2020年度の原子力総合防災訓練が、東北電力女川原子力発電所を対象として、2月上旬に実施されることとなった。内閣府(原子力防災)が12月2日の原子力規制委員会定例会合で説明したもの。原子力災害対策特別措置法に基づき国が実施するもので、同法施行後、女川原子力発電所が対象となるのは初めてのこと。同発電所では、2号機が新規制基準適合性に係る原子炉設置変更許可に至っており、11月18日に立地自治体の事前了解を得たところだ。前回訓練も新規制基準下では再稼働していない中国電力島根原子力発電所が対象となり、政府機関、自治体、地域公共機関など、約200機関、住民を含め約8,000人が参加し行われた。今回の訓練は、「宮城県沖を震源とした地震、津波が発生。これにより、運転中の女川2号機が手動にて緊急停止。さらに、設備の故障が重なり、残留熱除去機能、原子炉注水機能が喪失する事象が発生し、施設敷地緊急事態、全面緊急事態に至る」ことを想定。自然災害と原子力災害の複合災害を想定し、(1)迅速な初動体制の確立、(2)中央と現地の連携による防護措置実施に係る意思決定、(3)住民避難・屋内退避――などの訓練を実施する。女川原子力発電所の原子力防災に関しては、6月に「女川地域の緊急時対応」が取りまとめられており、移動に海路を要する地理的特性から、牡鹿半島(先端部)および周辺離島については、PAZ(発電所から半径概ね5km圏内)に準じた「準PAZ」として設定し、放射性物質が放出される前の段階から、住民避難などの予防的防護措置を実施することとされた。また、昨今の新型コロナウイルス感染症拡大を踏まえ、避難所・車両、屋内退避における感染拡大防止策についても具体化されており、今回の訓練では、これらについても実効性を検証する。
02 Dec 2020
3439
三菱重工業は11月30日、2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)の実現に向けて同社グループが総力を結集し取り組むプロジェクト「エナジートランジション」を発表した。エネルギー・環境分野の新事業創出を通じ、2030年度までに売上3,000億円規模までの拡大を目指す成長エンジンとなるもの。「エナジートランジション」の展望として、エナジードメイン長の細見健太郎氏は説明会で、「火力発電の脱炭素化と原子力によるCO2削減」を第1ステップとする2050年カーボンニュートラル達成への道筋を披露。三菱重工グループが海外企業との協力も通じ積極的に取り組んでいる水素利用に関しては、製鉄業界への供給も視野に高温ガス炉による大量かつ安定的な水素製造の可能性もあげた。また、原子力セグメント長の加藤顕彦氏は、「2050年カーボンニュートラルの達成に向け、将来にわたって原子力の活用は必須」とした上で、既設プラントの再稼働推進の他、多様化する社会ニーズに応じた小型炉・高温ガス炉・高速炉の開発・実用化、ITER(国際熱核融合実験炉)計画への参画など、脱炭素に向けた原子力事業の展望について説明。当面の取組としては、60年までの運転期間延長を見据え、蒸気発生器取替などの大型保全工事を計画的に実施しプラントの安全・安定運転につなげるとともに、六ヶ所再処理工場やMOX燃料加工工場の早期しゅん工対応を始め、使用済燃料の輸送・貯蔵兼用キャスクの設計・製造により核燃料サイクルの確立を図るとした。将来に向けては、2030年代半ばの実用化を目標に経済性・安全性に優れた次世代軽水炉の研究開発を推進していることなどをあげ、「原子力産業のリーディングカンパニーとして、脱炭素化の取組を着実に進めていく」と強調した。
01 Dec 2020
7900
東京電力は11月26日、福島第一原子力発電所廃炉作業の進捗状況を発表した。1号機使用済燃料プールからの燃料取り出しに向けては、原子炉建屋内既設の天井クレーンや燃料取扱機の落下を回避するため、これらを下部から支える支保の設置(動画リンクは燃料取扱機に関わる作業の模様)が11月24日に完了した。これにより、今後のガレキ(崩落した屋根など)撤去に際し、変形した天井クレーンや燃料取扱機の落下によるダスト飛散や燃料損傷などのリスクを低減する「ガレキ落下防止・緩和対策」が完了したこととなる。1号機の「ガレキ落下防止・緩和対策」は、2019年12月の燃料取り出しプラン選定を踏まえ、2020年3月より使用済燃料プール上の養生バッグ(エアモルタルを注入しビーチマットのように膨らませる)設置などが進められてきた。今後は、ガレキ撤去に先行し2021年度上期より原子炉建屋を覆う大型カバーの設置工事に着手。2023年度頃までに大型カバーの設置を完了し、ガレキ撤去・除染・遮蔽後、燃料取扱設備を設置した上で燃料取り出しとなる。1号機使用済燃料プールからの燃料取り出し開始は2027~28年度の予定。また、2号機の燃料デブリ取り出しに向けては、原子炉格納容器内部調査および試験的取り出しで用いるアーム型装置の導入のため、X-6ペネ(貫通孔)内堆積物の接触調査、3Dスキャン調査が10月に実施されている。今回の調査では、堆積物が固着しておらず形状が変化することなどを確認しており、これらの成果を踏まえ、今後X-6ペネ内の堆積物除去を検討していく。一方、アーム型装置は現在、英国で開発が進められているが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、モックアップ試験に入れない状況となっている。福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデントの小野明氏は、11月26日の記者会見で、今後の対応について国際廃炉研究開発機構(IRID)とも協力しながら早急に詰めていく考えを示した。
27 Nov 2020
3515
