米エネルギー省(DOE)は10月23日、国内でマイクロ原子炉を開発中のウェスチングハウス(WH)社、ウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)、およびスタートアップ企業のラディアント(Radiant)社と、総額390万ドルの基本設計・実験機設計(FEEED)契約を締結した。この契約金は、DOE傘下のアイダホ国立研究所(INL)内にある国立原子炉イノベーション・センター(NRIC)が提供するもので、NRICのFEEEDプロセスに沿って、WH社のマイクロ原子炉である「eVinci」、USNC社の「Pylon」、ラディアント社の「Kaleidos」の商業化を促進。具体的にはNRICの新しい「マイクロ原子炉実験機の実証用(Demonstration of Microreactor Experiments=DOME)テストベッド」を使って、3社の設計作業や機器の製造、燃料を装荷した実験機の建設と試験に際し、支援を提供する。NRICは、INLで30年以上運転された「実験増殖炉II(EBR-II)」の格納ドームを利用してDOMEテストベッドを建設中。DOEは早ければ2026年にもDOMEテストベッドでマイクロ原子炉の実験機試験を開始する計画で、3社が試験にかける経費を削減してプロジェクト全体のリスクを軽減するなど、これらの開発が一層迅速に進むよう促す方針だ。DOEのK.ハフ原子力担当次官補は、「今回のFEEED契約により、3社のマイクロ原子炉はさらに一歩、実現に近づいた」と指摘。「これらの原子炉は、クリーン・エネルギーへの移行を目指す様々なコミュニティに複数の選択肢を提供することになる」と述べた。WH社の「eVinci」はヒートパイプ冷却式の原子炉で、電気出力は0.2万kW~0.5万kW。DOEは2020年12月、官民のコスト分担方式で進めている「先進的原子炉実証プログラム(ARDP)」の支援対象に選定しており、7年間に総額930万ドル(このうち740万ドルをDOEが負担)を投じて、2024年までに実証炉を建設する計画である。今回のFEEED契約による資金で、WH社はINLにおける5分の1サイズの実験機建設計画を策定。最終設計の決定や許認可手続きに役立てたいとしている。USNC社の「Pylon」は、第4世代の小型高温ガス炉(HTGR)として同社が開発中の「マイクロ・モジュラー・リアクター(MMR)」(電気出力0.5万kW~1万kW、熱出力1.5万kW)の技術に基づいている。MMRよりさらに小型で、送電網が届かない地域や宇宙への輸送が容易。「Pylon」1基あたりの電気出力は0.15万kW~0.5万kWだが、複数基連結することで出力を増強することが可能である。ラディアント社の「Kaleidos」は、電気出力が最大0.1万kW、熱出力は0.19万kWの小型HTGR。遠隔地域のディーゼル発電機を代替するほか、軍事基地や病院、データセンターその他の戦略的インフラ施設に確実にエネルギーを供給。陸上や海上の輸送のみならず空輸が可能であり、立地点では一晩で設置することができる。同社のD.バーナウアーCEOは今回の契約締結について、「2026年に『Kaleidos』で試験を行い、2028年に最初の商業炉を建設するという当社のスケジュールが保たれる」と強調。V.バッギオCOO(最高執行責任者)も、「DOMEテストベッドでの試験では『Kaleidos』の安全性やその他の性能に関する重要データが得られるので、そうしたデータやその分析結果を原子力規制委員(NRC)に提出することで、商業化に向けた許認可手続きが前進する」と指摘した。(参照資料:DOE、WH社、ラディアント社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月24日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Oct 2023
2058
カナダのブルース・パワー社は10月20日、オンタリオ州のブルース原子力発電所で検討している最大480万kWの増設計画について、周辺住民や環境等に対する潜在的な影響の評価(IA)プロセスを開始し、将来的にサイト準備許可(LTPS)を申請する方針を、カナダ原子力安全委員会(CNSC)と連邦政府のカナダ環境影響評価庁(IAAC)に書簡で正式に伝えた。オンタリオ州政府は今年7月、州経済の成長に必要な電力を長期的に確保する構想「Powering Ontario’s Growth」を公表。経済成長のほかに、地球温暖化の影響緩和や州内の電化にも資するクリーンで安価な電力の増産に向けて、ブルース・パワー社および同州の独立系統運用者(IESO)と協力し、この増設計画について開発前段階の準備作業を開始すると発表していた。その後、ブルース・パワー社は今月17日から、この増設に向けて関連企業から「関心表明(EOI)」の募集を開始。参加を希望する原子力サプライヤーから書面で申し込みを受け付け、炉型を含むそれぞれの提案の技術的側面を評価する考えだ。ブルース・パワー社は今回、この増設計画を「ブルースC発電所」と呼称。世界でも最大規模であるブルース原子力発電所のA発電所(CANDU炉×4基、各83万kW)とB発電所(CANDU炉×4基、各約90万kW)に続くものと説明している。同発電所では1990年代末にA発電所の4基で大掛かりなバックフィット工事を実施しており、2000年代にこれらが順次再稼働したことで、同州が2014年に達成した石炭火力発電所の全廃に大きく貢献した。ブルース・パワー社によると、1977年以来の稼働実績を有する同発電所ではすでに環境影響評価が実施されており、人や生態系に不当なリスクが及ばないことは、規制当局による数次の評価作業と各種の許認可により実証済み。また、送電設備や増設に十分な932ヘクタールのスペースがあることに加えて、熟練の労働力や周辺コミュニティの強力な支持にも支えられている。開発前段階の準備作業では、ブルース・パワー社はIAプロセスの実施に向けた初期段階の活動として、地元の住民や先住民のコミュニティとの意見交換を開始する。これらのコミュニティが増設計画に抱いている懸念事項にきめ細かく対応し、同計画が提供するメリット等を説明する。同社はこうした交流のフィードバックを取りまとめて、2024年初頭にIAACとCNSCに提出予定の「計画の当初説明書(IPD)」に反映させるほか、IAプロセスにも取り入れて環境影響声明書(IS)を作成する方針だ。ブルース・パワー社で運転サービスを担当するJ.スコンガック上級副社長は、「地元住民と早い段階からコンタクトし、IAプロセスを前向きかつ透明性のあるやり方で進めていく」と表明。「カナダは今、重要な岐路に差し掛かっているが、クリーン・エネルギー供給オプションを長期に確保するための投資を通じて、地球温暖化の影響を緩和し経済成長を促す」としている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月23日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
24 Oct 2023
1269
米航空宇宙局(NASA)は10月17日、米国でモジュール式マイクロ原子炉(MMR)を開発中のウルトラ・セーフ・ニュークリア社(USNC)と、地球と月の間の宇宙領域(シスルナ空間)の探査で用いる核熱推進(NTP)エンジンの開発契約を締結した。契約総額は500万ドルで、同契約により、NTPエンジンの開発は実機の開発段階に移行する。深宇宙探査用のNTP開発を進めるNASAは2021年7月、米エネルギー省(DOE)と共同で発出した「有望な原子炉技術の提案募集(REF)」で、USNC社の子会社であるウルトラ・セーフ・ニュークリア・テクノロジーズ(USNC-Tech)社を含めた3社を選定。3社それぞれと約500万ドル相当の契約を締結して、将来の深宇宙探査で必要となる性能条件を満たした設計を特定するための戦略を立てるほか、このミッションに利用可能な原子炉の概念設計を契約期間中に完成させると表明していた。USNC社のMMRは第4世代の小型モジュール式高温ガス炉(HTGR)で、電気出力0.5~1万kWで熱出力は1.5万kW。ウラン酸化物の核に、黒鉛やセラミックスを3重に被覆したウラン粒子燃料(TRISO燃料)を用いる。同社は2022年8月、このTRISO燃料による「完全なセラミック・マイクロカプセル化(FCM)燃料」のパイロット製造施設(PFM)をテネシー州のオークリッジにオープン。今年6月には、PFMで製造した燃料をNASAの「宇宙探査用原子力推進(SNP)プログラム」用に納入している。この納入実績に基づく今回の契約で、USNC社はNTPエンジン向けに独自開発した同燃料の燃料集合体を製造し、初期段階の試験を実施する。その際、原子炉を組み込んだエンジン・システムの最終試験をDOEサイトで行う前提条件として、NTPエンジンの安全系も製造し試験を行う予定。同社はまた、パートナー企業であるブルーオリジン社との協力を通じて、シスルナ空間での短期ミッションに的を絞って合理化したNTPエンジンの設計を完成させる計画だ。同社によると、このような活動を通じてNTPエンジンの長期的な活用に向けた準備が大きく前進。また、NASAが国防総省(DOD)・国防高等計画推進局(DARPA)の「迅速な月地球間活動のための実証ロケット(DRACO)プログラム」に協力して築いた基盤も活用するとしている。USNC社のV.パテル核熱推進プログラム・マネージャーは、「DRACOプログラムの実証を終えた後、来年はより高いパフォーマンスの達成に向けてNTPエンジンの運用ミッションの準備を整える」と表明。ただし、「宇宙空間で実際に貨物を移動させるという大型ミッションの準備を行うには、まだまだNTPエンジンの大規模開発が必要だ」と指摘している。MMRについては、カナダのオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社とUSNC社の合弁事業体であるグローバル・ファースト・パワー(GFP)社が2019年3月、カナダ原子力研究所(CNL)チョークリバー・サイトでの初号機建設を念頭に、カナダ原子力安全委員会(CNSC)に「サイト準備許可(LTPS)」を申請した。米国ではイリノイ大学が2021年6月、学内で将来的にMMRを建設するため、米原子力規制委員会(NRC)に「意向表明書(LOI)」を提出している。(参照資料:USNC社の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月20日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
