COP9日目の12月8日、ドバイ市内のホテルで開催されていたCOP併催「第1回ネットゼロ原子力(NZN)サミット」が閉幕した。これはNZNイニシアチブ発足初となるサミットで、首長国原子力会社(ENEC)が事務局を務め、2日間の日程で開催。特に7日木曜日は、COP会場が休日で閉鎖されていたこともあり、多くの関係者がサミットに出席した。サミットでは、新規建設をめぐる政治的な課題やファイナンス面でのソリューション、次世代による新しいコミュニケーションのあり方や、これからの環境主義(environmentalism)などが議論され、ミス・アメリカのグレース・スタンケさんやTikTokで著名なインフルエンサーであるイザベラ・ベメキさんなどが登壇した。同国初の原子力発電所バラカ1~3号機が好調に稼働する、アラブ首長国連邦(UAE)らしいプログラム構成だった。閉会セッションで最後にあいさつした日本原子力産業協会の植竹明人常務理事は、2050年までに原子力発電設備容量を3倍に拡大するという目標を、ドバイの観光名所である「バージュ・カリファ」(2010年に完成した世界一高いビルで828m206階。ちなみに世界二位は632m)にたとえ、「きわめて高い目標」だと指摘。そして、このような巨額のプロジェクトを成し遂げるには、「並外れた先見性、洞察力、思慮深さ、決断力、そして勇気が必要」であり、「原子力産業界も高い目標を達成するために同様の覚悟が必要」との考えを示した。また「バージュ・カリファ」の大規模な基礎部分の強度になぞらえ、原子力産業界の目標達成においても、「確固たる原子力政策、次世代人材の確保、革新的な技術、ファイナンス、国際連携」などの堅牢な基礎が必要だと説明。そのうえで、「すべての根底にある最も重要な要素は安全」であると強調した。さらに「福島第一原子力発電所事故から学んだことは、安全について社会とコミュニケーションすることの重要性」であり、「常に安全性について社会と議論しコミュニケーションすることが、私たちの 2050 年の目標に向けた長い挑戦を支える基礎になる」と結んだ。
11 Dec 2023
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米国務省(DOS)は12月5日、CO2排出量の実質ゼロ化に向けた世界的な動きの中で、小型モジュール炉(SMR)など米国製の先進的原子炉システムの輸出・建設を促進するため、米輸出入銀行(US EXIM)を通じて一連の財政支援策を講じると発表した。DOSはまた、米、英、加、仏、日の5か国の共通認識として、原子燃料の製造能力拡大により原子力発電の導入を支援するとの方針を明らかにしている。SMRの輸出支援策は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されている国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)で、DOSのB.ジェンキンス特命大使・軍備管理・国際安全保障次官とEXIMのR.J.ルイス総裁が表明した。US EXIMは政府系の輸出信用機関として米国企業の輸出事業促進を目的に、国際市場でこれらの企業が競争力を持ち大規模なプロジェクトを受注できるよう支援するほか、対象国には低金利融資を提供している。米国製SMRのシステム・機器の輸出申請に資金を提供するという決議は、EXIM理事会が11月30日付で承認していた。EXIMによると、同決議とそれに付随する一連の支援策は、EXIM独自の資金調達方策で米国製の安全・確実なSMRの輸出をサポートし、大規模で柔軟な資金調達を提供するためのもの。地球温暖化への対応とエネルギー供給保障という重要目標を達成するため、世界中が米国製のSMR導入に関心を示すなか、EIXMにはこうした動きへの対応として、適格な輸出申請の承認を加速する用意がある。このため、EXIMは新しく柔軟な複数の融資ツールを通じて、多くの借り手やプロジェクト関係者がプロジェクトの将来性を明確に見通せるようにする考え。具体的には、SMRの機器製造段階における輸出前支払い金の提供や利息に関する支援、融資保証や直接融資の返済期限を最大22年まで拡大することなどを挙げている。DOSの2件目の発表は、原子燃料サプライチェーンの確立に向けた多国間協力に関するもので、今年4月に札幌で先進7か国の気候・エネルギー・環境相会合が開催された際、原子力発電の重要性を強調した原子力フォーラムの米、英、加、仏、日の5か国――いわゆる「サッポロ5」の方針として、今回示された。これら5か国では今後3年間に、信頼性の高いサプライヤー全体でウランの濃縮・転換能力を拡大するため、政府が主導する投資や民間投資で少なくとも42億米ドルの投入を計画。世界的規模でウランのサプライチェーンが確保されるよう、趣旨に賛同する国々すべてを受け入れるとしている。(参照資料:米国務省、EXIMの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Dec 2023
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COP8日目の12月7日、日本をはじめとする米国、フランス、カナダ、英国の“札幌5”((今年4月に札幌でコミュニケを採択した5か国のため、こう呼ばれる))首脳が、原子燃料の供給保障を万全にするため、新たな燃料サプライチェーンの構築に42億ドルを投じることを発表(仮訳)した。これは同日開催されていた第1回ネットゼロ原子力(NZN)サミットの場を借りて、急遽発表されたもので、2日に発表された22か国((その後アルメニアも加わり、23か国))による2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍にする宣言の実現に向けた具体的な動きだ。42億ドルという巨額を投じ、今後3年でウランの濃縮および転換能力を拡大し、世界の原子燃料市場で大きなシェアを占めているロシアの影響力を排除した新しい燃料市場を創設する。主導した米エネルギー省(DOE)のK.ハフ原子力担当次官補は「2050年までに世界の炭素排出ネットゼロおよび1.5℃目標を達成できるのは原子力だけ」とし、そのためには「信頼性のある安全な原子燃料サプライチェーンが必要だ」と述べた。日本原子力産業協会をはじめ、米原子力エネルギー協会(NEI)、欧州原子力産業協会(nucleareurope)、カナダ原子力協会(CNA)、英原子力産業協会(NIA)は共同で声明を発表し、新しい原子燃料サプライチェーンの構築に向けた政府の姿勢を歓迎。安定した燃料供給は脱炭素化とエネルギー・セキュリティを向上させるだけでなく、国家安全保障も強化すると指摘した上で、「産業界の供給能力拡大には今回のような政府による支援も不可欠だが、さらに前進させるには、民間企業および金融機関からの投資が不可欠だ」と強調した。ロシアは、世界のウラン濃縮および転換市場でほぼ50%を支配しており、米国の原子力発電所で使用される燃料の約2割はロシア製と言われている。ロシアは、安価な価格で原子燃料を供給し、世界市場における支配力を強めているが、特に、今後新興国も含む世界規模での導入が予想される先進炉の多くが装荷するHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の供給元は、ロシアだけだった。こうした独占状況を打破するため今年10月、米国のウラン濃縮企業であるセントラス・エナジー社(旧USEC)が、オハイオ州パイクトンでHALEU燃料の製造を開始したばかり。HALEU燃料は先進的原子炉の設計を一層小型化するとともに、運転サイクルを長期化し運転効率を上げることにも役立つと目されており、今後の需要増が見込まれている。DOEが進める「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」においても、支援対象に選定された10の先進的原子炉のうち、9の炉型でHALEU燃料の装荷が予定されている。会場で記念のセルフィーを撮るハフ次官補とセントラス・エナジー社のD.ポネマンCEO
08 Dec 2023
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COP7日目となる12月6日、「電力部門ならびに排出削減困難なセクターにおける原子力の活用」をテーマにトークセッションが開催された。COP公式イベントとして 開催された同セッションには、日本から東京大学公共政策大学院の有馬純特任教授と、日本原子力産業協会の植竹明人常務理事が登壇した。有馬教授は、日本では「原子力か、再生可能エネか」の二項対立的な議論があるが不毛だ、東京大学が実施したシナリオ分析では、最小限のシステムコストで電力部門の脱炭素を実現するのは、再生可能エネルギーと原子力をともに最大限活用するケースである、と指摘。また、非電力部門の脱炭素化には電化が必須だが、電化ではまかなえない鉄鋼・セメント等の産業では水素を利用した技術が寄与するとし、グリーン水素製造にあたっては「再生可能エネルギーを唯一の選択肢とするのではなく、原子力も活用するべき」との考えを示した。また岸田政権が今年4月に打ち出した「今後の原子力政策の方向性と行動指針」に言及し、日本は、既存原子炉の再稼働と運転期間延長、次世代革新炉の開発と建設、核燃料サイクルの推進、国内サプライチェーンや人材の維持/強化に取り組んでいくと説明。「すでに12基のPWRが再稼働しているが、来年には福島第一事故以来初めて、2基のBWRの再稼働が計画されている」との見通しを示した。植竹氏は、非電力部門の脱炭素化のカギを握るのは原子力由来水素だと指摘。日本で開発が進められている水素製造の具体例として、日本原子力開発機構の高温ガス炉を用いた「熱化学法ISプロセス」や、関西電力が10月から敦賀市で開始した「水素トラッキング」を紹介した。これは、原子力由来の水素を原子力発電所の発電機冷却に利用しつつ、製造から利用に至るまでの一連の流れの追跡(トラッキング)を実証するもので、原子力由来水素を原子力発電所で利用する国内初の取り組みだ。なおセッションではそのほか、サイモン・ワクター氏(Quantified Carbon社シニアアナリスト)やヘザー・ファーガソン氏(オンタリオ・パワー・ジェネレーション社上級副社長)から、スウェーデンやカナダでの事例等が紹介された。
07 Dec 2023
