カザフスタンのエネルギー省は8月17日、原子力発電の再導入に向けた諸活動の進展状況を公表。建設予定地があるアルマトイ州政府では、地元住民を交えた公開協議を実施し、その後の段階では環境法に基づく公開ヒアリングも開催する方針である。化石燃料資源が豊富な同国では、総発電量の7割を石炭火力で、2割を天然ガス火力で供給している。ウラン資源についても現在世界第一位の生産量を誇り、旧ソ連時代にはアクタウに建てられた熱電併給・海水脱塩用の高速炉「BN-350」(出力15万kW)が1973年から1999年まで営業運転していたが、現時点で国内に原子力発電所はない。2014年5月にカザフ政府は、出力30万kW~120万kWのロシア型PWR(VVER)建設に向けてロシア政府と了解覚書を調印したものの、電力の供給過剰を理由に建設計画は2015年に凍結している。現在の候補炉型は、ロシアのVVER-1000(100万kW級)とVVER-1200(120万kW級)のほかに、中国核工業集団公司(CNNC)の「華龍一号(HPR-1000)」(100万kW級PWR)、韓国水力・原子力会社(KHNP)の「改良型加圧水型炉(APR1400)」(140万kW級PWR)、フランス電力(EDF)の「EPR1200」(120万kW級PWR)となっている。また、立地点の選定に関する調査結果は、2022年5月にカザフ政府の省庁間委員会が承認しており、同国のK.-J.トカエフ大統領は翌6月、複数の建設候補地点の中から、アルマトイ州ザンビル地区のバルハシ湖西南に位置するウルケン村が建設に最も適していると発表していた。同国の原子力利用法では、原子力関係施設の建設および立地点に関する決定は、政府が地元代表組織の合意に基づいて下すと定められているため、アルマトイ州議会は2022年11月、地元住民の支持を条件に建設計画を進めると決定。ザンビル地区の当局は今年7月、アルマトイ州の主導により公開協議を開催すると公式サイトや複数のSNS、マスメディアで発表している。エネルギー省によると、この「公開協議」は大統領令の承認を受けた地方議会の規則に基づくもので、原子力発電所建設計画に対する地元住民の意見をまとめるために行われる。地方議会の常設委員会が同委の特別会合という形で同協議を実施する方針で、これには地元の自治会や組織、一般市民、マスメディア等が参加する。一方の「公開ヒアリング」は、環境法の下で建設プロジェクトの詳細を評価する目的で開催される。具体的には、プロジェクトのあらゆる段階で環境アセスメントを実施することになる。カザフ政府はこのほか、小型モジュール炉(SMR)についても国内建設の可能性を探っている。エネルギー関係の政府系投資ファンド「サムルク・カズィナ国家福祉基金」が2014年7月に設立したカザフ原子力発電所会社(KNPP)は2021年12月、米ニュースケール・パワー社製のSMRを複数備えた発電設備「VOYGR」をカザフで建設可能か評価するため、同社と了解覚書を交わしている。(参照資料:カザフ政府(カザフ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Aug 2023
1864
仏国の原子力安全規制当局(ASN)は8月10日、運転開始後約40年が経過した国内32基の90万kW級(ネット出力)PWRのうち、4回目の定期安全審査が完了したトリカスタン原子力発電所1号機(PWR、グロス出力95.5万kW)に対して初めて、運転期間の10年延長を認める決定を下した。6月29日付で同機に課す追加要件を定めたことにともなうもので、同機が最終的に50年間、安全運転を継続できるよう引き続き監督していく考えだ。仏国では商業炉の運転期間に規定がなく、国内56基の商業炉すべてを保有・運転するフランス電力(EDF)は環境法に基づいて10年毎に詳細な安全審査を実施し、次の10年間の運転継続で課題となる設備上のリスクへの対応策等を検討。ASNがこれらの対応策を承認し、関係要件がクリアされると判断すれば、次の10年間の運転許可が付与される。定期安全審査ではまず、「包括的評価段階」で対象炉に共通する事項をレビューした後、「各原子炉に特有の事項」をレビュー。ASNは2021年2月、1970年代~1980年代にかけて運転開始した仏国で最も古い90万kW級PWRの運転期間を、50年に延長するための諸条件を決定した。対象炉はルブレイエ発電所の4基、ビュジェイ発電所の4基、シノンB発電所の4基、クリュアス発電所の4基、ダンピエール発電所の4基、グラブリーヌ発電所の6基、サンローラン・デゾーB発電所の2基、およびトリカスタン発電所の4基で、この決定によりこれら32基では「包括的評価段階」が完了。2031年までにすべての対象炉で個別の評価を行い、4回目となる10年毎の定期安全審査を終える予定である。1980年に営業運転を開始したトリカスタン1号機の運転期間は現時点ですでに40年を超えているが、運転開始後39年目の2019年にEDFは同機で定期安全審査を実施している。この審査の一部として、EDFが提案した同機に特有の安全性改善策は2022年1月中旬~2月中旬までの期間に公開諮問に付され、公開諮問委員会はこれらの改善策に肯定的な見解を表明していた。ASNはこのような見解や、「包括的評価段階」でASNが下した判断へのEDFの対応策を吟味した結果、運転期間の延長中も同機の安全性を確保することは可能と判断。地震災害のレベルに関する追加要件等をEDFに課している。ASNはこのほか、2000年代に運転開始した4基の145万kW(ネット出力)級PWR(N4タイプ)についても、7月11日に3回目の定期安全審査における「包括的評価段階」の方向性を提示。同審査でEDFが達成すべき目標は、90万kW級および130万kW級(各ネット出力)原子炉でASNが示した4回目の安全審査の目標と同一のものになる。ASNは145万kW級PWRの「包括的評価段階」の審査を終えてから、運転期間の10年延長にともなう諸条件を決定するとしている。(参照資料:ASNの発表資料(フランス語)①、②、原産新聞・海外ニュース、原産資料「40 年以上稼働する原子力発電プラント」、およびWNAの8月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Aug 2023
1993
米ワイオミング州のエネルギー当局(WEA)は8月8日、BWXTアドバンスド・テクノロジーズ(BWXT AT)社が同州内で実施を予定している「マイクロ原子炉建設の実行可能性評価プロジェクト」に対し、約1千万ドルのマッチング・ファンドを提供すると発表した。BWXT AT社は原子力機器・燃料サービス企業であるBWXテクノロジーズ(BWXT)社の子会社で、BWXT社製の先進的なマイクロ高温ガス炉(HTGR)を同州内で複数基建設することに向けて、先駆けとなるユニット(lead unit)の建設を計画している。同社製HTGRについては、国防総省(DOD)が軍事作戦用への導入を目指して、原型炉(電気出力0.1~0.5万kW)の建設をアイダホ国立研究所(INL)内で予定している。BWXT AT社は今回の評価プロジェクトで、ワイオミング州の産業界の中でも特に、石油・ガス採取産業に原子力の無炭素な電力や熱を供給できるかを評価、同炉を州内で複数基建設する可能性を模索する。また、州内の既存のサプライチェーンが原子炉機器のどの部分に製造能力を発揮できるか確認し、その建設をサポート。このほか、同州の将来的な発電設備にマイクロHTGRを組み込めるよう、調査のためのエンジニアリング活動を実施する計画だ。ワイオミング州議会は2022年、州内のエネルギー需要を満たすために行われている様々な技術の研究、実証、パイロット計画、商業規模の建設計画に対し、民間部門や連邦政府の資源を補う「エネルギー関係のマッチング・ファンド(EMF)」として、1億ドルの予算を州知事室に充当。同ファンドの管理は州知事からWEAに委託されており、対象技術は太陽光や風力発電に留まらず、CO2の回収・有効利用・貯留(CCUS)や石炭精製、水素製造、電池貯蔵なども含まれている。BWXT AT社は、同炉で既存の発電設備を補完し州内で増加するエネルギー需要に応える方針であり、今回の評価プロジェクトには約2千万ドルが必要と見積もっている。BWXT社のHTGRは、すでに米エネルギー省(DOE)のコスト折半型「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の3方式のうち、2030年代前半を運転目標とする「将来的な実証に向けたリスク削減」に選ばれ、支援を受けている。今回のプロジェクトでは、同社は具体的にワイオミング州の関係者が先駆けとなるユニットの建設判断を下せるよう、州内のエンドユーザー専用の概念設計を開発する。これにより、同炉の製造や建設、許認可活動に必要なコストの見積もりが可能になる。また、後続機の幅広い建設モデルの一環として、州内の既存のサプライチェーンをどの程度活用できるかも見極める方針である。プロジェクトは2段階に分けて行われる予定で、まず州内のユーザーの個別ニーズに合わせて設計上の要件を確定。次の段階では、州内での同炉の製造と販売に向けて詳細分析を実施するほか、ビジネス開発戦略を策定する。BWXT AT社のJ.ミラー社長は、「この評価プロジェクトを終える頃には、州内での雇用創出の見通しやビジネス機会などが一層明確になる」と指摘。「州内の建設ロードマップも作成する計画で、州政府や連邦政府の機関が民間部門と協力することにより、原子力の技術革新が生み出す経済面や環境面の恩恵を享受することが可能になる」と強調している。なお、ワイオミング州ではこのほか、電気事業者のパシフィコープ社が南西部のケンメラー(Kemmerer)で、米テラパワー社製のナトリウム冷却高速炉「Natrium」(電気出力34.5万kW~50万kW)の建設を計画中。2024年3月にも、実証炉の建設許可申請書(CPA)を原子力規制委員会(NRC)に提出予定だと伝えられている。(参照資料:ワイオミング州政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Aug 2023
