米テラパワー社は3月29日、米原子力規制委員会(NRC)に自社が開発する「Natrium」炉の建設許可を申請した。ワイオミング州南西部のケンメラーに電気事業者パシフィコープ社が所有する閉鎖予定の石炭火力発電所の近くに、「Natrium」を建設する計画だ。建設許可申請は商業規模の先進炉としては米国初であり、許可に先立って、今年の夏には非原子力部の建設工事を開始する。「Natrium」炉は、HALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を使用する電気出力34.5万kWのナトリウム冷却高速炉(SFR)で、GE日立・ニュクリアエナジー社との共同開発。熔融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを併設し、ピーク時には電気出力を50万kWまで増強して5.5時間以上稼働が可能だ。米エネルギー省(DOE)が支援する先進的原子炉実証プログラム(ARDP)の5~7年以内に実証可能な炉に2020年10月に選定されたプロジェクトの1つである(もう1つは、X-エナジー社の高温ガス炉「Xe-100」)。なお、テラパワー社は、マイクロソフト社創業者のビル・ゲイツ氏が設立、会長を務めるベンチャー企業。テラパワー社は、サザン・カンパニーやオークリッジ国立研究所(ORNL)、米電力研究所(EPRI)などと塩化物熔融塩高速炉「MCFR」の開発も共同で進めており、その前段階の実験炉「MCRE」はARDPの将来実証炉リスク低減プロジェクトの枠組みでDOEから支援を受けている。「MCRE」はアイダホ国立研究所で建設、運転される計画だ。同社のC.レベスク社長兼CEOは、今回の申請は「Natrium」の市場投入に向けた画期的な一歩であり、クリーンで信頼性が高く、電力負荷の変化に追従する柔軟な運転が可能な電源の導入により、ケンメラーに長期的な雇用をもたらすと指摘、NRCとは許認可申請前活動で緊密に連携しており、許可取得に自信をのぞかせる。今年夏の非原子力部の着工にあたっては、地元のステークホルダー、議員、規制パートナーらと緊密に連携していくとしている。同社は当初、ロシアから供給されるHALEU燃料を使用し、2028年までに「Natrium」の稼働を計画していたが、ウクライナ紛争でロシアからのHALEUの継続的な供給が不可能となったため、国内での調達可能性を探りつつ、2030年の運転開始を予定している。なお、パシフィコープ社は、2023年の統合資源計画(IRP)で、2033年までにさらに2基の「Natrium」をユタ州で稼働中の石炭火力発電所の近くに設置することも検討している。
03 Apr 2024
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米エネルギー省(DOE)融資プログラム局(LPO)は3月27日、2022年5月に閉鎖したパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)の再稼働に向け、同発電所を所有するホルテック社に対して15.2億ドル(約2,306億円)を上限とする条件付き融資保証を決定した。この計画が進めば、閉鎖後に再稼働する米国初の原子力発電所となる。ホルテック社は、原子力発電所の廃止措置のほか、放射性廃棄物の処分設備や小型モジュール炉(SMR)の開発など、総合的なエネルギー・ソリューションを手掛ける企業。同社は2018年、ミシガン州南西部のパリセード発電所の廃炉に向けて、当時の所有者兼運転者のエンタジー社から同発電所の買収で合意。閉鎖から数週間後の2022年6月に買収が完了し、2041年までにサイトの解体、除染、復旧作業を完了する計画だった。しかし、CO2の排出削減に各国が取り組む中、原子力がクリーンなエネルギー源として重視されるようになり、DOEが既存の原子力発電所の早期閉鎖を防止するため2022年4月に設置した「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」に同発電所を適用対象として申請した。しかし、同発電所への適用は認められず、2023年初め、再稼働に必要な融資を求めてDOEのLPOに連邦融資資金を申請していた。パリセード発電所の再稼働方針は、ミシガン州のG.ホイットマー知事も2022年9月に支持を表明。同知事が2023年7月に署名したミシガン州の2024会計年度の州政府予算法案で、同発電所の再稼働に向けて1.5億ドル(約228億円)の支援を盛り込んでいる。ホルテック社は2023年9月、州内の非営利団体のウルバリン電力協同組合と、子会社を通じて再稼働時に同発電所による発電電力の長期の電力売買契約(PPA)を締結。同10月には米原子力規制委員会(NRC)にパリセード発電所の運転認可の再交付を申請した。DOEによると、ホルテック社はNRCの承認を条件に同発電所を稼働させ、少なくとも2051年までベースロードのクリーン電力生産のために改良する計画だという。同発電所の再稼働により、年間約447万トン、今後25年間で合計1.11億トンのCO2排出が削減される見込み。DOEのJ.グランホルム長官は、「原子力発電は、米国でカーボンフリーの唯一最大の電源であり、全米で10万人の雇用を直接支え、さらに数十万人の雇用を間接的に支えている」とし、「J.バイデン大統領の『米国への投資(Investing in America)』アジェンダは、パリセード発電所への多額の資金提供により、ミシガン州で活気に満ちたクリーンエネルギー分野において労働力を支援・拡大するもの」と強調している。DOEによる融資保証の発表を受け、ホイットマー知事は「パリセードの再稼働により600名の高賃金・高スキルの雇用維持と80万世帯にクリーンで信頼性の高い電力供給が可能になる。再稼働すれば、パリセードは米国初の閉鎖後の再稼働に成功した原子力発電所となり、地域経済に3.63億ドルの好影響をもたらす」と述べた。パリセード発電所の再稼働は、2022年8月に署名された米国インフレ削減法に基づくエネルギーインフラ再投資(Energy Infrastructure Reinvestment: EIR)プログラムを通じて条件付きの融資保証を提供された初プロジェクト。EIRプログラムでは、温室効果ガス排出への対処を目的に、稼働していない既存のエネルギーインフラの再稼働や、稼働中のインフラに対するプロジェクトへの融資が可能である。ホルテック社は、DOEが最終的な融資文書を作成し融資を実行する前に、一定の技術的、法的、環境的、財務的条件を満たす必要がある。なお、ホルテック社はパリセード・サイトに小型モジュール炉(SMR)の2基導入も計画している。DOEによるとSMRは条件付き融資の対象ではないが、「既存インフラを活用しながら、敷地内に容量を追加し、気候変動との闘いに不可欠な新型炉の国内開発を促進する可能性がある」という。パリセード発電所は1971年に営業運転を開始。閉鎖に至るまでの50年以上、安全で信頼性の高い運転実績を持つ。運転の認可期限は2031年であったが、エンタジー社は売電契約が満了したタイミングで同発電所を閉鎖した。同発電所は閉鎖後に燃料を取出し済みで、再稼働にあたっては、既存の発電所インフラを利用するが、既存設備の点検、試験、改修等は必要である。
02 Apr 2024