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COP6日目となる12月5日、OECD原子力機関(NEA)はネットゼロへむけ小型モジュール炉(SMR)導入を加速させるイニシアチブ「Accelerating SMRs for Net Zero」を発表。SMRを最大限活用するため、産官学および規制当局の英知を結集し、研究開発から建設、運転までの流れを加速させる方針を示した。イニシアチブはNEAのほか、仏エネルギー移行省、米エネルギー省が設立メンバーとして参加。マグウッド事務局長は「クリーンエネルギーである原子力の中で、SMRは筆頭のニューウェーブ」との認識を示し、「SMRの導入の成否を握るカギは、官民が協力して課題に立ち向かうかどうか」と強調した。具体的には、NEAの持つ各国政府/研究機関/各種専門家のネットワークを活用して、協働作業を可能にするようなプラットフォームを構築する。そしてNEAが第三者機関として、SMR各炉型の商業化および導入に向けた進捗状況を包括的に評価。評価項目は許認可、立地、資金調達、サプライチェーンの確保、燃料の手配など多岐にわたり、各SMRプロジェクトの進捗状況の把握を容易にすることで、金融機関らの投資決定に寄与する情報を提供するという。
07 Dec 2023
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アラブ首長国連邦(UAE)で原子力発電プログラムを担当する首長国原子力会社(ENEC)は、連邦内での小型モジュール炉(SMR)やマイクロ原子炉の導入に向けて、12月3日から5日にかけて、これらを開発している米国ベンダーのGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社とテラパワー社、およびウェスチングハウス(WH)社の3社と、相次いで協力覚書を締結した。これらの覚書は、11月30日から12月12日までUAEのドバイで開催されている「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)」の会期中に結ばれた。ENEC社はその開幕の前日、先進的な原子炉技術を通じて連邦の脱炭素化を加速するという「アドバンス・プログラム(ADVANCE Program)」を始動しており、3件の覚書締結は同プログラムの一環ということになる。UAEでは現在、連邦初の原子力発電設備となるバラカ発電所(韓国製の140万kW級PWR×4基)の建設が順調に進展中。連邦原子力規制庁(FANR)は11月17日に同発電所の4号機に運転許可を発給しており、2024年の起動が見込まれている。ENEC社によると、すでに営業運転を開始した1~3号機はアブダビ首長国におけるクリーン電力の80%以上を賄うなど、UAEの発電部門や重工業などエネルギー多消費産業の脱炭素化は大幅に進んでおり、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するというUAEの目標達成に大きく貢献している。ENEC社は「アドバンス・プログラム」でこのような大型炉の建設経験と国際的な先進的原子炉サプライヤーのネットワークを統合、エネルギー多消費産業の脱炭素化を一層加速して、世界のクリーン・エネルギーへの移行を主導していく方針だ。同プログラムでは、SMRやマイクロ原子炉など最新の原子力技術を評価し、国内関係者や国際的なパートナーらとともにこれらの原子炉の建設に向けた具体的な道筋を決定付けるとしている。ENEC社はまず、12月3日にGEH社と協力覚書を締結しており、同社製SMR「BWRX-300」をUAEのみならず、中東地域やアフリカで建設する機会を共同で模索するとした。「BWRX-300」は電気出力30万kWの軽水炉型SMRで、2014年に原子力規制委員会(NRC)から設計認証を取得した同社製原子炉「ESBWR(高経済性・単純化BWR)」の技術や機器を最大限に活用している。両社は「BWRX-300」のように小型で経済的、かつ柔軟性の高い運転が可能な原子炉で安価なクリーン電力を生産し、エネルギーの持続可能性や脱炭素化を追求する世界の潮流に歩調を合わせていく。この協力はまた、UAEが米国と進めているクリーン・エネルギーの促進イニシアチブ(U.S.-UAE Partnership for Advancing Clean Energy=PACE)の目標を達成する一助にもなるとのこと。ENEC社はまた、4日にテラパワー社と協力覚書を締結、署名式にはテラパワー社のビル・ゲイツ会長が同席した。同社が開発した電気出力34.5万kWのナトリウム冷却高速炉「Natrium」で、送電網の安定化やクリーン・エネルギーへの移行促進に向けた共同評価を行う方針。「Natrium」は溶融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを組み合わせることにより、発電所のピーク時の電気出力を50万kWまで拡大して5時間以上稼働できるなど、コスト面の競争力が高いという。「BWRX-300」と同じく、「Natrium」を中東地域やアフリカ、南アジア地域でも建設することを目指し、両社が結んだライセンシング契約や「PACE」イニシアチブに基づいて「Natrium」の商業化を世界規模で進めていく。ENEC社はさらに、5日にWH社と協力覚書を締結しており、同社製のマイクロ原子炉「eVinci」をUAEやその他の国で建設し、CO2排出量実質ゼロ化に貢献する可能性を共同で研究する。「eVinci」は電気出力が最大0.5万kW、熱出力は1.3万kWで、遠隔地や鉱山等での熱電併給が主な目的だが、エネルギー供給保障や地球温暖化の対策としても解決策になり得るという。ENEC社はアドバンス・プログラムの牽引役としてSMRやマイクロ原子炉の技術を評価し、今後の建設につなげる考えだ。ENEC社のM.アル・ハマディCEOは、COP28 に向けたUAEのメッセージとして「原子力はCO2排出量の実質ゼロ化に不可欠のエネルギー源であり、UAEのクリーン・エネルギー化戦略においても中心的役割を担っている」と強調した。(参照資料:ENEC社の発表資料①、②、③、④、WH社、テラパワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Dec 2023
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COP6日目の12月5日、「ネットゼロ原子力(Net Zero Nuclear=NZN)」イニシアチブが発起人となり、2050年までに原子力発電設備容量を3倍にする目標に向け最善を尽くすことを誓う「Net Zero Nuclear Industry Pledge」(以下、誓約)が、世界120社・機関の賛同を得て署名、発表された。これは同2日に、日本をはじめとする米英仏加など22か国((その後アルメニアも署名し、23か国))が、世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという宣言文書を発出したことを受けたもので、産業界としての決意表明と言えそうだ。誓約に賛同したのは、世界140か国で原子力関連事業を手がける120社・機関。日本からは、電気事業連合会、メーカー、ゼネコンなど13者が賛同。政府の宣言文書には署名していないロシアの企業も名を連ねている。誓約によると原子力産業界は、2050年までに原子力発電設備容量を3倍にする目標の達成に向け、政府、規制当局などと協力し、安全を最優先としながら、現在運転中 の既存炉の運転期間を最大限延長すると同時に、新規建設のペースを加速していく。誓約では、原子力発電は毎年平均 2.5兆kWhの電力を供給しており、世界の電力の約 1割、世界のクリーン電力の約 4 分の 1 を供給していることに言及している。その上で、持続可能な経済成長を維持しつつ、気候変動による壊滅的な被害を回避するために、原子力を含む利用可能なあらゆる低炭素テクノロジーを積極的に支持するべきとの考えを表明。各国政府が原子力を、政策面や資金調達面で、他のクリーンエネルギー源と同等に扱うことで原子力発電導入の世界規模での拡大が可能になると指摘している。誓約の詳細はコチラ。今回の誓約をとりまとめた世界原子力協会(WNA)のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長は、「経済成長と気候変動防止を両立させるために原子力が必要とされる規模から逆算すれば、(3倍という数字は)野心的だが達成が必要」と強調し、「野心を現実の政策に反映させるとともに、目標達成のための資金調達を実現し、原子力新設を予算通りスケジュール通りに実施しよう」と呼び掛けた。米原子力エネルギー協会(NEI)のマリア・コーズニック会長は、原子力は低炭素エネルギーであるのみならず、高い信頼性を誇り、雇用やエネルギー安全保障をもたらすとした上で、 原子力は米国では超党派の合意が得られる分野の一つだと指摘した。一方で、サプライチェーンの再構築や労働力の確保などに課題があるとの考えを示し「原子力の拡大は容易ではないが、世界の産業界が総力を上げれば実現可能になる」との認識を示した。欧州原子力産業協会(nucleareurope)のイヴ・デバゼイユ事務局長は、「原子力アライアンス(Nuclear Alliance)」((欧州で原子力発電を利用している14か国の協力イニシアチブ。フランスが主導))の参加国など計16か国が今年の5月に、現在欧州で稼働する約1億kWの原子力発電設備容量を2050年までに1.5億kWに拡大することは実現可能と発表したことに言及。世界の原子力設備容量3倍という目標も、欧州の観点から見れば同様に実現可能との考えを示した。カナダ原子力協会(CNA)のジョン・ゴーマン理事長は、「クリーン電力を2〜3倍にするというのは、数学で考えて大変なチャレンジになる」としながらも、過去3年間で原子力を取り巻く環境に「大きな進展」があり現実味を帯びつつあるとの認識を示した。英国原子力産業協会(NIA)のトム・グレイトレックスCEOは、「今回の誓約は、CO2排出実質ゼロを達成し、将来にわたるエネルギーシステムを構築するために、産業界が原子力を大規模かつハイペースで建設する用意があることを示している」と強調。各国政府が進める原子力拡大目標を支援する準備があるとした上で「来年英国政府が策定するロードマップの中で、原子力を3倍にするという計画が盛り込まれるのが楽しみだ」と政府の行動に期待を寄せた。最後にスピーチした日本原子力産業協会の植竹明人常務理事は、「日本の原子力産業界は、福島第一発電所事故をすべての活動の礎として刻み込み、何よりも安全性を優先している」、「廃炉作業と福島地域の復興に全力で取り組んでいる」と述べたうえで、原子力安全推進協会(JANSI)や世界原子力発電事業者協会(WANO)の活動を通じ、自発的に原子力安全のレベルをさらに高めていることにも言及。「何よりも安全を最優先とする真摯な姿勢が、日本および世界で原子力が復権を果たす礎となっている」と述べた。また、植竹常務理事は「福島第一事故により、それまで総発電電力量の約3割を占めていた原子力はゼロに落ち込んだ。しかし、事故から12年を経て、12基が再稼働し、さらに5基が新規制基準に合格して再稼働の準備を進めている」と日本の現況を紹介。現在10基が審査中であり「仮に、これらすべてが再稼働すれば合計27基となり、2020年時点に稼働していた9基の3倍ということになる」と指摘した。そして日本の革新炉開発の状況にも触れ、革新大型軽水炉以外にも、小型モジュール炉(SMR)、ナトリウム冷却高速炉、高温ガス炉、核融合炉など様々な先進炉の開発を多くの国と協力しながら進めていることにも言及し「こうした技術協力を通じて誓約の実現に大きく貢献できる」との見方を示した。
