カナダのオンタリオ州政府は7月5日、州内で約30年ぶりとなる大型炉(最大480万kW分)をブルース原子力発電所で建設するため、ブルース・パワー社と開発前段階の準備作業を開始すると発表した。また、ダーリントン原子力発電所で計画している小型モジュール炉(SMR)の建設についても、追加で3基建設する方針を表明。州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社と、具体的な計画の立案や許認可手続きに向けた作業を開始したことを7日付で明らかにした。同州では2000年代、ブルース・パワー社とOPG社が既存のブルース、ダーリントンの両原子力発電所における増設計画や複数の新規サイトで建設計画を検討していたが、2009年~2013年までに両社はこれらすべての計画を凍結。カナダ原子力安全委員会(CNSC)にサイト準備許可(LTPS)申請の取り下げを要請した上で、既存炉の大規模改修工事を開始していた。今回、大型炉の建設準備を開始した理由として、州政府は州内で進展する電化と、それにともない2030年代以降に増加が見込まれるクリーンで信頼性の高い電力への需要、および同州の人口増加と安定した経済成長に対応するためと説明。また、同州の独立系統運用者(IESO)がこの需要増への対応策として、原子力のように10年以上のリードタイムを必要とする発電資産の計画立案と立地、環境影響評価といった作業を開始するよう同州に勧告したことを挙げた。IESOが昨年公表した報告書「脱炭素化への道筋(P2D)」によると、同州がCO2排出量の削減目標を達成しつつ電力需要の増加に対応するには、2050年までに州内の発電設備容量を8,800万kWに倍増する必要がある。州内の総発電量の約50%を賄う原子力については、ベースロード電源として1,780万kWの設備が追加で必要だと予測している。こうした背景から、ブルース・パワー社が今回、ブルース発電所サイトでの原子炉増設について連邦政府の承認を得るため、環境影響評価(IA)や関係コミュニティとの協議を開始する。大型炉のIA実施プロセスについては、連邦政府の環境影響評価庁(IAAC)が全体的な責任を負っているが、オンタリオ州政府は承認手続きにおける重複を排除するなどして効率性を高め、クリーンなエネルギー源の建設プロジェクトが速やかに進められるよう連邦政府と協力していく考えだ。また、開発前段階の準備作業には、複数の先住民コミュニティとの協議や一般国民からの意見募集などが含まれるため、完了まで数年を要する見通し。周辺環境や国民に対する新たな原子炉の影響を検証することにより、サイトの適性を適切に評価することになる。ダーリントンで4基のSMR建設へダーリントン発電所ではOPG社が2012年8月、大型炉の増設(最大4基、480万kW)用としてCNSCから「サイト準備許可(LTPS)」を取得した。大型炉計画を中止した後、同社は同じ場所でSMRを建設する計画を進めており、CNSCに要請して2021年10月にこのLTPSを10年更新。同年12月には、「ダーリントン新規原子力開発プロジェクト(DNNP)」に採用する設計として、3つの候補SMRの中からGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」(電気出力30万kW)を選定していた。その後OPG社は、2022年10月に初号機の建設許可申請書をCNSCに提出しており、2028年第4四半期の完成を目指して準備作業を進めている。オンタリオ州政府は今回、この初号機に3基を追加して合計4基の「BWRX-300」を建設すると表明。これはOPG社が今年1月、GEH社およびカナダで加圧重水炉(CANDU)事業を手掛けるSNC-ラバリン社、建設大手エーコン(Aecon)グループと6年契約で結んだ初号機建設のための協力協定に基づいている。今後は追加設備についてもCNSCに建設許可を申請し、2034年から2036年までの間に運転を開始する計画だ。州政府によると、追加の3基を建設する頃には、初号機の建設経験等を通じてコストの削減やスケジュールの短縮方策を適用できるようになる。例として、冷却水の取水や送電網への接続、4基すべての運転を制御可能な中央制御室など、複数ユニットによる共通インフラの活用を挙げた。また、OPG社はダーリントン発電所の改修工事を通じて、大型原子炉の建設プロジェクトを予算内・スケジュール通りに進める知見を培っており、同様のアプローチをSMR建設に適用できると強調している。(参照資料:オンタリオ州政府①、②、③、ブルース・パワー社、GEH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月6日、7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Jul 2023
3246
韓国の産業通商資源部(MOTIE)は7月4日、国際的な次世代小型モジュール炉(SMR)の市場を韓国が主導するため、官民の総力をワン・チームに統合した「SMRアライアンス」を発足させた。SMR関係の国家レベルの競争力強化に向け、年内にもSMRを活用する事業の開発や関係する制度基盤の整備について、分野別ワーキング・グループが企業を中心に据えた具体的な戦略を策定。来年前半には、法人格を持ったSMR協会の発足を目指す。同アライアンスに参加するのは合計42の組織で、MOTIEや韓国水力・原子力会社(KHNP)、エネルギー経済研究院など11の政府・公共機関のほか、民間からはサムスンC&T社(サムスン物産)、大宇E&C社(大宇建設)、斗山エナビリティ社、GSエナジー社などの31社である。アライアンスの初代会長は、大手財閥企業SKグループの持ち株会社であるSK社(SK Inc.)から選任する。SK社によると、環境に優しいSMRは世界中のエネルギー業界でCO2排出量を実質ゼロに導くゲームチェンジャーになり得る。従来の大型炉と比べて、電気出力は50万kW以下(MOTIEの発表では30万kW以下)と小さいものの、自然の循環や対流を利用した受動的安全系で原子炉の冷却が可能。またSMRのモジュールは工場での製造が可能なほか、サイトへの輸送と設置方法も経済的で設置面積も小さい。ソウルのホテルで開催されたこのSMRアライアンスの発足式では、MOTIEが今後の運営方針を発表し、参加機関/企業の間で業務協約を締結した。MOTIEのイ・チャンヤン長官は、「SMRがもたらすエネルギー情勢の変化に官民が総力を挙げて対応しなければならない」と指摘。「国民が信頼できる事業戦略を参加企業が策定する一方、政府としてはSMR産業育成のための政策的支援を惜しまない」と強調した。SK社のチャン・ドンヒョン副会長は、「SMRがクリーンなエネルギー源としての役割を果たせるよう、SMRアライアンスは国民にSMRの安全性を説明し関係制度を改善、産業としての育成策も整備するなど、多方面の努力を傾注する」と表明。「世界中のSMR市場で韓国がリーダーシップを確保するため、サプライチェーンの構築や関係事業への参加についても官民が力を合わせていく」と述べた。韓国ではこれまでに、韓国原子力研究院(KAERI)が海水脱塩と熱電併給が可能なシステム一体型モジュール式PWRの「SMART」炉(熱出力33万kW、電気出力10万kW)を開発。2012年半ばに、同炉は韓国の規制当局から標準設計認証を取得している。韓国企業は国外企業のSMR開発にも積極的に参画しており、斗山エナビリティ社は米ニュースケール・パワー社のSMR「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」の開発に出資し、主要機器の製造契約を獲得。SK社と同社のエネルギー関係子会社であるSKイノベーション社、およびKHNP社は、米国でナトリウム冷却式・小型高速炉「Natrium」を開発中のテラパワー社に事業協力している。また現代E&C社(現代建設)は、米ホルテック・インターナショナル社の「SMR-160」の商業化と建設プロジェクトに協力中。サムスン重工業は、デンマークのシーボーグ社製コンパクト溶融塩炉(CMSR)を搭載した海上浮揚式原子力発電所の概念設計に協力している。(参照資料:MOTIE、SK社の発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jul 2023
1950
カナダ・ニューブランズウィック(NB)州の州営電力であるNBパワー社は6月30日、州内のポイントルプロー原子力発電所内で米ARCクリーン・テクノロジー(ARC)社製の小型モジュール炉(SMR)「ARC-100」を建設するため、ARC社のカナダ法人と協同で「サイト準備許可(LTPS)」の申請書をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に提出した。2030年頃に送電開始し、60年にわたって運転していく計画だ。LTPSの申請は、原子炉の建設と運転に向けたプロジェクトが正式に始動したことを意味している。CNSCはすでに2019年3月、SMR開発プロジェクトとしては初のLTPS申請書をグローバル・ファースト・パワー(GFP)社から受領しており、今回が2例目。GFP社はオンタリオ州のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社と米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)が設立した合弁事業体で、同州内のAECLチョークリバー研究所でUSNC社製SMR「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」を建設する。ARC社が開発中の「ARC-100」(電気出力10万~15万kW)は第4世代の先進的SMRで、ナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉。同炉の技術は、米エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所で30年以上運転された「実験増殖炉Ⅱ(EBR-Ⅱ)」で実証済みだ。NBパワー社は最近公表した戦略計画の中で、州内のエネルギー供給を保証しつつ2030年までに石炭火力発電所を全廃する必要があると指摘しており、2035年までに同州のCO2排出量を実質ゼロにすることを目指している。