COP28の初日である11月30日、昨年のCOP27で設立に合意した「損失と損害(loss and damage)基金=ロスダメ基金」に関するより詳細な内容を定めた文書が、早くも採択された。主要な炭素排出国である先進国が、気候変動で損害を被っている開発途上国に対し賠償する基金で、世界銀行が運営する。厳密には、12月12日に予定されている会議終了までは、すべての文書は最終決定ではない。しかし今回の合意は、会議に出席した各国の代表者らからスタンディングオベーションで迎えられるなど、議長国であるアラブ首長国連邦(UAE)の面目躍如たる幕開けとなった。合意文書によると、ロスダメ基金の初期総額は4億ドルを超えた。UAEが1億ドルを拠出。EUは2億4,500万ドル(ドイツからの1億ドル含む)を拠出し、英国は5,000万ドル強、米国は1,750万ドル、日本は1,000万ドルを拠出する。ドイツのS.シュルツェ経済協力・開発相は、「ドイツとアラブ首長国連邦が先頭に立ち、気候変動による損失と損害に対応する新しい基金に自国から拠出する意欲と能力があるすべての国に出資を呼び掛けたい。30 年前にはまだ発展途上国だった国々でも、今では世界規模の気候変動に対する責任を負う余裕があるはずだ」と強調した。基金設立に向けた昨年の合意は、途上国における気候変動緩和の緊急的な必要性を認め、炭素排出大国が途上国へ過去何十年にもわたる損害を償う機会を生み出したという点で、非常に大きな一歩と評価されたが、具体的な金額規模などが明記されておらず、基金の持続可能性を疑問視する向きもあった。今回、あらためて金額が示されたことで基金実現に向けての大きな後押しとなりそうだ。また、他の先進国には今後、基金の出資額を発表するよう圧力がかかることになるだろう。気候変動に関する国連枠組条約(UNFCCC)のS.スティエル事務局長は、「各国政府にとってCOPのスタートを切るきっかけとなり、交渉当事者はここドバイで真に野心的な成果をもたらすためにこれを活用するべきだ」と高く評価している。
01 Dec 2023
1861
フランスのフラマトム社は11月29日、英国内で現在建設中、および今後新たに建設される原子力発電所向けに、原子燃料の製造施設を英国で建設すると発表した。同社はまた、第4世代の先進的原子炉向け燃料を製造するため、11月28日に米ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC社)と合弁事業体を設立することで、正式に合意している。フラマトム社はすでに英国エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)や、親会社であるEDFの英国法人EDFエナジー社との協力により、既存の原子力発電所や跡地の中から建設候補地として選定したサイトの評価作業を実施中。2024年には原子力規制局(ONR)のガイダンスに基づいて、サイトとしての妥当性を詳細に調査するほか、許認可手続き前の予備調査に入る方針だ。この作業については、DESNZから資金提供を受けている政府外公共機関の 原子力廃止措置機構(NDA)も協力。NDAは英国内で閉鎖済み原子力発電所の廃止措置や管理などを担当している。EDFエナジー社は2018年12月から、イングランド南西部サマセット州でヒンクリーポイントC原子力発電所(フラマトム社製・欧州加圧水型炉:EPR×2基、各172万kW)を建設中のほか、イングランド南東部のサフォーク州では、サイズウェルC(SZC)原子力発電所(EPR×2基、各167万kW)の建設を計画している。一方、英国政府は将来的なエネルギー供給保障強化の一環として、革新的な小型モジュール炉(SMR)を2030年代半ばまでに国内で複数建設するため、支援対象とするSMRの選定コンペを実施中。今年10月には、SMR開発企業の中から6社を最終候補として発表している。フラマトム社の今回の原子燃料製造施設建設プロジェクトは、このように新しい世代の原子炉の運転開始に備え、英国での経営規模拡大を目指すという同社戦略の一部。大型PWRや軽水炉方式のSMRにも対応する複数の原子燃料の製造で、英国の将来的な原子力発電開発のみならず欧州全域でのSMR建設を幅広く支援していく考えだ。米企業とは第4世代の原子炉向け燃料製造へフラマトム社とUSNC社が今回設立を決めた合弁事業体は、3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)を商業規模で製造する予定だが、これはUSNC社が開発している第4世代の小型高温ガス炉「モジュール式マイクロ原子炉(MMR)」と、同炉を複数基備えたエネルギー供給システム、およびその他の先進的原子炉での使用を想定したもの。TRISO燃料は、USNC社がMMR用として開発中の「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」の製造に活用される。USNC社はすでに2022年8月、FCM燃料のパイロット製造施設(PFM)をテネシー州のオークリッジでオープンした。合弁事業体はこの技術に基づき、2026年にもTRISO燃料の製造と同燃料を使ったFCM燃料の製造開始を計画。このため、フラマトム社は米国で保有している燃料の製造許可に、USNC社のPFMと同じ実証済みの製造プロセスを組み込めるよう、同許可の修正を2024年の夏に米原子力規制委員会(NRC)に申請する予定である。また申請に先立ち、NRCとは事前の協議を実施している。USNC社のMMRを備えたエネルギー供給システムでは、1万kW~4.5万kWまで様々なレベルの熱出力が設定可能で、コスト面の効率性が高いクリーンで安全な熱と電力を、場所を選ばずにユーザーに提供できるという。カナダでは、オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とUSNC社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社が2019年3月、カナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトで2028年にもMMR初号機の運転を開始するため、同国の原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。米国ではイリノイ大学が2021年7月、学内でチョークリバーと同じ時期の運転開始を目指してMMRを建設するため、NRCに「意向表明書(LOI)」を提出している。(参照資料:フラマトム社➀、②、USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月29日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Dec 2023
2017
カナダのサスカチュワン州政府は11月27日、ウェスチングハウス(WH)社製のマイクロ原子炉「eVinci」の州内建設に向けて、同州が一部出資している公共企業体「サスカチュワン研究評議会(SRC)」に8,000万カナダドル(約87億円)の研究補助金を交付すると発表した。SRCとWH社が2022年5月に結んだ協力覚書に基づくもので、この補助金を活用して同州の規制要件や許認可関係の手続きを行い、2029年までに初号機を建設。そうした経験を基盤に、将来複数の「eVinci」を州内の様々な産業や研究、エネルギー源に利用できるか実証する。建設サイトについては、規制手続などプロジェクトの進展にともない決定する方針だ。SRCはカナダで第2の規模を持つ技術研究関係の公共企業体で、年間収益は2億3,200万加ドル(約252億円)。過去76年にわたり、農業・バイオテクノロジーやエネルギー、環境、および鉱業などの分野で、世界22か国の約1,600の顧客に科学的なソリューションを提供しているという。また、同州中央部のサスカトゥーン市にあるSRC環境分析研究所では、電気出力20 kWの研究炉「SLOWPOKE-2」を2021年11月に閉鎖するまで約38年間運転した実績がある。WH社の「eVinci」は電気出力が最大0.5万kW、熱出力は1.3万kWで、遠隔地や鉱山等における熱電併給を目的としている。8年以上燃料交換なしで運転することが可能で、炉外復水器となる部分の周囲にチューブを環状に巻き付け、主要熱交換器とする設計だ。カナダ政府は2022年3月、国内での将来的な「eVinci」建設に向けて、2,720万加ドル(約30億円)をWH社のカナダ支社に投資すると発表。イノベーション・科学・研究開発省(ISED)の「戦略的技術革新基金(SIF)」から資金を拠出し、SMRの持つ「いつでも利用可能で運搬も容易な低炭素エネルギー源」としての能力を活用するほか、カナダの経済成長や2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するという目標の達成に多大な貢献を期待するとしていた。また、今年6月からは、「eVinci」について、カナダ原子力安全委員会(CNSC)の「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査:VDR)」が本格的に始まっている。10月には米エネルギー省(DOE)が、WH社も含め米国内でマイクロ原子炉を開発中の3社と総額390万ドルの基本設計・実験機設計(FEEED)契約を締結。アイダホ国立研究所(INL)内にある国立原子炉イノベーション・センター(NRIC)の新しい「マイクロ原子炉実験機の実証用テストベッド(DOME)」を用い、3社の設計作業や機器製造、5分の1サイズの実験機建設と試験を支援する方針である。なお、サスカチュワン州の州営電力であるサスクパワー社は2022年6月、オンタリオ州のオンタリオ・パワー・ジェネレーション社の例に倣い、サスカチュワン州で将来建設の可能性がある初の小型モジュール炉(SMR)として、同じくGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」を選定。現在、建設サイトを選定中で、2029年に建設実施の判断が下れば、2030年代半ばまでに最初のSMRを運開させるとしている(参照資料:サスカチュワン州、SRC、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Nov 2023
1709