06 Dec 2023
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米国のホルテック・インターナショナル社は12月1日、同社製小型モジュール炉(SMR)を「SMR-300」(電気出力30万kW)を、ミシガン州のパリセード原子力発電所敷地内で建設すると発表した。2026年に米原子力規制委員会(NRC)に建設許可を申請し、2030年の半ば頃までに同発電所の運転開始を目指す方針だ。パリセード発電所では、市場の自由化で経済性が悪化した出力85.7万kWのPWRが2022年5月に閉鎖されており、ホルテック社は同発電所で廃止措置を実施するため、当時の所有者であるエンタジー社から運転認可とともに同炉を買い取った。しかし、近年はCO2の排出問題でクリーンなエネルギー源である原子力が重視されるようになったため、同社は今年2月、米エネルギー省(DOE)の融資プログラム局にパリセード発電所の再稼働を目指して連邦融資資金を申請。9月には、州内のウルバリン電力共同組合と再稼働時に発電電力を長期販売する契約を締結した。10月には運転認可の再交付をNRCに正式に申請しており、同炉で実施した様々な改修工事や、ミシガン州政府と連邦政府および地元コミュニティの幅広い支持に基づき、2025年末までに同炉を再稼働できると見込んでいる。 パリセード発電所内でのSMR建設は、この電力売買契約の拡大条項に含まれていた。復活した同炉に2基のSMRが加われば、ミシガン州における無炭素電力の設備容量は現在の2倍近くになり、年間約700万トンのCO2排出量が削減されると同社は強調している。ホルテック社は使用済燃料の集中中間貯蔵施設建設や原子力発電所の廃止措置など、原子力関係の事業を幅広く展開しており、SMRの開発は2011年に開始した。電気出力16万kW、PWR型の同社製SMRである「SMR-160」は、事故時に運転員の介入や冷却システム用の外部電源なしで、原子炉を安全に停止する受動的安全性を備えているという。このSMRは2020年12月、DOEの「先進的原子炉建設実証プログラム」(ARDP)で支援対象に選定され、2030年~2034年頃の実用化を目指すSMRに分類された。資金援助額は7年間に1億1,600万ドルで、ホルテック社は「SMR-160」実証炉建設に向けた設計・エンジニアリングや許認可手続きを進めている。2022年7月には、同社は米国内で同SMRを合計4基建設する計画に政府の融資保証プログラムの適用を求めて、DOEに申請書を提出。建設予定地としては、ニュージャージー州で同社が保有する閉鎖済みのオイスタークリーク原子力発電所などを検討していた。ホルテック社は今回、オイスタークリーク発電所についても「早い時期に『SMR-300』発電所の建設を考えている」と表明。今年10月にDOEが「地域のクリーン水素製造ハブ(Regional Clean Hydrogen Hubs: H2Hub)」プログラムで、ニュージャージー州の「中部大西洋岸水素ハブ(MACH2)」を含む7地域の水素製造ハブを全米から選定したことから、MACH2のメンバーであるホルテック社は、廃止措置が概ね完了した同発電所で「SMR-300」を建設した場合に、水素製造に利用できるか技術評価を実施する考えだ。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Dec 2023
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英国のロールス・ロイス社は12月1日、北アイルランドのベルファストで先週開催されていた「英国宇宙会議(UK Space Conference)」で、将来の月面基地に電力供給するモジュール式マイクロ原子炉の概念モデルを公表したことを明らかにした。同炉は政府の宇宙庁が資金援助する研究プログラムで開発されており、ロールス・ロイス社は今回の概念モデルは、同社の「最新の原子力技術チーム」がこれまでに実施した研究の集大成になると説明。同炉を月に向けて送り出す準備を2030年代初頭にも整えたいとしている。ロールス・ロイス社のマイクロ原子炉開発には、宇宙庁のほかに様々な大学や機関が協力中。これには、オックスフォード大学やラフバラー大学、ウェールズのバンガー大学のほか、シェフィールド大学の「先進製造研究センター (AMRC)」、溶接技術者協会、先進的原子力機器製造研究センター(NAMRC)などが含まれている。英国宇宙庁は今年2月、欧州宇宙機関の「ムーンライト計画」の一環として、月へのミッション用通信・ナビゲーション・サービスの開発で5,100万ポンド(約95億円)を国内企業に提供すると発表した。ロールス・ロイス社との提携はこの一環で、翌3月に月面基地における原子力の活用研究資金として290万ポンド(約5億3,900万円)を同社に支払っている。同社の研究プログラムでは、「熱を発生させる燃料」と「熱の伝達手段」および「熱を電力に変換する技術」の3点に集中的に取り組んでいる。ロールス・ロイス社によると、すべての宇宙探査ミッションの成否は十分な動力を確保できるか否かにかかっており、自給自足型で電力密度が高いマイクロ原子炉は、惑星表面の探査や居住に電力供給するとともに、宇宙船に電力や推進力を与えることも可能。人工衛星では、電力や推進力の継続的な供給によって一層柔軟に動けるようになり、重要な軌道を防御できる。また、マイクロ原子炉はその他の動力供給システムと比べて小型で軽量なため、太陽光が届かないなど悪環境条件下でも継続的に電力の供給が可能である。ロールス・ロイス社は、マイクロ原子炉の活用ポテンシャルは幅広く、宇宙探査ミッションのみならず、軍事利用や商業利用も可能だと指摘。開発の主目的は世界中の複数市場に電力や推進力を提供することだが、同炉は世界中で進められているCO2排出量の実質ゼロ化にも貢献できるとしている。なお、ロールス・ロイス社は、小型モジュール炉(SMR)の開発子会社であるロールス・ロイスSMR社を通じて、英国内の4サイトでSMR発電所の最初の一群(合計出力:約1,500万kW程度)を稼働させることを計画中。ロールス・ロイスSMR社は2021年11月、PWRタイプで出力47万kWの同社製SMRについて、包括的設計審査(GDA)の実施を政府に申請しており、原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)は2022年4月から同審査を開始した。同年8月にはオランダでの同社製SMRの建設に向けて、同社は現地の新興原子力事業者と協力独占契約を締結。同年11月には、英国内の有力な建設候補地としてイングランドとウェールズにある閉鎖済みの原子力発電サイトなど、4地点を選定した。また、今年2月にポーランドで同社製SMRを建設するため、現地企業と協力趣意書(MOI)を交わしたほか、3月には北欧とウクライナでの建設を念頭に、複数の関係企業と協力覚書を締結している。(参照資料:ロールス・ロイス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの12月4日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Dec 2023
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フランス電力(EDF)は11月28日、フランス製の大型原子炉や小型モジュール炉(SMR)の新規建設を通じて世界的なクリーン・エネルギーへの移行を促進していくため、カナダ、チェコ、インドの発電事業者や機器サプライヤーとそれぞれ戦略的協力協定を締結した。これらの協定は、フランス原子力産業協会(GIFEN)が主催する民間原子力コミュニティ最大のマーケットプレイス「世界原子力展示会(WNE)」がパリで開幕したのに合わせて結ばれた。フランス政府も同日、民生用原子力分野における協力の強化で、カナダ政府と共同声明を発表している。今回のWNEでは地球温暖化対策としての貢献が期待される原子力について、十分な工業力や人的資源を確保する重要性が強調されており、EDFはこの機会を捉えてフランスが開発した複数の原子炉技術やサービス、ノウハウ等をアピール。クリーン・エネルギー社会への移行にともない、欧州や世界中の将来的なエネルギー・ミックスの中で原子力の果たす役割について同社の展望を国外パートナーと共有し、相互利益や社会経済的価値の創造を目的とした長期的な協力を通じて、欧州およびその他の国々で原子力開発を加速するとの意欲を改めて表明している。今回の協力協定への調印には、EDFのR.レモン会長兼CEOが同席。これらの協定が目指すものとして、EDFは傘下のフラマトム社が開発した第3世代+(プラス)のPWR設計「欧州加圧水型炉(EPR)」や、EDFが中心となって開発中のSMR「NUWARD」を欧州その他の国々で建設していくため、現地の産業界やサプライチェーンと確固たる協力関係を築くことなどを挙げている。今回EDFと協力協定を結んだ各国の企業は以下の通り。カナダ: EDFは今回、オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社と基本合意書(LOI)を交わしており、EPRを同州あるいはカナダの他の州で建設する際、このLOIに基づいて包括的な評価を共同で行うことになる。新規建設に関する両国間の協力には大きなポテンシャルが見込まれることから、EDFは翌29日にWNEの枠内で「仏加サプライチェーン・ワークショップ」を開催すると表明。これにはOPG社のほかに、カナダの建設大手エーコン(Aecon)グループや発電事業者のブルース・パワー社、フランスの大手ゼネコンであるブイグ(Bouygues Travaux Publics)社、フランスを拠点とする国際的な原子力エンジニアリング企業のアシステム(Assystem)社、EDF傘下のフラマトム社など20社以上が参加を予定。