日本学術会議の「原子力安全に関する分科会」(委員長=矢川元基・原子力安全研究協会会長)は7月7日、福島第一原子力発電所事故に伴う環境汚染の調査研究に関し報告書を取りまとめ発表。これまでの政府関係機関や学術界による取組を整理した上で、(1)事故進展解析分野と環境影響解析分野の連携、(2)事故からの経過時間に応じた環境動態モデルと環境モニタリングの継承、(3)情報や試料の散逸防止のための長期にわたる組織的対応、(4)アカデミアと行政機関との連携と役割分担、(5)放射線教育の定着、(6)研究進展の全貌把握・横断的解析――に取り組むよう提案した。福島第一原子力発電所事故時の炉内事象と環境放出との関連性について、報告書では、エネルギー総合工学研究所によるシビアアクシデント解析コードのSAMPSONと、原子力災害対策に用いられるWSPEEDI(世界版緊急時環境線量情報予測システム)との比較を紹介。セシウム137の放出量に関し、両者の解析結果に相違が見られたことから、今後の定量的な放出量評価に向け「甲状腺被ばくの点で重要度の高いヨウ素については高い評価精度が求められる」などとして、事故進展解析と環境影響解析との両分野間交流の意義を説いた。学際的な調査研究を通じ、事故から数年以内で、河川、ダム・ため池、海域、森林、農地、市街地など、水系や土地・土壌、そこにおける生態系に関し、放射性物質の環境動態の実測調査やモデル化が進展したことを評価した上で、今後も環境モニタリングの継承が重要な課題と指摘。さらに、情報の収集と蓄積について、ウェブサイト更新によるリンク切れ、測定試料のアーカイブ問題、住民個人による放射線測定データの活用の可能性にも言及。長期にわたる情報の散逸を防ぐため、「組織的対応を行う恒久的なアーカイブ機関が必要」などと提言した。また、「放射線に対する歴史上の経験を考えた場合、わが国は世界で最も充実した教育と人材育成をすべき」、「事故で明らかになったのは社会としての放射線に関連した知識の欠如」と述べ、放射線教育について、(1)初等中等教育で基本的な知識を系統的に取り入れる、(2)大学における総合教育として環境放射能や放射線の講義を行う、(3)学協会が中心となって関連分野の教員を派遣する――ことを提言。報告書では結びに、環境汚染調査と健康調査の連携が不十分などと、分野横断的な解析に係る課題をあげた上で、事故後10年の区切りを迎えるのに際し、「環境影響の全貌が把握でき、さらに包括的かつ緻密な報告」を、事故の当事国としてまとめる必要性を述べている。
09 Jul 2020
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パリ協定で掲げる温室効果ガスの排出削減目標実現に向け、環境エネルギーに関わる技術課題について議論する「グリーンイノベーション戦略推進会議」(座長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構副理事長)が7月7日、初会合を開催した。「2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減」を目指し、2019年6月に「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」が閣議決定。2020年1月には、2050年までの確立を目指す具体的な行動計画「革新的環境イノベーション戦略」が策定された。同戦略では、(1)エネルギー転換、(2)運輸、(3)産業、(4)業務・家庭・その他・横断領域、(5)農林水産業・吸収源――の5分野・16技術課題について、コスト目標、開発内容、実施体制、工程などを整理した「イノベーション・アクションプラン」が示されており、このほど戦略実行に向けた府省横断(経済産業省、内閣府、文部科学省、農林水産省、環境省)の有識者会議「グリーンイノベーション戦略推進会議」が立ち上げられた。温室効果ガス排出削減総量約300億トン以上を目指すエネルギー転換の分野では、革新的原子力技術や核融合エネルギー技術の実現も含まれている。戦略推進会議では、ワーキンググループを設置し、これらの技術課題について専門的検討を進め、年内にも報告書の取りまとめを行う予定。戦略推進会議のキックオフに際し、松本洋平経済産業副大臣は、「高い目標達成のためには中長期的に多くの技術課題があり俯瞰的視点が重要」と、大所高所から幅広い議論がなされることを期待したほか、「地球温暖化は共通の課題」と、近年の環境イノベーションに関わる産学官連携の進展を歓迎。また、八木哲也環境大臣政務官も、新型コロナを踏まえた社会の再設計や、SDGs達成に向けた地域レベルでの実践的取組などに触れ、2021年のCOP26でアピールできるよう活発な討議を期待した。国際社会への発信に関し、前回のCOP25(スペイン)への参加経験から竹内純子氏(国際環境研究所理事)は、「環境政策はイメージが先行しがち、どのくらいの効果があるのか、エビデンスに基づいた説明も意識する必要」などと、メディアの役割に言及。また、橋本和仁氏(物質・材料研究機構理事長)は、太陽電池の世界的導入に結び付いた1970年代の「サンシャイン計画」を例に、日本がエネルギーの技術革新でいかに貢献してきたか、改めて見直す必要性を強調。一方、「日本はビジネスモデルを作っていくことが非常に苦手」、「成果をいかに社会へ還元していくか」、「将来の社会ビジョンを見据えながら有効な技術を考えていく必要」といった産業創出や社会実装に関する指摘もあった。
07 Jul 2020
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日本原子力学会はこのほど、小学校で使用されている社会科と理科の教科書のエネルギー・原子力関連の記述について調査し提言をまとめた。2009、11年に続く今回の同学会による小学校教科書調査では、新学習指導要領(2017年改訂)に基づいて編集され文部科学省の検定を受けた社会科14点(3~6年、上下巻などの分冊も含む)、理科24点(同)のうち、エネルギー資源や発電、原子力関連の記述が、社会科6点、理科6点で確認されたとしている。その上で、(1)資源・エネルギーについてわかりやすく、(2)日本の電力の状況について定量的に、(3)原子力発電の仕組みについても丁寧に、(4)原子力発電の特徴についてわかりやすく、(5)福島第一原子力発電所事故について適切に――説明を望むと提言。例えば、一部の社会科教科書で、日本における発電方式別(火力、水力、原子力)の発電量・比率をグラフで示しているものや、電力に関する単位(kW 、kWh)についても説明しているものがあり、他の教科書でも「積極的に取り扱われることを提言」などと推奨。また、資源・エネルギーについて考えさせる際、「S+3E」の観点について、「安全である」、「安定して利用できる」、「環境への影響(地球温暖化)が小さい」、「費用を抑えられる」などと、わかりやすく図示することを提言している。学習指導要領では6年の理科で発電について扱うこととなっているが、火力については、理科教科書6点いずれも「化石燃料を燃やして、その熱で蒸気を発生させ、タービンを回して発電機で電気を起こす」といった説明・図があるものの、原子力に関しては3点に記述がなく、「ウランを燃料とする。蒸気を発生させるまでの手段が異なるだけ」という火力との相違点を理解させるようと並列して示すべきと提言。原子力発電の特徴を箇条書きしたわかりやすい例としては、「少ない燃料で多くの電気を作ることができる」、「発電の時に二酸化炭素を出さない」、「燃料や廃棄物の扱いが難しく、安全のための十分な備えが必要になる」、「事故などで有害な物質が放出されると、広い範囲に長く影響を及ぼすことがある」などと、説明している社会科教科書(4年)があった。福島第一原子力発電所事故については、「津波の影響で電気の供給が止まり、原子炉を冷やすことができなくなった」発生原因、放射性物質や風評被害に関し適切に説明すべきと提言。福島の復興に関しては、避難指示区域の解除や富岡町の「桜まつり」復活を取り上げている社会科教科書(6年)があった。