ポーランドの気候環境省は11月24日、ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)傘下のPGE PAK原子力エネルギー(PGE PAK Energia Jądrowa)社が同国中央部ポントヌフのコニン地区で計画している韓国製大型炉の建設プロジェクトに対し、原則決定(decision-in-principle=DIP)を発給した。PGE PAK原子力エネルギー社に50%ずつ出資しているPGE社と同国のエネルギー企業ZE PAK社が、同日付で明らかにした。DIPは原子力発電所建設計画に対する最初の基本的な行政判断で、DIP発給により同プロジェクトは、国家のエネルギー政策に則し、国民の利益に適うと正式に認められたことになる。このポントヌフ・プロジェクトは韓国水力・原子力会社(KHNP)との協力で進められており、プロジェクト企業として今年4月に設立されたPGE PAK原子力エネルギー社は、6月に気候環境省にDIPを申請していた。今後は韓国製「APR1400」(PWR、出力140万kW×2基)の建設に向けて、実行可能性調査の実施準備やコニン地区における環境面などの調査、資金調達面の協議などを実施する。PGE社によると今回のDIPは、2022年10月の韓国・ポーランド両政府の計画支援了解覚書、またPGE社とZE PAK社およびKHNP社の「企業間協力意向書(LOI)」から13か月経たずに発給された。大規模な投資計画では異例の速さだが、これにより2035年までにポントヌフで初号機を完成させることが現実味を帯びてきた。同社は2基のAPR1400で年間220億kWh発電することを計画しており、これはポーランドの総電力需要の約12%に相当する。ポーランドではこのほか、2021年2月に内閣が決定した「2040年までのエネルギー政策」に基づき、100万kW級の大型原子炉を2043年までに6基、合計600万~900万kW建設するプログラムを並行して進めている。2022年11月に政府は最初の3基、小計375万kW分の採用炉型として、米ウェスチングハウス(WH)社製PWRのAP1000を選定。PGE社傘下の原子力事業会社であるPEJ社は、北部ポモージェ県で3基のAP1000を建設する計画について、今年7月に気候環境省からDIPを取得している。ポントヌフにおけるプロジェクトは、政府の原子力プログラムを補完すると位置付けられており、副首相を兼任する国有資産省のJ.サシン大臣は今回、「ポントヌフのプロジェクトはクリーンで安価な電力を安定的に供給する点から政府政策に完璧に適合するものであり、DIPの発給はそれを裏付けている」と指摘。同計画が円滑に進展することを期待していると述べた。ポーランドではこのほか、鉱業大手のKGHM銅採掘会社が米ニュースケール・パワー社製の小型モジュール炉(SMR)を6基備えた発電設備「VOYGR-6」の建設を計画している。また化学・石油合弁企業のオーレン・シントス・グリーン・エナジー(OSGE)社は米GE日立・ニュクリアエナジー社製のSMR「BWRX-300」を国内6地点で計画。今年4月にそれぞれDIPを気候環境省に申請しており、同省は7月にKGHM銅採掘会社の計画に対しDIPを交付している。(参照資料:PGE社、ZE PAK社の発表資料(ともにポーランド語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
28 Nov 2023
1726
カナダ・オンタリオ州のブルース・パワー社は11月22日、ブルース原子力発電所(CANDU炉×8基、各80万kW級)における最大480万kWの大規模増設と州経済の発展に向けて、2024年初頭に「関係情報の提供依頼書(RFI)」を発出し、産業界等に協力を求める方針であることを明らかにした。増設計画で採用する炉型の評価が主な目的で、同社はその一環として地元の産業界やビジネス界のリーダー、製造業や電気事業関係の労働組合幹部など、11名で構成される諮問委員会も設置。同社が様々な原子炉について技術面の評価を行う一方、諮問委員会は地元経済の発展や関係サプライチェーン、労働力など、オンタリオ州における原子力産業発展の長期的な見通し等を審査する。同社はまた、増設の社会的な影響を評価(IA)するプロセスも技術評価と並行して行う計画で、州営電力のオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社や独立系統運用者(IESO)との協力により、州内の他の地域での原子炉建設についても実行可能性調査(FS)を実施する。FSはRFIで得られた情報を活用し、2024年末までに完了させる予定である。オンタリオ州政府は今年7月、州経済の成長に必要な電力を長期的に確保する構想「Powering Ontario’s Growth」を公表した。同州の経済成長のほか、地球温暖化の影響緩和や州内の電化にも資するクリーンで安価な電力を増産するため、ブルース・パワー社や州内の独立系統運用者(IESO)と協力し、同発電所で増設計画の実施前段階の準備作業を開始すると発表。同じく州内のダーリントン原子力発電所では、小型モジュール炉(SMR)初号機に3基を追加建設すると表明していた。10月には、同社はブルース発電所で前記のIAプロセスを実施する計画や、将来的なサイト準備許可(LTPS)の申請方針もカナダ原子力安全委員会(CNSC)と連邦政府のカナダ環境影響評価庁(IAAC)に正式に連絡。その際、この増設計画を「ブルースC原子力発電所計画」と呼称している。今回のRFI呼びかけは実施前段階における準備作業の一部であり、10月にこの増設計画への「関心表明(EOI)」の募集を開始したのに続く措置。「Powering Ontario’s Growth」でブルース発電所が担う役割を下支えするため、ブルース・パワー社は以下の5原則を表明した。既存の8基で、クリーン・エネルギーや医療用アイソトープの生産を2064年以降も続けられるよう、運転期間を延長する。運転期間の延長プログラムと2030年までの投資計画を通じて、2030年代に既存炉8基のピーク時におけるネット出力を、大型炉1基分増強して合計700万kWとする。ブルース発電所で480万kW追加する可能性評価のため影響評価(IA)を実施し、いかなる決定を下す際も、これに先立ち先住民コミュニティや地元3郡の地域、および一般市民を対象にオープンで透明性のある協議を行う。堅実な技術評価作業を踏まえ、将来の意思決定やマイルストーンに際し健全な助言を提供する。地元経済の発展とそのための協力、地元産業への技術移転、地元におけるサプライチェーンと労働力の活用を、農村部の開発においては特に、重要な優先事項と位置づける。同社の説明によると、ブルース発電所では「主要機器の交換 (MCR) プロジェクト」が予算の範囲内でスケジュール通り順調に進んでいることから、「Powering Ontario’s Growth」構想でも新規建設評価の対象に選ばれた。カナダ最大の原子力発電所における同社の安全運転実績や、信頼性の高いクリーンな電力の供給実績、複数の送電線を備えた広大な敷地、コスト面の競争力が高く評価されたことを強調している。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Nov 2023
1319
英政府のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)と韓国の産業通商資源部(MOTIE)は11月22日、民生用原子力分野での協力強化に向け、了解覚書を締結した。両国間でクリーン・エネルギー関係のパートナーシップを新たに結んだことにともなうもので、この覚書を通じて、英韓両国は両国のみならず第三国でも協力して原子力発電所を建設し、関係技術に投資するための基盤を構築する。英国原子力公社(UKAEA)と韓国電力公社(KEPCO)の協力促進のための覚書など、両国の政府機関や原子力関係企業が今回結んだ覚書は合計9件。KEPCOは英国の新規原子力発電所建設事業への参加意思をDESNZに表明しており、これを契機に英国への原子炉輸出に総力を傾けると強調している。DESNZとMOTIE間の覚書調印は、韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領と韓国経済視察団の訪英に合わせ、DESNZのC.クティーニョ大臣とMOTIEのパン・ムンギュ(方文圭)長官が行った。両国はこれまでに、原子力の平和利用分野における政府間協力協定を1991年に締結したほか、2013年には韓国MOTIEと英国エネルギー気候変動省(DECC)(当時)が民生用原子力分野における商業面の協力について了解覚書を締結。今年4月には、原子力や再生可能エネルギーなど、クリーン・エネルギーの開発加速やエネルギー供給の確保に向け、これまで以上に緊密に協力していくとの共同宣言を発表している。両国は今回、エネルギー分野の現行協力を継続する重要性や、民生用原子力発電所がエネルギーの供給保障や地球温暖化への対応で果たす重要な役割に鑑み、官民の両面で原子力関係の協力を強化することを確認。従来の大型炉や小型モジュール炉(SMR)、その他の先進的原子炉を建設する意欲が双方にあることから、協力して進めていく考えだ。今回の覚書はMOTIEとDECCが10年前に結んだ覚書に代わるもので、カバー項目は先進的原子炉技術のほかに核融合技術や原子燃料、原子力発電所の新規建設と運転およびメンテナンス、原子力関係プロジェクトへの資金調達、放射性廃棄物管理、廃止措置、安全・セキュリティおよび核不拡散など。両政府はともに、それぞれの産業界が中心的な役割を担うことを認識しており、政府機関同士や民間企業同士の協力も促進。英国からは、原子力廃止措置機構(NDA)や今年7月に原子力発電所新設の牽引役として発足したばかりの政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」、国立原子力研究所(NNL)、英国原子力産業協会(NIA)などが参加。韓国からは、KEPCOとその傘下企業、韓国原子力産業会議(KAIF)、韓国原子力環境公団(KORAD)などが参加し、双方の協力活動を支援するとしている。なお、KEPCOの今回の発表によると、同社のキム・ドンチョル社長一行は20日にウェールズで2015年に閉鎖されたウィルファ原子力発電所を訪れており、同発電所の新規原子炉建設用サイトを視察した。同サイトの諸条件や原子力への地元住民からの支持などを確認したほか、21日には両国原子力産業界の協力に向けたイベントを開催し、双方の政府関係者や関係企業の代表者を前に、韓国製PWR「APR1400」が国内外で成功裏に建設、運転されているとアピール。22日にはビジネス・フォーラムに参加して、ウェールズ原子力フォーラム(Wales Nuclear Forum)や原子力関係の人材センターであるマクテック・エナジー・グループ(Mactech Energy Group)社と協力強化のための覚書を交わした。このほか、韓電原子力燃料(KNF)や韓国プラント・サービス(KPS)なども、英国のエネルギー関係のコンサルティング企業であるモット・マクドナルド(Mott MacDonald)社やAB5コンサルティング社、産業設備メーカーのヘイワード・タイラー(Hayward Tyler)社などと覚書を締結している。(参照資料:DESNZの発表資料①、②、MOTIEの発表資料、KEPCOの発表資料(韓国語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Nov 2023