1617
スウェーデンの原子力規制当局である放射線安全庁(SSM)は8月9日、政府が進めようとしている原子力の利用拡大にともない、規制の枠組みや法整備など、必要となる前提条件の特定調査を終えて最終報告書を気候・企業省に提出した。既存の原子力発電所の運転期間延長や新型炉の導入には、様々な法改正が必要だと指摘しており、新型炉に関しては予備的設計審査を行うことなどを提案している。スウェーデンでは現在、6基の商業炉が稼働中だが、現行法では新たなサイトでの原子炉建設が禁止されているほか、全土で同時に運転できる基数も10基までに制限されている。昨年9月の総選挙で発足した中道右派連合の新政権は、前政権が目指していた「再エネ100%のエネルギー供給システム」を、同年10月の政策協議(ティード合意)で「非化石燃料100%のシステム」に変更。新規原子炉の建設も含めた対策に、合計4,000億クローナ(約5兆4,000億円)の投資を行うことを決めた。今回の調査は、前政権の指示によりSSMが昨年から実施していたもので、同型の原子炉を複数サイトで建設する場合の許認可についても、SSMは必須となる前提条件を分析している。今年2月には中間報告書を提出しており、SSMは環境法と原子力技術法、および放射線防護法の改正を提案。既存の原子力発電所で安全性が確保されている限り、これらの法的枠組みやその他の前提条件が整えば運転期間の延長は可能との見解を表明していた。最終報告書は中間報告書を補完する内容になっており、SSMは新型炉の導入について関係法のさらなる改正とその他の方策が必要だと指摘。安全性を損なうことなく、新型炉の許認可手続きを簡素化することは可能だという。また、諸外国との協力を拡大して、新型炉で事前の設計審査を行うことを提案。これにより、規制当局としては正式審査の効率的な実施に向けて審査能力を拡充し、準備態勢を整えることができる。設計の最終段階になってから、認可の発給を阻むような根本的課題や障害が判明するリスクを軽減することも可能となる。今回のSSM報告を受けて、気候・企業省で環境問題を担当するR.ポルモクタリ大臣は、「地球温暖化に対応するには非化石発電量を現在の2倍にする必要があるが、増加分の大部分は原子力で供給しなければならない」と指摘。この目標に向けて、「2045年までに従来型の大型炉を少なくとも10基建設し、設備容量を現在の3倍近くにする必要がある」と表明、SSMの報告書はこうした政府目標のベースになるとしている。SSMでこの調査を担当したプロジェクト・マネージャーは、「原子炉の設計要件は主にその性能に基づいており、炉型や容量によるものではない」と説明。このため、軽水炉以外の炉型の場合、さらなる調査が必要になるなど多少の調整が必要だが、既存の規制要件の大部分を適用できる。「SSMの現行審査や新しい規制の開発では、このような点を考慮したい」と強調している。(参照資料:SSM、スウェーデン政府(スウェーデン語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Aug 2023
1771
ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)の原子力事業会社であるPEJ(=Polskie Elektrownie Jądrowe)社は8月7日、原子力部門における人材育成や研究等で、ワルシャワ工科大学(WUT)と協力協定を締結した。同協定では双方が培ってきた経験を共有するとともに、WUTの学生や院生が同国の原子力部門で職を得るのに必要な知識とスキルを身に付けられるよう、PEJ社とWUTが共同でカリキュラムや奨学金プログラム、有給の実務研修制度などを開発。科学論文やプロジェクトのコンテストも共同開催する予定で、この協力を通じて同国初の原子力発電所の建設と運転、および同国の原子力産業界が必要とする人材育成を促進する方針だ。ポーランドは政府の原子力プログラムとして、国内の複数のサイトで2043年までに100万kW級の原子炉を最大6基、合計600万~900万kW建設することを計画中。2022年11月には最初の3基、小計375万kW分の採用炉型として、米ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)PWRのAP1000を選定した。これらは、PEJ社が北部ポモージェ県のルビアトボ-コパリノ地区で建設することになっており、同社は今年4月に建設プロジェクトの「原則決定(decision-in-principle=DIP)」を気候環境省に申請、同省は今年7月にDIPを発給している。同国ではこのほか、政府のプログラムを補完する計画として、PGEグループとエネルギー企業のZE PAK社が韓国水力・原子力会社(KHNP)などとの協力により、中央部ポントヌフで韓国製「改良型加圧水型炉(APR1400)」の建設に向けた活動を推進中。また複数の民間企業が、米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社やニュースケール・パワー社が開発した小型モジュール炉(SMR)の建設計画を進めている。化学素材メーカーのシントス社と共同で、GEH社製SMR「BWRX-300」の建設を計画する石油化学企業PKNオーレン・グループは今年1月、同国の教育科学省およびWUTを含む国内6つの工科大学と、技術スタッフの教育・訓練プログラム設置に向けた合意書に調印している。WUTのK.ザレンバ総長は今回、「本学では長年にわたって原子力分野のスタッフを教育し、傑出した専門家を数多く輩出してきたが、国内で原子力プログラムを実施するのにともない、熟練のエンジニアや専門家の需要が大幅に高まっている」と強調。「PEJ社との協力により、本学はトップクラスの専門家を国内で育成し、安全で先進的な原子力発電所の建設のみならず、その運転管理や維持など関係インフラ全体の運営を担う人材を育てていく」と述べた。気候環境省のA.モスクヴァ大臣は、原子力プログラム関係の投資により、ポーランドではGDPの約1%に相当する大きな経済成長が見込めると指摘。その上で、「初号機建設費用の少なくとも40%に国内企業が関わる見通しで、この金額はそれ以降の原子炉建設でさらに増加する」と述べており、プログラムが進展するにつれ、国内エンジニアがさらに必要になるとの見通しを示した。同省の調べによると、ポーランドではすでに約80社の国内企業が、世界中の原子炉ベンダーに原子力関連サービスを提供中。さらに300社が、ポーランドの原子力プログラムに沿って、サプライチェーンに加わる準備を整えている。(参照資料:PEJ社、ワルシャワ工科大の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Aug 2023
1659
インド政府で原子力等の科学技術を担当するJ.シン閣外専管大臣は8月2日、議会下院における答弁の中で、国産小型モジュール炉(SMR)の開発に向けて、インド政府が諸外国と協力するオプションや法改正を通じて民間部門と協力する方策を検討中であることを明らかにした。インド原子力省(DAE)は、現在合計出力748万kWの国内原子力発電を2031年までに約3倍の2,248万kWに増強する目標を設定。シン大臣によると、大型炉の建設を通じてこれを達成する方針に変わりないものの、政府はSMR建設の実行可能性や有効性を調査するロードマップの作成に向け、技術面の詳細を検討中である。同大臣はまた、SMRは産業界の脱炭素化、その中でも電力の安定供給を必要とする産業にとって特に有望なエネルギー技術だと指摘。インドはクリーン・エネルギーへの移行を果たす一助としてSMRの開発方策を検討しており、その一つとして、民間部門やスタートアップ企業が開発に参加できるよう1962年原子力法の条文見直しを実施中だと説明した。今年5月、インド政府の公共政策シンクタンクでN.モディ首相が会長を務める「インド改革国立研究委員会(NITI Aayog)」は、「エネルギーの移行におけるSMRの役割」と題する報告書を取りまとめた。同シンクタンクは、SMRの国内建設を成功裏に進めるには、民間部門による投資の活用が欠かせないと指摘している。インドでは現在、安全で環境に優しく経済性も高い原子力技術の開発と、原子力発電所の運転をインド原子力発電公社(NPCIL)が主に担っている。NITI Aayog の結論では、インドにおけるSMRの大規模開発と建設に向けて民間投資を確保するには、技術的に中立でしっかりとした政策の枠組が必要。投資の流れに大きな影響を及ぼす要因として、社会面や環境面のファクター、タクソノミーなどを挙げている。NITI Aayogの報告書はまた、いくつかのSMR実証プラントを早期に建設する重要性を指摘している。これによりリスクに対する見通しが立てやすくなり、サプライチェーンの形成に弾みを与えるとともに、この業界に投資と安定をもたらせるという。また、SMRの主要特性を考慮して許認可手続きや規制の枠組みを合理化することは、世界的なSMR市場を開拓する上で重要だとした。そして、SMRが地球温暖化の影響緩和で有意な役割を果たせるとしたら、市場に十分浸透して変化を与えられるよう2030年代初頭、あるいはそれより早い時期にSMR初号機を建設するべきだと指摘している。(参照資料:インド政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Aug 2023
1905
