カナダ中西部サスカチュワン州の州営電力であるサスクパワー社は6月17日、米ウェスチングハウス(WE)社及び加カメコ社(本社:サスカチュワン州)と、サスカチュワン州の将来のクリーン電力ニーズに向け、WE社の新型炉と関連する核燃料サプライチェーンの可能性を評価する了解覚書(MOU)を締結した。MOU締結により、WE社製の「AP1000」と小型モジュール炉(SMR)の「AP300」などWE社の新型炉を長期的な電力供給計画に向けて展開する、技術的および商業的な道筋を検討する。この枠組みで、サスカチュワン州を拠点とする、燃料も含めた原子力サプライチェーンの評価を行う。また、サスカチュワン州の大学や職業訓練校と連携して、原子力研究開発およびトレーニングで協力する機会についても検討する。サスクパワー社は、サスカチュワン州初となるSMRの建設について、2029年に最終投資決定(FID)を行う予定だ。同社は、サスカチュワン州で建設される全原子炉を対象に、サスカチュワン州産のウラン利用を計画している。なお、同社は2022年6月、サスカチュワン州で2030年代半ばまでに導入可能性のあるSMRとして、GE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製BWRの「BWRX-300」を採用すると発表。加オンタリオ・パワー(OPG)社がオンタリオ州内のダーリントン原子力発電所サイトで建設を計画するSMRとして「BWRX-300」を選定しており、同じ設計を選択することで、規制面や建設・運転面のコストが低く抑えられるほか、初号機建設にともなうリスクも回避されると説明している。本MOUの締結に際し、サスクパワー社のR.パンダャ社長兼CEOは、「原子力産業において重要な専門知識を有する組織の知識の活用は、電力の将来に関して責任ある情報に基づいた意思決定を確実に行うために重要である」と指摘し、核燃料供給に係る協力と様々な技術の評価は、現在のSMR導入に係る作業とサスカチュワン州の電力システムの将来に関する計画の強化に資するとしている。WE社のP.フラグマン社長兼CEOは、「サスクパワー社と協力して、サスカチュワン州のクリーンエネルギーのニーズを支援するため、業界をリードする当社の専門知識を共有できることを誇りに思う。今後何世代にもわたり、サスカチュワン州にカーボンフリーの電力の供給のため、サスクパワー社を支援していきたい」とサスクパワー社との協力に意欲を示した。AP1000は米国と中国で運転中。ポーランド、ウクライナ、ブルガリアの原子力プロジェクトで採用されており、この他、中・東欧、英国、インド、北米の複数のサイトでも検討中だ。AP300は世界的に運転実績のある先進的な第三世代+(プラス)の大型炉をベースにした唯一のSMR。WE社は、2027年までにAP300の設計認証を取得し、2030年までに初号機の着工、2030年初めの運転開始を目指している。AP300は英国の大英原子力(Great British Nuclear=GBN)のSMRの支援対象選定コンペの最終候補の1つに選定されており、欧州諸国と北米の顧客も採用を検討中である。カメコ社のT.ギッツェル社長兼CEOは、「当社はサスカチュワン州を拠点に、世界有数のウラン生産事業を展開、大規模に発展する州の労働力や北部の先住民コミュニティとの長年にわたるパートナーシップを有する。サスカチュワン州の電力の脱炭素化において、当社ならびにWE社が果たす潜在的な役割を評価できることを楽しみにしている」と語った。なお、カメコ社はWE社の株式を49%保有。
25 Jun 2024
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欧州では6月6~9日に欧州議会選挙が実施され、近く次期欧州委員会(EC)が発足する見込みである。欧州の電力会社や原子炉メーカー、核燃料サイクル企業、産業団体などの原子力産業界は6月13日、EU(欧州連合)が取り組むべき優先事項をとりまとめたマニフェストを発表。マニフェストでは、気候変動、エネルギー価格の安定、エネルギー安全保障など、EUが現在直面している多くの課題に対する解決策として、原子力を活用するようEUに求めている。マニフェストにおいて、産業界が次期ECに対して求めている優先事項は下記のとおり。既存原子力発電所の運転期間延長、大型炉、小型モジュール炉(SMR)、先進モジュール炉(AMR)のような革新技術、核燃料サプライチェーンの開発など、原子力の新たな展開を促進するための一貫した長期的政策を確保すること。欧州SMR産業アライアンス(European Industrial Alliance on SMRs)で特定されたSMRプロジェクトは、その展開を加速し、2040年の気候目標達成(2040年までに温室効果ガス排出量を1990年比で90%削減を提案)に向けて大きく貢献するよう支援されるべきであるすべてのネットゼロ技術を平等に扱うことすべての実行可能なソリューションがエネルギー移行に貢献するために必要な支援を受けられるよう、民間および公的資金へのアクセスを可能にし、促進すること欧州の金融機関(原子力を融資基準に含む欧州投資銀行)が、既存原子力発電所の長期運転、新規建設(大型炉、SMR、AMR)、燃料サイクル関連のプロジェクトに確実に融資を行うこと持続可能なEUタクソノミー(投資分類)に原子力エネルギーを引き続き含めることを支援し、関連する燃料サイクルの活動もその枠組に含めることエネルギー移行に貢献する低炭素技術を、税制面で不利にしないこと脱炭素化目標の達成に必要な燃料サイクルも含む、産業規模の拡大およびサプライチェーンなど、原子力技術の大量導入のためのスケールアップと資金調達を促進するため、ユーラトム(欧州原子力共同体)以外のEU基金へのアクセスを拡大することEUにおける原子力研究を支援すること:ユーラトム研究・訓練プログラムの予算は、数多くの課題に取り組むために倍増すべきである。他のEUの研究開発プログラムとの相乗効果を高めるべきである。同様に、核融合と核分裂プロジェクトの資金調達の間で、よりバランスの取れたアプローチを確保すべきである既存の原子力施設の維持および新たな原子力プロジェクト開発に重要であるユーラトム研究・訓練プログラムを通じて、原子力分野の技能(スキル)、労働力、人材に投資すること。エネルギー移行を促進するために、熟練した労働力と適切な能力が必要であるマニフェストによると、EUでは現在、総発電電力量に占める原子力の割合は25%で、低炭素電力に占める割合は50%と半分を占めている。EUではここ最近、EUの脱炭素化に対する取組において、原子力の役割を強調するいくつかの動きが見られている。直近では、欧州理事会が5月27日、ネットゼロ産業法(NZIA)を承認し、原子力を含むネットゼロ産業の開発と展開促進に向けた包括的枠組が構築された。また、欧州議会は2023年12月、将来のエネルギーシステムにおけるSMR技術の重要性を指摘した独自のイニシアチブ報告書を採択、続く2024年2月にはECが、欧州での2030年代初頭までのSMR展開の加速をめざして「欧州SMR産業アライアンス」を始動させている。そのほか、フランスなど原子力発電を利用する国々の協力イニシアチブである「欧州原子力アライアンス」(現在12か国が参加、2か国がオブザーバー)が2023年2月に発足し、域内における原子力への支援拡大に向けた働きかけを強めているところである。なお、今年3月にベルギー・ブリュッセルで開催された第1回原子力エネルギーサミット(Nuclear Energy Summit)では、ECのウルズラ・フォンデアライエン委員長(当時、元ドイツ政府高官)が、域内では原子力について異なる見解があるとしつつも、「気候変動問題への取組の緊急性から、原子力は重要な役割を果たすべき」と原子力の重要性を指摘した。今回のマニフェストについて、欧州の原子力産業団体であるnucleareuropeのY. デバゼイユ事務局長は、「原子力はクリーンかつ持続可能な技術であり、次期委員会では、原子力を他の化石燃料を使用しない技術と同等に扱うことが不可欠」としたうえで、今後の政策提案は、特定の技術ではなく、脱炭素化、競争力、エネルギー主権といった目標に焦点を当てるべき、との考えを示している。
25 Jun 2024