1659
カナダ・オンタリオ州の州営電力であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社は11月20日、100%子会社のコンサルティング企業であるローレンティス・エナジー・パートナーズ(Laurentis Energy Partners=LEP)社とともに、サスカチュワン州の州営電力であるサスクパワー社の小型モジュール炉(SMR)建設プロジェクトへの協力を強化すると発表した。OPG社はカナダで稼働する全19基の商業炉のうち18基を所有しており、原子力発電所が立地しないサスカチュワン州のSMR導入計画を引き続き支援するため、これまで実施してきた原子力関係の協力を拡大。LEP社とサスクパワー社が今回締結した5年間有効な「マスター・サービス協定(MSA)」を通じて、OPG社が原子力発電所の運転で蓄積した経験や専門的知見、技術的資源などをサスクパワー社と共有するほか、今後協力の可能性がある分野としてプロジェクト開発や発電所の運転などを挙げている。3社の発表によると、この協定はサスカチュワン州におけるSMR開発の効率化を目的としたもので、両州間の長期的な戦略協力の基盤になる。LEP社は具体的に、建設プログラムの管理や許認可手続き、発電所の運転に向けた準備活動等に集中的に取り組むとしており、両州の産業サプライヤーを調整してカナダで複数のSMR建設を可能にするほか、両州の大学や職業訓練校とも協力して技術力を改善。サスカチュワン州がクリーンで信頼性の高い原子力を電源ミックスに加えられるよう、サポートしていく考えだ。OPG社は2021年12月、オンタリオ州内のダーリントン原子力発電所で建設するSMRとして、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」を選定。今年7月には追加で3基建設すると表明しており、2028年末までに初号機を完成させた後、2029年末までの運転開始を目指している。サスクパワー社は2022年6月、同州で建設する可能性がある初のSMRとして同じく「BWRX-300」を選定したが、これはオンタリオ州の方針に追随することで初号機建設にともなうリスクの回避を狙ったもの。現在、建設候補地を選定中で、2029年に建設実施の判断が下れば、2030年代半ばまでに最初のSMRの運転を開始する。3社の今回の発表に同席したオンタリオ州エネルギー省のT.スミス大臣は、「OPG社が培ってきた知見やサプライチェーンを活用し、サスカチュワン州のみならずカナダ全土や世界中でSMRの建設計画を支援する準備ができている」と表明。サスカチュワン州のD.ダンカン・サスクパワー社担当大臣は、「今回の協定は両州にとって有益なだけでなく、今後数十年にわたりカナダのエネルギー供給保障を持続的に支えていく」と強調している。カナダでは2019年12月、オンタリオ州とニューブランズウィック州、およびサスカチュワン州が「多目的SMR開発・建設のための協力覚書」を締結しており、2021年4月にアルバータ州もこれに参加。2022年3月には、これら4州でSMRの開発と建設に向けた「共同戦略計画」を策定している。(参照資料:OPG社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Nov 2023
1574
フランス電力(EDF)は11月16日、同国北西部のパンリー原子力発電所(PWR×2基、各138.2万kW)で改良型欧州加圧水型炉(EPR2)2基を増設する計画について、同国の大手建設企業であるエファージュ(Eiffage)社と土木工事契約を締結した。同契約の入札は2019年に開始されており、エファージュ社のグループ企業であるエファージュ・ジェニ・シビル(Eiffage Génie Civil)社は、総額40億ユーロ(約6,500億円)以上というこの契約で、直径50mのドーム屋根を備えた高さ70mの原子炉建屋やタービン建屋の建設部分、総床面積15,000m2という6階建ての管理棟など、2基分の合計で69の構造物を建設する。同工事の準備作業は、行政当局からEDFに環境影響面の認可が下り次第、2024年の半ば頃に開始することになる。EDFはフランス経済の脱炭素化やエネルギー自給の観点から、2021年5月に政府に対し国内でのEPR2建設を提案。パンリー発電所で最初の2基を建設した後、グラブリーヌ原子力発電所(PWR×6基、各95.1万kW)で追加の2基を、その後さらに2基をビュジェイ原子力発電所(PWR×4基、各90万kW級)か、トリカスタン原子力発電所(PWR×4基、各95.5万kW)で建設するとしていた。E.マクロン大統領は2022年2月の東部ベルフォールにおける演説で、合計6基のEPR2を国内で新たに建設するほか、オプションとしてさらに8基の建設に向け調査を開始する計画を発表しており、独立行政機関の国家公開討論委員会(CNDP)は同年10月から4か月間にわたり、これらの計画も含めたフランスの将来のエネルギー・ミックスに関する公開討論を実施した。EDFは公開討論の結果を踏まえ、EPR2の最初の2基をパンリー発電所で建設する計画に大筋の合意が示されたとしていた。フランスの閣僚会議もこの計画の実現に向けて、時間のかかる行政手続きを簡素化するための法案を2022年11月に承認した。同法案は2023年5月にフランス議会で可決され、翌6月に発効。EDFはその数日後、パンリー発電所でEPR2を2基建設するための設置許可申請書(DAC)を規制当局に提出している。エファージュ社によると、今回の契約では関係雇用の創出を通じて地元経済の活性化にも貢献する方針で、工事のピーク時には約4,000名の労働者を動員する計画である。同グループはまた、建設プロジェクトの関係者と協力して、フランス原子力産業の再活性化に重要な従業員の訓練プログラムも作成するとしている。なお、後続のEPR2建設計画については、マクロン大統領が議長を務める閣僚級の「原子力政策審議会(CPN)」が、パンリー発電所と同じ地域内のグラブリーヌ発電所を建設サイトとしてすでに承認済み。これに続いてCPNは今年7月、3番目の建設サイトとして東部のビュジェイ発電所を承認している。(参照資料:エファージュ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
21 Nov 2023
1274
スウェーデン政府は11月16日、原子力発電所の新設に向けたロードマップを公表。非化石燃料による電力を競争力のある価格で安定的に確保し、社会の電化にともない必要となる総発電量を25年以内に倍増させるため、遅くとも2035年までに大型炉2基分に相当する原子力発電設備を完成させるほか、2045年までに大型炉で最大10基分の設備を建設するなど、原子力発電の大規模な拡大を目指すとしている。スウェーデンでは2022年9月の総選挙で中道右派連合の新政権が発足し、同年10月のティード城における政策協議で、環境法に記されている原子力発電関係の禁止事項(新たなサイトでの原子炉建設禁止、同時に運転できる原子炉の基数は10基まで、閉鎖済み原子炉の再稼働禁止)を撤廃すると決定。2040年までにエネルギー供給システムを100%非化石燃料に変更するため、2026年までに最大4,000億クローナ(約5兆5,000億円)の投資を行い、新規原子力発電所の建設環境を整えていくと表明した。今年1月には、U.クリステション首相がその環境法の改正を提案しており、3か月間の意見募集を経て政府は9月末に同法の改正法案を議会に提出、2024年1月初頭にも同法案の成立・発効を目指している。今回のロードマップについて、気候・企業省のE.ブッシュ・エネルギー産業担当相や雇用省のJ.パーソン労働市場担当相など関係閣僚らは、「原子炉の新設に道を拓く一連の政府決定により、スウェーデンは再び主要な原子力発電国となるための基盤を築き、欧米諸国のクリーン・エネルギーへの移行を強力に後押しする」と説明。CO2排出量を実質ゼロにするには、可能な限り多くのクリーン・エネルギーを必要とするため、新規原子力が担う役割は非常に重要だとした。E.スヴァントソン財務相も、「一般消費者や企業に安定的にエネルギーを供給するには原子炉の新設が必要だ」と指摘。資金調達は政府が担うべきものだと述べた。今回決定した原子炉建設ロードマップの主要ポイントは以下の4点。政府は原子力発電コーディネーターを設置し、新規建設を促すとともに障害となる条件を取り除く。また、追加対策の必要性を見極めるほか、原子力発電の効率的な拡大に向けてすべての関係者の方向性を明確に定めてこれを進めていく。原子力発電の拡大には長期的な財務リスクがともなうことから、政府はこれまでに4,000億クローナの政府信用保証を導入すると提案しているが、これだけでは不十分。これに加えて、原子力への投資意欲を一層刺激するため、政府とリスクを共有するための資金提供モデルと国の財務責任を明確化する。遅くとも2035年までに、少なくとも合計250万kW以上の原子力発電設備を新たに建設するため、政府はこれまでの措置に加え、今回のロードマップで追加の対策を推し進める。非化石燃料による発電電力の2045年までの長期的な需要を考慮すると、例えば大型炉10基分に相当する設備の拡大が必要になるが、具体的な設備容量と炉型は、電力供給システムの拡大速度や技術開発など様々な要因を見極めて決定する。これらの政策に基づき政府はすでに今月17日、信用保証供与の準備を整えるよう国債庁に指示している。(参照資料:スウェーデン政府の発表資料(スウェーデン語)①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Nov 2023
2863