カナダのテレストリアル・エナジー社は8月3日、同社製の「小型モジュール式・一体型熔融塩炉(IMSR)」で使用する燃料を将来的に調達するため、同燃料の製造・供給契約を米ウェスチングハウス(WH)社の英国子会社と締結した。この子会社「スプリングフィールド燃料会社(SFL)」は、英ランカシャー州のスプリングフィールドにあるWH社の燃料製造工場を運営している。この契約の下で両社は、同工場の様々な既存インフラを活用してIMSR用燃料の試験製造プラントを設計・建設する計画だ。同契約はまた、2030年代に複数のIMSRを稼働できるよう、最終的に商業規模の製造施設建設を想定している。このため、英国政府はこの試験製造プラント建設に「原子燃料基金(NFF)」の中から290万ポンド(約5億2,500万円)の支援を約束。同契約は元々、テレストリアル社とSFL社および英国の国立原子力研究所(NNL)がIMSR用燃料の商業規模の確保に向け、2021年7月に調印した協力契約に基づいていることから、英国政府もこの協力関係を利用して国内エネルギー供給の保証戦略を進めていくとしている。テレストリアル社のIMSRは熱出力40万kW、電気出力は19万kWで、電力のほか熱エネルギーの供給が可能。使用する熔融塩燃料は、これまで数10年以上にわたり民生用の軽水炉に装荷されてきた「標準タイプ」の低濃縮ウラン((U-235の濃縮度が5%以下))を熔融フッ化物塩と混合して製造する。同社の説明によると、先進的原子炉設計の多くがHALEU燃料((U-235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を使用するのに対し、IMSRは第4世代設計の中でも唯一、標準濃縮度のウランを使用する。この関係で、同社は2022年11月にこの標準タイプ燃料の梱包方法と国境を越えた輸送について、第三者に依頼して規制面の独自評価を行っている。その結果、これまで既存炉に利用されてきた燃料の梱包方法は、新たな種類の燃料梱包に派生するコンテナの設計や製造、許認可等の面でコストや時間がかからず、IMSRの燃料輸送に適していることが実証された。IMSRを主要な市場に速やかに送り出すという商業的側面でも、有利な燃料選択だったと強調している。同炉は今年4月、カナダの規制要件に対する適合性の事前審査で、同国の原子力安全委員会(CNSC)が提供している「予備的設計評価(ベンダー設計審査:VDR)」の第2段階を完了。CNSCが「カナダで同炉の商業利用を阻むような根本的障害は見受けられなかった」と結論づけたほか、テレストリアル社も、「VDRは熔融塩を燃料として使う先進的原子炉がクリアした最初の規制審査になった」と指摘していた。IMSRについては、カナダのアルバータ州政府が建設に向けた検討を進めており、テレストリアル社と同州の州営非営利企業「インベスト・アルバータ(Invest Alberta)社」は2022年8月、同州をはじめとするカナダ西部地域でのIMSR建設に向けて了解覚書を締結している。(参照資料:テレストリアル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Aug 2023
1800
米アラスカ州は7月27日、州内で検討されている複数のマイクロ原子炉利用計画の実現に向けて、これまで主に大型炉を対象としていた関係規制手続の合理化を決定した。アラスカ州内で原子力施設を建設するには連邦政府と州政府両方の許可が必要だが、民生用原子力施設の安全性については原子力規制委員会(NRC)が各申請書の審査で全般的権限を有する一方、州政府の権限は施設の立地に留まっている。これまで同州の環境保全省(DEC)は、建設候補地について地元自治体が承認し州議会が建設指定を行った場合に限り、立地許可を発給していた。昨年中に、州議会では関係州法(AS 18.45)を改訂する上院法案(SB 177号)が成立し、M.ダンリービー州知事も署名を済ませたことから、8月から州議会による候補地の指定要件が撤廃された。今後州議会は、自治体が存在しない自治区が候補地となった場合にのみ、立地許可の発給承認を行うことになった。その一方で同法は、申請者に対して立地許可手続きの初期段階から、地元民との協議を義務付けている。この変更により、地元コミュニティのプロジェクトへの関与が強まり、デベロッパーが遠隔地域に原子力の無炭素な電力を提供する基盤が築かれたと州政府は指摘。ダンリービー知事も、「ディーゼル発電に依存する農村地域では、マイクロ原子炉で電気料金やCO2排出量の削減が可能になるなど、画期的エネルギー源になる」とコメント。「2030年までに、すべての州民が低価格な電力を利用できるようにしたい」と表明している。アラスカ州では、米空軍省(DAF)がフェアバンクス近郊に位置するアイルソン空軍基地(AFB)で、マイクロ原子炉を試験的に運転するプログラムを進めている。同基地を原子炉の設置点として選定するにあたり、DAFは2020年9月に「関係する情報の提供依頼書(RFI)」を産業界等の関係者に向けて発出。2022年9月には国防兵站局と共同で、「提案の依頼文書(RFP)」を発出していた。DAFは今年中にも、マイクロ原子炉のベンダーを選定してNRCを交えた許認可関係の活動を開始し、2025年に建設工事を始める予定。2027年に試験運転を実施し、10年以内に商業炉を完成させる方針だ。同州ではまた、電力共同組合の「コッパー・バレー電気協会(CVEA)」が、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)製マイクロ原子炉「MMR」を中心とする先進的エネルギー・システムの建設構想を推進中である。州内の電気事業者が共同運営するCVEAは、ディーゼル発電所や水力発電所など合計約4万kWの発電設備で同州南東部に電力と熱を供給。2021年の理事会では、高額で価格変動も激しい化石燃料から脱却し、一層クリーンで経済的な電力供給に転換することが戦略計画の目標に掲げられ、2022年9月にはUSNC社との協力により、MMR建設に関する予備的な実行可能性調査を実施中だと発表していた。CVEAによると、USNC社は今年6月に同調査の報告書をCVEAに提出。CVEAが熱電併給しているグレンナレンからバルディーズにかけて、複数地点で熱出力1.5万kWのMMRを2基、一つの発電設備として建設した場合のコストやリスクを調査した結果、バルディーズ南東部の山岳地帯が建設に適している、などと報告している。(参照資料:アラスカ州、CVEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Aug 2023
1558
SZC原子力発電所の完成予想図 ©DESNZEDFエナジー社が英国で計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(167万kWの欧州加圧水型炉=EPR×2基)建設プロジェクトの準備を加速するため、英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は7月24日、同計画用資金の中から1億7,000万ポンド(約309億円)を新たに歳出すると発表した。この資金は、サイトでの建設準備活動や主要機器の調達、労働力の確保等に充てられる。同計画では建設ピーク時に英国内で1万人規模の雇用が見込まれるほか、関連契約の約70%が英国内のサプライチェーンにもたらされる見通し。DESNZとしては、新しい資金調達方法として「規制資産ベース(RAB)モデル」を採用した同計画に新たな民間投資を呼び込み、EDFエナジー社に対しては同計画への最終投資判断(FID)を促す方針である。DESNZはまた、同発電所のこの2基を追加することで、2050年までに英国の原子力発電を現在の約4倍の2,400万kWに拡大する政府目標の達成に近づき、英国のエネルギー供給保証を強化できると指摘。ロシアのV.プーチン大統領を、世界のエネルギー市場から締め出す原動力にもなるとしている。DESNZの発表によると英国では7月中旬、原子力発電所の迅速な新設を主導する新しい政府機関の「大英原子力(GBN)」が正式に発足した。GBNでは近年浮上してきた原子炉技術のみならず、SZCやヒンクリーポイントC(HPC)のような従来型大規模原子力発電所の建設プロジェクトも支援していく予定であり、国家経済の成長や電気料金の削減にも貢献すると強調している。SZCプロジェクトついては、EDFエナジー社の下で同計画を担当している子会社のNNB GenCo(SZC)社が2020年5月、計画法に基づいて「開発合意書(DCO)」の発給を計画審査庁(PI)に申請した。この当時、エネルギー政策を担っていたビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)は、PI審査官の報告書等の結論に基づき、2022年7月にDCOの発給を決定している。BEISはまた、同年11月にSZCプロジェクトに対して総額6億7,900万ポンド(約1,236億円)の直接投資を行うと発表した。EDFエナジー社の親会社であるフランス電力(EDF)とともに同計画に50%ずつ出資する一方、NNB GenCo社と協力して、SZCプロジェクトへの出資者を新たに募る方針。同計画では2015年の合意に基づき、中国広核集団有限公司(CGN)がEDFエナジー社に20%の出資を約束していたが、BEISは英政府が出資することで所有権の買取や税金なども含めて、CGNの撤退を促すことが可能だと指摘した。同計画のFIDに関してはEDFエナジー社が昨年、「うまくいけば2023年中に下すことが可能」と述べていた。今年2月にBEISからエネルギー政策を引き継いだDESNZのG.シャップス大臣は、SZCプロジェクトについて、「すでに実施中のHPCプロジェクトと、国産原子力発電シェアの25%まで拡大という長期目標を橋渡しする役割を担っている」と指摘。その上で、「新しい原子力発電所で信頼性の高いクリーン・エネルギーを安価で提供するだけでなく、英国がプーチンのような暴君にエネルギーの身代金を支払わずに済むようにしていく」との決意を表明している。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Aug 2023
1798