SMRの導入はこれらの目標達成に向けた重要な解決策の一つと考えられている。NB州政府とNBパワー社は2018年7月に、第4世代のSMR実証炉をポイントルプロー発電所内で2種類建設するプロジェクトを開始した。世界水準のSMRの開発と製造で同州がリーダー的立場を確立するため、約90件のSMR申請の中からARC社の「ARC-100」と英モルテックス・エナジー社が開発中の「燃料ピン型溶融塩炉(SSR-W)」を選定。NB社が技術面の作業をサポートしながら、これらの実証炉を2030年頃までに建設すると発表しており、この2件の第4世代SMRの建設計画は、NB州などカナダの4州が2022年3月に公表した「SMR開発・建設の共同戦略計画」の中では、3つの開発方向性(ストリーム)における「ストリーム2」に分類されている。「ARC-100」についてはこのほか、NB州北部のベルドゥーン港湾管理局(BPA)がグリーン・エネルギー・ハブとなることを目指して導入を計画中。アルバータ州でも、外国投資誘致機関のインベスト・アルバータ社(IAC)が今年3月に、州内での建設と商業化に向けてARC社のカナダ法人と覚書を締結している。(参照資料:ARCクリーン・テクノロジー社、CSNCの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの7月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Jul 2023
1519
ベルギーの商業炉全5基を所有・運転するエレクトラベル社の親会社である仏エンジー社は6月29日、ドール4号機(PWR、109万kW)とチアンジュ3号機(PWR、108.9万kW)の運転期間の10年延長に向けて、ベルギー政府との暫定合意文書に署名した。放射性廃棄物管理費用の負担など、将来的に変化する可能性のある事項すべてについて不確定要素を排除し、両者間でバランスの取れたリスク配分を目指したもの。7月末を目途に両者が最終合意文書に署名すれば、今回の合意事項が実行に移される。ベルギーでは2003年に緑の党を含む連立政権が脱原子力法を制定し、既存の原子炉7基(当時)を2025年までに全廃することになっていた。しかし、2020年に発足した7政党の連立政権は2021年12月、総発電量の約5割を賄っていたそれら7基の代替電源が確保できないことから、7政党の政策協議において、エネルギー供給で必要な場合に限り、最も新しいドール4号機とチアンジュ3号機で運転継続する可能性を残していた。その後、ロシアのウクライナ軍事侵攻が2022年2月に始まり、ベルギーを含む欧州各国では天然ガスの調達で苦境に立たされた。同年1月にベルギーの原子力規制当局がこれら2基の運転期間延長を条件付きで認めていたことから、ベルギー政府は同年3月、これらの運転期間を10年延長し、合計約200万kWの原子力発電設備を2035年まで維持する方針を決定。事業者であるエンジー社とは同年7月、運転期間の延長に向けて原則合意している。それ以降、2022年9月にドール3号機(PWR、105.6万kW)が、今年2月にはチアンジュ2号機(PWR、105.5万kW)が40年間の稼働を終えて永久閉鎖された。そして政府とエンジー社は今年1月、ドール4号機とチアンジュ3号機の運転期間延長に関する予備的合意案に署名。今回の暫定合意文書は、法的拘束力を持たなかったこの同合意案に基づいており、以下の事項を定めている。ベルギーのエネルギー供給保証を強化するため、これら2基が運転開始後40年目の2025年に一旦停止した後、2026年11月までに再稼働できるよう両者は最善の努力を払う。発表済みの規制緩和策が効率的に実行された場合、両機の再稼働は早ければ2025年11月になる。政府とエンジー社の折半出資により、これら2基専用の法的裏付けのある組織を設置。この組織が2基の管理にあたるほか、2基から得られる利益を両者間で調整し、両者間の契約事項が確実に順守されるようにする。運転期間の延長に際し、両者間でバランスの取れたリスク配分が行われるようなビジネスモデルを構築。差金決済取引(CfD)を通じて、両機が技術面や経済面で良好な実績を納めた場合に報奨金が運転事業者にもたらされるようにする。ベルギーの放射性廃棄物管理の実施機関である放射性廃棄物・濃縮核分裂性物質管理機関(ONDRAF/NIRAS)の最新の知見に基づき、ベルギーにあるエンジー社所有のすべての原子炉から発生する放射性廃棄物の将来的な管理固定費を、総額150億ユーロ(約2兆3,600億円)と算定。分割払いの1回目として、カテゴリーBとCの廃棄物((ベルギーにおける放射性廃棄物の区分で、カテゴリーAは地表に貯蔵される短寿命の低・中レベル廃棄物。Bは長寿命の低・中レベル廃棄物、Cは高レベル廃棄物で深地層に処分予定。))の管理費用を2024年の前半終了時に支払うほか、2回目はカテゴリーAの廃棄物について運転期間の延長開始時に支払う。このように、すべての放射性廃棄物に関する債務がエンジー・グループから政府に移されることになり、同グループが今後、管理費用の増大リスクに晒されることはなくなった。その代わり、同グループはこの合意に基づく税引前費用の増加分を約45億ユーロ(約7,000億円)と計算。2023会計年度の非経常利益に影響を与える費用として、計上する予定である。(参照資料:エンジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Jul 2023
1879
フランス電力(EDF)は6月29日、北西部ノルマンディー地方のパンリー原子力発電所(PWR×2基、出力各138.2万kW)で改良型欧州加圧水型炉(EPR2)2基を増設するため、設置許可申請書(DAC)を規制当局に提出した。今年5月にフランス議会で原子炉新設手続きの迅速化法案が可決し、翌6月23日付で発効したことから、EDFは28日の理事会でこれら2基の建設計画の実施を決定。2007年にフラマンビル原子力発電所で同国初のEPR(165万kW)建設工事を開始して以来、最初の新設計画の許認可手続きが今回正式に開始した。EDFはDACの提出と併せて、完成炉の送電網への接続等に関する行政手続きも申請しており、現時点で2024年半ばの準備作業開始を目指している。フランスでは2015年8月に「グリーン成長に向けたエネルギー移行法」が成立し、F.オランド前大統領が公約していた「70%の原子力シェアを2025年までに50%に引き下げる」ことになったほか、原子力発電出力を現状レベルの6,320万kWに制限することが決定した。しかし、2017年に発足したE.マクロン政権は2018年11月、原子力シェアの50%への引き下げを現実的で経済的、かつ社会的にも実行可能な条件下で達成するため、削減目標を10年先送りすると決定。2022年2月には、フランスのCO2排出量を2050年までに実質ゼロ化するとともに、国内の原子力産業を再活性化するため、EPR2を新たに6基建設し、さらに8基の建設に向けた調査を開始すると表明していた。EDFはすでに2021年5月、フランス経済の脱炭素化やエネルギー自給の観点から、政府に国内でEPR2を建設すると提案しており、パンリー発電所の後はグラブリーヌ発電所(PWR×6基、各95.1万kW)で追加の2基を、その後はビュジェイ発電所(PWR×4基、各90万kW級)、あるいはトリカスタン発電所(PWR×4基、各95.5万kW)でさらに2基を建設する方針。これら3組のEPR2建設計画を通じて、EDFは建設段階で年間3万人、運転段階では1万人以上の雇用が創出されると試算している。その後、独立行政機関の国家公開討論委員会(CNDP)が2022年10月27日から今年2月までの4か月間にわたり、この問題も含めたフランスの将来のエネルギー・ミックスに関する公開討論を実施。その結果から、EDFはEPR2の最初の2基を建設する計画への大筋の合意が示されたと説明している。同計画の実施にあたり、EDFは地元のコミュニティや住民と連携してプロジェクトに取り掛かることを約束。社会的な責任を負った持続可能な開発という観点からプロジェクトを模範事例として進めるほか、政府や地元コミュニティとの協力を通じて大型プロジェクトの推進機能を全面的に担う。また、公開討論結果のフォローアップやEPR2建設計画等に関する情報を、高い透明性を持って継続的に一般国民に伝え、プロジェクト全体でも地元との協議を続けていく方針だ。フランス原子力学会(SFEN)によると、規制当局による環境影響面の審査は約1年を要するほか、DACの審査には約3年かかる見通し。環境影響面の承認が得られれば、2024年の夏にはサイトの整地や崖部分の再形成といった着工準備作業を開始できるが、この作業は約3年半続くと見られている。また、DACが取得されれば、2027年頃にEPR2初号機の原子炉建屋部分で最初のコンクリート打設が可能となり、2035年には同炉の起動が予想されている。(参照資料:EDF、SFEN(フランス語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月30日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Jul 2023
1942