23 Oct 2023
2094
米エネルギー省(DOE)は10月13日、「地域のクリーン水素製造ハブ(Regional Clean Hydrogen Hubs: H2Hub)」プログラムで全米から7地域の水素製造ハブを選定し、それぞれに約10億ドルずつ合計70億ドルの支援金を提供すると発表した。クリーン・エネルギーの製造関係では最大規模となるこの投資を通じて、DOEは原子力等のクリーン電力で製造した水素経済の確立に向け、官民全体で総額500億ドル規模の投資を促す方針。同プログラムで選定した7地域の水素製造ハブでは、高サラリーの雇用が数千人規模で生み出されるほか、米国全体のエネルギー供給保障の強化や地球温暖化への対応にも貢献すると強調している。米国のJ.バイデン政権は2035年までに発電部門を100%脱炭素化し、2050年までにCO2排出量を実質ゼロ化することを目標に掲げている。産業部門の革新的な技術を用いたクリーンな水素の製造は、これに向けた戦略の一つであり、2021年11月に成立した「超党派のインフラ投資・雇用法」に基づくもの。水素の製造ハブ用に拠出される80億ドルのうち、70億ドルがDOEの「H2Hubプログラム」に充当されており、DOEは2022年11月に同プログラムへの応募を全米の水素製造団体に呼び掛けた際、国内の6~8か所にクリーンな水素の製造ハブを設置し、各地域における水素の製造者と消費者、接続インフラを結ぶ全国ネットワークの基盤を構築すると表明していた。今回DOEが決定した7地域の水素製造ハブは、イリノイ州とインディアナ州およびミシガン州をカバーする「中西部水素ハブ(MachH2)」や、ミネソタ州とノースダコタ州およびサウスダコタ州の「ハートランド水素ハブ(HH2H)」、ペンシルベニア州とデラウェア州およびニュージャージー州の「中部大西洋岸水素ハブ(MACH2)」、など。これらにより、DOEは低コストでクリーンな水素の製造施設が商業規模で設置されるよう促し、7ハブ全体で年間約300万トンのクリーン水素を製造するとともに、毎年2,500万トンのCO2排出を抑制する。これは550万台のガソリン車の年間排出量に相当する。中西部の「MachH2」には、米国最大の無炭素電力の発電企業であるコンステレーション・エナジー社をはじめ、水素バリューチェーンの各段階に係わる官民の70社以上が参加。同社はDOEから提供される支援金を用いて、イリノイ州の「ラサール・クリーン・エナジー・センター」にラサール原子力発電所(BWR×2基、各117万kW)のクリーン電力を活用した世界規模のクリーン水素製造施設を建設する。同施設の建設に必要な約9億ドルの一部をカバーできる見通しで、完成すれば年間33,450トンのクリーン水素を製造可能だと強調している。コンステレーション・エナジー社はすでに今年3月、ニューヨーク州で保有するナインマイルポイント原子力発電所(BWR×2基、60万kW級と130万kW級)で、米国で初となる水素製造の実証を開始。1時間あたり1,250kWの電気から、一日当たり560kgの水素を製造している。ラサール水素製造施設では、この実証製造で得られた知見を生かす方針である。また、「HH2H」には、電力・ガス会社を傘下に置く持株会社のエクセル・エナジー社が参加しており、DOEの発表同日、「既存の原子力発電所や太陽光、風力発電設備を活用してクリーン水素を製造する」と表明。同社はミネソタ州で、モンティセロ原子力発電所(BWR、60万kW)とプレーリーアイランド原子力発電所(PWR×2基、各55万kW)を所有・運転中で、交渉次第ではDOEの支援金の大半を受け取れるとの見通しを示した。このほか、中部大西洋岸地域の「MACH2」も、再生可能エネルギーや原子力の電力を活用して製造したクリーン水素で、同地域の脱炭素化を加速する考えを表明している。(参照資料:DOE、コンステレーション・エナジー社、エクセル・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Oct 2023
2172
米ウェスチングハウス(WH)社は10月19日、ブルガリア北部のコズロドイ原子力発電所(100万kW級ロシア型PWR=VVER-1000×2基)で予定されているAP1000の建設プロジェクトおよび地域全体におけるその他のプロジェクトを支援するため、ブルガリアの主要サプライヤーと技術協力に関する覚書を締結した。サプライヤーには、OSKAR-EL、Glavbolgarstroy、ENPRO Consult、EnergoService、EQE Bulgaria等が含まれている。ブルガリアは、安全性が懸念されていた同発電所1~4号機(各44万kWの旧式のVVER)を2006年までにすべて閉鎖。現在は同5、6号機の2基だけで総発電量の約35%を賄っており、新たな原子炉の建設については、1980年代から検討されていた。2021年1月に同国政府が「ベレネ発電所用に購入済みだったVVER機器(ロシア型PWR)を利用して、コズロドイ7号機を建設するのが経済的で合理的」と表明したが、同国議会で今年実施された票決において、WH社製AP1000の導入に向けて、米国政府と政府間協力協定(IGA)の締結を交渉する方針が確定。今年3月2日には、WH社とコズロドイ原子力発電所増設会社(KNPP-NB社)が協力覚書を締結した。今回の覚書では、計装制御(I&C)システム、放射線監視システムなどの主要コンポーネントの製造や、エンジニアリング、コンサルティング、建設サービスを、ローカリゼーションの一環としてブルガリア企業に委託することを視野に入れている。WH社のD.ダーラム社長は、「AP1000プロジェクトの成功には、豊富な経験を持つブルガリアの原子力サプライチェーンからのサポートが不可欠。」とコメントしている。AP1000は、唯一稼働している第3世代+(プラス)原子炉であり、米国内では、7月31日にジョージア州のA.W.ボーグル原子力発電所において、AP1000を採用した3号機が営業運転を開始。翌月には同型の4号機も燃料装荷を完了し、2024 年3月に営業運転を開始する予定だ。中国では4基の中国版AP1000が稼働中。また、2022年11月にはポーランド政府が同国初の原子炉建設計画にAP1000を採用した。そのほか、中・東欧、英国、北米の複数地点で導入が検討されている。
20 Oct 2023
1559
カナダのブルース・パワー社は10月17日、オンタリオ州のブルース原子力発電所(CANDU炉×8基、各80万kW級)で検討している計480万kWの原子炉増設に向けて、関連企業から「関心表明(EOI)」の募集を開始したことを明らかにした。EOIは、同増設計画への参加に関心を持つ原子力サプライヤーから、書面で申し込みを受ける。ブルース・パワー社は各炉型の技術的側面を評価するとともに、地元自治体への経済波及効果も考慮する。オンタリオ州政府は今年7月、ブルース・パワー社の既存サイトで約30年ぶりに大型炉を増設するため、同社と開発前段階の準備作業を開始すると発表していた。今後ブルース・パワー社は、連邦政府の規制に基づき増設計画が及ぼす可能性がある様々な影響を、市民も交えて評価する。この影響評価(IA)手続きを正式に開始するため、今後数か月以内に「計画の当初説明書」をカナダ環境評価局に提出する計画だ。同社はまた、IA手続きを進めるにあたり、ブルース発電所の所有者であるオンタリオ・パワー・ジェネレーション(OPG)社や同州の独立系統運用者(IESO)、地元の先住民が保有する企業などと協力。OPG社とIESOはEOIで得られた情報を基に、オンタリオ州における原子力発電の将来的な実行可能性調査を行う。同社はさらに、クリーン・エネルギー技術の事業展開機会を分析評価するため、独立の非営利組織である原子力技術革新協会(NII)や米電力研究所(EPRI)とも協働することを予定している。EPRIのN.ウィルムシャースト上席副理事長は、「カナダの脱炭素化を支援する一環として、ブルース・パワー社の評価作業にも協力したい」と表明。「先進的原子力技術を採用することはCO2排出量の削減に有効であり、カナダ国民や世界中の人々にとって重要なエネルギーを生み出すことになる」と述べた。ブルース・パワー社のM.レンチェック社長兼CEOは、オンタリオ州が2013年に州内の石炭火力発電所を全廃したことから、「世界で最もクリーンな送電網を持つ地域」と評価。同州では引き続き、電化と経済成長への需要が高まっていることから、「この優位な立場を維持していくためにも、当社は数十年にわたる原子力発電所の運転経験や、十分整備されたサイトと熟練の労働力、設備拡大に十分なスペース、周辺コミュニティの強力な支持といった好条件に支えられて、原子力設備の増設を進めていく」としている。(参照資料:ブルース・パワー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
19 Oct 2023
1534