米国でモジュール式マイクロ原子炉(MMR)を開発中のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)は11月15日、フィリピンで1基以上のMMRを建設する可能性を探るため、同国最大の配電会社であるマニラ電力(通称メラルコ社)と協力協定を締結した。MMRを組み込んだエネルギー供給システムの建設がフィリピンの環境と社会に及ぼす影響や、技術面と立地面の要件、商業的な実行可能性などを予備的に調査するのが目的。商業炉を持たない同国で先進的原子炉技術の導入を促し、同国の長期的なエネルギー安定供給と供給源の多様化に貢献していく考えだ。フィリピンでは、1976年にバターン半島で着工した米国製の60万kW級PWRが1985年に9割がた完成したものの、チェルノブイリ事故の発生を受けて、当時のアキノ政権はその安全性と経済性を疑問視。運転認可を発給しなかった。今回の原子力導入に向けたメラルコ社の動きは、同社の長期的持続可能性戦略の一部であり、MMRのような次世代エネルギー供給システムを採用することで、同社はクリーン・エネルギーへの移行を加速。同社はまた、近年「フィリピン人学者とインターンのための原子力工学プログラム(FISSION)」を開始しており、原子力工学の高度な教育・訓練を通じて、技術分野や規制分野の人材を育成するとしている。USNC社によると、今回の協定締結は今年8月に両社が結んだパートナーシップに基づくもので、同協定の下でUSNC社は約4か月かけて事前の実行可能性調査を実施する。MMRによるエネルギー供給システムの詳細や、同システムをフィリピンで効果的に活用する方法などをメラルコ社に説明するとしており、メラルコ社はこの調査結果を土台として、MMR建設プロジェクトの実施に向けた詳細な調査活動や、特定したサイトでのプロジェクト開発について重要な判断を下すことになる。また、建設資金の調達についても評価が行われる予定で、調査の結果次第で同計画は詳細な実行可能性調査に移行する可能性がある。協力協定は、第30回アジア太平洋経済協力会議(APEC)非公式首脳会議が米サンフランシスコで開催されたのに合わせ、メラルコ社のM.V.パンギリナン会長兼CEOとUSNC社のF.ベネリCEOが調印。これには2022年5月のフィリピン大統領選前から、同国初の原子力発電所建設に意欲を示していたF.マルコス大統領も同席した。USNC社のMMR(電気出力0.5万~1万kW、熱出力1.5万kW)は、ヘリウムを冷却材に使用する第4世代の小型モジュール式高温ガス炉。同炉を使ったエネルギー供給システムでは、最大4.5万kWの熱を熱貯蔵ユニットに蓄え、これを従来のタービン方式で電気に変換するという。USNC社は米国内で今後、MMRの許認可手続きを円滑に進められるよう、すでに米原子力規制委員会(NRC)と事前の協議を始めている。また、カナダ原子力研究所のチョークリバー研究所内でMMR初号機を建設するため、同社とカナダ・オンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社は2019年3月、「サイト準備許可(LTPS)」をカナダ原子力安全委員会(CNSC)に申請した。MMRで使用する3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)については、USNC社は2022年8月、この燃料を使って「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」を製造するパイロット施設(PFM)をテネシー州のオークリッジにオープン。その後、同社は今年1月に、TRISO燃料とFCM燃料ペレットを商業規模で製造する合弁事業体の設立に向け、仏フラマトム社と予備的合意文書を交わした。6月には、PFMで製造したTRISO燃料を米航空宇宙局(NASA)の「宇宙探査用原子力推進(SNP)プログラム」用に納入している。(参照資料:USNC社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月16日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Nov 2023
1897
ニッケルやパラジウムなど非鉄金属の採鉱で世界的大手企業であるロシアのノリリスク・ニッケル(Norilsk Nickel)社は11月13日、ノリリスク産業地区における電力供給源として小型モジュール炉(SMR)の利用可能性を探るため、ロシアの原子力総合企業ロスアトム社と合意文書に調印した。ロシア北部のノリリスク-タルナフ地域に位置する同産業地区は、ロシアの主要送電網から離れているため、安定したエネルギー供給システムが強く求められてきた。今回の合意に基づき、ノリリスク社は独自の戦略開発計画に沿ってSMRが導入可能か調査する方針。ロスアトム社が開発した最新の陸上設置式SMR「RITM-400」を最有力候補に、複数のオプションを比較評価するほか、立地に最も適した地点をロスアトム社とともに選定。必要となるインフラ設備なども確認する。候補炉である「RITM-400」は電気出力8万kW~9万kWとなる予定だ。ロスアトム社はこれまでに傘下のOKBMアフリカントフ社を通じて、海上浮揚式原子力発電所(FNPP)に搭載するSMRとして「KLT-40S」(電気出力3.5万kW)や「RITM-200M」(電気出力約5万kW)、陸上用として「RITM-200N」などを開発。極東のチュクチ自治区では、世界初のFNPPとして「KLT-40S」を2基搭載した「アカデミック・ロモノソフ号」が、2020年5月から同地区内のペベクに電力を供給中である。同地区ではまた、バイムスキー銅鉱山プロジェクト用として、鉱山近郊のナグリョウィニン岬に「RITM-200M」を2基搭載した「最適化・海上浮揚式原子炉(OFPU)」の配備が進められている。 このほか、ロシア北東部に位置するサハ共和国ウスチ・ヤンスク地区では、陸上用の「RITM-200N」を2028年までに完成させる計画があり、連邦環境・技術・原子力監督庁(ROSTECHNADZOR)は2021年8月、ロスアトム社の国際事業部門としてこの計画を担当するルスアトム・オーバーシーズ社に、建設許可を発給している。(参照資料:ノリリスク・ニッケル社、ロスアトム社(ロシア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Nov 2023
1526
ノルウェー南部のハルデン自治体と新興エネルギー企業のノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社、およびエストフォル・エネルギー(Østfold Energi)社は11月10日、かつて研究炉が稼働していたハルデンで小型モジュール炉(SMR)建設の実現可能性を探るため、共同でハルデン・シャーナクラフト社(Halden Kjernekraft AS)を設立した。同社の調査結果に基づき、後の段階で建設の是非を決定する方針だ。3者の発表によると、オスロ特別市や近隣のアーケシュフース県、ハルデンなど18の自治体を含むエストフォル県では目下、160億kWhの電力不足に陥っているという。国内送電網を所有・運営する国営企業のスタットネット社は、この地域で新たな発電・送電容量を追加しない限りこの需要を満たせる設備はなく、現行計画のままでは2035年までこうした設備の追加は望めないと警告している。ハルデンでは1950年代から2018年6月まで、60年以上にわたりエネルギー技術研究所(IFE)がハルデン研究炉(BWR、最大熱出力2.5万kW)を運転。この実績に基づいて同自治体は前日の9日、SMRの立地調査を行なう新会社の設立構想を決定した。同自治体は、「エストフォル県における電力不足の解消策としてSMRを加えるべきか、あらゆる可能性を模索すべき時が来た」と表明している。新たに設立されたハルデン・シャーナクラフト社にはハルデン自治体が20%出資するほか、ノルスク・シャーナクラフト社とエストフォル・エネルギー社がそれぞれ40%ずつ出資。ノルスク・シャーナクラフト社は近年、同国初の商業用原子力発電所となるSMRの建設計画を独自に進めており、この計画についてフィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)のコンサルティング子会社から支援を得るため、今年6月にこの子会社と基本合意書を交わした。ノルスク社はすでにノルウェー国内で複数の立地候補地を特定しており、これらの自治体と結んだ協定に基づき、今月2日には候補地の一つで調査プログラムの実施を石油・エネルギー省に申請している。ノルスク・シャーナクラフト社のJ.ヘストハンマルCEOは、「ハルデンでは原子炉が長期間稼働していたため、適切な判断を下すだけの専門的知見があり住民も抵抗がない」と指摘。長期的な雇用の創出も見込まれることから、原子力が同自治体の電力需要に貢献するか徹底的に調査することは、意義があると述べた。エストフォル・エネルギー社は、エストフォル県の全自治体、および同県が所在するヴィーケン地方の議会が共同保有するエネルギー企業で、ハルデン自治体も7.67%出資している。水力を中心に太陽光や風力など、様々な再生可能エネルギーで電力を供給中だが、同社のM.バットネ取締役は「原子力は再エネの代替エネルギーというより、再エネを長期的に補完していくエネルギーになり得る」と強調。「最新の原子力発電所は、敷地面積が小さく運転時間が長いなど有利な点も多いが、十分な解決策を要する課題も多いため、今回の調査も含めて様々な議論を行うべきだ」としている。(参照資料:ハルデン自治体、ノルスク・シャーナクラフト社、エストフォル・エネルギー社の発表資料(すべてノルウェー語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
15 Nov 2023
1614