英国の放射性廃棄物処分の実施主体である原子力廃棄物サービシス(NWS)は6月29日、高レベル放射性廃棄物(HLW)の深地層処分施設(GDF)建設プログラムの現状報告書の中で、イングランドの4つの候補サイトでサイトの適性評価を開始すると発表した。幅広い評価作業結果を分析した上で、最終判断を下す方針である。NWSは原子力廃止措置機構(NDA)の傘下機関で、放射性廃棄物の処分事業を担当していた放射性廃棄物管理会社(RWM)や低レベル放射性廃棄物処分会社(LLWR)の知見を統合し、2022年1月に設立された。今回のGDF建設報告書は、今年3月末時点の進展状況をまとめたもので、これによると、これまでにイングランド北西部カンブリア州のコープランド市中央部と同市南部、アラデール市に加え、東部リンカンシャー州のテッドルソープでも、この問題について実施主体のNWSとの対話や地元住民の理解促進活動を行う「コミュニティ・パートナーシップ」が設立されている。このため、NWSは差し当たりこれら4つのパートナーシップとの協議を重ね、放射性廃棄物を安全かつ恒久的管理が可能かを評価。今後新たなパートナーシップがGDFサイトの選定プロセスに加わる可能性も視野に入れて、NWSは主要な許認可の取得等、同プログラムを次の段階に進める準備作業を進めていく考えだ。英国では2008年から2009年にかけて、カンブリア州の2つの自治体がGDF受け入れに関心を表明したものの、州政府の反対を受けて建設サイトの選定プロセスは2013年に白紙に戻った。英国政府は2018年12月に策定した新たな政策に基づき、改めてGDFサイトの選定プロセスを開始している。それは地元コミュニティとのパートナーシップに基づく合意ベースのアプローチで、まずGDFの受け入れに関心をもつ個人や団体、企業がNWSとともに作業グループ(WG)を立ち上げ、NWSとの初期協議を開始、GDF建設の潜在的適性があると思われる「調査エリア」を特定する。この検討段階では地元自治体がWGに参加する必要性はないが、特定された「調査エリア」で適性評価を始めるには、同エリアに関係する地方自治体が少なくとも1つ参加する「コミュニティ・パートナーシップ」の設立が必須となる。同パートナーシップでは、構成員が共同作業をする際の原則やそれぞれの役割、責任事項などを定めた協定を締結。英国政府はパートナーシップを構成するコミュニティに対して、経済振興や福祉の向上を目的としたプロジェクトに限り年間最大100万ポンド(約1億8,000万円)を提供するほか、サイト選定プロセスが深地層のボーリング調査段階まで進んだコミュニティには、年間最大250万ポンド(約4億6,000万円)を交付する奨励策を打ち出している。このアプローチではまた、担当の国務大臣がGDF建設に合意する判断を下す前に、地元自治体はGDF受け入れの意思があることを証明するため、住民投票その他の方法でテストを実施。その実施時期を決める権利やサイト選定プロセスから撤退する権利は、各「コミュニティ・パートナーシップ」を構成する主要自治体の保有となるが、複数の自治体が参加している場合はすべての自治体の合意が必要になる。NWSは今回の報告書で、4つの「コミュニティ・パートナーシップ」が形成されたことから、これらのコミュニティと一層深く関わり合い、情報共有するための基盤が築かれたと表明。また、「コミュニティ投資ファンド」の中から、これらのコミュニティの若者向け制度や精神保健イニシアチブなど、約80のプロジェクトに300万ポンド(約5億5,000万円)が支給されており、サイト選定プロセスの参加コミュニティには明らかなメリットがあるとした。さらにサイトの適性評価を、すでに行われているその他の調査と同時に進める方針で、コープランド市の沖合で昨年8月に行われた海洋の地球物理学的調査の結果は、今年後半にも共有が開始されるとしている。NWSの印象では、GDF建設プログラムは4つの「コミュニティ・パートナーシップ」とGDF建設の可能性に関する対話や質疑応答、情報共有が行われるなど、目覚ましい進展を見せている。目標達成まで長期を要するプログラムだが、将来世代に対する責任を明確に負っているため、初期的な作業は順調に進んでいる。英国政府は、グリーンなエネルギーミックスの構築や確実なエネルギー供給保障で、原子力が重要な役割を担うと認識しており、過去数十年にわたった放射性廃棄物の管理を今後も継続する。それには、放射性廃棄物を安全に管理する能力がこれからも重要になると指摘している。(参照資料:英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Jun 2023
1584
フィンランドのステディ・エナジー(Steady Energy)社は6月27日、小型モジュール炉(SMR)を活用して地域熱暖房プラントを建設するため、約200万ユーロ(約3億1,500万円)の研究開発資金を調達したことを明らかにした。ステディ社は、フィンランド国営の「VTT技術研究センター」からスピンアウトしたばかりのスタートアップ企業。今回の設立資金は、VTTのほか投資会社のYes VC社とLifeline Ventures社が提供した。また、ステディ社の今回のプロジェクトは、VTTの持つノウハウの商業化に際し起業支援を行っているスピンオフ企業、VTTローンチパッド(VTT LaunchPad)社のプロジェクトの一部である。ステディ社は、VTTが2020年から開発中のSMR「LDR-50」(熱出力5万kW)を複数基備えた熱暖房プラントを2030年までに完成させ、地域熱供給業を手始めに、その他のエネルギー集約型の産業を脱炭素化していく考えだ。ステディ社の計画ではまず、熱暖房プラントの実物大モックアップ(電気加熱式)を作製して、その機能を実証する。その後、顧客のニーズに合わせてビジネス・モデルを作成しプラント供給を開始、将来的には世界中で複数のプラントを運転する方針だ。「LDR-50」の原子炉モジュールは二つの圧力容器を「入れ子」状に組み合わせた構造で、これらの隙間の一部に水を充填。熱交換器の熱除去機能が損なわれた場合、この水が沸騰し始めて受動的な熱伝導ルートを形成、電動機器に頼らず効率的に熱を除去することが出来るという。また、同炉の稼働条件は温度が約150°C、圧力は10バール以下と大型炉より緩やかで、設計を簡素化し、厳しい安全基準をクリアしている。ステディ社によると、10バール以下の圧力は一般家庭にあるエスプレッソ・マシンと同程度で、既存の地域熱供給ネットワークよりも低い。このため、リークにつながる故障が内部機器で発生した場合でもプラント外にリークする恐れはなく、周辺住民や環境は保護される。また、欧州連合(EU)域内の世帯が消費するエネルギー全体の約50%が暖房用で、年間の総消費量は約5,000億kWh。このうち約3,000億kWhが化石燃料発電起源のため、欧州の地域熱暖房を脱炭素化するだけで数千億ユーロ規模の成長市場が見込まれるほか、温室効果ガス排出量の大幅な削減につながると同社は強調している。ステディ社のT.ナイマンCEOは、「この惑星を守り健全な地球を後の世代に残していくには、化石燃料の燃焼による暖房をすべて終わらせねばならない」と指摘。「再生可能エネルギーに加えて、原子力を活用することで熱やエネルギーが安定供給され、近代的な社会のニーズに応えるとともに地球温暖化への対処も可能になる」としている。(参照資料:VTTの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Jun 2023
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米国のJ.バイデン大統領と、国賓として訪米したインドのN.モディ首相は6月22日、ホワイトハウスにおける首脳会談で「世界規模の包括的戦略パートナーシップ」の強化で合意。その際発表した共同声明では、両国が半導体や重要鉱物、技術、防衛等の分野で協力を深めるとともに、インドのコバダで計画されている米ウェスチングハウス(WH)社製AP1000の建設を進めていくことを改めて確認した。両国政府は、インドにおける電力不足の緩和と米国からの原子力輸出という双方の目的に向け、2008年に米印原子力協力協定を締結。その際、原子力資機材や技術の輸出を管理している国家間組織の「原子力供給国グループ(NSG)」は、米国の働きかけにより核不拡散条約(NPT)に未加盟のインドを特例扱いとする決定を下した。また、2009年にインド内閣は、西海岸グジャラート州のミティビルディをWH社製100万kW級PWR×6基の建設用地に、東海岸アンドラ・プラデシュ州のコバダをGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製100万kW級BWR×6基の用地に暫定指定した。しかし、メーカー側に一定の賠償責任を盛り込んだインドの原子力賠償法がネックとなり、これらの計画は進展して来なかった。また、机上のみでモデルプラントがまだ建設されていないGEH社製ESBWR(高経済性・単純化BWR)の建設にインド政府が難色を示したこともあり、コバダのサイトは2016年に正式にWH社製AP1000の建設用地に変更された。今回の共同声明で米印両国の首脳は、世界規模の脱炭素化において原子力が重要な役割を担うことを強調するとともに、地球温暖化への対処とクリーン・エネルギーへの移行、エネルギーの供給保証という側面から、原子力が両国にとって必要なエネルギー源であることを確認。インド原子力発電公社(NPCIL)とWH社が現在も6基のAP1000建設計画について交渉中であることから、インド原子力省(DAE)と米エネルギー省(DOE)がコバダでの建設実現に向けた協議を加速していることを歓迎した。両首脳はまた、次世代の原子炉である小型モジュール炉(SMR)の米国内での建設や輸出に向け、両国が協議中である点に言及。インドのエネルギー政策には現時点でSMRの導入計画が含まれていないが、同国が将来的にNSGに加わり先進的原子力技術の受領国となれるよう、米国は引き続き支援していくと約束している。インドでは現在、22基、678万kWの原子炉が営業運転中のほか、1基、70万kWが試運転中。このうち2基、200万kW分がロシア型PWR(VVER)で、2基、32万kW分は1960年代に米GE社が建設したBWR。残りはすべて国産の加圧重水炉(PHWR)で、出力は最大でも70万kWである。(参照資料:米ホワイトハウスの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Jun 2023
1497