カナダの連邦政府と北東部に位置するノバスコシア(NS)州およびニューブランズウィック(NB)州の両政府は10月16日、これら2州の石炭火力発電所を2030年までに段階的に廃止しクリーンで安価な電源に移行するため、小型モジュール炉(SMR)等の活用を含めた政策を共同で進めていくとの声明を発表した。カナダの送電網の脱炭素化は、経済面や環境面におけるカナダの基本目標であることから、連邦政府と2州は石炭火力の廃止に加えて2035年までに両州の発電部門から排出されるCO2を実質ゼロ化、2050年までには両州の産業全体からの排出量も実質ゼロとする方針だ。連邦政府はこれら2州のクリーン・エネルギーへの移行に合計で約2,000万カナダドル(約22億円)を支援する。内訳として、NB州がポイントルプロー原子力発電所内で計画している米ARCクリーン・テクノロジー(ARC)社製SMR「ARC-100」(電気出力10万kW~15万kW)の建設について、連邦政府は支援金として700万加ドル(約7億7,000万円)を提供すると表明。「ARC-100」については、NB州北部のベルドゥーン港湾管理局(BPA)もグリーン・エネルギー・ハブとなることを目指して導入を計画しているため、連邦政府はサイトの準備調査費用として約100万加ドル(約1億1,000万円)を提供する。これら3者の共同声明は同日、連邦政府のエネルギー・天然資源相、公共安全・民主主義制度・州政府間関係相、住宅問題・インフラ・コミュニティ相のほか、NB州とNS州から両州の首相(知事)と天然資源関係の大臣を交えた協議の後に公表された。3者の合意事項として、共同政策は二重(ツートラック)のアプローチで進めることになっており、まず2030年までの石炭火力廃止に向けて投資が必要な項目を特定。具体的には、NB州におけるSMRの建設やベルドゥーン石炭火力発電所のバイオマス発電への転換、NB州営電力が所有するマクタクアック水力発電所の運転期間延長、風力発電と太陽光発電設備の増設、NB州のポイントルプローからソールズベリおよびNS州のオンスローまでを結ぶ送電線の敷設などが挙げられた。もう一方のアプローチとして、3者は2035年までに発電分野からのCO2排出量を実質ゼロ化する協力のなかで、特に重要となる分野を確認。NB州におけるSMR建設計画とNS州の海上風力発電計画を引き続き進めるほか、両州で再生可能エネルギー源と蓄電池の統合、スマートグリッドの管理ツールや水素にも対応する複数燃料混合発電機の開発などを実施する。また、連邦政府はカナダ・インフラ銀行の活用のほかに、クリーン・エネルギー源の開発や電化の促進に特化した複数の税額控除プログラム等を通して、財政支援を実施する。3 者はさらに、2州の周辺に位置するケベック州やニューファンドランド・ラブラドール州、プリンスエドワード・アイランド州と送電網を結ぶことや、エネルギーを融通し合うための機会も模索。これに向けて、連邦政府と各州間のエネルギー協力イニシアチブである「地域エネルギー・資源テーブル(Regional Energy and Resources Tables)」を引き続き活用していく考えだ。NB州のB.ヒッグス首相は今回、「脱炭素化等の目標を達成するには、連邦政府から多額の資金援助が無ければ不可能」と強調した。公共安全省のD.ルブラン大臣は、「NB州とNS州に周囲の2州を加えた大西洋岸の4州にとって、クリーン・エネルギーは莫大な経済的利益をもたらす可能性がある」と指摘。連邦政府はこれらの州との協力を継続し、一層クリーンで強靭な送電網を築く意向を示した。(参照資料:カナダ政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月17日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
18 Oct 2023
1908
米国のウラン濃縮サービス企業であるセントラス・エナジー社(旧・USEC)は10月11日、多くの先進的原子炉で利用が見込まれているHALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))を実証製造するため、HALEU製造用カスケードでウランの濃縮役務を開始した。同カスケードは、オハイオ州パイクトンにあるセントラス社の「米国遠心分離プラント(ACP)」内にあり、米国の技術による最新の濃縮設備。米原子力規制委員会(NRC)の認可を受けたHALEU燃料製造設備としては唯一のもので、今月後半にも製品としてのHALEU燃料が製造される見通しだ。このカスケードでは現在、新型遠心分離機「AC100M」が16台連結されており、年間約900kgのHALEU燃料の製造が可能である。追加の予算が確保できれば、同社は半年後にも2つ目のカスケードを設置し、その後は2か月毎に後続のカスケードを追加。予算の確保から42か月後には、120台の「AC100M」で年間約6,000kg(6トン)のHALEU燃料製造を目指す方針だ。 ACPではこれまで、ウラン235で最大10%までの濃縮しか許されていなかったが、NRCはセントラス社による濃縮認可の修正申請を受けて、2021年6月にこの濃度を最大20%までとすることを承認した。同社は2019年に米エネルギー省(DOE)と結んだ契約に基づいて「AC100M」を開発しており、DOEは2022年11月、米国におけるHALEU燃料の製造能力実証に向けて、セントラス社の子会社であるアメリカン・セントリフュージ・オペレーティング(ACO)社に、費用折半方式の補助金約1億5,000万ドルを交付していた。DOEの説明では、HALEU燃料は先進的原子炉の設計を一層小型化するとともに、運転サイクルを長期化し運転効率を上げるのにも役立つ。DOEが進めている「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」では、支援対象に選定された10の先進的原子炉のうち、9炉型のベンダーが「HALEU燃料を利用する」と表明。DOEはこのため、HALEU燃料を国内で商業的に調達できるようサプライチェーンを構築するとしている。セントラス社はDOEの補助金により、カスケードの建設をスケジュールどおり予算内で進め、HALEU燃料の実証製造も約2か月前倒しで開始できたと説明。また、カスケードの追加設置では、オハイオ州内で数百人の作業員が動員され、全国的には間接雇用も含めた数千人規模の雇用が創出される。ACPには数千台の「AC100M」を設置可能なスペースが残っているため、今後数十年にわたってウラン濃縮の需要に応えられると強調している。DOEのD.ターク・エネルギー次官補は同カスケードの操業開始について、「真の官民連携モデルでの成果であり、米国企業の手で米国初のHALEU燃料が製造される」と指摘。先進的原子炉に必要な燃料が提供されるだけでなく、米国の燃料供給保障にもつながっていくと述べた。セントラス社のD.ポネマン社長兼CEOは、「今後この実証カスケードに遠心分離機を順次追加していき、米国は再び世界の原子力分野でリーダーとなる」と強調している(参照資料:セントラス社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月12日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
17 Oct 2023
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英国政府所有の大型鋳鍛造品メーカーであるシェフィールド・フォージマスターズ社は10月12日、米X-エナジー社が英国内で計画している第4世代の小型モジュール炉(SMR)「Xe-100」の建設に協力するため、同社および英国における同社の開発パートナー企業であるキャベンディッシュ・ニュークリア社と協力覚書を締結した。X-エナジー社の「Xe-100」は小型のペブルベッド式高温ガス炉(HTGR)で、電気出力は8万kW。産業用の高温熱や蒸気、電力を生産できることから、同社は英国内で「Xe-100」の建設機会を探り、最大40基の建設を目指している。今回の覚書では、シェフィールド社が原子力関係の鋳鍛造品製造で数十年にわたり蓄積してきたノウハウを活用し、SMRの主要機器を製造する。シェフィールド社も、同覚書を英国のSMRサプライチェーン構築に向けた足掛かりとしたい考えだ。米国ではエネルギー省(DOE)が2020年10月、「先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)」における7年間の支援対象企業の一つとしてX-エナジー社を選定。同社は2022年8月に「Xe-100」の基本設計を完了しており、ワシントン州の2つの公益電気事業者(グラント郡PUDとエナジー・ノースウエスト社)が、「Xe-100」をエナジー・ノースウエスト社が所有するコロンビア原子力発電所サイト内で建設することを計画している。2027年以降に初号機を建設すると見られていることから、英国での建設はそれ以降になる見通しである。英国では、脱炭素化に有効な無炭素エネルギー源として、政府が原子力に注目しており、2030年代初頭の実証を目指して建設する先進的モジュール式原子炉(AMR)として、2021年12月にHTGRを選択した。政府はまた、2022年4月に新しい「エネルギー供給保障戦略」を発表。原子力開発における方向性として100万kWの大型炉のほかにSMR、およびHTGRなどのAMRを開発する方針を示している。英国ではまた、今年7月に原子力発電所新設の牽引役として発足したばかりの政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」が、革新的なSMR技術の開発を促して英国のエネルギー供給保障を強化するため、支援対象の選定コンペを開始。今月2日に発表された最終候補の6社にX-エナジー社は含まれなかったが、英政府は選考に漏れたSMRについても、別ルートでの市場化に向けた協議を今秋から開始すると約束していた。シェフィールド社はすでに、同様の覚書を米GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社や英ロールス・ロイスSMR社などと締結済み。米ニュースケール・パワー社とは、同社製SMRのベッセル・ヘッドを共同で実証鍛造する計画を2016年に発表している。シェフィールド社のD.アシュモア戦略・クリーン・エネルギー事業開発部長は、今回の覚書について「SMRの商業化に向けて、当社がこれまでに交わしてきた数多くのSMR開発企業との協力覚書の中で最新のものだ」と説明。同覚書に基づき、今後は「Xe-100」の一層明確なコスト見積もりと建設計画の策定に向けて、同炉に必要な鋳鍛造品を詳細に検討するとした。X-エナジー社のC.タンスリー副社長は、「『Xe-100』の建設に際し、契約総額の約8割を英国企業に発注するなど、英国サプライチェーンの最大限の活用を目指す」と表明。シェフィールド社との覚書はこれに向けた重要な一歩であり、40基の「Xe-100」建設は英国産業界の脱炭素化を促進するだけでなく、英国全土の企業に莫大なチャンスをもたらすと強調している。(参照資料:シェフィールド・フォージマスターズ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月13日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
16 Oct 2023
1565