国立環境研究所は11月24日、茨城県の霞ヶ浦(西浦)で行った観測から、福島第一原子力発電所事故後、湖水中および魚類の放射性セシウム濃度が季節により変動しながら、徐々に低下していることを明らかにしたと発表した。〈環境研発表資料は こちら〉同研究所の生物・生態系環境研究センター他による共同チームは、事故後5年間にわたり、霞ヶ浦の3か所で毎月の水温や溶存酸素量などの環境測定に加え、季節ごとに表層水(水深2mまで)の採水を行い、湖水中に含まれる溶存態(水中にイオンの形で溶け込んでいる状態)の放射性セシウムの濃度測定を実施。調査の結果、いずれの地点とも、夏の表層水温の上昇と底層(湖底から10cm程度)の溶存酸素濃度の低下が確認されたほか、湖水中の放射性セシウム濃度については、事故から1~2年の間に大きく低下した後、「夏のわずかな上昇、秋から春にかけての低下」という季節変動を繰り返しながら徐々に下降していることがわかった。湖水中の放射性セシウム濃度の変動に関し要因を分析したところ、夏に底層の溶存酸素濃度が低下することに伴い、底泥からの放射性セシウムの溶出が起きていることが示唆された。さらに、共同チームでは、霞ヶ浦において底泥からの溶出により上昇した湖水中の放射性セシウム濃度が魚類に与える影響を合わせて調べるため、ワカサギについて分析。その結果、事故直後から出荷規制値を上回っておらず、1年から1年半後にかけて急激に低下し、以降も徐々に下降していることがわかった。ここでも、湖水と同じく、夏に放射性セシウム濃度がわずかに高くなる季節変動を確認。フナ類でも同様の傾向がみられたことから、底泥から溶出した放射性セシウムが食物網を通じて魚類に取り込まれている可能性を示唆するものとしている。今回の研究成果に関し、共同チームでは、淡水魚類の長期的な放射能影響の解明につながるほか、放射性セシウム濃度の季節変動を考慮することで、より確度の高い水産物の出荷制限対応が可能となるとしている。
26 Nov 2020
2566
原産協会は11月20日のプレスブリーフィングで、2019年度の「原子力発電に係る産業動向調査」報告書の概要を説明した。調査対象は、会員企業を含む原子力発電に係る産業の支出や売上、従事者を有する営利目的の企業で、248社(電気事業者11社、鉱工業他226社、商社11社)より有効回答を得た。それによると、2019年度の電気事業者の原子力関係支出高は、「機器・設備投資費」の大幅な減少により、前年度比5%減の2兆155億円。一方、鉱工業他の原子力関係売上高は、同6%増の1兆7,017億円、原子力関係受注残高は同7%増の2兆1,724億円となった。電気事業者と鉱工業他を合わせた原子力関係従事者数は、前年度とほぼ横ばいの4万8,728人だった。原子力発電に係る産業の景況感に関しては、現在(調査を実施した2020年度)を「悪い」とする回答が78%で前回調査から2ポイント減少したものの、1年後(2021年度)は「悪くなる」との回答が27%と3ポイント増加しており、福島第一原子力発電所事故以降、景況感の回復は厳しい状況。原子力発電所の運転停止に伴う影響としては、「技術力の維持・継承」(59%)、「売上の減少」(58%)が依然と上位にあがっている。「技術力の維持・継承」に係る影響の具体例としては、「OJT機会の減少」が最も多く、この他、雇用の確保や企業の撤退に伴う技術・ノウハウの散逸などがあげられた。また、他社の撤退による影響を受けている、または受ける恐れのある主な分野としては、「技術者・作業者」(38%)、「素材・鋼材」(23%)が多かった。一方で、原子力発電所の追加安全対策が受注の増加や、技術力向上につながっているとする企業もあった。原子力発電に係る産業を維持するための課題としては、「政府による一貫した原子力政策の推進」(73%)、「原子力発電所の早期再稼働と安定的な運転」(61%)、「原子力に対する国民の信頼回復」(58%)が引き続き上位にあがっている。今回の調査では、新型コロナウイルス感染拡大による影響についても尋ねており、50%が「既に影響が出ている」と、39%が「今後影響が出る可能性がある」と回答。具体的な影響としては、「受注の減少(業績の下振れ)」が最も多く62%で、「現場での業務に支障」の55%がこれに次いだ(=図)。
24 Nov 2020
2592
衆議院は11月20日の本会議で、原子力委員会の委員長に上坂充氏(東京大学大学院工学系研究科教授、=写真)を当て、佐野利男委員を再任する人事案の同意を可決した。任期は12月16日から3年間。
20 Nov 2020
3604
日本原子力研究開発機構は11月17日、研究成果を発表する報告会をオンラインにて開催した。今回の報告会は、「Shaping Innovation ~新たな変革に向けて」と題し、研究成果発表とともに、伊藤聡氏(計算科学技術振興財団チーフコーディネータ)、柿沼志津子氏(量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所副所長)、崎田裕子氏(ジャーナリスト)、高嶋哲夫氏(作家)の登壇によるトークセッションを設定。新型コロナウイルス感染症の拡大、菅首相による2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)実現の表明など、昨今の情勢を背景とした原子力機構への今後の期待に関してディスカッションが行われた。崎田氏市民との対話活動に取り組む崎田氏は、「放射能と新型コロナウイルスは、両方とも目に見えないという共通点がある。社会はゼロリスクを求めようとするが、どのようにリスクと一緒に暮らしていくか」と、将来に向けた課題を提起。その上で、原子力機構の取組に対し、「地球規模で考えると大変重要な分野。自分の研究が社会でどう活かされているのか、イメージを持ちながら思いを語れることが重要」と述べ、社会とのコミュニケーションを軸足とした研究開発が進められることを期待した。柿沼氏新たな研究領域「量子生命科学」に挑んでいるという柿沼氏は、重粒子線がん治療の普及に向け、レーザー、加速器など、装置の小型化を図るための要素技術開発の取組を紹介。量研機構では、放射線分野の他、核融合エネルギーの研究開発も行われており、同氏は、今後も原子力機構と相互に協力していきたいと述べた。伊藤氏また、民間企業の経験から、「ピンチをチャンスに」と強調する伊藤氏は、感染症情勢により増えつつあるイベントのオンライン開催やバーチャルツアーに関し、「情報は伝わっても色々なものが落ちている。香りをどう伝えるのか。これではイノベーションとはいえない」と指摘した上で、研究機関が「総合力」を発揮しイノベーション創出に結び付くよう強く期待した。高嶋氏「首都感染」(強力なインフルエンザのまん延により東京が封鎖される危機を描いたフィクション、2010年)を著した高嶋氏は、ペスト、コレラ、スペイン風邪などにより数千万単位の死者が発生してきた感染症に関わる人類の歴史に言及。阪神淡路大震災を実体験したと話す同氏は、自然災害への対応も振り返りながら、「日本は過去の経験から学ぶことが欠けている。感染症もまた何年か後に新たに起きるだろう。新型コロナウイルス拡大を貴重な経験として活かして欲しい」と述べた。また、学生時代に核融合に魅せられ、かつて日本原子力研究所(原子力機構の前身)で研究に関わった経験にも触れ、「2050年カーボンニュートラルに向けて、世界のどこにもない考え方を示し、若い人たちが夢のあるテーマを見つけるようになれば」と、原子力機構の今後に期待を寄せた。※写真は、いずれもオンライン中継より撮影。