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カナダのプロディジー・クリーン・エナジー社と先住民経済開発公社のデ・ネイド・グループ(Des Nëdhé Group)は3月19日、米ウェスチングハウス(WE)社製マイクロ炉を搭載した洋上可搬型原子力発電所による、カナダ遠隔地の鉱業や先住民コミュニティへの電力供給に向けた開発に係る覚書に調印した。覚書に基づき、プロディジー社とデ・ネイド社は、可搬型原子力発電所(TNPP)プロジェクトの可能性を探り、カナダ全土のファーストネーション(First Nations)、イヌイット(Inuit)、メティス(Metis)に分類される先住民族が新設されるTNPPに資本参加するケースや、先住民族の労働力がTNPPの商業化と戦略的インフラ開発で主導的役割を果たすケースなどを確認していく。プロディジー社は、この協力は、カナダ北部での長年にわたるディーゼルによる電熱供給に代わって、クリーンなエネルギーへの移行により先住民族のリーダーシップを拡大し、経済的にも解決をめざす上で重要な一歩であるとの見解を示し、「カナダ北部における革新と成長の可能性は無限だ。カナダ国土の40%近くを誇り、何千キロもの険しい海岸線と蛇行する川、金属や鉱物資源の膨大な埋蔵量、豊かな先住民族の文化と伝統、そして世界でも有数のオーロラ鑑賞スポットなど、カナダ北部の辺境地域は経済発展の機が熟している」と語る。その一方で、「北部の産業成長の実現に必要なクリーンで手頃な価格のエネルギー供給が不足している。南部と異なり、送電網とディーゼルの代替エネルギーインフラ導入はコスト高により実現できず、先住民族は貧しいエネルギーインフラしか持たず、資源へのアクセスが限られ、何世代にもわたって成長の機会を奪われてきた。さらに最近では気候変動による環境の変化によって、先住民族の文化的伝統と持続可能な地域経済がますます脅かされている」と付け加えた。プロディジー社製TNPPは、造船所で建造、装備され、部分的に試運転された後、陸上または海上(岸辺)のいずれかに設置するために現場に輸送される。プロディジー社はWE社と共同で、WE社製のマイクロ炉「eVinci」搭載のTNPPを開発中である。「eVinci」は、分散型発電市場や、遠隔地のコミュニティ、鉱業、重要インフラ向けの小規模送電網のための「小型バッテリー」である。熱出力1.4万kW、定格電気出力0.5万kWのヒートパイプ冷却炉で、WE社によると、競争力と復元力のある電力と最小限のメンテナンスで優れた信頼性を提供する設計を特徴としている。TNPPは単一または複数の「eVinci」を搭載可能だ。
01 Apr 2024
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米国のX-エナジー社は3月14日、同社の小型モジュール炉(SMR)である「Xe-100」の将来の運転員向けに初の訓練施設を開設したと発表した。同施設はプラント・サポートセンター(PSC)と称し、本格的なプラント制御室シミュレーター、原子炉保護系のプロトタイプを備えるほか、バーチャルリアリティの体験が可能である。PSCは一度に最大52人の運転員を訓練する設計。X-エナジー社の訓練プログラムでは、PSCの仮想シミュレーション環境により、「Xe-100」の将来の運転員が現場に入る前に実践的かつ貴重な体験学習環境を提供する。高度な制御室シミュレーターは現実のプラント制御室を再現しており、運転員の操作性を高め、コスト効率向上を目的とした自動デジタルシステムを有する。新型原子炉概念の開発支援計画2015(ARC-2015)、先進的原子炉実証プログラム(ARDP)など、米国エネルギー省(DOE)のプログラムとの長年の技術協力に基づく。X-エナジー社によると、PSCは、「Xe-100」稼働前の人間工学と統合システムテストの検証と強化にも役立つという。「Xe-100」稼働後は、訓練と専門能力開発の強化のため、現場で収集された実際のパフォーマンスと運用データを活用して継続的に教育プログラムを実施する。また、「Xe-100」の拡大展開を支援するため地域センターを新たに設立する計画であり、運転、保守、訓練サービス事業の拠点とする計画だ。同社のC.セルCEOは、「PSCは、次世代の運転員の訓練に役立ち、当社の革新的かつ先進的SMRの初号機以降の展開を支えるもの。アナログからデジタル表示へ、過去のデータからリアルタイムのデータまで、これは米国の原子力を前進させるための非常に魅力的なツール」であり、今後の運転員育成の前進のきっかけとなれば、と期待を寄せる。「Xe-100」は、TRISO燃料(3重被覆層・粒子燃料)を使用する電気出力8万kWの高温ガス炉。DOEが2020年、先進的原子炉実証プログラム(ARDP)で支援対象に選定した二つの設計のうちの一つである(もう一つは、テラパワー社の「Natrium」)。X-エナジー社は、米・大手化学メーカーであるダウ・ケミカル社のテキサス州メキシコ湾沿いに位置するシードリフトの製造施設に2020年代末までに「Xe-100」初号機の運転開始を予定し、テネシー州オークリッジでは、HALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))であるX-エナジー社独自のTRISO-X燃料の製造工場(TF-3)を建設中だ。米国北西部ワシントン州の電気事業者であるエナジー・ノースウェスト社とも「Xe-100」の展開で2023年に共同開発合意書を締結している。
29 Mar 2024
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米国、カナダ、英国の原子力規制当局はこのほど、先進炉と小型モジュール炉(SMR)の技術審査で協力するための三国間協力覚書に調印した。米原子力規制委員会(NRC)、カナダ原子力安全委員会(CNSC)、英原子力規制庁(ONR)間の協力覚書(MOC)は、3月12日に米・メリーランド州で開催されたNRCの年次規制情報会合で調印された。NRCのC.ハンソン委員長、CNSCのRジャマール委員長代理、ONRのM.フォイ長官兼主任原子力検査官が調印した。本協力覚書は、新型炉の国際展開の促進に向けて標準化が進む中、ベストプラクティスと規制経験を共有するという規制当局のコミットメントを強調するもの。この協力合意により、各国の規制要件を満たすための共通課題を検討し、共有のアプローチを開発していく。また、許認可申請前活動、研究、訓練、新たな技術的課題についても協力を推進する。本覚書に基づき、三機関は先進炉やSMRの共同技術審査の促進に向けた協力を拡大するほか、ベンダーへのフィードバックを目的とした技術評価の実施等を行う際に、互いの経験、規制情報等の共有が可能となる。ONRのフォイ長官は、「規制側による検討と承認を求める原子炉技術の急速な成長を考慮すると、規制の有効性と効率性の双方を向上させる規制当局間の提携アプローチが不可欠である。この協力合意は、技術的な知識と判断を共有し、安全基準を維持しながら規制の合理化を通じて、規制当局の時間と資源の効率化を確実にするもの」と語る。NRCのハンソン委員長は、この合意は先進炉の安全かつ効率的な導入に向けた海外カウンターパートとの協力の大きな成果であるとし、「ここ数年、CNSCとの共同報告書の作成が複数の先進炉設計に関する重要な許認可活動を支えてきたことを目の当たりにしてきた」と述べ、SMRと先進炉の建設許可申請を検討する際のONRによる貢献に期待を寄せた(NRCはCNSCとはSMRならびに先進炉に関する協力覚書を2019年に締結しているが、ONRとは未締結)。CNSCのジャマール委員長代理は、「CNSCは、長年のパートナーであるNRCならびにONRと初の三国間協力覚書を締結できたことを喜ばしく思う。これは、三機関が共有するスキル、経験および知識を最大限に活用して協力するための枠組み。規制の効率性を高め、先進炉に対する審査の有効性の強化に資するだろう」と述べた。
27 Mar 2024
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アラブ首長国連邦(UAE)で建設中だったバラカ原子力発電所4号機が3月23日、送電網に接続し、送電を開始した。同機(PWR=APR1400、140万kW)は、3月1日に起動、初臨界を達成していた。首長国原子力会社(ENEC)によると、4号機の送電開始により、UAEの総電力需要の25%が原子力で供給される。UAE初の原子力発電所であるバラカ発電所は、2012年7月からUAE北部のアブダビ首長国で建設工事が本格的に始まり、1、2、3号機はそれぞれ2021年4月、2022年3月、2023年2月から営業運転中である。いずれも韓国製のPWR(APR1400、140万kW)を採用し、運転や保守は2016年に設立されたENEC(株式保有シェア82%)と韓国電力公社(KEPCO)(同18%)の合弁企業であるNAWAHエナジー社が行っている。4号機は今後、出力を徐々に上げながら試験運転を行い、フル出力運転をめざす。ENECによると、1~3号機の建設や運転で得られたノウハウは、4号機の建設に活かされており、今回の4号機の系統接続は1~3号機よりも効率的に実施できた。これは複数の原子炉を段階的に建設する大きな利点だという。ENEC社のモハメド・アル・ハマディCEOは、「4号機の送電網接続により、バラカ発電所の全4基は商業運転への道を順調に歩んでいる。これにより、ネットゼロ経済に必要な年間400億kWhのクリーンなベースロード電力が供給可能になる。UAEの多くの企業の競争力を高め、産業の脱炭素化を実現するとともに、原子力産業界全体に世界的なベンチマークを提示する」と語った。
