のための対話活動や意思決定プロセスに関する教訓・ベストプラクティスがあげられた。その中で、処分地選定に向けた日本の取組として、2017年7月公表の地域の科学的特性を全国地図で示した「科学的特性マップ」についても共有が図られたとしている。一方で、地元コミュニティのへの資金的なサポートに関し、「処分事業の信頼と成功を得るための最も重要な要素とは思われない」などと、単なる経済的支援にとどまらず「付加価値」がもたらされる重要性を指摘。また、若い世代の関与に向け、ソーシャルメディアや動画の活用の有用性もあげられた。技術分野での国際協力については、他国の地下研究施設の利用の有効性や、今後連携強化を検討すべき分野としてロボット・遠隔操作技術の実証などが提案された。
24 Aug 2020
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小型・軽量ポンプや2万種類を超す流体継手(カプラ)を製造・販売する日東工器はこのほど、全身画像診断・放射線医療用の患者体位固定具「メドー Vフィックス」(=写真、日東工器発表資料より引用)を発売した。ビーズを充填したマット内の空気を真空ポンプ(リニア駆動フリーピストン方式)で除圧することで患者の体型に合わせてマットを硬化、体位を固定させ、安定した画像診断を可能にするもの。「メドー Vフィックス」は、上半身をしっかり覆いながらもX線の透視画像に影響しないベルト素材を採用。真空ポンプが自動で動作・停止を繰り返し、マットを適切な真空圧で保持する。マットとポンプは、接続部に同社技術の接続・分離が簡単な迅速流体継手「キューブカプラ」を使用しており、ワンタッチボタン操作で着脱。また、本体、マット、接続ホースを合わせて約10kgとコンパクトな仕様だ。同社では、本製品の普及により医療事故の低減や医療業務従事者の業務環境の改善に貢献したいとしている。日東工器はこれまでも医療機器ブランド「MEDO」を立ち上げ、同社の持つポンプ技術を活かしたエアマッサージ器や在宅医療用の携帯型痰吸引器などを開発・販売してきた。空気圧で血行を促進し筋肉のコリをほぐすエアマッサージ器は、アスリートの疲労回復でも好評を博している。
21 Aug 2020
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原子力規制委員会は8月19日の定例会合で、2020年度より運用を開始した新たな検査制度の第1四半期(4~6月)実施状況について、原子力規制庁から報告を受けた。新検査制度は、2016年に受け入れたIAEA総合規制評価サービス(IRRS)による「さらなる実効性を確保すべき」などとする指摘から、事業者の活動全般を、いつでも、どこでも、広く確認・評価し(フリーアクセス)、その結果に応じた措置を講じていくよう従前制度への見直しが図られている。今回の報告によると、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策により、本庁の検査官が中心となる「チーム検査」は当初予定されていた18件中、実施は4件に留まった。 複雑な事象への対応は「事業者への刺激」となると強調する山賀氏(インターネット中継)また、事業者の日常的な安全活動を継続的に監視する「日常検査」に関しては、現地原子力規制事務所の所長として、柏崎刈羽の水野大氏(当時)、美浜の山賀悟氏、六ヶ所の服部弘美氏(当時)の3名が所感を述べた。その中で、水野氏は、「検査官の専門知識を活かし、原子力安全を包括した検査ができた」と、一定の評価を示す一方、検査対象の見極めに関し「空振り」よりも「見逃し」の心配をあげ、今後も事例の積み重ねや検査官の知識レベル向上などに努めていく必要性を強調。また、事業者の対応について、「フリーアクセスの実施にも非常に協力的だった」と、新検査制度への理解や考え方の変化を認めた上で、「納得いくものとなるには、まだまだ時間がかかる」などと、規制側・被規制側ともにさらなる継続的改善が図られるべきとした。山賀氏は、美浜3号機の海水ポンプ停止事象に関し事業者自らによる原因分析を深めさせたことに触れ、「スキルアップにつながった」との感触を受けたと評価。服部氏は、所管する核燃料サイクル施設の発電炉との違いに触れ、今後の効率的な検査の維持に向けて「検査官の育成・確保が重要な課題」と指摘した。
19 Aug 2020
2617