20 Nov 2020
2535
原子力規制委員会は11月18日の臨時会合で、日本原燃の池辺和弘会長、増田尚宏社長と意見交換を行った(=写真、インターネット中継)。増田社長が意見交換に招かれるのは2019年2月以来2度目。同社の六ヶ所再処理工場が2020年7月に新規制基準に「適合する」として事業変更許可に至ったことから、今後の施設のしゅん工、安全・安定操業に向けた取組を中心に、経営層と現場との意思疎通、技術力の維持などについて話し合われた。六ヶ所再処理工場の規制対応に関しては、引き続き設計・工事計画の認可申請や安全対策工事など、膨大な作業量が見込まれているが、池辺会長は、電気事業連合会会長も務める立場から、「業界一丸となって日本原燃に寄り添いながら、しゅん工・運転に必要な支援に全力をあげる」と強調。増田社長は、設備工事計画の認可申請について、効率的な審査を念頭に、申請対象設備の選定と類型化を図り、12月の第1回申請に向けて全体計画を11月中にまとめる考えを示した。新規制基準適合性審査からさかのぼり、六ヶ所再処理工場は2008年以降、全体の本格的運転(2006年3月に開始したアクティブ試験で発電所の試運転に相当)が長期間行われていないことから、今回の意見交換で増田社長は、特に、フランスの再処理施設「ラ・アーグ工場」での実機訓練など、運転員の技術力維持・向上の取組について説明。委員からは、電力会社との企業文化の違い、自然災害への備え、労働安全確保、セキュリティ対策に関する質問があった。これに対し、増田社長は、若手社員による現場の案内・説明を通じたマイプラント意識の醸成、安全ハンドブックや危険体感施設を活用した安全意識の徹底や、人材育成に関しては、再処理工場の特性から化学プラント関係者の話も参考にしながら取り組むなど、今後のしゅん工・操業に相応しい体制構築を目指すとした。六ヶ所再処理工場は2022年度上期のしゅん工が見込まれている。東日本大震災の発災当時、増田社長は東京電力で福島第二原子力発電所長を務めていたが、これに関し、地震・津波対策の審査を担当する石渡明委員は、「自然災害リスクの話をすれば誰でも聞くと思う」と、同氏の現場指揮に当たった経験が伝承・活用されることを期待した。
19 Nov 2020
3089
原子力発電環境整備機構(NUMO)は11月17日、北海道の寿都町と神恵内村で高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けた文献調査を実施することを発表した。法律に基づく処分地選定調査の第1段階となる文献調査は、地質図や鉱物資源図など、地域固有の文献・データをもとにした机上調査で、現地調査(ボーリングなど)は行われない。また、次の調査段階に進む場合は、改めて知事および当該市町村長の意見を聴き、反対の場合は先へ進まないこととなっている。NUMOでは、2017年に地層処分の適性に関し日本地図を4色で塗り分けた「科学的特性マップ」を公表し、全国各地で対話型説明会を開催するなど、理解活動を進めてきた。10月に両町村より文献調査受入れの応募を受け、NUMOは調査実施に向けて事業計画の変更を経済産業相に申請。このほど認可となったもの。NUMOでは今後、文献調査とともに、地層処分事業に関する理解活動、調査の進捗説明、地域の発展ビジョンの具体化検討に取り組んでいくとしている。NUMOの近藤駿介理事長は、今回の文献調査開始に際しコメントを発表。両町村によるこれまでの判断に対し謝意を表明した上で、「地質に関する文献・データを調査分析し情報提供することを通じて。市町村で地層処分事業について理解を深めてもらう」と、文献調査を対話活動の一環と考えていることを述べたほか、調査期間中に放射性廃棄物を持ち込まないことを改めて明言した。
18 Nov 2020
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資源エネルギー庁は11月18日、2019年度のエネルギー需給実績(速報)を発表した。最終エネルギー消費は前年度比2.0%減の12,959PJ(ペタジュール)。一次エネルギー国内供給は、全体で同3.1%減の19,104PJとなり、化石燃料は6年連続で減少する一方、非化石エネルギー(再生可能エネルギー、原子力など)は7年連続で増加した。原子力は、再稼働が始まった2015年度以降、毎年増加し続けていたが、2019年度は前年度比3.2%減となった。再生可能エネルギーは同7.6%増で、ここ数年で最も小さい伸び率に留まった。発電電力量は前年度比2.2%減の1兆277億kWhで、非化石電源の割合は同1.2ポイント増の24.2%。発電電力量の構成は、再生可能エネルギーが18.0%(前年度比1.2ポイント増)、原子力が6.2%(同横ばい)、火力(バイオマスを除く)が75.8%(同1.2ポイント減)となった。 また、エネルギー起源CO2排出量は、前年度比3.4%減の10.3億トンで、6年連続の減少となり、2013年度比で16.7%減。電力のCO2排出原単位(使用端)は、0.47kg-CO2/kWhで前年度より2.6%改善した。 11月17日の総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会では、菅首相が10月の所信表明演説で宣言した2050年カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)の実現に関し議論がなされた。次期エネルギー基本計画においては、「S+3E」(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合性)のバランスを踏まえ、「再生可能エネルギー、原子力など、使えるものは最大限活用する」といった考えのもと、2050年のカーボンニュートラルに向けた道筋・政策が示されることとなる。