06 Jul 2020
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梶山弘志経済産業相と電気事業連合会加盟各社社長らとの意見交換会が7月2日に行われ、電事連からは、関西電力の金品受領問題を受けた業界全体でのコンプライアンス徹底や、昨秋の大型台風襲来に伴う長期停電を踏まえた電力インフラのレジリエンス強化の取組について報告があった。今回の意見交換会は、使用済燃料対策推進協議会との併催となり、日本原子力発電、電源開発、日本原燃の各社社長も出席。同協議会は、現行のエネルギー基本計画が策定された2018年以来の開催で、電事連は引き続き、各事業者の連携を一層強化し、使用済燃料対策推進計画(2030年頃までに使用済燃料貯蔵容量の6,000トン程度の拡大)の実現、六ヶ所再処理工場とMOX燃料加工工場の早期竣工、プルサーマルの推進、高レベル放射性廃棄物最終処分や廃炉に伴う解体廃棄物への対応、地元の理解・地域振興に努めていくとした。その中で、プルサーマルに関しては、事業者間の連携・協力による、国内外のプルトニウム利用の推進と保有量の管理について検討を進めるとしている。原子力委員会は2018年に「プルトニウムを減少させる」ことを明記した「わが国におけるプルトニウム利用の基本的考え方」を策定。日本のプルトニウム保有量は国内保管分より海外保管分が多く、「事業者間の連携・協力を促すこと等により、海外保有分のプルトニウムの着実な削減に取り組む」としている。一方、電事連によると、現在までにプルサーマル発電で再稼働した四国電力伊方3号機、九州電力玄海3号機、関西電力高浜3、4号機のうち、伊方3号機で1月に商業炉として初めて使用済MOX燃料の取り出しが行われた。使用済MOX燃料の処理・処分の方策については、エネルギー基本計画で、その発生状況や保管状況、再処理技術の動向、関係自治体の意向を踏まえながら研究開発に取り組むとしており、経済産業省は今回、事業者に示した要望事項の中で、技術開発面での協力、具体的な貯蔵・運搬方法の検討を求めた。今回の意見交換会に先立ち、梶山経済産業相は6月30日と7月1日、青森県を訪れ、三村申吾知事ら、地元首長との会談に臨んだほか、日本原燃六ヶ所再処理工場、リサイクル燃料貯蔵(使用済燃料中間貯蔵施設)、東北電力東通原子力発電所を視察した。
03 Jul 2020
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総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会(分科会長=白石隆・熊本県立大学理事長)が7月1日に開かれ、新型コロナウイルス感染症拡大を起因とする国内外の情勢変化を踏まえ、次期エネルギー基本計画の検討に向けて意見交換を行った。現行のエネルギー基本計画は2018年に策定されており、間もなくエネルギー政策基本法に基づく「少なくとも3年ごと」の見直し時期を迎える。同分科会の開催はおよそ10か月ぶりで、冒頭、昨今の新型コロナウイルス感染症を起因とする情勢変化と、それを踏まえた課題と方向性について資源エネルギー庁が整理。IMFやIEAによる試算を示し、過去の第一次オイルショック(1973年)、第二次オイルショック(1979年)、リーマンショック(2008年)と異なり、物理的な行動が制限される「コロナショック」により、「2020年は世界的にGDPもエネルギー需要も大きく低下」などと見通した。また、国内においては、例えば電力需給で、4、5月は前年同月と比較し消費量がそれぞれ約3.6%(速報値)、9.2%(同)減少するなど、影響はあったものの、中央給電指令所や発電所での担当班が相互接触しないローテーション業務・バックアップ体制構築により、電力の安定供給に支障は生じていないと説明。その上で、今後の課題として、(1)新たな日常・生活様式・企業活動を踏まえたエネルギー需要高度化・全体最適化に向けた取組の検討、(2)エネルギー転換(電化・水素化など)の支援・推進、(3)資源・燃料の安定的な調達、(4)エネルギー・環境イノベーション投資に向けた環境整備・デジタル化の促進、(5)脱炭素エネルギー供給のさらなる導入、(6)レジリエンスの強化――をあげた。初出席の白石分科会長今回、分科会長として初めて会合に出席した白石氏は、2021年に見込まれるエネルギー基本計画の改定に向けて「大きな視点から方向性を議論して欲しい」と述べ、委員らに意見を求めた。これに対し、化石燃料に関して、豊田正和氏(日本エネルギー経済研究所理事長)は、石炭火力発電でのアンモニア混焼など、脱炭素化に向けた技術導入・国際協力の可能性を披露。原子力立地地域からは、杉本達治氏(福井県知事)が、「総発電電力量に占める比率は現在6%」と、2030年エネルギーミックスの掲げる「20~22%程度」に遠く及ばない状況を指摘し、次期エネルギー基本計画に向けて、MOX燃料の再処理、リプレース、廃炉の進展を踏まえた交付金制度のあり方、電力業界の不祥事なども「真正面から議論していく」必要性を強調。また、市民との対話活動に取り組む崎田裕子氏(ジャーナリスト)は、海洋プラスチック問題やレジ袋有料化など、SDGsを巡る最近の話題に触れたほか、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による水素社会構築の情報提供事業に対し若年層が高い関心を示していることを述べ、「社会との情報共有の定着化」の重要性を指摘。今回、委員として初出席した隅修三氏(東京海上日動火災保険相談役)は、官民一体となったイノベーション創出を図るべく「小型モジュール炉(SMR)のような安全性の高い原子力技術についても議論を」と主張した。資源エネルギー庁は「コロナショック」に伴うエネルギー需給への影響の一つとして、人流・物流の変化により「需要が集中型から分散型にシフト」したことをあげた。武田洋子氏(三菱総合研究所政策・経済研究センター長)は、最近のアンケート調査結果から「コロナ前後で一番の違いは地方中核都市への分散」と、住まい方に変化が生じつつあることを述べた上で、「コロナ以前から日本が抱えていた社会課題への投資、産業育成や雇用創出につなげていくことが重要」として、次期エネルギー基本計画で、生活者の行動変化を見据えながら中長期的方針を示す必要性を強調した。この他、中東の地政学的リスクへの対応、エネルギー教育・技術基盤の強化、原子力規制のあり方などに関する意見があった。