米ユタ州公営共同事業体(UAMPS)の100%子会社である「無炭素電力プロジェクト社(CFPP LLC)」は7月31日、米国初の小型モジュール炉(SMR)をアイダホ国立研究所(INL)内で建設するため、建設・運転一括認可(COL)申請の最初の部分となる「限定工事認可(LWA)」を原子力規制委員会(NRC)に申請した。CFPP社は現時点でCOL申請書を提出しておらず、これは完全なCOL申請に先立ちLWAを単独で申請した最初の例になる。CFPP社は2024年1月にもCOL申請の残りの部分を提出予定だが、先にLWAを取得することによって、ニュースケール・パワー社製のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」(出力7.7万kW版)を6基備えた発電設備「VOYGR-6」(46.2万kW)の建設に向け、初期作業を2025年の半ば頃から開始する方針だ。西部7州の電気事業者約50社で構成されるUAMPSは、様々なエネルギー・サービスを近隣地域に提供するユタ州の機関。SMRなど原子力を中心に発電システムの脱炭素化を図り、クリーンな大気を維持するという独自の「CFPPプロジェクト」を2015年から推進している。2016年2月にエネルギー省(DOE)から、傘下のINLにおけるSMR建設を許可されており、2020年10月にはDOEから、NPMを複数基備えた発電設備の建設・実証を支援する複数年にわたる補助金として最大14億ドルを獲得。UAMPSは同年9月に、非営利企業のCFPP社を設立していた。ニュースケール社は2020年9月、SMRとしては初となる出力5万kWのNPMについて「標準設計承認(SDA)」をNRCから取得した。これはNRCスタッフが同設計を「技術的に許容可能」と判断したことを示すもので、2023年1月にはNRC全体の決定となる「設計認証(DC)」が発給された。同じ月に同社は、7.7万kW版のNPMについてもSDA申請書を提出しており、NRCは8月1日付発表の中で、同申請を正式に受理し審査を開始する方針を明らかにしている。CFPP社は2021年8月から、COLの申請に向けた作業を開始した。この作業には、ニュースケール社の大株主で大手EPC(設計・調達・建設)契約企業のフルアー社が専門的知見を提供、ニュースケール社の許認可手続き専門チームも参加している。建設サイトとなるINLは、アイダホフォールズ市の近郊に約2,300km2の広大な敷地を保有しており、同社はLWAの取得手続きと並行して、初期的建設作業の開始前に国家環境政策法(NEPA)に基づく許可をDOEと協力して取得する。CFPP社のM.ベイカー社長はLWAの取得申請について、「スケジュール通り2029年末までに最初のNPMの営業運転開始を目指す上で、必要不可欠だ」と指摘。COLを取得して建設プロジェクトの全面的な承認を得る前に、LWA取得で建設サイトの作業を出来るだけ進めておきたいとしている。ニュースケール社はすでに2022年12月、UAMPSの「VOYGR-6」建設に必要な最初の長納期品(LLM)製造を韓国の斗山エナビリティ社に発注した。同年4月に両社が締結した契約に基づくもので、原子炉圧力容器(RPV)の上部モジュールを構成する大型鍛造品や、蒸気発生器の配管等を調達する計画だ。(参照資料:CFPP社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの8月1日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Aug 2023
2029
米ジョージア・パワー社は7月31日、ジョージア州内のA.W.ボーグル原子力発電所で建設中だった3号機(PWR、110万kW)が、同日付で営業運転を開始したと発表した。同機は今年3月に初臨界に達した後、4月に送電網に接続されていた。建設費の高騰やスケジュールが6年以上遅延するなど難産ではあったが、米国でようやくウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)PWRのAP1000が本格稼働した。米国で新たに着工した商業炉としては、約35年ぶり。建設工事と各種試験が最終段階に入った同型の4号機は、早ければ年末に起動できる見通しだ。ボーグル3、4号機はジョージア州内の4社が共同保有しており、ジョージア・パワー社が45.7%、オーグルソープ電力が30%、ジョージア電力公社(MEAG)が22.7%、ダルトン市営電力が1.6%それぞれ出資。米エネルギー省(DOE)から83億3,000万ドルの政府融資保証適用を受けた唯一の新設プロジェクトとして、3、4号機はそれぞれ2013年の3月と11月に本格着工しており、当時は2017年と2018年の完成を予定していた。一方、サウスカロライナ州では、これらとほぼ同時期にスキャナ社とサンティー・クーパー社がV.C.サマー原子力発電所で、同じくAP1000を採用した2、3号機を着工したが、2017年3月のWH社の倒産申請を受けて同プロジェクトは中止となった。ボーグル発電所では、サザン社のもう一つの子会社で3、4号機の運転会社となるサザン・ニュークリア社が、WH社からプロジェクト管理を引き継いで建設工事を継続。この間、ジョージア・パワー社は2020年4月、新型コロナウィルスによる感染の影響を軽減するため、建設サイトの労働力を約20%削減している。また2021年7月末に3号機の温態機能試験が完了したものの、翌8月に原子力規制委員会(NRC)から「安全系に係わる電気ケーブルの配管が正しく設置されていない」と指摘されたこともあり、運転開始スケジュールは徐々に先送りされている。3号機ではその後、安全性と品質に関する398項目の厳しいチェックが行われ、サザン・ニュークリア社のチームは2022年7月、「(同機が)運転開始前の検査や試験、解析等に関する基準(ITAACs)をすべて満たした」とする文書をNRCに提出した。NRCは同文書およびその他の提出物を厳格に審査した結果、「3号機が建設・運転一括認可(COL)とNRCの規制どおりに建設され、運転も行われる見通し」と確認。同年8月にその確認事項書「103(g)」をサザン・ニュークリア社に送付し、同機の燃料装荷と起動を許可していた。ジョージア・パワー社は今回、4号機についてもサザン・ニュークリア社が前の週にNRCから「103(g)」を受け取ったことを明らかにしている。4号機は今年5月に温態機能試験を完了しており、建設サイトにはすでに同機用の初装荷燃料集合体157体も到着。現在の日程では、今年の第4四半期後半、あるいは2024年の第1四半期に同機の運転を開始する見通しである。 (参照資料:ジョージア・パワー社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Aug 2023
2931
米ウェスチングハウス(WH)社は7月27日、英国スプリングフィールドにある同社の原子燃料製造工場の拡張・アップグレード用として、英国政府の「原子燃料基金(NFF)」の中から総額1,050万ポンド(約19億1,200万円)の補助金を獲得したと発表した。2025年3月末までに交付される見通しだ。WH社はこの補助金を次世代原子炉関係の3つの用途に使用する予定で、まず第3世代+(プラス)の同社製PWRであるAP1000、およびその出力縮小版のAP300など、様々な軽水炉に使用する原子燃料を同工場で製造。英原子力産業界が将来にわたって、最新の燃料を供給できるようにする。また、英国での新規炉開発に備え、WH社は同工場でのHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の製造検討に補助金を活用する。同社はさらに、カナダのテレストリアル・エナジー社および英国立原子力研究所(NNL)との協力に基づき、テレストリアル社製の小型モジュール式・一体型熔融塩炉(IMSR)に使用する4フッ化濃縮ウラン(UF4)燃料と熔融塩燃料の試験製造にも補助金を活用する方針だ。NFFは2022年7月、英国内の原子力部門で高度なスキルを要する雇用を維持しつつ新たな原子力インフラへの投資を促進するため、ビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)(当時)が発電用原子燃料の国内製造拡大を目的に、7,500万ポンド(約136億5,700万円)の予算で設置した。これは、2050年までに国内の民生用原子力発電設備を2,400万kWまで拡大(現在は653.4万kW)して、英国のエネルギー供給を保証するには、しっかりとした燃料サプライチェーンを国内で確保・維持することが重要との認識に基づいている。英国政府はすでに2022年12月、NFFの7,500万ポンドのうち最大1,300万ポンド(約23億6,700万円)をWH社のスプリングフィールド・サイトに提供すると決定した。英国内で稼働する既存のガス冷却炉(AGR)用として、回収ウランと新たに採掘されたウランの両方を転換する能力の開発を目的としたもの。これにより、現時点でロシア以外の国では不可能な回収ウランの転換を可能にし、国際社会がロシアの燃料供給から脱却することを目指している。今年1月には、英国政府はNFFに残っている約5,000万ポンド(約91億円)の中から、資金提供するプロジェクトの競争入札を開始した。ここでの目的は、SMRを含む軽水炉用として英国産の燃料サプライチェーンを新たに構築するとともに、2030年代以降に運転開始が見込まれる先進的モジュール炉(AMR)用のHALEU燃料など、新しいタイプの燃料製造プロジェクトを支援すること。BEISのエネルギー政策を今年2月に引き継いだエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は7月18日、国産燃料のサプライチェーン構築を支援する国内8つのプロジェクトに対し、今回総額2,230万ポンド(約40億6,200万円)の補助金をNFFから拠出するすると発表した。WH社の燃料製造工場に交付する1,050万ポンド以外では、カーペンハーストにあるURENCO社のウラン濃縮工場に950万ポンド(約17億3,000万円)を拠出し、低濃縮ウランおよびHALEU燃料の製造を支援。また、AMRの一つである熔融塩炉の国内開発企業であるモルテックスFLEX社に120万ポンド(約2億1,800万円)以上を交付し、バーナー・リグなど熔融塩の製造に必要な機器の製造と運転を支援するとしている。(参照資料:WH社、英国政府①、②、③の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Jul 2023