18 Nov 2020
3213
名古屋大学、中部電力、鹿島建設による共同研究チームはこのほど、放射線と熱により原子炉建屋コンクリートの強度が増すことを裏付ける研究成果を発表した。現在廃止措置が進められている浜岡原子力発電所1号機(1976年運転開始、2009年運転終了)を利用し得られた成果で、11月5日に科学雑誌「Materials & Design」オンライン版に掲載されたもの。〈名古屋大発表資料は こちら〉名古屋大学では、2015年より中部電力の自主的安全性向上の取組として原子力発電所のコンクリート部材に関する研究を推進。浜岡1号機原子炉建屋の様々な環境条件にあるコンクリート部材から円筒状に試料採取を行い、圧縮強度、コンクリート内に存在する水、微細構造、鉱物組成などを分析・調査した。その結果、原子炉格納容器から離れた一般部のコンクリート壁(厚さ1.5m)では内部が外側部分より1.5倍程度、生体遮蔽壁のように高温や放射線にさらされた部材では内部が外側部分より2倍程度の高い強度となっていた。詳細な分析により、こうした強度増大はコンクリート中の水分分布と関係していることが示され、電子顕微鏡を用いた微細構造観察から、セメントの水和反応で生じる水酸化カルシウムが、コンクリート中の砂に存在する鉱物(アルカリ長石類)と反応し、「カルシウムアルミノシリケート水和物」と呼ばれる物質が生成されていることがわかった。さらに、発電所稼働中に比較的高温にさらされる生体遮蔽壁やペデスタル(原子炉圧力容器下部)について分析したところ、岩石鉱物の一種「トバモライト」が生成され、化学的安定性、強度が増大することを解明。共同研究チームでは、今回の研究で確認された反応について、「ローマ時代に作られたコンクリートが現在も強度を増進し続けるメカニズムと同一のもの」として、原子力発電所の安全性向上だけでなく、耐久性に優れたコンクリートの開発やコンクリート構造物の長期利用にも貢献するものと期待を寄せている。
17 Nov 2020
2614
【国内】▽1日 九州電力が川内1、2号機の運転再開予定を1月前倒し、テロ対策施設の工期短縮で▽7日 規制委、MOX燃料加工工場で新規制基準に係る「審査書案」了承▽8日 エネ庁、福島第一処理水の取扱い方針検討に向け全漁連他より意見聴取▽8日 革新的環境イノベーションについて国内外の産学官リーダーが話し合う「ICEF2020」年次総会開催、SMR開発も支持(~9日)▽9日 北海道寿都町が高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けた文献調査に応募▽10日 合同就職説明会「原子力産業セミナー2022」が大阪で開催(31日には東京でも開催)▽13日 エネ調基本政策分科会でエネルギー基本計画見直しに向け検討開始▽15日 北海道神恵内村が高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けた文献調査に関し、国からの申入れを受諾▽16日 エネ庁長官が福井県知事を訪れ、40年超運転などに関し会談▽16日 原子力機構と英国立原子力研が高温ガス炉技術の研究開発協力に向け合意▽21日 青森県と関係閣僚らが意見交換を行う核燃料サイクル協議会10年ぶりに開催、六ヶ所再処理工場の審査進展を受け▽23日 政府の廃炉・汚染水対策チーム会合が福島第一処理水の取扱いに関する意見を整理▽26日 菅首相が国会で所信表明、「2050年までに温室効果ガス排出をゼロに」▽26日 梶山経産相が臨時会見で脱炭素社会を目指す「2050年カーボンニュートラル・グリーン成長」発表、原子力も最大限活用▽26日 新潟県の技術委員会が福島第一原子力発電所事故に関する検証結果を知事に提出▽26日 東京電力福島復興本社が「双葉町産業交流センター」に移転・業務開始▽26日 福島第一・第二の廃炉事業で、JFEエンジニアリング、IHI、日本ガイシ、エイブルが共同提案の検討に向け合意▽30日 東京電力柏崎刈羽7号機の新規制基準に係る保安規定変更が認可、一通りの審査が完了▽30日 中国電力が島根2、3号機の安全対策工事完了時期を、「2021年度の早い時期」、「2022年度上期」にそれぞれ変更 【海外】▽1日 ウクライナ大統領、原子力発電拡大で国内事業者への支援を約束▽6日 加OPG社、SMR建設に向けベンダー3社と協力▽6日 米国、ロシアからのウラン購入について「反ダンピング調査停止協定」の20年延長を決定▽8日 仏規制当局、フラマンビル3号機建設サイトへの燃料搬入を許可▽9日 ポーランド内閣、原子力発電をさらに推進する原子力開発プログラムの最新版を承認▽9日 ルーマニアのチェルナボーダ3、4号機完成計画に米国が協力▽13日 IEAのWEO最新版、「パンデミック影響下では適切なエネルギー政策が必要」と指摘▽13日 スウェーデンの自治体、使用済燃料処分場の受け入れを改めて表明▽13日 フラマトム社とGA社、モジュール式の小型ヘリウム冷却高速炉開発で協力▽13日 米エネ省、先進的原子炉実証プログラムの支援対象企業2社を発表 ▽15日 カナダ政府、テレストリアル社の小型溶融塩炉開発に2,000万加ドルを投資▽19日 ポーランドの原子力開発プログラムに米国が協力▽19日 米国のボーグル増設計画で3号機の冷態機能試験が完了▽21日 中国で「華龍一号」初号機の福清5号機が初めて臨界条件達成▽22日 ウクライナのエネルギー協会、政府に原子力産業の発展促進を勧告へ▽23日 ブルガリアと米国、民生用原子力分野の協力促進で覚書締結▽23日 ベラルーシ政府、初の商業炉の起動に向けて出力上昇プログラムを許可 ▽28日 WNAの新事務局長、エネルギー供給保証の強化で原子力への投資促進を提言 ☆過去の運転実績
13 Nov 2020