26 Mar 2024
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ポーランド国営の産業開発会社(Industrial Development Agency:IDA)に所属する産業グループの「インダストリア(Industria)」は3月11日、英国に拠点を置く投資ファンドで、ゼロエミッション・エネルギー関連デベロッパーのチルターン・バイタル・グループ(Chiltern Vital Group:CVG)と、英ロールス・ロイスSMR社製小型モジュール炉(SMR)のポーランドへの導入に関する基本合意書に調印した。昨年2月、インダストリアは、年間5万トンの水素を製造する計画の一環として、ロールス・ロイスSMR社製のSMR(PWR、47万kW)をエネルギー源に選定、同社と協力趣意書を交わしている。CVG社は、ロールス・ロイスSMR社などの英国のパートナーとともに、ゼロエミッション地域エネルギープロジェクトを立ち上げ、イングランド南西部のグロスターシャーのバークレー原子力発電所(閉鎖済みのマグノックス炉×2基)に隣接する敷地に、世界初のネットゼロ・原子力テクノロジーパークを創設、複数のネットゼロ技術とともにロールス・ロイスSMR社製のSMRを導入する計画だ。基本合意書には、ポーランドでの人材育成、原子力専用部品の認証手続きを加速するノウハウの交換、大規模な低炭素地域テクノロジーパーク創設に向けた関連技術の共同開発、SMRプロジェクトの実施を確実にする民間融資モデルの策定における協力が含まれている。インダストリアのS.ルマン社長は、「今回の合意は、戦略的に重要なポーランドと英国の官民パートナーシップのもう1つのステップ。SMRは地域の産業と家庭に少なくとも60年間電力を供給する、安定かつ低価格の低炭素エネルギー源である」と述べた。
26 Mar 2024
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ベルギー・ブリュッセルで3月21日、国際原子力機関(IAEA)とベルギー政府の共催による「原子力エネルギー・サミット」が開催された。原子力に特化した史上初の首脳会議であり、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長とベルギーのアレクサンダー・ドゥ=クロー首相が共同議長を務めた。30か国以上の首脳や閣僚、300名以上の原子力関係者らが出席し、化石燃料の使用の削減、エネルギー安全保障の強化、持続可能な開発の促進という世界的な課題に対処する上で、原子力が果たす重要な役割を再確認した。このサミットは、2023年12月にドバイで開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の成果文書でCOP史上初めて、炭素排出量を削減するための重要なアプローチの1つとして「原子力」が明記され、他の低炭素エネルギー源とともに原子力導入の加速が求められたことを受けて開催された。IAEAのグロッシー事務局長はサミットの開始にあたり、「原子力のタブーは終わり、原子力へのコミットメントの新たな章が始まった。クリーンなエネルギーへの移行は、グローバルな取り組みであり、世界は私たちが行動を起こすことを必要としている」とし、国際金融が原子力に資金を提供し、安全、確実かつ核不拡散に取り組みながら原子力の拡大を目指す、と語った。ベルギーのドゥ=クロー首相は、自国の政策変更(脱原子力から運転延長へ)に言及し、ネットゼロ目標を達成するためには、再生可能エネルギーとともに原子力をエネルギーミックスにとり入れる必要があるとの認識が高まっている、と述べた。出席した各国首脳や閣僚による一連のスピーチでは、エネルギー安全保障と脱炭素エネルギーの必要性が頻繁に言及されたが、国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は、記者団に対し、「原子力発電なしには、気候変動に関する目標を予定通りに達成することは不可能」と強調した。欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、欧州連合(EU)内では原子力について異なる見解があるとしつつも、気候変動問題への取り組みの緊急性から原子力は重要な役割を果たすべきであり、既存の原子力発電所の運転期間延長ではなく閉鎖を考えている国は、容易に利用可能な低排出エネルギー源である原子力を除外する前に、安全性の確保を条件にその選択肢を慎重に検討すべきであると語った。また、小型モジュール炉(SMR)を支援する国や企業による世界的な競争の拡大を歓迎し、技術革新を奨励した。大規模な原子力拡大計画を持つフランスのエマニュエル・マクロン大統領は、原子力は排出削減、雇用創出、エネルギー安全保障の強化を同時に達成する唯一の方法であると述べ、今回の新たな国家間の結束を歓迎し、エネルギー効率の改善と再生可能エネルギーならびに原子力の拡大が必要である、と述べた。日本の岸田文雄首相のメッセージを代読した高村正大外務大臣政務官は、経済成長とエネルギー安全保障を両立させるネットゼロ達成のため、クリーンエネルギーである原子力を再生可能エネルギーとともに可能な限り導入し、原子力への投資を促進する戦略を練ることが不可欠とした。なお、原子力の活用にあたっては、福島第一原子力発電所事故の教訓を活かした、原子力の安全確保が大前提である、と語った。米国のジョン・ポデスタ大統領補佐官(クリーンエネルギー、イノベーション担当)は、COP28で各国が約束した「2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍に拡大」させることは、米国では2億kWの設備容量拡大を意味するが、既に準備に着手しており、世界各国の原子力発電所の建設を支援することで、気候変動の危機への対処を目指す、と述べた。なお、各国首脳や閣僚による一連のスピーチの後、イノベーションが原子力の競争力、利用可能性、持続可能性をどのように高めていくか、また、原子力プロジェクトの資金調達とその公平な競争条件を確立するための課題についてなど、専門家によるパネルディスカッションが行われた。サミットに出席した各国首脳らは、電力と産業の両部門から温室効果ガス排出量を削減し、エネルギー安全保障を確保しつつ、長期的な持続可能な開発とクリーンなエネルギーへの移行を促進するための重要な要素である、原子力に対する強いコミットメントを再確認し、原子力の拡大を呼びかける共同宣言を採択した。共同宣言によると、国家間の協力を強化し、2050年までにネットゼロを達成するために、今後10年間で行動を加速する。具体的には、既存原子炉の運転期間延長、新規建設、SMRを含む先進炉の早期配備を支援する条件整備など、原子力の潜在力を完全に引き出すために取り組むほか、技術革新によって原子力発電所の運転性能、安全性及び経済性の向上、世界の原子力産業及びサプライチェーンの強じん性及び安全性の強化を図り、各国間の協力促進のため、原子力開発のための公正で開かれた世界的な市場環境を構築するとしている。さらに、国際金融システムにおける環境・社会・ガバナンス政策に対し、オプションとして原子力を含めることを求め、多国籍の開発銀行、国際金融機関などに原子力プロジェクトへの融資支援を強化する検討を行うことや、あらゆるゼロエミッションエネルギー源に対する資金調達での公平な競争条件の確立に支援を求めるとしている。最後に、「IAEAが加盟国と協力して、脱炭素化に向けて原子力への支援を構築し続けるために、しかるべき時期に次回の原子力エネルギー・サミットを開催することを歓迎し、支持する」と結んでいる。なお、このサミットでは、世界の原子力産業団体(日本原子力産業協会など計7団体)が気候変動対策とエネルギー安全保障の目標達成に向けて、原子力発電を拡大するという各国首脳のコミットメントを歓迎し、これに協力することを表明するとともに、産業界がその役割を果たすのに必要な政策の枠組みについて提言する共同声明を発表している。