英国で2年前に設立された先進的原子炉技術の開発企業であるニュークレオ(Newcleo)社は10月9日、開発中の小型鉛冷却高速炉(LFR)の商業化に向けて、イタリアの機器製造企業であるトスト・グループ(Tosto Group)と協力・投資協定を締結した。ニュークレオ社の現時点の計画では、2026年にLFRの電熱加熱式プロトタイプ装置を、2030年には実証炉「LFR-AS-30」(電気出力3万kW)を完成させた後、2032年までに商業炉の「LFR-AS-200」(電気出力20万kW)と、海上でも使用可能な「LFR-TL-30」(電気出力3万kW)それぞれの初号機を建設。原子力・石油・ガスなどのエネルギー部門や、化学製品部門で大型機器の製造を手掛けてきたトスト・グループと協力していく考えだ。今回結ばれた協定は、LFRの研究・設計から実証、商業化まですべての段階をカバー。ニュークレオ社によると、同グループの中でも主要企業であるイタリアのウォルター・トスト(Walter Tosto)社と、その傘下企業であるベッレーリ・エナジーCPE(Belleli Energy CPE)社は、長納期の産業用機器の製造・供給実績があり、これらの企業が持つ製造ノウハウや幅広い実績、臨海地帯の製造プラント等をニュークレオ社の設計・エンジニアリング能力と統合、小型LFRの建設に活かすとしている。ニュークレオ社のS.ブオノ会長兼CEOは、「LFRの建設では非常に意欲的なスケジュールを設定しているので、トスト・グループとの協力を通じてその基盤を固めたい」と表明。トスト・グループのL.トスト常務は、「ニュークレオ社は第4世代の原子炉技術開発リーダーなので、持続可能なエネルギーの開発や技術革新で協力し合い、当社が積極的な投資を通じて事業の拡大を目指している原子力部門に貢献したい」との抱負を述べた。なお、ニュークレオ社はトスト・グループとの今回の協力に先立つ2022年3月、イタリア経済開発省の新技術・エネルギー・持続可能経済開発局(ENEA)とも協定を締結。同年から7年以内に、原子燃料や放射性物質を使わないプロトタイプのLFR装置を原子力推進国で建設することを計画中だ。また、同年6月には、LFRに装荷するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)の製造工場建設に向け、英仏の両国でサイトを確保するため、仏オラノ社に実行可能性調査を依頼している。(参照資料:ニュークレオ社の発表資料①、②、ウォルター・トスト社(イタリア語)の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月11日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
13 Oct 2023
2007
イタリアの電力会社で、フランス電力(EDF)のイタリア子会社でもあるエジソン社は10月4日、今後の同社の新しい展望として、2030年から2040年までの間に出力34万kWの小型モジュール炉(SMR)プラントを国内で2つ、建設することに意欲を表明した。ただし、イタリアは1990年に脱原子力を完了しており、原子力の復活に向けた国内条件が整えばとの条件付きだ。親会社のEDFは仏原子力・代替エネルギー庁(CEA)などと協力して、欧州主導のSMR「NUWARD」(出力17万kWの小型PWR×2基)を開発中。エジソン社は「2040年までに自社電源の9割を脱炭素化する」ことを目指している。エジソン社は2023年から2030年までに100億ユーロ(約1兆5,800億円)を投資し、2022年の減価償却・控除前利益(EBITDA)である11億ユーロ(約1,740億円)を、2030年末までに20億~22億ユーロ(約3,170億~3,490億円)に倍増する方針。しかし、これには過去3年間の平均でEBITDAの35%を占めていた「CO2をほとんど出さない発電」を70%に拡大するなど、電源ミックスの大幅な変更が必要。同社はこれまで力を入れていた再生可能エネルギーに加えて、CO2回収・貯留(CCS)や(条件が整えば)新世代の原子力を導入したいとしている。原子力に関して同社は、欧州連合(EU)がCO2排出量の実質ゼロ化を達成する上で重要な役割を担うと評価。また、電力供給システムの安定化能力だけでなく、再生可能エネルギーの間欠性も補えることから、「CO2の排出量や設置面積が最も少ない電源の一つであり、合理的な発電が可能である」とした。さらに、新しい原子力技術のSMRなら熱電併給にも活用できるため、エネルギーを多量に消費する地区のニーズにも高い柔軟性を持って対応可能だと指摘している。イタリアではチョルノービリ原子力発電所事故後の1987年、国民投票で既存原子炉4基の閉鎖と新規建設の凍結を決定。1990年に脱原子力を完了したが、2009年になるとEU内で3番目に高い電気料金や世界最大の化石燃料輸入率に対処するため、原子力復活法案が議会で可決している。しかし、2011年の福島第一原子力発電所事故を受けて、同じ年の世論調査では国民の9割以上が脱原子力を支持。当時のS.ベルルスコーニ首相は、政権期間内に原子力復活への道を拓くという公約の実行を断念した。近年は世界規模のエネルギー危機にともない、イタリアのエネルギー情勢も急激に変化。議会下院は今年5月、脱炭素化に向けた努力の一環として、イタリアの電源ミックスに原子力を加えるよう政府に促す動議を可決。9月に環境・エネルギー保障省が開催した「持続可能な原子力発電に向けた国家政策(PNNS)会議」の第一回会合では、近い将来にイタリアで原子力発電を復活させる可能性が議論されている。(参照資料:エジソン社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
12 Oct 2023
1689
フィンランドのティオリスーデン・ボイマ社(TVO)は10月10日、オルキルオト原子力発電所1、2号機(各BWR、グロス出力92万kW)の運転期間を少なくとも10年延長し、それぞれ約70年とする可能性の分析調査を開始した。両機の出力増強についても検討を進めており、これら2つの計画が環境等にもたらす影響の評価(EIA)報告書も作成を始めている。最終的な実施判断は、どちらもEIA報告書の完成後に下す方針である。両機はスウェーデンのアセア・アトム社(※現在は米ウェスチングハウス社に合併・吸収)が建設した原子炉で、それぞれ1978年9月と1980年2月に送電を開始した。1号機が当初の運転期間である40年目を迎えた2018年、フィンランド政府は放射線・原子力安全庁(STUK)の見解に基づき、両機の運転期間を20年延長すると決定。現時点で両機は2038年まで、いずれも約60年間稼働することが許されている。フィンランドでは近年、クリーン・エネルギーへの移行にともない電力需要の大幅な増加が予想されており、TVOは天候に左右されず常に発電可能な原子力の無炭素電力がこの需要を満たす上で有効だと説明。オルキルオト1、2号機では運転期間全般を通じて適宜、年次のメンテナンスで機器の改修を行っており、2基合計で年間約5,000万ユーロ(約79億円)の投資を行っているため、機器類は良好な状態で維持されているという。同発電所ではまた、欧州加圧水型炉(EPR)を世界で初めて採用して着工した3号機(グロス出力172万kW)が今年5月に営業運転を開始したが、TVOは1、2号機の運転期間もさらに延長して無炭素な電力の発電量を拡大、フィンランドや欧州連合(EU)が掲げるCO2排出量の削減目標達成を支援していく考えだ。オルキルオト1、2号機ではこれまでに、出力増強も実施されており、当初各66万kWだった出力(ネット値)は現在、いずれも89万kWまでアップレートされている。運転期間の延長に加えて、TVOは両機の出力(ネット値)をいずれも約97万kWに拡大することを計画している。これにより、両機合計の発電量は年間12億kWh増大する見通しで、これは人口12万~14万人規模の都市が年間に消費する電力量に相当するとしている。同3号機は、フィンランドで約30年ぶりの新規炉として2005年8月に本格着工したものの、規制文書の確認作業や土木工事に想定外の時間がかかり、臨界条件を初めて達成したのは2021年12月のこと。その後、2022年3月に国内送電網に初めて接続され、試運転を開始した。今年の4月中旬から本格的な発電を開始したのに続いて、TVOは5月1日付で同機の営業運転開始を宣言。同発電所の3基だけで、フィンランドにおける電力需要の約30%を賄っている。(参照資料:TVOの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月10日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
11 Oct 2023
2107
米ホルテック・インターナショナル社は10月6日、ミシガン州で2022年5月に閉鎖されたパリセード原子力発電所(PWR、85.7万kW)の再稼働を目指し、運転認可の再交付を米原子力規制委員会(NRC)に申請した。同社は既存の規制の枠内で再稼働に向けた道筋を固めるため、事前にNRCスタッフと複数回にわたり協議を重ねていた。今回の申請は、同発電所を全面的に復活させるための正式手続きの端緒となる。米国では市場設計の失敗により、自由化市場環境下で運転する発電所の経済性が悪化。パリセード原子力発電所を最後に所有・運転していたエンタジー社は2022年5月に同発電所を閉鎖した後、6月には廃止措置を実施するため同発電所を運転認可とともにホルテック社に売却していた。一方で、同発電所には運転開始後50年以上安全に稼働した実績があり、閉鎖直前には577日間の連続運転を記録するなど、NRCは同発電所を「最も高い安全性を有する原子炉」のカテゴリーに分類。原子力産業界でも高パフォーマンスの発電所として評価されていた。ホルテック社は、近年はCO2の排出に起因する環境の悪化等から、各国が炭素負荷の抑制に取り組んでおり、原子力のようにクリーンなエネルギー源が重視される時代となったと説明。このため同社は、米エネルギー省(DOE)が原子力発電所の早期閉鎖を防ぐために2022年4月に設置した「民生用原子力発電クレジット(CNC)プログラム」に同発電所の適用を申請。この時は他のプラントへの適用が決定したためパリセード発電所への適用は認められなかったものの、同社は今年2月、再稼働に必要な融資を求めて同プログラムに再度申請している。ホルテック社が進めるパリセード発電所の再稼働方針については、ミシガン州のG.ホイットマー知事も2022年9月に支持を表明。今年7月には、同発電所の再稼働に1億5,000万ドルの支援を盛り込んだ2024会計年度の州政府予算法案に署名した。ホルテック社も、同発電所が発電する電力を州内のウルバリン電力共同組合(Wolverine Power Cooperative)に販売するため、今年9月に子会社を通じて長期の電力売買契約(PPA)を締結している。ホルテック社の予測では、パリセード発電所の再稼働が実現した場合、ミシガン州では無炭素なエネルギーの供給量が大幅に増大するため、送電網の信頼性向上につながるほか輸入エネルギーへの依存度が低下する。同発電所が雇用する600名以上の従業員には総額8,000万ドルの給与が支払われる予定で、州内にもたらされる2次的経済活動は5億ドル以上の規模。また、閉鎖前に同社が毎年支払っていた同発電所の固定資産税は1,000万ドルにのぼり、地元最大の納税者として立地エリアの学校や警察、消防署、公園、図書館などに貢献していたという。ホルテック社のJ.フレミング副社長は、「米国のエネルギー・ミックスの中で原子力は重要な役割を果たしており、ミシガン州においても安全で信頼性の高い無炭素電力を供給している」と指摘。パリセード原子力発電所では機器・システム等が現在も良好な状態で管理されていることから、「規制基準を満たしながら高い安全性を維持し、供給区域の経済成長やエネルギー供給に持続的に貢献するよう可能性を模索する」としている。(参照資料:ホルテック社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月6日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