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九州電力川内原子力発電所1号機のテロ対策となる「特定重大事故等対処施設」(特重施設)が11月11日、運用を開始した。発電再開は26日の予定。新規制基準で要求される特重施設の設置は、プラント本体の工事計画認可から5年間の猶予が与えられている。2015年に再稼働の先陣を切った川内1号機だが、同施設の運用開始も今回初の事例となった。川内1号機は、2020年3月17日の特重施設設置期限満了を前に、同16日に定期検査入り。当初、同機の発電再開は12月26日が予定されていたが、特重施設設置工事の工期短縮の見通しが得られたことから、1月前倒しとなった。同じく2号機も5月20日に定期検査に入っており、特重施設の整備を完了した上で、12月26日に発電再開となる予定。特重施設は、セキュリティ上詳細について明らかにされていないが、緊急時制御室、電源、注水ポンプなどを原子炉建屋から離れた場所に整備し、大規模な損壊が発生した際にも、原子炉格納容器の破損を防止する機能を有するもの。特重施設の整備を巡っては現在、関西電力高浜発電所3、4号機が10月までに設置期限を満了し定期検査中となっている。両機の特重施設に関しては、訓練項目などを盛り込んだ保安規定変更が10月7日に原子力規制委員会より認可された。3、4号機はそれぞれ、2021年1月中旬、2月中旬に営業運転に復帰する見通し。
12 Nov 2020
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原子力技術研究に関する日本・インドネシアの共同シンポジウム(オンライン会議)が11月11日に始まった。原子力委員会とインドネシア原子力庁(BATAN)との共催。両国の大学・研究機関や他国も含め260名、うち学生70名の参加が見込まれている。原子力委員会が主導する東南アジア諸国を中心とした枠組「アジア原子力協力フォーラム」(FNCA)が2019年12月に行った大臣級会合の共同コミュニケでは、FNCAのネットワークを活用し人材基盤強化に向けた協力を深めていく方向性が示されている。これを踏まえ、今回の共同シンポジウムでは、2日間の議論を通じ、日本・インドネシア間の原子力技術・放射線利用分野における研究機関や大学との交流促進を図るとともに、研究開発の進展、国際的な人材育成確保に資することを目指す。開会に際し、原子力委員会の岡芳明委員長は、日本の原子力技術・人材育成確保の現状について説明。大学における原子力教育や研究施設を活用した教育訓練に関し、東京大学拠点のプログラム事業で制作された教科書シリーズの英訳版や、日本原子力研究開発機構によるアジア諸国を対象とした講師育成研修コースを紹介するなど、国際的な人材育成支援活動に向け意欲を示した。BATANのアンハル長官(オンライン会議)続いて、インドネシアから、ディポネゴロ大学のアンバリヤント副学長が講演。原子力分野の国際協力活動として、FNCAの気候変動科学プロジェクトでオーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)と共同で実施された湖内堆積物のサンプリング調査を紹介した。また、BATANのアンハル・リザ・アンタリクサワン長官は、主に放射線利用を中心としたインドネシアにおける原子力科学技術の現状を披露。農業分野では放射線育種によりバナナ、大豆、米、菊の品種改良が行われているほか、医学、工業、環境保全、治水、食品衛生などの各分野における応用や、BATANの研究開発施設の取組としてインターネットを活用した原子炉実習も実施されているとした。シンポジウムでは12日にかけて、原子力工学分野と放射線利用分野に分かれ議論する。
11 Nov 2020
2651
原子力規制委員会は11月11日の定例会合で、リサイクル燃料貯蔵のむつ中間貯蔵施設(青森県むつ市)に関し、新規制基準に「適合している」として、原子炉等規制法に基づき事業変更許可の発出を決定した。本件については、9月2日に「審査書案」が取りまとめられ、原子力委員会と経済産業相への意見照会、パブリックコメントに付されていた。同施設は、東京電力と日本原子力発電の原子力発電所から発生する使用済燃料を再処理するまでの間、安全に貯蔵・管理するもので、最終的な貯蔵容量は5,000トン(現在の国内貯蔵容量の2割程度)を目指し整備が進められている。2013年には貯蔵建屋(1棟目)が完成。2016年に新規制基準適合性に係る審査が申請され、およそ4年を経て事業変更許可に至った。核燃料サイクル施設に係る新規制基準適合性審査に関しては、日本原燃六ヶ所再処理工場について7月29日に事業変更許可が発出されたほか、同MOX燃料加工工場も10月7日に「審査書案」了承となるなど、進展が見られている。会合終了後の記者会見で、更田豊志委員長は、むつ中間貯蔵施設の審査に関し、「全体的に非常に静的な施設で、安全上の議論になるところはそれほど多くなかったが、非常に時間がかかった」と、所感を述べた。今回の事業変更許可を受け、リサイクル燃料貯蔵は、「安全性向上への取組に終わりはない、という意識のもと、事業開始に向け全力で取り組んでいく」とのコメントを発表した。
11 Nov 2020
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日本経済団体連合会は11月9日、2030年に向けて(1)DX(5月に発表したデジタル技術に関する提言)を通じた新たな成長、(2)働き方の改革、(3)地方創生、(4)国際経済秩序の再構築、(5)グリーン成長の実現――を柱に新政権とともに推進すべき施策を提言する成長戦略を発表した。同戦略では、「地球環境の持続可能性と豊かな生活が両立する社会」を未来像の一つとして標榜。新政権の目指している「2050年カーボンニュートラル」(CO2排出実質ゼロ)の実現に関しては、既存の取組では力不足と指摘。脱炭素社会を目指したイノベーションを一層加速化すべく、革新的技術の開発・普及を産業政策の中軸と位置付けた上で、次世代蓄電池導入などの国家プロジェクトを立ち上げ、産学官総力を挙げた取組が進むよう長期的な国費投入を求めている。原子力についても、「欠くことのできない手段」と、重要性を改めて示した上で、継続的な活用に向けて、安全性向上の取組や再稼働の推進とともに、2030年までの建設着手を目指し新型炉(SMR、高温ガス炉、核融合炉など)の開発を国家プロジェクトとして進めることを提言。一方で、再稼働が進まぬ状況下、建設・運転・保守を支える技術とノウハウの継承が喫緊の課題となっていることを強調。また、原子力の必要性に関し国が前面に立ち正面から論じるべきとも述べている。「。新成長戦略」と題する今回の提言について、経団連の中西宏明会長は、序文の中で「これまでの成長戦略の路線に一旦終止符『。』を打ち、『新』しい戦略を示す意気込みを表している」と説明している。経団連による成長戦略発表に関し、梶山弘志経済産業相は、11月10日の閣議後記者会見で、原子力政策について、国民の信頼回復に努め既存のプラントの再稼働を進める重要性を改めて述べた上で、「現時点では新増設・リプレースは想定していない」と、政府の方針に変わりはないことを明言。また、「2050年カーボンニュートラル」実現に向けては、「再生可能エネルギーのみならず、原子力を含め、あらゆる選択肢を追求し使えるものは最大限活用することが重要」として、エネルギー政策を所管する経産省が主導し着実に議論していく姿勢を示した。