2116
米国船級協会(ABS)は7月24日、小型モジュール炉(SMR)など先進的原子炉技術が海運業にもたらす恩恵についての調査結果で、載貨量の増量やCO2排出量の削減など大きな可能性が判明したと発表した。ABSは船体への装備の取り付け工程や取り付けられた機器の状態等を検査し、船級登録する機関。米エネルギー省(DOE)から、先進的原子炉を民間商船に搭載した場合の障害等について研究調査の実施契約を受注したことから、ABSは海運業関係のサービス会社ハーバート・エンジニアリング社(HEC)にこの調査を委託。長さ約6mのコンテナ換算で1.4万個を輸送可能なコンテナ船と、スエズ運河を航行可能な載貨重量15.7万トンのタンカー(スエズマックス船)について、先進的原子炉がこれらの運航や船体設計など、商業面で及ぼす潜在的な影響を調査した。その結果、鉛冷却高速炉(LFR)(出力3万kW)を2基搭載することによって、民間の商用コンテナ船の載貨量が増加し、運航速度も上昇する可能性が高いと結論。また、これらのLFRの運転期間である25年間に、燃料交換は不要だという。一方、スエズマックス船については、ヒートパイプ冷却型のマイクロ原子炉(出力0.5万kW)を追加で4基設置した場合、載貨量は減るものの運航速度が上昇。燃料交換も25年間で1回のみで済むことが判明した。どちらの場合も排出されるCO2の量はゼロになるなど、海運業にもたらされる恩恵は莫大だと強調している。ABSのC.ヴィエルニツキ会長兼CEOは、「大型商船の効率的な運航やCO2排出量の削減など、原子力がもたらす大きな可能性が今回の調査で明らかになった」と指摘。「SMRや先進的原子炉は、安全性の確保や効率性の強化、コストと廃棄物の削減、核拡散の防止など、これまで原子力を海運業に活用する際に課題となっていた数多くの点に対処することができる」と強調した。このほか英国では、クリーンで安全な第4世代の先進的原子炉を開発するため2021年9月に設立された新興企業のニュークレオ(Newcleo)社が7月25日、イタリア船級協会(RINA)、および同国の大手造船グループのフィンカンティエリ(Fincantieri)社と共同で、海運業でのSMR活用に向けた実行可能性調査(FS)を実施すると発表した。これに関連し、国際海事機関(IMO) が7月上旬にロンドンで第80回海洋環境保護委員会を開催し、2050年頃までに海運業界の温室効果ガス排出量を実質ゼロ化するため、新たな削減目標値を設定した。このため同FSでは、ニュークレオ社が開発した革新的な小型LFR(出力3万kW)のクリーン・エネルギーを大型商船の推進力として活用し、莫大な化石燃料を消費する海運業界の迅速な脱炭素化を探るのが目的となる。ニュークレオ社によると、同炉では10年~15年燃料交換が不要なため、メンテナンスが非常に容易かつ効率的になる。また、このLFRを大型商船に設置した場合は、事故発生時に海洋生態系を守ることも可能。同社のLFR設計では、原子炉内部の液体鉛が冷たい水に触れると固体化して原子炉を包み込むため、あらゆる放射線を内部に閉じ込めることができる。RINAのU.サレルノ会長兼CEOは、「船舶燃料の効率化や船体の設計改良、CO2の排出量削減など、原子力ではあらゆる課題の解決が可能だ」と指摘。これに加えて、「SMRであれば海運業における原子力利用の、最も効率的な解決策になる」と説明している。(参照資料:ABS、ニュークレオ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jul 2023
2255
フランスのE.マクロン大統領は7月19日、自らが議長を務める閣僚級の「原子力政策審議会(CPN)」を招集し、改良型欧州加圧水型炉(EPR2)を建設する国内3番目の地点として東部のビュジェイ原子力発電所(PWR×4基、各90万kW級)を選定した。EPR2を2基ずつセットで建設する最初の3地点として、フランス電力(EDF)が2021年5月に政府に提案した既存の原子力発電所のうち、最初の2基を建設するオー=ド=フランス地域圏(州)のパンリー発電所と、次の2基を建設する同地域圏のグラブリーヌ発電所はすでにCPNが承認済み。3セット目のEPR2 を建設する候補地点として、EDFはオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ地域圏内のビュジェイ発電所、あるいはトリカスタン発電所を提案していた。同大統領は2022年2月に東部のベルフォールで演説した際、フランスのCO2排出量を2050年までに実質ゼロ化し国内の原子力産業を再活性化するため、国内で6基のEPR2を新たに建設するほか、オプションとしてさらに8基の建設に向けた調査を開始すると発表。今回のCPNで地元議員の支援を受けたビュジェイ発電所が選定され、第一段階で建設する合計6基の地点が決定した。一方、CPNは今後もトリカスタン発電所で新規原子炉を建設する可能性について、技術面の調査・分析活動を継続する方針である。フランスでは今年5月に議会が原子炉新設手続きの迅速化法案を可決し、6月23日付で発効した。EDFはこれを受けて、同月29日にパンリー発電所でEPR2を2基増設するための設置許可申請書(DAC)を規制当局に提出した。CPNの今回の審議では、2025年までにこれら2基の関係作業を開始するというスケジュールに合わせるため、様々な手続きが進展中であることを確認している。CPNではこのほか、同国の原子力研究の主導・調整役として中心的役割を担うフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)のスタッフを大幅に増員し、その民生用原子力部門の研究施設を刷新すると決定した。優秀な人材を新たに呼び込み、既存の原子力発電所で高いレベルの安全性を保証するとともに、EPR2や先進的な小型モジュール炉(SMR)など最新技術の原子力発電所を建設。これらを通じて、発電所の運転期間延長にともなう様々な課題の解決に向けた研究も強化されるとしている。CPNはさらに、議会付属の科学技術選択評価局(OPECST)が報告書の中で、原子力安全と放射線防護の両面を、独立の立場で管轄する規制当局の創設を勧告している点に注目。現行の原子力安全規制当局(ASN)、およびその技術的支援機関である放射線防護原子力安全研究所(IRSN)の使命や人的資源をすべて温存しながら、新当局の創設方向に進んでいきたいとする政府の意向をCPNは確認。その上で、秋までに関係法案の準備を整えるため、関係者や議会と協議を始めるようエネルギー移行省に指示している。(参照資料:原子力政策審議会(仏語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Jul 2023
1944
フランス電力(EDF)は7月19日、小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」の建設に向け、予備的な許認可手続きを開始した。EDFは将来、「NUWARD」プラントの最初の運転事業者となることから、今回同炉の安全オプション文書(DOS)を仏原子力安全規制当局(ASN)に提出した。同炉の正式な建設許可申請を行う前に、ASNから初期段階のフィードバックを得るのが目的だ。DOSは、当該原子力施設の安全確保のために採用した技術や設計の特徴、運転とリスク管理関係の主要原則等をまとめた文書で、公開討論等の場で施設の基本的な安全性の考え方や経済面、環境面の影響を説明するのに用いられる。「NUWARD」は、EDFがフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)と政府系造船企業のネイバル・グループ、および小型炉専門開発企業のテクニカトム社らと共同開発したSMR。同国で50年以上の経験が蓄積されたPWRをベースとしており、出力17万kWの小型PWR×2基(合計出力34万kW)で構成される。「NUWARD」の建設を通じて、EDFは世界中の老朽化した石炭や石油、天然ガスの火力発電所をリプレースするだけでなく、高圧送電網から外れた遠隔地域の需要に応えるとともに、水素製造や地域熱供給、脱塩への応用も支援していく。EDFは今年3月、同炉の開発を担当する企業として100%子会社のNUWARD社を設立しており、基本設計と予備的許認可手続きの実施に向けた作業を開始。2025年からは詳細設計と正式な許認可手続きに入る予定で、2030年には国内で実証炉の着工を目指している。「NUWARD」の開発には、ベルギーの大手エンジニアリング企業のトラクテベル社も協力しており、同社は2022年5月、EDFのエンジニアリング・センター(CNEPE)から同炉のタービン系やBOP(主機以外の周辺機器)の概念設計調査を受注。今年6月には、「NUWARD」開発への協力を強化・延長するため、NUWARD社と枠組み協定を締結している。EDFが今回DOSをASNに提出したことについて、NUWARD社のR.クラッスー社長は「『NUWARD』の開発を確固たるものにする上で、ASNの評価や勧告は欠かせない」と指摘。「世界のクリーン・エネルギーへの移行を当社が主導し、欧州SMRの評価基準になるという当社戦略の一環として『NUWARD』のモデル・プラントを仏国内で建設、その性能と競争力を実証する」と述べている。EDFはこれと同時に、複数の国でSMRを建設する考え。SMRの許認可手続きについては、欧州各国が規制環境の整備を加速しつつ国際間で調整を図れるよう、ASNが2022年6月、フィンランド、チェコの規制当局と共同で「NUWARD」の規制審査を行うと発表した。この審査は、欧州でSMRの規制条件調整に向けた初期段階のケーススタディになるとしている。(参照資料: NUWARD社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Jul 2023
1643