02 Jul 2020
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資源エネルギー庁は6月30日、福島第一原子力発電所で発生しタンクに貯蔵されている処理水の取扱いに係る意見聴取(4回目)を都内で行った。政府としての方針決定のため、2月に取りまとめられた委員会報告書を踏まえ4月以降実施しているもの。今回は、全国商工会連合会、日本ボランタリーチェーン協会、全国消費者団体連絡会より、小規模事業者や消費者の立場からの意見を聴取した。全国商工会連合会からは事務局長・苧野恭成氏が出席。同氏は、「地域に密着した唯一の総合経済団体」と、全国連の位置付けをアピールする一方、「高齢化により事業の継承が危機に」、「震災から9年が経過したが被災地での回復はいまだ途上にある」といった会員企業の抱える諸課題をあげ、処理水の放出に関し「風評被害に苦しむ小規模事業者がさらに苦境に立たされるのではないか」などと懸念。今後の処理水の取扱いに向けては、国内外への十分な説明と第三者機関による監視の必要性を訴えた。中小小売業の協同体組織とされる日本ボランタリーチェーン協会の常務理事・中津伸一氏も、加盟店について、「高齢者によるパパママストア」、「マスコミの力に弱い」と、報道による消費者行動の影響を受けやすい家族経営店舗の実態を強調。その上で、処理水の放出に関し「安全であれば流せばよいというのが率直なところ」とする一方、「わかりやすく国民に説明し納得してもらうことが大事。いくら安全・安心を呼びかけても買ってもらえなければ中小事業者にとっては死活問題」と、風評被害対策の拡充を切望した。リスコミの重要性を強調する全国消費者団体連絡会の浦郷氏また、消費者の権利保護や暮らしの向上などを目指し活動する全国消費者団体連絡会からは事務局長・浦郷由季氏が出席。同氏は、福島第一原子力発電所に関する学習会の開催を通じた消費者の声を紹介した上で、処理水に関する国民の理解、水蒸気放出と海洋放出以外の検討、地元住民の理解、風評被害対策、国と東京電力の責任の5点について意見を表明。消費者庁他が主催する食品安全シンポジウムにも登壇している浦郷氏は、特に風評被害に関し「福島の漁船というだけで仲卸業者に安く買いたたかれた」という漁業関係者の無念の声などをあげ、「多くの国民が考え、知ってもらうまでは処分方法について決めるべきではない」と、リスクコミュニケーションの重要性を強調した。資源エネルギー庁では7月15日まで、処理水の取扱いに係るパブリックコメントを行っている。
01 Jul 2020
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宮城県は8月に東北電力女川原子力発電所に関する住民説明会を開催する。発電所から30km圏内の在住・在勤者が主な対象で、1日の女川町を皮切りに、石巻市、東松島市、南三陸町と、19日までに計7会場で行われる予定。同発電所では2号機について、2月に原子力規制委員会より新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可が発出されたのを受け、梶山弘志経済産業相が村井嘉浩知事他、立地地域首長に対し同機の「再稼働を進めていく」政府の方針を伝えた。また、6月22日には、内閣府(原子力防災)で半島・周辺離島部の住民避難や避難車両・避難所における感染症拡大防止対策などを盛り込んだ「女川地域の緊急時対応」が了承されたところだ。住民説明会には、内閣府、資源エネルギー庁、原子力規制庁、東北電力が出席。県は今後、説明会開催を踏まえ県議会の意見も聴取した上で、再稼働に対する同意の是非に関し経済産業相に回答する。村井知事は22日の記者会見で、女川2号機について、説明会開催の考えとともに、東北電力との安全協定、防災対策と、3つの並行して進める手続きを整理した。安全協定については、県が設置する安全性検討会からの報告を受け、立地自治体である女川町と石巻市と協議の上、東北電力に回答。防災対策については、今回の「女川地域の緊急時対応」了承を大きな節目ととらえ、今後も引き続き避難計画の実効性向上に努めていくとしている。
29 Jun 2020
2159
原子力規制委員会の福島第一原子力発電所事故に関する検討会は、1、3号機で発生した水素爆発の映像を用いた調査分析に着手する。6月25日の同検討会会合に、映像を提供する福島中央テレビ/日本テレビが出席し説明に臨んだ。福島中央テレビによると、爆発の瞬間をとらえたカメラ(富岡町)は、福島第一、第二発電所から南西の方向に、それぞれ約17km、約10kmの距離にあり、JCO事故を受けて同局が2000年に設置したもの。その後、機材の高度化・増設が進められ、東日本大震災発生当時はバックアップ用となっていたが、山側の電源ルートを使用していたことにより停電を免れ唯一発電所の状況を撮影できた。爆発発生当時について、「原子炉建屋で白い煙が上がった」ことを確認し、放送中の番組を中断して映像を流し「いち早く発信することで報道としての責任を果たした」などと振り返った上で、「事故を検証し後世に伝えていくべき」と、映像提供の意義を強調。また、福島中央テレビと日本ニュースネットワーク(NNN)でつながる日本テレビの森田公三報道局長は、テレビが与えるインパクトの強さを改めて述べた上で、今回の映像提供に関し「事故の真相解明は極めて大事な責務」として、画像鮮明化などの技術面で引き続き規制委員会に協力していく姿勢を示した。同委検討会は昨秋5年ぶりに再開。前回までの会合で原子炉格納容器破損時の水素挙動が論点の一つとしてあがっていた。今後、水素爆発発生時の映像を用い、建物の変形、爆煙の広がり方、飛散物など、さらに調査分析を進め、年内を目途に一定の取りまとめがなされる見通し。
26 Jun 2020