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米上院は6月18日、先進炉の導入促進法案を可決した。大統領の署名により成立する。本法案は、クリーンエネルギーの多用途かつ先進的な原子力展開の加速化法(Accelerating Deployment of Versatile, Advanced Nuclear for Clean Energy=ADVANCE法)と称し、火災補助金および安全法(S.870)の一部を構成。上院の超党派により起草され、88対2の圧倒的多数で上院を通過した。なお、下院は5月8日に393対13の票決により可決している。ADVANCE法では、以下を定める。米原子力規制委員会(NRC)に先進炉の規制を策定するための国際的なフォーラムを主導する権限を与え、エネルギー省(DOE)には核不拡散の強固な基準を維持しながら米技術の国際市場への輸出承認のプロセス改善を指示し、原子力分野における米国のリーダーシップを促進する。先進炉の許認可を申請する企業の規制コストを削減し、次世代炉展開を奨励する賞を創設。NRCに対しては、利用停止中や閉鎖済みの火力発電所からマイクロ炉などへのタイムリーな許認可発給を可能にする道筋を示すよう要請し、新原子力技術の開発と展開を支援する。既存炉および次世代炉の安全性と競争力を向上させる事故耐性燃料および先進燃料の認定と許認可発給の能力の強化とともに、より良く、速く、安く、スマートに原子炉を建設するため先進的な製造技術の評価をNRCに指示し、米国の核燃料サイクルおよびサプライチェーンを強化するNRCの近代化、人員配置の問題に対処する取組みを支援し、先進炉の許認可申請の効率的な安全審査のため、優秀な人材の雇用と維持のツールをNRC委員長に提供し、NRCの効率性を向上させる。法案を作成した上院環境公共事業(EPW)委員会委員長のT.カーパー上院議員(民主党)は、「気候と米国のエネルギー安全保障にとって大きな勝利。長年、米国最大の無炭素電源である原子力の普及加速のためこの法案に取り組んできた。ADVANCE法は、NRCによる重要な安全使命の維持とともに先進技術の効率的審査を促進し、今後数十年に次世代炉を安全かつ成功裡に展開するための礎となる」と強調した。同じく法案作成に携わったEPW委員会上級委員のS.カピト上院議員(共和党)は「この超党派法案は、より多くの革新と原子力技術への投資を奨励するもの。NRCにその重要な規制上の使命をより効率的に遂行するよう指示し、将来の原子力プロジェクトのため従来型の発電施設の再開発を支援する」と指摘した。S.ホワイトハウス上院議員(民主党)は「ADVANCE法は原子力分野の労働力を強化し、規制プロセスの障壁を低くすることで先進炉の展開と石炭火力から原子力への移行を支援するもの」と述べ、米国の長年にわたる世界的リーダーシップの強化を目指す超党派による取組みの成功を称えた。
24 Jun 2024
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ノルウェーの新興エネルギー企業ノルスク・シャーナクラフト(Norsk Kjernekraft)社は6月14日、ノルウェー最北東部フィンマルク県における小型モジュール炉(SMR)の発電所建設の評価に関する提案書をエネルギー省に提出した。発電所建設に必要な正式なプロセスの第一段階である。エネルギー省が承認すれば、同社は環境面や技術面、経済面、および安全面の影響評価を開始する。ノルスク社は、バレンツ海に面するフィンマルク県のヴァードー(Vardø)自治体が原子力発電所建設の候補地としてスヴァルトネス村(Svartnes)近隣を提案したことを受け、2023年6月、同自治体と調査プログラムの実施協定を締結。ヴァードー自治体とフィンマルク県のエネルギー事情、スヴァルトネス村の現地の状況を調査した。ノルスク社の提案書によると、発電所の従業員数は200~400人規模となり、フィンマルク県の主要産業となる。発電所の設備容量は最大60万kWe、年間総発電電力量は最大50億kWhとなり、フィンマルク県の電力供給量は現状の3倍となるため、将来の電力需要の増大に応えると予測。既存の発電所は風力タービンと小規模の河川発電所のみで、エネルギー安全保障と、戦略上重要な地域でノルウェーのプレゼンスを示す観点から、発電設備の増強の必要性を訴える。また、ヴァードー自治体の利点として、公共サービスが充実した都市コミュニティで、多様な労働市場があるため、発電所の運転に必要な多くの労働力の提供が可能であり、送電線と変電所、良好な道路接続、港湾インフラがあり、電力集約型産業が立地できる広大な土地があることを挙げている。また、冷却水への十分なアクセス、安定した地盤条件、原子力に対する地元の政治的支援があるとも紹介している。ノルスク社は、提案書はスヴァルトネス村近隣での原子力発電所の建設と運転に関する現地の状況を説明し、今後の影響評価で説明されるテーマを列挙しているとし、入手情報からも、発電所建設に適していると指摘した。一方、ヴァードー自治区の送電網容量には限界があるため、ノルスク社は影響評価を開始する前にフィンマルク県で代替地を検討するとし、原子力発電所建設の可能性について調査を希望するフィンマルク県の他の自治体に対し、関心表明を呼び掛けている。ノルスク社は2023年、ノルウェー海に面したアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体、北極圏のナルヴィク(Narvik)自治体からも、SMR立地可能性調査の実施要請を受け、各自治体と調査プログラムの実施協定を締結。同社は2023年11月、ノルウェー南西部のアウレ(Aure)自治体とハイム(Heim)自治体を拠点とするSMR発電所建設に向けた評価に関する提案書を石油・エネルギー省(当時)に提出した。また同月、エストフォル・エネルギー(Østfold Energi)社ならびにハルデン市と、かつて研究炉が運転されていたハルデン市でSMR発電所建設の実現可能性を探るため、共同で新会社のハルデン・シャーナクラフト(Halden Kjernekraft)社を設立。今年4月には、ノルウェー西岸ヴェストラン県ベルゲン市の西にあるエイガーデン(Øygarden)自治体に最大5基で構成されるSMRの発電所建設サイト候補地として、サイト影響評価作業を開始すると明らかにした。
24 Jun 2024
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オーストラリア最大野党の保守連合(自由党・国民党)は6月19日、バランスの取れたエネルギーミックスと、より安価で安定したクリーンな電力供給を実現するため、原子力導入を次期総選挙の公約にすると発表した。同国はウランの主要輸出国であるものの、原子力発電を法律で禁止している。一方で核医学など、発電以外の原子力・放射線利用には力を入れている。気候変動・エネルギー・環境・水資源省によると、2022年の同国の電源別シェアは、石炭(47%)、天然ガス(19%)、石油(2%)と、化石燃料が7割近くを占めており、太陽光は14%、風力は11%、水力が6%。石炭は減少傾向にあり、太陽光と風力は増加を続けている。保守連合は、現労働党政権が2030年までに再生可能エネルギーを82%にするという目標を掲げるもののスケジュールは大幅に遅延し、急速なエネルギーの枯渇に直面、全国の家庭や企業の電力料金は値上がりが顕著であると指摘。コストのかかる「再生可能エネルギーのみ」のアプローチは既に失敗しているとし、現政権が掲げる2030年までに43%のCO2排出量削減目標は達成不可能と主張している。また、最大シェアの石炭火力発電所は今後10年間で閉鎖予定であり、保守連合は政権交代が実現すれば、再生可能エネルギーや天然ガスとともにバランスの取れたエネルギーミックスを図り、電力料金とCO2排出の削減を実証している原子力を導入して、より安価でクリーンな電力を安定供給するとともに、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにし、強固で回復力のある経済を実現するとの方針を示した。閉鎖済みまたは閉鎖予定の石炭火力発電所サイトに原子力発電所(小型モジュール炉を含む)を建設する方針で、候補サイトは以下の7地点。リデル発電所(ニューサウスウェールズ州)マウント・パイパー発電所(ニューサウスウェールズ州)ロイ・ヤン発電所(ビクトリア州)タロン発電所(クイーンズランド州)カリデ発電所(クイーンズランド州)ノーザン発電所(南オーストラリア州、SMRのみ)ムジャ発電所(西オーストラリア州、SMRのみ)これらの発電所は、冷却水や送電網などの原子力発電所に必要なインフラを既に備え、地元コミュニティには熟練労働者の雇用機会、経済的利益をもたらし、現政権の「再生可能エネルギーのみ」のシステム構築に必要な新たな経費の支出やそれに伴う電気料金の値上げを回避できるとしている。そして保守連合は、現政権の「再生可能エネルギーのみ」のアプローチでは、5,800万枚のソーラーパネル、3,500基の新しい産業用風力タービン、最大2.8万kmの新送電線の全国敷設が必要となり、1.2兆~1.5兆豪ドル(約127兆~159兆円)の費用が掛かるとのエネルギー専門家による試算を紹介。現政権が提案する太陽光と風力発電のみに依存する国は世界中になく、世界20大経済国の中で、原子力を利用していない、あるいは利用に向けて動いていないのは、オーストラリアだけであると訴えている。政権交代が実現すれば、SMRまたは米ウェスチングハウス(WE)社製の「AP1000」や韓国電力公社(KEPCO)製APR1400などの最新大型炉を採用した2つの発電所プロジェクトを計画し、SMRの場合には2035年、大型炉の場合には2037年に運転を開始したい考えだ。