ノルウェーの民間企業であるノルスク・シャーナクラフト社(Norsk Kjernekraft AS)は6月22日、同国初の商業用原子力発電所となる小型モジュール炉(SMR)の建設に向けて、フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)のコンサルティング子会社であるTVOニュークリア・サービシズ社(TVONS)から支援を受けるため、基本合意書を交わした。ノルスク社はまた、SMRの立地可能性調査の実施を依頼してきた国内4つの自治体すべてと、協力協定を締結したことを明らかにしている。ノルスク社は昨年7月、ノルウェーでSMRを建設・所有・運転することを目的に、同国の民間投資会社Mベスト・グループが設立。ノルスク社は、ノルウェーは今後数十年の間に化石燃料発電から段階的に撤退していくが、これには大規模な代替電源が必要と指摘。ノルウェー社会の電化を進めるにも、原子力のように確実なベースロード電源なしでは不可能とし、SMR計画についてはノルウェーの放射線防護・原子力安全当局に通告済みという。ノルスク社はその企業戦略として、ノルウェー国民や産業界がクリーンで価格も手ごろなエネルギーを確実に得られるようにすることを目指している。今後は電力多消費産業と協力し、SMRの立地に適したサイトを国内で選定し、国の原子力規制や国際的な基準に準じて許認可手続きの実施準備を進めていく。その際、各段階で国際原子力機関(IAEA)のアプローチを踏襲するほか、資金調達も慎重に検討する方針である。今回TVONS社と交わした基本合意書で、ノルスク社はTVOが原子力関係で保有する半世紀近いノウハウを活用し、安全・確実な原子力発電所の運転に必要な作業を実施する。TVOはまた、原子力発電所の運転のみならず、子会社のポシバ社を通じて使用済燃料の最終処分場も建設中であることから、ノルスク社はバックエンド分野についてもTVOと協力していきたい考えだ。ノルスク社はすでに今年3月、英国のロールス・ロイスSMR社と了解覚書を締結しており、将来的に同社製SMRの建設プロジェクトを立ち上げる可能性について協力していくことになった。また、立地点に関しても、ノルスク社はノルウェー海に面した西海岸のアウレ村とハイム村、北極圏のナルビク町およびバレンツ海に面したヴァードー町の自治体からSMR立地可能性調査の実施要請を受けた。このうちアウレ村とハイム村、およびナルビク町については今年4月に、また、ヴァードー町については6月22日に、それぞれ1基以上のSMR建設に向けた技術面や経済面、安全面の立地可能性を共同で調査するため、協力協定を締結している。今回のTVONS社との協力合意について、ノルスク社のJ. ヘストハンマル会長は、「ノルウェーが石油や天然ガス部門で優れた能力を身に着けた時の教訓に基づき、原子力発電開発も同様のやり方で進めていく」と説明。同社が必要とする原子力関係の経験が豊富な国や企業と協力しながら、ノルウェーにも原子力発電所を建設していくと述べた。(参照資料:ノルスク・シャーナクラフト社の発表資料(ノルウェー語)①、②、③、④、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
26 Jun 2023
1841
フランスのアシステム(Assystem)社とスペインのイドム(IDOM)社、およびスロバキアの原子力研究所(VUJE)は6月21日、フランス電力(EDF)が欧州や英国で実施する原子力プロジェクトを支援するため、エンジニアリング合弁事業体「原子力エンジニアリング・アライアンス(NUClear Engineering ALliance=NUCEAL)社」を設立した。出資比率はアシステム社が60%、残り2社が20%ずつとなっている。アシステム社はフランスを拠点とする国際的な原子力エンジニアリング企業で、12か国で6,500名の専門スタッフがクリーン・エネルギーへの移行を支援。イドム社は125か国のプロジェクト開発事業に携わった従業員所有企業で、原子力サービスや発電、インフラ、コンサルティング等の分野で実績がある。VUJEは1977年にスロバキア国有の原子力研究機関として発足したが、1994年に組織改革が行われ、現在は従業員が株式を保有する民間合資会社となっている。これら3社は欧州全体で12,000名以上の従業員を抱え、原子力関係で強力な知識基盤を構築している。これらを背景にNUCEAL社は今後、欧州加圧水型炉(EPR)の改良版「EPR2」や、出力を120万kWに縮小した「EPR1200」、小型モジュール炉(SMR)の「NUWARD」など、EDFが欧州で実施中、あるいは実施を予定している様々な原子力プロジェクトに支援参加を提案。EDFの原子力サービスに3社の技術と専門的知見を活かし、あらゆる地域に専門チームを派遣する方針だ。3社の調べによると、EDFはフランスと英国で大型炉の建設プロジェクトを進めており、ポーランドやチェコ、オランダ等の欧州諸国でもこれらを建設する可能性がある。このようなプロジェクトを実行するには、その国のペースと規模に合せた資源や専門能力など、エンジニアリング上の強力なサポートが必要。また、「NUWARD」のように、いくつかの国で関心が高まりつつある先進的原子炉を建設する場合、EDFはその国独自の規制要件への適応態勢や、地元企業も含めた欧州サプライチェーンを構築しなければならない。今回設立した合弁事業体では、3社それぞれの強みが生かされる予定で、アシステム社は複雑なプロジェクトの実施に際し、デジタル方式を用いた効率的な運営が可能である。イドム社は原子力発電所の設計から廃止までのプロセス全般や発電事業について、豊富な経験と能力を保有。VUJEは中・東欧地域の原子力発電所建設で経験を積んだ技術専門家のチームや、送・配電関係のエンジニアリング能力を有している。フランスのリヨンで執り行われたNUCEAL社の設立記念式には、同国のA.パニエ=リュナシェ・エネルギー移行相が同席した。アシステム社のT.ブランシュ上級副社長は、「EDFが欧州でこれまでに携わってきた数多くの原子力プロジェクトの成功条件は、盤石なサプライチェーンを利用できたことだ」と指摘。NUCEAL社の立ち上げはこのようなプロジェクトを成功に導く重要な柱であり、クリーン・エネルギーへの移行を加速するとした。また、同社のように強力なエンジニアリング企業連合が参加することで、これから原子力を導入する国々では、発電所をスケジュール通り予算内で建設できるようになると強調している。(参照資料:イドム社、VUJE、アシステム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Jun 2023
1759
米ウェスチングハウス(WH)社は6月13日、ウクライナのリウネ原子力発電所1、2号機(各44万kW級ロシア型PWR=VVER-440)を近代化する計画の一環として、「格納容器長時間冷却システム(LCCS)」を設計・製造・納入する契約を、同国の原子力発電公社であるエネルゴアトム社と交わした。この契約締結はエネルゴアトム社側の要請に基づくもので、先進的LCCSを導入することで過酷事故時のVVER-440の安全性を大幅に向上させるのが目的。WH社はVVER-440用に取得した特許技術を用いてLCCSを製造し、来年にもリウネ発電所に納入する。リウネ原子力発電所には100万kW級VVER(VVER-1000)の3、4号機も設置されており、これらの格納容器や安全系は基本的に西側諸国の安全要件を満たすとされている。しかし、VVER-440シリーズの原子炉は格納容器がない等、安全上の欠陥もいくつか認められている。「VVER-440の過酷事故管理」支援のため、WH社がLCCSを製造するのは今回が初めてになる。WH社によると、LCCSの導入によって事故時に格納容器内の熱が確実に除去され、効果的な減圧が可能になる。エネルゴアトム社が所有するVVER-440では、今後数十年にわたる安全性確保で、同発電所全体の安全裕度も大幅に上昇。これらを通じて、WH社はウクライナが安全・確実で信頼性の高いエネルギーを得られるよう支援していく考えだ。両社はすでに2000年代から協力関係にあり、エネルゴアトム社は2021年8月、建設工事が中断しているフメルニツキー原子力発電所4号機も含め、合計5基のWH社製AP1000の建設を視野に入れた契約をWH社と締結。2022年6月の追加契約ではこの基数が9基に増加したほか、ウクライナに設置されている15基のVVERすべてにWH社製燃料が供給されることになった。なお、WH社はウクライナの原子炉も含め、欧州連合(EU)域内で稼働するVVERの燃料を緊急に確保するため、3年計画の「Accelerated Program for Implementation of secure VVER fuel Supply (APIS)」プログラムを今年1月から主導している。ロシアのウクライナ侵攻に起因するもので、同計画にはEUが2023年~25年までの「ユーラトム(欧州原子力共同体)作業プログラム」を通じて共同出資中。同プログラムでは、WH社が燃料製造工場を置いているスウェーデンの支社を調整役とし、パートナーとしてECの科学・情報サービス機関である合同研究センター(Joint Research Centre)やスペインのウラン公社(ENUSA)、ウクライナのエネルゴアトム社、スロバキアの原子力研究所(VUJE)とスロバキア電力、チェコの原子力研究機関(UJV)とチェコ電力(CEZ)、ハンガリーのパクシュ原子力発電所、フィンランドのフォータム社など11の機関/企業が参加。VVER-440用燃料の早期出荷に向けて同燃料の設計作業を完了することや、VVER-440とVVER-1000用に改良型燃料の開発などが主な作業項目となっている。(参照資料:WH社、エネルゴアトム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Jun 2023
1963