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福島県の内堀雅雄知事は6月24日、経済産業省他、中央省庁を訪れ、復興・創生に向けた提案・要望活動を行った。梶山弘志経産相との会談では、浜通り地域の産業創出を目指す「イノベーション・コースト構想」のさらなる推進などを要望。新型コロナウイルス感染症が地域経済にもたらした影響の克服、「復興・創生期間」後における復興のさらなる加速化を全般的事項とし、避難地域・浜通りの復興・再生、風評被害対策の強化、「復興五輪」延期に伴う財政支援など、各省庁を通じて計46項目を要望。このほど、復興庁設置法等の改正により、地震・津波被災地域は「総仕上げ」段階にある一方、原子力災害被災地域では中長期的対応が必要となっている状況を踏まえ、2020年度までの「復興・創生期間」に引き続き復興を支える仕組み・組織・財源の整備が図られることとなった。要望事項の中で、「イノベーション・コースト構想」に関しては、3月に全面開所した「福島ロボットテストフィールド」の利用促進、エネルギー関連産業の集積、新重点分野(医療、航空宇宙)への支援の他、現在復興庁とともに検討が進められている国際教育研究拠点の構築について、「国立の研究開発法人として新設し、国が責任を持って長期にわたる予算、人員体制を確保すること」が盛り込まれた。東日本大震災・原子力災害伝承館のイメージ図(福島県発表資料より引用)また、今秋に双葉町に開館予定の「東日本大震災・原子力災害伝承館」への継続的支援として、資料収集を始めとする各事業の実施、研究体制構築などに要する運営費について、必要な予算確保を要望。今回の要望では、昨秋の東日本台風に伴う甚大な被害を踏まえ、大規模自然災害に備えた総合的な防災・減災対策や、国土強靭化の取組に向け必要な制度設計や財源確保に努めるよう関係省庁に求めている。
25 Jun 2020
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原子力規制委員会は6月24日の定例会で、四国電力伊方発電所における使用済燃料乾式貯蔵施設の設置について、原子炉等規制法で定める許可基準に「適合している」とする審査書案を了承した。今後、原子力委員会と経済産業相への意見照会、パブリックコメントを経て正式決定となる運び。乾式貯蔵施設の設置に係る審査書案了承は同委として初のケース。同施設は、伊方発電所で発生した使用済燃料を再処理工場へ搬出するまでの間一時的に貯蔵するもので、輸送・貯蔵兼用の使用済燃料貯蔵容器(乾式キャスク、高さ5.2m、直径2.6m)45基分の貯蔵容量を持つ。輸送・貯蔵兼用の乾式キャスクは、4つの安全機能(閉じ込め機能、臨界防止機能、遮蔽機能、除熱機能)を有し、使用済燃料を別の輸送容器に詰め替えることなく発電所外へと搬出できる。四国電力では乾式貯蔵施設を2023年度より運用開始する予定。原子力発電所を有する電力各社では、使用済燃料の貯蔵能力拡大に取り組んでおり、その一つとなる発電所敷地内の乾式貯蔵の審査は、2018年5月に申請された伊方発電所の他、九州電力玄海原子力発電所、中部電力浜岡原子力発電所について進行中。資源エネルギー庁が同年12月に発表した資料によると、乾式貯蔵施設を設置することで、使用済燃料貯蔵の余裕年数(同一サイト内で廃炉を除く全プラントの一斉稼働を仮定)が、伊方では11年から36年、玄海では3年から10年、浜岡では2年から8年へとそれぞれ延長すると試算されている。規制委員会の更田豊志委員長は、定例会終了後の記者会見で、東日本大震災に見舞われた福島第一原子力発電所内の乾式貯蔵施設について触れ、「あれだけの地震・津波にもかかわらず燃料に対する影響はまったくなかった」ことから、一定の冷却が進んだ使用済燃料は再処理までの間乾式貯蔵されることを改めて推奨した。
24 Jun 2020
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財務省はこのほど、税関行政の中長期ビジョン「スマート税関構想2020」を発表した。多様化・複雑化が進む税関業務の現状を踏まえ、「Solution」(S:利便向上策)、「Multiple-Access」(MA:多元連携)、「Resilience」(R:強靭化)、「Technology & Talent」(T:高度化と人材育成)の4つキーワードに掲げ、AIなどの先端技術を活用し「世界最先端の税関」を実現するための施策を取りまとめたもの。同構想では冒頭、過去30年間で、貿易額は約2.8倍、訪日外国人旅行者数は約13.2倍と、大幅な伸びを見せ、経済連携協定(EPA)の締結も進むなど、税関を取り巻く環境は大きく変化したとしている。こうした「モノの流れ」、「ヒトの流れ」、「カネの流れ」に加え、「社会構造の変化/災害リスク」、「先端技術の進展」、「国際治安情勢の変化」も見据え、「SMART」で今後10年程度に取り組むべき各種施策について工程表を整理。その中で、「Technology & Talent」に関する取組として、ビッグデータ解析、AIによるX線画像解析、NQR装置(覚醒剤隠匿探知装置)の活用などがあげられている。これまでも税関では、輸出入貨物の増加に伴い、全国各地の港にコンテナ車にも対応できる大型X線検査装置の配備を進め、検査時間を短縮化するとともに、不正薬物、銃器・銃弾、ワシントン条約に該当する動植物、盗難自動車などを摘発してきた。今後は、貨物のX線画像データを大量に学習させAIで貨物の品目を自動識別しリスクを判定するシステムを実用化し業務のさらなる高度化・効率化を図っていく。NQR装置は、旅客の体内や身辺に隠された覚醒剤をラジオ波により探知する。諸外国税関での先端技術活用事例としては、オランダでAIを用いたコンテナX線検査画像解析アルゴリズムの実証試験が、オーストラリアや中国では顔認証技術により空港旅客の通関を自動化する取組が進められている。
23 Jun 2020
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政府の原子力防災会議(議長=安倍晋三首相)は6月22日、東北電力女川原子力発電所を対象とした避難・屋内退避などの防護措置についてまとめた「女川地域の緊急時対応」を了承した。17日に内閣府の設置による立地地域の防災計画・避難計画を支援する「女川地域原子力防災協議会」(第2回)が開かれ、新型コロナウイルスなどの感染症流行下における防護措置を盛り込み、被ばくによるリスクと感染症拡大によるリスクの双方から住民の生命・健康を守る緊急時対応として、3月に取りまとめた初回版に対し改定が施されたもの。内閣府は2日に、現下の新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえ、「感染症流行下での原子力災害時における防護措置の基本的考え方」を発表。今回の緊急時対応は、同考え方を反映した初めてのケースとなり、避難車両・避難所における感染防止対策の他、自宅での屋内退避を行う場合には「放射性物質による被ばくを避けることを優先して屋内退避を実施し、換気は屋内退避の指示が出されている間は原則行わない」としている。また、女川発電所が立地する地域の地理的特性から、牡鹿半島および周辺離島部については、海路による避難が想定されることを踏まえ、発電所から概ね5km圏内の「予防的防護措置を準備する区域」(PAZ)に準じた「準PAZ」を設定し、緊急時には放射性物質の放出される前の段階から予防的に避難を実施。津波との複合災害については、「原子力災害に対する避難行動よりも津波に対する避難行動を優先」などとしている。宮城県では5月、「女川地域の緊急時対応」(初回版)が3月に取りまとめられたのを受け、PAZおよび、発電所から概ね5~30km圏内の「緊急防護措置を準備する区域」(UPZ)における避難計画に関し、避難に要する時間や混雑状況など、シミュレーションによる調査結果を発表した。これに対し、内閣府は「訓練の中で検証し課題解決を図っていく」として、自治体とともに避難計画の改善に努めていく考えを示している。原子力防災会議に臨んだ安倍首相は、「災害対策に終わりはない」と述べ、今回の緊急時対応について、さらに継続的検証・改善を図っていく考えを強調した。