国立環境研究所はこのほど、福島県の大型立体地図の上に地理・社会情報や放射線量の推移などをアニメーションで映し出すプロジェクションマッピング「3Dふくしま」を開発・制作。同研究所福島支部が蓄積してきた地域の環境情報に関する調査・分析をわかりやすく「見える化」したもので、県環境創造センター交流棟「コミュタン」(三春町)に13日より常設展示されている。〈映像サンプルは こちら〉「3Dふくしま」では、高解像度の衛星画像、人口分布、放射線の空間線量率、野生動物の生息状況、温暖化の影響などに加え、昨秋の台風による浸水被害状況もコンテンツとして公開が予定されており、125,000分の1の縮尺でリアルに再現した立体地図の上に表現される超高解像度(WUXGA)情報を通じ、時間軸と空間軸の両方から福島県の姿を理解・再発見させる。「3Dふくしま」の制作に当たった地域環境創生研究室主任研究員の五味馨氏は、一般公開に際しメッセージを寄せ、「なぜ、会津若松市や福島市では特別に暑くなる日があるのか?」、「なぜ、水害に強い場所と弱い場所があるのか?」などと問いかけ、「そんな疑問の答えを『3Dふくしま』で見つけて欲しい」と呼びかけている。
17 Aug 2020
2520
東京電力は8月6日、福島第一原子力発電所廃炉作業に伴う敷地内、港湾内、周辺海域で採取した試料の化学分析について、分析結果報告書や公表用資料の作成に至る一連の業務のシステム化を9月より運用開始することを発表した。〈東京電力発表資料は こちら〉同社では昨秋より、分析業務の効率化と正確性の向上のため、化学分析データ収集装置の現場における操作端末としてディスプレイ機能を搭載したスマートグラスの運用を開始し、試料の受領に係る作業を画面上で行うことで所要時間が半分程度に短縮され、そのオリジナル性については3月に特許を出願した。分析業務に用いられるスマートグラスは、ヘッドホン、カメラ、マイクを搭載しており、作業者はQRコードで必要なデータを読み込み、グラスを通して映し出される情報に従いデータ評価室に音声入力・映像を送信。データ評価室はカメラ画像から化学分析データ収集装置(LIMS)に入力し、試料情報として登録、分析結果報告書・公表用データが作成される。従来は分析結果を各測定装置からプリントし手入力で取りまとめていたが、9月からは公表用資料の自動作成機能を導入した新システムを運用することにより、年間約150万件のデータ手入力を約8割削減、同80万枚(1日当たり10cmファイル3冊分)のチェックシートも廃止し、燃料デブリ取り出しなど、今後の廃炉作業の進捗に伴い必要となる新たな分野の分析業務にリソースを投入していく。
07 Aug 2020
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【国内】▽1日 エネ調基本政策分科会が10か月ぶりに開催、白石新会長のもと次期エネルギー基本計画策定に向け意見交換▽2日 経産相と電力会社社長らが意見交換、コンプライアンス徹底や使用済燃料対策など▽6日 福島県立医大、福島第一原子力発電所事故に伴う心理的影響で論文発表▽7日 政府、2050年の環境エネ技術確立に向け「グリーンイノベーション戦略推進会議」始動▽7日 学術会議、福島第一原子力発電所事故に伴う環境汚染調査で報告書▽17日 エネ庁、福島第一原子力発電所処理水の取扱いで県議会議長他より意見聴取▽21日 原子力学会、福島第一原子力発電所廃炉に伴う廃棄物対策で報告書▽28日 ITER組立開始、日本製作のトロイダル磁場コイルも▽29日 規制委、日本原燃の六ヶ所再処理工場に係る新規制基準適合性審査で変更許可発出▽31日 原子力船「むつ」が船舶海洋工学会「ふね遺産」に認定 【海外】▽2日 OECD/NEAが原子力発電所の建設コスト削減で報告書▽7日 英計画審査庁、サイズウェルCの開発合意書申請を受理と発表▽9日 WNAが白書を公表:「新型コロナ後の経済復興計画は原子力投資へのチャンス」▽10日 英国政府、WH社製高速炉など次世代の先進的原子炉技術開発に4000万ポンド投資と発表▽10日 中国で建設中の田湾5号機で燃料の初装荷が完了▽13日 トルコのアックユの原子力導入初号機で水圧試験が完了▽14日 英サプライチェーンの企業連合、サイズウェルC計画への支援を政府に要請▽14日 UAEのバラカ原子力発電所で2号機が完成 ▽15日 ルーマニアがチェルナボーダ3、4号機の完成に向けて戦略的運営委員会設置へ▽17日 メキシコ、国内唯一の原子力発電設備で運転期間を60年に延長▽21日 欧州理事会、新型コロナの復興計画で原子炉の廃止措置等に10億4,500万ユーロ▽22日 