ベルギーの大手エンジニアリング企業トラクテベル社は6月15日、フランス電力(EDF)が中心となって進めている小型モジュール炉(SMR)「NUWARD」開発への協力を強化・延長するため、EDFグループ内でSMR事業を担当するNUWARD社と枠組み協力協定を締結した。トラクテベル社はフランスに基盤を置く電気・ガス事業者エンジー(Engie)社の傘下企業で、原子炉の設計や建設、運転におけるトラクテベル社とEDFグループの協力はフランスの国内外で50年以上に及んでいる。同社は2021年から欧州初のSMRとなる「NUWARD」の開発プロジェクトで概念設計作業に貢献。基本設計段階では、原子炉系やタービン系の作業にも協力している。2022年5月には、仏トゥールにあるEDFのエンジニアリング・センター(CNEPE)から「NUWARD」の概念設計調査を受注している。EDFは2019年9月、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)と政府系造船企業のネイバル・グループ、および小型炉専門開発企業のテクニカトム社と共同開発したSMR「NUWARD」を発表した。同炉はフランスで50年以上の経験が蓄積されたPWRベースで、出力17万kWの小型PWR×2基で構成される「NUWARD」プラントの合計出力は34万kW。実現すれば高圧送電網から外れた遠隔地域の需要に応えるとともに、老朽化した火力発電所をリプレースする。また、水素製造や地域熱供給、脱塩などにも応用できるとしている。NUWARD社は、これらの目標達成を目指してEDFが今年3月に発足させた100%子会社で、同炉の基本設計と予備的な許認可手続きの作業を開始。2025年からは詳細設計と正式な許認可手続きを行う予定で、2030年までにフランス国内で実証炉着工を目指している。NUWARD社の今回の発表によると、同社が発足したことにより開発プロジェクトのスタッフが大幅に増員。トラクテベル社も同炉の開発に長期的に協力していくことを決め、原子力エンジニアリング関係の一層多くの資源を同プロジェクトに投入する。すでに同社から約50名のエンジニアがプロジェクトに携わっており、今後数年間でこの人数は倍増する見通しである。トラクテベル社でグローバルな原子力事業を統括するD.デュモン最高責任者は、「過去5年にわたりSMRの技術革新を主導してきた経験から、当社は欧州その他の世界がクリーン・エネルギーに移行する際、この技術が中心的な役割を担うと確信している」と表明。NUWARD社と結んだ協力協定を通じて、同社はフランスの外側から「NUWARD」の開発を支援し、重工業や石炭火力発電所等の脱炭素化にSMR技術が活用されるよう、また、CO2排出量が実質ゼロになるよう、これまでの経験を生かしていきたいと述べた。(参照資料:トラクテベル社、NUWARD社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Jun 2023
1318
スロベニアのR.ゴロブ首相は6月16日、同国唯一の原子力発電所であるクルスコ発電所(PWR、72.7万kW)で2基目の原子炉「JEK2」を増設するプロジェクトについて、8月1日を目途に「原則決定(decision-in-principle=DIP)」の判断を下す方針を表明。また、同じ時期に、関係省庁等の作業の調整役を首相府内で任命するほか、行政手続きを簡素化・加速するための特別法案を制定する可能性も明らかにした。スロベニアは1983年に営業運転を開始した同発電所で総発電量の約4割を賄っており、同発電所を隣国クロアチアと共同所有するGENエネルギア社は2021年7月、政府のインフラ省が「JEK2プロジェクト」にエネルギー許可を発給したのを受け、その準備作業に着手した。この許可では、建設する原子炉の出力が110万kWに制限されているが、同社としてはこれをさらに拡大しベンダーの範囲を広げたい考えだ。同社によると、スロベニアが将来信頼性の高い電力を供給して低炭素電力への移行を効率的に果たし、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するには同プロジェクトが必要であり、すでに技術面や環境面でも実行可能との結論が出ている。同発電所についてはまた、現行の運転期間の40年を60年に延長し2043年までとする計画について、環境省が今年1月に環境影響面の承認を与えている。ゴロブ首相はこの日、B.クメル環境・気候・エネルギー大臣やU.ブレジャン天然資源・空間計画大臣らとともにクルスコ発電所を視察した。視察後はクルスコ自治体が主催する公けの協議に参加し、GENエネルギア社や同発電所の運転を担当するクルスコ原子力発電会社(NEK)、クルスコ市長などの関係者とスロベニアにおける今後の原子力発電について議論した。首相はその席で、「スロベニアが今後も原子力利用国であり続けることは間違いない」との政府方針を強調。原子力分野の知識が豊富なスロベニアでは、その知識をJEK2炉の建設に活用すべきだとした。また、現行のエネルギー戦略では同プロジェクトを実施できないことから、議会下院が現在、2004年以来初めて同戦略の改訂作業を進めていると指摘した。首相はまた、「スロベニアの今後のエネルギー・ミックスでは、気候変動により社会全体の電化が進み一層多くの電力が必要となるため、温暖化防止に利用可能なエネルギー源すべてが必要になる」と強調。「この傾向はスロベニアのみならず欧州全体に言えることで、原子力やエネルギー・ミックスに対する欧州各国の考え方は異なるものの、最終的には欧州では原子力がほとんど唯一、信頼性の高い基盤のエネルギーであり、他に選択肢などないことが判明するはずだ。残念なことに、スロベニアには余剰の国産エネルギーがないため、輸入量削減のためにも自国の生産量を増やさねばならない」と述べた。これらのことから、首相は「JEK2 プロジェクト」では担当チームを編成するなど、スピードアップの具体策を取ることが重要だと表明。同プロジェクトでステークホルダーとの調整役を担う副大臣級の担当者としては、GENエネルギア社のD.レビカー業務最高責任者(COO)を指名する予定である。クメル環境相によると、改訂版のエネルギー戦略となる「国家エネルギー・気候計画」では、原子炉を長期的に活用していく断固たる方向性がこれまでより明確に示され、2基目の建設に留まらず原子力を一層広範囲に活用することになる。ブレジャン天然資源相も「2050年までの空間開発戦略」に、2基目の原子炉建設の可能性も含めて、引き続き原子力を利用していく方針を盛り込んだと表明。同戦略は、スロベニアが原子力開発利用を継続する根拠になると指摘している。(参照資料:スロベニア政府、GENエネルギア社、NEK社の発表資料(すべてスロベニア語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月19日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Jun 2023
1418
米原子力規制委員会(NRC)は6月15日、ケイロス・パワー社が申請していた同社製「フッ化物塩冷却高温炉(FHR)」の実証炉「ヘルメス(Hermes)」の建設許可について、安全面の評価審査を完了。「建設許可の発給を阻むような安全上の側面は見受けられなかった」と結論付けている。ケイロス社は米カリフォルニア州の原子力技術・エンジニアリング企業で、「ヘルメス」は最終完成版「KP-FHR」の熱出力を約10分の1に縮小した非発電炉となる。テネシー州オークリッジにあるエネルギー省(DOE)の「東部テネシー技術パーク(ETTP)」内で建設し、2026年までの完成を目指している。同社は「ヘルメス」の建設許可申請書を2021年9月と10月の2回に分けてNRCに提出しており、NRCの原子炉安全諮問委員会(ACRS)は同炉の安全面について独自の審査を行った。ACRSは今年5月、その評価報告書をNRC委員長宛てに提出しており、NRCスタッフはこれらの見解に基づき、今回同炉の安全評価文書の最終版を完成させた。同スタッフは今年9月にも「ヘルメス」の環境影響面について評価声明書(EIS)の最終版を取りまとめる予定で、その後はこれらの報告書に関するNRC委員のヒアリングを実施。委員5名がスタッフの審査結果を妥当と判断すれば、年内にも建設許可が発給されると見られている。ケイロス社が開発している商業規模の「KP-FHR」は熱出力32万kW、電気出力14万kWで、冷却材としてフッ化リチウムやフッ化ベリリウムを混合した溶融塩を使用。燃料にはTRISO燃料((ウラン酸化物を黒鉛やセラミックスで被覆した粒子型の燃料))を使う予定で、同炉は固有の安全性を保持しつつ電力と高温の熱を低コストで生成可能になるという。DOEは2020年12月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の対象としてケイロス社の「ヘルメス」を選定した。同プログラムの実施期間である7年間の総投資額は6億2,900万ドルで、そのうち3億300万ドルをDOEが負担し「ヘルメス」を建設。同炉の運転に際しては別途、NRCから運転許可の取得が必要になる。ケイロス社は完成した「ヘルメス」で運転データ等を収集し、2030年代に商業規模の「KP-FHR」建設につなげる方針だ。また、「ヘルメス」の建設計画に対しては、テネシー峡谷開発公社(TVA)が2021年5月に設計、許認可、建設、運転等で協力すると発表。「ヘルメス」を通じて、ケイロス社が出力調整可能で価格も手ごろな「KP-FHR」を市場に出せるよう協力するとしている。(参照資料:米規制委の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Jun 2023
2096
米ウェスチングハウス(WH)社は6月14日、ブルガリアのコズロドイ原子力発電所(100万kW級ロシア型PWRの5、6号機のみ稼働中)における同社製AP1000の建設に向け、プロジェクト企業のコズロドイ原子力発電所増設(KNPP-NB)会社と「基本設計(FEED)」契約を締結した。今年3月に両社が結んだ了解覚書の合意事項に基づくもの。WH社はこの契約で、AP1000の建設に必要な同発電所の既存インフラや、ブルガリア産業界の現状等を評価し、詳細設計の予備的作業や建設工事の準備を進めていく。3月の覚書で両社はAP1000の建設計画の立案に向け、共同作業グループの設置を決めている。同グループは現在、ブルガリアにおける原子力規制や許認可手続き、設計要件などを評価するとともに、ブルガリア政府が今年1月に発表した新しいエネルギー戦略に沿って、建設プロジェクトを合理的に進める方法等を検討。FEED契約で実施する課題や概算経費などの評価作業は、その最初のステップとなる。ブルガリアは2007年に欧州連合(EU)に加盟した際、これと引き換えに2006年までに安全上問題のあるコズロドイ1~4号機(各ロシア型PWR、44万kW)をすべて閉鎖し、現在5、6号機だけで総発電量の約35%を賄っている。追加の原子炉建設は1980年代から継続的に検討しているが、採用炉型はその時々の政権の意向により、2012年に頓挫したベレネ原子力発電所建設計画の製造済み機器を再利用する案や、WH社製AP1000を新たに建設する案など二転三転した。今年1月の新エネルギー戦略の中で、ブルガリア政府は既存のコズロドイ発電所と新規のベレネ発電所で原子炉を2基ずつ建設する方針を表明。同国議会はその数日前、コズロドイ発電所にAP1000を導入することを念頭に、米国政府と政府間協定(IGA)の締結交渉を開始する方針案を可決していた。また、KNPP-NB社の親会社であるコズロドイ原子力発電所は昨年12月、5号機用の燃料を2024年から10年間確保するためWH社と長期契約を締結。同発電所がこれまでロシアから購入していた燃料を、スウェーデンのバステラスにあるWH社の燃料製造工場で製造・納入することになった。WH社によると、同社のAP1000は受動的安全系やモジュール工法など最新の技術を用いた第3世代+(プラス)設計であり、中国ではすでに4基が稼働中のほか、同技術を用いた6基がさらに建設中である。米国でも1基が送電開始するなど、習熟した技術であることから、WH社はブルガリアでは建設作業の一部を地元企業に発注する考えを明かにしている。(参照資料:WH社、KNPP-NB社(ブルガリア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月15日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Jun 2023
