英原子力規制庁(ONR)は5月7日、サイズウェルC(SZC)原子力発電所建設プロジェクトに対し、サイト許可(NSL)を発給した。同NSLは2020年6月、NNB Generation社(当時)によってONRに申請されたもので、NSLが発給されるのは、2012年11月にヒンクリーポイントC(HPC)発電所プロジェクトに発給されて以来12年ぶり。EDFエナジー社のSZCプロジェクトは、イングランド東部サフォーク州にEPR-1750(172万kWe)を2基建設する計画で、SZC社がプロジェクト実施主体となっている。原子力部の着工に先立ってSZC社は、NSL以外にも関係当局からの認可が必要である。仏EDFは2016年10月、中国広核集団(CGN)とSZCプロジェクトを最終投資判断(FID)ができる段階まで開発することで合意。出資比率はEDFが80%、CGNが20%。しかし、英中関係のいわゆる「黄金時代」は終わりを告げ、英政府は安全保障上の懸念を理由に、英国のインフラに対する中国の出資を見直し、阻止した。2022年11月、英政府は6.79億ポンド(約1,313.8億円)を出資し、SZCプロジェクトでEDFと折半の50%出資パートナーになると表明。2023年夏には、プロジェクト加速のため、5.11億ポンド(約988.7億円)の追加資金を拠出した。2024年1月には、FIDが出されるまでの間、道路や鉄道など必要なインフラ工事が続けられるように、さらに13億ポンド(約2,515.5億円)の拠出を発表。なお、仏EDFはFIDにおいて、最大20%の少数株主持分のみ保持する意向を明らかにしている。英政府はSZCプロジェクトへの投資を求めており、2023年9月に英政府は民間部門からの投資募集プロセス発表。その第一段階として、潜在的投資家の事前資格審査を開始した。また、大規模インフラプロジェクトの資金調達の新たな方法として、電力消費者が建設段階で費用を負担する「規制資産ベース(RAB)モデル((個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収するスキーム。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。))」を認める法案が議会で可決された。SZCはRABモデルを通じて資金調達する初の原子力発電所建設プロジェクトとなる。SZC社の発表によると、サイトでは土木工事が進行中。投資家からの未公開株式(PE)による資金調達は順調に進んでおり、今後数か月以内にFIDを行う予定であるという。
08 May 2024
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タイの電力会社Global Power Synergy Public Company Limited(GPSC)は4月24日、デンマークのシーボーグ・テクノロジーズ社(Seaborg Technologies ApS)と協力覚書(MOU)を締結。タイにおいてシーボーグ社製コンパクト熔融塩炉(CMSR)を搭載した海上浮揚式の原子力発電所であるパワー・バージの導入可能性を調査する。GPSC社のW.ピタヤシリ社長兼CEOとシーボーグ社のK.ニェンガードCEOが、タイ・バンコクのデンマーク大使館で大使の立会いのもと、覚書に調印した。CMSRパワー・バージは、10万kWeのCMSRを2~8基を搭載したモジュール式のバージで、24年間の稼働が可能。CMSR燃料は、常時冷却が必要な固体燃料とは異なり、冷却材として機能する液体塩(熔融塩)に混ぜられており、緊急時には炉停止とともに固化する特性がある。なお、低濃縮フッ化物燃料塩はまだ商業流通しておらず、シーボーグ社は最近、初期のパワー・バージには低濃縮ウラン(LEU)を燃料にすると発表している。覚書に基づき、タイ国営石油・ガス会社PTTグループの子会社であるGPSC社とシーボーグ社は、タイにおけるネットゼロへの移行に向けて、CMSRパワー・バージの導入を評価。その評価に基づき、CMSRパワー・バージの商業展開が実現可能な初期プロジェクトについて詳細に検討する。本調査は、パワー・バージからカーボンフリー電力の送電網接続ならびに運転中に発生する蒸気の利用可能性を探ることを目的としており、調査完了には約4年を見込んでいる。プロジェクトが投資可能な状態にまで成熟すれば、両社はプロジェクト実現のために海外からの直接投資の誘致を計画する。調査の結果に基づき、20~80万kWeのCMSRパワー・バージの開発・展開など、さらなる協力について検討を行う。タイの総発電設備容量は2021年時点で5,600万kWe。2037年には少なくとも7,700万kWeに増加すると予想されている。2023年9月、シーボーグ社はCMSRパワー・バージのインドネシア導入を検討するため、インドネシアの電力会社ペルタミナNRE社と協力覚書(MOU)を締結。同7月には、ノルウェーの新興エネルギー企業ノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社とCMSRのノルウェーへの導入可能性を調査する基本合意書(LOI)に調印している。この他、シーボーグ社は韓国企業とCMSR燃料開発やパワー・バージの設計・建造分野で連携している。2024年3月には、韓電原子力燃料(KNF)社ならびにGSエンジニアリング・コンストラクション(GS E&C)社とCMSRの燃料製造開発のフィージビリティ・スタディの実施で合意。2022年4月には、韓国のサムスン重工業(SHI)と同社の造船技術とCMSRを組み合わせたターンキー契約のパワー・バージの建造・販売に関する戦略的パートナーシップ契約を締結。これには水素製造とアンモニア製造プラントの開発も含まれている。2014年に設立されたシーボーグ社は、2026年にCMSRの商業用原型炉を建設し、2028年にはパワー・バージの商業生産を開始する計画を掲げている。
07 May 2024
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米X-エナジー社は4月23日、米テネシー州オークリッジに初のTRISO燃料工場を建設するプロジェクト向けに1億4,850万ドル(約229.4億円)の連邦税額控除を獲得したことを明らかにした。同社初となる商業規模の燃料製造工場であるTX-1は、子会社であるTRISO-X社が建設・操業する。年間最大714,000個のTRISO燃料粒子を製造可能。この税額控除は、2022年成立のインフレ抑制法(IRA)によって支援されており、米エネルギー省(DOE)、財務省、および内国歳入庁(IRS)が共同管理する適格先進エネルギー・プロジェクト税額控除プログラムの一部。X-エナジー社のTX-1プロジェクトへの投資により、約400名の常勤雇用と475名の建設雇用が生み出される見込みだ。約2万m2のTX-1燃料製造工場は、かつてのオークリッジ国立研究所(ORNL)敷地の一部に建設される。TRISO-X社は2022年にオークリッジ産業開発委員会から同サイトを取得した。TRISO-X社による40年間の燃料製造許認可申請は、米原子力規制委員会(NRC)が2022年に受理しており、NRCによると審査は45%完了しているという。DOEによると、3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)は「超高温下でも溶融しない、地球上で最も堅牢な核燃料」と考えられている。TRISO-X社は、供給確保、品質向上、コスト削減に向けて独自のTRISO燃料を製造している。また、TRISO-X社は2016年からORNLでパイロット燃料製造施設を運営、同社の特許取得済みTRISO製造プロセスの実証施設である。DOEの先進的原子炉設計実証プログラム(ARDP)は、米・大手化学メーカーのダウ・ケミカル社がテキサス州シードリフト市内に所有する施設におけるX-エナジー社製小型モジュール炉(SMR)「Xe-100」の初期展開を支援している。「Xe-100」は、北米の工業用地に設置される初の送電網接続の原子炉となる見込みで、4基連結により2020年代末までに運転開始を予定している。ARDPはTX-1の開発支援も行っており、オークリッジで製造されるTRISO燃料が同プロジェクトに使用される。TX-1は2026年に操業開始予定。
07 May 2024