インドの70万kW級国産加圧重水炉、カクラパー3号機が初臨界達成 ▽23日 米国際開発金融公社、国外の原子力開発計画に対する資金提供の禁止措置を解除▽23日 米議会上院、原子力リーダーシップ法案を盛り込んだ次年度の国防予算法案を承認▽24日 米エネ省のアイダホ研、月面探査用の原子力発電技術開発で情報依頼書を発出▽27日 英NDA、放射性廃棄物の分類・分離で革新的技術の研究開発コンペ開始▽27日 中国で田湾5号機が初臨界達成、福清6号機は格納容器にドーム屋根設置▽29日 英ナショナル・グリッド社、ヒンクリーポイントCと変電所を結ぶ最初の鉄塔を一年後に設置へ ☆過去の運転実績
07 Aug 2020
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日本船舶海洋工学会は7月31日、産業・文化の発展に寄与した歴史的・技術的価値のある船舶や、関連する設備、史料類を広く周知する「ふね遺産」(Ship Heritage)の2020年度選考で、原子力船「むつ」(1992年退役)など、8件を認定したと発表した。「ふね遺産」は、2019年度選考より非現存船も認定の対象となり、今回の原子力船「むつ」については、「多くの技術的知見をもたらしたわが国初の原子力船」との技術的価値が認められたもの。同学会は、「むつ」の研究開発に着手した日本原子力船開発事業団の流れを汲む日本原子力研究開発機構に認定書を贈る。日本における原子力船の研究開発は、1961年に原子力委員会が策定した「原子力開発利用長期計画」で、貿易量の増加に伴う船舶の大型化・高速化への対応から、その必要性が示され、1963年の日本原子力船開発事業団設立で本格的に動き出した。第1船「むつ」の設計・製造は、原子炉を含め可能な限り国産技術で行うこととされ、1965年からの臨界実験などを経て、1968年に建造が開始し、1969年に進水に至ったが、1974年に遮蔽の不具合による放射線漏れを起こし計画に大幅な遅れが生じることとなる。「むつ」は、1978年より佐世保港で安全性総点検および遮蔽改修工事が行われた後、1988年に青森県むつ市の関根浜港に入港。1990年3月からの出力上昇試験、海上試運転を経て、1991年2月に原子炉等規制法および船舶安全法に基づく合格証を得て、原子力船として完成した。その後の4回にわたる実験航海では、東はハワイ諸島沖、南はフィジー諸島沖、北はカムチャッカ半島沖まで航行し、通常海域、高温海域、荒海域などにおける実験を進め、陸上では得られない貴重なデータを取得。「むつ」は原子力で約82,000km(地球2周強に相当)を航行し、原子炉の運転時間は2,252時間(100%出力換算)に達した。現在、「むつ」は解体され、原子炉は「むつ科学技術館」(むつ市)に保管展示。船体の一部分は海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」として活躍中だ。この他、今回の「ふね遺産」選考では、「第五福龍丸」(第五福龍丸平和協会、西洋型肋骨構造による現存する唯一の木造鰹鮪漁船)、「さんふらわあ」(商船三井、大型豪華高速カーフェリーの先駆け)などが認定されている。
05 Aug 2020
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原産協会は8月3日、2020年度の定時社員総会を日本工業倶楽部(東京・千代田区)で開催し、2019年度の決算案および任期満了に伴う役員選任の承認とともに、2020年度の事業計画・予算の報告がなされた。開会に先立ち挨拶に立った今井敬会長はまず、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大に伴い深刻さを増した日本の医療や工業の現場における供給不足の現状に触れた上で、「社会を支える重要なインフラの一つである電力供給も同様のリスクを抱えている」として、エネルギー自給率の改善が喫緊の課題となっていることを強調。また、地球温暖化問題への対応も含め、「温室効果ガスを排出せず安定した電力供給が可能な原子力発電の最大限の活用が必要不可欠」として、可能な限り早期に再稼働が進展する必要性を述べた。その上で、政府において今後検討が行われる次期エネルギー基本計画については、「将来にわたる原子力の活用が明確に示されるもの」と期待。