発電施設は政府所有とし、建設と運転については経験豊富な原子力発電会社と提携するとしている。オーストラリアの世論も原子力に対して肯定的になっている。同国の世論調査を20年にわたり広範囲のテーマで実施するローウィー研究所が、オーストラリアの成人2,028人を対象とし、6月上旬に公表した年次世論調査の結果によると、オーストラリアが原子力発電を利用することを「どちらかといえば支持」または「強く支持」すると答えた回答者は61%で、「どちらかといえば反対」または「強く反対」の37%を上回った。なお、原子力発電を「強く支持」(27%)が「強く反対」(17%)を上回っている。対照的に、2011年に実施した質問で、「温室効果ガス排出削減計画の一環としての原子力発電所建設」に「強く反対」と答えたのは46%、「やや反対」と答えたのは16%であった。同研究所は、オーストラリア人の原子力発電に対する世論の現状が10年以上前の否定的な態度から大きく変化したと分析している。なお、保守連合の原子力発電導入方針とサイト候補地の発表を受け、C.ボーウェン気候変動・エネルギー相は、「詳細、コスト、モデルが何も示されておらず、オーストラリアの排出削減目標の達成には遅すぎ、高すぎ、リスキーだ。これは計画ではなく、詐欺だ」と自身のSNSにポストしている。
21 Jun 2024
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エストニア議会(リーギコグ)は6月12日、エストニアにおける原子力導入支援に関する決議を採択した。今後、原子力安全法の起草、必要に応じて既存の法律の改正・補足、原子力の規制組織の設立、および専門家の育成を実施する。本決議は、エストニアにおける原子力導入を許可するか否かに関する基本的な決定。エストニアに原子力発電所を建設する許可を与えるものではない。決議案には41名の議員が賛成、25名が反対、2名が棄権した。リーギコグの55名の議員は5月9日、同国における原子力導入と適切な法的・規制的枠組みの創設の準備を開始することを可能にする決議案を提出した。エストニア政府の原子力作業部会(代表:A.トゥーミング気候省次官)が2021年から2023年にかけて作業し取りまとめた、エストニアに原子力導入は可能であると結論づけた報告書に基づいている。決議は、2035年までのエネルギー部門国家開発計画において、気候中立のエネルギーへの移行期におけるエネルギー供給の安全性を確保するため、原子力導入による影響に対処することや、規制の枠組みの確立にあたっては、国家の安全保障、資金調達、プラントの所有形態に関するリスクを徹底的に評価することを求めている。また、決議の説明覚書では、エストニアにおける原子力導入の利点として、再生可能エネルギーの発電能力による変動の均衡、気候目標の達成への貢献、長期的に安定して安価な電力価格の維持、研究開発の促進、経済的効果、地元の雇用創出を挙げている。原子力作業部会の報告書は、原子力発電所の建設資金を民間部門から調達し、原子力利用を可能にする枠組みを構築するための国家予算の費用は、原子力計画段階から発電開始までの9~11年の期間で約7,300万ユーロ(約123.9億円)と試算。原子力導入は主に税収の増加や経済活動の活性化により国家に安定した歳入をもたらすと評価している。エストニアの現在の電源は、化石燃料、特にオイルシェール燃料が大半を占めている。エストニアは、2050年までに排出量実質ゼロを達成することを掲げており、国内のオイルシェールの段階的廃止を開始する2035年までにエネルギー・ミックスを多様化するため、信頼性が高く低炭素な電源の選択肢として原子力発電に注目している。原子力作業部会の報告書では、電気出力40万kW以下のSMRの導入が適切とし、小規模なバルト海電力市場、再生可能エネルギー、供給目標、欧州の水素市場の発展の可能性を考慮し、水素製造が可能なSMRを3~4基または合計120万kWまでの導入可能性を検討。炉型の選択にあたっては稼働実績と燃料供給の安定性を重視している。なお、2023年2月、エストニアの新興エネルギー企業のフェルミ・エネルギア社は、GE日立・ニュクリアエナジー社のSMR「BWRX-300」を2030年代初頭までに建設すると発表した。
20 Jun 2024
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スウェーデンの国営電力会社、バッテンフォールは6月12日、ヴェーロー半島にあるリングハルス原子力発電所(PWR、110万kWe級×2基)の西側に建設を計画している小型モジュール炉(SMR)について、供給候補6社から英国のロールス・ロイスSMR社と米国のGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社の2社に絞り込んだことを明らかにした。今後、同2社の提案を詳細に分析した上で、SMR建設に係るスケジュールを共同して策定していくとしている。並行して、バッテンフォールは大型原子炉の建設条件の検討を続けており、大型原子炉の供給者として、米国のウェスティングハウス(WE)社、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)を挙げている。バッテンフォールのD.コムステッド新原子力発電部門長は、「炉型は未定だが、SMRまたは大型炉に係わらず、将来の投資決定には国との合理的なリスク分担モデルが必要になる。新規建設の資金調達コストを削減し、電力需要者が負担する発電コストを合理的にする必要がある」と指摘した。炉型の選択に係わらず、建設の最終投資判断(FID)は、必要な許認可をすべて取得した後に行い、早ければ2030年代前半に新規炉の運転を開始したい考えだ。なお、バッテンフォールは6月17日、同社を含むフォルスマルクとリングハルスの各原子力発電所の所有者が既存炉の運転期間を60年から80年に延長する方針を決定したと発表した。運転期間延長により、2060年代までカーボンフリーの電力供給が可能になり、スウェーデンの消費者への効率的な電力供給だけでなく、エネルギー移行の面でも有利になるとしている。同社のT.ウォールボルグ北欧地域担当上級副社長は、「原子力は、スウェーデンのカーボンフリーの電力生産において、今後何十年にもわたって重要な役割を果たすため、新設だけでなく既存炉への投資も極めて重要。過去に大規模なバックフィット作業を実施しており、運転期間の20年延長に問題はない」と運転期間延長の意義を強調した。フォルスマルク発電所1~3号機(BWR、各110~120万kWe級)とリングハルス発電所3~4号機の運転期間の20年延長により、合計8,000億kWh以上の電力供給が可能であり、現在のスウェーデンの電力消費量のほぼ6年分に相当するという。この方針の決定に続き、より詳細なコスト計算やリスク分析を含む詳細な調査段階を経て、最終的な投資決定(FID)が行われる。必要な投資のほとんどは2030年代に行われる予定だ。運転期間延長には、システムや機器の交換や改修に推定400億~500億スウェーデン・クローナ(約6,047億~7,560億円)の投資を予想。技術的なニーズには、タービン、発電機などの機器の保守、改修、交換、制御・監視システムの改良のほか、電力網などのインフラへの投資も必要であるという。スウェーデンでは2022年9月に総選挙が行われ、翌10月、40年ぶりに原子力を全面的に推進する中道右派連合の現政権が新たに誕生、2023年11月には、原子力発電の大規模な拡大をめざすロードマップを発表した。これには、カーボンフリーの電力を競争力のある価格で安定的に確保し、社会の電化にともない総発電量を25年以内に倍増させるため、2035年までに少なくとも大型原子炉2基分の原子力発電設備を完成させ、さらに2045年までに大型炉で最大10基分相当の原子力発電設備の追加などが盛り込まれている。また、今年1月には、環境法の一部改正法が発効、新たなサイトでの原子炉の建設禁止や国内で同時に運転できる原子炉基数を10基までとする制限事項が撤廃されるなど、原子力推進に向けた環境整備が着々と進められている。
19 Jun 2024