米国のBWXテクノロジーズ(BWXT)社や、GE社の電力・エネルギー事業を統合したGEベルノバ(Vernova)社((2024年初頭に上場企業として独立・分社化が予定されている。))もこれに加わるとしている。チェコ:チェコでは現在、ドコバニ原子力発電所5号機の建設入札が行われており、EDFはEPRの出力を120万kW級に縮小した「EPR1200」を提案中。このため、落札した場合に備えて、EDFは同国のエンジニアリング関係企業で構成されるチェコ・エネルギー産業連合(CPIA)やクレーン会社のADAMEC社、世界シェア第一位の産業用蓄電池メーカーのEnerSys社、ポンプ機器メーカーであるISH Pumps社などと協力協定を結んだ。インド:インド南西部のジャイタプールでは、合計6基のEPR(160万kW級)建設が計画されているため、EDFは今回、インド政府が世界の研究開発・製造ハブとなることを目指して掲げている国家産業政策「メイク・イン・インディア」に沿って、インドのバーラト重電公社(BHEL)がプロジェクトに最大限参加できるよう同社と了解覚書を締結。両社はEPR建設でさらなる協力や、「NUWARD」関係の協力の機会も模索していく考えだ。このほか、フランスとカナダの両政府が今回発表した民生用原子力分野の共同声明では、両国は安全・確実なエネルギー供給システムと世界経済のためのビジョン共有を表明している。世界が現在直面している課題を考慮すると、民生用原子力エネルギー分野で志を同じくするパートナー同士の協力の強化はこれまで以上に重要になると指摘。ロシアのウクライナに対する不当な侵略と気候変動の影響の増大により、世界のエネルギー情勢は根本的に変化しているため、同盟国間で協力する必要性は大幅に加速しているとした。両国はまた、原子力発電は廉価な低炭素エネルギーを提供すると同時に、信頼性の高いクリーン・エネルギー源としてエネルギー供給の安全性に貢献すると指摘。SMRなどの新型原子炉(ANR)は、CO2排出量を削減しつつエネルギー需要を満たすために、両国は大型原子炉やANR、SMR などのプロジェクトにとって極めて重要な、研究開発関係の協力を強化していく。このほか、ANRや SMR などの原子炉技術の利用促進が世界の安定的な発展に役立つことから、核不拡散関係の義務事項に沿ってこれらが確実に行われるよう、両国は経験共有や研究開発協力を進めていくとしている(参照資料:EDF、カナダ政府、OPG社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Dec 2023
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COP3日目の12月2日、日本をはじめとする米英仏加など22か国が、「パリ協定」で示された1.5℃目標((世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑える努力目標))の達成に向け、世界の原子力発電設備容量を3倍に増加させるという野心的な宣言文書を発出した。賛同した22か国((15日現在アルメニア、クロアチア、ジャマイカも署名し25か国))は、日本のほか、アラブ首長国連邦、ウクライナ、英国、オランダ、ガーナ、カナダ、韓国、スウェーデン、スロバキア、スロベニア、チェコ、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、米国、ポーランド、モルドバ、モロッコ、モンゴル、ルーマニア。2050年までに世界の原子力発電設備容量を、2020年比で3倍とする目標を掲げるだけでなく、小型モジュール炉(SMR)や先進炉の導入拡大、原子力を利用した水素製造などにも言及。電力以外の産業分野への応用も視野に入れた。また原子力プロジェクトに対するファイナンスについても取り上げ、世界銀行を筆頭とする国際金融機関並びに各国の金融機関等に対し、融資対象に原子力を含めることを奨励している。そのほか宣言に盛り込まれた取組内容は以下の通り。最高水準の安全性、持続可能性、セキュリティおよび核拡散抵抗性を保持しつつ、責任を持って原子力発電所を運転すること、 長期にわたって責任を持って使用済み燃料を管理すること新しい資金調達メカニズムなどを通じ、原子力発電への投資を奨励すること原子力発電所が安全に稼働するために、燃料分野を含む強靭なサプライチェーンを構築すること技術面で実行可能かつ経済性がある場合には、原子力発電所の運転期間を適切に延長させること原子力導入を検討する国々を支援することそして、これら取組の進捗状況をCOPの場で毎年レビューするとしている。強いリーダーシップで宣言を取りまとめたJ.ケリー米大統領特使 ©︎COP28近年、世界の原子力産業界では、エネルギー・セキュリティの確保と、CO2排出量の実質ゼロ化の両立に、原子力が果たす役割を周知しようと、国際間で連携しての活動が主流となっている。9月に英ロンドンで立ち上げられた「ネットゼロ原子力(Net Zero Nuclear=NZN)」イニシアチブも一連の流れだ。同じく9月には、仏パリでOECD原子力機関(NEA)と仏エネルギー移行省の共催による官民ハイレベル会合「新しい原子力へのロードマップ」が開催され、各国の原子力産業団体が連名で、気候変動の緩和およびエネルギー・セキュリティの強化へ向け、原子力発電の迅速かつ大規模な導入を強く訴える共同ステートメントを発表した。同ステートメントは、4月に札幌での「G7気候・エネルギー・環境相会合」に併せ、日本原子力産業協会らが採択した同種のステートメントをベースとしており、2050年までの炭素排出量実質ゼロ目標を達成するには、原子力発電設備容量を現在の2~3倍に拡大する必要があるとの認識を強調している。原産協会の調べでは、世界の原子力発電設備容量は2020年末時点で、4億788万kW。3倍ということは、これを12億kW強とすることになる。国際エネルギー機関(IEA)が10月に発表した最新の「世界エネルギー見通し」では、最も野心的なネットゼロエミッション(NZE)シナリオでも、2050年の原子力発電設備容量を9億1,600万kW((2022年=4億1,700万kWと設定))と予測。国際原子力機関(IAEA)が同じく10月に発表した報告書「2050年までの世界のエネルギー・電力・原子力発電予測」では、高予測シナリオでも2050年の原子力発電設備容量を8億9,000万kW((2022年=3億7,100万kWと設定))と予測している。これらの予測と比較して、今回の3倍宣言が非常に野心的な目標設定であることがわかる。産業界を代表してWNAのサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長が登壇した ©︎COP28発表セレモニーでスピーチした世界原子力協会のサマ・ビルバオ・イ・レオン事務局長は、「世界の原子力産業を代表して、この大胆かつ現実的な宣言を作り上げたことに深く感謝する。皆さんの原子力への取り組みは単なる声明ではなく、世界中の原子力産業界への課題として受け止めたい」と謝意を表した。そして宣言と同様の野心的な精神で、既存炉の運転期間延長や新規原子炉の導入加速に向けて一致団結することを表明し、「今後も最高水準の安全性を維持し、若手の科学者やエンジニアら優秀な人材を惹きつけ、育成していきたい」と強い意欲を示した。
03 Dec 2023
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COP28の初日である11月30日、昨年のCOP27で設立に合意した「損失と損害(loss and damage)基金=ロスダメ基金」に関するより詳細な内容を定めた文書が、早くも採択された。主要な炭素排出国である先進国が、気候変動で損害を被っている開発途上国に対し賠償する基金で、世界銀行が運営する。厳密には、12月12日に予定されている会議終了までは、すべての文書は最終決定ではない。しかし今回の合意は、会議に出席した各国の代表者らからスタンディングオベーションで迎えられるなど、議長国であるアラブ首長国連邦(UAE)の面目躍如たる幕開けとなった。合意文書によると、ロスダメ基金の初期総額は4億ドルを超えた。UAEが1億ドルを拠出。EUは2億4,500万ドル(ドイツからの1億ドル含む)を拠出し、英国は5,000万ドル強、米国は1,750万ドル、日本は1,000万ドルを拠出する。ドイツのS.シュルツェ経済協力・開発相は、「ドイツとアラブ首長国連邦が先頭に立ち、気候変動による損失と損害に対応する新しい基金に自国から拠出する意欲と能力があるすべての国に出資を呼び掛けたい。30 年前にはまだ発展途上国だった国々でも、今では世界規模の気候変動に対する責任を負う余裕があるはずだ」と強調した。基金設立に向けた昨年の合意は、途上国における気候変動緩和の緊急的な必要性を認め、炭素排出大国が途上国へ過去何十年にもわたる損害を償う機会を生み出したという点で、非常に大きな一歩と評価されたが、具体的な金額規模などが明記されておらず、基金の持続可能性を疑問視する向きもあった。今回、あらためて金額が示されたことで基金実現に向けての大きな後押しとなりそうだ。また、他の先進国には今後、基金の出資額を発表するよう圧力がかかることになるだろう。気候変動に関する国連枠組条約(UNFCCC)のS.スティエル事務局長は、「各国政府にとってCOPのスタートを切るきっかけとなり、交渉当事者はここドバイで真に野心的な成果をもたらすためにこれを活用するべきだ」と高く評価している。
01 Dec 2023