オランダのULCエナジー社が同国内で進めている英ロールス・ロイスSMR社製小型モジュール炉(SMR)の建設計画に、同国の建設企業BAMインフラ・ネーデルランド社が加わった。3社はそのための基本合意書に11月7日付で調印しており、ロールス・ロイスSMR社のSMRを標準設計としてオランダで複数基建設し同国のクリーン・エネルギーへの移行を促すなど、長期的に協力していくことを確認した。原子力プロジェクトの開発企業であるULCエナジー社は、2022年8月にオランダ国内でロールス・ロイスSMR社の技術を使用する独占契約を同社と締結。実証済みの技術に基づく最新鋭のモジュール式原子炉の建設を通じて、信頼性の高い安価なエネルギー供給システムを構築することになる。ロールス・ロイスSMR社は、英ロールス・ロイス社が80%出資する子会社として2021年11月に設立された。同社によると、同社製SMRは既存のPWR技術を活用した出力47万kWのモジュール式SMRで、少なくとも60年間稼働が可能。ベースロード用電源としての役割を果たすほか、不安定な再生可能エネルギーを補い、再エネ電源の設置容量拡大にも貢献できるという。2022年4月からは、英原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が同炉について「包括的設計審査(GDA)」を開始している。また、英政府のビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)(当時)は2021年11月、民間部門で行われている投資支援のため、同社に2億1,000万ポンド(約391 億円)を提供すると約束。ロールス・ロイスSMR社はすでに英国内の建設候補地として、閉鎖済みの原子力発電所サイトなど4地点を選定しており、2030年代初頭にもSMR発電所を送電網に接続することを目指している。国外ではポーランドやウクライナ、スウェーデン、フィンランド等での建設に向けて、協力覚書を結んでいる。BAMインフラ・ネーデルランド社は、欧州の建設大手であるロイヤルBAMグループの傘下企業で、オランダでは150年以上にわたり様々なインフラ設備を建設してきた。ロールス・ロイスSMR社のSMRは、1基でオランダ国内の140万世帯に十分なクリーン・エネルギーを供給できるほか、工場で製造したモジュールを現地で組み立てることで従来の大型炉と比べて工期が短くなり、世界中で幅広く利用が可能と高く評価している。BAMインフラ・ネーデルランド社のS.デンブランケン商業事業開発理事は今回、「戦略的パートナーとなったロールス・ロイスSMR社、ULCエナジー社とともにクリーン・エネルギーへの移行に向けた長期計画を作成する」と表明。「SMRという強力な解決策を通じて、迅速かつリスクを最小限に抑えながらオランダにイノベーションをもたらし、一層持続可能な国にしたい」と抱負を述べた。ロールス・ロイスSMR社サプライチェーン・グループのR.エベレット・グループリーダーは、「ロイヤルBAMグループとは英国子会社のBAMナットル社を通じてすでに協力関係にあるので、今回の合意に基づいて事業機会を模索していく」と表明している。(参照資料:ロールス・ロイスSMR社、BAMインフラ・ネーデルランド社(オランダ語)、ULCエナジー社(オランダ語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月8日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
14 Nov 2023
1867
ベルギー原子力研究センター(SCK CEN)、イタリアの経済開発省・新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)とアンサルド・ヌクレアーレ社、ルーマニアの国営原子力技術会社(RATEN)、および米国のウェスチングハウス(WH)社の5者は11月8日、鉛冷却高速炉方式の小型モジュール炉(SMR-LFR)建設を加速することで、了解覚書を締結した。液体重金属の技術蓄積がある5者が協力し、ベルギー北部のモルにあるSCK CENでSMR-LFRの商業用実証炉を建設。同炉の技術やエンジニアリング面の可能性を実証し、クリーン・エネルギーへの世界的な移行に際し、持続可能なエネルギー源である原子力を主力に位置付けていく考えだ。欧州原子力共同体(ユーラトム)のLFR研究開発プロジェクトでは、ENEAとアンサルド社が主導的役割を担っており、両者はユーラトムのLFR開発ロードマップに明記されたLFR実証炉「ALFRED」(電気出力12万kW)の建設をルーマニア南部のピテシュチ(Pitești)で実現するため、2013年にRATENと「FALCON(Fostering ALfred CONstruction)企業連合」結成の協力覚書を締結していた。今回覚書を結んだ5者は、SMR開発の次の段階の作業として、同計画で過去10年間に行われた設計・建設経験を活用し、商業用SMR建設の経済的、技術的実行可能性等を探る方針だ。覚書への署名はベルギーの首都ブリュッセルで行われ、同国のA.デクロー首相とルーマニアのK.ヨハニス大統領が同席した。また、在ベルギーのイタリア大使館と米国大使館からも代表者が出席している。ベルギー政府は2022年5月、SCK CENに革新的なSMRの研究を委託しており、研究予算として同センターに1億ユーロ(約160億円)を拠出すると表明。 SCK CENは、この研究を切っ掛けに鉛冷却高速炉SMRの実現に向けたパートナーの選定作業を始め、様々な企業が過去数年間に実施した鉛冷却炉関係の技術開発成果に基づいて、今回の5者が決定したという。受動的安全系が組み込まれた鉛冷却高速炉SMRは非常に高い安全性を備えており、原子燃料サイクルにおいては一層効率的な燃料の活用と長寿命放射性廃棄物の削減が可能である。協力覚書を締結した5者は、この有望な技術をコスト面の競争力を持ったエネルギー源として完成させ、それが商業規模で建設されるよう各メンバーが強みを発揮し補完し合う考えだ。 具体的なアプローチとしてSCK CENは、WH社が開発中のLFRを出発点に設定。将来のエネルギー・ミックスに、低炭素で持続可能かつ競争力のある鉛冷却高速炉SMRの電力と熱、水素製造等を提供するため、5者はあらゆる要件を満たせるよう協力する。鉛を冷却材として使用する原子力技術は、ENEAやRATEN、SCK CENなど同技術のパイオニアにとって未知の領域ではないという。これらの機関のノウハウで商業用SMR-LFRの技術を実証した後は、市場投入までの期間を最短にできるよう、WH社とアンサルド社の設計や許認可手続き、建設等での経験を活用。最終的な商業化を目指して盤石な基盤を固め、世界展開を図るという。(参照資料:SCK CEN、RATEN、アンサルド社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Nov 2023
1863
米国のユタ州公営共同事業体(UAMPS)とニュースケール・パワー社は11月8日、エネルギー省(DOE)のアイダホ国立研究所(INL)でニュースケール社製小型モジュール炉(SMR)の初号機建設を目指した「無炭素電力プロジェクト(CFPP)」を打ち切ると発表した。UAMPSの100%子会社であるCFPP社が進める同プロジェクトでは、電気出力7.7万kWの「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を6基備えた発電設備「VOYGR-6」(46.2万kW)で、最初のモジュールを2029年までに完成させることを計画。これに向けて、CFPP社は今年の7月末、建設・運転一括認可(COL)申請の最初の部分となる「限定工事認可(LWA)」を米原子力規制委員会(NRC)に申請しており、2024年1月にはCOL申請の残りの部分を提出するとしていた。今回の発表で両社は、プロジェクトの継続に十分な資金が得られる可能性が低いことが判明したと述べており、協議の結果、最も賢明な判断としてプロジェクトを打ち切ることで合意したと説明している。ニュースケール社は2020年9月、出力5万kWの「NPM」について、SMRとしては初となる「標準設計承認(SDA)」をNRCから取得しており、2023年1月には「設計認証(DC)」を取得した。同じ月に同社は、出力7.7万kWの「NPM」を6基備えた設備についてもSDAを申請したが、NRCは同社に補足資料の追加提出を要求。今年3月から補足資料を必要としない部分について安全関係の審査を開始したものの、同申請を正式に受理したのは7月末のことである。SDA審査はA~Dまで4フェーズで構成されているが、現時点ではニュースケール社からの資料提出待ちの部分が多く、最初のフェーズAも完了していない。UAMPSは、米国西部7州の電気事業者約50社で構成される公共電力コンソーシアム。域内の高経年化した化石燃料発電所を原子力等のクリーン・エネルギーで段階的にリプレースし、クリーンな大気を維持するという独自の「CFPP」を2015年から推進していた。2016年2月にDOEから、INLにおけるSMR建設を許可されており、2020年10月には、NPMを複数基備えた発電設備の建設・実証を支援する複数年の補助金として13億5,500万ドルを獲得している。CFPP社の「VOYGR-6」の建設については、ニュースケール社が2022年12月に最初の長納期品(LLM)製造を韓国の斗山エナビリティ社に発注。原子炉圧力容器(RPV)の上部モジュールを構成する大型鍛造品や蒸気発生器の配管等を調達するとしていた。ニュースケール社のJ.ホプキンズ社長兼CEOは今回、「過去10年以上にわたるCFPPのお陰で、当社の技術は商業炉の建設段階まで到達した。今後は国内外のその他の顧客とともに当社の技術を市場に届け、米国における原子力製造基盤の成長や雇用の創出に貢献したい」と述べた。UAMPSのM.ベイカーCEOは、「当社も含めた関係各位のCFPPに対するこれまでの努力を思うと、この決定は非常に残念だが、CFPPで我々は多くの貴重な教訓を学んでおり、UAMPS会員の将来のエネルギー需要を満たすため、今後の作業を進めていく」としている。米国内ではこのほか、ウィスコンシン州のデーリィランド電力協同組合が2022年2月、供給区内でニュースケール社製SMRの建設可能性を探るため、了解覚書を締結した。国外では、ポーランドの鉱業大手のKGHMポーランド銅採掘会社が2022年2月、「VOYGR」設備の国内建設に向けてニュースケール社と先行作業契約を交わしている。また、ルーマニアでは同年5月、南部のドイチェシュティで「VOYGR-6」を建設するため、国営原子力発電会社とニュースケール社、および建設サイトのオーナーが了解覚書を結んだ。(参照資料:ニュースケール社、UAMPSの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月9日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Nov 2023
11174
欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会(EC)のK.シムソン・エネルギー問題担当委員は11月7日、EU域内で小型モジュール炉(SMR)の建設を加速し、熟練の労働力を含めた堅固なSMRサプライチェーンを確立するため、「欧州SMR産業アライアンス(European Industrial Alliance on SMRs)」を設置すると発表した。これはEU域内の原子力産業界や研究機関、原子力規制当局等の要請に基づくもので、エネルギー・ミックスにSMRを加えると決めた加盟国が今後10年以内にSMRを自国で建設し、それぞれの脱炭素化目標達成に活用できるよう、ECは2024年初頭のSMR産業アライアンス設置を目指すとのこと。シムソン委員のこの発表は、ECがスロバキアの首都ブラチスラバで開催した「欧州原子力フォーラム(ENEF)」の冒頭演説で明らかになった。同委員はその前日、「欧州におけるSMR協力」の関係イベントでも同様の発言をしており、「欧州が原子力の技術面や産業面でリーダーシップを維持することは重要であり、ECにはSMR産業アライアンスの設置を進める準備ができている」と表明していた。同委員によると、SMR産業アライアンス設置の背景には、EUが2050年までのCO2排出量実質ゼロ化に向け、次の10年間に野心的な削減目標を達成するには、再生可能エネルギー等のあらゆる低炭素電源が必要になる。域内では脱炭素化のみならず電力供給の確保など、多くの課題の解決に原子力の果たす役割が改めて注目されており、いくつかの加盟国は従来の大型炉開発の先にあるSMR技術に強い関心を抱いている。こうした状況から、同委員は「SMR技術を完成させる上でEUが主導的な役割を果たせると確信しているが、それには遅くとも10年以内に最初のSMRを欧州の送電網に接続することを目標に定めねばならない」と指摘した。また、欧州原子力産業協会(nucleareurope)はSMRについて、CO2を多く排出する産業部門の脱炭素化に有効なほか、雇用を生み出すとともに、EU経済の成長にも資するなど、数多くの恩恵をEU域内にもたらすと強調している。同協会のY.デバゼイユ事務局長は、「資金調達や安全な設計、建設と運転といった条件の特定などSMRアライアンス設置の前提基盤は、その前身としてECが設置した『欧州SMRプレ・パートナーシップ』が築いたものだ」と指摘。「ECがこのような重要技術の将来的な活用に全面的な支援を表明したことは非常に喜ばしい」と述べた。EU域内でSMRの安全で効率的、かつ確実な開発を促すため、同アライアンスは以下の4分野に集中的に取り組む。エネルギー多消費産業が必要とするエネルギー需要量とSMRが提供できる解決策について、市場が積極的に取り組むことを奨励する。SMR開発を財政面で支えるため、開発リスクとリターンをシェアするコスト分担型の協力や個々の開発プロジェクトへの資金援助等を検討する。EUサプライチェーンにおけるSMRの活用レベルを高め、熟練労働力の確保に向けた教育・訓練が強化されるよう、原子力産業界の中で十分な体制を整える。SMR関係の技術革新と研究開発を支援するため、関係プログラムの推進に必要な資源を特定する。(参照資料:EC、欧州原子力産業協会の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月7日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
09 Nov 2023
1582
スウェーデン国営のバッテンフォール社は11月1日、ヴェーロー半島にあるリングハルス原子力発電所(PWR×2基、各約120万kW)の西側に小型モジュール炉(SMR)を少なくとも2基建設するため、詳細計画の策定申請書を地元ヴァールベリ市に提出すると発表した。同社はすでに同半島で約1km2の土地を確保済みだが、9月からは建設準備に向けて追加分の土地購入手続きを開始。建設の最終投資判断(FID)は、必要な許認可をすべて取得した後に下す予定で、初号機の運転開始は2030年代初頭を目指している。今回の申請書では、現時点の計画として「運転エリア」に原子炉建屋や補助建屋を建設するほか、「諸活動エリア」で作業工場や貯蔵所、事務スペース、食堂などを設置する青写真を提示。今後はリングハルス発電所の既存インフラを、新規SMRとどの程度共有できるか調査していく。スウェーデンでは2022年9月の総選挙で中道右派連合の新政権が発足し、同年10月のティード城における政策協議で、環境法に記されている原子力発電関係の禁止事項(新たなサイトでの原子炉建設禁止、同時に運転できる原子炉の基数は10基まで、閉鎖済み原子炉の再稼働禁止)を撤廃すると決定。2040年までにエネルギー供給システムを100%非化石燃料に変更するため、2026年までに合計4,000億クローナ(約5兆5,000億円)の投資を行い、原子炉の建設環境を整えるとした。今年1月には、U.クリステション首相が環境法の改正を提案しており、政府は9月末に同法の改正法案を議会に提出、2024年1月初頭にも同法案が成立・発効することを目指している。バッテンフォール社は2022年6月から、リングハルス発電所でSMR建設に向けた諸条件の予備調査を始めており、急速な増加が見込まれる電力需要を非化石燃料電源で賄えるか調査中。リングハルス発電所では2020年末までに1、2号機が永久閉鎖されたことから、従来の大型炉やSMRであっても、既存の環境法の規定範囲内でリプレース用原子炉としての建設が可能である。また、送電インフラが整っており新設炉との接続が容易であるなど、同社は複数の理由から建設に適していると判断、この予備調査は年末までに完了する見通しだ。同社はこのほか、今春から環境影響声明書(EIS)の作成に向けて地盤調査などのフィールドワークを開始。夏以降は、原子炉ベンダーへの要求事項に関する作業も開始したことを明らかにしている。なお、政府の気候・ビジネス省は11月2日、エネルギー供給システムの100%非化石燃料化に向けて、原子炉建設に関する許認可手続きの迅速化と簡素化に向けた分析調査を開始した。大型炉やSMRの建設加速の条件整備には、規制の枠組みや申請審査等の効率化が欠かせないとの判断によるもの。これにより、安全保障の基本要件でもある盤石なエネルギー供給システムを確保するとしている。(参照資料:バッテンフォール社の発表資料(スウェーデン語)①、②、スウェーデン政府の発表資料(スウェーデン語)、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
08 Nov 2023
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ノルウェーの新興エネルギー企業であるノルスク・シャーナクラフト社(Norsk Kjernekraft AS)は11月2日、国内で複数の小型モジュール炉(SMR)を備えた発電所の建設を石油・エネルギー省(OED)に提案した。最初の正式手続きとして、立地候補地の一つで調査プログラムを申請したもので、商業炉を持たないノルウェーでOEDがこのプログラムを承認すれば、同社は環境面や技術面、経済面、および安全面の影響評価を開始することができる。今回の調査プログラムは、同国西部ノルウェー海側のアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体の境界に位置する共同工業地帯でのSMR建設に向けたもの。今年4月に、同社がこれらの両自治体、および北極圏のナルビク(Narvik)自治体と同プログラムの実施協定を締結したのにともなう措置で、6月には同社は、バレンツ海に面したヴァ―ドー(Vardø)自治体とも同様の協定を締結している。これら地区の適切なエリアでSMRを建設すれば、地区内のCO2排出量が削減されるだけでなくグリーン産業が新たに根付くと同社は指摘した。また、複数のSMRを備えた発電所により同社は年間約125億kWhを発電し、ノルウェーの総発電量は約8%増加すると予測。ノルウェーのクリーン・エネルギーへの移行にも大きく貢献すると強調している。ノルスク・シャーナクラフト社は、2022年7月に同国の民間投資会社のMベスト・グループが設立した企業。核物理学や核化学、石油産業等についての専門社員で構成されおり、ノルウェー国民や産業界がクリーンで価格も手ごろなエネルギーを確実に得られるようにすることを企業戦略としている。現段階では電力多消費産業との協力によりSMRの立地サイトを選定中で、その後は国の原子力規制や国際的な基準に則り許認可手続き等の実施準備を進めていく。同社はすでに今年3月、英国のロールス・ロイスSMR社と了解覚書を締結しており、将来的に同社製SMRの建設プロジェクトを立ち上げる可能性について協力することになった。ノルスク社はこの建設計画について透明性を持って進めると明言しており、許認可手続き等には地元住民を交える方針。環境等の影響評価でSMR発電所の影響が許容範囲内と判明すれば、ノルウェーの法規に則って許認可手続きを開始するが、同社は建設の最終投資判断を下す前には、それ以外にも様々な重要手続きを踏まねばならないと説明している。同社のJ.ヘストハンマルCEOは、「どれだけ迅速に許認可手続きを進められるかにもよるが、アウレとハイムでは自治体も住民も受入れを表明しており、当社は今後10年以内にSMR発電所の運転が可能だ」と指摘。「ノルウェーでは現在エネルギー消費量の約半分を化石燃料に依存しているが、メンテナンスを適切に行なえば100年利用できるという原子力発電所によって、電化が大幅に進むだけでなくCO2の排出量も抑えられる」と強調している。(参照資料:ノルウェー・シャーナクラフト社の発表資料(ノルウェー語)①、②、③、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
07 Nov 2023
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フランス国営のフランス電力(EDF)が約8割出資するフラマトム社と、カザフスタンの国営原子力企業であるカザトムプロム社は11月1日、原子燃料サイクル関係の協力を拡大することで合意した。同分野における専門家の教育・訓練に関しても、有望な共同プロジェクトをさらに模索し、相互に利益が得られるよう協力関係を築いていく考えだ。この合意文書への調印は、カザフのK.-J.トカエフ大統領の招きによりフランスのE.マクロン大統領が主要企業の代表者らとともにカザフを公式訪問し、首都アスタナで「仏-カザフ・ビジネス・フォーラム」への参加に合わせて行われた。フランス代表団には、O.ベシュト外務大臣付 貿易・誘致・在外フランス人担当大臣と、R.レスキュール経済・財務・産業及びデジタル主権大臣付 産業担当大臣も含まれている。両国はすでに長期にわたり戦略的協力関係にあり、2021年11月に東カザフスタン州のオスケメンでカザトムプロム社が操業開始した同国初の燃料集合体(FA)製造工場「ウルバ-FA」には、フラマトム社が「AFA 3G型燃料集合体」の製造ライセンスや主要な製造機器、技術情報、関連人材等を提供した。同工場は、カザトムプロム社傘下のウルバ冶金工場(UMP)が51%出資しているほか、中国広核集団有限公司(CGN)傘下の中広核鈾業発展有限公司(CGNPC URC)が49%出資しており、実質的に中国の原子力発電所専用のFA製造施設である。カザフはウラン生産量で世界第一位であり、欧州で必要とされるウランの4分の1以上を供給。フランスには原油も輸出しているため、両国間の協力の中でもエネルギー分野を特に重視している。原子力はフランスのエネルギー部門の主力産業であることから、カザフ政府は両国の協力拡大の意義は非常に大きいと考えている。フラマトム社のB.フォンタナCEOは、「今回カザトムプロム社との協力強化で合意したことは、これまでに行われたプロジェクト協力で両社間に確かな信頼関係が築かれたことの証左だ」とコメント。カザトムプロム社のM.ユスポフCEOは、「カザフの原子燃料サイクル関係プロジェクトでは、フラマトム社は戦略的に最も重要なパートナーの一つ」と強調した。なお、マクロン大統領率いるフランス代表団は、同じ時期に近隣のウズベキスタンも訪問。両国の大統領は共同声明の中で、グリーン・エネルギーや先進技術、戦略的鉱物資源などの分野で持続的な開発協力を行うとしている。(参照資料:フラマトム社、カザトムプロム社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの11月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Nov 2023