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米国のウェスチングハウス(WE)社は6月11日、カナダのオンタリオ州キッチナーにグローバルエンジニアリングハブを開設した。同ハブのサイト面積は約1,200m2。CANDU炉や海外の新設プロジェクトのサポートに特化した設計エンジニアリングチームのカナダ唯一の拠点となり、同社製の「AP1000」、小型モジュー炉(SMR)の「AP300」、マイクロ炉の「eVinci」の世界展開を支援する。ハブには、最先端のトレーニング施設や防火エンジニアリング・サービスの研究所も設置される。開設記念式典に出席したオンタリオ州経済開発・雇用創出・貿易省のV.フェデリ大臣は、「オンタリオ州は北米で2番目に大きな技術者集団の中心地。多くの優秀な技術労働者がキッチナーおよびウォータールー地域に居住している。WE社のキッチナーのエンジニアリングハブへの投資は、オンタリオ州の原子力の新たな進歩を約束するもの」と指摘した。同じく式典に出席したWE社のP.フラグマン社長兼CEOは、「現在、当社にはカナダを拠点に250人以上の専門家がいる。キッチナーの新しいエンジニアリングハブには、2025年までに約100人のエンジニアを増員予定。強固な国内サプライチェーンと実証済みの技術で何世代にもわたりカナダのクリーンエネルギーのニーズに応えていく」と強調した。キッチナーのサイトは、WE社の5つのグローバルエンジニアリングハブの1つ。このサイトが選ばれた理由は、クライアントや多くのサプライヤーに近いだけでなく、理工系で有名なウォータールー大学など優秀な人材の育成機関に近接しているためだという。なお、今年2月末、コンサルティングファームである英プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が、「カナダにおけるウェスチングハウス(WE)社製AP1000プロジェクトの経済的影響」を発表し、WE社がオンタリオ州に4基の「AP1000」を導入した場合の大きな経済的影響を示した。さらに、WE社とサスカチュワン研究評議会(SRC)は、カナダ初となるマイクロ炉「eVinci」の初号機をサスカチュワン州に2029年までに建設する計画だ。
18 Jun 2024
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ロシア国営原子力企業ロスアトムは6月7日、ロシアのサンクトペテルブルク市で開催された国際経済フォーラムで、西アフリカのギニア共和国と浮揚式原子力発電所(FNPP)の開発に係る協力覚書に調印した。本覚書に基づき、両者はギニアにおけるFNPPの導入をめざし、プロジェクト開発の諸条件を検討する。本覚書の調印を受け、ロスアトムの機械製造部門副責任者であるV.アプテカレフ氏は、「ギニアの産業ならびに家庭への電力供給に向け、『RITM-200』をベースにしたFNPPの導入を検討する。アフリカ地域の電力供給問題は喫緊の課題であり、ギニアに迅速で信頼性が高く、環境に優しいソリューションを提供したい」と語った。国連エネルギー統計年鑑によると、大西洋に面したギニアの総発電電力量は約30億kWh(2021年)で、水力発電が88%を占めている。「RITM-200」は原子力砕氷船に搭載・運転実績がある一体型PWRの先進小型炉で、現在、ロシア極北で世界最大級の未開発銅鉱床に電力を供給するため、FNPPの建設が進行中だ。ロスアトムによると、多数の国と地域がFNPPに関心を持っているという。ロシアではロシア極北のチュクチ自治管区ペベク市で世界初のFNPP「アカデミック・ロモノソフ」が稼働中。2020年5月に営業運転を開始した。同FNPPにはKLT-40S×2基を搭載し、近隣の町ペベク市に電力および熱を供給する。
18 Jun 2024
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国際エネルギー機関(IEA)は6月6日、エネルギー部門に対する世界的な投資動向を分析した報告書「世界エネルギー投資(World Energy Investment)」を発表。世界のエネルギー投資総額は2024年に初めて3兆ドルを超え、そのうち約2兆ドルが原子力など、クリーン・エネルギー技術に充てられる見通しを明らかにした。IEAが指すクリーン・エネルギー技術とは、再生可能エネルギー、電気自動車(EV)、原子力発電、送電網、蓄電池、低炭素燃料、エネルギー効率の改善、ヒートポンプなど。残りの1兆ドル強は、石炭、ガス、石油への総投資額となる。2020年以降、クリーン・エネルギーへの投資が加速し、2023年の再生可能エネルギーと送電網への総投資額は、化石燃料への投資額を初めて上回った。報告書によると、クリーン・エネルギーへの投資額は、資金調達コストの上昇にもかかわらず、サプライチェーンの強化とクリーン・エネルギー技術自体のコスト低下により、2024年には化石燃料への投資額のほぼ2倍に達する見込みである。一方で、報告書は、中国以外の新興国・途上国(EMDEs)におけるクリーン・エネルギーに対する投資不足を問題視。インドとブラジルなどが主導し、中国以外のEMDEsにおけるクリーン・エネルギー投資額が初めて3,000億ドルを超える見込みであるものの、世界全体の約15%に過ぎず、今後増加が見込まれるエネルギー需要を満たすための必要額をはるかに下回っていると指摘している。クリーン・エネルギーに対する昨今の投資拡大の背景として、IEAは、排出量削減目標の設定、技術の進歩、エネルギー安全保障の強化(特にEU)のほか、もう一つの戦略的要素として、クリーン・エネルギー生産を促進し、世界市場における主導的地位の確立に向けた中国を含む主要経済国による新たな産業戦略を挙げている。米国では、クリーン・エネルギーへの投資は2024年に2020年の1.6倍にあたる3,000億ドル以上に増加すると見られており、化石燃料に対する投資額を大きく上回っている。EUは現在、クリーン・エネルギーに3,700億ドルを投資し、中国は大規模な国内市場と、太陽電池、リチウム電池、EV製造といった新たな3つの産業の急成長に支えられ、2024年にはクリーン・エネルギーの投資額が約6,800億ドルに達する見通しである。IEAによると、これら3大経済圏だけで世界のクリーン・エネルギー投資の3分の2以上を占めており、国際的なエネルギーの投資格差が浮き彫りになっている。IEAのF. ビロル事務局長は「クリーン・エネルギーへの投資拡大は厳しい経済状況下でも記録を更新しており、世界エネルギー経済の新潮流を浮き彫りにしている」と現状を俯瞰。「今やクリーン・エネルギーへの投資額は化石燃料への投資額の2倍」と指摘した。一方で同氏は、中国を含む主要経済国が新たなクリーン・エネルギーのサプライチェーンで優位に立とうと競争するなか、手頃な価格で持続可能かつ安全なエネルギーへのアクセスが著しく不足しているEMDEsに確実に投資が行き渡るよう、さらなる取り組みが必要、との認識を示した。報告書はまた、昨年過去最高の1兆3,000億ドルの投資額に達した電力部門について、太陽光発電に投入される投資額が、2024年には5,000億ドルを超え、他のすべての発電技術を合計した投資額を上回ると予測。今後、太陽光発電モジュール価格の低下により、成長のペースは若干鈍化する可能性があるものの、太陽光発電は電力部門の変革の中心であることに変わりはないとの見方を示した。また、2015年には、クリーン電力と化石燃料発電への投資の比率はおよそ2対1だったが、2024年にはこの比率が10対1にまで達すると予測している。原子力発電への投資に関しては、2024年には800億ドルに達し、過去10年間で最低だった2018年のほぼ2倍の規模となる見通し。ただし、今後数年間の支出増のほとんどは、原子力発電の新規建設への投資ではなく、既存の原子力発電所のバックフィットや運転期間延長に向けられるものとみられている。報告書は、2023年に新規着工した国は中国とエジプトのみ(計600万kW)と指摘したうえで、既存炉に対する追加投資がなされているものの、新規建設が進まず停滞を続けている現状に懸念を示した。なお、アジア地域では、2050年カーボンニュートラルをめざす韓国が、2023年に発表した「国家カーボンニュートラル・グリーン基本計画」において、再生可能エネルギーとともに、原子力発電の大幅拡大を盛り込んだ。また、報告書は、世界のクリーン・エネルギー投資の3分の1を占め、再生可能エネルギーの増加が目覚ましい中国で、過去5年間に1,100万kWの原子力発電設備容量が導入されたとし、世界的にも大規模な開発が進められている現状を指摘した。
17 Jun 2024