10 Nov 2020
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福島県がトップブランドとしての流通を目指し開発した高品質オリジナル米「福、笑い」が、11月10日より県内および首都圏で先行販売される。〈取扱い店については こちら を参照〉来秋の本格デビューを前に、消費者や流通業者にPRし、他道県のトップブランド米と比して遜色ない価格での販売につながるよう販路開拓戦略に資する「プレデビュー」となるもの。これまでに市場に出回った福島県オリジナルの米としては、「天のつぶ」、「里山のつぶ」があるが、品質と食味のより優れた新品種の育成を目指し、2018年に県農業総合センターで有望品種が選抜され開発が具体化。2019年に奨励品種として柔らかく粘りのある「福島40号」が採用され、2020年2月には名称が「福、笑い」に決定。「香りが立ち、強い甘みを持ちながら、ふんわり柔らかく炊きあがる」を売りとする新たな福島産オリジナル米の誕生となった。8月にはパッケージデザインも発表された。「福、笑い」の首都圏での先行販売(2kg:1,600円程度、300g:500円程度)は、百貨店、高級品スーパーを始めとする計20店。アンテナショップ「日本橋ふくしま館 MIDETTE」や、インターネット通販でも取り扱う。販売期間は2021年1月11日までを予定。福島県産米の価格は、震災直後、2014年産をピークに全国平均を下回ってきたが価格差は徐々に縮小している。一方、他道県でもこの10年程、「ゆめぴりか」(北海道)、「つや姫」(山形)など、高品質米の開発・市場参入が顕著となっており、県では今後、来秋の「福、笑い」本格デビューに向けて、飲食店とのタイアップなども通じPRに努めていくこととしている。
06 Nov 2020
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内閣府(原子力防災)は11月2日、新型コロナウイルス拡大の現状を踏まえ、感染症流行下での原子力災害時における防護措置の実施ガイドラインをまとめ、関係道府県への周知を行った。6月にまとめた基本的考え方の中で、避難所・避難車両における感染者の分離、ソーシャルディスタンスの確保、マスクの着用、手洗いなどの感染対策の実施とともに、原子力災害の特性を踏まえ、自宅での屋内退避については、「放射性物質を避けることを優先し、屋内退避の指示が出されている間は原則換気を行わない」とされた。これを受け、感染症の専門家や関係省庁の助言を得てこのほど取りまとめられたガイドラインでは、避難時の一時集合場所、避難車両、安定ヨウ素剤の配布場所、避難退域時検査・簡易除染場所、屋内退避時・避難場所(UPZ内:緊急防護措置を準備する区域、発電所から概ね5~30km圏内)のそれぞれについて対応方法を具体的に整理。換気に関しては、「原則行わない」ことに加え、人が集まる場所・車両での「3つの密(密閉・密集・密接)を避ける」考えから、自宅や親戚宅での屋内退避以外については、「30分に1回程度、数分間窓を全開にする等の換気に努める」こととした。今回のガイドラインでは、避難用バスの座席レイアウトも例示。運転席後方の座席を空け、濃厚接触者や発熱・咳のある者を乗車させる場合はビニールシートで区切ることとしている。10月31日に実施された北海道電力泊発電所を対象とした道主催の原子力防災訓練でも、感染症対策を講じた避難所運営やバス避難が盛り込まれるなど、昨今の情勢を踏まえた自治体の危機管理意識も高まっている。
05 Nov 2020
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政府は11月3日、秋の叙勲受章者を発表。瑞宝大綬章を東京大学名誉教授の小宮山宏氏が受章した。2005~09年に東京大学総長を務めた小宮山氏は、理工学分野における高等教育・研究活動で優れた業績をあげてきたほか、政府審議会委員を数多く歴任し教育改革や科学技術の振興に尽力した。原子力関連では、東京大学総長在任中、同学を拠点とする「グローバルCOEプログラム『世界を先導する原子力教育研究イニシアチブ』」(文部科学省事業、2007~11年度)を立ち上げ、基礎学力から社会リテラシーまでを統合した体系的な原子力教育の実践に取り組んだ。同プログラムの成果は教科書の形となり教育現場で活用されている。また、同氏は自宅に太陽光パネルを設置するなど、省エネルギー・新エネルギーの実践家としても有名だ。瑞宝重光章を、元文部科学審議官の間宮馨氏、元文部科学事務次官の結城章夫氏、元経済産業審議官で日本エネルギー経済研究所理事長の豊田正和氏が受章。科学技術庁出身の間宮氏は、1999年のJCO事故の際、原子力安全局長として事故の収束や原因調査で指揮を執った。結城氏は、2005年に中央省庁再編後初の科学技術庁出身者として文部科学事務次官に就任。同氏は1971年の入庁後、ほぼ一貫して原子力部門に従事してきた。行政官退任後は、山形大学学長として重粒子線がん治療装置の導入推進に取り組むなど、放射線医療の普及で手腕を発揮。豊田氏は、経済産業審議官を退任後、宇宙開発戦略本部事務局長を経て、2010年に日本エネルギー経済研究所理事長に就任。総合資源エネルギー調査会委員も務めている。外国人では、旭日重光章を、元米国原子力規制委員会(NRC)委員長のステファン・ギルバート・バーンズ氏が受章。2015~17年にNRC委員長(委員としては2014~19年)を務めたバーンズ氏は、日本の原子力規制委員会が「原子力発電所監視プロセス」(ROP)をモデルとした新検査制度を導入にするに当たり積極的な支援を行うなど、原子力安全規制の高度化や福島第一原子力発電所事故に関する国際理解促進において日米協力関係の強化に寄与した。
04 Nov 2020