さらに、原子力産業界による安全性向上の取組に成果を認める一方、「『もう十分』というゴールはない」と、継続的な改善の重要性を強調し、これにより再稼働、運転期間延長、設備利用率の向上など、既存炉の活用が実現するとした。新たな技術開発による新増設・リプレースや、先般原子力規制委員会より新規制基準に係る変更許可が発出された六ヶ所再処理工場についても核燃料サイクルの完結に向け着実な進展を期待。原子力技術の有望性に関し、今井会長は、「何世代にもわたって人類の動力源となるほか、医療、工業、農業などでも大きな恩恵をもたらす」と強調し、産官学連携を通じた人材育成ネットワークの取組を通じて優秀な若者たちを惹きつける魅力的なイノベーション創出を図っていく必要性を述べた。総会では11名の理事の交替が承認。その中で、副会長には、車谷暢昭氏(東芝取締役代表執行役社長CEO)に替わり、宮永俊一氏(三菱重工業取締役会長)が、理事長には、高橋明男氏に替わり、新井史朗氏(東京電力ホールディングス理事/原子力・立地本部副本部長が就任することとなった。退任する副会長の車谷氏は在任中の2年間における福島第一原子力発電所廃炉に向けた技術開発の取組を振り返り、新任の宮永氏はBWRも含めた再稼働や核燃料サイクルが進展していく必要性を述べるなど、それぞれ今後の原子力産業発展への期待を語った。また、退任する理事長の高橋氏は、5年前の就任当時にまだ再稼働した原子力発電プラントがゼロだったことを振り返った上で、引き続き原子力産業界が抱える課題の解決に向け連携がさらに深まるよう期待。新任の新井氏は、東京電力東通原子力建設所に従事した経験を活かし「力を尽くしていきたい」と抱負を述べた。
04 Aug 2020
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梶山弘志経済産業相は7月31日の閣議後記者会見で、日本原燃の六ヶ所再処理工場が29日に原子力規制委員会による新規制基準適合性審査を経て変更許可に至ったことについて、「核燃料サイクル政策の大きな前進」との所感を述べた。六ヶ所再処理工場のこれまでの審査は、2014年1月に日本原燃より原子炉等規制法に基づく事業変更許可申請がなされてから約6年半を要したが、梶山経産相は、原子力発電所で発生する使用済燃料を再処理し回収したプルトニウムをMOX燃料として活用する核燃料サイクル政策において、「中核となる施設」との認識を改めて強調。その上で、「エネルギー基本計画に基づき、直面する課題を一つ一つ解決しながら核燃料サイクル政策を推進していく」政府の基本方針に変わりはないとして、「日本原燃には、規制委員会の指導のもと、安全確保を最優先にしゅん工に向けてしっかりと取り組んでもらいたい」などと述べた。また、MOX燃料を利用するプルサーマル炉は現在4基(伊方3号機、高浜3、4号機、玄海3号機)が再稼働しているが、6基のプルサーマル炉(新規制基準施行前にプルサーマル導入に係る設置変更許可を取得済みだったプラント)が稼働しておらず、MOX燃料工場も現在審査中にあることなどから、「核燃料サイクルを動かし、しっかりとしたエネルギーの安定供給を図っていく」との考えを示した。
31 Jul 2020
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原産協会の高橋明男理事長は7月28日、プレスブリーフィングを行った。新型コロナウイルス感染症拡大を受け5か月ぶりの開催となり、同日発表のメッセージ「パンデミックとエネルギー安全保障」を示し、医療器具不足やマスクの入手難などから感じられた「わが国の海外依存の大きさ」や「国の安全保障への不安」、エネルギー安全保障を支える原子力発電の重要性を強調。記者からは、新型コロナウイルス感染症が原子力産業に及ぼす影響の他、石炭火力に関わる非効率プラントのフェードアウトや輸出規制強化などを踏まえた今後のエネルギー政策について質問があった。これに対し、高橋理事長は、「来年にも見込まれるエネルギー基本計画改定に向け議論されるものと認識」とした上で、「供給に支障をきたしてはならない」と、ベースロード電源の重要性を述べ、その中で「原子力が3E(安定供給、地球環境、経済性)に優れている」ことが理解される必要性を述べた。新増設・リプレースに関し、小型炉については、「大型炉に比べスケールメリットが少なく経済的には厳しい」一方で、「固有の安全性を持ち、工場での量産で初期投資が小さくできる」として、高速炉、高温ガス炉、軽水炉小型化など、日本における開発・導入の可能性を提示。この他、運転期間延長の技術的側面に係る原子力エネルギー協議会(ATENA)の役割、廃炉の進展に伴う廃棄物処分の課題などに関する質疑応答があった。