25 Mar 2024
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米国最大のカーボンフリー電力の発電事業者であるコンステレーション・エナジー社(以下、コンステレーション社)は3月18日、同社の原子力プロジェクトの資金調達向けに9億米ドル(約1,350億円)相当の環境債(グリーンボンド)を発行したと発表した。同社は今後、調達した資金をCO2の削減やクリーンで信頼性の高い原子力発電の維持/拡大、運転期間延長などの投資に充てる予定。グリーンボンドは、地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど、環境分野への取組に特化した資金を調達するために発行される債券で、私企業による原子力プロジェクトの資金調達に利用できるものとしては米国初。最近では、グリーンボンドは、持続可能なプロジェクトへの投資を求める投資家の間で人気が高まっているという。今回のグリーンボンド発行について、コンステレーション社取締役副社長兼CFOのD. エガース氏は、「市場の大きな反響は、原子力が今後数十年にわたって重要な役割を果たすユニークなクリーン・エネルギー技術であり、投資家が安全で長期的な投資であると認識している証左」とコメント、原子力への投資は、長期的な持続可能性への投資であることを強調している。グリーンボンドをめぐっては、カナダのブルース・パワー社が2021年11月、原子力発電向けに世界で初めてグリーンボンドを発行、これまでに3回の募集で累計17億加ドル(約1,900億円)のグリーンボンドを発行している。さらに、カナダの州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社も2022年7月、ダーリントン原子力発電所(CANDU-850×4基)の改造工事の資金調達用に3億加ドル(約340億円)のグリーンボンドを発行しているほか、フランスでは2023年11月、フランス電力(EDF)が既存の原子力発電所の資金調達に特化した10億ユーロ(約1,600億円)のシニアグリーンボンド(低リスクの債権)を発行している。メリーランド州・バルチモアに拠点を置くコンステレーション・エナジー社は全米で14サイト・計21基、1,900万kW以上の原子力発電設備容量を保有する電力会社。同社によれば、原子力発電のほか、水力、風力、太陽光による発電事業により、米国の1,600万世帯以上の家庭や企業に電力を供給し、米国全体で生産するカーボンフリー電力の約10%を賄っている。
25 Mar 2024
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米国テキサス州・ヒューストンに拠点を置く電力会社のタレン・エナジー社は3月4日、同社が所有するペンシルベニア州北東部にあるキュムラス(Cumulus)データセンター・キャンパスを米アマゾン傘下のクラウド・サービス・プロバイダーであるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)社に売却したと発表した。売却額は6億5,000万ドル(約960億円)。キュムラスデータセンターは、タレン社が90%を所有、運転する隣接のサスケハナ原子力発電所(BWR, 130.0万kW×2基)から直接電力供給を受ける。キュムラス・キャンパス内には、同様に同発電所から電力を調達しているノーチラス(Nautilus)暗号資産(仮想通貨)施設が現在稼働中であり、タレン社はその75%の権益を保持している。キュムラス・キャンパスは、ビットコインのマイニングとクラウド・コンピューティング・サービスをホストする目的で設立されたもので、原子力サイトを活用する例としては全米初の試み。その他、同じペンシルベニア州内にあるビーバーバレー・サイト(PWR, 約98万kW×2基)でも同様の動きがある。AWS社は今後、同キャンパスを96万kW規模のデータセンターに拡張する計画で、一方のタレン社は10年間の電力購入契約(PPA)を通じて、サスケハナ発電所からカーボンフリーの電力をデータセンターに直接供給する計画だ。アマゾンは、2025年までに100%再生可能エネルギーによる事業の運営に向けて取り組んでおり、天候に左右される風力や太陽光発電を補完するために、今回カーボンフリーな原子力を選択したという。近年、米国などではデータセンター等の電力需要増を見込み、IT産業による原子力活用に向けた動きが報じられている。具体的には2023年6月、マイクロソフト社が電力会社のコンステレーション・エナジー社と、データセンター向けに原子力由来の電力供給契約を締結したほか、10月には大手ホスティングプロバイダーのスタンダードパワー社が、データセンター向けの電力供給用として、ニュースケール・パワー社のSMRを24基導入する計画(約200万kW規模)を発表している。国際エネルギー機関(IEA)によると、データセンターや人工知能(AI)などによる電力消費が、2026年までに倍増する可能性があり、2023年のデータセンターによる電力消費量4,600億kWh(推定)から2026年には1兆kWh以上に達すると予測されている。1兆kWhは、日本の年間電力消費量に匹敵する。
22 Mar 2024
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英国の新規建設の牽引役として昨年7月に発足した政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」は3月7日、ウェールズ北部、アングルシー島のウィルヴァ・サイトならびにイングランド南西部、サウスグロスターシャーのオールドベリー・サイトの原子力開発用地を日立製作所から買収したことを明らかにした。用地購入については、J.ハント財務大臣がその発表の前日、議会における年次予算演説の際に購入額1.6億ポンド(約308億円)で合意したと言及している。英政府は今年初め、エネルギー安全保障を強化し、2050年のCO2排出実質ゼロ(ネットゼロ)へ向けた原子力ロードマップを発表。2050年までに国内で合計2,400万kWの新規原子力発電所を稼働させ、国内電力需要の4分の1を原子力でまかなうとし、小型モジュール炉(SMR)の導入や、ヒンクリーポイントC、サイズウェルCに続く大型炉プロジェクトの検討も盛り込まれている。購入した2つの用地は、英国が原子力発電設備容量の拡大を目指していることから、新たな原子力発電所の建設サイトとして優先される見通しだ。デベロッパーで日立製作所の100%子会社であるホライズン・ニュークリア・パワー社は、ウィルヴァ・サイトに英国版の改良型沸騰水型原子炉(UK-ABWR)を2基建設する計画だった。しかし、日立製作所が2020年9月に建設プロジェクト事業運営からの撤退を表明したことから、2021年1月、英国の計画検査庁(PI)に提出した開発同意書(DCO)の申請を取り下げた。英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)のA.ボウイ原子力・ネットワーク担当相は、今回のウィルヴァとオールドベリーにおける用地獲得について「英国の原子力復興にとって大きな前進である。原子力産業にとって歴史的な場所であるウィルヴァとオールドベリーに原子力を復活させ、雇用、投資、クリーンエネルギーをもたらす」と語った。GBNのG.ジョーンズCEOも、これらの用地獲得を英国における新たな原子力開発にとって画期的な出来事とし、「ウィルヴァとオールドベリーのサイトは、非常に大きな可能性を秘めており、国にとっても地域社会にとっても大きなチャンス。両サイトは英国の原子力産業を受け入れてきた長い歴史を持ち、原子力発電が地元や地域経済にもたらすメリットを経験してきた。日立のこれまでのサイト準備作業により、これらの用地は非常に魅力的なものとなっている」と述べた。なお、GBNは同日、SMRの技術選定プロセスの次の段階が開始されたと発表した。入札参加資格のある企業は詳細な入札情報にアクセスでき、今年6月までに応札する必要がある。GBNは、今年後半に落札者を発表することを目標に、事前に入札者の評価作業を行う。その後2つのSMRプロジェクトを選定し、2029年までに最終投資決定(FID)を行う予定だ。昨年10月にSMRの支援対象選定コンペの最終候補者として、フランス電力(EDF)、英ロールス・ロイスSMR社、米ニュースケール・パワー社、GE日立・ニュクリアエナジー・インターナショナル社、ホルテック・ブリテン社、およびウェスチングハウス(WE)社英法人の計6社が選定されている。