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米国で先進的な小型モジュール炉(SMR)や燃料を開発中のX-エナジー社は10月31日、ニューヨーク証券取引所への上場に向けて、2022年12月に特別買収目的企業(SPAC)((特別買収目的企業(SPAC)は未公開会社の買収を目的として設立される法人。))のアレス・アクイジション社(Ares Acquisition Corporation=AAC) と結んだ合併契約を解除すると発表した。同契約の締結以降、合併手続きを進めるなかで、X-エナジー社には多くの投資家から強い関心が寄せられていた。しかし、課題の多い金融市場環境や同業者の取引実績、上場企業であることのメリットやデメリットなどを考慮した結果、現時点ではこの手続きを進めないことが最良の道と判断し、両者は合併契約解消に合意した。X-エナジー社は、熱電併給可能な第4世代の非軽水炉型・小型高温ガス炉(HTGR)となる「Xe-100」(電気出力8万kW)を開発中。ベースロード用電源としての役割に加えて、水素製造や海水脱塩など幅広い用途に利用可能なことから、米エネルギー省(DOE)は2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」の支援対象企業の一つに同社を選定した。X-エナジー社は2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了しており、同じ月に大手化学メーカーであるダウ(Dow)社がメキシコ湾岸の自社施設の一つで同炉を4基建設するため、X-エナジー社と基本合意書を締結。その後2026年の実証炉着工に向けて、「共同開発合意書(JDA)」を交わしている。また、今年7月には、北西部ワシントン州の電気事業者であるエナジー・ノースウエスト社が、コロンビア原子力発電所の隣接区域で「Xe-100」を最大12基建設することを計画。2030年までに最初のモジュールを運転開始するため、X-エナジー社とのJDAに調印した。X-エナジー社のJ.C.セルCEOによると、基本設計が完了した「Xe-100」は現在「最終設計の準備状況審査」の段階にあり、米エネルギー省(DOE)と国防総省(DOD)の両方から、同技術による可搬式マイクロ原子炉の商業化に向けた支援を得ることになった。同CEOは、「当社独自のクリーン・エネルギー技術や競争上の優位性、戦略を実行して、顧客とステークホルダーの利益に貢献したい」と抱負を述べた。合併契約の実際の打ち切りに当たり、AAC社は定款に明記された期限内での解除は難しいと判断している。同定款の規定に沿ってこの期限を調整するほか、発行済みのX-エナジー社株を11月7日頃までに一株当たり0.0001ドルですべて買い戻す方針。ニューヨーク証券取引所に対しては、同社株の上場廃止申請書を米証券取引委員会に提出するよう要請する考えだ。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Nov 2023
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チェコの国営電力(CEZ社)は10月31日、ドコバニ原子力発電所(ロシア型PWR×4基、各51万kW)で建設するⅡ期工事の最初の1基となる5号機について、100%子会社のドコバニⅡ原子力発電会社(EDU Ⅱ社)が大手ベンダー3社から入札の最終文書を受領したと発表した。2022年3月に始まったこの入札には、EDU Ⅱ社の安全・セキュリティ面の資格審査を通過した米ウェスチングハウス(WH)社とフランス電力(EDF)、および韓国水力・原子力会社(KHNP)が参加。3社は同年11月末に最初の入札文書を提出しており、ドコバニ6号機とテメリン原子力発電所(ロシア型PWR×2基、各108.6万kW)の3、4号機についても、法的拘束力を持たない意向表明として増設を提案している。これらの原子炉に採用する炉型として、WH社は中国と米国ですでに商業炉が稼働している120万kW級PWRの「AP1000」を提案。EDFは、中国で稼働実績があり欧州でも建設中の「欧州加圧水型炉(EPR)」について、出力を120万kW級に縮小した「EPR1200」を建設するとした。また、CEZ社のウェブサイトによると、KHNP社はアラブ首長国連邦(UAE)に輸出実績のある140万kW級PWR「APR1400」の出力縮小版、「APR1000」を提案したと見られている。EDU Ⅱ社は今後、国際原子力機関(IAEA)の勧告事項に基づき設定した評価モデルで、各社の提案を技術面や商業面から評価し、報告書を産業貿易省に提出する。チェコ政府としてこれらのうち1社を最終決定した後は2024年中に契約を締結。2036年に試運転の準備が整うよう、建設プロジェクトの計画文書を作成する計画だ。同社は増設計画におけるその他の関係業務も進めており、2019年9月に環境省が増設計画の包括的環境影響評価(EIA)に好意的な評価を下した後、2020年3月にⅡ期工事の立地許可を原子力安全庁(SUJB)に申請した。5、6号機は既存の4基の隣接区域に建設されることになっており、SUJBは翌2021年3月に同許可を発給している。WH社の発表によると、米国政府は同社とベクテル社の企業連合がこの増設計画を落札できるよう、全面的にサポートする方針である。チェコ駐在のB.サベト米国大使は「エネルギーの戦略的供給保障面から見て、米国の技術は地球温暖化に対抗可能な、信頼できるクリーン・エネルギー源を提供するだけでなく、チェコの原子力サプライチェーンで数千人規模の雇用を創出する可能性がある」と指摘、米国とチェコの双方にメリットがあるとした。WH社はまた、チェコの原子力産業界とは約30年前から協力関係にある点を強調。ロシア型PWR(VVER)用の原子燃料を製造できる西側諸国で唯一のサプライヤーとして、VVERが稼働するドコバニとテメリンの両発電所に2024年から原子燃料の供給を開始するとしている。EDFは今回、「子会社であるフラマトム社のノウハウと工業技術力により、原子炉系統の機器や計装制御(I&C)系を提供できる」と表明。タービン系統に関しては、低速タービン「アラベル」の開発企業である仏アルストム社を米GE社が2015年に買収したことから、EDFと長年パートナー関係にあるGEスチーム・パワー社が同タービン付きのものを供給する。また、2022年6月にプラハに設置したEDFの原子力支部を拡張し、チェコのサプライヤー企業約300社との長期的な協力に向けた調整活動を行うほか、EDFが後援する「チェコ・フランス原子力アカデミー」が10月に正式開校したことから、チェコにおける原子力人材の育成を支援するとしている。(参照資料:CEZ社の発表資料①、②、WH社、EDFの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月31日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
01 Nov 2023
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OECD/NEA(経済協力開発機構/原子力機関)は10月26日、小型モジュール炉(SMR)や先進的原子炉が排出する放射性廃棄物の管理戦略を統合するため、新たに開始する共同プロジェクト「Joint Project on Waste Integration for Small and Advanced Reactor Designs (WISARD)」で、米国電力研究所(EPRI)と協力することを発表した。NEAのW.マグウッド事務局長とEPRIのN.ウィルムシャースト上席副理事長が合意したのにともない、EPRIは「WISARD」への最初の資金拠出者になると同時に、SMRや先進的原子炉の持続的な活用に関するNEAの継続的な取り組みも支援。同プロジェクトでは、原子力発電のライフサイクルにおけるすべての分野から専門家を集め、SMRや先進的原子炉などの革新的な発電システムが、同じく革新的な廃棄物管理ソリューションをどのような形で必要とするかを検討していく。NEAは今年から2024年にかけて、同プロジェクトのカバー範囲を決定した後、2024年第3四半期にもプロジェクトを正式に始動。2027年まで3年間継続する計画だ。NEAの説明によると「WISARD」は、持続可能な原子力発電システムになり得るSMRと先進的原子炉、およびそれらで使用する革新的な原子燃料への、世界的な関心の高まりから発足したプロジェクト。「WISARD」の作業プログラムでは具体的に、原子炉の設計や燃料製造等のフロントエンドがバックエンド戦略に及ぼす影響などを探る。原子炉開発の初期段階から持続可能な廃棄物管理戦略を統合するというもので、SMR等の使用済み燃料や放射性廃棄物に特有の特性に焦点を当てて、前例のない国際的な知識基盤を構築する。その後は同基盤の知見に基づき、次世代の使用済み燃料や放射性廃棄物に対する現在の管理ソリューションの適合性を評価する方針で、 これらの廃棄物に関し、①長期的な処分、②輸送、③処理とリサイクルおよび再処理、④中間貯蔵――の主要トピックに焦点を当てていく。原子炉の設計等がバックエンドに与える影響を評価することにより、将来的な課題を早期に特定し、原子炉ベンダーや発電事業者、政府機関に、不要なコストをかけずに効率的かつ持続可能な方法で解決策を提供できるとNEAは説明。EPRIは科学者やエンジニア、政府、学術界との協力により、原子炉の設計から閉鎖に至るまで技術革新を推進してきたことから、その広範な経験が「WISARD」に活かされると考えられている。EPRI はまた、エネルギー部門の広範なニーズを特定することでエネルギーの未来図を描くことを目指している。NEA は次世代原子炉の持続可能性支援に向けて、今後も国際的な規模で追加の協力参加者を募ると表明している。(参照資料:OECD/NEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月27日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