22 Jun 2020
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茨城県議会は6月18日、連合審査会(防災環境産業委員会・総務企画委員会)を開き、日本原子力発電東海第二発電所の再稼働の賛否を問う県民投票条例案を審議。防災環境産業委員会は採決を行い、反対多数で否決となった。今回の審査結果は23日の県議会本会議に報告され採決となる運び。「いばらき原発県民投票の会」共同代表の鵜澤氏同条例案は、「いばらき原発県民投票の会」が約87,000人の署名を集め、地方自治法に基づく請求により議会に提出されたもので、同会共同代表の鵜澤恵一氏は、「東海第二の再稼働は茨城県民全体が当事者」と、県民投票を実施する意義を主張。また、大井川和彦知事は、6月8日に開会した県議会への条例案提出に際し、県民の意見を聴く方法について「慎重に検討していく必要がある」との談話を発表している。住民投票を巡る現状について説明する茨城大・古屋氏今回の審査会に参考人として招かれた茨城大学人文社会科学部教授の古屋等氏によると、近年、いわゆる「NIMBY」施設に関する住民投票は、沖縄県の辺野古米軍基地に係る県民投票で前例があるが、原子力発電所については宮城県、静岡県、新潟県など、いずれも議会で条例案が否決されている。同氏は地元の立場から、「国策である原子力発電は国が責任を持って判断すべき」としたほか、県民の意見を聴く方法に関して「原子力の先進県としてできる限り独自性を出すべき」などと意見を述べた。JCO事故を踏まえた情報発信・対話活動について説明する東海村・山田村長また、東海村村長の山田修氏は、「東海第二の再稼働について、住民の意見をどう把握するか非常に悩み模索している最中」と述べた上で、1999年のJCO事故以降実施している安全懇談会や住民とのふれあい活動など、情報発信・直接対話の取組を紹介。さらに、松江市で原子力をテーマに行われた住民主体の「自分ごと化会議」を例に、「まずは関心を持ってもらい冷静に議論してもらう」重要性を強調した。この他、資源エネルギー庁政策統括調整官の覺道崇文氏、原子力規制庁安全規制管理官(実用炉審査)の田口達也氏らが、それぞれエネルギー基本計画における原子力の位置付け、東海第二発電所の新規制基準適合性審査の経緯を説明。同発電所は2018年に、1978年の運転開始から60年間の運転期間延長が認可されている。参考人からの意見聴取を受け、討論に立った委員はいずれも、県民投票条例の制定に向けて集められた多数の署名を「重く受け止める」としたが、議会で多数を占める会派のいばらき自民党他、県民フォーラム、公明党は、「投票結果の取扱いに関する準備が不十分」、「投票率が低いとかえって不信感を招く」、「投票時期によっては次期県議会の拘束につながる」など、現段階での投票実施は「時期尚早」と反対意見を述べた。東海第二発電所の安全性向上対策工事の終了時期は2022年12月が予定されており、また、広域避難計画が策定されている自治体は県内5市町に留まっていることなどから、今回の審査会を通じ、安全性の検証や防災対策に関わる情報提供の困難さや、県民の熟議、「○×形式」で民意を問う方法の是非を巡り多くの意見が交わされた。
19 Jun 2020
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経済産業省の産業構造審議会(会長=中西宏明・日本経済団体連合会会長)総会が6月17日に行われ、新型コロナウイルスの影響を踏まえた今後の経済産業政策のあり方について議論した。「新型コロナウイルス感染症の影響により、世界経済は大恐慌以来の大きな打撃を受けている」との認識のもと、「足下の緊急時対応」、「新たな日常への移行」、「新たな日常への適応」と、時間軸と連続性を意識した政策議論が必要との考えから、同審議会下の各部会長らが参集し意見交換を行ったもの。経産省の説明によると、2020年の世界全体の実質GDP成長率はマイナス5.2%と、リーマンショック時のマイナス0.1%を下回る水準となるものと予測。日本においても、多くの企業で前年同月と比較し売上に落ち込みが生じるなど、産業界や労働市場にもたらされた影響に関するデータを提示した上で、新型コロナウイルスによって「どのようなトレンドが見られ、どういうものが定着するのか」を見極め「新たな日常への移行」を念頭に必要となる政策の方向性を整理した。さらに、日本経済が「新たな日常」を迎えたときに抜本的な取組を強化すべき政策分野として、「医療・健康」、「デジタル」、「グリーン(気候変動への対応・エネルギー安全保障)」と、分野横断的に「レジリエンス」を提示。気候変動・エネルギー問題の関連で、IEAの試算によると、新型コロナウイルスの影響を受けた経済活動の停滞により2020年の世界のCO2排出量は8%減少する見通しだが、パリ協定で掲げる長期目標の達成には、世界全体でこの減少幅が続く必要があると分析。その上で、脱炭素化社会の実現に向けて日本がリーダーシップを発揮すべく、非効率な石炭火力のフェードアウト、さらなる再生可能エネルギーの導入・原子力の活用、需要側の電化、水素やカーボンリサイクルの技術開発などを進めるべきとしている。このほど総合資源エネルギー調査会会長に選ばれた白石隆氏(熊本県立大学理事長)は、「原子力の比率はまったく満たされていない。エネルギー基本計画をきちんと実施する意識が求められている」などと、エネルギー政策に対する意見を述べた。直近の政策課題の一つとして、雇用システム・人材育成のあり方があげられたが、武田洋子氏(三菱総合研究所政策・経済研究センター長)は、最近の生活者アンケート調査の結果を紹介し、「これまでなかったデジタル化、テレワークの継続」を求める多くの意見があったことを述べた上で、若手の育成や労働需給における分断・格差の問題を指摘。また、高等教育の立場から、益一哉氏(東京工業大学学長)がオンライン講義の有用性、研究開発の強化や公益性を考慮したオープンイノベーションの必要性を、被災地企業の立場から、御手洗瑞子氏(気仙沼ニッティング社長)が「予期せぬことは起きるもの」として、自然災害などのリスクも政策に織り込んでいくことを主張。中小企業政策審議会会長の三村明夫氏(日本商工会議所会頭)は、「大災害を乗り切った日本の強みを明確に示すべき」として、中小企業の活用や地方創生推進の重要性を強調した。
18 Jun 2020
3451