22 Mar 2024
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英原子力規制庁(ONR)はこのほど、気候変動の影響に対する取組みとレジリエンスの評価を行うため、主任原子力検査官(Chief Nuclear Inspector, CNI)による検査対象として5原子力施設を選定した。主任原子力検査官が特定するテーマ別検査は、2017年に導入され、日常的な規制の検査活動よりも戦略的、またはより広範な規制事項を検査する。検査が重要な問題への認識を高め、原子力産業のみならず広範な公衆に対してONRの規制業務の重要性をアピールすることを目的としている。ONRの3月6日付発表によると、選定された5施設は、ヘイシャムB原子力発電所、サイズウェルB原子力発電所、セラフィールド施設(閉鎖炉や再処理施設等)、ドーンレイ原子力発電所(閉鎖炉)、核兵器施設(オルダーマストンとバーグフィールド)。これらは、運転寿命、安全性の重要度、知見の獲得の機会などの観点から選択されたという。検査は4月から12月の間に行われ、検査完了後に報告書が公表される。ONRのテーマ別検査チームは、英国環境庁(EA)、ウェールズ自然保護機関(NRW)、スコットランド環境保護庁(SEPA)と定期的に連絡を取るほか、海外の原子力規制当局とも本テーマへの取組みについて対話を続けている。ONRは2月、フランスの原子力安全規制当局(ASN)、オランダ原子力安全・放射線防護庁(ANVS)、ベルギー連邦原子力規制局(FANC)など各国規制当局と、気候変動が原子力部門に及ぼす影響について協議した。ONRは「4か国の環境面での類似性を考慮すると、気候変動の潜在的な影響への各国の準備の成熟度を比較し、規制のアプローチを共有することは大きな意味がある」「原子力施設のライフサイクルの各段階で気候変動に直面する際に効果的な規制を行い、原子力産業をその潜在的な悪影響から保護するため、国内ならびに国際的なガイダンス、基準、および良好事例との整合が不可欠である」とし、各規制当局が気候変動の影響に備えるための知見を共有、協力する国際的なネットワークを拡大することの意義を強調した。
21 Mar 2024
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米ホルテック・インターナショナル社傘下の英国法人ホルテック・ブリテン社は3月5日、韓国と英国の建設・エンジニアリング企業各社と、英政府招聘の小型モジュール炉(SMR)建設プロジェクトの入札参加に向けて協力覚書を締結した。ホルテック・ブリテン社が協力覚書を締結したのは、韓国の現代E&C(現代建設)社、英国を拠点とする建設会社のバルフォア・ビーティ社とエンジニアリング会社のモット・マクドナルド社。覚書の詳細は明らかにされていないが、ホルテック社が開発する「SMR-300」で英政府招聘の入札参加への協力体制を確立する。このパートナーシップは、昨年11月に英・韓両政府間で調印されたクリーンエネルギー・パートナーシップに基づくもので、協力覚書の調印式は、駐英韓国大使館で行われた。英政府は、2050年までに原子力発電設備容量を2,400万kWまで拡大する計画を発表しており、SMR導入も謳われている。新規建設の牽引役として昨年7月に発足した政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」がSMRの支援対象選定コンペを同月に開始。10月には、ホルテック・ブリテン社の他、仏EDF、米GE日立・ニュクリアエナジー社、米ニュースケール・パワー社、英ロールス・ロイスSMR社、米ウェスチングハウス(WE)英国法人が最終候補として発表され、近く、英政府招聘の入札に参加する予定だ。なお、ホルテック・ブリテン社は2023年12月、「SMR-300」の包括的設計審査(GDA)の準備のために、英政府の「未来の原子力実現基金(Future Nuclear Enabling Fund=FNEF)」から3,000万ポンド(約57億円)の補助金を交付されている。「SMR-300」は、米国と英国の現行の基準に基づくPWRがベースであり、単基出力は30万kW(ネット)。既存炉のサイズウェルBや建設中のヒンクリー・ポイントCを含む新規炉で使用されるものと同様のPWR燃料を使用するため、既存のサプライチェーンの活用が可能。ホルテック社は、同社のSMRが選定されれば、英国に工場を建設し主要なSMRコンポーネントを製造するほか、クリーンエネルギーならびに防衛部門におけるニーズへの支援も計画している。また、工場の稼働により2050年までに英国内で「SMR-300」を合計500万kW程度導入するだけでなく、主要な輸出ハブとなることにより、英国の長期的な戦略的パートナーとして数千人の雇用を創出する考えだ。ホルテック社グローバル・クリーン・エネルギー担当のR.スプリングマン社長は、「今回結成した世界クラスのチームは、『SMR-300』で英国のエネルギー安全保障戦略に有意義かつ確実に貢献する」と強調する。現代E&C社のユン・ヨンジュンCEO兼社長は、「ホルテック社との強力なパートナーシップに基づき、英国トップクラスのバルフォア・ビーティ社とモット・マクドナルド社との協力も得てGBNのSMRコンペを勝ち取り、プロジェクト実現と英国のネットゼロ達成への支援にさらに自信を持てる」と述べた。現代E&C社は、ホルテック・インターナショナル社と2021年11月に事業協力契約を締結しており、主要EPC(設計・調達・建設)契約企業としてホルテック社製「SMR-160」(出力16万kW)等のグローバル展開に協力している。
19 Mar 2024
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ロシアのレニングラード第Ⅱ原子力発電所3号機(PWR=VVER-1200、119.9万kW)が3月14日、着工した。同サイトでは、同型の4号機も建設予定である。ロシアのV.プーチン大統領は、オンラインで着工式典に参加。国内の原子力発電の見通しについて、「2045年までに、ロシアの総発電量における原子力シェアを25%にする計画だ。レニングラード発電所の新設はこの計画に大きく貢献し、ロシア北西部全体のエネルギー安全保障を向上させ、クリーンな電力供給を継続する」と語った。なお、現在の原子力シェアは約20%。現在、レニングラード発電所3、4号機(軽水冷却黒鉛減速炉のRBMK-1000、100万kW級)と隣接サイトの第Ⅱ発電所1、2号機(VVER-1200、120万kW級)が運転中。レニングラード発電所は半世紀以上にわたり、安価な電力を安定的に供給し、サンクトペテルブルク市とレニングラード州における現在の原子力発電量のシェアは55%、北西部連邦管区全体で28.5%となっている。1、2号機(RBMK-1000、100万kW級)は45年の運転期間を経て、第Ⅱ発電所1、2号機の運転開始後の2018年12月と2020年11月に閉鎖され、現在、廃止措置の準備中である。VVER-1200はロシアが開発した第3世代+(プラス)炉で、動的と静的、2種類の安全系を持ち、コンクリート製の二重格納容器や、設計基準外事象の発生時に放射性物質の漏洩を防ぐコア・キャッチャーを備える。ロシアではノボボロネジ第Ⅱ原子力発電所1、2号機で先行採用・運転されている。海外ではベラルーシで運転中、中国、トルコ、エジプト、バングラデシュで建設中だ。レニングラード州のA.ドロズデンコ知事は、「レニングラード発電所の運転は、地域産業を支え、インフラ整備のほか、大規模な地域投資プロジェクトの実施、雇用創出、医療、教育などに寄与している。近く閉鎖する3、4号機を代替する第Ⅱ発電所3、4号機が稼働すれば、発電量は20%増大し、レニングラード州に安定した経済成長をもたらす」と期待を寄せる。国営企業ロスアトムは、第Ⅱ発電所3、4号機の年間発電量を各85億kWh以上と想定している。ロスアトムのA.リハチョフ総裁は、「現在、クルスク第Ⅱ原子力発電所で1、2号機(VVER-TOI、各125.5万kW)を建設中で、年内に1号機の起動を予定。スモレンスク原子力発電所(RBMK-1000×3基)とコラ原子力発電所(VVER-440×4基)でも既存炉を代替する新設炉(スモレンスク第Ⅱ発電所で2基、コラ第Ⅱ発電所で1基)の建設を予定している。ウラル山脈以西での原子力発電を大幅に増強後、電力消費量の伸びが予想されるシベリアと極東へ進出する」との意欲を示した。