10 Oct 2023
2557
バングラデシュ初の原子力発電所として、ロシアの原子力総合企業ロスアトム社が2017年11月から同国で建設中のルプール発電所(出力120万kWのロシア型PWR:VVER-1200×2基)で、1号機用の初装荷燃料が到着したことを記念する式典が10月5日に開催された。ロスアトム社のA.リハチョフ総裁は、「ロシアとバングラデシュの協力関係は本日、新たなステージに移行する」と表明。「燃料が到着したことでルプール発電所は原子力施設として認定され、バングラデシュは正式に原子力の平和利用技術を保有する国の一員になった」と強調している。この燃料供給は、2019年8月にロスアトム社傘下の原子燃料製造企業TVEL社とバングラデシュ原子力委員会(BAEC)が結んだ契約に基づいており、ロシア側はその際、1、2号機の運転期間全般にわたって燃料供給することを約束。これら2基には第3世代+(プラス)のVVER-1200である「AES-2006」が採用されているため、60年という運転期間に加えて20年間の期間延長が可能である。1号機用の初装荷燃料は、TVEL社傘下のノボシビルスク化学精鉱プラント(NCCP)が製造したもので、その製造工程とバングラデシュへの輸送では、バングラデシュ原子力規制庁(BAERA)が監督した。1号機は2024年にも起動する予定である。電力不足に悩むバングラデシュで、原子力発電所の建設プロジェクトが立ち上がったのはパキスタンから独立する以前の1960年代。独立戦争や資金調達の失敗等により、何度か浮上した建設計画はことごとく頓挫している。ロシアは2009年にバングラデシュに原子力発電所の建設を提案しており、翌2010年に両国政府は原子力の平和利用に関する2国間協力協定を、2011年にはバングラデシュ国内の原子力発電所建設に関する協力協定を締結した。総工費については2基で約127億ドルという情報があり、バングラデシュ内閣は2016年6月、このうちの113億8,000万ドルをロシア政府から信用取引の形で受け取るための政府間協定案を承認したと伝えられている。ルプール原子力発電所の建設サイトは、バングラデシュの首都ダッカの北西約160 kmに位置するパブナ県。1号機に続いて、2号機も2018年7月に本格着工しており、両機がともに営業運転を開始すれば同国の電力不足解消と経済成長に寄与する見通しである。この日の記念式典には、ロシアのV.プーチン大統領とバングラデシュのS.ハシナ首相、および国際原子力機関(IAEA)のR.グロッシー事務局長がオンラインで参加。このほか、ロスアトム社のA.リハチョフ総裁やバングラデシュのY.オスマン科学技術大臣、世界原子力協会(WNA)のS.ビルバオ・イ・レオン事務局長らが現地で初装荷燃料の到着を祝福した。プーチン大統領は祝辞のなかで、「ロシアのバングラデシュへの協力は原子力発電所の建設に留まらず、運転期間全般にわたる燃料供給や設備のメンテナンス、放射性廃棄物の扱いなどで支援を提供する」と説明。高度な技術を身に付けた専門的人材の育成についても、80名以上のバングラデシュ学生がロシアの大学で専門課程を修了するなど訓練をすでに実施中であり、その人数は今後も増えていくと強調している。(参照資料:ロスアトム社、ロシア大統領府の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月5日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
06 Oct 2023
2504
フィンランドのヘルシンキ市が保有するエネルギー企業のヘレン(Helen)社は10月3日、同社の供給地域に小型モジュール炉(SMR)で無炭素な熱を供給するため、熱供給用SMRの商業化を目的に設立されたスタートアップ企業のステディ・エナジー(Steady Energy)社と基本合意書を交わした。フィンランドで発電や熱エネルギーの生産を迅速かつ低コストで脱炭素化するにはSMRが最も有望との認識に基づくもので、両社は原子力で地域熱供給の脱炭素化を図るとともに熱エネルギー価格の変動を安定化、フィンランド全体のエネルギー供給を支えていく。地域熱供給における化石燃料の利用停止は最も重要な目標であり、ヘレン社はステディ社から熱出力5万kWの熱供給用SMR「LDR-50」を最大10基調達し、2030年までにヘレン社の事業が排出するCO2を実質ゼロ化していく。同社の地域熱供給ネットワークは全長1,400kmに及び、北欧諸国の中で最長だが、このネットワーク全体の脱炭素化により国家レベルの地球温暖化防止策になるという。一方のステディ社は、フィンランド国営の「VTT技術研究センター」から今年スピンアウトした直後の企業で、この6月にSMRを活用した地域熱暖房プラントの建設に向けて、約200万ユーロ(約3億1,300万円)の研究開発資金を調達した。VTTが2020年から開発中の「LDR-50」を複数基備えた熱暖房プラントを2030年までに完成させ、地域熱供給業など様々なエネルギー集約型産業の脱炭素化を目指している。今回結ばれた基本合意書で、両社は原子力による熱エネルギーの生産に向けて、投資前協定を今後6か月以内に締結できるよう計画を立てる。フィンランド国内で熱供給用のSMRを建設するには法的措置が必要になるため、この投資前協定を2024年から2027まで有効なものとし、この間に原子力法の改正を推進し、立地許可や設計審査を申請。建設するSMRプラントの契約価格も固めたいとしている。ヘレン社のO.シルッカCEOは、「ステディ社との合意に基づいて、原子力による熱エネルギーの生産をフィンランドで開始し、同様の熱エネルギー生産のための基盤を築く」と表明。この目標に向けて、ステディ社のみならずその他のエネルギー企業や政府機関、政策決定者などとも協力していくと述べた。ヘレン社はこのほか、2022年11月にSMRなどの新たな原子力発電所建設に向けて、国内の原子力事業者であるフォータム社と協力の可能性を共同で調査すると発表している。ステディ社のT.ニューマンCEOは、「フィンランドのSMR技術を2020年代中に実行する重要な道筋が付いた」と表明。化石燃料を燃焼せずに地域熱供給を行えれば、フィンランドのCO2排出量を8%削減することも可能だとした。また、「当社の目標は新たなクリーン・エネルギーの輸出にも取り組み、世界中の地域熱供給市場に参入することだ」と指摘、原子力による熱供給にはCO2排出量の削減で大きな可能性があると強調した。(参照資料:ヘレン社、ステディ・エナジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
05 Oct 2023
1908
米国のサザン・ニュークリア社は9月28日、ジョージア州で運転するA.W.ボーグル原子力発電所2号機(PWR、121.5万kW)に、U235の濃縮度が最大で6%という次世代型事故耐性燃料(ATF)の先行試験用燃料集合体(LTA)を装荷する計画について、米原子力規制委員会(NRC)から8月1日付で承認を得ていたことを明らかにした。米国の商業炉で、濃縮度5%を超える燃料の装荷が認められたのは今回が初めて。同ATFは、ウェスチングハウス(WH)社が燃焼度の高い燃料で発生エネルギーの量を倍加し、商業炉の現行の運転期間18か月を24か月に延長することを目指した「高エネルギー燃料開発構想」の下で開発した。サザン・ニュークリア社に対するNRCの現行認可では、燃料内のU235の濃縮度は5%までとなっていたが、今回認可の修正が許されたことから、WH社は今後、米エネルギー省(DOE)傘下のアイダホ国立研究所(INL)との協力により、先行試験燃料棒(LTR)が各1本含まれるLTAを4体製造。サザン・ニュークリア社とともに、2025年初頭にもボーグル2号機に装荷する計画だ。WH社はDOEが2012年に開始した「ATF開発プログラム」に参加しており、同社製ATFの「EnCore」を開発中。同社とサザン・ニュークリア社は2022年1月にボーグル2号機への4体のLTA装荷で合意しており、同炉ではWH社の「EnCoreプログラム」と「高エネルギー燃料開発構想」で開発された重要技術が使用される。具体的には、商業炉を低コストで長期的に運転する際の安全性や経済性、効率性を向上させる方策として、酸化クロムや酸化アルミを少量塗布した「ADOPT燃料ペレット」、腐食耐性と変形耐性に優れた「AXIOM合金製被覆管」、先進的な燃料集合体設計の「PRIME」などが含まれる。一方、米国内で7基の商業炉を運転するサザン・ニュークリア社は、ATF技術を積極的に取り入れる事業者のリーダー的存在として知られており、DOEや燃料供給業者、その他の電気事業者らとともに米原子力エネルギー協会(NEI)の「ATF作業グループ」にも参加。2018年に初めて、グローバル・ニュークリア・フュエル(GNF)社製ATFのLTAをジョージア州のE.I.ハッチ原子力発電所1号機(BWR、91.1万kW)に装荷した。その後、同炉から取り出されたLTAの試料はオークリッジ国立研究所に送られ、2020年にさらなる試験が行われている。同社はまた、2019年にボーグル2号機にフラマトム社製ATF「GAIA」の先行使用・燃料集合体(LFA)を装荷した実績がある。NRCの今回の承認について、サザン・ニュークリア社のP.セナ社長は、「米国ではクリーン・エネルギーの約半分を原子力が供給しているため、当社はATFのように画期的な技術を原子力発電所に取り入れ、その性能や送電網の信頼性向上に努める方針だ」と表明。NRCに対しては、「米国商業炉へのさらなる支援として、今回のLTA装荷計画を迅速かつ徹底的に審査してくれたことを高く評価したい」と述べた。(参照資料:サザン・ニュークリア社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月3日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