環境省はこのほど、中学生以上を対象に、福島第一原子力発電所事故の発生から、放射性物質の状況、除染、福島県産品の食品の安全性についてわかりやすく説明したパワーポイント学習教材「学んで、考えてみよう 放射線・放射性物質対策のこと」を公開した。2013年度より制作・公開している福島県出身のタレントなすびさんの現地取材によるコンテンツ「なすびのギモン」をベースにしたもの。環境省ではこれまでも、教師が「自身で放射線・除染に関する授業を実施する」、生徒が「身の周りの放射線や除染について知り、考え、成長して県外に出たときに、自分のこと、福島のことを少しでも説明できるようになる」ことを目標に、小学生向けの紙芝居「ふくろう先生の放射線教室」(全3巻)、放射線測定実習プログラムなど、授業での実践事例とともに、資料の制作・公開を行ってきた。今回公開されたパワーポイント資料は、「I.東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故」、「II.除染について」、「III.福島県産品の食品について」、「IV.放射線が体に及ぼす影響について」の4つのテーマを系統立ててスライド形式で整理。例えば、「II.除染について」では、校庭、雨どい、プール、道路、農地の除染手法や、除染効果の確認、除去土壌の保管、中間貯蔵施設への輸送など、一連の取組を写真や地図を交えて説明。また、「III.福島県産品の食品について」では、まず食品中の放射性物質の基準値を述べた上で、生産現場における安全確保の取組として、農地の反転耕(放射性セシウムが付着している表面土と汚染されていない下層の土を入れ替える)、放射性カリウムの吸収抑制対策を紹介。また、市場に流通する前の農水産物、米、牛乳の放射性物質に関するモニタリング検査について、県の他、身近なスーパーでも独自の検査を行っていることをあげるなど、生徒自身でも調べさせるようにしている。
17 Jun 2020
3566
福島県「県民健康調査検討委員会」の甲状腺検査に関する評価部会が6月15日に開かれ、3巡目検査(2016~17年度)の結果が報告された。甲状腺検査は、長期的観点から放射性ヨウ素の内部被ばくによる甲状腺がんから子供を見守るため2011年より実施されている。震災当時に県内に在住していた18歳以下、および震災後に生まれた約34万人を対象として約22万人(64.7%)に実施された3巡目検査で、「悪性腫瘍ないし悪性の疑い」となった割合は実施者数全体に対し0.01%だった。同検査での地域分類、「避難区域等」(田村市、南相馬市、伊達市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村)、「中通り」(福島市など、26市町村)、「浜通り」(いわき市、相馬市、新地町)、「会津地方」(会津若松市など、17市町村)の地域別にみると、「浜通り」が最も高く0.03%だった。因みに、日本の甲状腺がんの罹患率(2015年)は、人口10万人当たり9人(0.009%)程度で、女性では同13人(0.013%)程度と男性と比べて高い傾向にある。今回の検査結果に対し、福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センターの大平哲也氏は、「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)により評価された甲状腺吸収線量と小児甲状腺がんとの関連に関する論文を紹介。それによると、2巡目検査(2014~15年度)の受診者を対象とした解析結果から、「甲状腺吸収線量が低い地域から高い地域に行くにしたがって、甲状腺がんの発見率が高くなるというような関連性は、いずれの年齢でも見られなかった」としている。その上で、UNSCEARによる被ばく線量評価には不確定要素が多いことなどをあげ、3巡目検査以降のデータを用いて引き続き評価を行う必要があると指摘。UNSCEARは2013年報告書(2014年4月公表)の中で、「福島第一原子力発電所事故により日本人が生涯に受ける被ばく線量は少なく、その結果として今後日本人について放射線による健康影響が確認される可能性は小さい」と結論付けている。部会長の鈴木元氏(国際医療福祉大学クリニック院長)も自身が参画する研究チームの論文を紹介。避難指示が出された7市町村の子供たちの行動調査票をもとに2011年3月11~26日の線量評価を解析し、1歳児の甲状腺被ばく(等価線量)に関し「UNSCEAR2013年報告書の評価値より大分小さくなった」としている。鈴木氏は、避難シナリオを見直し線量評価の精緻化を図った同研究の意義を述べ、年度内に見込まれるUNSCEAR報告書のアップデートに向けて、「日本の研究者たちが、何が原因で過剰評価となったか、データとして示していくべき」と強調した。
16 Jun 2020
2465
東芝エネルギーシステムズ、横浜国立大学、神奈川県立病院機構は、重粒子線がん治療装置の高度化に向け共同研究を加速する。東芝エネルギーシステムズでは、重粒子線がん治療のパイオニアである放射線医学総合研究所(量子科学技術研究開発機構)との共同開発により、あらゆる角度から重粒子線照射を可能とする「回転ガントリー」に超伝導電磁石技術を採用し、装置の小型・軽量化を図るなど、がん治療システムの研究開発に力を入れている。また、神奈川県立病院機構のがんセンターでは、国内で5番目の重粒子線治療施設「i-ROCK」が2015年に治療を開始。3者が6月11日に発表したところによると、これまで、2017年度設立の共同研究講座により、放射線の照射量に応じて発色する材料と発色量の3次元分布を測定する技術の開発に至るなど、「i-ROCK」を活用しがん治療における課題解決に取り組んできた。今後は、その成果を踏まえ、重粒子線がん治療装置の高度化に向けて、4月に新たな枠組みのもと、横浜国大研究推進機構内に「東芝エネルギーシステムズ・神奈川県立病院機構 重粒子線がん治療装置共同研究講座」を開設。神奈川県立病院機構は実データや現場の具体的要望を横浜国大に提供し、東芝エネルギーシステムズは「i-ROCK」の設計・製造を一括で請け負った実績をもとに機器や制御の観点から研究を支援する。横浜国大における人工知能の研究なども応用し、より精度の高い照射技術の開発を目指す。3Dプリントされた線量計、人形(上)をモデルに照射前(左下)に対し1kGyのX線照射後(右下)は青緑色の濃淡として照射部分が示されている(金沢工大発表資料より引用)放射線治療においては、腫瘍周辺の正常組織に影響を及ぼさないよう綿密な照射計画を立てる必要がある。線量の3次元分布測定に関し、金沢工業大学他の研究グループがこのほど興味深い研究成果を発表している。放射線照射により発色する「ラジオクロミック」と呼ばれる材料を用い3Dプリンターで患者の臓器の形状を正確にコピーするオーダーメイドの「3次元線量計」で、放射線治療技術の進展に応じ線量分布が複雑化する中、正確で安全な放射線治療の提案に資することが期待される。
12 Jun 2020
4211