米国北西部ワシントン州の電気事業者であるエナジー・ノースウエスト社は7月19日、同州内で最大12基のX-エナジー社製・ペブルベッド式小型高温ガス炉(HTGR)「Xe-100」を建設するため、同社と共同開発合意書(JDA)に調印した。第4世代の小型モジュール炉(SMR)となる「Xe-100」は電気出力8万kW、熱出力は20万kWで、これを12基連結することで最大96万kWの電気出力を得ることが出来る。エナジー・ノースウエスト社は自らが所有・運転するワシントン州内唯一の原子力発電所、コロンビア発電所(BWR、121.1万kW)の隣接区域で「Xe-100」発電所の建設を計画しており、2030年までに最初のモジュールの運転開始を目指す方針である。エナジー・ノースウエスト社は同州内の地方自治体など28の公益電気事業者で構成され、2020年からX-エナジー社と協力して「Xe-100」の建設プランを作成していた。当初は「Xe-100」を4基備えた発電設備の建設を計画していた。今回のJDAでは「Xe-100」の商業化に向けて、立地点や建設スケジュールの詳細等を明確化した。今後は、同炉の許認可手続きや規制事項への対応等を共同で決定していく。米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」における初回支援金の交付対象の一つとしてX-エナジー社を選定した。「Xe-100」の実証炉建設に向けた支援金として、DOEは同プログラムから今後7年間で総額12億ドルを交付。これらの一部は、同炉で使用する3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)の商業規模の製造施設を、テネシー州オークリッジで建設する計画にも利用されている。「Xe-100」の実証炉については、素材関連企業のダウ(Dow)社がメキシコ湾沿いにある同社施設の一つで建設するため、2022年8月にX-エナジー社と基本合意書を締結。今年5月には、同社は「Xe-100」の立地点として、テキサス州メキシコ湾岸のシードリフト市を選定した。同社が2001年に合併吸収したユニオン・カーバイド社(UCC)の製造施設で2026年に実証炉を着工し、ARDPの一環として2020年代末までにその性能を実証するとしている。エナジー・ノースウエスト社のB.シュッツCEOは、同社の使命は米国の北西部地域にクリーンで信頼性の高い安価な電力を供給することだと説明。その上で、「この地域が送電網を将来的にクリーンなものに変える際、信頼性の高い無炭素電源が新たに必要なのは明らかだ。X-エナジー社の先進的原子炉技術はCO2を多量に排出する発電システムにとって最適の、理想的な特性を多く備えている」と強調した。なお、合同会社((合同会社(LLC)は出資者(会社の所有者)と経営者が同一。設立費用が安く決算公告や役員重任登記が不要で、剰余金分配の制限がないというメリットがある。))であるX-エナジー社(X-Energy, LLC)は昨年12月、特別買収目的企業(SPAC)((未公開会社の買収を目的として設立される法人。))のアレス・アクイジション社(Ares Acquisition Corporation) と最終的な合併契約を締結している。手続きは今夏中に完了すると見込まれており、合併後は「X-Energy, Inc.」の新名称でニューヨーク証券取引所に上場する予定である。(参照資料:X-エナジー社、エナジー・ノースウエスト社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Jul 2023
7134
韓国産業通商資源部(MOTIE)は7月14日、ポーランドのワルシャワで「韓国-ポーランド・ビジネスフォーラム」を開催し、原子力など複数分野における両国企業の協力に向け、33件の了解覚書を交わしたと発表した。同フォーラムの開催はユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領のポーランド訪問に合わせたもので、両国の政府関係者や企業、経済団体等から約350名が参加した。MOTIEのイ・チャンヤン長官とポーランド経済開発技術省のW.ブダ大臣が同席して、バッテリーなどの先端産業やロボット、機械、鉄道などの製造業、研究開発等の分野で11件、原子力や水素製造などの低炭素エネルギー、ウクライナの再建協力、基盤施設等のインフラ関係の分野で13件、金融や観光、人材交流等の新しい分野で9件の覚書を締結した。これにより、韓国は原子力や先端産業など既存の協力分野で具体的な成果を目指すとともに、経済協力の多様化と高度化を図ることにより、将来的な互恵協力の基盤を築いたと強調している。原子力分野の了解覚書は合計6件で、これには斗山エナビリティ社や韓国水力・原子力会社(KHNP)など、ポーランド中央部ポントヌフにおける韓国製140万kW級PWRの建設プロジェクトに関係する企業が含まれるようだ。また、このうち1件は、ポーランドが計画する米国製小型モジュール炉(SMR)建設事業に現代E&C(現代建設)社が加わるというもの。ポーランドの化学品メーカーであるグルパ・アゾティ・ザクワディ・ヘミツィネ・ポリツェ(Grupa Azoty Zakłady Chemiczne Police S.A.)社は、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が開発した「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」(熱出力1.5万kW、電気出力0.5万kW)の国内建設を計画しており、この日現代建設を加えた3社が、協力のための予備的合意文書を締結した。グルパ・アゾティ社は、ポーランド北西部の西ポモージェ県にあるポリツェ町を本拠地としており、窒素肥料の製造などポーランドの化学産業用および水素製造として、SMRに基づくエネルギー・システムを建設する。自社電源の脱炭素化を図りつつ、無炭素エネルギーを確保することは同社の2030年までの戦略にも明記されている。このように同社は、ポーランドでは政府レベルのみならず、製造業レベルでも化石燃料を無炭素電力に置き換えるなど、クリーン・エネルギーへの移行が進展中だと強調した。今回の3社合意により、ポーランドではMMR建設の許認可手続きの進展が期待される。現代建設は産業用エネルギー技術のインテグレーターでもあるため、USNC社およびグルパ・アゾティ社と緊密に協力して原子力の無炭素な電力で水を電気分解、水素の抽出技術を開発するとしている。(参照資料:MOTIE ①、②(韓国語)、現代建設(韓国語)、グルパ・アゾティ社(ポーランド語)、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jul 2023
1608
フランスのE.マクロン大統領と同大統領の招きで訪仏中のインドのN.モディ首相は、パリで会談後の7月14日に共同声明を発表。両国間の原子力協力を小型モジュール炉(SMR)と先進的モジュール炉(AMR)の分野にも拡大すると決定した。今年は両国が1998年に戦略的パートナーシップを結んでから25周年にあたることから、共同声明では同パートナーシップの約50周年、およびインドの独立100周年でもある2047年を見据え、両国間の協力針路を定めている。共同声明の中で、原子力協力は「地球温暖化の防止に対応したエネルギー供給保証の強化」に位置付けられており、両国は①インドの工業化と都市化にともなうエネルギー需要増大への対応と、②エネルギー供給保証の強化、および③SDGsの7番目の目標(エネルギーをみんなにそしてクリーンに)やパリ協定の目標達成――に向けて、緊密に連携しながら低炭素経済に移行中だと説明。両国はともに、パリ協定の長期的な目標を達成するには、エネルギー・ミックスにおけるクリーン・エネルギーのシェアを拡大する必要があると認識しており、地球温暖化の影響を緩和する持続可能な解決策として原子力の活用が重要と確信している。両国はまた、インド・ジャイタプールでフランス製欧州加圧水型炉(EPR)を6基建設する計画が進展したことを歓迎。これに関連して、両国はフランス電力(EDF)が提案した民生用原子力エンジニアや技術者の養成協力の受け入れを表明した。また、インドが進めている技術者養成政策の「スキル・インディア」に沿って、フランスの関係機関はインド人学生の研修を促進・支援する。両国はさらに、SMRのような中・小型炉やAMRについても意欲的な協力プログラムを開始し、パートナーシップ関係を築くことで合意した。このほか、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)が南仏カダラッシュで2007年から建設中の材料照射試験炉「ジュール・ホロビッツ炉」についても、インドを含む多国間で提供している協力の継続を確認している。ジャイタプールのEPR建設計画については、2010年に仏印両国は最初の2基の建設に関して枠組合意に達したものの、機器供給者側に一定の賠償責任を課したインドの原子力損害賠償法や、地域住民の抗議活動が激化したこと等により、実質的な作業は棚上げとなった。2018年3月、EDFとインド原子力発電公社(NPCIL)は、機器の調達活動に関する枠組や仏印両国の役割と責任の分担、次の段階のスケジュール等を決めるために産業枠組協定を締結。同年末に、EDFが法的拘束力をもたない契約条件提案書をNPCILに提出した後、2021年4月に法的拘束力のある技術面と商業面の契約条件提案書を提出している。(参照資料:フランス大統領府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jul 2023
1611