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フランスのフラマトム社は11月29日、英国内で現在建設中、および今後新たに建設される原子力発電所向けに、原子燃料の製造施設を英国で建設すると発表した。同社はまた、第4世代の先進的原子炉向け燃料を製造するため、11月28日に米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC社)と合弁事業体を設立することで、正式に合意している。フラマトム社はすでに英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)や、親会社であるEDFの英国法人EDFエナジー社との協力により、既存の原子力発電所や跡地の中から建設候補地として選定したサイトの評価作業を実施中。2024年には原子力規制局(ONR)のガイダンスに基づいて、サイトとしての妥当性を詳細に調査するほか、許認可手続き前の予備調査に入る方針だ。この作業については、DESNZから資金提供を受けている政府外公共機関の 原子力廃止措置機構(NDA)も協力。NDAは英国内で閉鎖済み原子力発電所の廃止措置や管理などを担当している。EDFエナジー社は2018年12月から、イングランド南西部サマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所(フラマトム社製・欧州加圧水型炉:EPR×2基、各172万kW)を建設中のほか、イングランド南東部のサフォーク州では、サイズウェルC(SZC)原子力発電所(EPR×2基、各167万kW)の建設を計画している。一方、英国政府は将来的なエネルギー供給保障強化の一環として、革新的な小型モジュール炉(SMR)を2030年代半ばまでに国内で複数建設するため、支援対象とするSMRの選定コンペを実施中。今年10月には、SMR開発企業の中から6社を最終候補として発表している。フラマトム社の今回の原子燃料製造施設建設プロジェクトは、このように新しい世代の原子炉の運転開始に備え、英国での経営規模拡大を目指すという同社戦略の一部。大型PWRや軽水炉方式のSMRにも対応する複数の原子燃料の製造で、英国の将来的な原子力発電開発のみならず欧州全域でのSMR建設を幅広く支援していく考えだ。米企業とは第4世代の原子炉向け燃料製造へフラマトム社とUSNC社が今回設立を決めた合弁事業体は、3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)を商業規模で製造する予定だが、これはUSNC社が開発している第4世代の小型高温ガス炉「モジュール式マイクロ原子炉(MMR)」と、同炉を複数基備えたエネルギー供給システム、およびその他の先進的原子炉での使用を想定したもの。TRISO燃料は、USNC社がMMR用として開発中の「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」の製造に活用される。USNC社はすでに2022年8月、FCM燃料のパイロット製造施設(PFM)をテネシー州のオークリッジでオープンした。合弁事業体はこの技術に基づき、2026年にもTRISO燃料の製造と同燃料を使ったFCM燃料の製造開始を計画。このため、フラマトム社は米国で保有している燃料の製造許可に、USNC社のPFMと同じ実証済みの製造プロセスを組み込めるよう、同許可の修正を2024年の夏に米原子力規制委員会(NRC)に申請する予定である。また申請に先立ち、NRCとは事前の協議を実施している。USNC社のMMRを備えたエネルギー供給システムでは、1万kW~4.5万kWまで様々なレベルの熱出力が設定可能で、コスト面の効率性が高いクリーンで安全な熱と電力を、場所を選ばずにユーザーに提供できるという。カナダでは、オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とUSNC社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社が2019年3月、カナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトで2028年にもMMR初号機の運転を開始するため、同国の原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。米国ではイリノイ大学が2021年7月、学内でチョークリバーと同じ時期の運転開始を目指してMMRを建設するため、NRCに「意向表明書(LOI)」を提出している。(参照資料:フラマトム社➀、②、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Dec 2023
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カナダのサスカチュワン州政府は11月27日、ウェスチングハウス(WH)社製のマイクロ原子炉「eVinci」の州内建設に向けて、同州が一部出資している公共企業体「サスカチュワン研究評議会(SRC)」に8,000万カナダドル(約87億円)の研究補助金を交付すると発表した。SRCとWH社が2022年5月に結んだ協力覚書に基づくもので、この補助金を活用して同州の規制要件や許認可関係の手続きを行い、2029年までに初号機を建設。そうした経験を基盤に、将来複数の「eVinci」を州内の様々な産業や研究、エネルギー源に利用できるか実証する。建設サイトについては、規制手続などプロジェクトの進展にともない決定する方針だ。SRCはカナダで第2の規模を持つ技術研究関係の公共企業体で、年間収益は2億3,200万加ドル(約252億円)。過去76年にわたり、農業・バイオテクノロジーやエネルギー、環境、および鉱業などの分野で、世界22か国の約1,600の顧客に科学的なソリューションを提供しているという。また、同州中央部のサスカトゥーン市にあるSRC環境分析研究所では、電気出力20 kWの研究炉「SLOWPOKE-2」を2021年11月に閉鎖するまで約38年間運転した実績がある。WH社の「eVinci」は電気出力が最大0.5万kW、熱出力は1.3万kWで、遠隔地や鉱山等における熱電併給を目的としている。8年以上燃料交換なしで運転することが可能で、炉外復水器となる部分の周囲にチューブを環状に巻き付け、主要熱交換器とする設計だ。カナダ政府は2022年3月、国内での将来的な「eVinci」建設に向けて、2,720万加ドル(約30億円)をWH社のカナダ支社に投資すると発表。イノベーション・科学・研究開発省(ISED)の「戦略的技術革新基金(SIF)」から資金を拠出し、SMRの持つ「いつでも利用可能で運搬も容易な低炭素エネルギー源」としての能力を活用するほか、カナダの経済成長や2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという目標の達成に多大な貢献を期待するとしていた。また、今年6月からは、「eVinci」について、カナダ原子力安全委員会(CNSC)の「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査:VDR)」が本格的に始まっている。10月には米エネルギー省(DOE)が、WH社も含め米国内でマイクロ原子炉を開発中の3社と総額390万ドルの基本設計・実験機設計(FEEED)契約を締結。アイダホ国立研究所(INL)内にある国立原子炉イノベーション・センター(NRIC)の新しい「マイクロ原子炉実験機の実証用テストベッド(DOME)」を用い、3社の設計作業や機器製造、5分の1サイズの実験機建設と試験を支援する方針である。なお、サスカチュワン州の州営電力であるサスクパワー社は2022年6月、オンタリオ州のオンタリオ・パワー・ジェネレーション社の例に倣い、サスカチュワン州で将来建設の可能性がある初の小型モジュール炉(SMR)として、同じくGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」を選定。現在、建設サイトを選定中で、2029年に建設実施の判断が下れば、2030年代半ばまでに最初のSMRを運開させるとしている(参照資料:サスカチュワン州、SRC、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Nov 2023
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ポーランドの気候環境省は11月24日、ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)傘下のPGE PAK原子力エネルギー(PGE PAK Energia Jądrowa)社が同国中央部ポントヌフのコニン地区で計画している韓国製大型炉の建設プロジェクトに対し、原則決定(decision-in-principle=DIP)を発給した。PGE PAK原子力エネルギー社に50%ずつ出資しているPGE社と同国のエネルギー企業ZE PAK社が、同日付で明らかにした。DIPは原子力発電所建設計画に対する最初の基本的な行政判断で、DIP発給により同プロジェクトは、国家のエネルギー政策に則し、国民の利益に適うと正式に認められたことになる。このポントヌフ・プロジェクトは韓国水力・原子力会社(KHNP)との協力で進められており、プロジェクト企業として今年4月に設立されたPGE PAK原子力エネルギー社は、6月に気候環境省にDIPを申請していた。今後は韓国製「APR1400」(PWR、出力140万kW×2基)の建設に向けて、実行可能性調査の実施準備やコニン地区における環境面などの調査、資金調達面の協議などを実施する。PGE社によると今回のDIPは、2022年10月の韓国・ポーランド両政府の計画支援了解覚書、またPGE社とZE PAK社およびKHNP社の「企業間協力意向書(LOI)」から13か月経たずに発給された。大規模な投資計画では異例の速さだが、これにより2035年までにポントヌフで初号機を完成させることが現実味を帯びてきた。同社は2基のAPR1400で年間220億kWh発電することを計画しており、これはポーランドの総電力需要の約12%に相当する。ポーランドではこのほか、2021年2月に内閣が決定した「2040年までのエネルギー政策」に基づき、100万kW級の大型原子炉を2043年までに6基、合計600万~900万kW建設するプログラムを並行して進めている。2022年11月に政府は最初の3基、小計375万kW分の採用炉型として、米ウェスチングハウス(WH)社製PWRのAP1000を選定。PGE社傘下の原子力事業会社であるPEJ社は、北部ポモージェ県で3基のAP1000を建設する計画について、今年7月に気候環境省からDIPを取得している。ポントヌフにおけるプロジェクトは、政府の原子力プログラムを補完すると位置付けられており、副首相を兼任する国有資産省のJ.サシン大臣は今回、「ポントヌフのプロジェクトはクリーンで安価な電力を安定的に供給する点から政府政策に完璧に適合するものであり、DIPの発給はそれを裏付けている」と指摘。同計画が円滑に進展することを期待していると述べた。ポーランドではこのほか、鉱業大手のKGHM銅採掘会社が米ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)を6基備えた発電設備「VOYGR-6」の建設を計画している。また化学・石油合弁企業のオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は米GE日立・ニュクリアエナジー社製のSMR「BWRX-300」を国内6地点で計画。今年4月にそれぞれDIPを気候環境省に申請しており、同省は7月にKGHM銅採掘会社の計画に対しDIPを交付している。(参照資料:PGE社、ZE PAK社の発表資料(ともにポーランド語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Nov 2023