04 Oct 2023
2007
©UK Government英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は10月2日、革新的な小型モジュール炉(SMR)の開発を促し英国のエネルギー供給保証を強化するため、7月に開始した支援対象の選定コンペで6社のSMR開発企業を最終候補として発表した。同コンペの実施は、原子力発電所新設の牽引役として7月に発足したばかりの政府機関「大英原子力(Great British Nuclear=GBN)」が担当。今回このコンペで次の段階に進むことが決定したのは、フランス電力(EDF)、英国のロールス・ロイスSMR社、米国籍のニュースケール・パワー社、GE日立・ニュクリアエナジー・インターナショナル社、ホルテック・ブリテン社、およびウェスチングハウス(WH)社英国法人の計6社である。これら企業は年内にも、支援契約の締結に向けて英政府招聘の入札に参加する。GBNは6社のSMRの中から、建設に向けた最終投資判断(FID)が2029年頃に下され、2030年代半ばまでに運転開始する可能性が高いものを2024年の春に選定、夏までに支援契約を締結する予定。このコンペは、DESNZが今年3月に公表したクリーン・エネルギーによる長期的なエネルギー供給保証と自給の強化に向けた新しい投資政策「Powering Up Britain」に基づいて行われている。GBNはかつてない規模とスピードで原子力の復活と拡大を進めるもので、コンペを通じてSMRの開発プロジェクトに数十億ポンド規模の官民投資を促す方針である。DESNZによると、SMRは設備が小さいため、工場での製造や迅速で低価格な建設が可能である。その一方で、政府は建設中のヒンクリーポイントC(HPC)原子力発電所や、HPC発電所と同型設計を採用するサイズウェルC発電所など、大型炉を備えた発電所の建設計画も引き続き支援。GBNは2050年までに総発電量の4分の1を原子力で供給するという政府の目標達成を下支えし、国内の雇用を維持しながら、欧州で最も低価格な電力卸売価格を実現する考えだ。DESNZのC.クティーニョ大臣は、「SMRなら原子力発電設備の迅速な拡大が可能であり、安価でクリーン、確実なエネルギー供給を実現できる」と指摘。さらに、高給雇用の創出と英国経済の発展も促すとしており、「このコンペで英国は世界中の様々なSMRを呼び込み、原子力技術革新を牽引する世界的リーダーとしてSMRの開発レースを主導する」と述べた。最終候補企業の一つに選定されたロールス・ロイスSMR社のC.コーラトンCEOは、「コンペの次の段階に速やかに移行して政府との契約締結に漕ぎつけるよう取り組み、2050年までに最大2,400万kWの原子力発電設備を確保するという政府の目標達成を支援したい」と表明した。同社はすでに2021年11月、PWRタイプで電気出力47万kWのSMRを英規制当局の包括的設計認証審査(GDA)にかけるため、申請書を提出。翌年3月から英原子力規制庁(ONR)と環境庁(EA)が審査を開始したことから、「その他の企業のSMRと比べて約2年先んじている」とも指摘。同社製SMRについては、すでにオランダやポーランドの事業者が関心を示しているが、コーラトンCEOは「世界中に多くのSMRを輸出していくためにも、国内契約の確保が極めて重要になる」としている。WH社は今年5月、中国や米国で稼働実績があるAP1000の電気出力を30万kWに縮小した1ループ式のSMR「AP300」を発表した。WH社は同炉ならAP1000のエンジニアリングやサプライチェーン、機器等を活用できるほか、許認可手続きも合理的に進められるため、2030年代初頭の初号機運転開始に自信を示した。同社のP.フラグマン社長兼CEOは「この機会に『AP300』が英国にとって最良の選択肢となることを実証したい」と述べた。「AP300」の建設は、ウクライナやスロバキア、フィンランドなどが検討中である。(参照資料:英政府、ロールス・ロイスSMR社、WH社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの10月2日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
03 Oct 2023
2964
カナダなど北米大陸の東部に居住する先住民の「北岸ミクマク部族協議会(NSMTC)」は9月25日、小型モジュール炉(SMR)を開発中の英モルテックス・エナジー社と米ARCクリーン・テクノロジー社の双方のカナダ法人に出資することで、両社それぞれと合意したと発表した。カナダでは東部ニューブランズウィック(NB)州の州営電力であるNBパワー社が、州内のポイントルプロー原子力発電所内で、両社の商業規模のSMR実証炉を2030年頃までに建設することを計画している。NSMTCとこれに所属する7地区のミクマク部族コミュニティは、今回の合意に基づきモルテックス社に総額200万カナダドル(約2億2,000万円)、ARC社には総額100万加ドル(約1億1,000万円)相当の出資を行い、両社がNB州やその他の国で建設するSMRプロジェクトを支援する。モルテックス社とARC社はすでにNB州内に事務所を設置しており、州内でのSMR建設に向けて先住民を含む州民コミュニティとの協議を進めてきた。NSMTCに対しては資本出資するよう提案したのに加えて、州内の先住民に雇用や職業訓練等の機会を提供できるよう追加の手段を講じる方針である。NSMTCも、世界中の経済・社会活動に先住民が参加できるよう働きかけているサー・ディーン(Saa Dene)社の支援を受けながら、「地球とその資源に対する畏敬」という先住民の教えが2社のSMR概念に合致すると判断したことを明らかにしている。モルテックス社のSMRは電気出力30万kWの「燃料ピン型熔融塩炉(Stable Salt Reactor-Wasteburner: SSR-W)」で、既存炉の使用済燃料を燃料として使用することが可能だという。同炉は2021年5月、カナダ原子力安全委員会(CNSC)が提供する「許認可申請前設計審査(ベンダー設計審査:VDR)」の第1段階を完了した。一方、ARC社が開発中の「ARC-100」(電気出力10万~15万kW)はナトリウム冷却・プール型の高速中性子炉。同炉では現在、ベンダー設計審査の第2段階が行われており、NBパワー社は今年6月、ポイントルプロー発電所内での「ARC-100」建設に向けて、ARC社のカナダ法人と協同で「サイト準備許可(LTPS)」の申請書をCNSCに提出した。NSMTCのG.ギニッシュCEOは、「両社はともにSMRでクリーン・エネルギーの開発と廃棄物の削減に取り組んでおり、これは来るべき世代に継承すべき遺産という我々の価値観にも合致する」と強調している。(参照資料:NSMTC、モルテックス社、ARCクリーン・テクノロジー社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月26日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
02 Oct 2023
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ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)傘下の原子力事業会社であるPEJ(=Polskie Elektrownie Jądrowe)社は9月27日、同国初の大型原子力発電所建設に向けて、米ウェスチングハウス(WH)社およびベクテル社の企業連合とエンジニアリング・サービス契約を締結した。同国北部ポモージェ県のルビアトボ-コパリノ地区で、WH社製のAP1000(PWR、125万kW)を3基建設するため、WH社らは18か月の同契約期間中、建設サイトに基づいたプラント設計を確定する。契約条項には、原子炉系やタービン系などの主要機器に加えて、補助設備や管理棟、安全関連インフラなどの設計/エンジニアリングが含まれており、両者はこの契約に基づく作業を直ちに開始。初号機の運転開始は2033年を予定している。ワルシャワでの同契約の調印式には、ポーランドのM. モラビエツキ首相をはじめ、政府の戦略的エネルギー・インフラ大使を兼任するA.ルカシェフスカ–チェジャコフスカ首相府担当相、米国のM.ブレジンスキー・ポーランド駐在大使、米エネルギー省(DOE)のA.ライト国際問題担当次官補が同席。PEJ社のM.ベルゲル社長とWH社のP.フラグマン社長兼CEO、およびベクテル社のJ.ハワニッツ原子力担当社長が契約文書に署名した。今回の契約の主な目的は、建設プロジェクトの実施に際して順守する基準や、設計/エンジニアリング上の要件を特定すること。同発電所のスペックを満たす初期設計の技術仕様書作成など、両者は同契約の条項に沿って様々な許認可の取得で協力。同契約は、建設工事の進展に応じて次の段階の契約を結ぶ際のベースとなる。同契約はまた、建設プロジェクトがポーランドの規制当局である国家原子力機関(PAA)や技術監督事務所(UDT)の規制に則して実施されるよう、PEJ社を支援するもの。ポーランドと欧州連合の厳しい安全基準に則して建設許可申請を行う際、同契約で実施した作業の結果が申請書の作成基盤になるほか、原子力法の要件に準じて安全解析や放射線防護策を実施する際は、事前評価を行う条項が同契約に盛り込まれている。同契約はさらに、WH社らとの共同活動にポーランド企業を交えていくと明記している。これにより、ポーランド企業の力量や需要を考慮した上で、出来るだけ多くの企業が建設プロジェクトに参加できるよう、原子力サプライチェーンの構築を目指す。