日本原子力研究開発機構は6月11日、放射性物質の大気拡散データベースシステム「WSPEEDI-DB」を開発したと発表。従来の大気拡散予測システム「WSPEEDI」を改良したもので、新システムに用いられた新たな計算手法では、これまで約7分を要していた放出から1日後までの予測計算を3、4秒にまで短縮することができ、今後原子力災害発生時の防護措置の実効性向上に向けた活用が期待される。(原子力機構発表資料はこちら)新たな計算手法では、放射性核種、放出期間などの不確定情報に対し多数の拡散計算を行い計算結果をあらかじめデータベース化。さらに、日々の気象データの更新に合わせ、大気拡散計算を定常的に行いデータを連続的に蓄積しておくことで、実際に放出条件が与えられた際の大気拡散予測の効率化を図っている。今回の成果発表では、新システムの活用事例として、島根県原子力環境センターとの共同で実施したモニタリングポスト配置の妥当性検証について紹介した。中国電力島根原子力発電所周辺地域を対象とした100km四方および390 km四方の領域について、過去1年間の気象データを用いた1時間間隔の単位放出拡散データを蓄積しデータベースを作成。広範囲の中で「ホットスポット」と呼ばれる放射線量率の高い場所の分布図を作成し、降水時にはモニタリングポストで把握できない「ホットスポット」が想定されると分析した上で、可搬型モニタリングポストや航空機モニタリングなどによる補強を提案している。
11 Jun 2020
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原子力規制委員会は、事業者による自主的・継続的な安全性向上に向けた取組をより円滑かつ効果的なものとすべく新たなアプローチの検討を開始する。法令などに基づき事業者が講ずべき措置を具体的に示す、いわゆる「規制」に加え、安全確保上の目標を設定しインセンティブにより事業者の目標達成を促す枠組み・制度のあり方を検討するもの。〈規制委発表資料はこちら〉原子力発電所に係る法令に基づく対応としては、事業者に対し定期検査終了後6か月以内に安全性向上に向けた取組の実施状況や有効性について調査・評価させ、結果の届出を求める「安全性向上評価」(FSAR)がある。新規制基準施行後、再稼働の先陣を切った九州電力川内1号機については、5月に3回目の「安全性向上評価」が規制委員会に提出された。その中で、自主的な安全性向上対策として、桜島からの降灰に関する厳しい評価を実施し安全性に影響がないことを確認した上で、さらなる安全裕度の確保に向けて、燃料取替用水タンクの溶接部強化工事を計画するなどしている。規制委員会では、こうした「安全性向上評価」や、既に許認可を受けた施設が新知見に基づく規制要求に適合することを確認する「バックフィット」など、これまでの取組における制度面・運用面での改善点を抽出し、新たなアプローチに向けて考え方を示すべく、今後外部専門家も含めた検討チームを7月にも始動し、概ね1年程度で検討結果を取りまとめる。更田豊志委員長は6月10日の定例記者会見で、事業者が自らの言葉で施設の安全性を語る重要性を改めて述べた上で、「これまでインセンティブを起源とする取組が少なかった」として、検討チームにおける有意義な議論に期待を寄せた。
10 Jun 2020
4384
【国内】▽1日 政府、浜通りの産業集積に向け福島県作成の新たな「重点推進計画」を認定▽2日 エネ庁が福島第一処理水の取扱いに関し3回目の意見聴取、経団連他▽13日 規制委、六ヶ所再処理工場について新規制基準に「適合」との審査書案まとめる▽13日 福島第一2号機の使用済燃料プール調査に向け水中ROV訓練開始、ロボットテストフィールドで▽15日 NTTがITER機構と包括連携協定を締結、情報通信技術分野で協力▽20日 九州電力川内2号機が定期検査入り、「特定重大事故等対処施設」設置期限満了を迎え▽20日 文科省作業部会が「もんじゅ」サイトを活用した試験研究炉で議論、2022年度の詳細設計目指す▽21日 宮城県が女川原子力発電所に係る住民避難で検証結果まとめる▽22日 関西電力が美浜3号機事故を踏まえた原子力の安全性向上で、2020年度からのロードマップを新たに策定▽27日 エネ庁が夏の電力見通し発表、供給予備率は確保されるもコロナ影響を注視▽28日 学術会議が安全と安心の関係をテーマにシンポ▽29日 東京電力、福島第二4基の廃止措置計画を規制委に認可申請 【海外】▽6日 米規制委、使用済燃料の中間貯蔵施設建設計画について環境影響声明書案を発行▽7日 EU司法裁・法務官が見解:司法裁は英国の国家補助問題でオーストリアの控訴を棄却すべき▽7日 英国政府の世論調査で「CO2排出量実質ゼロ」の概念をある程度理解は35%▽11日 IAEAが加盟国から2,200万ユーロの拠出受け新型コロナ対策支援▽12日 米国で建設中のボーグル3号機、原子炉容器に「一体化上部カバー」の据え付け完了▽12日 米規制委、SMR等の緊急時対応要件策定に向け提案中の規則でパブコメ募集▽14日 米エネ省、予算2億3千万ドルで先進的原子炉実証プログラムを開始▽14日 米X-エナジー社、自社製TRISO燃料の性能確認でMITと協力▽18日 ウクライナ、3発電所の使用済燃料の集中中間貯蔵施設を9月末までに完成へ▽19日 建設中のUAEバラカ発電所 4号機の冷態機能試験が完了▽21日 米規制委 委員の欠員ポスト埋まる▽22日 ロシアの海上浮揚式原子力発電所が営業運転開始▽22日 スロベニア政府、2基目の原子炉建設について遅くとも2027年までに決定へ▽26日 カナダNWMO、深地層処分場の二つ目の建設候補地点でもフィールド調査実施へ▽27日 EDFエナジー社、英サイズウェルC原子力発電所の建設に向け開発合意書を申請▽28日 チェコ政府、ドコバニ原子力発電所増設計画で総工費の7割融資へ▽28日 米エネ省の長官、原子力における米国の競争優位性回復について専門誌で説明 ☆過去の運転実績
09 Jun 2020
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日本学術会議は6月5日、理工学分野におけるジェンダーバランスの現状と課題に関する報告書を発表した。日本の学術界、特に理工学分野における「ダイバーシティ(多様性)の不足」を重要な問題ととらえ、理工学各分野の女性研究者が、修士、博士、助教、講師、準教授、教授と、キャリアアップするつれて減少していくいわゆる「リーキーパイプライン」を分析し、課題解決に向け教育・社会・家庭が取り組むべきアプローチについて述べたもの。男女共同参画白書によると、研究者に占める女性の割合(2017年度)は、理学14.2%、工学10.6%で、他分野と比較して極めて低い。また、大学・大学院学生で、女性の占める割合は、研究者の1.5~2倍となっていることなどから、今回の報告書では「女性が研究職として継続しにくい状況」があると指摘している。例えば、助手と教授のそれぞれで女性の占める割合は、理学で53.8%、5.2%、工学で22.5%、3.6%、農学で81.2%、4.7%などと、キャリアアップにつれ大きく後退。保健が58.2%、23.2%、家政が87.8%、34.1%であるのと比較し、「リーキーパイプライン」現象が極めて顕著となっている。報告書では、その改善に向けた高等教育における取組として、芝浦工業大学の事例を紹介。同学では、「ダイバーシティ推進先進校」を掲げ、女性職員管理職・教員・学生比率を30%に引き上げることを目標に、出産・育児・介護を支援する学内諸制度の整備、全学共通科目「ダイバーシティ入門」の開講などを実施した結果、女性教員比率が2013年度9%から2019年度18%へと倍増した。また、女子学生の進路選択に関し介在する「理工学系の職業は危険、体力的に困難」といった「無意識の偏見」(アンコンシャスバイアス)についても考え直す必要があるとして、新しい社会的風潮や流れを作り出していくよう、マスメディアの果たすべき役割は大きいなどと述べている。総務省の統計(2015年)によると、女性研究者の比率は、航空(2.9%)、機械・船舶(5.2%)、電気・通信(6.9%)、物理(7.8%)、原子力(8.6%)、材料(9.2%)などの分野で低くなっている。こうした状況をとらえ、産学官の連携による「原子力人材育成ネットワーク」では2月の年次報告会で、ジェンダーバランスをテーマとして海外の取組事例に関する発表、意見交換を行った。