29 Jul 2020
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原子力規制委員会は7月29日、日本原燃の六ヶ所再処理工場について、新規制基準に「適合している」との審査書を決定し、同社に対し原子炉等規制法に基づき変更許可を発出。2014年1月の審査申請から約6年半を要した。同案件については、2020年5月13日に審査書案が取りまとめられ、30日間のパブリックコメントが行われていた。また、再処理施設の運転に係る審査は同委として初めてのケースであることから、審査書の決定に際して行われる経済産業相への意見照会では、エネルギー基本計画との整合性を含め意見を求めており、これに対し、原子燃料サイクル推進の基本的方針から、六ヶ所再処理工場のしゅん工に関して「同計画と整合している」との回答があった。29日の規制委員会定例会合で、原子力規制庁の市村知也新基準適合性審査チーム長代理らがパブリックコメント結果について説明。計574件の意見が寄せられたとしている。これを受けて取りまとめられた審査書の最終案を、更田豊志委員長他、4名の委員いずれも決定することで了承した。更田委員長は、同日の定例記者会見で、「品質管理の問題で審査が一旦中断することもあり、共通の理解を得る上で結構な時間がかかった」と、長期にわたった審査を振り返った。今後、六ヶ所再処理工場の運転開始に向けて設備工事計画の審査などが必要となるが、膨大な数の対象機器類を擁することから、更田委員長は「非常にチャレンジングだ」と、かなり難航する見通しを示した。今回の変更許可を受け、日本原燃の増田尚宏社長はコメントを発表し、「再処理工場のしゅん工、その後の安全な操業に向けての大きな一歩」との認識を示した上で、安全性向上対策の確実な実施、継続的な改善に努める決意と、立地地域からの支援に対する謝意を述べた。同社では2021年度上期の再処理工場しゅん工を予定。また、電気事業連合会の池辺和弘会長も「再処理工場のしゅん工に向けた大きな節目であり、大変意義深い」とコメント。原子力発電のベースロード電源としての活用、原子燃料サイクルの重要性を強調し、今後も業界一丸となって日本原燃を支援していくとしている。
29 Jul 2020
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鹿児島県の塩田康一知事が7月28日、就任会見を行い今後の県政運営に向けての抱負を述べた。塩田知事は、目下の新型コロナウイルス感染症拡大に対する予防対策・医療体制の確保を講じ、安心・安全と経済活動の両立を図ることを最優先に掲げ、中央省庁で地方創生に係った経験を活かし、県が直面する少子高齢化や離島の交通や教育を巡る課題への対応などに、県民の声を吸い上げながら取り組んでいく考えを強調。エネルギー政策に関して、知事はマニフェストの中で、県内の再生可能エネルギー導入促進や、九州電力川内原子力発電所1、2号機の運転期間延長について「必要に応じて県民の意向を把握するため、県民投票を実施する」との基本的考えを示している。会見で、知事は、「原子力の問題は非常に複雑で難しい」と述べ、県民の意見聴取の方法に関しアンケート実施の可能性にも言及。川内1、2号機はそれぞれ2024年7月、2025年11月に運転開始から40年を迎えるが、原子炉等規制法で認められる20年間の運転期間延長に関して、前任の三反園知事が設置した「原子力安全・避難計画防災専門委員会」の構成を見直した上で、九州電力による申請の時期を目途に検討に着手し、科学的・技術的な検証結果を踏まえ、同社や原子力規制委員会に対し所要の対応を要請する考えも示した。また、鹿児島市出身の知事は、2003年に地元で多くの死傷者を出した花火工場の爆発事故を振り返り、「安全というのは非常に大事なもの」として、産業界における安全確保対策の重要性を改めて強調した。
28 Jul 2020