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英EDFエナジー社は4月18日、「ヒンクリーポイントCの社会経済影響報告書2024」を公表。英国南西部のサマセット州で建設中のヒンクリー・ポイントC(HPC)原子力発電所プロジェクトにより、周辺地域の社会経済に好影響が出ていることが明らかになった。同報告書によると、HPCプロジェクトでは、溶接、機械、電気、建設技能の訓練センター(Centers of Excellence)で7,885人が既に訓練を修了し、現在、1,307人が訓練を受けている。イングランド南西部と南ウェールズ出身が大半を占めているという。また、サービス、会計、プロジェクト管理、調査などの分野で、これまでに1,320人の人材が育成された。建設サイトでは23,500もの職が生み出され、地元の雇用成長は南西部全体の2倍となっている。また、近隣の町ブリッジウォーターでは、生産性が周辺の他の町よりも10%高くなったと言及している。HPCの建設が進むにつれ、サマセット州、その周辺地域の住民の生活やビジネス展望を向上させるグリーン投資の力が数字に現れている。HPCプロジェクトは、何千人もの能力開発を行い、より高収入の雇用を確保している。地域経済は活性化しており、低成長、低生産性、低流動性という全国的な傾向とは逆行している。現在、HPCの溶接、電気、機械作業の訓練を受けている人々の約3分の1は、国内の最貧困地域の出身者であるという。なお、訓練センターは、スキルに関するプロジェクトの主要パートナーであるブリッジウォーター&タントン・カレッジが、教育やスキル向上を目的とした2,400万ポンド(約46.7億円)の投資の一部で運営されている。同センターの存続期間中に3万人の訓練が実施される予定。サイトの近隣地域では中小企業の数が南西部のどこよりも増加しており、これまでに53億ポンド(約1.03兆円)が地域全体の経済に直接支出されている。HPCプロジェクトは、「より長期的な成長のための触媒であり、サマセットの経済に競争力を与え、より成熟した生産性の高い労働力を生み出すだろう」と報告書は結論付けている。HPC社のS.クルックスCEOは、報告書の序文で、「HPCによるネットゼロ・エネルギーへの投資は、地域に対する100年にわたるコミットメントである。何千人もの能力開発と生活向上に役立ち、社会的好影響はこの先も長く続く」と強調した。HPC発電所はEPR(PWR、172万kWe)×2基構成、2018年12月に着工し、1基目は当初2025年末までに運転の開始予定だったが、2022年2月に運開時期を2027年6月に修正、2023年1月には1号機が2030年頃の運開と修正し、建設予想コストを260億ポンド(約5兆円)から310億〜340億(約6兆~6.6兆円)ポンドに上方修正した。運転期間は最短でも60年を想定している。
02 May 2024
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ウクライナの原子力発電会社「エネルゴアトム」社と米ホルテック・インターナショナル社は4月12日、ウクライナへの小型モジュール炉(SMR)導入などに関する基本協定(Master Agreement)に調印した。同協定には、SMRのコンポーネント製造分野でのウクライナへの技術移転条項や、同国での使用済み燃料乾式貯蔵・輸送システム製造施設建設なども盛り込まれている。協定は、エネルゴアトム社のP.コティンCEO代行とホルテック社のC.シン社長兼CEOによって、ウクライナのG.ガルシェンコ・エネルギー大臣と駐ウクライナ米大使館エネルギーアタッシェのS.アンダーソン氏の立会いのもと、オンラインで調印された。協定は、ウクライナにおけるホルテック社製SMR-300(PWR、30万kWe)の導入を推進するとともに、原子力発電所が支障なく運転できるよう、ホルテック社との契約(2005年)によりチョルノービリ立入禁止区域に建設された集中使用済み燃料貯蔵施設(CSFSF)の操業支援を目的としている。今後、協定に従い、作業部会を設置、包括的な実施計画に基づき、技術面などで必要な作業を進める。ガルシェンコ・エネルギー大臣は、「原子力分野の国内製造能力を確立し、ウクライナのエネルギー安全保障に貢献するだけでなく、ウクライナが原子力分野におけるグローバルリーダーとなり近隣諸国のニーズに応えていきたい。基本協定の締結により、ウクライナはSMRの製造、輸出、人材育成のほか、使用済み燃料管理技術の地域ハブとなり、経済発展と雇用創出、脱炭素化とグリーンエネルギーの促進を目指す」と抱負を語る。エネルゴアトム社のコティンCEO代行は、「戦禍の中、国の防衛と経済を含むあらゆる場面でウクライナの主権を確保するには、我々の原子力発電所の安全かつ信頼性のある運転継続が不可欠である。エネルゴアトムは、エネルギーの独立と安定したエネルギー供給に向けて、先進技術を用いたクリーンエネルギー分野でリーダーシップを発揮することを目指している。ロシアの攻撃を受けて殆どの化石燃料の発電所が損傷し、原子力部門は国の電力需要の75%以上をまかなわなければならずこれまで以上に先進技術が必要になる。先進技術と最先端の製造施設は戦後の経済復興にとって極めて重要である」として戦後を見据えた基本協定の締結の意義を強調した。2023年4月、エネルゴアトム社とホルテック社は、最大20基のSMRをウクライナへ導入するとした協力協定を締結した。ホルテック社によると2011年から開発中のSMRは設計上の進化を遂げ、最新のものがSMR-300となる。SMR-300はプロセス熱用途をもち、SMR-160同様に事故時に運転員が現場を離れても安全性が保たれる特性(walk-away safe)を維持している。なお、両社は2023年11月、米国で製造する使用済み燃料貯蔵キャスクの製造施設をウクライナに建設する計画を発表していた。
02 May 2024
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イタリアのG.ピケット=フラティン環境・エネルギー安全保障大臣は4月28日、原子力、特に小型モジュール炉(SMR)の新たな役割について、「建設的かつ科学的な議論」が行われるよう求め、同国における原子力再導入の将来的な可能性に言及した。フラティン大臣は、イタリア・トリノで開催されたG7気候・エネルギー・環境閣僚会合で議長を務めており、今回の発言は同会合に先立って開催された米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのイベント「エネルギー移行における原子力の役割」における基調講演でのこと。フラティン大臣は基調講演の中で、イタリアは現在、エネルギーの1/3を再生可能エネルギーで、2/3を化石燃料でまかなっており、2030年までにこの比率を逆転させることを目指しているが、2050年のCO2排出実質ゼロの目標達成には、短・中期的には原子力の利用を検討しなければならないと発言。大臣は、特に小型モジュール炉(SMR)に注目していると述べた。また、COP28で原子力発電設備容量を3倍にするという目標が掲げられたことにも触れた。フラティン大臣は、原子力発電は環境面での利点に加え、イタリアにとって(ロシア問題など)地政学的影響を排除するのに役立つと指摘。また、イタリアが欧州SMR産業アライアンスに参加していることにも言及。イタリアが原子力発電について「イデオロギー的な議論ではなく、建設的かつ科学的な議論」を行うことを期待すると強調した。イタリアでは1960年初頭から4サイトで合計4基の原子力発電所が稼働していたが、チョルノービリ原子力発電所事故後の1987年、国民投票によって既存の全発電所の閉鎖と新規建設の凍結を決定。最後に稼働していたカオルソ(BWR、88.2万kWe)とトリノ・ベルチェレッセ(PWR、27万kWe)の両発電所は1990年に閉鎖し、脱原子力を完了した。2009年になるとEU内で3番目に高い電気料金や世界最大規模の化石燃料輸入率に対処するため、原子力復活法案が議会で可決している。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、同じ年の世論調査では国民の9割以上が脱原子力を支持。当時のS.ベルルスコーニ首相は、政権期間内に原子力復活への道を拓くという公約の実行を断念した。しかし、近年は世界的なエネルギー危機にともない、イタリアのエネルギー情勢も変化。2021年6月に実施された世論調査では、イタリア人の1/3が国内での原子力利用の再考に賛成しており、回答者の半数以上が新しい先進的な原子炉の将来的な利用を排除しないと述べるなど、情勢は変化している。2023年5月、議会下院は、国のエネルギーミックスに原子力を組み込むことを検討するよう政府に促す動議を可決。9月には、環境・エネルギー安全保障省が主催する「持続可能な原子力発電に向けた国家政策(PNNS)会議」の第一回会合が開催され、近い将来にイタリアで原子力発電を復活させる可能性が議論されている。原子力の位置付けの見直しとともに、具体的な原子力利用再開に向けた動きもみられる。イタリアの電力会社で、フランス電力(EDF)のイタリア子会社でもあるエジソン社は2023年10月、イタリアの原子力復活に向けた条件が整えば、出力34万kWeのSMRを国内で2基、2030~2040年頃をメドに建設する意欲を表明した。親会社のEDFは仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して、欧州主導のSMR「NUWARD」(出力17万kWeの小型PWR×2基)を開発中。エジソン社は「2040年までに自社電源の9割を脱炭素化する」ことを目指している。また、今年3月にはイタリアの大手電力会社エネル社と原子力機器製造・設計建設会社のアンサルド・ヌクレアーレ(Ansaldo Nucleare)社が、SMRや先進型モジュール炉(AMR)などの技術開発、ビジネスモデル、産業への応用について共同調査・評価の実施で合意している。