18 Mar 2024
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フランスの経済・財務・産業及びデジタル主権省のB. ル・メール大臣は3月7日、同国の燃料サイクル戦略を2040年以降も継続することを決定し、既存の燃料サイクルプラントの運転期間を延長し、新たなMOX燃料製造プラントと再処理プラントの研究を開始する計画を発表した。マクロン大統領が主宰する原子力政策評議会(CPN)は2月26日、閉じた燃料サイクル戦略の継続を明らかにしたが、本発表は、ル・メール大臣、R. レスキュール産業担当大臣がオラノ社のラ・アーグ再処理工場を訪問した際に行われた。ル・メール大臣は、2040年以降の燃料サイクル戦略目標に向けて次の3つの取組を発表した。ラ・アーグ再処理工場とメロックスMOX燃料製造工場の運転期間を2040年以降に延長するための持続可能性および強靭化プログラムの実施ラ・アーグ・サイトにおける新たなMOX燃料製造プラント建設に向けた研究の開始2045~2050年までに、ラ・アーグ・サイトにおける新たな再処理プラント建設に向けた研究の開始ル・メール大臣は、「フランスの原子力の歴史に新たな1ページが開かれようとしている。原子力は大規模な国家プロジェクトであり、脱炭素化、エネルギー主権の強化、産業の活性化の中心にある。この戦略で最終的には放射性廃棄物の量を75%削減できる」と強調している。フランスは原子力開発計画の当初から、使用済み燃料を再処理してウランとプルトニウムを回収・再利用する閉じた燃料サイクルを堅持し、放射性廃棄物の放射能量と処分量の大幅削減を図ってきた。ラ・アーグ再処理工場で使用済み燃料の再利用可能な質量組成の約96%を分離処理して回収したプルトニウムを、メロックス工場で製造するMOX(混合酸化物)燃料に再利用している。オラノ社によると、同国の原子力発電量の約10%は現在、MOX燃料起源であり、今後さらに使用済みMOX燃料の再処理により最大約40%にまで上昇する可能性があるという。MOX燃料には現在、再処理から回収されたプルトニウムのみが使用されている。再処理による回収ウラン(RepU)は、既存の軽水炉の燃料として再濃縮して利用が可能。回収ウランの処理は2013年に中断したが、回収ウラン産業の復活に10年をかけて取り組んできた。同国南東部にあるクリュアス原子力発電所の全4基(各PWR、95.6万kW)では回収ウランの利用が認可されており、2月5日、同発電所の2号機で回収ウラン起源の燃料を全炉心装荷により運転を再開した。フランスの原子力発電事業者である国営EDFは、2027年から130万kW級の原子炉で回収ウラン利用を計画しており、2030年代には毎年装荷される燃料の30%以上を占める見込みである。これは、今後数十年で天然ウラン資源25%の節約に匹敵する。なお、オラノ社傘下のオラノUSA社は2月28日、持続可能なエネルギーソリューションに取り組む米国のシャイン・テクノロジー社と軽水炉の使用済み燃料を再処理するパイロット施設を米国で共同開発する協力覚書を締結した。パイロット施設のサイト選定を年末までに行う考え。年100トンの処理能力を有し、再処理・回収された核物質は既存炉や新規炉の燃料に再利用し、再処理過程で抽出された放射性核種は産業や医療に利用する。2030年代初頭に運転を開始する計画だ。米国は1960年代には使用済み燃料の再処理・再利用の最前線にいたが、1972年にプログラムを停止している。
15 Mar 2024
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韓国水力・原子力会社(KHNP)は2月26日、燃料の安定供給確保のため、米国のウラン濃縮事業者のセントラス・エナジー社(旧・米国濃縮公社:USEC)と協力意向書(LOI)を締結した。本LOI締結により、KHNPは濃縮ウラン調達先の多様化と燃料供給の安定性向上を目指すとともに、セントラス社との戦略的な関係構築による韓米間の原子力協力を強化することが狙い。KHNPは、「セントラス社との協力で、既存炉だけでなく、将来の新規炉向けの燃料確保も可能になる」と強調している。2023年4月25日、KHNPはセントラス社と了解覚書(MOU)を締結。ロシアとウクライナの戦争勃発後に大きな懸念となっている持続可能かつ信頼性のあるエネルギーの安定供給への寄与を目的に、事業拡大の機会を模索しながら、安定した燃料供給のための相互協力の強化を狙いとしていた。現在、韓国では25基が運転中で、いずれもKHNPが運転事業者である。合計出力は約2,500万kW、原子力シェアは総発電量のおよそ1/3である。なお、KHNPは韓国原子力研究院(KAERI)と、小型モジュール炉(SMR)の「i-SMR」(主要機器を原子炉容器内に統合した一体型PWR、17万kW)の開発を進めている。2025年末までに標準設計(SD)を完了し、2028年に標準設計承認(SDA)の取得をめざす。昨年12月の第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)の会期中、インドネシアやヨルダンでの「i-SMR」導入にむけて、それぞれインドネシアの電力会社のヌサンタラ・パワー(PLN NP)社、ヨルダン原子力委員会と了解覚書(MOU)を締結するなど、「i-SMR」のグローバル展開に積極的だ。一方、セントラス社は、米国におけるウラン濃縮能力の再構築に取り組んでおり、昨年11月、国内初のHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))20kgを製造した。先進的原子炉ではウラン235濃縮度5%~20%のHALEU燃料使用のものもあり、既存の原子炉よりも小型化し、少ない燃料でより多くの電力の生産や、炉心寿命の延長、安全裕度の増加、効率性向上などが可能になる。現在、ロシアが大規模にHALEUを製造しており、ロシアに依存しない調達先の確保が喫緊の課題となっている。
14 Mar 2024
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米ウェスチングハウス(WE)社は2月20日、オランダで運転中のボルセラ原子力発電所(PWR、51.2万kW)サイトに同社製AP1000×2基の増設に向けた実行可能性調査(FS)の実施契約をオランダ政府と締結した。同契約は、オランダ経済・気候政策省(EZK)のM.ヘイドラ気候・エネルギー担当局長とWE社のエネルギーシステム事業担当のE.ゲデオン上級副社長によって調印された。WE社は「FS実施は欧州連合(EU)の気候目標や2035年までにカーボンニュートラルの発電を目指すオランダの公約に沿ったものである。当社はオランダ政府を支援し、信頼性があり、かつ低コストなカーボンフリーの電力を今後数十年間にわたって提供したい」と語る。2021年12月、オランダの新連立政権は連立合意文書に原子力発電所の新設を明記。また、政府は2022年12月、新設サイトとしてボルセラ・サイトが最適と発表している。計画では、2035年までに第3世代+(プラス)の原子炉、出力100万~165万kW×2基を新設し、オランダの総発電量の9~13%を供給するとしている。現在の原子力シェアは約3%である。なお、オランダ経済・気候政策省は、昨年12月に韓国水力・原子力会社(KHNP)と、同様の実行可能性調査(FS)実施契約を締結。韓国の尹錫烈大統領がオランダ公式訪問時に締結された。オランダ政府は仏EDFとも同様の契約を結ぶ方針である。また、同省は2基新設に向けた立地選定手続きの第一歩として、企業、団体、地方自治体などから、サイト等に関する提案募集を2月23日に開始した。締切は4月4日。同省によると、提案が条件を満たしている場合、今後、建設候補地として潜在的に適しているかどうかを調査するとしている。いずれにしても、既存の立地候補であるボルセラ/フリシンゲン(スロー地区)およびマースブラクテI(ロッテルダム港)の2か所については現在調査を進めている。また同時に、ステークホルダーや地域住民の今後のプロジェクト手続きへの関与についても意見を募集中。経済・気候政策省はこれらの国家の重要プロジェクトに係る手続きを慎重に行い、2025年に立地について閣議決定した後に、入札を開始するとしている。