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米国のビスコンティ・リサーチ社が6月10日に発表した世論調査結果によると、米国の原子力支持の割合が4年連続で過去最高レベルを記録した。同調査はビスコンティ・リサーチ社が4月30日から5月2日までの3日間、1,000人を対象に調査を実施。同調査によれば、米国民の4分の3以上にあたる77%が原子力利用を支持する結果となった。過去約10年間、電力供給の方法として原子力を「強く支持する」、または「やや支持する」とした人の割合は60%台で横ばいに推移していたが、2021年にこの数字が76%に増加した後、2022年に77%、2023年に76%、今年は77%と引き続き高い水準を維持している。「原子力発電所の運転認可更新」について、回答者全体の88%が、安全基準を満たしている限り運転認可を更新することに賛同。ビスコンティ・リサーチ社は、現在90を超える米国の原子力発電所が運転認可を更新している現状をふまえ、運転免許証の更新と同様、安全運転が可能な場合、原子力発電所の運転認可は更新されるべき、との米国民の意識の表れとの見方を示している。また、「将来の新規建設」について、回答者全体の71%が支持し、3年連続で70%を超えた。また、ビスコンティ・リサーチ社は、「強く支持する」と回答した人の割合は、「強く反対する」と回答した人の5倍に上るとした一方で、米国民の約3分の2が原子力に対して「やや支持する」「やや反対する」と答えた点に着目し、大多数が強い意見を持っていない「中立派」であると分析。女性の約4分の3が「中立派」であるとし、年齢層では、Z世代(1990年代後半から2000年代に生まれた世代)とX世代(1965年から1970年代に生まれた世代)が最も中立的な意見を持つ人々が多い層であると指摘した。また、知識量が多い人ほど原子力を支持する傾向にあり、知識量が非常に多いとされる人々の70%が原子力を「強く支持」していた一方、「強く反対する」と回答した人はわずか1%に過ぎなかったとしている。
17 Jun 2024
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英国の最大野党労働党は6月13日、7月4日の総選挙に向けマニフェスト(政権公約)を発表。「Change」と題するマニフェストの中で、英国をクリーンエネルギー超大国にすると宣言し、クリーンエネルギーへの移行とともに、原子力重視の姿勢を示した。各種世論調査では、労働党が与党の保守党を大きくリードし、14年ぶりに労働党政権誕生の可能性が高まっている。同マニフェストは、経済成長の停滞と増大する生活費の危機を打破し、再び勤労者の利益にかなう国家再建を基調としている。ロシアのウクライナ侵攻に伴う国際市場での化石燃料コストの急上昇、保守党政権下における陸上風力発電の新規導入の禁止、原子力発電所の新規建設の失敗、住宅の断熱材への投資中止といった施策により、英国の家庭は欧州で最も高いエネルギー料金を支払うことになったと指摘。クリーンエネルギーへの移行こそ、経済成長を生み出し、エネルギー料金を含む生活費の高騰に対処し、英国のエネルギーを再び自立させる大きな機会になるとし、2030年までにより安価なゼロカーボン電力による電気料金の削減、雇用創出、エネルギー安全保障、CO2排出ネットゼロに向けて加速することを、国家再建に向けた労働党の五大使命のひとつに掲げている。マニフェストでは、英国には長い海岸線、強風、浅瀬、大学、熟練した労働力、そして広範な技術力とエンジニアリング能力など未開発のリソースがあり、優れた産業戦略や市場形成、民間資金を公共投資に活用することで、英国をクリーンエネルギー超大国とし、2030年までに全国で65万人の雇用創出を計画。労働党は民間部門と協力して、2030年までに陸上風力発電を2倍、太陽光発電を3倍、洋上風力発電を4倍にするほか、炭素回収・貯留(CCS)、水素製造などに投資し、長期的なエネルギー貯蔵を確保するとした。原子力については、保守党が原子力発電に関する決定を避けてきた10年間の迷走に終止符を打つと強調。原子力部門の長期的な安全確保とともに、既存炉の運転期間延長のほか、建設中のヒンクリー・ポイントC原子力発電所の運転開始、計画中のサイズウェルCや小型モジュール炉(SMR)などの新設を、英国のエネルギー安全保障とクリーンエネルギーの達成において重要な役割を担い、何千人もの良質で熟練した雇用確保に貢献するもの、と明言している。また、クリーンな国産エネルギーへの投資の推進をめざし、労働党は公営企業「グレート・ブリティッシュ・エナジー」を83億ポンド(約1.67兆円)投じて設立。同企業を通じ、エネルギー企業、地方自治体などと提携して最先端技術に共同投資し、地元コミュニティに利益をもたらす数多くのクリーンエネルギープロジェクトを支援するという。同時に、国内で質の高い雇用を創出するサプライチェーンの再構築も計画するという。なお、英国の産業は電気料金の高騰により投資の競争力が損なわれることが多いことから、クリーンエネルギーにより電気料金を引き下げ、産業の国際競争力を高めるほか、国の基金を利用して、脱炭素化のため最もエネルギー集約的な産業部門への支援や、炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入により、脱炭素化を進める英国の産業を保護し、英国の気候目標を達成したい考えだ。
14 Jun 2024
1583
米国の原子力開発ベンチャー企業であるテラパワー社は6月10日、自社が開発する第4世代のナトリウム冷却小型高速炉「Natrium」実証プロジェクトの起工式を開催した。開発設計から建設に移行した米国初の先進炉プロジェクトとなる。起工式には、テラパワー社を2008年に設立した、ビル・ゲイツ会長(米マイクロソフト社創業者)らが参加した。ゲイツ会長は、「テラパワーの次世代原子力エネルギーが、私たちの国、そして世界の未来に力を与えると信じている」と挨拶。C.レベスク社長兼CEOは、「『Natrium』は無炭素エネルギー、エネルギー貯蔵、コミュニティに長期的な雇用を提供する」と強調した。ワイオミング州のM.ゴードン知事は、「『Natrium』は国内エネルギー源の確立とともに、何百もの雇用、キャリアの向上、新たな活力を約束する、官民協力のすばらしさを実証するもの。ワイオミング州は国の競争力と安全確保に貢献する」とプロジェクトの意義を語った。「Natrium」炉は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社と開発する先進炉。HALEU燃料を使用する電気出力34.5万kWのナトリウム冷却高速炉(SFR)で、熔融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを併設し、電力負荷の変化に追従する柔軟な運転が可能。ピーク時には電気出力を50万kWまで増強して5.5時間以上稼働する。ワイオミング州南西部のケンメラーで閉鎖予定の石炭火力発電所の近くに建設し、建設時には最大約1,600人の労働者が必要となる。建設期間は5年間。運転開始後はプラントの警備を含め、250人が日々の活動をサポートすると同社は見積もる。今年3月末に米原子力規制委員会(NRC)に建設許可を申請した。官民パートナーシップである米エネルギー省(DOE)の先進的原子炉実証プログラム(ARDP)を通じて、「Natrium」の設計、建設、運転特性を検証する。原子力部分の着工は早くて2026年、運転開始は2030年を予定している。
13 Jun 2024
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米国のマイクロ炉開発企業のラスト・エナジー社は6月3日、北大西洋条約機構(NATO)のエネルギーセキュリティ センターオブエクセレンス(ENSEC COE)とのパートナーシップを発表。共同でマイクロ炉の軍事利用に関する研究を行い、将来的にNATO軍事施設への配備の可能性を探る。本パートナーシップは、ラスト・エナジー社のB.クゲルマスCEOとNATOのENSEC COE所長であるD.ウズクライティス大佐が署名。ENSEC COEと原子力企業との間で締結された初の合意文書である。クゲルマスCEOは、「軍事基地において、原子力以外に常時の電力供給が可能なエネルギー源はなく、発電プラントの小型化、モジュール化が可能」との認識を示した。ENSEC COEは、特定分野の戦略と技術について加盟国の軍隊に助言するNATOが認定する28の専門機関の一つで、リトアニアのビリニュスに所在。2012年に設立された同センターは、産官学と連携し、NATO軍のためのソリューションを研究開発し、エネルギーのレジリエンスと効率性、重要なエネルギーインフラの安全確保を使命とする。パートナーシップの条件下で、両者はNATOの軍事施設とその運用のため原子力利用に関する共同プロジェクトに取組むことを合意した。マイクロ炉は建設コストと工期を大幅に削減できるだけでなく、水の必要量が最小限で、ほぼどこにでも設置できるのが特徴。需要者は従来の帯域幅の制約や電力網の価格変動を回避できる。ラスト・エナジー社のマイクロ炉「PWR-20」は単一のユニットで2万kWeの電力(または8万kWtの熱)を生産し、欧州全域で65基以上の商業契約を締結している。完全なモジュール式プラント設計であり、大量生産技術が採用されている。工場での製造から、輸送、サイトでの組立てまで24か月以内に実施可能であるという。ニーズに合わせた出力サイズに組立て、自動車製造工場、パルプ・製紙工場、データセンターなどの電力多消費施設に併設する。ラスト・エナジー社はフルサービスの開発者として、プラントの設計と建設、ライセンス、許認可、資金調達、運用を含むプロジェクト管理のエンド・ツー・エンドの責任を負うとしている。
13 Jun 2024
1328