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原子力関係企業・機関の合同就職説明会「原子力産業セミナー2022」(東京会場)が10月31日、新宿エルタワーのサンスカイルームで開催された。大学、大学院、高専を2022年に卒業予定の学生や既卒者などを対象とした就職活動支援、ならびに原子力産業界への理解向上を目的として、原産協会と関西原子力懇談会の主催により毎年度行われているもの。既に10日には大阪でも開催されており、今回セミナーの企業・機関の参加は、両会場とも、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、ブースで担当者が学生たちに直接説明する形式の他、Web会議システムでの質疑応答スペースも設けられた。参加企業・機関数は、大阪会場が26社、東京会場が34社で、両会場の合計(延べ)は前回(2020年2月)の81社より減少。一方で、来場学生数は、大阪会場が193名、東京会場が246名、計439名と、前回の255名を上回った。学生が業界研究を始めるタイミングに合わせ、今回は開催時期を前倒し。感染症対策のためオンラインセミナーも増えつつある状況下、「学生たちが企業担当者と対面できる貴重な機会ととらえている」ことが学生数増加の一因と推察されている。今回、東京会場で取材に応じてもらえた幾つかのブースで採用担当者より話を聞いた。原子力発電環境整備機構(NUMO)では、高レベル放射性廃棄物の処分地選定に向けて、10月には北海道寿都町・神恵内村で文献調査応募に係る判断がなされるなど、注目すべき動きがあるが、担当者によると、「他の企業ブースでNUMOという組織名を聞いた」という学生は多いものの、地層処分に関しては「ほとんど認知されていない」という状況。一方で文科系学生も多く訪れていることに期待感を示し、「若い人たちに頑張ってもらわないと成功しない」と、幅広い分野の人材を確保していく必要性を語った。原子力規制庁では、「技術を活かせる」特徴を掲げ、通常の業務を一定期間離れて教育・訓練に専念させる資格付与制度の独自性など、入庁後にスキルアップしていく人材育成の姿勢を強調。訪れる学生には福島県の出身者も多いことから、「『原子力の安全性は重要』という気概を感じる」と話した。また、東海村の原子力関連企業団体「原子力人材育成・確保協議会」のブースでは加盟する5社が参加。2016年に設立された同協議会では、学生・教員・保護者対象の企業説明会、インターンシップ、出前授業などを通じた人材育成・確保活動を地道に行っており、今回のセミナー参加に際し「まず認知度を上げそれが採用につながれば」と期待を寄せていた。
02 Nov 2020
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資源エネルギー庁は10月30日、冬(12~3月)の電力需給見通しをまとめた。全国各地域とも、安定供給に最低限必要とされる予備率3%を確保できる見通し。電力需要の増加が見込まれる夏季・冬季の数値目標を設定した節電要請は、2013年度冬季に北海道を対象とした「2010年度比でマイナス6%以上の節電」が最後となっており、今冬も引き続き行われないこととなる。全国の電力需給に関するデータを取りまとめている電力広域的運営推進機関(OCCTO)の報告書によると、1月の電力供給力で、原子力は、関西地域154万kW、九州地域279万kWの計433万kWが見込まれている。関西電力で再稼働している原子力発電プラント4基のうち、高浜4号機(87万kW)は10月7日から定期検査が行われており、2021年1月下旬に発電再開予定。現在稼働中の大飯4号機(118万kW)は11月3日より約3か月の予定で定期検査に入る。一方、高浜3号機(87万kW)は、定期検査中に確認された蒸気発生器伝熱管損傷への対応が続いているほか、8月3日に新規制基準で求められるテロ対策の「特定重大事故等対処施設」の設置期限を満了。同機の定期検査は2021年1月中旬までの予定となっている。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い当初予定より2月ほど遅れて7月20日に定期検査入りした大飯3号機(118万kW)は、超音波探傷試験で確認された配管損傷への対応のため発電再開の時期は未定。九州電力では、現在、川内1、2号機(各89万kW)の定期検査で「特定重大事故等対処施設」の設置工事が進められており、それぞれ11月26日、12月26日に発電再開予定となっている。9月18日より定期検査中の玄海3号機(118万kW)は12月中にも営業運転に復帰する見通し。なお、OCCTOは、今回の電力需給検証に関し、新型コロナウイルスに伴う影響評価を行っている。それによると、感染症がなかったと仮定した電力量と比較(簡易試算結果)し、4月はマイナス0.8%、5月はマイナス6.7%、6月はマイナス5.1%、7月はマイナス3.1%と、5月の落ち込みをピークに回復の兆しが示された。4~7月の内訳(家庭、業務、産業)で、業務部門が最大マイナス14.7%と大幅な減少となっているのに対し、家庭部門は最大6.9%増加しており、飲食業・宿泊業や娯楽サービスなどの営業縮小や、テレワークや学校休業による在宅増加が影響したものと分析している。
30 Oct 2020
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原産協会は10月28日、会員組織の主に女性を対象とした2020年度「女性シンポジウム」を開催した。今回は、オンラインシステムによる「Webセミナー」となり、約100名が参加。講師には、長崎大学原爆後遺症研究所助教の折田真紀子氏を招き、放射線と健康影響の基礎知識を始め、福島第一原子力発電所事故後、住民の方々に対し健康管理と放射線に関する正しい理解の普及に取り組んできた経験を聴き、質疑応答を行った。折田氏は、長崎大学が包括的連携協定締結のもと「復興推進拠点」を開設し復興支援を行ってきた川内村と富岡町での活動を主に紹介。2012年1月に福島県下で初めて「帰村宣言」を行った川内村だが、空間線量率の低下、学校の再開やインフラ整備が進む一方で、特に若年層での帰還が進まぬ現状を、2012年と2017年の年代別住民帰還率から示し、「川内郷 かえるマラソン大会」の開催、ワイン用ぶどう栽培、企業誘致など、帰還を促進する様々な取組が進められているとした。