13 Mar 2024
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米グローバル・レーザー・エンリッチメント(GLE)社はこのほど、米国ノースカロナイナ州ウィルミントンにある試験ループ(Test Loop)施設で、レーザー濃縮技術の実証プロジェクトを加速する。GLE社はレーザー濃縮技術の商業化を目指し、豪サイレックス・システムズ社が51%、加カメコ社が49%所有する合弁企業。両者は、2024年の濃縮技術の実証プロジェクト費用について、前年比の倍増で合意した。サイレックス社によると、今年、最大5,450万ドル(約80.2億円)まで増額を承認。GLE社によるサイレックス法(サイレックス社独自のレーザー分子法によるウラン濃縮技術)の実証プロジェクトを年内に完了させ、ケンタッキー州パデューカ・サイトでの用地取得活動や米原子力規制委員会(NRC)の認可取得などの商業化に向けた活動を進め、早ければ2028年にパデューカ・レーザー濃縮施設(PLEF)の営業運転を開始したいとしている。GLE社はサイレックス法濃縮技術の独占行使権を保有しており、米エネルギー省(DOE)は2016年、GLE社と約30万トンの劣化六フッ化ウランを売却する売買契約を締結、PLEFで30年をかけてこれを天然ウラン・グレードまで濃縮し、六フッ化ウラン(UF6)の形で、世界のウラン市場で販売する計画だ。この年生産量はウラン鉱山による八酸化三ウラン(U3O8)の年生産量、最大500万ポンド(1,923tU)に相当し、現在のウラン鉱山の生産量トップ10にランク入りするという。なお、サイレックス社は、PLEFの以下の3つの商業化オプションを提示している。劣化ウラン処理による天然ウラン・グレードのUF6(ウラン235濃縮度0.7%)の生産既存原子炉用の濃縮度5%までの低濃縮ウラン(LEU)、ならびに5%~10%までのいわゆるLEU+の生産次世代の先進的小型モジュール炉(SMR)用の濃縮度20%までのHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の生産そして、試験ループ施設での実証プロジェクトの成功、産業界と政府の支援、PLEFでの実現可能性評価、市場要因を前提として、サイレックス法による濃縮でGLE社が将来の原子燃料生産に大きく貢献する可能性があるとしている。なお、DOEが所有するパデューカ・サイトには、パデューカ・ガス拡散濃縮プラントが1960年代から民生用の濃縮ウランを生産していたが、2013年に操業を停止し、現在、サイトは環境復旧プログラム下にある。
12 Mar 2024
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中国核工業集団公司(CNNC)は2月18日、浙江省寧波市で金七門第Ⅰ原子力発電所の起工式を開催した。2023年12月29日、国務院常務会議は同発電所の1、2号機の建設計画を承認している。同発電所では、中国が独自開発した第3世代PWR「華龍一号」(HPR1000)を採用。同サイトではこの1、2号機を含め、計6基の「華龍一号」を建設予定である。CNNCによると、全基が稼働すると合計設備容量は約720万kWとなり、年間550億kWhを発電、これは年間約5千万トンのCO2削減に相当するという。建設期間は60か月、1号機の運転開始は2028年末頃を見込む。CNNC傘下のCNNC浙江エナジー社がプロジェクト管理、建設および運転管理を担当する。また、2月22日には、福建省でCNNCの漳州第Ⅱ原子力発電所1号機が着工した。2022年9月の国務院常務会議で、同発電所における「華龍一号」採用の1、2号機(各112.6万kW)の建設計画が承認されている。同サイトの漳州第Ⅰ発電所では「華龍一号」の1、2号機(各112.6万kW)が建設中で、それぞれ2024年、2025年に営業運転を開始予定。2号機では冷態機能試験の準備が進行中である。さらに、CNNCは「華龍一号」×2基採用の漳州第Ⅲ発電所を計画中。漳州原子力発電所プロジェクトは、CNNCと中国国電集団(CGC)がそれぞれ51%、49%を所有する合弁企業CNNC-国電漳州エナジー社が運営する。なお、CNNCは海南省の昌江原子力発電所3、4号機においても「華龍一号」(各120万kW)を建設中で、それぞれ2021年3月、2021年12月に着工している。一方、中国広核集団(CGN)は2月27日、国家核安全局(NNSA)から防城港原子力発電所4号機(華龍一号、118万kW)の運転許可を取得した。同機は昨年9月に温態機能試験を実施。近く燃料装荷し、今年前半にも運転開始予定。3号機は2023年3月に営業運転を開始したCGN設計による初の「華龍一号」である。同発電所では計6基の稼働を計画しており、1、2号機(CPR-1000、各108.6万kW)は2016年に営業運転を開始した。同発電所は、CGNが61%、広西投資集団が39%を所有する。発電以外の利用として、CNNCが2月27日に中国初の産業用原子力蒸気供給プロジェクトの試運転を開始した。江蘇省の田湾原子力発電所3、4号機(PWR=VVER-1000、各112.6万kW)から近隣の連雲湾石油化学工場に蒸気を供給する。両機の二次系統から蒸気を取り出し、多段階の熱交換を経て、断熱された地上パイプラインで工場に運ぶ。パイプラインの総距離は23.36km。すでに毎時280トンの安定した蒸気流量を記録しており、年間480万トンの蒸気供給を見込んでいる。商業運転は今年6月に予定されている。
11 Mar 2024
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米国のGEベルノバ社は2月14日、傘下のグローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)社がウラン235の濃縮度8%までの燃料製造、輸送、挙動解析で米原子力規制委員会(NRC)から認可を取得したことを明らかにした。この認可取得により、米ノースカロライナ州ウィルミントンにあるGNF社の施設は、濃縮度8%までの燃料製造認可を持つ米国初の商業施設となる。NRCは同時に、GNF社が自社のRAJ-II輸送コンテナを利用して、濃縮度8%までの燃料集合体の輸送を認可する適合証明書も発給した。また、GNF社が濃縮度5%を超える燃料解析を可能にする先進的な原子力解析法に関する許認可トピカルレポート(LTR)も承認した。いずれも、GNF社とGEベルノバ社の先進事業部門が、米エネルギー省(DOE)の事故耐性燃料(ATF)開発プログラム下で実施した成果である。NRCは2023年8月、国内商業炉に濃縮度5%超の燃料の装荷を初認可し、これにより、サザン・ニュークリア社はボーグル2号機で濃縮度6%までのATFを装荷することが可能となった。現在、運転中の商業炉では濃縮度約4.8%までの低濃縮ウランが使用されている。濃縮度10%までの高濃縮度燃料(LEU+とも呼称)では、既設原子炉の他、先進炉や小型モジュール炉(SMR)を含む次世代原子炉で、出力増強等による経済性向上が期待できる。
08 Mar 2024