1435
ルーマニアの国営原子力発電会社(SNN社)は6月13日、ルーマニアを含む中・東欧の全域で、米ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)を建設していくため、関係6社間の了解覚書を締結した。SNN社とともにこの覚書に参加したのは、ニュースケール社とその大株主である大手EPC(設計・調達・建設)契約企業のフルアー社、ルーマニアのエネルギー・インフラ企業E-INFRA社、その傘下のノバ・パワー&ガス社、2021年7月にニュースケール社のSMR事業に出資参加した韓国のサムスンC&T社(サムスン物産)である。SNN社は、ルーマニア南部ドゥンボビツア県のドイチェシュテイ(Doicesti)で13年前に閉鎖された旧・石炭火力発電所サイトに、出力7.7万kWの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた「VOYGR-6」設備(合計出力46.2万kW)の建設を計画、2028年頃の完成を目指している。E-INFRA社は同石炭火力発電所の所有者である。今回の覚書の主な目的は、参加企業それぞれのノウハウや経験を集約し、ルーマニア以外の中・東欧地域にも「VOYGR」設備の建設を拡大していくこと。建設工程の中でも特に、プロジェクト立案や許認可手続き、EPC業務、運転管理と保守点検(O&M)、廃止措置、資金調達および地元資源の活用――といった分野を支援する。このような支援のメリット享受を目指す国々で、それぞれのエネルギー・ニーズと条件に則して安全なコンディションでSMRを建設する。また、エネルギー自給率向上を目指すルーマニアは、米国に次いで2番目にニュースケール社の先進的SMRを建設する国になるが、欧州ではその最初の国となる。そのため同国は、このSMR機器の製造や組み立て、運転員や専門家の教育訓練を支援するハブ(拠点)となり、中・東欧地域におけるこのSMR建設と運転の模範例として後続国を牽引していく方針だ。SNN社の試算によるとは、ドイチェシュテイのSMR建設プロジェクトでは190人以上、建設工事関係で1,500人以上の雇用が創出される。経済的で安定供給可能なクリーン・エネルギー源への投資で、この地域では数千人規模の雇用が見込まれる。地元コミュニティへの投資や納税等により、ドイチェシュテイとその周辺では産業活動が促進される見通しである。SNN社のC.ギタCEOは今回のSMR構想について、「エネルギーの供給保証や脱炭素化のニーズに取り組む先例のない国際協力活動だ」と指摘。これにより、立地地域周辺の開発が進展するほか、かつての石炭火力発電所の再利用が促され、社会経済的な複合利益がもたらされるとした。「ルーマニアでは原子力で総発電量の約20%を供給しているが、今回の著名な国際企業との協力を通じて、10年以内に原子力でクリーン・エネルギーの66%を賄いたい」と表明している。(参照資料:SNN社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月14日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Jun 2023
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スロバキア政府は6月12日、小型モジュール炉(SMR)の国内建設を目指して、政府が34%出資するスロバキア電力(SE社)をはじめとする複数のエネルギー部門の関係機関・企業と協力覚書を交わした。また、その実行可能性調査(FS)の実施支援金を米国政府から獲得するため、これらの機関と申請のための共同手続き文書にも調印した。協力覚書と共同手続きに参加したのは経済省とSE社のほか、原子力規制庁(ÚJD)、スロバキア送電システム会社、スロバキア原子力研究所、米国の鉄鋼大手USスチール社が同国で所有するUSスチール・コシツェ社、およびスロバキア工科大学である。協力覚書を通じてSMR建設に必要な条件を整え、建設にともなうエネルギー部門や環境へのマイナス影響を最小限にとどめる。また、このような連携協力の最初の一歩として、スロバキアは米国が昨年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)で発表した「プロジェクト・フェニックス」に申請することを決定。同イニシアチブでは、欧州の石炭火力発電所をSMRに移行させるのと同時に、旧発電所スタッフの再訓練を通じて地元の雇用維持を目的としている。中・東欧諸国のエネルギー供給保証に向けて、米国が移行の可能性調査等を直接支援することから、SE社は同イニシアチブを通じて200万ユーロ(約3億円)の支援金獲得を目指す一方、50万ユーロ(約7,500万円)を自ら拠出するとしている。スロバキアでは現在、出力約50万kWの商業炉4基と今年2月に送電開始した1基の原子力発電所で総発電量の約半分を賄っており、さらに同規模の新規炉1基を建設中。電力を今後も安定的かつ確実に確保し、産業界や一般世帯で高まる電力需要を満たすには、再生可能エネルギーとともに原子力が重要とSE社は考えており、既存炉のリプレースとしてではなく石炭火力発電所のリプレースとしてSMRを導入する計画だ。また、同国では昨年、原子力が無炭素電力の95%以上を供給するなど、同国のクリーン・エネルギーミックスにおける主要な柱となっている。石炭火力発電所の閉鎖と産業界の脱炭素化、またあらゆる分野で電化が加速するのにともない、スロバキアでは今後10年間に年間26億kWhの電力が新たに必要となるため、SMR等を通じてこのような需要を満たしていく考えである。SMRの利点として、SE社は機器・システムのすべてを工場内で製造・組み立てられるほか、設置点までの輸送も容易な点を指摘。従来の大型炉と比べて、安全であると同時に柔軟な運転が可能な点も挙げており、FSの結果が満足のいくものであれば、直ちに許認可手続きと建設のためのスケジュール準備を始めたいとしている。経済省のP.ドバン大臣は今回、「我々が最優先事項の一つとしているのは、価格が手ごろで温暖化の防止にも資する電力を確保するため、合理的で段階的な計画の準備をすることだ」と表明。「様々な事実を論理的に踏まえた結果、我が国のエネルギーミックスには原子力が必要であり、その経験も長期にわたり積み重ねてきていることから、それらを欧州の他のパートナーと共有するためにも『プロジェクト・フェニックス』への申請を決めた」と説明している。(参照資料:スロバキア政府(スロバキア語)、スロバキア電力、「プロジェクト・フェニックス」の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Jun 2023
1397
米エネルギー省(DOE)は6月9日、連邦政府の使用済燃料集中中間貯蔵施設を地元の合意を得ながら建設していくため、全米の大学や非営利団体、民間企業などで構成される13のプロジェクト・チームに200万ドルずつ、合計2,600万ドルを交付すると発表した。これらのチームは、「地元の合意に基づく中間貯蔵施設や処分施設の立地プロセス」に関心をもつ地方自治体に関係情報や協議のための資金と要員等を提供するハブ(拠点)となり、自治体との協議や貢献活動を通じて得られた見解等をDOEの立地プロセスや戦略にフィードバックする。DOEは透明性と地元からの支援を確保しつつ、環境にも配慮した立地プロセスの下、施設建設を目指し、13チームと協力して引き続き地方自治体に働きかけていく。また、これと同時にDOEは使用済燃料の長期的な処分に関する研究開発も進め、J.バイデン政権が目標とする「2035年までに送電網を100%クリーン・エネルギー化」と、「2050年までに米国経済のCO2排出量を実質ゼロ化」の達成に不可欠な原子力を推進していく方針だ。DOEは「1982年放射性廃棄物政策法(NWPA)」に基づき、1998年1月末までに各原子力発電所の使用済燃料の引き取りを開始し、深地層最終処分場で処理することになっていたが、2009年にB.オバマ政権がネバダ州ユッカマウンテンにおける最終処分場建設計画を打ち切った。その後、2012年に政府の有識者(ブルーリボン)委員会が「NWPAを修正して地元の合意ベースで最終処分場の立地を進めつつ、複数の中間貯蔵施設を建設する」と勧告したのを受け、DOEは2017年1月に地元の合意に基づく貯蔵・処分場立地プロセスの案文を作成したが、D.トランプ政権が優先項目を変更したため同プロセスは最終決定しなかった。現時点でDOEは同プロセスの焦点を中間貯蔵施設の建設に当てており、これにより全米の原子力発電所から一先ず使用済燃料を取り出す考えだ。2021年12月に、中間貯蔵施設の立地点選定に向けて地元の合意に基づく立地プロセスを策定するため、情報提供の依頼書(RFI)を関係コミュニティやステークホルダーに対して発出。2022年9月には、得られた225件のコメントその他を集約して報告書を作成している。この立地プロセス案は、①計画の立案と関係能力の構築、②サイトのスクリーニングと評価、③サイトとの交渉および実行―の3段階で構成されており、DOEは実質的に①段階にあることから、今のところ中間貯蔵施設の受け入れ自治体を募集していない。また、2022年12月に議会上院に提出された「2022年放射性廃棄物管理法案」では、地元の合意に基づくサイト選定プロセスや中間貯蔵施設の早期実現に向けた制度などが盛り込まれた。DOEは今回、地理的側面や組織構造の異なる13チームを選定した。これらのチームには全米12州とワシントン特別区の団体が参加しており、今後新たな協力者やコミュニティと関わりを持ち、同プロセスに関する話し合いをさらに進めていく。これらのチームには、米国原子力学会(ANS)をリーダーとしサウスカロライナ州やアリゾナ州の4大学を協力者とするものや、ホルテック・インターナショナル社の主導の下で原子力エネルギー協会(NEI)や広報サービス企業のマクマホン・コミュニケーションズ社が協力しているもの、ノースカロライナ州立大がリーダーとなりカリフォルニア州の複数の先住民コミュニティやディアブロ・キャニオン原子力発電所が加わっているもの、異なる州の複数大学だけで構成されるものなどが含まれている。(参照資料:DOEの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Jun 2023