01 May 2024
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中国の広東省で4月26日、国家電力投資集団(SPIC)の廉江原子力発電所2号機(PWR=CAP1000、125万kWe)が着工した。SPICは中国核工業集団(CNNC)と中国広核集団(CGN)と並び、原子力発電プロジェクトへの投資、建設、運転を行う3大原子力発電所投資集団のひとつ。同機が採用するCAP1000は米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000の中国版標準炉型で、同発電所サイトに合計6基が建設される予定。中国の原子力発電所で初めて大型冷却塔と海水による二次循環冷却技術を採用している。モジュール工法を採用し、大型構造モジュールを工場で建設、現地サイトに運搬・設置する。廉江1~2号機の建設は、2022年9月に中国国務院によって承認された。1号機は2023年9月に着工し、2028年に運転開始予定である。両機が運転開始をすると年間の発電量は約200億kWhとなる見込み。全6基が完成すれば、石炭消費量を2,000万トン以上、CO2排出量を5,200万トン以上の削減に貢献するという。
01 May 2024
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4月28日から30日にかけて、イタリアのトリノでG7気候・エネルギー・環境閣僚会合が開催されているが、28日、同会合に先駆けて行われたイベントにて世界の原子力産業界が共同声明を発表。G7(=先進7か国)各国政府に対し、運転期間延長に最適な条件整備、多国間金融機関への働きかけ、サプライチェーンの発展や原子力研究への投資、原子燃料供給能力などについて果断な行動を取るよう要請した。共同声明は、イタリア原子力協会(AIN)、カナダ原子力協会(CNA)、フランス原子力産業グループ(Gifen)、日本原子力産業協会(JAIF)、米原子力エネルギー協会(NEI)、英原子力産業協会(NIA)、欧州原子力産業協会(nucleareurope)および世界原子力協会(WNA)の各代表によって署名され、イタリアのG.ピケット=フラティン環境・エネルギー安全保障大臣に手交された。フラティン大臣は気候・エネルギー・環境に関するG7閣僚会合の議長を務めている。署名各団体は、「常に安全かつ安心な原子力施設の運営に努め、手頃な価格でクリーンな低炭素電力と熱を供給し、再生可能エネルギーを補完して電力生成におけるネットゼロを達成し、重工業などの脱炭素化が難しい部門の脱炭素化を実現し、経済成長を促進する高品質で長期的な雇用を生み出すことを約束する」としている。また、共同声明は、UAEのドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)のグローバル・ストックテイクで、気候変動緩和を支える原子力の役割が全会一致で合意され、COP28期間中に25か国が2050年までに世界全体で原子力発電設備容量を3倍にするという野心的な目標を設定したことに言及。今年3月にベルギーのブリュッセルで開催された原子力エネルギー・サミットではG7の6か国を含む30か国以上が温室効果ガスの排出を削減し、エネルギー安全保障と産業競争力を確保するために、原子力に重要な役割があることを改めて強調したと指摘している。その上で、G7各国政府に対し、COP28で設定された目標を達成するための原子力導入に関する明確な計画を策定するとともに、原子力に対するコミットメントを示し、市場や投資家に明瞭なシグナルを示すよう求めている。各国政府は、既存原子力発電所の最大限活用に加え、新規建設や、新たな原子力技術の開発・実証を加速することで、発電におけるネットゼロを達成するとともに、エネルギー分野以外の産業分野における脱炭素化を支援すべきとして、運転期間延長に最適な条件整備、原子力プロジェクトの資金調達と投資回収のメカニズムに関する投資家への情報提供、多国間金融機関への働きかけ、サプライチェーンの発展や原子力研究、原子燃料供給能力などについて、果断な行動を取るよう求めている。「原子力は世界にとって計り知れない可能性を秘めており、G7は将来にわたって戦略的優先事項として原子力活用を推進するべきである」と声明は結んでいる。
30 Apr 2024
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米国のA.W.ボーグル原子力発電所4号機(PWR、125万kWe)が4月29日、営業運転を開始した。同機は2月14日に初臨界を達成、3月1日に送電を開始していた。ボーグル発電所は、3-4号機に米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000×2基を採用。両機は米国で30年以上ぶりの新設プラントであり、3号機は2023年7月に営業運転を開始した。4基すべてが稼働しているボーグル発電所は、合計出力495.8万kWeで全米最大のクリーンエネルギーの発電所となり、年間300億kWh以上の発電を見込んでいる。ボーグル3、4号機はジョージア州内の4社が共同所有しており、サザン・カンパニーの子会社であるジョージア・パワー社が同プロジェクトに45.7%出資、オーグルソープ電力とジョージア電力公社(MEAG)、およびダルトン市営電力がそれぞれ30%、22.7%、1.6%出資し、サザン・カンパニーの子会社のサザン・ニュークリア社が運転する。
30 Apr 2024
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ロシアのシベリア化学コンビナート(SCC)は4月12日、連邦環境・技術・原子力監督庁(ロステフナゾル)から、鉛冷却高速実証炉「BREST-OD-300」用の燃料加工/再加工モジュールの試験操業の認可を取得した。これにより、すべての燃料製造ラインで劣化ウランを使用した試験が可能になる。SCCは、シベリア西部のトムスク州セベルスク市に所在する核燃料製造企業トヴェル社傘下企業で、同サイトでは第4世代のBREST-OD-300(FBR、30万kWe)が建設中である。冷却材に鉛を使用、ウラン・プルトニウム混合窒化物(MNUP)燃料を使用する。燃料加工/再加工モジュールでMNUP燃料を製造し、併設される再処理モジュールでBREST-OD-300の使用済み燃料を再処理、回収したウランとプルトニウムを新燃料に再加工する。これらを「パイロット実証エネルギー複合施設(PDEC)」と総称し、国営企業ロスアトムが進めている戦略的プロジェクト「ブレークスルー(Proryv)」の主要施設と位置付けられている。PDECでは単一のサイトで燃料製造とリサイクルが可能になる。BREST-OD-300用の高密度MNUP燃料は、ウラン濃縮の副産物である劣化ウランと使用済み燃料から抽出されたプルトニウムの2つの主要成分から構成される。劣化ウランは、核分裂性ウラン235の含有量が約0.1%でほとんどが安定したウラン238(天然ウラン組成の99%以上)から構成されるため、原子力・放射線安全上のリスクはない。BREST-OD-300は、主要なエネルギー成分であるプルトニウム239をウラン238から再生するため、天然ウランの利用効率を大幅に向上させる。今後、燃料加工/再加工モジュールでプルトニウムを取扱う認可をロステフナゾルから取得する予定だ。再処理モジュールでMNUP燃料のリサイクルを繰り返すことで、ウラン濃縮工程で生じた劣化ウランの蓄積分を利用し、放射性廃棄物の発生を削減することが可能。濃縮工場に貯蔵されている劣化ウランを除けば、外部からのエネルギー供給に依存しない、ほぼ自律的な閉じた燃料サイクルが完成することになる。二酸化ウランベースの従来の原子燃料とは異なり、MNUP燃料は標準的技術と設備では製造できない。非標準的な燃料組成に加え、使用済み燃料から抽出したプルトニウムからの作業員への高い線量負荷を防ぐため、燃料製造工程は可能な限り自動化される。MNUPの製造にはウランとプルトニウムの混合窒化物の炭素熱合成ライン、燃料ペレットの製造ライン、燃料棒の組立ライン、燃料集合体の製造ラインの4つのラインがある。燃料加工/再加工モジュールはほぼ完成しており、現在、製造ラインの機器の試験が行われている。3月末には炭素熱合成ラインの試運転が開始された。4月18日、BREST-OD-300の建設現場で原子炉格納容器の中間層が原子炉シャフトに据付けられ、構造物据付けの第2段階が完了した。重量は吊り具を含めて184トン。原子炉格納容器は3つのブロックで構成され、格納容器の総重量は429トン、うち312トンがすでに据付けられた。最初の据付けは2023年12月から2024年1月にかけて実施され、最終据付けは今年12月に実施予定。高さは最終的に17メートルになり、空洞には特殊な耐熱コンクリートを充填、格納容器の鉄筋コンクリートフレームに対し強度を与える。BREST-OD-300は2027年に送電開始、燃料加工/再加工モジュールは今年末までにすべての作業を完了して操業開始、再処理モジュールは2025年から2026年にかけて着工され、2030年に操業を開始する予定だ。