このほか、同契約を通じてポーランド企業の従業員が米国を訪問し、最新原子炉の設計/エンジニアリングや運転ノウハウを習得することも規定されている。ルカシェフスカ–チェジャコフスカ首相府担当相は、ポーランド環境保護総局(GDOS)が今月19日に同プロジェクトに対して「環境決定」を発給した後、21日付でWH社とベクテル社がポーランドでの発電所設計・建設に向けて、正式に企業連合を組んだ事実に言及。「これらに続く今回の契約締結は、国内初の原子力発電所建設をスケジュール通り着実に進め、国内産業を活用しながら予算内で完成させるというポーランドの決意に沿うもの」と指摘した。同相はまた、WH社とベクテル社が米国のボーグル3、4号機増設計画でもAP1000の完成に向けて協力中であることから、「両社がボーグル・プロジェクトで蓄積した経験と教訓、先進的原子炉のエンジニアリング・ノウハウは、ポーランドのエネルギー・ミックスの根本的な再構築に生かされていく」と表明。ポーランドにおける原子力エンジニアの育成や、ポーランド経済の発展にも大きな弾みとなると強調した。WH社のP.フラグマン社長は、「ポーランドのみならず、今回の契約締結は当社とベクテル社にとっても転機となるが、安全かつ信頼性の高い原子力でエネルギー供給を保証し、脱炭素化を図ろうと考えている国々にとっても、モデルケースになる」と指摘している。参照資料:PEJ社、WH社、ベクテル社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月28日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
29 Sep 2023
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国際原子力機関(IAEA)の第67回通常総会が、9月25日から29日までの日程でオーストリアのウィーン本部で始まった。開会の冒頭ではIAEAのR.M.グロッシー事務局長が演説し、「世界中の世論が原子力に対して好意的に傾きつつあるが、原子力発電の利用国はそれでもなお、オープンかつ積極的にステークホルダーらと関わっていかねばならない」と表明。安価で持続可能なエネルギーによる未来を実現するには大胆な決断が必要であり、原子力も含め実行可能なあらゆる低炭素技術をすべて活用する必要があると述べた。同事務局長はまた、IAEAの進める原子力の活用イニシアチブが地球温暖化の影響緩和にとどまらず、がん治療や人獣共通感染症への対応、食品の安全性確保、プラスチック汚染などの分野で順調に進展していると表明。原子力発電所の安全性は以前と比べて向上しており、他のほとんどのエネルギー源よりも安全だと指摘した。その上で、原子力が地球温暖化の影響緩和に果たす役割と、小型モジュール炉(SMR)等の新しい原子力技術にいかに多くの国が関心を寄せているかを強調。加盟各国でSMRの活用が可能になるよう、IAEAがさらに支援を提供していく方針を示した。同事務局長はさらに、8月から福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が始まり、IAEAが独自に客観的かつ透明性のある方法でモニタリングと試料の採取、状況評価等を行っていると説明。この先何10年にもわたり、IAEAはこれらを継続していく覚悟であるとした。IAEAの現在の最優先事項であるウクライナ問題に関しても、ウクライナにある5つすべての原子力発電所サイトにIAEAスタッフが駐在しており、過酷事故等の発生を防ぐべく監視を続けるとの決意を表明している。これに続く各国代表からの一般討論演説では、日本から参加した高市早苗内閣府特命担当大臣が登壇。核不拡散体制の維持・強化や原子力の平和利用、ALPS処理水の海洋放出をめぐる日本の取組等を説明した。ウクライナ紛争については、同国の原子力施設が置かれている状況に日本が重大な懸念を抱いており、ロシアの軍事活動を最も強い言葉で非難すると述べた。また、原子力の平和利用に関しては、気候変動等の地球規模の課題への対応とSDGsの達成に貢献するものとして益々重要になっていると評価。その上で、食糧安全保障に係るIAEAの新しいイニシアチブ「アトムスフォーフード(Atoms4Food)」に対し賛意を示した。東京電力福島第一原子力発電所の廃炉にともない、8月にALPS処理水の海洋放出が開始されたことについては、処理水の安全性に関してIAEAの2年にわたるレビュー結果が今年7月に示されたことに言及。処理水の海洋放出に関する日本の取組は関連する国際安全基準に合致していること、人および環境に対し無視できるほどの放射線影響となることが結論として示された点を強調した。高市大臣はまた、日本は安全性に万全を期した上で処理水の放出を開始しており、そのモニタリング結果をIAEAが透明性高く迅速に確認・公表していると説明。放出開始から一か月が経過して、計画通りの放出が安全に行われていることを確認しており、日本は国内外に対して科学的かつ透明性の高い説明を続け、人や環境に悪影響を及ぼすことが無いよう、IAEAの継続的な関与の下で「最後の一滴」の海洋放出が終わるまで安全性を確保し続けるとの決意を表明した。 同大臣はさらに、日本の演説の前に中国から科学的根拠に基づかない発言があったと強く非難。この発言に対し、「IAEAに加盟しながら、事実に基づかない発言や突出した輸入規制を取っているのは中国のみだ」と反論しており、「日本としては引き続き、科学的根拠に基づく行動や正確な情報発信を中国に求めていく」と訴えた。 ♢ ♢例年通りIAEA総会との併催で展示会も行われている。日本のブース展示では、「脱炭素と持続可能性のための原子力とグリーントランスフォーメーション」をテーマに、GX実現にむけた原子力政策、サプライチェーンの維持強化、原子力技術基盤インフラ整備、高温ガス炉や高速炉、次世代革新炉、ALPS処理水海洋放出などをパネルで紹介している。展示会初日には、高市大臣と酒井庸行経済産業副大臣がブースのオープニングセレモニーに来訪。高市大臣は挨拶の中で、ブースにおいて次世代革新炉開発を紹介することは時宜を得ているとするとともに、ALPS処理水海洋放出は計画通り安全に行われており、関連するすべてのデータと科学的根拠に基づき透明性のある形で説明し続けることが重要だと述べた。4年ぶりに行われた今回のオープニングセレモニーでは、日本原子力産業協会の新井理事長による乾杯が行われ、福島県浜通り地方の日本酒が来訪者に振舞われるなどした。(参照資料:IAEAの発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月25日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
27 Sep 2023
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米国の国務省(DOS)は9月13日、「小型モジュール炉(SMR)技術の責任ある利用のための基盤インフラ(FIRST)」プログラムに基づくガーナへのさらなる支援策として、原子力分野の人材育成資金175万ドルを提供すると発表した。原子力発電を持たないガーナは現在、SMRの導入を検討している。ガーナの民生用原子力プログラムでは、サハラ砂漠以南のアフリカ諸国における「SMR訓練の地域ハブ」や「中核的研究拠点」となることを目指している。原子力の導入希望国で原子力安全・セキュリティや核不拡散など原子炉の導入に必要な能力の開発を支援するため、DOSが2021年4月に日本や英国などと提携して開始したFIRSTプログラムにも、ガーナは2022年2月から参加。同年10月には、国際原子力機関(IAEA)が米国で開催した原子力閣僚会議で、日・米・ガーナの3か国はガーナのSMR導入に向けた戦略的パートナーシップを結んでいる。ガーナが建設する初のSMRとしては、米ニュースケール・パワー社製の「ニュースケール・パワー・モジュール(NPM)」を複数搭載した発電設備「VOYGR」が候補炉の一つとして検討されている。そのため、3か国協力における最初のステップとして、日本政府は日米の原子力産業界がガーナの原子力関係政府機関と協力して実施しているSMR建設の実行可能性調査を支援。この調査にはニュースケール社、および同社のSMR事業に出資している日揮ホールディングス社とIHI、および米国のレグナム・テクノロジー・グループが参加している。今回の人材育成支援金により、DOSはガーナにSMRの運転シミュレーターを提供するほか、ガーナが「SMR訓練の地域ハブ」となるための学術交流や大学間の連携協力を促進。最も厳しい国際基準に準じて、原子力安全・セキュリティ等の高度な能力を備えた技術者や運転員の育成を支援する方針だ。DOS国際安全保障・不拡散局のA.ガンザー筆頭次官補代理は、「この連携協力を通じて、ガーナは国内のみならずその他のアフリカ諸国においても、脱炭素化やエネルギー供給保障の達成に資する有能な人材の育成が可能になる」と指摘。「これらの国々がクリーンで安全、安価なエネルギー源を確保できるよう、今後も支援していく」と語った。DOSによると、今年はすでにガーナとケニアの政府高官代表団がFIRSTプログラムの下で訪米し、米国との連携協力を深めるために国立研究所や運転中の原子力発電所を視察した。両国はともにFIRSTプログラムに参加しており、原子力の導入に向けて引き続き、技術協力や能力開発、人材育成等で支援の提供を受けることになる。(参照資料:在ガーナ米国大使館、米国務省の発表資料、原産新聞・海外ニュース、ほか)
26 Sep 2023