カナダ中西部サスカチュワン州の州営電力であるサスクパワー社は5月31日、州内初となる小型モジュール炉(SMR)であるGE日立・ニュクリアエナジー(GEH)社製の「BWRX-300」建設サイト候補地として、エステバン地域の2箇所を選定した。2025年初めに最終的なサイト選定を行う予定である。エステバン地域は州の南東、米国との国境近くに位置し、同地域内のバウンダリーダム、ラファティ貯水池近くの2箇所を建設サイトの候補地に選定した。調査エリアの分析は、エステバン地域の他、同地域から北西に400kmほど離れたエルボー地域でも行われた。サスクパワー社のR.パンダャ社長兼CEOは同日発表した声明の中で、「エステバン地域は、技術的適性に加え、エステバン市に近く、既存のサービス、熟練した労働力、宿泊施設、緊急サービス、インフラ、道路、送電網へのアクセス面で多くの利点がある」と強調した。サスクパワー社は2024年中に各候補地の詳細なサイト評価作業を完了し、2025年初めには最終的なサイトを選定したい考えだ。その後、同社の最終投資決定(FID)は2029年を予定している。今後数か月の間に、地下水と地質工学的な詳細情報を収集するため追加調査を開始する。なお、エルボー地域についても将来の原子力開発の可能性を考え、土地権利者、先住民族や地方自治体のリーダー、コミュニティのメンバーと連携して調査を継続していくとしている。サスクパワー社によると、今後、環境影響評価や、サイト準備、建設、運転に係る許可を得て、2029年にFIDで建設プロジェクトを進めることが決定された場合、順調に行けば2030年には「BWRX-300」(BWR、30万kWe)初号機を着工し、2034年に完成させる計画だ。同サイトに2基目を建設する可能性もあるという。同社はSMR導入にあたり、オンタリオ・パワー(OPG)社と包括的な評価作業の実施で緊密に協力。OPG社のダーリントン・サイトにおける「BWRX-300」導入を参照することで、初号機建設にともなうリスクを回避するため、2022年6月、サスカチュワン州で建設する初のSMRとして、同じ「BWRX-300」を選定した。
12 Jun 2024
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中国の北京において5月30日、中国の習近平国家主席とアラブ首長国連邦(UAE)のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン大統領の立会いのもと、原子力の平和利用に関する二国間協力文書が調印されたことを受け、中国核工業集団(CNNC)と首長国原子力会社(ENEC)は、戦略的協力に関する覚書(MOU)を締結した。CNNCの余剣鋒理事長とENEC社のモハメド・アル・ハマディCEOが調印した本MOUは、短期および長期の燃料サイクル調達、民生用原子力施設の運転・保守(O&M)におけるベストプラクティスの開発などにおける協力の枠組みとなる。研究開発における協力分野には、水素製造技術や海水淡水化などにおける原子力利用が含まれている。本MOUは、2023年12月にUAEで開催された第28回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP28)にて両社が締結した高温ガス炉(HTGR)などの第三国での新規原子力発電所の建設と先進原子炉技術の展開の機会を探るための覚書をベースにしている。また同じく5月30日、CNNCの余剣鋒理事長はフランス電力(EDF)のL.レモント会長兼CEOと会談し、原子力に関連する様々な分野での協力の一層強化をはかるため、両国間の原子力エネルギーに関する包括的協力協定を締結したほか、先進的な原子力発電所建設に関する特別協力協定も締結した。今年は中国とフランスの外交関係樹立60周年、EDFの中国原子力市場への参入40周年にあたる。5月上旬の習近平国家主席の訪仏を機に、5月6日にパリで開催された第6回中仏企業委員会において、中国広核集団(CGN)の楊長利理事長とEDFのレモント会長兼CEOは「原子力分野での協力深化に関する基本合意書(LOI)」に調印。原子力エンジニアリング、建設、人材育成などの分野での協力をさらに拡大・強化するとしている。CGNとEDFは、中国とフランスの民生用原子力協力の戦略的パートナーとして、広東省の大亜湾原子力発電所の建設以来40年間緊密な協力関係にある。
12 Jun 2024
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フランス電力(EDF)は5月31日、米GEベルノバ社(電力・エネルギー事業担当)の南北アメリカ地域におけるサービス事業を除く、原子力発電所の蒸気タービン設備事業の買収を完了した。2022年2月10日のEDFとGE社間の買収に係る独占契約締結以後、買収手続きが進められていた。この買収対象は、南北アメリカ地域外における新規の原子力発電所向けアラベル蒸気タービンを含むタービン設備の製造と、既存の原子力発電所向けの保守および改修事業。買収総額は明らかにされていない。GEベルノバ社は南北アメリカ地域における原子力サービス事業を継続し、集中的に蒸気タービン設備事業を推進するとともに、日立製作所と小型モジュール炉(SMR)のBWRX-300などの原子炉設備、核燃料およびサービス供給事業を展開する。EDFは完全子会社であるアラベル・ソリューションズ社を設立、約3,300人を雇用し、アラベル・ソリューションズ社の蒸気タービンを、特にEPR(欧州加圧水型炉)、EPR2、SMR向けに供給する計画だ。なお、同社のタービン設備とサービスは、世界シェアの3分の1を占めているという。EDFのL.レモント会長兼CEOは、「今回の買収は、欧州経済の脱炭素化とエネルギー安全保障の達成に必要な原子炉建設の再開を支援し、欧州の産業部門を完全に自立させるもの。アラベル・ソリューションズ社はフラマトム社とともに原子力サプライチェーンにおける当社の専門性を強化する」とコメントした。なお、フラマトム社のB.フォンタナCEOがアラベル・ソリューションズ社の会長に任命された。EDFはフラマトム社の株式80.5%を保有する。フランスのE.マクロン大統領は2022年2月、フランス東部にあるGEスチーム・パワー社(当時)のベルフォール工場を訪問した際、EPR2の新設計画を発表した。マクロン大統領は、Xの声明で今回の買収を歓迎し、「これは私がベルフォールで行った約束であり、EDFはGEの原子力事業、特にアラベル蒸気タービンの製造を引き継ぐ。エネルギー主権獲得への大きな一歩だ」とポストしている。
11 Jun 2024
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米国務省(DOS)のA.ガンザー筆頭次官補代理(国際安全保障・不拡散担当)は5月28日、アフリカのガーナの首都アクラで開催されたアフリカ原子力ビジネスプラットフォーム会合で、ガーナを小型モジュール炉(SMR)地域ハブとすることを含む、新たな民生用原子力協力を発表した。本発表は、2022年10月に国際原子力機関(IAEA)が米国で開催した原子力閣僚会議で米・日・ガーナの3か国が結んだガーナのSMR導入に向けた戦略的パートナーシップに基づくもの。ガーナがアフリカにおける最初のSMRの運転者となり、将来のSMRサプライチェーンのニーズを支える同国における人材育成と雇用創出を支援する。ガンザー筆頭次官補代理は、R.オルソン米臨時代理大使とともに、「SMR技術の責任ある利用のための基礎インフラ(FIRST)」プログラム促進を目的とする、ガーナにおける米国SMRの安全で確実な導入を進めるための主要取決めの調印式に出席した。取決めのひとつは、ガーナ原子力委員会(GAEC)における米ニュースケール・パワー社のニュースケール・エネルギー探査(NuScale Energy Exploration(E2))センターおよび関連サービスの提供に関する了解覚書(MOU)と契約取決め。MOUはGAECとカザフスタンに拠点を置く国際科学技術センター(ISTC)、契約取決めはGAEC、ISTC及びニュースケール社により調印された。ガーナでのニュースケールE2センターの設立は、ガーナおよびその他の地域でのSMR導入に向けた人材育成の重要なツールとなるとしている。E2センターはFIRSTプログラムの資金提供を受け、最新のコンピュータモデリングを使用したニュースケール社のSMRを12基組み合わせた発電プラント「VOYGR-12」の運転シミュレーターを有し、次世代炉のオペレーターとエンジニアの実践的な育成・訓練施設となる。IAEAのマイルストーンアプローチならびに保障措置に従い、ガーナをアフリカにおける安全かつ確実な民生用原子力導入のための教育・訓練ハブとしたい考えだ。もうひとつの取決めは、GAECとISTC間で締結された、地域溶接認証プログラムに関する了解覚書(MOU)。同プログラムは、ガーナ人技術者が原子力部門の建設職に就くために不可欠な研修と独自の技能セットを提供するもの。FIRSTプログラムの資金援助を受けており、ガーナをアフリカ地域におけるSMRサプライチェーンの一部として確立することを目指している。これらに関連して、ガーナ原子力発電公社に代表されるガーナ政府は、ニュースケール社製SMRの発電所を主要なエネルギー源として利用する産業エリアを開発するために、プロジェクト開発者である米レグナム・テクノロジー・グループとの協力合意締結に向けた作業に取り組んでいる。米政府は、プロジェクト開発者である同グループを通じたニュースケール社製SMRの導入を強く支持し、協力合意の締結への期待を表明している。なお、米国は現在、ガーナと原子力協力協定(通称123協定)を交渉中。これは、米国から原子力発電を中心とした民生用原子力関連投資、原子力機器や資材の輸出を可能にする法的枠組みである。