©British Government英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のG.シャップス大臣は7月18日、革新的な技術を用いた小型モジュール炉(SMR)の開発を促進するため、支援金の交付対象を選定するコンペを開始した。これにともない、支援金を希望する企業は同日からこのコンペに参加登録することが可能になった。英国で原子力発電所の新設計画を牽引する新しい政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」は、同コンペの担当機関として、今秋にも基準を満たした企業の最初の絞り込みを行い、詳細協議の段階に移行する計画だ。このコンペの実施は、今年3月にDESNZが公表したクリーン・エネルギーによる長期的なエネルギー供給保証と自給の強化に向けた新しい投資政策「Powering Up Britain」に基づいている。英国でエネルギーを自給していくため、GBNは前例のない規模とスピードで原子力発電の復活・拡大政策を進めており、このコンペを通じてSMRの開発プロジェクトに数十億ポンド規模の官民投資を促す方針。英国のエネルギー供給保証を強化し、価格が変動しやすい化石燃料の輸入量を削減するほか、原子力の生み出す安価な電力で経済成長や良質の雇用創出を英国全土で実現することを目指している。政府の発表によると、SMRは従来の大型炉と比べて設備が小さいため、工場での製造および迅速で低価格な建設が可能になる。ただし、ヒンクリーポイントC発電所やサイズウェルC発電所など、大型原子炉を備えた発電所の建設計画も引き続き支援する方針で、GBNとともにこれらの発電所に続く大型炉の発電所が英国のエネルギー・ミックスの中で果たす潜在的な役割を考慮していく。GBNも、2050年までに国内の総発電量の4分の1を原子力で供給するという政府目標の達成を下支えし、国内の雇用を維持しながら欧州で最も低価格な電力卸売価格を実現するとしている。DESNZのG.シャップス大臣は今回、「原子力やその他のクリーン・エネルギー源の供給量を急拡大して各世帯の電気代を抑え、プーチンのような暴君に英国がエネルギーの身代金を支払わずに済むようにしていく」と明言。「GBNが最先端のSMR開発でコンペを始めたことは、今後数十年にわたり英国と英国経済をパワーアップしていく原子力ルネッサンスの最初の一歩になった」と指摘している。原子力に1.6億ポンドの助成金交付DESNZはこのほか、政府が同じ日に原子力関係で合計約1億5,700万ポンド(約283億3,400万円)の助成金交付を決定したことを明らかにした。このうち最大7,710万ポンド(約139億1,400万円)が英国内で先進的原子炉の開発事業を進める企業に支払われる予定。次の議会の会期中(2024年~2029年)に出来るだけ多くのSMRや先進的モジュール炉(AMR)を建設するため、これらの原子炉設計が規制手続きに入れるよう支援する。また、最大5,800万ポンド(約105億円)をAMRと次世代型原子燃料のさらなる設計・開発に充てる。AMRはSMRよりも高温で運転されるため、水素製造その他の産業利用に適した高温熱を供給可能。具体的には、米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)の英国法人が進めている第4世代の小型モジュール式高温ガス炉「MMR」の開発促進に最大2,250万ポンド(約40億6,000万円)、国立原子力研究所(NNL)が日本原子力研究開発機構(JAEA)の実績に基づいて進める高温ガス炉の設計開発促進に最大1,500万ポンド(約27億円)、および同炉用の国産被覆燃料粒子の開発継続に最大1,600万ポンド(約28億9,000万円)となっている。さらに、2,230万ポンド(約40億2,200万円)が「原子燃料基金」から、ロシアからの輸入に依存しない新しい燃料の製造能力開発プロジェクト8件に提供される。これには、英スプリングフィールドにあるウェスチングハウス(WH)社の燃料製造プラントへの支援金、最大1,050万ポンド(約19億円)や、英カーペンハーストにあるURENCO社のウラン濃縮工場に対する最大950万ポンド(約17億1,000万円)の支援などが含まれている。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jul 2023
2167
スロバキアの国営バックエンド企業であるヤビス(JAVYS)社は7月17日、国内で米ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)PWRのAP1000や小型モジュール炉(SMR)AP300を建設する可能性を探るため、同社と2件の了解覚書(MOU)を締結した。スロバキアでは現在、WH社製原子炉を導入して国内の原子力発電設備容量を拡大できるか評価中。1件目のMOUで技術面やビジネス関係の詳細協力の枠組みを設定し、もう一件では、これらの原子炉の将来的な建設プロジェクト実施に向けた道筋を模索する。経済省が100%出資するヤビス社は、スロバキアで放射性廃棄物の管理を担当するほか、原子力施設の廃止措置のみならず増設と運転にも責任を負っている。同社はボフニチェ原子力発電所(ロシア型PWR×2基、出力各50万kWの3、4号機のみ稼働中)で将来的に5号機を増設するため、2009年にチェコ電力(CEZ社)との共同出資で建設および運転を担当するJESS社を設置。その際、ヤビス社が51%を出資した。ヤビス社はJESS社の親会社としてスロバキアの国益のため、利用可能な原子炉をすべて評価し、スロバキア政府が新たな原子炉の炉型や出力、立地点を最終決定するに当たり、選択肢を提示することになっている。今回の覚書で、ヤビス社は特にSMR建設プロジェクトの実施を念頭に置いており、このような新技術に関する情報をWH社と幅広く交換し、スロバキアのエネルギー供給網に加えられるかの適性を精査する。100万kW級のAP1000の出力縮小版となるAP300(出力30万kW)について、同社はWH社から「AP1000と同じ実証済みの技術を採用しているため、同様の許認可手続きが適用され、サプライチェーンも同じものが利用可能。同じく受動的安全系や負荷追従運転の能力も備えている」と説明されており、その建設と運転・メンテナンスを通して両設計の間でかなりの相乗効果が期待できると考えている。WH社は今年5月にAP300を発表。今回新たに、2027年までに米原子力規制委員会(NRC)から設計認証(DC)を取得し2030年までに初号機の建設を開始、2033年までに運転開始するとの見通しを明らかにした。WH社との協力について、ヤビス社のP.シュトレル会長兼CEOは、「ボフニチェ原子力発電所1、2号機の廃止措置など、WH社とは以前から長期的な協力関係にある」と指摘。これに加えて、WH社はスロバキアで稼働するロシア製原子炉向けに新燃料を提供するなど、燃料の調達先多様化にも貢献している。在スロバキア米大使館のG.ラナ大使は、「2件の了解覚書を通じて両国の企業が民生用原子力部門で商業レベルの協力を一層緊密にする基盤が築かれた」と歓迎している。(参照資料:WH社、ヤビス社(スロバキア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Jul 2023
1614
対話型人工知能「ChatGPT」の開発者、S.アルトマン氏が会長を務める米国のオクロ社(Oklo Inc.)は7月11日、同氏がCEOとして統括している特別買収目的企業(SPAC)((未公開会社の買収を目的として設立される法人))のアルトC・アクイジション社(AltC Acquisition Corp)との合併を発表した。この合併により、先進的原子炉開発企業のオクロ社は同じ名前でニューヨーク証券取引所に上場し、開発中の次世代型マイクロ高速炉「オーロラ(Aurora)」の商業化を加速する。合併手続きは、両社の株主の承認を経て来年初頭にも完了する見通しである。「オーロラ」は燃料としてHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を使用する液体金属高速炉のマイクロ原子炉で、電気出力は0.15~1.5万kW。燃料交換なしで20年以上の熱電併給が可能なほか、放射性廃棄物をリサイクルしてクリーン・エネルギーに転換すると謳っている。米エネルギー省(DOE)は2019年12月、先進的原子力技術の商業化を支援するイニシアチブ「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」の一環として、傘下のアイダホ国立研究所(INL)敷地内での「オーロラ」建設を許可。これを受けてオクロ社は翌2020年3月、原子力規制委員会(NRC)に「オーロラ」初号機の建設・運転一括認可(COL)を申請したが、NRCはオクロ社の審査情報提出が不十分として、2022年1月にこの申請を却下している。その約9か月後、オクロ社は将来的な許認可手続きの効率的かつ効果的な推進のため、NRCに事前の協議活動の実施を提案した。現時点では、INLで2026年か2027年に商業規模の「オーロラ」初号機の起動を目指しており、今年5月に同社は商業規模の「オーロラ」を将来的に2基建設する地点として、オハイオ州南部を選定。同地域の4郡で構成される「オハイオ州南部の多様化イニシアチブ(SODI)」と土地の利用に関する合意文書を交わしている。今回の合併でオクロ社の総資本は最大5億ドルに増大、総資産評価額は8億5,000万ドルに達する見通し。これにより「オーロラ」用の資機材調達やサプライチェーンの強化など、初号機建設が加速され、同社は高速炉を用いた高度な燃料リサイクル技術を確立して、「オーロラ」で使用済燃料をクリーン・エネルギーに変換。長期契約で電力を直接販売するというビジネス・モデルを構築し、クリーンで安価、かつ信頼性の高いエネルギーの大規模供給という目標を達成していく。 2013年に創設されたオクロ社は、2015年にアルトマン氏が会長に就任。同氏は「輝かしい未来の実現で重要なのは豊富な知識とエネルギーだ」と指摘しており、原子力の持つ可能性に同氏は長い間関心を抱いてきたという。同氏はまた、「先進的原子力技術の商業化を進める上で、オクロ社は正に最良の企業である」と明言。同社の技術はDOE傘下の国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」で実証済みであり、シンプルな設計により建設に要するコストや期間が縮減されるという。また、INLが2020年2月、使用済燃料からの回収物質の提供を約束したことから、2026年頃の初号機起動に際し必要な燃料とサイトは確保済み。さらに、同氏にとって最も重要な点は、オクロ社がJ.ドワイトCEOのように高度な技術的専門知識を備えた創業者が主導する、強力なチームを備えていることだと強調している。(参照資料:オクロ社、アルトC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jul 2023