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ポーランド環境保護総局(GDOS)は9月19日、ポーランド国営エネルギー・グループ(PGE)傘下の原子力事業会社であるPEJ(=Polskie Elektrownie Jądrowe)社が計画する同国初の大型原子力発電所(合計出力375万kW)建設に対し、「環境条件に関する意思決定(環境決定)」を発給した。これは、原子力発電所の建設に向けた重要な行政認可手続きの一つ。同決定により、同国北部ポモージェ県ホチェボ自治体内のルビアトボ-コパリノ地区における原子力発電所の建設・運転にあたり、環境保護上の要件などが確定したことになる。今後建設サイトへの投資決定や建設許可申請を行う際は、「環境決定」に明記された条件等と整合性を取る必要があり、建設許可申請時には改めて環境影響評価の実施が義務付けられることになる。気候環境省のA.ギブルジェ-ツェトヴェルティンスキ次官は、「環境防護の責任機関であるGDOSの専門家が評価した結果、CO2を大量に排出する我が国の経済活動に、ポーランド初の原子力発電所が環境面のプラス効果をもたらすことが明らかになった」と強調している。PEJ社はポーランドの改訂版「原子力開発計画(PPEJ)」に基づいて、2040年頃までに国内複数のサイトで最大6基の大型炉(合計出力600万~900万kW)の建設を計画中。2021年12月に最初の3基、合計375万kWの立地点としてルビアトボ-コパリノ地区を選定した。これら3基に採用する炉型として、ポーランド政府は2022年11月にウェスチングハウス(WH)社製PWRのAP1000を閣議決定。今年7月には、気候環境省がこれら3基の建設計画に「原則決定(DIP)」を発給した。これに続いてPEJ社は翌8月、AP1000建設サイトとして同地区の正式な承認を得るため、ポモージェ県知事に「立地決定」を申請している。 「環境決定」を取得するにあたり、PEJ社は2022年3月末、GDOSにポモージェ県内の環境影響評価(EIA)報告書を提出した。原子力発電所の建設・運転にともなう環境上の利点を確認するため、GDOSが分析した文書は1万9,000頁を越えたという。また、PEJ社はその際、ルビアトボ-コパリノ地区のほかに建設候補地として名前が挙がっていたジャルノビエツ地区(クロコバとグニエビノの両自治体が管轄)についても、原子力発電所の建設と運転が及ぼす影響等を分析していた。さらに、ポーランド政府はこの件に関する国民の意見を聴取するため、今年7月から8月にかけて国内協議を開催したほか、近隣の14か国を交えた越境協議を2022年9月から今年7月まで実施。「越境環境影響評価条約(エスポー条約)」に基づく諸手続きの一環として、ポーランド政府はこれらすべての国と議定書を締結している。政府の戦略的エネルギー・インフラ大使を兼任するA.ルカシェフスカ–チェジャコフスカ首相府担当相は、「原子力でエネルギー・ミックスを再構築するという我が国の計画は欧州で最も意欲的なものであり、様々な課題への取組と急速な変化をともなうが、だからこそ大規模で複雑なこの投資事業をスケジュール通りに進めることが重要になる」と指摘した。ポーランドではこのほか、政府のPPEJを補完する大型炉プロジェクトとして、国営エネルギー・グループ(PGE)とエネルギー企業のZE PAK社が韓国水力・原子力会社(KHNP)と協力し、中央部のポントヌフで韓国製大型PWRの建設を計画中である。(参照資料:ポーランド政府(ポーランド語)、PEJ社の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月22日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
25 Sep 2023
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カナダのアルバータ州は9月19日、州内の石油・天然ガス総合企業であるセノバス・エナジー(Cenovus Energy)社が実施する「オイルサンド回収事業への小型モジュール炉(SMR)の適用可能性調査」に、州の「技術革新と温室効果ガスの排出削減基金」の中から700万カナダドル(約7億7,000万円)を助成すると発表した。アルバータ州は天然資源が豊富なカナダの中でも特に、石油や天然ガスなどの資源に恵まれているが、セノバス社が同州北部で手掛けるオイルサンド(からの超重質油)回収事業では非常に多くの温室効果ガスが排出される。このため州政府は、総額2,670万加ドル(約29億3,600万円)を要するというセノバス社の複数年の調査に資金協力し、州内のオイルサンド事業が排出するCO2の削減にSMRを安全かつ経済的に適用可能か、また、産業界がSMR建設を決定した場合の規制承認手続など必要な情報を探る。同州ではすでに、これに向けた規制枠組の構築準備が進められている。オイルサンドからビチューメンのような超重質油を回収するには、油層内に水蒸気を圧入し、その熱で超重質油の粘性を下げて重力で回収するという方法が複数存在する。このうち回収率の高い「スチーム補助重力排油法(SAGD)」については、カナダのエンジニアリング・開発コンサルティング企業であるハッチ(Hatch)社が今年8月、アルバータ州の公的研究イノベーション機関である「アルバータ・イノベーツ」やセノバス社のために、SMRをSAGDに活用した場合の実行可能性調査(FS)報告書を提出した。州政府によれば、この調査結果は、産業界から排出されるCO2の長期的な削減方法としてSMRが有効か見極めるための最初の一歩。州政府としては、セノバス社の今回の詳細調査に協力し、今後の事業化可能性に関する議論を本格化させたい考えだ。アルバータ州政府のR.シュルツ環境・保護地域担当相は、「数年前まで原子力を産業用に拡大利用する発想は後回しにされてきたが、最早そうではない」と断言。「SMRには当州のオイルサンド事業に熱と電力を供給するポテンシャルがあり、同時にCO2の排出量を削減することで、当州の将来的なエネルギー供給の選択肢になり得る」と述べた。また、州政府の助成金は、「アルバータ排出量削減機構(ERA)」を通じてセノバス社に提供される予定で、ERAのJ.リーマーCEOはSMRについて、「オイルサンド事業のみならず、異なる様々な産業用にも無炭素なエネルギーを供給できる」と指摘した。セノバス社のR.デルフラリ上級副社長は、「当社の事業から排出されるCO2を2050年までに実質ゼロにするため、複数の有望技術を検討模索中だがSMRはその中でも有望だ」と表明している。カナダでは、オンタリオ州とニューブランズウィック州、サスカチュワン州、およびアルバータ州の4州が2022年3月、SMRを開発・建設していくための共同戦略計画を策定。アルバータ州はその後、SMR開発を進めているカナダのテレストリアル・エナジー社や米国のX-エナジー社、ARCクリーン・テクノロジー社、韓国原子力研究院(KAERI)などと、それぞれのSMRの州内建設に向けて了解覚書を締結している。(参照資料:アルバータ州の発表資料、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月21日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
22 Sep 2023
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©UK Government英エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は9月18日、EDFエナジー社がイングランドのサフォーク州で計画しているサイズウェルC(SZC)原子力発電所(欧州加圧水型炉:EPR×2基、各167万kW)建設プロジェクトに対し、民間部門からの投資募集プロセスを開始すると発表した。同プロジェクトの実施に必要な資金を調達するため、その第一段階として、潜在的投資家である企業や個人に予め資格審査を受けてもらう方針。EDFエナジー社の親会社であるフランス電力(EDF)とSZCプロジェクトを50%ずつ保有する英政府は、EDFエナジー社傘下のプロジェクト企業であるサイズウェルC社(※今年6月にNNB GenCo社から社名変更)への投資に関心を持つ有望な企業らに、関心表明の登録と選定要件の詳細を一定程度盛り込んだ「事前の資格審査用質問票(PQQ)」の入手を要請しており、10月9日までPQQへの回答提出を受け付ける。回答書の評価結果次第で、第2段階としてサイズウェルC社株を入手する入札への参加資格が与えられる。ただし、その参加交渉に入る際も、候補企業らは大規模原子力発電所も含めた大型インフラ建設プロジェクトの実施経験など、いくつかの重要基準を満たしていることを実証するよう求められる。英政府は2022年11月、SZCプロジェクトに最大6億7,900万ポンド(約1,240億円)の直接投資を行うと発表。同プロジェクトの半分を保有した上で、今後は同プロジェクトへの出資を希望する第三者を募る方針を明らかにしていた。当時原子力政策を担当していたビジネス・エネルギー・産業戦略省(BEIS)によると、同プロジェクトは「規制資産ベース(RAB)モデル」((個別の投資プロジェクトに対し、総括原価方式による料金設定を通じて建設工事の初期段階から、需要家(消費者)から費用(投資)を回収するスキーム。これにより投資家のリスクを軽減でき、資本コスト、ひいては総費用を抑制することが可能になる。))を通じて資金調達を行う最初の原子力発電所建設計画。今年2月にBEISから原子力政策を引き継いだDESNZは今回、「RABモデルを通じた民間投資の呼び込みは、電力消費者や納税者にとって価値の高い結果を生む可能性がある」と評価しており、サイズウェルC社のみならず民間投資家側にも、プロジェクトを建設段階に進める自信と意欲をもたらすと強調している。DESNZはSZCプロジェクトを、英国が目指すエネルギー供給保障とCO2排出量の実質ゼロ化の両立において不可欠と考えている。従来の大型炉や新しい技術である小型モジュール炉(SMR)も含め、英国の原子力発電を活性化させることで、低コスト・低炭素な安定した電力供給システムを長期的に確保し、2050年までに英国の総発電量の最大25%を原子力で供給していく考えだ。このため、DESNZは直接投資として投入した約7億ポンドに加えて、建設サイトの準備作業を加速するため、今年7月と8月に追加で合計5億1,100万ポンド(約934億円)を拠出すると発表している。9月にDESNZのトップに就任したC.クティーニョ・エネルギー安全保障・ネットゼロ相は、「SZCプロジェクトで今後の世代にクリーンで価格も手ごろな電力を提供できるだけでなく、数千人規模の雇用が創出され、我が国のエネルギー供給保障を強化する一助になる」と指摘。DESNZのA.ボウイ原子力・ネットワーク担当相も、「政府による最初の直接投資に続いて、有力な民間投資家が国家インフラの重要部分の実現に向けて、サイズウェルC社に新たな知見や経験をもたらしてくれることを期待する」と述べた。(参照資料:英政府の発表資料①、②、原産新聞・海外ニュース、およびWNAの9月18日付け「ワールド・ニュークリア・ニュース(WNN)」)
20 Sep 2023
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