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カナダ・オンタリオ州のブルース・パワー社は11月22日、ブルース原子力発電所(CANDU炉×8基、各80万kW級)における最大480万kWの大規模増設と州経済の発展に向けて、2024年初頭に「関係情報の提供依頼書(RFI)」を発出し、産業界等に協力を求める方針であることを明らかにした。増設計画で採用する炉型の評価が主な目的で、同社はその一環として地元の産業界やビジネス界のリーダー、製造業や電気事業関係の労働組合幹部など、11名で構成される諮問委員会も設置。同社が様々な原子炉について技術面の評価を行う一方、諮問委員会は地元経済の発展や関係サプライチェーン、労働力など、オンタリオ州における原子力産業発展の長期的な見通し等を審査する。同社はまた、増設の社会的な影響を評価(IA)するプロセスも技術評価と並行して行う計画で、州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社や独立系統運用者(IESO)との協力により、州内の他の地域での原子炉建設についても実行可能性調査(FS)を実施する。FSはRFIで得られた情報を活用し、2024年末までに完了させる予定である。オンタリオ州政府は今年7月、州経済の成長に必要な電力を長期的に確保する構想「Powering Ontario’s Growth」を公表した。同州の経済成長のほか、地球温暖化の影響緩和や州内の電化にも資するクリーンで安価な電力を増産するため、ブルース・パワー社や州内の独立系統運用者(IESO)と協力し、同発電所で増設計画の実施前段階の準備作業を開始すると発表。同じく州内のダーリントン原子力発電所では、小型モジュール炉(SMR)初号機に3基を追加建設すると表明していた。10月には、同社はブルース発電所で前記のIAプロセスを実施する計画や、将来的なサイト準備許可(LTPS)の申請方針もカナダ原子力安全委員会(CNSC)と連邦政府のカナダ環境影響評価庁(IAAC)に正式に連絡。その際、この増設計画を「ブルースC原子力発電所計画」と呼称している。今回のRFI呼びかけは実施前段階における準備作業の一部であり、10月にこの増設計画への「関心表明(EOI)」の募集を開始したのに続く措置。「Powering Ontario’s Growth」でブルース発電所が担う役割を下支えするため、ブルース・パワー社は以下の5原則を表明した。既存の8基で、クリーン・エネルギーや医療用アイソトープの生産を2064年以降も続けられるよう、運転期間を延長する。運転期間の延長プログラムと2030年までの投資計画を通じて、2030年代に既存炉8基のピーク時におけるネット出力を、大型炉1基分増強して合計700万kWとする。ブルース発電所で480万kW追加する可能性評価のため影響評価(IA)を実施し、いかなる決定を下す際も、これに先立ち先住民コミュニティや地元3郡の地域、および一般市民を対象にオープンで透明性のある協議を行う。堅実な技術評価作業を踏まえ、将来の意思決定やマイルストーンに際し健全な助言を提供する。地元経済の発展とそのための協力、地元産業への技術移転、地元におけるサプライチェーンと労働力の活用を、農村部の開発においては特に、重要な優先事項と位置づける。同社の説明によると、ブルース発電所では「主要機器の交換 (MCR) プロジェクト」が予算の範囲内でスケジュール通り順調に進んでいることから、「Powering Ontario’s Growth」構想でも新規建設評価の対象に選ばれた。カナダ最大の原子力発電所における同社の安全運転実績や、信頼性の高いクリーンな電力の供給実績、複数の送電線を備えた広大な敷地、コスト面の競争力が高く評価されたことを強調している。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Nov 2023
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英政府のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)と韓国の産業通商資源部(MOTIE)は11月22日、民生用原子力分野での協力強化に向け、了解覚書を締結した。両国間でクリーン・エネルギー関係のパートナーシップを新たに結んだことにともなうもので、この覚書を通じて、英韓両国は両国のみならず第三国でも協力して原子力発電所を建設し、関係技術に投資するための基盤を構築する。英国原子力公社(UKAEA)と韓国電力公社(KEPCO)の協力促進のための覚書など、両国の政府機関や原子力関係企業が今回結んだ覚書は合計9件。KEPCOは英国の新規原子力発電所建設事業への参加意思をDESNZに表明しており、これを契機に英国への原子炉輸出に総力を傾けると強調している。DESNZとMOTIE間の覚書調印は、韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領と韓国経済視察団の訪英に合わせ、DESNZのC.クティーニョ大臣とMOTIEのパン・ムンギュ(方文圭)長官が行った。両国はこれまでに、原子力の平和利用分野における政府間協力協定を1991年に締結したほか、2013年には韓国MOTIEと英国エネルギー気候変動省(DECC)(当時)が民生用原子力分野における商業面の協力について了解覚書を締結。今年4月には、原子力や再生可能エネルギーなど、クリーン・エネルギーの開発加速やエネルギー供給の確保に向け、これまで以上に緊密に協力していくとの共同宣言を発表している。両国は今回、エネルギー分野の現行協力を継続する重要性や、民生用原子力発電所がエネルギーの供給保障や地球温暖化への対応で果たす重要な役割に鑑み、官民の両面で原子力関係の協力を強化することを確認。従来の大型炉や小型モジュール炉(SMR)、その他の先進的原子炉を建設する意欲が双方にあることから、協力して進めていく考えだ。今回の覚書はMOTIEとDECCが10年前に結んだ覚書に代わるもので、カバー項目は先進的原子炉技術のほかに核融合技術や原子燃料、原子力発電所の新規建設と運転およびメンテナンス、原子力関係プロジェクトへの資金調達、放射性廃棄物管理、廃止措置、安全・セキュリティおよび核不拡散など。両政府はともに、それぞれの産業界が中心的な役割を担うことを認識しており、政府機関同士や民間企業同士の協力も促進。英国からは、原子力廃止措置機構(NDA)や今年7月に原子力発電所新設の牽引役として発足したばかりの政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」、国立原子力研究所(NNL)、英国原子力産業協会(NIA)などが参加。韓国からは、KEPCOとその傘下企業、韓国原子力産業会議(KAIF)、韓国原子力環境公団(KORAD)などが参加し、双方の協力活動を支援するとしている。なお、KEPCOの今回の発表によると、同社のキム・ドンチョル社長一行は20日にウェールズで2015年に閉鎖されたウィルファ原子力発電所を訪れており、同発電所の新規原子炉建設用サイトを視察した。同サイトの諸条件や原子力への地元住民からの支持などを確認したほか、21日には両国原子力産業界の協力に向けたイベントを開催し、双方の政府関係者や関係企業の代表者を前に、韓国製PWR「APR1400」が国内外で成功裏に建設、運転されているとアピール。22日にはビジネス・フォーラムに参加して、ウェールズ原子力フォーラム(Wales Nuclear Forum)や原子力関係の人材センターであるマクテック・エナジー・グループ(Mactech Energy Group)社と協力強化のための覚書を交わした。このほか、韓電原子力燃料(KNF)や韓国プラント・サービス(KPS)なども、英国のエネルギー関係のコンサルティング企業であるモット・マクドナルド(Mott MacDonald)社やAB5コンサルティング社、産業設備メーカーのヘイワード・タイラー(Hayward Tyler)社などと覚書を締結している。(参照資料:DESNZの発表資料①、②、MOTIEの発表資料、KEPCOの発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Nov 2023
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カナダ・オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は11月20日、100%子会社のコンサルティング企業であるローレンティス・エナジー・パートナーズ(Laurentis Energy Partners=LEP)社とともに、サスカチュワン州の州営電力であるサスクパワー社の小型モジュール炉(SMR)建設プロジェクトへの協力を強化すると発表した。OPG社はカナダで稼働する全19基の商業炉のうち18基を所有しており、原子力発電所が立地しないサスカチュワン州のSMR導入計画を引き続き支援するため、これまで実施してきた原子力関係の協力を拡大。LEP社とサスクパワー社が今回締結した5年間有効な「マスター・サービス協定(MSA)」を通じて、OPG社が原子力発電所の運転で蓄積した経験や専門的知見、技術的資源などをサスクパワー社と共有するほか、今後協力の可能性がある分野としてプロジェクト開発や発電所の運転などを挙げている。3社の発表によると、この協定はサスカチュワン州におけるSMR開発の効率化を目的としたもので、両州間の長期的な戦略協力の基盤になる。LEP社は具体的に、建設プログラムの管理や許認可手続き、発電所の運転に向けた準備活動等に集中的に取り組むとしており、両州の産業サプライヤーを調整してカナダで複数のSMR建設を可能にするほか、両州の大学や職業訓練校とも協力して技術力を改善。サスカチュワン州がクリーンで信頼性の高い原子力を電源ミックスに加えられるよう、サポートしていく考えだ。