1395
米国のJ.バイデン大統領と英国のR.スナク首相は6月8日、米ワシントンD.C.での会談後、経済分野における両国間の協力強化の枠組「大西洋宣言」を発表。その中で両国は、クリーン・エネルギー経済の構築に向けてクリーン・エネルギー技術産業を支援し、世界の民生用原子力市場からロシアを締め出すため、民生用原子力分野で高次の政府間連携協力を開始することを明らかにした。「クリーン・エネルギー経済の構築」は、両国間の協力を強化する具体的かつ調和のとれた5つのアクション項目の一つで、両国はともにパリ協定の目標達成を目指して、重要技術のサプライチェーンに内在する脆弱性を克服すべく、産業基盤への投資を行うと表明。クリーン・エネルギー経済の構築は良質の雇用を生み出す最も重要な機会となることから、大胆な投資と戦略的な資金提供を実施するとしており、それぞれの国家戦略の遂行に際してクリーン・エネルギーへの移行を確実なものとし、これらのエネルギーを一層安価にするため、適宜協調アプローチを取るとした。また、パリ協定の下で双方が2030年までの意欲的な目標を達成し、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するため、2020年代中に地球温暖化への対処で決定的なアクションを取ることで合意している。具体策の一つとして両国は、クリーン・エネルギーのサプライチェーンについて、1年の期限付きで合同の行動計画を実施すると「大西洋宣言」に明記。同エネルギーの供給と適正価格の保証に向けて、両国合同の実施グループ(JAG)を設置する。将来のクリーン・エネルギー需要に十分応えられるだけの設備建設を両国および第三国で加速するため、JAGで両国が同時並行的に協力していくための短期的アクションを年末までに決定する方針。洋上風力や電気自動車用バッテリーなど主要なクリーン・エネルギーについては、サプライチェーン全体を官民で協議するほか、ストレス・テストも実施して盤石なサプライチェーン構築を目指すとしている。原子力に関しては、双方が互いに補い合う能力を有していることから、両国政府の高官による監督の下で、経済面や安全保障面の連携協力に基づく「民生用原子力パートナーシップ」プログラムを開始する。2030年までに、北米大陸や欧州で米英が原子燃料サイクル全般を手掛け、新たな関係インフラを確立できるよう、JAGはここでも合同アクションの短期的優先項目を設定。ロシアが供給している燃料やサービスへの依存を、実質的に最小限にとどめる。また、行動計画の実施を通じて両国は厳しい核不拡散要件を順守しつつ、地球の平均気温の上昇を産業革命以前との比較で1.5°C増までに抑えるため、小型モジュール炉(SMR)も含めた先進的原子炉を世界中で確実かつ持続的に建設していけるよう、関係活動を支援・牽引していく。このような優先項目を実施することで、両国は「原子力協力合同常設委員会(JSCNEC)」の設置を目指す。年末までに同委を発足させて、JAGが特定する両国共通の短期的優先項目など、政策面の目標達成を目指す協議の場とする考えだ。(参照資料:米国政府、英国政府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Jun 2023
1653
カザフスタンの国営原子力企業カザトムプロム社は5月31日、東カザフスタン州オスケメンにある原子燃料集合体製造工場「ウルバ-FA」で製造された燃料集合体(FA)が、中国広西チワン族自治区にある防城港原子力発電所に到着したと発表した。昨年12月に中国向けに初めて、一回分の取替え燃料を出荷したのに続くもので、今回で2回目。ウルバ-FA社が操業する同工場は2021年11月に操業開始しており、FAの年間製造能力は2024年に最終目標の200トンに達する見通し。ウルバ-FA 社には、カザトムプロム社傘下のウルバ冶金工場(UMP)が51%、中国広核集団有限公司(CGN)傘下のウラン資源開発企業である中広核鈾業発展有限公司(CGNPC URC)が49%出資しており、同工場は実質的に中国の原子力発電所専用のFA製造施設となる。同工場のFA製造技術は仏フラマトム社が移転したもので、フラマトム社は「AFA 3G型燃料集合体」の製造ライセンスとともに、主要な製造機器やエンジニアリング文書、関連人材等を提供。一方、FAの構成要素である燃料ペレットは、カザフ産のウランを原料にUMPが製造している。ウルバ-FA工場が製造したFAはカザトムプロム社とCGNが結んだ協力契約に基づき、今後CGNPC URC が年間200トンを20年にわたり購入する。今年中に、さらに数回分の取替え燃料が同工場から中国に向けて出荷される見通しである。カザトムプロム社の発表によると、今回出荷したFAは低濃縮ウランを約30トン含有しており、厳しい品質検査をパスして出荷された。防城港原子力発電所では同日、FAの受け取り記念式が催されており、カザトムプロム社やウルバ-FA工場、UMPの代表者のほかに、CGNとCGNPC URCの幹部が出席した。カザトムプロム社のY.ムカノフ総裁は、「戦略的パートナーのCGNとは多方面で協力しており、ともにウランの採掘や燃料ペレットとFAの製造プロジェクトを進めてきた」と説明。CGNとの協力で新たな経験を蓄積したことから、同社は天然ウランの生産からFAの製造・販売に至るまで、原子燃料サイクル・フロントエンドにおける一連の統合サービスのサプライヤーになることが出来たと強調している。記念式にともない、カザフ側代表団はCGNPC URCの幹部と今後の両国間協力について協議。ウルバ-FA工場に関しては、製造能力を200トン/年まで引き上げるための追加計画等を話し合ったとしている。(参照資料:カザトムプロム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Jun 2023
1657
米ウェスチングハウス(WH)社とフィンランドのエネルギー企業フォータム社は6月7日、WH社製の大型炉AP1000と小型モジュール炉(SMR)のAP300を、フィンランドとスウェーデン両国で建設する可能性を共同で探るため、了解覚書を締結した。同覚書は、今後両社が実施する技術面や商業面の詳細協議など、協力の枠組みを定めたもの。北欧の両国でWH社製原子炉を実際に建設する際、必須となる前提条件の特定を目的としており、フォータム社は新規の原子力発電所建設で最終的な投資判断を下すのは、後の段階になると説明している。フィンランド政府が株式の約51%を保有するフォータム社は、ロシア型PWR(VVER)2基で構成されるロビーサ原子力発電所を国内で運転する一方、スウェーデンではオスカーシャムとフォルスマルク両原子力発電所にも一部出資している。2022年11月から、両国での原子力発電所新設に向けて2年計画の実行可能性調査(FS)を開始しており、その背景として「社会全体が直面しているエネルギーの自給や供給保証、CO2排出量の実質ゼロ化という課題を解決するには原子力が有効だ」と説明していた。このFSで、同社は大型炉やSMRの新規建設にともなう技術面と商業面の前提条件とともに、政策面や法制面、規制面などの社会的条件についても調査中。新たなビジネス・モデルの構築や関連企業との連携協力も進めており、これまでに英国のロールス・ロイスSMR社やフランス電力(EDF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)のほか、スウェーデンのプロジェクト開発企業であるシャーンフル・ネキスト(Kärnfull Next)社、フィンランドの最大手ステンレス鋼生産企業のオウトクンプ(Outokumpu)社、ヘルシンキ市営のエネルギー企業のヘレン(Helen)社とも同様の協力合意に達している。一方のWH社は今年5月、第3世代+(プラス)の大型炉であるAP1000の電気出力を30万kWに縮小したAP300を発表した。1ループ式でPWRタイプのSMRとなる同炉は、設置面積がサッカー・コートの4分の1ほど。その利点として同社は、数あるSMR設計の中でも唯一、すでに中国や米国で稼働中のAP1000で実証済みの技術を用いている点を強調した。同炉はまた、AP1000と同じく負荷追従性に優れ、モジュール工法が可能。主要機器や構造部品もAP1000と同一で、これには受動的安全系や燃料、計装制御(I&C)系も含まれる。このほか、AP1000と同じサプライチェーンを利用でき、許認可手続きの手順も同じになるため、サイトでの工期も短縮されると指摘している。WH社は2027年までにAP300の設計認証(DC)を米原子力規制委員会(NRC)から取得し、2030年までに初号機の建設工事を開始、2033年には運転可能とすることを目指している。同社のD.ダーラム社長は「フォータム社の原子力発電所にはこれまでも、原子燃料その他のサービスを提供しており、当社の重要な顧客である。同社とのさらなる協力により、受動的安全性を備えた原子炉など、当社の先進的で実証済みの技術を北欧諸国に提供し、今後の世代に一層確実なエネルギー供給を保証していきたい」と述べた。(参照資料:WH社、フォータム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Jun 2023