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福島第一原子力発電所事故に関する日本学術会議の分科会活動について紹介する講演会が7月21日、原子力分野の学識経験者の集まり「原子力システム研究懇話会」でオンライン会議を通じて行われた。講演では、学術会議の総合工学委員会で主に事故調査に関して報告書・提言の取りまとめに係ってきた松岡猛氏(宇都宮大学名誉教授)が登壇。事故から8か月後の2011年11月に設置された同委原子力事故対応分科会は2014年に、政府、国会、民間などによる事故調査報告書について学術的立場から検討を行い、報告「福島第一原子力発電所事故の教訓」を発表した。事故の進展に関し、松岡氏は、1号機非常用復水器(IC)の作動、2号機のベント操作、3号機高圧注水系(HPCI)停止の妥当性など、分析の経緯や得られた見解を紹介し、原子力の安全性向上に向けた科学者コミュニティの役割を強調。また、同氏は最近の活動として、6月末発表の提言「原子力安全規制の課題とあるべき姿」を紹介。原子力安全規制機関を主な対象として、(1)規制機関と被規制者・事業者の関係と双方の取組姿勢、(2)リスク情報の活用、(3)優先順位と迅速性(グレーデッドアプローチ)、(4)安全対策機器の増設に伴う課題、(5)規制基準の体系的かつ継続的な改善、(6)安全目標、(7)組織文化と安全文化の課題、(8)安全研究・情報基盤の確立・人材育成の統合的マネジメント――について提言している。原子力の安全性向上に関して今後は、検討中の提言「新知見への取組強化について」を取りまとめた上で、9月にはシンポジウムを開催するなど、さらに議論を深めていく考えを述べた。続いて、森口祐一氏(東京大学大学院工学系研究科教授)が登壇し、同じく学術会議総合工学委員会による報告「福島第一原子力発電所事故による環境汚染の調査研究の進展と課題」(既報)について紹介。今回の講演会は福島第一原子力発電所事故から間もなく10年となるのを契機に行われたものだが、原子力委員長代理や日本原子力研究所理事長を歴任後、2013年に技術同友会で「過酷事故を二度と起こさないための対策と提言」を取りまとめた齋藤伸三氏は、学術会議の今後の活動に向けて、発表した提言に対するフォローアップなどを通じ、より存在感が示されるよう期待を寄せた。
27 Jul 2020
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日本原子力学会は7月21日、福島第一原子力発電所の廃炉に伴う廃棄物管理対策に関する報告書を取りまとめ発表した。同学会の廃棄物検討分科会によるもので、2021年から開始予定の燃料デブリ取り出しの終了を前提に、エンドステート(サイトの最終的な状態)に至るまでの放射性廃棄物の取扱いに係るシナリオを設定、分析した上で、廃炉・サイト修復を安全かつ効率的に進めるための課題を提言している。報告書ではまず、原子力施設の廃止措置、放射性廃棄物の分類・発生量・処分方策、サイト修復、エンドステートについて、国内の現状や国際機関の文書に基づき説明。また、事故炉としての廃棄物管理対策検討に向け、エンドステートに至るタムライン、サイト領域区分、廃棄物特性などの見通しを示した。福島第一原子力発電所廃炉のエンドステートとしては、サイト内の機器・構造物および汚染土壌・地下水等の汚染に関し(1)すべて取り除かれた状態(全撤去)、(2)一部が管理・監視の可能な状態で残存する状態(部分撤去)――の2ケースを、廃炉方式としては、IAEAの分類に基づき「即時解体」と「遅延解体」(「安全貯蔵」の後に解体撤去)をあげ、これらを組み合わせた4つの放射性廃棄物取扱いシナリオを設定し検討。それによると、「全撤去・即時」のシナリオでは、サイトはクリーンな更地となるが大量の放射性廃棄物が短期間で発生。「部分撤去・即時」のシナリオでは、放射性廃棄物の発生量を低減できるが、保管施設設置のためサイト開放が一部に限られるなどとされた。また、「全撤去・安全貯蔵」と「部分撤去・安全貯蔵」のシナリオでは、廃炉作業に取り組む時期が遅くなるため、施設解体のための技術的準備や作業の容易化などが可能となるが、それぞれ解体廃棄物の取扱い、サイト開放が限定的となることが課題としてあげられた。これらの検討結果を踏まえ、(1)福島第一廃炉終了の定義に係る議論、(2)エンドステートに係る議論、(3)ステークホルダーによる討議機会の整備、(4)放射性廃棄物低減の取組の早期実施、(5)放射性廃棄物処分に係る制度の見直し――を提言。エンドステートに関しては、工程ごとの達成目標「中間エンドステート」の設定に言及したほか、海外におけるサイト修復・環境管理の事例として米国の「EM計画」を紹介している。
22 Jul 2020
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