OPG社は2021年12月、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所で建設するSMRとして、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」を選定。今年7月には追加で3基建設すると表明しており、2028年末までに初号機を完成させた後、2029年末までの運転開始を目指している。サスクパワー社は2022年6月、同州で建設する可能性がある初のSMRとして同じく「BWRX-300」を選定したが、これはオンタリオ州の方針に追随することで初号機建設にともなうリスクの回避を狙ったもの。現在、建設候補地を選定中で、2029年に建設実施の判断が下れば、2030年代半ばまでに最初のSMRの運転を開始する。3社の今回の発表に同席したオンタリオ州エネルギー省のT.スミス大臣は、「OPG社が培ってきた知見やサプライチェーンを活用し、サスカチュワン州のみならずカナダ全土や世界中でSMRの建設計画を支援する準備ができている」と表明。サスカチュワン州のD.ダンカン・サスクパワー社担当大臣は、「今回の協定は両州にとって有益なだけでなく、今後数十年にわたりカナダのエネルギー供給保障を持続的に支えていく」と強調している。カナダでは2019年12月、オンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州が「多目的SMR開発・建設のための協力覚書」を締結しており、2021年4月にアルバータ州もこれに参加。2022年3月には、これら4州でSMRの開発と建設に向けた「共同戦略計画」を策定している。(参照資料:OPG社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Nov 2023
1732
フランス電力(EDF)は11月16日、同国北西部のパンリー原子力発電所(PWR×2基、各138.2万kW)で改良型欧州加圧水型炉(EPR2)2基を増設する計画について、同国の大手建設企業であるエファージュ(Eiffage)社と土木工事契約を締結した。同契約の入札は2019年に開始されており、エファージュ社のグループ企業であるエファージュ・ジェニ・シビル(Eiffage Génie Civil)社は、総額40億ユーロ(約6,500億円)以上というこの契約で、直径50mのドーム屋根を備えた高さ70mの原子炉建屋やタービン建屋の建設部分、総床面積15,000m2という6階建ての管理棟など、2基分の合計で69の構造物を建設する。同工事の準備作業は、行政当局からEDFに環境影響面の認可が下り次第、2024年の半ば頃に開始することになる。EDFはフランス経済の脱炭素化やエネルギー自給の観点から、2021年5月に政府に対し国内でのEPR2建設を提案。パンリー発電所で最初の2基を建設した後、グラブリーヌ原子力発電所(PWR×6基、各95.1万kW)で追加の2基を、その後さらに2基をビュジェイ原子力発電所(PWR×4基、各90万kW級)か、トリカスタン原子力発電所(PWR×4基、各95.5万kW)で建設するとしていた。E.マクロン大統領は2022年2月の東部ベルフォールにおける演説で、合計6基のEPR2を国内で新たに建設するほか、オプションとしてさらに8基の建設に向け調査を開始する計画を発表しており、独立行政機関の国家公開討論委員会(CNDP)は同年10月から4か月間にわたり、これらの計画も含めたフランスの将来のエネルギー・ミックスに関する公開討論を実施した。EDFは公開討論の結果を踏まえ、EPR2の最初の2基をパンリー発電所で建設する計画に大筋の合意が示されたとしていた。フランスの閣僚会議もこの計画の実現に向けて、時間のかかる行政手続きを簡素化するための法案を2022年11月に承認した。同法案は2023年5月にフランス議会で可決され、翌6月に発効。EDFはその数日後、パンリー発電所でEPR2を2基建設するための設置許可申請書(DAC)を規制当局に提出している。エファージュ社によると、今回の契約では関係雇用の創出を通じて地元経済の活性化にも貢献する方針で、工事のピーク時には約4,000名の労働者を動員する計画である。同グループはまた、建設プロジェクトの関係者と協力して、フランス原子力産業の再活性化に重要な従業員の訓練プログラムも作成するとしている。なお、後続のEPR2建設計画については、マクロン大統領が議長を務める閣僚級の「原子力政策審議会(CPN)」が、パンリー発電所と同じ地域内のグラブリーヌ発電所を建設サイトとしてすでに承認済み。これに続いてCPNは今年7月、3番目の建設サイトとして東部のビュジェイ発電所を承認している。(参照資料:エファージュ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Nov 2023
1381
スウェーデン政府は11月16日、原子力発電所の新設に向けたロードマップを公表。非化石燃料による電力を競争力のある価格で安定的に確保し、社会の電化にともない必要となる総発電量を25年以内に倍増させるため、遅くとも2035年までに大型炉2基分に相当する原子力発電設備を完成させるほか、2045年までに大型炉で最大10基分の設備を建設するなど、原子力発電の大規模な拡大を目指すとしている。スウェーデンでは2022年9月の総選挙で中道右派連合の新政権が発足し、同年10月のティード城における政策協議で、環境法に記されている原子力発電関係の禁止事項(新たなサイトでの原子炉建設禁止、同時に運転できる原子炉の基数は10基まで、閉鎖済み原子炉の再稼働禁止)を撤廃すると決定。2040年までにエネルギー供給システムを100%非化石燃料に変更するため、2026年までに最大4,000億クローナ(約5兆5,000億円)の投資を行い、新規原子力発電所の建設環境を整えていくと表明した。今年1月には、U.クリステション首相がその環境法の改正を提案しており、3か月間の意見募集を経て政府は9月末に同法の改正法案を議会に提出、2024年1月初頭にも同法案の成立・発効を目指している。今回のロードマップについて、気候・企業省のE.ブッシュ・エネルギー産業担当相や雇用省のJ.パーソン労働市場担当相など関係閣僚らは、「原子炉の新設に道を拓く一連の政府決定により、スウェーデンは再び主要な原子力発電国となるための基盤を築き、欧米諸国のクリーン・エネルギーへの移行を強力に後押しする」と説明。CO2排出量を実質ゼロにするには、可能な限り多くのクリーン・エネルギーを必要とするため、新規原子力が担う役割は非常に重要だとした。E.スヴァントソン財務相も、「一般消費者や企業に安定的にエネルギーを供給するには原子炉の新設が必要だ」と指摘。資金調達は政府が担うべきものだと述べた。今回決定した原子炉建設ロードマップの主要ポイントは以下の4点。政府は原子力発電コーディネーターを設置し、新規建設を促すとともに障害となる条件を取り除く。また、追加対策の必要性を見極めるほか、原子力発電の効率的な拡大に向けてすべての関係者の方向性を明確に定めてこれを進めていく。原子力発電の拡大には長期的な財務リスクがともなうことから、政府はこれまでに4,000億クローナの政府信用保証を導入すると提案しているが、これだけでは不十分。これに加えて、原子力への投資意欲を一層刺激するため、政府とリスクを共有するための資金提供モデルと国の財務責任を明確化する。遅くとも2035年までに、少なくとも合計250万kW以上の原子力発電設備を新たに建設するため、政府はこれまでの措置に加え、今回のロードマップで追加の対策を推し進める。非化石燃料による発電電力の2045年までの長期的な需要を考慮すると、例えば大型炉10基分に相当する設備の拡大が必要になるが、具体的な設備容量と炉型は、電力供給システムの拡大速度や技術開発など様々な要因を見極めて決定する。これらの政策に基づき政府はすでに今月17日、信用保証供与の準備を整えるよう国債庁に指示している。(参照資料:スウェーデン政府の発表資料(スウェーデン語)①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Nov 2023
3647
米国でモジュール式マイクロ原子炉(MMR)を開発中のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)は11月15日、フィリピンで1基以上のMMRを建設する可能性を探るため、同国最大の配電会社であるマニラ電力(通称メラルコ社)と協力協定を締結した。MMRを組み込んだエネルギー供給システムの建設がフィリピンの環境と社会に及ぼす影響や、技術面と立地面の要件、商業的な実行可能性などを予備的に調査するのが目的。商業炉を持たない同国で先進的原子炉技術の導入を促し、同国の長期的なエネルギー安定供給と供給源の多様化に貢献していく考えだ。フィリピンでは、1976年にバターン半島で着工した米国製の60万kW級PWRが1985年に9割がた完成したものの、チェルノブイリ事故の発生を受けて、当時のアキノ政権はその安全性と経済性を疑問視。運転認可を発給しなかった。今回の原子力導入に向けたメラルコ社の動きは、同社の長期的持続可能性戦略の一部であり、MMRのような次世代エネルギー供給システムを採用することで、同社はクリーン・エネルギーへの移行を加速。同社はまた、近年「フィリピン人学者とインターンのための原子力工学プログラム(FISSION)」を開始しており、原子力工学の高度な教育・訓練を通じて、技術分野や規制分野の人材を育成するとしている。USNC社によると、今回の協定締結は今年8月に両社が結んだパートナーシップに基づくもので、同協定の下でUSNC社は約4か月かけて事前の実行可能性調査を実施する。MMRによるエネルギー供給システムの詳細や、同システムをフィリピンで効果的に活用する方法などをメラルコ社に説明するとしており、メラルコ社はこの調査結果を土台として、MMR建設プロジェクトの実施に向けた詳細な調査活動や、特定したサイトでのプロジェクト開発について重要な判断を下すことになる。また、建設資金の調達についても評価が行われる予定で、調査の結果次第で同計画は詳細な実行可能性調査に移行する可能性がある。協力協定は、第30回アジア太平洋経済協力会議(APEC)非公式首脳会議が米サンフランシスコで開催されたのに合わせ、メラルコ社のM.V.パンギリナン会長兼CEOとUSNC社のF.ベネリCEOが調印。これには2022年5月のフィリピン大統領選前から、同国初の原子力発電所建設に意欲を示していたF.マルコス大統領も同席した。USNC社のMMR(電気出力0.5万~1万kW、熱出力1.5万kW)は、ヘリウムを冷却材に使用する第4世代の小型モジュール式高温ガス炉。同炉を使ったエネルギー供給システムでは、最大4.5万kWの熱を熱貯蔵ユニットに蓄え、これを従来のタービン方式で電気に変換するという。USNC社は米国内で今後、MMRの許認可手続きを円滑に進められるよう、すでに米原子力規制委員会(NRC)と事前の協議を始めている。また、カナダ原子力研究所のチョークリバー研究所内でMMR初号機を建設するため、同社とカナダ・オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。MMRで使用する3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)については、USNC社は2022年8月、この燃料を使って「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」を製造するパイロット施設(PFM)をテネシー州のオークリッジにオープン。その後、同社は今年1月に、TRISO燃料とFCM燃料ペレットを商業規模で製造する合弁事業体の設立に向け、仏フラマトム社と予備的合意文書を交わした。6月には、PFMで製造したTRISO燃料を米航空宇宙局(NASA)の「宇宙探査用原子力推進(SNP)プログラム」用に納入している。(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Nov 2023