31 Oct 2023
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米国で先進的原子炉と燃料の技術を開発中のX-エナジー社は10月25日、同社製の先進的マイクロ原子炉の商業化に向けた支援を得るため、米エネルギー省(DOE)と協力協定を締結した。同社はすでに、開発中の小型高温ガス炉「Xe-100」(電気出力8万kW)の初号機建設や、同炉で使用するHALEU燃料(U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン)の商業規模の製造施設建設に向けて、DOEの様々なプログラムから支援を受けている。DOEの原子力局と結んだ今回の協定では、同社製のマイクロ原子炉を備えた運搬可能なプラントで、0.3万kW~0.5万kWの電力を火力発電との競合価格で発電することを目指し、2024年末までの期間にDOEから総額250万ドルの支援を受けるとしている。「Xe-100」に対しては、DOEはこれまでにエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)の「知的原子力資産による発電管理(GEMINA)プログラム」の下で、2020年5月に600万ドルの補助金交付対象に選定した。GEMINAでは次世代原子力発電所の運用・保守(O&M)コストを10分の1に削減し、経済性や柔軟性、効率性を高めることを目指しており、X-エナジー社は発電プラントにおける自動化技術やロボット、遠隔メンテナンスなど、先進的技術の活用に取り組んでいる。X-エナジー社はまた、2020年10月にDOEの「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」における初回補助金の交付対象の一つとして選定され、「Xe-100」の実証炉建設に向けた7年間の補助金として総額12億ドルが交付されることになった。その一部は、同炉で使用する3重被覆層・粒子燃料(TRISO燃料)の商業規模の製造施設を、テネシー州オークリッジで建設する計画にも利用される。同社はさらに、DOEの「新型原子炉概念の開発支援計画(ARC)」の下で、2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了している。X-エナジー社製のマイクロ高温ガス炉については、国防総省(DOD)の戦略的能力室(SCO)が2020年3月、遠隔地における軍事作戦用・可搬式マイクロ原子炉の設計・建設・実証を目的とした「プロジェクトPele」の候補炉型の一つとして選定。同プロジェクトでは最終的に、BWXテクノロジーズ(BWXT)社の先進的HTGRで原型炉を建設することになったが、DODは今年9月、候補設計段階にX-エナジー社と結んだ契約の範囲を拡大し、同社製のマイクロ高温ガス炉を民生用にも商業利用できるよう原型炉の設計を進めると発表。既存契約の範囲内で1,749万ドルをX-エナジー社に交付すると表明していた。X-エナジー社は現在、DOEとDODの両方と結んだ補助金契約に基づき、市場で商業的に活用可能な原子炉の開発を同時並行的に進めている。同社の主任エンジニアは「2つの省からサポートを受けて、軍事用と民生用両方のニーズに合わせた設計を低コストで提供していく」とコメント。「プロジェクトPeleにより、送電網が届かない地域でディーゼル発電を代替し、災害時の救助にも使える無炭素電源の建設にまた一歩近づける」と表明している。(参照資料:X-エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
30 Oct 2023
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国際エネルギー機関(IEA)は10月24日、世界のエネルギー部門の長期動向を予測・分析した年次報告書「世界エネルギー見通し(WEO)」の2023年版を公表した。2030年までに世界では電気自動車(EV)の台数が現在の約10倍に増加し、電源ミックスにおける再生可能エネルギーの発電シェアは2022年の約30%から50%近くに上昇するものの、世界の平均気温の上昇を産業革命以前との比較で1.5℃以下に抑えるには、一層強力な政策が必要だとIEAは警告。WEOで設定した3通りの予測シナリオでは、いずれの場合も低炭素電源による発電量が増加する見通しで、原子力については各国の現行エネルギー政策下で、世界全体の原子力発電設備容量が2050年に6億2,000万kWまで拡大する可能性があると指摘している。WEO 2023によると、世界ではエネルギー供給システムが2030年までに大変革を遂げ、太陽光や風力、EV、ヒートポンプ等のクリーン・エネルギーが工場での生産や家電、暖房にいたるまで拡大。各国政府のエネルギー政策や地球温暖化対策をさらに本格的かつスケジュール通りに進めた場合、クリーン・エネルギーへの移行は一層速やかに進展する。また、世界中でクリーン・エネルギー技術が急速に進展しており、これが各国経済の構造変化と組み合わさったため、この10年間に石炭や石油、天然ガス等の化石燃料が需要のピークを迎えることになったが、これは現行のエネルギー政策に基づくWEOのシナリオで初めて起こったこと。世界のエネルギー供給における化石燃料のシェアは過去数十年間に約80%だったが、この数値は2030年までに73%に低下。世界のエネルギー部門におけるCO2排出量も2025年までにピークに達することになる。IEAのF.ビロル事務局長は「クリーン・エネルギーへの移行は世界中で進展中だが、進展速度が問題」と指摘。早ければ早いほど良いのは当然のこととして、同事務局長はこの移行により、「新たな産業の機会と雇用、より優れたエネルギー供給保障、クリーンな大気、誰もがアクセスできるエネルギー源、そしてすべての人にとって一層快適な気候など、計り知れない恩恵が提供される」と指摘。「今日のエネルギー市場で進行している緊張や不安定性を考慮すると、石油とガスが世界の将来的なエネルギーや気候にとって安全または確実な選択肢であるという主張は、根拠が弱い」と強調している。世界の電力供給IEAによると、近年の世界的なエネルギー危機への対応としては、発電部門でクリーン・エネルギーへの移行が特に加速されており、また、供給保障への取り組みが一層強化される形になっている。中国や欧州連合(EU)、インド、日本、米国といったエネルギーの大規模市場では、再生可能エネルギーが拡大する動きが高まっているが、日本や韓国、米国など多数の国が既存の原子炉の運転期間延長を支援するなど、原子力に対する見通しも改善される傾向にある。また、カナダや中国、英国、米国、および複数のEU加盟国では、原子炉新設への支援も行われている。このように低炭素電源全体の発電量は、「現状政策シナリオ(STEPS)=各国政府が実際に実施中、あるいは発表した政策のみを考慮したシナリオ」で、2022年から2050年までの期間に4倍に拡大するほか、「発表誓約シナリオ(APS)=各国政府の誓約目標が期限内に完全に達成されることを想定したシナリオ」で、2050年までに現状レベルの5.5倍に、「持続可能な発展シナリオ(NZE)=2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化するというシナリオ」では、7倍に増大するとIEAは予測。発電シェアも2022年に39%だったものが「STEPS」で2050年までに約80%、「APS」で90%以上に増加するほか、「NZE」では100%近くになるとしている原子力についてIEAは、低炭素電力の発電量では水力に次いで世界で2番目の規模だと説明。先進諸国においては最大の発電量となっており、福島第一原子力発電所事故後の約10年間に停滞していた開発政策は、原子力回帰の方向に状況が変化しつつある。世界全体で2022年に4億1,700万kWだった原子力の設備容量が、2050年には「STEPS」で6億2,000万kWに拡大すると予測しており、この拡大には、主に中国その他の新興市場や、発展途上国における開発が貢献するとの見方を示した。一方、先進諸国では既存炉の運転期間延長政策が広く普及すると見ており、新規の建設プロジェクトは閉鎖される原子炉の容量を補う程度は確保される。3つすべてのシナリオで、先進的原子炉設計も含めた大型炉の建設が主流となるが、小型モジュール炉(SMR)への関心も、原子力利用の長期的な可能性を増大させている。原子力推進国における運転期間延長や新規建設により、世界の原子力設備は「APS」で2050年までに7億7,000万kWに、「NZE」では9億kWを超えるとIEAは指摘している。日本と韓国における主要エネルギーの傾向WEO 2023ではこのほか、地域別の考察で日本と韓国を一項目にまとめて取り上げている。日本のGX政策および韓国の長期電力需給基本計画に基づき、両国では「STEPS」シナリオで現在約65%の石炭と天然ガスのシェアが今後数十年間に急速に低下すると予測。一方、太陽光や風力、原子力のシェアは大幅に拡大し、低炭素電源全体のシェアは現在の30%から、2050年までに約85%に達する見通しだ。IEAによると、両国はともにクリーン・エネルギーへの確実な移行に向けて、電源ミックスや具体的な道筋を定めなくてはならない。発電部門で両国は太陽光への投資を進めているものの、現時点で石炭や天然ガスといった化石燃料に発電量の三分の二を依存。発電部門の脱炭素化には、原子力や洋上風力といった電源が大きく貢献する可能性があり、IEAのシナリオでは、これらの果たす役割が急速に増大する見通し。「STEPS」と「APS」ではいずれも、2050年までに総発電量に対する原子力のシェアが75%拡大すると予測している。(参照資料:IEAの発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Oct 2023
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