26 Apr 2024
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米ウェスチングハウス(WE)社は4月9日、ポーランドにおけるWE社製AP1000×6基の建設プロジェクトが、ポーランドにGDPで1,183億ズロチ(約4.55兆円)以上の貢献をし、運転フェーズに入ると年間380億ズロチ(約1.46兆円)のGDPを生み出すとする調査結果を明らかにした。この調査結果は、コンサルティングファームである英プライスウォーターハウスクーパース(PwC)社が、WE社とその所有者であるブルックフィールド社とカメコ社向けに作成した「ポーランドにおけるAP1000プロジェクトの経済的影響」と題する報告書によるもの。この調査結果では、AP1000×6基の20年間(2022~2041年)にわたる製造・エンジニアリング・建設段階で、ポーランドのGDPに1,183億ズロチ(約4.55兆円)以上の増加を与え、204,990人・年以上の雇用を生み出すと予測している。税収は509億ズロチ(約1.96兆円)増となる。発電所の運転の段階では、年間で少なくとも380億ズロチ(約1.46兆円)のGDPを創出し、16,310人の雇用を支え、税収は164億ズロチ(約6,310億円)増となる。なお、運転期間は少なくとも60年間としている。ポーランドのサプライチェーンが海外市場においてAP1000導入を支援した場合、1基あたり19億ズロチ(約731億円)のGDPを追加的にもたらすという。欧州でマイクロ炉のeVinciや小型モジュール炉(SMR)のAP300が導入されれば、サプライチェーンが活躍する機会はさらに増えると予想される。また、AP1000×6基の導入により、ポーランドの電力部門のCO2排出量は39%削減され、1,300万もの世帯にカーボンフリーの電力を供給する。また、トレーニングにより高スキルの労働力と地域の高等教育機関との連携を生み出し、運転が開始されれば、地域で2,400人以上のトレーニングを実施する。またWE社は同時に、ルビアトボ-コパリノ・サイトやその他の欧州のプロジェクト支援のために選定したポーランドのサプライヤー7社:Polimex Mostastal Siedlce、Baltic Operator (Grupa Przemyslowa Baltic)、Mostastal Kielce、Mostastal Krakow、ZKS Ferrum、Famak、Energomontaz-Polnoc Gdyniaを発表した。WE社傘下のWEエナジー・システムズ社のD.ダーハム社長は、「ポーランドでのAP1000導入は、エネルギー安全保障における米国とポーランドの100年間のパートナーシップを意味する。この調査は、ポーランドと経験豊富なサプライチェーンに対してAP1000がもたらす長期的かつ重要な経済的、人的資本、気候変動対策へのメリットをさらに強調する。サプライヤー7社の協力は、明確なビジョンを持ってプロジェクトを推進する上で極めて重要である」と指摘した。ポーランド政府は2020年10月に第3世代あるいは第3世代+(プラス)のPWR×6基、総出力600万~900万kWの原子力発電導入を定めた原子力開発計画(PPEJ)を閣議決定、2022年11月、同国初の原子力発電所の採用炉型としてAP1000を選定、最初の3基の建設を発表した。同国北部ポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ–コパリノ・サイトに建設する計画だ。国営の特別目的会社(SPV)でポーランド初の原子力発電所の建設および運転を担当するPEJ社は、2023年5月にWE社、米ベクテル社の企業連合と3社間協力の主要原則で合意、9月には、エンジニアリング・サービス契約を締結した。ポーランドの気候環境省は同年7月、PEJ社に対し、AP1000建設計画に原則決定(DIP)を発給している。PEJ社は気候環境省に提出した地質調査計画の承認を受け、4月16日、ルビアトボ-コパリノ・サイトにおいて詳細な地質調査を5月に開始することを明らかにした。地質調査はベクテル社が実施し、面積約30 haのサイトに深さ約20~210m、約220か所の調査ポイントを設置する。地質調査結果はサイトの地質学的、工学的、水文地質学的な状況をより詳細にし、国家原子力機関(PAA)が発給する建設許可の取得に必要な、サイト評価報告書に反映される。調査の第一段階は年内に完了予定であり、調査結果は現在進行中の発電所の設計/エンジニアリング作業にも利用される。PEJ社は2033年に初号機の営業運転開始を目指している。
24 Apr 2024
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G7(=先進7か国)外相会合が4月17日~19日の3日間、イタリアのカプリ島で開催された。中東やウクライナ、インド太平洋といった地域情勢や国際社会の喫緊の諸課題について討議し、最終日の19日、「グローバルな課題への対処及びパートナーシップの促進」に関するG7外相コミュニケが発出された。同コミュニケによると、G7外相会合では30もの多岐にわたるテーマで討議。うち、原子力をめぐる課題は、軍縮、核不拡散、北朝鮮問題のほか、気候変動、エネルギーセキュリティー、環境のテーマの中で討議されている。気候変動、エネルギーセキュリティー、環境のテーマでは、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5°Cに抑制し、2050年までに世界の温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという目標達成のため、国際社会が団結して、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行を公正、秩序ある、持続可能な方法で実施し、低排出技術やゼロ排出技術の加速化に貢献する必要性を訴えた。なお、エネルギー安全保障上の潜在的なリスクに対処するため、エネルギー源やエネルギー供給を多様化する政策を確保しつつ、クリーンで、安全、持続可能かつ手頃な価格のエネルギーの開発と普及を迅速に進める必要があるとしている。そのためG7諸国が達成に向けて具体的にコミットする戦略的分野として、バイオエネルギーなどの再生可能エネルギー、原子力エネルギー(先進的ならびに小型モジュール炉を含む)、エネルギー効率、メタン排出削減、産業の脱炭素化、水素エネルギー、炭素管理技術を掲げ、それらの重要な役割を認識すると表明している。軍縮、核不拡散のテーマでは、原子力安全、セキュリティ及び不拡散に関する最高水準の遵守を表明するとともに、国際原子力機関(IAEA)による国際的な不拡散体制の維持、原子力安全、セキュリティ及び保障措置の強化と、原子力技術の平和的利用の促進という、極めて重要な役割を強調した。また、ロシアのウクライナ侵略をうけて、ロシアからの民生用原子力及び関連製品への依存を更に低減するための措置を評価し、供給を多様化しようとする国々を支援するとのG7首脳のコミットメントにも言及。さらに、福島第一原子力発電所のALPS処理水に関し、「日本は海洋放出を責任をもって管理しており、科学者、パートナー及びIAEAと積極的に調整しながら、安全で透明性のある科学に基づくプロセスを実施していることを支持する」と表明した。G7外相会合では、ウクライナ情勢をめぐる討議も行われた。上川外務大臣は、「『きょうのウクライナはあすの東アジアかもしれない』という問題意識で取り組んでおり、ウクライナとともにあるという日本の立場は揺るがない」と述べ、ロシアに対する厳しい制裁とウクライナへの支援を継続していく方針を強調。最終日には、「ウクライナへの確固たる支援」に関するG7外相コミュニケが発出された。同コミュニケでは、より広範な国際社会への影響を伴う原子力安全、セキュリティに深刻なリスクをもたらすロシアによるウクライナのザポリージャ原子力発電所の占拠、継続的支配及び軍事化を非難、IAEA専門家の継続的な駐在と現場における原子力安全、セキュリティの確保など、IAEAのリスク軽減に向けた取り組みを支持する文言が盛り込まれた。