また、富岡町については、車座集会を通じた住民の方々との交流を紹介。食品中の放射性物質に関する質問の他、将来への不安感・疎外感の声もあることから、「行政と連携して取り組む必要があるのでは」などと述べた。自身が取り組む保健活動に関し同氏は、事故直後に福島県内で行われた勉強会で「娘が福島で出産できるのか」、「放射線はうつるのか」との質問があったことを振り返り、「放射線の健康リスクに関する知識や情報が住民の方々に適切に伝わらず、社会的な混乱が引き起こされた」として、リスクコミュニケーション・対話活動の重要性を強調。「客観的評価に基づいたリスクコミュニケーションが大事」とする取組姿勢の例として、富岡町の70歳男性が自身で行った個人積算線量の詳細な記録と、これを活かした今後の帰還支援の可能性をあげるなどした。参加者からは、放射線に関するわかりやすい説明の仕方、食品中の放射性物質基準値のとらえ方、空間線量率と帰還意思の関係、信頼関係の構築などに関し質問があった。
29 Oct 2020
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筑波大学、福島大学、日本原子力研究開発機構による研究グループはこのほど、福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質の陸域環境中での動きから、「環境回復はチェルノブイリより大幅に速い」ことを裏付ける成果を発表した。10月27日に海外学術誌に掲載されたもの。〈筑波大発表資料は こちら〉同研究グループでは、福島の環境回復状況の変化をとらえ、陸域(発電所から80km圏内と阿武隈川流域)の環境モニタリングに関するおよそ200本の研究論文を集約・検証。福島第一原子力発電所事故により地上に降下したセシウム137は、森林67%、水田10%、畑・草地7.4%、市街地5%の割合で陸域に沈着したと算出。セシウム137の陸域移行の実態について、森林や土壌を介した下方への移行、水田から河川への移行、除染など、様々な経路・要因から総合的に分析した。その結果、福島の陸域では、チェルノブイリと比較して、急峻な地形で降水量が多いことや、耕作、除染などによって、表層部分のセシウム137の低減が速く進んだことが明らかになったとしている。例えば、放射性核種の下方への浸透速度を示す「重量緩衝深度」と呼ばれる係数を用いた評価で、特に耕作水田では、チェルノブイリ事故の影響を受けた陸域と比較し2~4倍と、耕作を放棄した水田、森林、草地などと比べて高く、人間活動や土地活用が土壌表層の放射能濃度低減に寄与していることも示された。福島森林のCs137の分布と移行(上下それぞれスギ林と落葉広葉樹林、筑波大発表資料より引用)一方、福島第一原子力発電所事故により、セシウム137放出の影響を最も受けた森林域については、樹種により経時変化が異なるが、セシウム137の量は河川水や土砂などを介し1年間当たり初期沈着量の0.3%以下しか流出せず、事故から8年間が経過しても森林生態系内(葉、枝、樹皮、幹、林床)にほとんど留まっていることがわかった。筑波大学では、福島第一原子力発電所事故発生以来、チェルノブイリとの比較とともに、生活圏である水田・耕作地・市街地を「PFU」(Paddy fields、Farmland、Urban areas)として着目し、人間活動と放射性物質低減との関係を継続的に調査してきた。2019年には、阿武隈川から海に流出した放射性セシウムの約85%が流域面積比で38%程度の「PFU」に起源していたとの共同研究成果(福島県、京都大学)を発表し、人間活動による放射性物質低減の効果を示唆している。
29 Oct 2020
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新潟県の「原子力発電所の安全管理に関する技術委員会」(座長=中島健・京都大学複合原子力科学研究所副所長)が10月26日、福島第一原子力発電所事故に係る検証結果を取りまとめ、花角英世知事に報告を行った。2012年に当時の泉田裕彦知事からの要請を受け、柏崎刈羽原子力発電所の安全に資することを目的として、現地視察や、4事故調(民間、政府、国会、東京電力)報告書から課題を抽出したディスカッション、東京電力へのヒアリングなどを通じ検証を進めてきたもの。事故から得られた課題・教訓を、(1)地震対策、(2)津波対策、(3)発電所内の事故対応、(4)原子力災害時の重大事項の意思決定、(5)シビアアクシデント対策、(6)過酷な環境下での現場対応、(7)放射線監視設備・SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク)システム等のあり方、(8)原子力災害時の情報伝達・発信、(9)新たに判明したリスク、(10)原子力安全の取組や考え方――の10項目に整理。地震対策の関連では、水素爆発シミュレーションも実施し、「1号機非常用復水器(IC)の損傷原因が地震動による可能性も否定できないことを確認した」などと、事故調により見解に相違があった事象についても深堀し検証。「新たに判明したリスク」を踏まえた教訓としては、「使用済燃料プールのリスクに対応する安全基準を設けること」、「複数号機が同時に事故を起こしても、対応できる体制を構築すること」、「代替設備を用意するとともに、規格の統一により汎用性を向上させること」をあげている。技術委員会座長の中島氏は、今回の検証結果をまとめた報告書の冒頭で、柏崎刈羽原子力発電所における安全対策の確認に資する趣旨とともに、「広く原子力発電所の安全性向上に貢献できれば」と、事故から得られた知見の水平展開にも言及。また、結びでは、「安全を確保するのは、最後は人だ」として、国や東京電力に対し教育・訓練を通じた人材育成の重要性を強調している。花角知事は10月27日の定例記者会見で、「『色々な可能性を排除せずに課題としてとらえる』という姿勢で議論が行われ、計133もの課題・教訓が抽出された」などと語り、8年間にわたる議論の成果を認識。新潟県では現在、福島第一原子力発電所事故に関し、「事故原因」、「健康と生活への影響」、「安全な避難方法」の3つの検証を進めており、このうちの一つに結論が出た格好となった。
27 Oct 2020
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