8148
ポーランドの気候環境省は7月11日、国営エネルギー・グループ(PGE社)の原子力事業会社であるPEJ(=Polskie Elektrownie Jądrowe)社が北部ポモージェ県内で計画している同国初の大型炉建設について、「原則決定(DIP)」を発給した。これは、原子力発電所の建設計画でポーランド政府が下した最初の主要な行政判断。同県ホチェボ自治体内のルビアトボ-コパリノ地区で、ウェスチングハウス(WH)社製の第3世代+(プラス)のPWR「AP1000」を最大3基建設する計画が、エネルギー政策等の国家政策に則したものであり、国民の利益にも適うと正式に認めた。事業者となるPEJ社は今後、立地点の確定や建設許可の取得など、さらなる行政判断を仰ぎ手続きを進めることが可能になる。ポーランド政府としても、国家のエネルギー供給ミックスがより良い方向に向かい、供給が強化される節目になったと強調している。ポーランドでは改訂版の「原子力開発計画(PPEJ)」に基づいて、2043年までに国内の複数サイトで最大6基の100万kW級原子炉(合計600万~900万kW)を建設する。最初の3基、合計375万kWをポモージェ県内で建設・運転する場合の環境影響を評価するため、PEJ社は2022年3月にルビアトボ-コパリノ地区のほか、近隣のクロコバとグニエビノの両自治体が管轄するジャルニビエツ地区でも影響分析を実施。政府は同年11月、最初に建設する3基の採用炉型としてWH社製のAP1000を閣議決定した。PEJ社は今年4月に提出したDIP申請書で、このような建設計画の概要を明記。最大設備容量のほかに、2026年に初号機を着工して2033年の完成を目指す等の建設スケジュールや、採用されたAP1000技術の詳細等の記載もあった。政府の戦略的エネルギー・インフラ大使を兼任するA.ルカシェフスカ-チェジャコフスカ首相府担当相は、「国内のエネルギー供給を強化しながらポーランド政府は脱炭素社会への転換を進めており、原子力開発計画はそのために同時進行している数多くのプロジェクトの一つだ」と説明。「今回のDIPの決定により、ポーランドは初の原子力発電所の実現に近づいており、将来の発電システムの基盤として適切な発電量を確保できるようになる」と強調している。ポーランドではこのほか、鉱業大手のKGHM銅採掘会社が米ニュースケール・パワー社の小型モジュール炉(SMR)を、また化学・石油合弁企業のオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社が米GE日立・ニュクリアエナジー社のSMR「BWRX-300」を国内で建設すべく、今年4月にDIPを気候環境省にそれぞれ申請した。また、同国中央部のポントヌフでは、韓国水力・原子力会社(KHNP)が韓国製「改良型加圧水型炉(APR1400)」(出力140万kW)の建設を目指しており、国有資産省(MOSA)が一部出資するエネルギー企業のZE PAK社は今年3月、PGE社と合弁の特別プロジェクト企業を設立する方向で予備的合意に達している。(参照資料:ポーランド政府、PEJ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jul 2023
2027
ハンガリー唯一の原子力発電所であるパクシュ発電所(出力約50万kWのロシア型PWR:VVER-440×4基)で、Ⅱ期工事(出力120万kWのVVER-1200×2基)の建設に向けた第一段階の作業として、7月3日からサイトの準備作業が始まった。パクシュⅡ期工事開発会社が5日付で発表したもので、同プロジェクトを担当する外務貿易省のP.シーヤールト大臣は記者会見で、「建設工事を請け負ったロシアの原子力総合企業ロスアトム社のエンジニアリング部門が、サイトの掘削前に必要となる地下水遮断壁の建設工事を開始した」と表明。国家原子力庁(HAEA)が昨年8月にⅡ期工事の建設許可を発給したことに基づいており、地盤の改良プランと掘削作業についても最終決定に向けた手続きがスケジュール通り進行中である。地下水遮断壁の建設と地盤の改良工事が完了した後は、掘削作業と建設エリアに基礎スラブを敷く作業の準備を開始、8月までに新しい2基分の掘削作業を実施するとの見通しを明らかにしている。パクシュ発電所の既存の1~4号機は旧ソ連時代に建設され、ハンガリーの総発電量の約5割を供給している。しかし、4基すべてがVVER-440の公式運転期間である30年を満了したことから、これらの運転期間を延長しながら容量の大きいⅡ期工事の5、6号機で徐々にリプレースしていく考えだ。両機の建設工事については、2014年にハンガリーとロシアが政府間協定(IGA)とEPC(設計・調達・建設)契約を含む主要な3契約を締結。総工費の約8割に相当する最大100億ユーロ(約1兆5,400億円)を、ロシア政府から低金利融資で賄う計画である。2022年2月にロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した後、ハンガリー政府は建設プロジェクトの実施を大幅に加速すると表明しており、J.シューリ無任所大臣が負っていた同プロジェクトの関係責任をすべて外務貿易省に移管した。今年4月になると、ハンガリーはロシアと2014年に結んだ資金調達関係のIGAとEPC契約が一部修正されたことを欧州委員会(EC)に伝えたものの、詳細は未公開。パクシュⅡ開発会社の今回の発表によると、ECがこの修正を承認したのに続き、ロシア政府も2~3日中にそれらの修正事項を承認する見通しである。外務貿易省のシーヤールト大臣は、「5、6号機はハンガリーのエネルギー供給を長期的に保証するものであり、今後も建設作業を制限するような制裁措置には決して同意しない」と述べ、その重要性を強調している。今回始まった地下水遮断壁の建設工事については、HAEAが昨年5月に許可を発給していた。全長2.5km、厚さ1mというこの壁は、Ⅱ期工事の2基を地下からカーテンのように囲む形で、深さ最大32mの地点に設置される。作業ピットに侵入する地下水を最小限に制御する一方、壁の外側の地下水が一定レベルから下がらぬよう維持する役割も担っている。この壁の建設作業と並行して、サイトでは補助建屋や事務棟、コンクリート・プラント、倉庫等の建設準備も進められている。(参照資料:パクシュⅡ開発会社、ロスアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jul 2023
1756
スウェーデンで小型モジュール炉(SMR)の建設を計画しているシャーンフル・ネキスト(Kärnfull Next: KNXT)社は7月4日、デンマークのクリメンタム・キャピタル(Climentum Capital)社、およびスウェーデンのグラニトル・グロウス・マネージメント(Granitor Growth Management)社から合計200万ユーロ(約3億1,000万円)の資金供与を受けたと発表した。SMRプロジェクトの開発企業であるKNXT社は2022年3月、米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と了解覚書を締結しており、スウェーデン国内で複数のGEH社製「BWRX-300」(電気出力30万kW)を早期に建設することを目指している。一方のクリメンタム・キャピタル社は、気候変動の影響を緩和する技術やサービスの提供企業向け専門の投資を行う気候テック・ファンドであり、環境上の持続可能性を備えたグリーン事業への投資基準「EUタクソノミー」においては、規定が最も厳格な「9条ファンド」((EUタクソノミーにおいて、環境面で持続可能な経済活動に対してのみ投資(サステナブル投資)を行うファンドで、同タクソノミーに適格な投資の割合の開示が義務付けられている。))に認定されている。また、グラニトル・グロウス・マネージメント社は、スウェーデン国内でより良いコミュニティの構築に貢献する技術の開発に投資している。KNXT社によると、同社のSMR建設事業に対する今回の出資は、欧州の9条ファンドが原子力発電に対して行う最初の出資例となった。2030年代初頭までにスウェーデン初の商業用SMRを稼働させ、地域経済の活性化や雇用の創出を図る方針だ。同社はまた、スウェーデン全土の有望な候補サイト数地点で、SMR建設に係わる権利を確保済みである。スウェーデンでは今後25年間に無炭素電力の発電量を現在の1,600億kWhから3,600億kWh 以上に拡大することを計画しており、エネルギー庁の最新のシナリオ分析では、経済面や環境面、供給保証面の利点を最大化するには、原子力で総発電量の35~45%を賄う必要がある。これらのことから、KNXT社は再エネ関係のプロジェクト開発企業と同様に、SMRを通じてあらゆる産業部門の脱炭素化を支援していく。同社のSMR建設計画はEUタクソノミーとスウェーデンのエネルギー需要の両方に合致しているため、送電網に電力を供給するプロジェクトのみならず、輸送部門などCO2の削減が困難な産業部門の脱炭素化も推進する予定である。今回2社から獲得した資金は、KNXT社が現在実施中の事前調査や実行可能性調査に役立てるほか、スウェーデン国内でSMR建設の新たな候補地点を特定するのに活用する。(参照資料:シャーンフル・ネキスト社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Jul 2023
1749