23 Apr 2024
1400
英国で2021年に設立された先進炉の開発企業であるニュークレオ社は4月9日、仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)とニュークレオ社の鉛冷却高速炉(LFR)開発に関する提携契約を締結。両者はフランスにおける鉛冷却高速炉の開発シナリオ、燃料の適格性評価、計算コード、材料などの分野で協力する。ニュークレオ社は、フランスで第4世代小型モジュール炉(SMR)を開発・建設・運転した後、欧州内外で展開させたい考えだ。同社は今年1月、第4世代高速中性子炉をめぐる産官学のあらゆるプレーヤーの支援を目的とし、フランスの超小型炉開発企業ナアレア(Naarea)社との戦略的・産業的提携を発表。両社は、他の企業にも提携・協力の門戸を開くとともに、燃料サイクルの完結に向けて注力していくとしている。ニュークレオ社は、フランスの経済復興計画(Plan France Relance)の一環として仏・公共投資銀行(Bpifrance)が実施し、欧州連合(EU)が融資する「フランス2030」投資計画下の「革新的原子炉」プロジェクト公募で採用され、補助金を獲得した。ナアレア社の熔融塩高速中性子マイクロ炉も同公募で採用されている。ニュークレオ社は、フランスにおいて電気出力3万kWの鉛冷却高速中性子実証炉(LFR-30)とウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料製造工場の建設を目指している。2022年6月、ニュークレオ社は仏オラノ社とMOX燃料製造工場の設置に関する事業化調査の契約を発表した。これら2つのプロジェクト総投資額は30億ユーロ(約4,950億円)となる。またニュークレオ社は、英国で2033年までに電気出力20万kWの初の商業炉(LFR-AS-200)を建設する計画だ。
22 Apr 2024
1593
米国政府の会計検査院(GAO)は4月2日、原子力発電所の気候変動へのレジリエンス(回復力)を検証した評価報告書「Nuclear power plants: NRC should take actions to fully consider the potential effects of climate change」を公表した。今後、気候変動による暑さや干ばつ、山火事、洪水、ハリケーン、海面上昇、極寒などの自然災害が悪化し、原子力発電所に対するリスクが高まると予想されるなか、原子力発電所の許認可手続きで気候変動の潜在的影響を十分に考慮するよう、原子力規制委員会(NRC)に対して勧告している。GAOは連邦議会の要請に基づいて、政府機関の財務検査や政策プログラムの評価を通じて予算の執行状況を監査する機関である。今回は、エネルギー・インフラの気候変動へのレジリエンスを検討するよう要請され、気候変動による原子力発電所への影響やそれらリスクに対処するためのNRCの行動について検証した。今回の報告書でGAOは、許認可および監督プロセスにおける自然災害のリスクなど、NRCは発電所の安全性に対するリスクに対処していると指摘。特に、2011年の福島第一原子力発電所事故を引き起こした津波被害以降、原子炉設計における安全裕度の要件や設計の想定を超える自然災害が発生した場合の放射性物質の放出防止対策、安全機能に関連するバックアップ機器のメンテナンスなど、NRCは追加対策を講じてきた、とした。その一方で、GAOは、昨今の深刻化する自然災害が、原子力発電所の外部電源の喪失、システムや機器の損傷、冷却能力の低下などを招き、出力の低下やプラントの停止に至る可能性に言及。さらに、米国の商業用原子力発電所の多くが1960年代~70年代に建設され、気象パターンや気候関連リスクは、建設以降変化しているとの現状認識を示したうえで、NRCが自然災害のリスクを検討するのに際し、潜在的な気候変動の影響を十分に考慮していないと明言した。具体的には、NRCが安全リスクの特定や評価の際に気候予測データを使用せず、過去のデータを主に使用している点や現在のプロセスが気候変動リスクに対処するうえで十分な安全裕度を提供していると考えられてはいるものの、NRCがこれについて立証していない点を挙げた。これらをふまえ、GAOはNRCに対して、以下の3点を勧告している。許認可および監督プロセスが、気候変動による原子力発電所へのリスク増大の可能性に適切に対処しているかどうかを評価すること。既存のプロセスの評価で特定されたギャップに対処するための計画を策定し、最終決定し、実施すること。気候予測データをどのような情報源から入手するか、いつ、どのようにこれらデータを利用するかなど、気候予測データを関連プロセスに組み込むためのガイダンスを策定し、最終化すること。NRCはこれら勧告について、いずれもNRCが現在対応している措置と一致しているとコメント。さらにNRCは、NRCのプロセスに組み込まれた保守性と深層防護の考え方は、気候変動に起因するものを含め、認可された運転期間中、サイトで起こり得るあらゆる自然災害などに関して合理的な保証を提供していると反論した。しかし、GAOは、「許認可および監督プロセスにおいて、気候予測データを含む入手可能な最善の情報を使用しないまま、NRCが発電所への気候変動の潜在的影響を十分に考慮することはできないと引き続き考えている」との見解を示している。
19 Apr 2024
1405
米国で先進炉開発を進めているオクロ社は4月8日、米国独立系石油ガス開発会社のダイヤモンドバック・エナジー社と長期の電力購入契約(PPA)に関する基本合意書(LOI)を締結した。また、データセンターサービス業の米エクイニクス社とも米国内のデータセンターへの電力供給取引でLOIを締結した。テキサス州を拠点とするダイヤモンドバック社と締結した拘束力のないLOIでは、同社のテキサス州とニューメキシコ州にまたがるパーミアン盆地における石油ガス開発事業に、信頼性の高い、ゼロエミッション電力を供給するため、オクロ社製のマイクロ炉「オーロラ(Aurora)」を利用し、20年間のPPAを締結する意向などが盛り込まれている。契約条件によると、オクロ社はテキサス州ミッドランド近郊にある、ダイヤモンドバック社の完全子会社であるダイヤモンドバックE&P社に対し、電気出力5万kWの発電所の許認可手続き・建設・運転を行う予定だ。同LOIでは、電力購入契約の20年間の更新オプションが記載されている。「オーロラ」の設計では40年間運転可能であり、オクロ社の建設・所有・運転のビジネスモデルにより、ダイヤモンドバック社のような将来性のある顧客が、複雑な所有権の問題や資本要件なしに電力購入が可能になるという。「低コスト、高信頼性、ゼロエミッションのエネルギー源の開発と供給により、当社はダイヤモンドバック社のような事業者の増大するエネルギー需要に応えていく」と同社のJ.デウィットCEOは語る。また、オクロ社は、2023年7月に発表された株式公開計画の一環として、アルトC・アクイジション(AltC Acquisition Corp)社との合併を進めているが、アルトC社が4月2日に米証券取引委員会に提出した書類によると、オクロ社は2月16日、米エクイニクス社と最大電気出力50万kWの電力供給のPPAに関するLOIを締結した。このLOIによると、エクイニクス社は自社のデータセンターに供給する電力をオクロ社の計画する発電所から20年間購入し、さらに20年間の契約延長も可能。エクイニクス社はエクイティファイナンスを通じて、オクロ社に2,500万ドル(約38.6億円)の前払いをしている。エクイニクス社は、オクロ社が開発する電気出力10万kW以上、総出力50万kW以下の特定の発電所から、36か月間、発電電力の優先先買権を持つ。2013年に設立されたオクロ社は、液体金属冷却高速炉技術を「オーロラ」で商業化する計画だ。この高速中性子炉は、ヒートパイプを使って炉心から超臨界二酸化炭素発電システムに熱を運び発電する。同社は、アイダホ国立研究所(INL)敷地内に建設する原型炉について米エネルギー省(DOE)からサイト使用許可を得ている。2023年8月、米空軍省は国防兵站局エネルギー部門と共同で、アラスカ州のアイルソン空軍基地で電気と蒸気を供給するマイクロ炉の立地・設計・建設・所有・運転にオクロ社を選定したが、米司法省によるさらなる適正評価と業者選定プロセスの審査が完了するまで、落札者決定通知書を取り消した。今年1月に発表されたプロジェクトの最新情報によると、空軍省は依然として2027年末までの運転開始を目指しているという。