1870
カナダのオンタリオ州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は6月2日、ポーランドで同社と同じくGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製SMR「BWRX-300」(電気出力30万kW)の建設を計画しているオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社を追加支援するため、同社と基本合意書(LOI)を交わした。両社がこれまでに交わした複数の協力合意に基づくもので、OPG社とその子会社は同LOIを通じてSMR運転員の訓練など、関連サービスの提供に向けた協定をOSGE社と将来的に締結する。支援分野はこのほか、SMRの開発と建設、発電所の運転管理と保守点検(O&M)、起動と規制に関するサポートなど。LOIへの調印は、ポーランドのM.モラビエツキ首相がカナダのダーリントン原子力発電所を視察したのに合わせて同発電所で行われた。OPG社は2021年12月、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所内で建設するカナダ初のSMRとして「BWRX-300」を選定。2022年10月には「BWRX-300」の建設許可申請書をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に提出しており、同サイトで取得済みの「サイト準備許可(LTPS)」に基づき、2028年第4四半期の完成を目指して準備作業を始めている。この計画を参照プロジェクトとして、OSGE社はポーランドやその他の欧州地域で複数の「BWRX-300」建設を計画している。初号機を2030年頃までにポーランド国内で完成させる方針で、建設サイトについては同社が今年の4月中旬、一連の「BWRX-300」建設候補地の中から有望な7地点を絞り込んで公表。同月下旬には、同社のD.ヤツキエビッチ副社長がこれらのうち6地点について、政府に「原則決定(DIP)」を申請したことをSNS上で明らかにしている。OSGE社との協力としては、OPG社傘下のコンサルティング企業であるローレンティス・エナジー・パートナーズ(Laurentis Energy Partners)社が2022年10月、OSGE社の親会社のSGE社と「マスター・サービス協定(MSA)」を締結しており、複数のSMRをポーランドで建設する際の初期的な計画立案を支援している。また、OPG社とSGE社は今年3月、米国で「BWRX-300」の建設を検討しているテネシー峡谷開発公社(TVA)とGEH社が結んだ技術協力協定に参加することで合意。「BWRX-300」の世界展開に向け、GEH社が発電所の標準設計や主要機器の詳細設計開発で予定している約4億ドルの投資について、残り3社が一部を負担することになった。また、米国の2つの政府系金融機関は、OSGE社がポーランドで複数の「BWRX-300」を建設する際、合計で最大40億ドルの資金を支援すると表明している。OSGE社のR.カスプローCEOはLOI締結に続くステップとして、ポーランドで建設する複数の「BWRX-300」用として運転員組織を共同で設置すると表明。その際、英国やその他の欧州連合(EU)加盟国で、同炉の建設をさらに拡大していく可能性も視野に入れていることを明らかにした。(参照資料:OPG社、OSGE社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Jun 2023
2113
米ウェスチングハウス(WH)社は6月1日、マイクロ炉の宇宙利用を視野に航空宇宙局(NASA)や国防総省(DOD)の宇宙開発技術プログラムで協力する可能性を探るため、宇宙用輸送サービス機器の開発企業アストロボティック(Astrobotic)社と了解覚書を締結した。月や火星、その他の惑星軌道上にある宇宙探査機への電力供給や地表面での設置を目指して、WH社は現在、マイクロ原子炉「eVinci」(最大電気出力0.5万kW)の縮小版を開発している。これらの星で行われる研究等の活動に電力を継続的に供給する際、設計がシンプルな同炉は、信頼性の高い自動稼働式の低質量発電システムを月面や人工衛星等に構築する技術として理想的。今回の覚書を通じて、両社は宇宙における原子力技術の適用や輸送サービス・システムの開発に集中的に取り組んでいく。また、両社が本拠地を置いているペンシルベニア州のほか、オハイオ州やウエストバージニア州で、宇宙用原子力サプライチェーンの構築や人材の育成を進める方針だ。WH社は昨年6月、宇宙用原子力技術の開発で協力中のNASAとエネルギー省(DOE)から、月面で稼働可能な核分裂発電システムの設計概念を提案するよう要請された。NASAの主導で有人宇宙飛行と月面着陸を目指す「アルテミス計画」では、2025年に有人宇宙探査機の月面着陸を予定していることから、NASAとDOEはこれに間に合うようWH社を含む3社を選定したもの。3社は月面環境下で少なくとも10年間稼働可能な40kW級核分裂発電システムの予備的設計概念を開発するため、DOE傘下のアイダホ国立研究所と12か月契約を締結、それぞれが約500万ドルの交付を受けていた。NASAによると、核分裂発電システムは比較的小型で軽量なほか信頼性も高く、日射量等の自然条件や場所を選ばずに継続的に電力供給が可能。月面でこのようなシステムの能力を実証できれば、火星等への長期ミッションに道を拓くことができる。一方のアストロボティック社は月面着陸船や惑星探査機等の開発産業を牽引しており、これらの機器に電力供給する商用電力サービス「LunaGrid」を月の南極付近に設置する方針。2018年11月に「アルテミス計画」の支援プログラムの一つである商業月面輸送サービスの入札に参加した後、2019年5月に同契約を獲得した3社の一つに選定されていた。(参照資料:WH社、NASAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Jun 2023
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米国のビスコンティ・リサーチ社は5月31日、原子力に関する米国民の意識を調査した結果、原子力支持派の割合が3年連続で過去最高レベルを維持したと発表した。それ以前の約10年間、電力供給の方法として原子力を「強く支持する」、または「ある程度支持する」とした人に割合は60%台で横ばいに推移していたが、2021年にこの数字が76%に増加した後2022年に77%、今年は76%という結果になった。これは、米国民全体の四分の三が原子力を支持していることを意味しており、10人中約7人は原子力発電所の新設に賛意を表明、反対派の24%を大きく上回ったと強調している。ビスコンティ・リサーチ社は、米原子力エネルギー協会(NEI)のA.ビスコンティ元副理事長が1996年に設立した組織。NEIの委託を受けて、同社は1983年以降の40年間に少なくとも年一回、市場調査の専門機関とともに米国民の原子力に対する意識調査を実施しており、その回数は87回に及んでいる。今回の調査は全国1,000人の成人を対象に、4月28日から5月5日まで行ったもので、誤差はプラスマイナス3ポイント。同社の分析では、今回の調査は世界中の政策立案者が地球温暖化防止の観点で原子力が果たす重要な役割を認識した時期と重なっている。この時期また、エネルギー供給に対する米国民の懸念が高まっており、先進的原子炉設計の技術も急速に発展した。今回の調査の主要な判明事項として、同社は次の6点を指摘している。原子力支持率が3年連続で高いレベルに留まった。原子力を強く支持する人の割合は29%で、強く反対する人の割合5%の約6倍。「原子力について多くのことを知っている」と感じている人の中で支持率が高い。「米国民の大多数が原子力を支持している」と考える人の割合が56%だったのに対し、実際の支持派は76%であり、20ポイントの開きがある。原子力規制委員会(NRC)が各原子力発電所を日々監督していることを知る人の中で、原子力発電所の安全性を信じる人の数が大幅に増えた。原子力が大気を汚さない信頼性の高いエネルギー源であり、エネルギーの自給や供給保証に資することを過去一年以内に知った人の数が大幅に増えた。同社によると1については具体的に、回答者の86%が「原子力は今後、米国の電力需要を満たす上で重要になる」と答えており、89%が「政府の安全基準を満たしている既存原子炉では運転認可を更新すべきだ」としていた。また、87%は「先進的原子炉の利用準備を米国は今行うべきだ」と述べ、71%が「今後一層多くの原子力発電所を確実に建設していくべきだ」と答えていた。原子力に賛成する主な理由としては、原子力による発電電力の価格が手ごろなほか、供給の信頼性と効率性の高さや、クリーンで地球温暖化の防止にも資するといった環境影響面の利点を挙げる人が多かった。エネルギーの自給および供給保証という点も、ロシアによるウクライナ侵攻を背景に改めて政策的議論の話題に上がったものの、主要理由にはなっていない。3に関しては、「原子力関係の情報が十分得られている」と回答した人は全体のわずか14%だった。男女別では男性の23%がそのように答えた一方、女性では6%に留まっている。情報量が多い人ほど原子力を支持する傾向にあり、そうした人の74%が原子力を「強く支持」していた。一方、「強く反対する」と回答した人は4%に過ぎなかったとしている。(参照資料:ビスコンティ・リサーチ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの6月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Jun 2023
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