10 Jun 2024
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韓国の産業通商資源部(MOTIE)の諮問委員会は5月31日、「第11次電力需給基本計画」の草案を発表した。草案によると、2038年までに大型原子炉を3基と小型モジュール炉(SMR)を1基建設する計画である。電力需給基本計画は、エネルギー政策に関する2年ごとの政府の青写真。今回の計画は2024年~2038年までの15年間を対象とした電力需給の長期展望、発電設備計画などが含まれる。無炭素電源の大きな軸である再生可能エネルギーと原子力をバランスよく拡大することで、カーボンニュートラルに積極的に対応するとともに、化石燃料の海外依存度を減少させ、エネルギー安全保障を強化させる考えだ。草案は、環境影響評価、公聴会、国会を経て正式に採択される。MOTIEが原子力発電所の新設計画を作成したのは2015年以来のこと。新ハヌル原子力発電所3、4号機の新設計画は、2015年の「第7次電力需給基本計画」で承認されていたものの、2017年ムン・ジェイン(文在寅)前大統領の政権下で、脱原子力政策である「エネルギー転換(脱原子力)ロードマップ」と「第8次電力需給基本計画」に基づき、建設計画は一時白紙化されていた。2022年5月に就任したユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の現政権下で同機の新設計画が再開された。草案は、2038年の電力需要を1億2,930万kWと算定。2023年と比較して約30%の増加となっている。経済成長、気候変動の影響、産業構造及び人口変化の見通しの他、半導体クラスターの造成などで今後投資急増が予想される半導体産業、人工知能(AI)の普及で大幅な増加が予想されるデータセンター、産業部門を中心とした電化による電力需要を考慮。特にAI普及の影響で、半導体ならびにデータセンターの電力需要は2030年には2023年の2倍以上に増加すると予測されている。2038年に目標とする電力設備容量については、発電設備の故障、建設遅延の可能性など、電力需要予測に適正な予備率(22%)を考慮し、1億5,780万kWと算定。一方、再生可能エネルギーの普及見通しと火力、原子力発電などの建設及び廃止計画などを反映した2038年の確定設備容量予測は1億4,720万kWであるため、1,060万kWの発電設備が不足になるとしている。この不足分を大型炉、SMR、LNGコジェネや水素発電などで賄う計画だ。年毎の確定設備容量と予備率を考慮すると、2031年以降から発電設備の不足が予想され、2035年~2036年の期間には、220万kWの新規設備が必要とされている。この期間に70万kW分を割り当て、現在開発中のSMR実証炉×1基の運転を計画、残りの150万kWは無炭素電源の導入を検討している。また、大型炉の場合、サイト確保などの期間を含めて167か月(13年11か月)の建設期間が必要と予想されるため、2037年以降の2037年~2038年の期間に、計440万kWの新規導入を計画。1基あたり140万kWのAPR1400の場合、最大3基の導入となるが、実際の建設基数は、サイト確保に要する期間や所要費用などを総合的に勘案し、政府が事業者との協議を通じて最適な計画を導き出すことが望ましい、と勧告している。なお、草案では、電源構成の容量ベースの具体的数値は示されていないが、電源別発電量とシェアの予測はされており、2038年の原子力発電電力量は2,497億kWh、シェアは35.6%となっている。なお、2023年の原子力発電電力量は1,714億kWh、シェアは31.5%であった。
07 Jun 2024
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米国のバイデン・ハリス政権は5月29日、国内における原子力導入に関するホワイトハウス・サミットを主催した。温室効果ガス実質ゼロの達成とエネルギー安全保障を強化するための国家戦略として、原子力部門の強化をめざす政権のコミットメントを示すとともに、官民が一体となった取り組みの進展を強調。原子力産業、政府、学界のリーダーたちが一堂に会し、米国のエネルギー政策における原子力の役割について議論した。ホワイトハウスによる同日公表のファクトシートによると、バイデン政権はこれまで、米国のエネルギーと経済安全保障強化に向け、民生用原子力発電におけるロシア産ウランへの依存低減や核燃料の新たなサプライチェーンの構築、2050年までに世界の原子力発電設備容量を3倍にするという昨年のCOP28での多国間宣言への署名のほか、新しい原子炉設計の開発、既存原子炉の運転期間延長、新たな展開に向けた気運の醸成など、多くの行動をとってきたことに言及。さらに米国は、既存の国内原子力フリートと大規模な原子力発電所の継続的な建設の双方の重要性を認識し、大規模建設に係るプロジェクトのリスクを軽減し、米国の産業が積極的な導入目標を支援できるよう措置を講じているとしている。今回、米政府は、消費者とプロジェクト関係者を保護しつつ原子力導入を推進するために、原子力ならびに巨大プロジェクトの建設業界全体から主要な専門家を動員し、コストとスケジュール超過リスクの原因を積極的に軽減する機会を特定するための、「原子力プロジェクト管理ならびに実現作業部会」(Nuclear Power Project Management and Delivery working group)の設置を発表した。作業部会のメンバーは、ホワイトハウス国内気候政策局、ホワイトハウスクリーンエネルギーイノベーション・実施局、ホワイトハウス科学技術政策局、エネルギー省(DOE)などの連邦政府機関で構成され、プロジェクト開発者、エンジニアリング・調達・建設会社、公益事業者、投資家、労働団体、学者、NGOなど、様々なステークホルダーも関与して進められる。また、ホワイトハウスは、米陸軍が国内の複数の陸軍施設への電力供給に関する先進炉配備プログラムについて情報提供を要請する情報提供依頼書(Request for Information)を間もなく発出すると発表。小型モジュール炉(SMR)やマイクロ炉は、物理的攻撃やサイバー攻撃、異常気象、パンデミックによる生物学的脅威など、新たな課題の脅威に対して、防衛施設に数年間、レジリエントなエネルギー供給が可能。先行するアラスカ州のアイルソン空軍基地のマイクロ炉や国防長官室(OSD)戦略能力局(SCO)のプロジェクト・ペレ(Project Pele)の可搬型マイクロ炉プロトタイプによる現在の防衛プログラムと並行し、連邦政府の施設やその他の重要インフラにクリーンで信頼性の高いエネルギーを供給する高度な原子力技術の追加導入を計画している。更に、DOEは、受動炉心冷却能力や先進燃料設計など、先進炉の安全性向上を強調する新しい入門書(primer)を発表した。また、アイダホ国立研究所は、開発者や利害関係者の新プロジェクトのコスト要因評価に役立つ、高度な原子炉資本コスト削減ツールを発表している。米政府はまた、ジョージア州のボーグル3、4号機(AP1000×2基)の完成が、米国で30年以上ぶりに建設された原子炉であり、DOEの融資保証によりプロジェクトが可能になったと強調。また、雇用を維持しながら、既存の原子力を復活し活性化するため、DOEの融資による資金調達や生産税額控除などの措置を導入したほか、DOEの先進炉実証プログラム(ARDP)や石炭火力発電から原子力発電への移行プログラム等を通じて、新しい原子力技術の実証と導入を支援していると指摘。また、新規炉の建設、既存炉の運転期間延長や出力増強に向けた原子力規制委員会(NRC)による許認可プロセスの改革や、濃縮ウランや先進炉で使用するHALEU燃料の国内供給サプライチェーンの確立とスキル向上、研究開発推進の取り組みについても言及した。バイデン・ハリス政権が米国における民生用原子力導入を加速させるために講じたこれらの行動は、過去50年近くで最大の持続的な推進力であるとし、原子力業界における米国のリーダーシップを再確立するための措置を引き続き講じ、先駆者(first movers)が先進的で革新的な技術を導入できるよう引き続き行動を起こしていくとしている。