18 Apr 2024
3382
ノルウェーの新興エネルギー企業ノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社は4月4日、最大5基の小型モジュール炉(SMR)で構成される原子力発電所の建設サイト候補地として、ノルウェー西岸ヴェストラン県ベルゲン市の西にあるエイガーデン(Øygarden)自治体サイトの影響評価作業を開始することを明らかにした。ノルスク社は今後、自治体、住民、産業界との協議の基礎となる、SMR発電所建設の評価に関する提案書をエネルギー省に提出し、同省が承認すればコメントとともに影響評価の準備に反映する。ノルスク社はこれまで、エイガーデン自治体当局や政治家との会合に出席したほか、公開会合を数回開催してきた。対象となるサイトはコルスネス工業地帯に隣接し、エイガーデンの前首長が所有する、250エーカー(約1km2)。ノルスク社は、SMR発電所の建設サイトとして同サイトを取得することを明記した意向書を前首長と交わした。ノルスク社によると、同サイトに電気出力30万kWのSMRを5基建設すると、年間125億kWhの発電が可能で、これはノルウェーの現在の総電力消費量の約10%に相当する。ノルスク社のJ.ヘストハンマルCEOはこの合意を受け、「調査に前向きな自治体は非常に多く、将来的に原子力発電所の建設可否の判断材料となる具体的な情報を得られる」と語る。ノルスク社は2023年、ノルウェー海に面したアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体、北極圏のナルヴィク(Narvik)自治体およびバレンツ海に面したヴァードー(Vardø)自治体からSMR立地可能性調査の実施要請を受け、各自治体と調査プログラムの実施協定を締結している。自治体での原子力発電導入の可能性に関連して、同社は同年6月、フィンランドのティオリスーデン・ボイマ(TVO)社のコンサルティング子会社であるTVOニュークリア・サービス(TVONS)社と、ノルウェーにおけるSMR導入に向けた共同調査の実施に係る基本合意書を締結した。11月には、アウレとハイムの両自治体におけるSMR発電所建設の評価に関する提案書を石油・エネルギー省に提出し、ヴァードー自治体についても同様の提案書を作成中である。また同月、エストフォル・エネルギー(Østfold Energi)社ならびにハルデン市と、かつて研究炉が運転されていたハルデン市におけるSMR発電所建設の調査に向け、共同で新会社のハルデン・シャーナクラフト(Halden Kjernekraft)社を設立した。ノルスク社は、電力集約型産業と共同でノルウェーにSMR発電所を建設、所有、運転することを目指し、国内規制と国際基準(IAEAのマイルストーン・アプローチ)に従って許認可申請を準備するとしている。なお、ハイム自治体は4月12日、SMR発電所建設区域の設定に向けた規制作業を開始し、同区域の既存の計画を中止すると発表した。同自治体とアウレ自治体との境界に位置する共同工業地帯には温室効果ガス排出の大幅な削減と大量の電力を必要とする電力集約型産業が立地しており、SMRの必要性が高まっている。ノルスク社のヘストハンマルCEOは、「ハイムとアウレの両自治体は、産業と住民に十分な信頼性の高い電力を供給することに前向きに取り組んでいる。当社は、両自治体とともにSMR発電所建設に関する提案書を石油・エネルギー省に提出した」と指摘した。
17 Apr 2024
1522
海事産業の脱炭素化達成のため、洋上原子力発電の導入に関心を持つ企業・団体から構成される会員組織「原子力エネルギー海事機構(Nuclear Energy Maritime Organisation、NEMO)」が4月2日、正式に発足した。設立会員として海事産業や原子力関連企業・団体11社が参加している。英国ロンドンに本部を置くNEMOは、会員のネットワーク構築、規制当局間の機能的な連携促進によって、洋上原子力発電の開発を推進し、ベストプラクティスの交換を目的とするプラットフォームである。また、国内外の規制当局による、浮体式原子力発電の設置・運転・解体に係る最高水準の安全性、セキュリティ、および環境に配慮した基準・規則の作成を支援することを使命とする。原子力産業と海事産業双方の既存の規制間のギャップを埋める手助けに焦点をあて、国際原子力機関(IAEA)と国際海事機関(IMO)に代表される原子力・海事規制当局に専門的な指針を提供し、世界的な基準・規制の確立ならびに洋上における原子力発電の商業化促進を目指すとしている。会員や広く一般向けに定期的なイベント、ワークショップ、ウェビナーを開催、出版物を提供し、他の業界団体、政府機関、学術機関、市民団体とも協力して浮体式原子力発電を推進する計画だ。NEMOの初代会長は元IAEA安全評価部門長、英ロイド船級協会(LR)グローバル原子力担当ディレクターのM.シャナワニー氏が務める。NEMO設立会員の11企業・団体は、韓国のHD現代グループの韓国造船海洋エンジニアリング(KSOE)社とJEIL Partners社、英国のロイド船級協会(LR)とコア・パワー社、米国のBWXTアドバンスト・テクノロジーズ社、テラパワー社、およびウェスチングハウス(WE)社、日本の尾道造船、ノルウェーのヴァルド・グループ、フランスのビューローベリタス社、イタリアのRINA社。NEMOには浮体式原子力発電と密接な関係を持ち、持続可能性、革新性、卓越性にコミットする、加盟基準を満たす企業・団体が参加可能。
16 Apr 2024
3539
米エネルギー省(DOE)は4月1日、閉鎖済み、または閉鎖する石炭火力発電所の原子力発電所への代替を検討するコミュニティ向けにガイドラインを発表した。ガイドライン(Coal to Nuclear Transitions: An information guide)は、石炭火力発電所から原子力発電所への移行が、地元での雇用機会、高賃金の雇用創出、立地地域・発電事業者・地元サプライヤーの収入増など立地地域に利益をもたらすことを示した。これはDOE傘下の(アルゴンヌ、アイダホ、オークリッジ)の3つの国立研究所による詳細な共同研究に基づく。また、トレーニング・プログラムにより、既存の石炭火力発電所のほとんどのスタッフが代替する原子力発電所へ移行可能であることが研究で明らかになっている。2035年までに国内の石炭火力発電所の30%近くの閉鎖が予想されており、発電所が立地する地域社会にとって経済的な不確実性を意味する、とガイドラインは指摘する一方、先進的小型モジュール炉(SMR)は石炭火力発電所の代替に最適であるとしている。ガイドラインは、コミュニティに対して石炭から原子力への移行(coal-to-nuclear=C2N)に伴う経済的影響、労働力の移行に関する考慮事項、政策と資金に関する情報を提供するほか、電力会社向けに移行スケジュールやインフラの再利用などの考慮事項についても示している。「CO2排出実質ゼロ(ネットゼロ)経済への移行に取組む中、何十年にもわたって米国のエネルギーシステムを支えてきたエネルギーコミュニティと石炭労働者へのサポートは絶対不可欠である」とDOEのK.ハフ原子力担当次官補は語る。DOEの2022年の調査報告書では、C2Nの潜在的な候補地として、閉鎖157か所と運転中237か所の石炭火力発電所を特定し、候補地の80%が先進原子炉の立地に適していると報告。C2Nでは、用地や電気機器設備、道路や建物など石炭火力のインフラ設備を再利用できるため、何もない更地に建設する場合と比べ最大35%の建設コストの削減が見込まれている。先進炉開発会社であるテラパワー社は、同社製「Natrium」初号機の建設サイトに、閉鎖される石炭火力発電所の隣接サイトを選定している。3月末にワイオミング州南西部のケンメラーでの建設許可を米原子力規制委員会(NRC)に申請し、年内に非原子力部を着工する計画だ。この石炭火力発電所を運転するパシフィコープ社は昨年、「Natrium」をユタ州で運転中の石炭火力発電所の近くにも2基導入する検討を始めたことを発表している。
16 Apr 2024
1699