08 Jun 2020
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政府は6月5日、2020年度のエネルギー白書を閣議決定した。エネルギー政策基本法に基づき、概ね前年度に講じられたエネルギー需給に関する施策について取りまとめたもの。今回も経済産業省が「一丁目一番地の最重要政策課題」と位置付ける「福島復興の進捗」を筆頭に、「災害・地政学リスクを踏まえたエネルギーシステム強靭化」、「運用開始となるパリ協定への対応」の3件を特集。「福島復興の進捗」では、福島第一原子力発電所の廃炉に係る取組として、リスク低減に向けた1/2号機排気筒解体作業の進捗(2020年5月に上半分約60mの解体が完了)、2020年2月に取りまとめられた処理水の取扱いに関する報告書へのIAEAレビューなど、最近の動きも取り上げている。また、福島復興に関しては、いずれも2020年3月の進展として、帰還困難区域では初めてとなった双葉町・大熊町・富岡町の一部地域の避難指示解除や、「福島ロボットテストフィールド」と「福島水素エネルギー研究フィールド」の開所を紹介。「災害・地政学リスクを踏まえたエネルギーシステム強靭化」では、ホルムズ海峡周辺での日本関係船舶被弾など、中東情勢の緊迫化をもたらす最近の事案や、昨秋の台風15号、19号による大規模停電の発生をとらえ、国際資源戦略やエネルギーレジリエンスの強化を図る重要性を訴えている。また、昨今の新型コロナウイルス感染拡大が及ぼす国際原油価格市場への影響についてコラムで紹介。「運用開始となるパリ協定への対応」では、地球温暖化対策に関する国際的枠組み「パリ協定」が2020年から本格運用されるのを受け、温室効果ガス削減につながる5分野16技術課題の具体的目標を掲げた「革新的環境イノベーション戦略」(2020年1月策定)について取り上げ、「技術開発を進めることで、実効的な温室効果ガス削減に取り組んでいくことが重要」と強調。2050年の確立を目指す「革新的環境イノベーション戦略」の技術課題では、安全性・経済性・機動性に優れた革新的原子力技術や核エネルギー技術を含むエネルギー転換の分野で、約300億トンの温室効果ガス削減が見込まれている。資源エネルギー庁では、今回のエネルギー白書をわかりやすく紹介した「スペシャルコンテンツ」を公開している。
05 Jun 2020
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原子力規制委員会は6月3日、日本原子力研究開発機構の高温工学試験研究炉「HTTR」(茨城県大洗町、高温ガス炉、熱出力3万kW)が新規制基準に「適合している」との審査書を決定し、同機構に原子炉設置変更許可を発出した。本件は、3月25日の審査書案取りまとめを受け、原子力委員会と文部科学相への意見照会、パブリックコメントが行われていたもの。2014年11月の審査申請から約5年半を要した。HTTRの燃料体構造(原子力機構発表資料より引用)高温ガス炉は、電気出力100万kW 規模が主流の軽水炉に比べ小型だが、原子炉出口温度850~950度C(軽水炉は約300度C)の高温熱は、水素製造、海水淡水化、地域暖房など、幅広い利用が可能。また、原子炉から熱を取り出す冷却材には高温でも化学的に安定なヘリウムガスを用いているほか、1,600度Cにも耐える放射性物質の閉じ込め性能を持った「セラミックス被覆燃料」からなる燃料体構造などから、安全性にも優れている。原子力機構では今後、「HTTR」の2020年度内の運転再開を目指し、安全対策工事を着実に進めていく。運転再開後はまず、OECD/NEAの枠組みによる安全性実証試験「炉心強制冷却喪失(LOFC)プロジェクト」を実施。同プロジェクトでは、2010年度までの第1段階試験(30%出力、ガス循環機停止)で高温ガス炉の自然停止・冷却などの安全特性が示されており、今後も原子炉にとって厳しい条件を付加した試験を行い、得られた成果を通じ高温ガス炉に関する安全基準の国際標準化に向け貢献していく。
04 Jun 2020
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内閣府(原子力防災)は6月2日、昨今の新型コロナウイルス感染拡大を踏まえ、感染症流行下における原子力災害発生時の避難や屋内退避など、防護措置の基本的考え方をまとめた。内閣府(防災)では4月以降、自然災害に伴う避難所の新型コロナウイルス感染症対策について随時情報発信を行っており、原子力災害においても、これを原則適用し感染拡大・予防対策を十分考慮することが第一にあげられている。具体的には、避難する場合、移動中や避難先での感染拡大を防ぐため、避難所・車両における感染者の分離、人と人との距離の確保、マスクの着用、手洗いなどの感染対策を実施すること。また、自宅などでの屋内退避の際は、放射性物質による被ばくを避けることを優先し、屋内退避の指示が出されている間は原則換気を行わないとしている。今回示した基本的考え方について、内閣府(原子力防災)では、各地域の実情を踏まえ、当面の対応、避難計画見直しの参考として欲しいとしている。新型コロナウイルス感染症対策に関し、全国知事会では5月22日に緊急提言を発表し、政府に対し、医療提供・検査体制の充実化や社会経済活動の段階的な引き上げとともに、災害時の避難所体制整備についても所要の予算措置を要望。また、58の学会で構成される防災・減災ネットワーク「防災学術連携体」も同1日、気象災害が多発する時期を前に緊急メッセージを発表し、「感染リスクを考慮した避難が必要」、「熱中症への対策も必要」などと呼びかけている。こうした中、大阪府の吉村洋文知事は6月3日、記者会見を開き、人気アーティストを起用したライブハウス支援策などとともに、新型コロナウイルス感染症対策に応じた「避難所運営マニュアル作成指針」を公表。「3密(密閉・密集・密接)を避ける」、「保健所との連携」、「多様な避難所(学校の教室も含め)の確保」、「避難所における感染防止対策」がポイントに据えられており、今後これを踏まえ職員研修や市町村における運営訓練を行うとしている。
03 Jun 2020
3311