06 Jun 2024
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仏フラマトム社と米テラパワー社は5月29日、米ワシントン州リッチランドにあるフラマトム社の燃料製造工場を拡張し、HALEU燃料((U235の濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン))の金属化パイロットプラントの建設で合意したことを明らかにした。HALEUの金属化は、ウランを金属に変換し、先進炉燃料の製造を可能にする再転換プロセスの重要な部分。パイロットプラントにより、フラマトム社の二酸化ウラン(UO2)をHALEU金属へ変換する能力を検証し、米国内におけるHALEU燃料のサプライチェーンの構築ならびに先進炉市場の発展を支援する。テラパワー社のC.レベスクCEOは、「当社のフラマトム社へのパイロットプラントへの投資は、『Natrium』炉のような先進炉を市場に投入するための重要なステップ」と強調している。フラマトム社は、米エネルギー省(DOE)が実施する米国内にHALEUサプライチェーンの確立を目的とする「HALEU利用プログラム」のうち、濃縮ウランを先進炉向けに金属、酸化物等の形態に再転換する事業の提案要請に応えて資金提供を申請した。「Natrium」炉は、テラパワー社がGE日立・ニュクリアエナジー社と開発する先進炉。HALEU燃料を使用する電気出力34.5万kWのナトリウム冷却高速炉(SFR)で、熔融塩を使ったエネルギー貯蔵システムを併設し、ピーク時には電気出力を50万kWまで増強して5.5時間以上稼働が可能だ。ワイオミング州南西部のケンメラーで閉鎖予定の石炭火力発電所の近くに建設する計画で、今年3月末に米原子力規制委員会(NRC)に建設許可を申請した。
05 Jun 2024
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ブルガリア北西部にあるコズロドイ原子力発電所(KNPP)5号機で5月29日、米ウェスチングハウス(WE)社製の燃料が初装荷された。ブルガリアにおける燃料供給源多様化の重要な節目となった。KNPPとWE社は、2022年12月に10年間の燃料供給契約を締結。今年4月、スウェーデンにあるWE社のベステロース燃料工場で製造された燃料がKNPPに搬入された。5号機(PWR=VVER-1000、104万kWe)に初装荷された燃料は、ウクライナの複数の原子力発電所で10年以上の装荷実績がある。KNPPのV.ニコロフ所長は、「燃料供給の多様化は、プラントの高いパフォーマンスを維持し、安全で信頼性の高い手頃な価格のエネルギー確保に不可欠である」と強調した。KNPPはブルガリアで唯一稼働する原子力発電所で、5、6号機はそれぞれ1988年、1993年に営業運転を開始した。6号機(VVER-1000、104万kWe)と併せて、国内の総発電電力量の約1/3を供給している。6号機の燃料は、仏フラマトム社と10年間の供給契約を締結している。なお、同発電所第Ⅱサイトでは米WE社製AP1000(PWR、125万kWe)×2基の新設計画が進展中だ。
05 Jun 2024
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欧州原子力産業協会(nucleareurope)は5月22日、原子力による水素製造がエネルギー安全保障と産業競争力の面でもたらす利点を強調したポジションペーパーを発表。さらに、欧州連合(EU)においてクリーンな水素製造を支援するために必要な重点項目を、EUの政策立案者に提言した。水素は工業用熱、アンモニア生産、精製・石油化学、陸上輸送、鉄鋼業などの分野における需要を満たすのに役立つ。ポジションペーパーによると、欧州委員会は現在、主に再生可能エネルギーからのみ生産される水素(グリーン水素)に焦点をあてている。この水素の大部分は第三国、特に南半球から輸入されるため、輸送と損失からエネルギー需要を増大させ、エネルギー貧困が深刻な国を搾取し、輸入水素への依存を生み出すことで欧州のエネルギー安全保障への影響のほか、圧縮、貯蔵、輸送に係るコストが増加する可能性があるという。そして2050年までのネットゼロ達成という目標を見据え、グリーン水素の国内生産の現実的予測とのギャップを原子力など他の低炭素エネルギー源が埋める可能性に言及している。そして、グリーン水素の殆どは電気分解によって生産されるため消費電力の大幅増加は避けられないが、原子力から水素を製造することで、設置される電解装置の稼働率がベースロード生産で最大化されると指摘した。出力100万kWe、設備利用率90%超の原子力プラントと電解装置との組合せで年間約16万トンの水素を生産、原子力の蒸気を利用できる高温電解装置との組合せでは、更に20%まで増産が可能だという。nucleareuropeは信頼性が高く手頃な価格のエネルギーの確保は再産業化のカギであり、雇用創出と経済成長、エネルギー安全保障の強化につながると強調した上で、EU域内での水素製造の展開を支援するため、EUに対し、以下の重点項目を提言している。エネルギー安全保障の強化のため、原子力を含むあらゆるネットゼロ技術の可能性を認識し、水素製造への多様なアプローチを奨励する。第三国からの輸入水素への依存を減らし、EU加盟国が自国のエネルギーの将来に対するコントロール維持を目指す。EU域内の水素製造施設の競争力と持続可能性を確保するため、再産業化と雇用創出における水素産業の役割を認識し、域内の水素産業の成長を支援する政策を策定する。エンドユーザーへの近さ、費用対効果、環境の持続可能性を優先した、域内の水素製造、貯蔵、流通を支援するインフラへの戦略的投資を提唱する。原子力による水素製造等、水素製造技術の効率と費用対効果の改善に焦点を当てた研究開発イニシアチブに資源を配分する。技術革新の加速のため、産業界、研究機関、政府間の協力を促進する。
04 Jun 2024
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国営スロベニア電力(GENエネルギア)は5月21日、同国の電力研究所と共同で、クルスコ原子力発電所の増設計画(JEK2プロジェクト)に関する経済性評価を発表した。出力100万kWe~240万kWe規模の増設プラントをスロベニアの電力システムへ接続した場合の安全性・安定性解析を実施し、電力網への影響の観点から、JEK2プロジェクトの最適な設備容量は最大130万kWeであると結論づけた。なお、JEK2プロジェクトのオーバーナイトコスト((金利負担を含まない建設費))は100万kWeのプラント増設で93億ユーロ(1.59兆円)、165万kWe増設で154億ユーロ(2.63兆円)と試算されている。GENエネルギアは5月20日、関係省庁にJEK2プロジェクトの国家空間計画(DPN)の草案を提出。今後、これら省庁による調整後、一般公開、DPN開始に関する政府決定を経て、環境影響評価を実施する。2028年までに最終投資決定(FID)を行い、2032年に着工したい考えだ。GENエネルギア社単独ではJEK2プロジェクトの資金手当はできず、国の役割が重要であるとしている。JEK2プロジェクトは、スロベニアの脱炭素化と電力の自給自足を可能にし、少なくとも60年間(運転延長の場合は80年以上)、電力を安定供給する。10年間で推定5,640人の新規雇用の創出、投資総額の37%以上は国内で調達される見込みで、スロベニア経済への好影響が期待される。GENエネルギアは、今年後半に実施される国民投票に先立ち、JEK2プロジェクトについて広く国民の意識を高め、情報にアクセスできる取組みとして、今月にクルスコ市内に情報センターを設置するとともに、今後数か月間、同プロジェクトやエネルギーに関する対話型の巡回プレゼンテーションを実施する予定だ。また、同プロジェクトに特化したウェブサイトやメディアを通じて情報提供に努めるとしている。なお、GENエネルギアのD.パラバンCEOは2023年10月、JEK2プロジェクトで当初予定していた110万kWe規模の増設計画を変更し、最大240万kWeまたは2基の建設計画を表明していた。同時にJEK2の主契約者の候補として米ウェスチングハウス(WE)社、フランス電力(EDF)、韓国水力・原子力会社(KHNP)の3社を挙げている。スロベニアでは現在、クルスコ原子力発電所(PWR、72.7万kW×1基)が運転中。1983年1月に営業運転を開始して以来、スロベニアの電力の約40%を供給している。同発電所はGENエネルギアと隣国クロアチアの国営電力会社のHrvatska elektroprivreda(HEP)が共同所有しており、2023年1月には、2043年まで20年間の運転期間延長が認可された。
03 Jun 2024
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