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インド原子力省(DAE)は3月4日、同国南部のタミルナドゥ州・カルパッカムで建設中の同国初の高速増殖原型炉「PFBR」(50.0万kW)で、燃料装荷を開始したと発表した。燃料装荷には、N. モディ首相が立ち合うなど、国を挙げてFBR開発に取り組む姿勢を示している。PFBRは、2003年10月に設立されたDAE傘下のバラティヤ・ナビキヤ・ビデュト・ニガム社(BHAVINI)が開発した国産の高速増殖原型炉。2004年に着工され、DAEによると、これまでに200以上のインド企業が協力し、設計、建設された。当初の完成予定は2010年であったが、さまざまな技術的課題に直面し、着工から燃料装荷まで約20年の月日を要した。今後、運転が開始されれば、インドはロシアに次いで世界で2番目となる高速増殖炉の商業運転国となる。インドの原子力発電開発計画は、国内で豊富なトリウムを燃料とする「トリウム・サイクル」が開発初期からの一貫した基本方針。インドはこれまで、第1段階となる従来の重水炉・軽水炉路線に続き、第2段階としてFBRの開発を進めており、今回の燃料装荷は、続く第3段階におけるトリウム資源利用への大きな足がかりとなるものである。DAEによると、さらに6基の同規模FBRの建設計画があるほか、トリウムを利用したAHWR(新型重水炉)の研究開発にも力を入れている。ナトリウム冷却高速炉であるPFBRは、ウランとプルトニウムの混合酸化物(MOX)を燃料としており、プルトニウムと核分裂性ウラン233を増殖させるために、ウランとトリウムのブランケットを装荷する。それにより、プルトニウムとウラン233を増殖させ、将来のAHWR用燃料として利用する計画だ。PFBRについてDAEは、使用済み燃料を再利用することから、「放射性廃棄物を大幅に減容し、大規模な地層処分施設の必要性を回避できる」と強調している。インドではこれまで、インディラ・ガンジー原子力研究センター(IGCAR)を中心に、高速炉開発を積極的に進めており、1985年から高速実験炉FBTR(13.5万kW)を運転中。今年1月2日には、高速炉燃料用大規模商業再処理プラントの前身となるIGCARのPFBR燃料再処理実証プラント(DFRP)の竣工式にモディ首相が出席、2月にも同首相は、20日に送電を開始したカクラパー4号機(PHWR、 70.0万kW)を訪問している。
08 Mar 2024
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チェコ電力(ČEZ)は2月14日、所有・運転するドコバニ原子力発電所(VVER-440×4基、各51万kW)に年末をメドにウェスチングハウス(WE)社製燃料が初納入されることを発表した。テメリン原子力発電所(各108.6万kW、VVER-1000×2基)の1号機では、2019年に6体のWE製燃料集合体が試験装荷され、現在、ČEZ社とWE社が燃焼特性を評価中だ。試験装荷の結果はドコバニ発電所用燃料の仕様決定等の準備に活用されている。WE原子燃料部門のトップであるT.チョホ氏は、「当社にはVVER-1000に1,500体の燃料集合体を納入し、問題なく運転している実績がある。今回、ドコバニ発電所に最新版のVVER-440用燃料集合体を初納入するが、ウクライナのリウネ原子力発電所のVVER-440×2基にすでに装荷実績があり、同様に成功すると確信している」と語る。2010年代末、それまでロシアの核燃料会社TVEL社に依存していたVVER用燃料の調達先を見直すEUの政策に則して、ČEZ社は燃料調達先を多様化する取り組みを始めた。2018年開始の入札に基づき、2022年にはテメリン発電所用燃料集合体の供給契約をWE社およびフラマトム社と締結。ドコバニ発電所用燃料については2023年、リウネ発電所に燃料を供給したWE社と契約を結んだ。これにより、今回のドコバニ発電所への燃料納入が実現する。ČEZは2022年、エネルギー安全保障の強化に重点を置き、燃料備蓄量のさらなる増量を決定、両発電所の管理区域内にある特別貯蔵庫の容量も拡大している。ドコバニ発電所では、少なくとも3年分の燃料備蓄を計画している。また、連続運転サイクルの長期化が可能となり、テメリン発電所では18か月、ドコバニ発電所では16か月となる。これにより、ČEZ社は2030年までに年平均320億kWhの原子力発電量の達成を見込む。2023年には両発電所で304億kWhを発電、総電力需要の36%を占め、毎年約2千万トンのCO2の排出削減に貢献している。なお、現在の新規原子力発電計画には、最大4基の大型炉新設の他、小型モジュール炉の展開可能性が含まれている。仏マクロン大統領が民生用原子力協力を含む二国間協力の強化のためにチェコ訪問中の3月5日には、ČEZ社は仏オラノ社とドコバニ発電所向けのウラン濃縮役務提供に関する契約を締結した。2023年末のテメリン発電所向けの転換と濃縮役務の長期契約に続くもの。ČEZ社は今回の契約について、欧州での燃料確保を確実にし、エネルギー安全保障を一層強化するものと評価している。
07 Mar 2024
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米国のA.W.ボーグル原子力発電所4号機(PWR、125万kW)が3月1日、送電網に接続し、送電を開始した。同機は2月14日に初臨界を達成している。ボーグル発電所では、3-4号機としてウェスチングハウス社製AP1000を2基増設する計画で、3号機は2023年7月に営業運転を開始している。4号機では今後、起動試験を継続する。同機の共同所有者であるジョージア・パワー社によると、今年第2四半期(4~6月)に営業運転を開始する見込みだ。ボーグル3、4号機はジョージア州内の4社が共同所有しており、サザン・カンパニーの子会社であるジョージア・パワー社が同プロジェクトに45.7%出資、オーグルソープ電力とジョージア電力公社(MEAG)、およびダルトン市営電力がそれぞれ30%と22.7%、および1.6%出資、サザン・カンパニーの子会社のサザン・ニュークリア社が運転する。
06 Mar 2024
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フィンランドで原子力発電所を所有・運転するフォータム社とティオリスーデン・ボイマ(TVO)社は2月13日、ポーランド初の原子力発電所の導入にむけて技術支援を行うため、Polskie Elektrownie Jądrowe(PEJ)社と2年間の枠組み契約を締結した。PEJ社は国営の特別目的会社(SPV)で、ポーランド初の原子力発電所の建設および運転を担当する。この枠組み契約は、同国北部のポモージェ県に新設される3基の米ウェスチングハウス(WE)社製AP1000の設計、エンジニアリング、運転準備でのPEJ社支援が目的。今回、競争入札で選定されたフォータム社の原子力サービス本部とTVO社傘下のTVOニュークリア・サービス(TVONS)社が、原子力発電所の許認可手続きや設計段階で、運転者のPEJ社を支援する。PEJ社は、将来の運転者としてのニーズへの対応や原子炉供給者であるWE社と主契約者であるベクテル社のコンソーシアムとの契約履行状況の確認のほか、燃料戦略や放射性廃棄物管理戦略の策定における協力とノウハウのシェアなどの支援も想定。フォータム社とTVONS社は、プラントスタッフの訓練計画や運転員の詳細な業務範囲を規定する行動計画の策定においてもPEJ社を支援する。2022年11月、当時のポーランド政府は、同国北部ポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ–コパリノ地区に建設する原子力発電所の採用炉型として、WE社製「AP1000」を選定。同国の気候環境省は昨年7月、PEJ社に対して発電所建設の原則決定(DIP)を発給し、9月にはWE社、ベクテル社、PEJ社の3社がエンジニアリング・サービス契約を締結した。初号機は、2033年の営業運転開始を目指している。
06 Mar 2024
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