2097
ニッケルやパラジウムなど非鉄金属の採鉱で世界的大手企業であるロシアのノリリスク・ニッケル(Norilsk Nickel)社は11月13日、ノリリスク産業地区における電力供給源として小型モジュール炉(SMR)の利用可能性を探るため、ロシアの原子力総合企業ロスアトム社と合意文書に調印した。ロシア北部のノリリスク-タルナフ地域に位置する同産業地区は、ロシアの主要送電網から離れているため、安定したエネルギー供給システムが強く求められてきた。今回の合意に基づき、ノリリスク社は独自の戦略開発計画に沿ってSMRが導入可能か調査する方針。ロスアトム社が開発した最新の陸上設置式SMR「RITM-400」を最有力候補に、複数のオプションを比較評価するほか、立地に最も適した地点をロスアトム社とともに選定。必要となるインフラ設備なども確認する。候補炉である「RITM-400」は電気出力8万kW~9万kWとなる予定だ。ロスアトム社はこれまでに傘下のOKBMアフリカントフ社を通じて、海上浮揚式原子力発電所(FNPP)に搭載するSMRとして「KLT-40S」(電気出力3.5万kW)や「RITM-200M」(電気出力約5万kW)、陸上用として「RITM-200N」などを開発。極東のチュクチ自治区では、世界初のFNPPとして「KLT-40S」を2基搭載した「アカデミック・ロモノソフ号」が、2020年5月から同地区内のペベクに電力を供給中である。同地区ではまた、バイムスキー銅鉱山プロジェクト用として、鉱山近郊のナグリョウィニン岬に「RITM-200M」を2基搭載した「最適化・海上浮揚式原子炉(OFPU)」の配備が進められている。 このほか、ロシア北東部に位置するサハ共和国ウスチ・ヤンスク地区では、陸上用の「RITM-200N」を2028年までに完成させる計画があり、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)は2021年8月、ロスアトム社の国際事業部門としてこの計画を担当するルスアトム・オーバーシーズ社に、建設許可を発給している。(参照資料:ノリリスク・ニッケル社、ロスアトム社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Nov 2023
1728
ノルウェー南部のハルデン自治体と新興エネルギー企業のノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社、およびエストフォル・エネルギー(Østfold Energi)社は11月10日、かつて研究炉が稼働していたハルデンで小型モジュール炉(SMR)建設の実現可能性を探るため、共同でハルデン・シャーナクラフト社(Halden Kjernekraft AS)を設立した。同社の調査結果に基づき、後の段階で建設の是非を決定する方針だ。3者の発表によると、オスロ特別市や近隣のアーケシュフース県、ハルデンなど18の自治体を含むエストフォル県では目下、160億kWhの電力不足に陥っているという。国内送電網を所有・運営する国営企業のスタットネット社は、この地域で新たな発電・送電容量を追加しない限りこの需要を満たせる設備はなく、現行計画のままでは2035年までこうした設備の追加は望めないと警告している。ハルデンでは1950年代から2018年6月まで、60年以上にわたりエネルギー技術研究所(IFE)がハルデン研究炉(BWR、最大熱出力2.5万kW)を運転。この実績に基づいて同自治体は前日の9日、SMRの立地調査を行なう新会社の設立構想を決定した。同自治体は、「エストフォル県における電力不足の解消策としてSMRを加えるべきか、あらゆる可能性を模索すべき時が来た」と表明している。新たに設立されたハルデン・シャーナクラフト社にはハルデン自治体が20%出資するほか、ノルスク・シャーナクラフト社とエストフォル・エネルギー社がそれぞれ40%ずつ出資。ノルスク・シャーナクラフト社は近年、同国初の商業用原子力発電所となるSMRの建設計画を独自に進めており、この計画についてフィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)のコンサルティング子会社から支援を得るため、今年6月にこの子会社と基本合意書を交わした。ノルスク社はすでにノルウェー国内で複数の立地候補地を特定しており、これらの自治体と結んだ協定に基づき、今月2日には候補地の一つで調査プログラムの実施を石油・エネルギー省に申請している。ノルスク・シャーナクラフト社のJ.ヘストハンマルCEOは、「ハルデンでは原子炉が長期間稼働していたため、適切な判断を下すだけの専門的知見があり住民も抵抗がない」と指摘。長期的な雇用の創出も見込まれることから、原子力が同自治体の電力需要に貢献するか徹底的に調査することは、意義があると述べた。エストフォル・エネルギー社は、エストフォル県の全自治体、および同県が所在するヴィーケン地方の議会が共同保有するエネルギー企業で、ハルデン自治体も7.67%出資している。水力を中心に太陽光や風力など、様々な再生可能エネルギーで電力を供給中だが、同社のM.バットネ取締役は「原子力は再エネの代替エネルギーというより、再エネを長期的に補完していくエネルギーになり得る」と強調。「最新の原子力発電所は、敷地面積が小さく運転時間が長いなど有利な点も多いが、十分な解決策を要する課題も多いため、今回の調査も含めて様々な議論を行うべきだ」としている。(参照資料:ハルデン自治体、ノルスク・シャーナクラフト社、エストフォル・エネルギー社の発表資料(すべてノルウェー語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Nov 2023
1831
オランダのULCエナジー社が同国内で進めている英ロールス・ロイスSMR社製小型モジュール炉(SMR)の建設計画に、同国の建設企業BAMインフラ・ネーデルランド社が加わった。3社はそのための基本合意書に11月7日付で調印しており、ロールス・ロイスSMR社のSMRを標準設計としてオランダで複数基建設し同国のクリーン・エネルギーへの移行を促すなど、長期的に協力していくことを確認した。原子力プロジェクトの開発企業であるULCエナジー社は、2022年8月にオランダ国内でロールス・ロイスSMR社の技術を使用する独占契約を同社と締結。実証済みの技術に基づく最新鋭のモジュール式原子炉の建設を通じて、信頼性の高い安価なエネルギー供給システムを構築することになる。ロールス・ロイスSMR社は、英ロールス・ロイス社が80%出資する子会社として2021年11月に設立された。同社によると、同社製SMRは既存のPWR技術を活用した出力47万kWのモジュール式SMRで、少なくとも60年間稼働が可能。ベースロード用電源としての役割を果たすほか、不安定な再生可能エネルギーを補い、再エネ電源の設置容量拡大にも貢献できるという。2022年4月からは、英原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同炉について「包括的設計審査(GDA)」を開始している。また、英政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)(当時)は2021年11月、民間部門で行われている投資支援のため、同社に2億1,000万ポンド(約391 億円)を提供すると約束。ロールス・ロイスSMR社はすでに英国内の建設候補地として、閉鎖済みの原子力発電所サイトなど4地点を選定しており、2030年代初頭にもSMR発電所を送電網に接続することを目指している。国外ではポーランドやウクライナ、スウェーデン、フィンランド等での建設に向けて、協力覚書を結んでいる。BAMインフラ・ネーデルランド社は、欧州の建設大手であるロイヤルBAMグループの傘下企業で、オランダでは150年以上にわたり様々なインフラ設備を建設してきた。ロールス・ロイスSMR社のSMRは、1基でオランダ国内の140万世帯に十分なクリーン・エネルギーを供給できるほか、工場で製造したモジュールを現地で組み立てることで従来の大型炉と比べて工期が短くなり、世界中で幅広く利用が可能と高く評価している。BAMインフラ・ネーデルランド社のS.デンブランケン商業事業開発理事は今回、「戦略的パートナーとなったロールス・ロイスSMR社、ULCエナジー社とともにクリーン・エネルギーへの移行に向けた長期計画を作成する」と表明。「SMRという強力な解決策を通じて、迅速かつリスクを最小限に抑えながらオランダにイノベーションをもたらし、一層持続可能な国にしたい」と抱負を述べた。ロールス・ロイスSMR社サプライチェーン・グループのR.エベレット・グループリーダーは、「ロイヤルBAMグループとは英国子会社のBAMナットル社を通じてすでに協力関係にあるので、今回の合意に基づいて事業機会を模索していく」と表明している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社、BAMインフラ・ネーデルランド社(オランダ語)、ULCエナジー社(オランダ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Nov 2023
2029