米X-エナジー社と英キャベンディッシュ・ニュークリア社は4月4日、X-エナジー社製高温ガス炉「Xe-100」(電気出力8万kW)の英国への導入に向け、英政府から334万ポンド(約6.6億円)の補助金を獲得した。米X-エナジー社の100%子会社であるXエナジーUKホールディングスと英キャベンディッシュ社は、「Xe-100」の包括的設計審査(GDA)とサプライチェーン開発への支援を目的に、英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)の「未来の原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund:FNEF)」に補助金を申請していた。X-エナジー社と、英バブコック・インターナショナル社傘下の原子力発電所サービス会社であるキャベンディッシュ社は2022年5月、英国内でX-エナジー社製の高温ガス炉(HTGR)を建設するため、協力覚書を締結している。「FNEF」は、2022年5月にDESNZの前身であるビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)(当時)が立ち上げた1.2億ポンド(約230億円)の補助金交付制度。2030年までに最終投資決定(FID)を行う可能性のある完成度の高い炉型を採用した潜在的な原子力プロジェクトを対象とし、業界のプロジェクトに係るリスクを軽減し、将来の投資決定で有利になるよう支援するのが目的。DESNZは、今回の両社による申請が4つの評価基準すべてで基準をクリアし、同省の適正評価とガバナンス承認手続きを完了、英政府が研究開発後の商業化と事業開発活動に向けた先進的モジュール炉(AMR)に与える補助金としては初のものであるという。DESNZのA.ボウイ原子力・再生可能エネルギー担当大臣は、「我々は2050年までに電力の4分の1を原子力発電で賄うという野心的な目標達成のため、大型炉の建設から先端技術の奨励まで原子力技術革新を支援する。この補助金はAMR開発における次のステップを支援するものであり、英国を原子力技術の最前線に維持するというコミットメントを示す」と語る。両社は英政府の補助金とX-エナジー社による同額の資金提供により、国内製造とサプライチェーンの検討、建設可能性、モジュール化研究、燃料管理を含む、英国での導入計画を策定する。具体的には、イングランド北東部ティースサイドのハートルプール原子力発電所サイトに「Xe-100」を12基建設し、2030年代初頭までに完成させる計画だ。また、両社は英国内に最大40基の「Xe-100」建設を計画する。両社はまた、建設・インフラサービスの英大手プロバイダーであるKier Groupと建設可能性とサプライチェーンの分析支援で提携した。Kier社は、大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズ社、英政府が産業界との協力により2012年に設置した先進的原子力機器製造研究センター(NAMRC)と共に、X-エナジー社とキャベンディッシュ社によるFNEF提案について支援する。X-エナジー社とキャベンディッシュ社は、「Xe-100」建設プロジェクトで最大80%を英国内サプライチェーンから調達するという目標を設定した。両社は、英国の原子力規制当局と協力して「Xe-100」の許認可手続きに向けた準備を計画しており、カナダと米国では原子力規制当局による同設計の許認可申請に先立つ事前評価活動が進められている。「Xe-100」は第4世代先進炉設計のペブルベッド式小型高温ガス炉(HTGR)。X-エナジー社によれば、数十年にわたる高温ガス炉の運転、研究、開発に基づいている。4基連結の標準的な32万kWの発電所として、または8万kW単位で運転できるように設計されており、系統に信頼性と負荷追従性の高い電力を供給し、再生可能エネルギー源と断絶なく組合わせられる。熱出力20万kWで565℃の蒸気を供給する「Xe-100」は、鉱業や重工業など他産業用途にも適しているという。
15 Apr 2024
1952
中国広核集団(CGN)が広西チワン族自治区に所有する防城港原子力発電所4号機(華龍一号/HPR1000、118万kW)が4月9日、送電を開始した。同機は4月3日に初臨界を達成していた。今後、一連の起動試験を計画通りに実施し、今年前半にも営業運転を開始する予定である。中国南部に位置する少数民族地域初の原子力発電所である防城港発電所の1、2号機(PWR=CPR-1000、各108.6万kW)はそれぞれ、2016年に営業運転を開始した。3号機はCGN設計による「華龍一号」の初号機で、2023年3月に営業運転を開始している。3号機の2023年の設備利用率は98.2%で、中国の第3世代原子炉の中でも最高記録を達成した。第3世代のPWRの「華龍一号」は、CGNと中国核工業集団(CNNC)双方の第3世代炉設計を一本化して開発され、3、4号機はCGN設計による「華龍一号」の実証プロジェクトとして位置づけられるもの。なお、防城港発電所は、CGNが61%、広西投資集団(GIG)が39%を所有している。CGN版「華龍一号」は、防城港3、4号機の他、浙江省の三澳原子力発電所1、2号機、広東省の陸豊原子力発電所5、6号機ならびに太平嶺原子力発電所1、2号機でも採用され、建設工事が行われている。CNNC版「華龍一号」については、すでに2021年1月と2022年3月に、福建省の福清5、6号機として営業運転を開始。海外にも輸出しており、パキスタンのカラチ原子力発電所で2021年5月に2号機が、2022年4月に3号機がそれぞれ営業運転を開始している。
12 Apr 2024
1203
中国山東省の石島湾サイトにあるペブルベッド型モジュール式高温ガス炉(HTR-PM、電気出力21.1万kW)による地域暖房プロジェクトが3月27日に始まった。第4世代原子炉による初の地域暖房システムである。同プロジェクトは、高温ガス炉の蒸気システムから取り出された高温蒸気を利用して熱交換器内の水を高温水に加熱、高温水は二次熱交換のために地方自治体の発電所にある熱交換施設を経由して暖房用の温水となり、その温水を地域暖房に活用しようというもの。HTR-PMを所有、運転する中国華能集団(China Huaneng:CHNG)によると、このプロジェクトにより190,000平方メートルの暖房供給エリアが追加され、1,850世帯のクリーンな暖房ニーズを満たすことが可能。また、暖房シーズンごとに石炭3,700トン分を代替し、6,700トンのCO2排出量が削減される見込み。高温ガス炉は、固有の安全性、高い出口温度、環境に優しく、モジュール設計などの優れた特性を持ち、コジェネ、重油熱回収、水素製造、化学冶金など、幅広い産業分野での利用が可能だ。HTR-PMは2基の小型原子炉(熱出力各25万kW)で、蒸気タービン1基を駆動する電気出力21.1万kWの世界初ペブルベッド・モジュラー型高温ガス炉。冷却材にヘリウム、減速材に黒鉛を使用し、各原子炉には直径60mm、濃縮度8.5%の燃料7gを含む球状燃料要素(ペブル)を245,000個以上装荷、各ペブルは黒鉛の外層を持ち、黒煙マトリックス中に分散した約12,000個の4層セラミック被覆燃料粒子を含む。この燃料は高い固有の安全性を持っており、1,620℃を上限とした高温下でも損傷がなく、核分裂生成物を保持できるという。HTR-PMは2012年12月に着工後、2021年12月に送電を開始し、2022年12月の全出力運転達成を経て、2023年12月に営業運転を開始した。HTR-PM実証プロジェクトは、清華大学(Tsinghua University)が技術リーダーとして研究開発、主要コンポーネントおよびシステム設計を担当し、CHNGが所有者兼運転者、中国核工業集団(CNNC)が設計・調達・建設請負および燃料製造担当として携わる国家科学技術重点プロジェクトである。HTR-PMの原型は、清華大学・核能与新能源技術研究院(INET)の高温ガス冷却実験炉HTR-10(熱出力1万kW)で、2000年に運転開始、2003年に全出力運転を達成している。なお、中国は現在、定格出力65万kWeのタービン1基を6基の原子炉モジュールで駆動する、より大型のHTR-PM600を開発中である。
12 Apr 2024
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ロシア国営原子力企業ロスアトムが後援する国際会議ATOMEXPO-2024(於ソチ市)会期中の3月26日、ロスアトムの機械製造部門とロシア沿海地方政府が、沿海地方における海上浮揚式原子力発電所の導入に向けて、最適な設置場所の検討も含めた事業化調査の協力に関する覚書に調印した。ロシア極東地域では慢性的にエネルギー不足であり、同国の系統運営会社「統一エネルギーシステム」による予測では、2029年から2030年までに少なくとも135万kWの発電設備容量が必要になる。ロスアトムのリハチョフ総裁は以前よりロシア極東地域における大型および小型の原子力発電所の導入について言及している。ロスアトムの機械製造・産業ソリューション担当A.ニキペロフ副総裁は「小規模の原子力発電は安定したエネルギー供給が可能で、何十年にもわたってエネルギーコストを予測可能なグリーン電源であり、社会経済発展への長期的な投資でもある。機動性と拡張性を備えた海上浮揚式原子力発電所は産業とインフラが発展している地域のニーズを満たすだけでなく、地域の経済潜在力をさらに拡大し、人々により良い生活環境をもたらす」と語る。ロスアトム機械製造部門のI.コトフ部門長は、「RITM-200炉をベースとした新世代の海上浮揚式原子力発電所は、産業企業や都市全体への電力供給の信頼性が高く、環境にも優しい。我々の先進技術の導入経験と大規模発電所の機器製造能力により、沿海地方に予測可能な電気料金で、信頼性の高いグリーンな電力を提供する」と述べた。協力枠組みにより、原子力発電所の沿海地方への導入を目的とした共同作業部会の設置、情報交換、協議が実施される。沿海地方のエネルギー・ガス供給大臣であるA.レオンチェフ氏は、「第一段階では、沿海地方南部のエネルギー不足を解消するためには4体の海上浮揚式原子力発電所が必要。小規模な原子力発電に加えて、中期的には出力60万kWの原子炉2基の建設が必要と考える」と付け加えた。現在、極北のチュクチ自治管区で、ビリビノ原子力発電所(EGP-6、各1.2万kW×3基)と世界初で唯一の海上浮揚式原子力発電所であるアカデミック・ロモノソフ号(KLT-40S、各3.5万kW×2基)が運転中で、近隣地域に電気と熱を供給している。サハ共和国のウスチ・クイガでは、RITM-200N炉を備える陸上設置型のSMR建設プロジェクトが進行中だ。海上浮揚式原子力発電所は、沿岸部や遠隔地向けに信頼性が高く、費用対効果の高い電力供給を目的とし、搭載予定のRITM-200型炉は原子力砕氷船での運用で実証されている。現在、チュクチ自治管区のバイムスキー鉱業プラントへの電力供給のためナグリョウィニン岬に係留予定の海上浮揚式原子力発電所が建設中である。海上浮揚式原子力発電所には多くの国や地域が関心を寄せているという。ATOMEXPO-2024会期中の同日、ロスアトムの機械製造部門とロシアのエンジニアリング企業であるTSSグループは、海外市場向けに海上浮揚式原子力発電所を建設・運転する合弁会社設立に向けた契約の主要条件で合意した。合弁会社の出資比率は同等。両社は少なくとも10万kWの電気出力で耐用年数60年のRITM-200M炉を搭載した海上浮揚式原子力発電所を建設・運転し、海外消費者への電力販売を想定している。
08 Apr 2024
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南アフリカは3月21日、ブリュッセルで開催された「原子力エネルギー・サミット」で、PBMR開発計画の再開など、同国の原子力開発プロジェクトを明らかにした。同サミットに出席した南ア政府代表は、ベルギー、ルクセンブルク、EU駐在南アフリカ大使であるT. ザサ氏。同大使は、南ア国民の93%は電力を利用できるが、アフリカ大陸には利用できない人々が約6億人いるとし、「アフリカの貧困、失業、不平等の撲滅には、エネルギー貧困をなくし、エネルギー安全保障の確保が不可欠」と強調した。また、南アフリカは、国のエネルギー・インフラ開発計画である統合資源計画(Integrated Resource Plan: IRP)に従い、予想されるエネルギー需要の伸びを満たし、二酸化炭素排出量を削減するために、原子力、再生可能エネルギー、クリーンコール技術、天然ガスを活用した、エネルギー・ミックスを堅持すると表明した。また、現在アフリカ大陸で唯一稼動する国営電力会社ESKOM社のクバーグ原子力発電所(PWR、97万kW×2基)が信頼できる手頃な価格の電力を40年間安全運転で供給してきたことに触れ、さらに20年の運転期間延長の見込みであると紹介した。今後の新規建設については、250万kW増強に向けた調達プロセスを開始しており、当初、3月中に予定していた提案依頼書(Request for Proposal: RFP)の発出を年内に実施することを明らかにした。さらに、アフリカには、クリーンなベースロード電源の原子力発電や医療目的の研究炉を含む様々な原子力用途に必要なウランなど重要な鉱物資源が豊富にあることから、南アフリカはこれらの資源を活用してアフリカの原子力発電所の燃料を生産する一方、戦略的プロジェクトとして、南アフリカ独自のペブルベッド・モジュール型高温ガス炉(PBMR)の開発を再開する意向を示した。また、ペブルベッド燃料の生産実績に基づき、2030年以降に商業展開が予想される多目的原子炉にも続く、高温ガス炉(HTR)燃料の世界的な供給者になることを目指すという。PBMRは、3重被覆層・燃料粒子(TRISO)燃料を使用し、ヘリウムを冷却材とする小規模高温ガス炉(電気出力16.5万kW、熱出力40万kW)で、750℃の蒸気を供給する蒸気発生器を設置する。炉心溶融の心配が無いなど安全性の高さが特長で、大型炉と比べて初期投資が少なくて済むほか、送電線が本格的に整備されていない地域にも適した原子炉。実績のあるドイツの技術に基づき、ESKOM社が1993年から自国への導入を目的に開発プロジェクトに取り組んできたが、2010年9月、政府は同炉の潜在的顧客や投資パートナーの確保に行き詰まったことや、当時の経済不況によってPBMR開発計画の中止を発表、PBMRは知的財産権保持のため保存整備(C&M)状態にあった。なお、南アフリカ原子力公社(NECSA)は産業用及び医療用放射性同位元素を世界的に供給しているが、これを支えて60年近く運転されてきた研究炉SAFARI-1の後継となる新型研究炉の事業化調査に取り組んでいることを紹介した。NECSAが想定する多目的原子炉の出力は20〜30MWeで、材料試験やアイソトープ製造用の照射施設やビームライン設備も備える。ザサ大使は、「原子力の潜在的な経済的利益を享受しながら、エネルギーの自給自足を達成していく。増大するエネルギー需要を効果的に満たしつつ気候変動に対応するためには、エネルギー・ミックスにおける原子力の役割の強化が必要」と結んだ。
05 Apr 2024
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ケニア国営企業の原子力発電・エネルギー機構(Nuclear Power and Energy Agency:NuPEA)は3月18日、同国初となる原子力発電所の建設に向け、今後5年間の原子力開発計画の指針となる2023-2027年戦略計画を発表した。2034年までに運転開始を計画する。NuPEAは、ケニア原子力発電委員会(KNEB)の後継組織として、エネルギー法により2019年に移管され、原子力プロジェクトの実施を所掌する。ケニアでは、地熱発電が総発電電力量の約4割を占め、残りを水力、火力等でまかなっている。戦略計画の発表式典に出席した同国エネルギー・石油省のA.ワチラ筆頭次官は記者団に対し、原子力発電の導入は、信頼性、手頃な価格、低炭素排出を実現する、ケニアのエネルギーの将来にとって不可欠な要素であり、戦略計画は原子力施設を安全に建設、運転、保守、廃止するためのインフラ整備のガイドラインであると指摘。同省傘下のNuPEAのJ.ワブヤボCEOは、この戦略計画では、原子力利用、放射線防護、放射性物質の輸送、放射性廃棄物に関する国際協定、条約、義務の遵守を約束し、原子力発電がケニアのエネルギー・ミックスの重要な構成要素となるよう、法的枠組みを確立するための手順や人材育成計画が含まれていると言及した。戦略計画では原子力発電の導入準備として、原子力インフラ開発、公衆教育とステークホルダーの参画、エネルギー研究とイノベーション、人材・制度開発、研究炉プログラム開発、組織力の強化という6つの戦略目標を掲げ、当該5年間のプラグラム実施に要するコストは2.73億ドル(約414億円)と見積もる。なお、同国の原子力開発は、国際原子力機関(IAEA)のマイルストーン・アプローチのフェーズII(原子力発電導入決定後の契約・建設の準備作業の段階)に位置付けられ、原子力規制機関も設立されている。原子力インフラ開発のロードマップでは、同国初の原子力発電所を2034年までに稼働させる計画のほか、2030年代初頭までに研究炉(KNRR)を稼働させる。発電所の建設候補地としてはインド洋に面するキリフィ郡とクワレ郡が特定され、事業化調査が実施済み。2029年に発電所のサイト準備、2030~2031年に建設を開始する計画だ。また、首都ナイロビの南64kmに位置するコンザ・テクノポリスの技術拠点に研究炉用の土地が確保されている。政府は現在、国内外の原子力関連コースでケニア人の研修を実施している。ワブヤボCEOは、「ケニアは米国、韓国、中国を含む国々と原子力開発に係る覚書を交わしているが、原子力分野での人材育成を含む我々のニーズに応えるパートナーを探している。出力100万kWの建設プロジェクトは36億ドル(約5,460億円)と高いが、運転や保守費用は安価であり、原子力発電の経済的メリットはコストを上回る。入札を2027年に計画している」と語った。
04 Apr 2024
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